2020年5月11日月曜日

先行き不透明なプーチンの任期延長―【私の論評】今こそ、北方領土を取り戻す最大の好機、日本は過去の過ちを繰り返すな(゚д゚)!


岡崎研究所

 ロシアでは3月に、プーチンの大統領任期を2024年から後12年間延長する憲法改正案が議会で可決されている。プーチンはそれを憲法の規定に従って国民投票にかけなければならない。この国民投票は本年4月22日に行われる予定であったが、新型コロナウイルス感染者が増えている状況の中で、プーチンは国民投票を延期する決定をした。いつ行うかは決まっていない。


 憲法改正案が国民投票で承認されるためには、投票率が50%以上、かつ、賛成票が投票の50%以上である必要がある。ロシア国民が、このプーチン任期を延長するための投票に行き、投票率50%を超えられるか、投票者の50%が賛成票を投じるか、予断を許さないように思われる。

 これについて、ロシアの民主活動家ウラジーミル・カラムーザがワシントン・ポストに4月14日付で‘Vladimir Putin has a popularity problem — and the Kremlin knows it’(プーチンは人気の問題を抱えており、かつクレムリンはそのことを知っている)と題する論説を寄稿しており、参考になる。カラムーザは、プーチンの任期延長、大統領の年齢制限についての最近のレバダ社による世論調査の結果を紹介している。それによれば、プーチンの任期延長については、賛成48%、反対47%、大統領の年齢上限については58%が「元首は70歳より高齢であるべきではない」と回答した由である。カラムーザは、権威主義国家では世論調査で政権寄りの結果が出る傾向にある、いわゆる「権威主義バイアス」がある中でこういう結果が出たことは驚きである、と指摘する。

 カラムーザは、さらに、ロシア政府は正規の国民投票ではなく超法規的な「人民投票」を目指しているようだが、問題はその後で、ロシアの社会の大部分は、プーチンが任期延長はないと繰り返し約束したにもかかわらず任期を延長しようとしていることを信頼の裏切りとみなしているとして、プーチンの前途が明るくないことを示唆している。

 カラムーザはロシアの民主化を願望している人であり、ネムツォフ関係財団に関与している人であるので、上記の分析は、彼の希望的観測である可能性があるが、彼の言うような結果になる可能性も十分にあるように思われる。

 ロシアの経済は、原油価格の低下で苦境にあることに加え、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに下押しされることはほぼ確実である。サウジアラビアとロシアが減産合意に失敗した後、原油価格が急激に下がり、サウジもロシアも苦境に陥り、減産合意に改めて合意したが、新型コロナウイルスで世界経済は不況入りしており、需要が減産以上に減っている。プーチンが最初減産を拒否したのは間違いであったと言える。経済困難は国民の不満につながり、プーチンの人気は当然下降する。

 プーチンは2024年から12年間大統領に留まることを目指しているが、そうなると引退時には83歳になる。ロシアでは男性の平均寿命が70歳にもならない中で、83歳というのは大変な高齢者との印象がロシア人にはあるだろう。

 投票率、開票の操作などは当然予測できるが、プーチン政権が今後も盤石であるとの前提で対応することは難しいと思われる。

【私の論評】今こそ、北方領土を取り戻す最大の好機、日本は過去の過ちを繰り返すな(゚д゚)!

ロシアのプーチン大統領が2000年5月に最初に就任してから20年が過ぎました。

ソ連崩壊後の混乱が続くロシアを引き継いで時に強引な手法で安定を回復させ、異例の長期政権を敷いてきました。

ところが今や、強権の弊害が際立ちます。プーチン氏自身が提起した憲法改正を巡る政治劇はその象徴に見えます。

ロシア議会の上下両院は3月、2040年で大統領任期が切れるプーチン氏が1月に提案した憲法改正をきっかけに、任期をさらに2期12年延ばし、最長で36年まで大統領職にとどまれる改正案を採択しました。

改憲が実現すれば、現在通算4期目のプーチン氏の5選へ道を開き、旧ソ連の独裁者スターリンの約30年をしのぐ長期支配が可能になります。

当初は任期切れ後、改憲案で権限を強化する国家評議会議長や上下両院の議長に就き、院政を敷く狙いとみられていました。

しかし、下院での論議で「私はカモメ」で有名な女性宇宙飛行士テレシコワ議員が、現職を含む大統領経験者はこれまでの任期数を問わずに大統領選に出馬できるとする条文の追加を突如提案しました。

ソ連初の女性宇宙飛行士テレシコワ

これを受けて、プーチン氏は急きょ下院で演説。憲法裁が合法と認め、4月の全国投票で国民の承認が得られれば修正案に問題はないとの立場を示しました。

4月に予定されていた全国投票は新型コロナウイルスの感染拡大で中止されましたが、ロシアメディアによると、テレシコワ、プーチン両氏の演説は通算5選に道を開くために政権中枢が筋書きを描いた政治劇といいます。

プーチン氏には、自らの「レームダック(死に体)化」を防ぎ、権威を維持しつつ後継体制づくりを進めたい思惑があるとみられるますが、どうなるでしょうか。

ソ連崩壊後は米欧と同じ民主国家を目指しましたが、再び対決する世界観に回帰したロシアは「力による現状変更」でクリミア半島を併合し、米欧は経済制裁を科しました。

政権長期化で人気に陰りも見え、新型ウイルスの感染拡大が止まらず、それに伴う原油価格低下による経済低迷という難題も横たわります。

感染者は膨らみ続け、首相ら政権幹部も含まれます。輸出の6割を占める石油や天然ガスなどエネルギー部門は、原油安で経済の打撃は深刻です。

経済が停滞し、内政・外交とも不安定化しかねない状況です。国内から政権への不満が噴出し、政権基盤が揺らぐ恐れもあります。

懸念されるのは、新憲法案の北方領土交渉への影響です。「ロシア領の割譲禁止」という条文が盛り込まれています。クリミアを念頭に置いたのでしょうが、北方領土の不法占拠の正当化に利用されないか心配です。

北方領土問題が解決するチャンスは過去に1度だけありました。それは旧ソ連のゴルバチョフ政権の末期、91年12月のソ連崩壊の直前でした。

当時、ソ連の経済状態は最悪で、ゴルバチョフ大統領は北朝鮮の猛反発を押し切り、韓国との国交正常化に踏み切りました。両国の国交正常化は1990年3月、世界経済国際関係研究所(IMEMO)の招待でモスクワを訪れた金永三民自党代表最高委員(当時)とゴルバチョフ氏の会談が実現し、国交樹立に向けた新たな局面を迎えました。そうして、同年9月、両国は共同声明に署名し、国交を結んだのです。

       1990年 12月 14日に韓国のノテウ (廬泰愚) (前列左)大統領ソ連
                               ゴルバチョフ大統領(前列右)の間でかわされた共同宣言の調印式

どうしても、韓国マネーが欲しかったからです。このようなことからも、日本もジャパンマネーの力を上手く利用して、北方領土を取り戻せる可能性が十分ありました。

実際、91年4月にゴルバチョフが来日し、もしかすると4島が日本に返ってくるのではないかとの機運が高まったのは間違いありません。

しかし、ゴルバチョフサイドからソ連崩壊の予兆を伝えられていたにも拘(かかわ)らず、私もそうでしたが、外務省も眉唾ものとして信じることをせず、交渉の準備を怠ってしまったのです。

私自身は、当時ドラッカー氏が「20世紀中に、必ずソ連は崩潰すると」いくつかの根拠を示しながら、主張していましたが、この時にはソ連は必ず崩潰すると信じていました。ところが、それを周りの人に話してみても、だれもそれは「あり得ない」と語っていたことを思いだします。

そんななかでも、ゴルバチョフが北方領土で譲る気配を見せたことに、敏感に反応した日本の政治家がいました。当時の自民党幹事長、小沢一郎氏です。機を見るに敏なところまでは良かったのですが、ところが、91年の1月と3月、小沢氏は通産省(当時)ルートでソ連と交渉した際に、280億ドルとも言われる金額を提示。

小沢一郎氏

露骨に金で島を買いたいという態度を示し、札束でゴルバチョフの頬を叩くようなことをしました。ソ連崩壊の危機に直面し、弱体化していたとはいえ、向こうにも面子があります。さすがに、あまりに直截的な日本の交渉姿勢にゴルバチョフもムカッときたのでしょう。話は流れてしまいました。

国内政局だけでなく、外交の場においても、壊し屋が「本領」を発揮していたのです。

それにしても、小沢氏以外の政治家がこれを強力にすすめなかったのは、かえすがえすも残念です。

先日もこのブログで述べたように、北方領土交渉の先行きがかなり見通せるようになった現在、安倍晋三首相はプーチン氏と対話を重ね、領土問題解決の機運を一層確実にできるよう、明確なメッセージを送り続けなければならないです。

ロシアの経済は、原油価格の低下で苦境にあることに加え、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに下押しされることはほぼ確実です。

これは、従来なら本格的な戦争、それも総力戦でもなければ、あり得なかったことです。これは、間違いなく、日本に残された最後のチャンスです。

現在は、ロシアが中国からの属国的地位から決別して、独自の道を歩み、民主化をすすめ、日米欧などの国々とともに、中国の体制を変えるまたとないチャンスです。

米国が中国に対して、中共幹部の資産の凍結などをするような制裁に出るか、出るようそぶりでもみせれば、この動きは一挙に加速化します。もしそうなれば、習近平は中共幹部全員の敵になります。

日本は、このチャンスを過去のように逃すべきではありません。

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2020年5月10日日曜日

中国はWHOにコロナウイルス隠蔽の協力を求めた、と独情報機関が結論―【私の論評】コロナ禍を奇貨に日本は、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直せ(゚д゚)!

中国はWHOにコロナウイルス隠蔽の協力を求めた、と独情報機関が結論

<引用元:デイリー・コーラー 2020.5.9

中国の習近平主席は自ら、コロナウイルス発生に関する重大情報の公開を遅らせるようWHOに求めた、とドイツ情報機関は結論付けた。

独シュピーゲル誌によると、習はWHOのテドロス事務局長と1月21日に面談し、ヒト・ヒト感染に関する情報を伏せ、世界的パンデミックの宣言を遅らせるよう求めた。中国はパンデミックに経済的な責任を負うべき、という意見が高まる中でのニュースだ。

1月21日に面談したWHOのテドロス事務局長(左)と、習近平

「BND(ドイツ連邦情報局)が下した裁決は厳しいものだ。ウイルスとの戦いにおける北京の情報政策において、6週間とまではいかなくても少なくとも4週間が失われたとしている」とシュピーゲルは報じた。

独情報機関による進展は、同様に中国のコロナウイルス対応を調査する米国政治家の注目を集めた。

「我々はまだこの報道の確認作業中だ。だがもし事実であると分かれば、テドロス事務局長が中国共産党の隠蔽で彼らと共謀したことを示す一層の証拠となり、WHOのトップには不適格ということになる」と、テキサス州の共和党下院議員で、下院中国タスクフォース委員長を務めるマイケル・マコールは本紙に語った。

BNDは連邦情報局を意味するドイツ語の頭文字だ。3月初めに発表されたある研究によると、4週間から6週間の追加準備期間があれば、世界的なパンデミックを完全に回避できた可能性がある。サウサンプトン大学の研究者は、中国がわずか3週間だけ早く行動を起こして情報を公表していれば、感染拡大を95パーセントは縮小できていたことを発見した。

米情報機関は同様に、中国が武漢や他の場所でのコロナウイルス発生において感染者数と死者数の両方を改ざんしたという結論を3月中旬までに出した。

中国政府の公式集計では、武漢での死者数をおよそ3,500人としているが、本当の数字は4万人であることを示す証拠がある

ドナルド・トランプ大統領の政権は、中国のパンデミック対応を痛烈に批判しており、「認識しながら」コロナウイルス拡大の一因となっていたことが分れば、処罰を受けるべきだとしている。

ホワイトハウスは本紙からのコメントの要求に直ちに回答しなかった。

【私の論評】コロナ禍を奇貨に日本は、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直せ(゚д゚)!

1月21日の習近平とテドロスの面談については、当初から「習近平がコロナウイルス発生に関する重大情報の公開を遅らせるようWHOに求めた」のではないかという疑惑がありました。

今回は、BNDが実際そうであったと、結論付けたわけです。今後もこのような調査は、米国をはじめあらゆる世界の国々の情報機関が調査を継続し、同じような結論達すると考えられます。

そうなるとどうなるかといえば、WHOのような国際機関を中国が意のままに動かせることが明らかになったのですから、世界はグローバリズム一辺倒というか、グローバリズム=善という単純な考えは、間違いであり、ナショナリズム的な考え方が、強くなっていくことが予想できます。

「ナショナリズム」というものを定義することは、われわれの想像以上になかなか難しいことのようです。アーネスト・ゲルナーはナショナリズムを「実際のところ近代世界でしか優勢とならない特定の社会条件の下でのみ普及し支配的となる愛国主義」と述べています(『民族とナショナリズム』岩波書店)。エリ・ケドゥーリーは「ナショナリズムは19世紀初頭にヨーロッパで作り出された教義である」と述べました(『ナショナリズム』学文社)。

ナショナリズムとは何かということについては、「自分たち国民、民族を重視する考え」ということの他は、多くの議論があり、なかなかその本質をつかまえることはできないようです。

ナショナリズムは、自給自足が基本の農耕社会から、現代のような産業社会へと移行するうえで必然的に産まれたもの、と考えているのがゲルナーという人です。産業社会の進展は市場を広げ、閉鎖的な「むら」からできていた「くに」を、国民による1つの「国民国家」に変えていきました。

国家の産業を発展させるためには、文化、特に言語の統一が必要です。話し言葉がばらばらでは効率性はあがりませんからね。なかにはイギリスのようにわりと自然に統一されていった国もありましたが、日本のように「富国強兵」「殖産産業」をスローガンに、国家をあげて中央集権的な教育を行い、文化・言語の統一を行っていった国も少なくありませんでした。

こういうなかでナショナリズムが育まれていったというのがゲルナーの基本的な考えです。実際、ナショナリズムによって国民の団結、教育の発達が生まれ、産業化が進んだ例は、日本をはじめ多くの国であることでした。

『五箇条の御誓文』(明治元年3月14日に明治天皇が天地神明に誓約する形式で、公卿や諸侯などに
 示した明治政府の基本方針には、天皇を中心とする国民国家を目指すことが示されている

50年間で2度の世界大戦を経験した欧米諸国を中心に、現代世界の軸足はナショナリズムから、脱ナショナリズム、すなわち「トランス・ナショナリズム」へと移行しつつあるといわれました。

その象徴がEU(欧州連合)です。13の国で共通の通貨・ユーロが流通していますが、近代国家にとって通貨はネーションを象徴するものの1つだったはずです。そういった意味でEUはネーションを越えたトランス・ナショナリズム、あるいは「スープラ・ナショナリズム(超国家主義)」を体現しています。
しかし、この状況は変わりつつありました。イギリスのEU脱退や、米国でトランプ氏による「米国第一主義」の標榜などでした。そうして、現状では、コロナ感染がさらに、ナショナリズムに拍車をかけつつあります。

ここで、最近の興味深い記事を掲載させていただきます。その記事では、米国の戦略家、ルトワック氏が、新型コロナはいわば「真実を暴くウイルス」であり、EUが機能しないこと、イタリアの無秩序ぶり、中国は虚言の国であることも暴き白日の下にさらしたとしています。

ルトワック氏は、コロナ危機が「世界の真実」を暴いたとし、国際秩序は多国間枠組みの機能不全を受け、「国民国家の責任」が増す時代に回帰すると予言しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

エドワード・ルトワック

【コロナ 知は語る】多国間協調が機能不全 国民国家の責任増す-エドワード・ルトワック氏 - 産経ニュース

2020.5.9
 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は第二次世界大戦以来の危機と形容される。世界はどこへ向かうのか。戦略論研究の世界的権威として知られる米歴史学者のエドワード・ルトワック氏は危機が「世界の真実」を暴いたとし、国際秩序は多国間枠組みの機能不全を受け、「国民国家の責任」が増す時代に回帰すると予言した。 
 --新型コロナが世界に与えた地政学上の影響は 
 「第一は、欧州における(政治的な流れの)断絶だ。欧州連合(EU)は欧州諸国間の戦争を予防するために設立されたが、EUが直面した初の戦争並みの不慮の事態である新型コロナへの対応に失敗した。共有された医療情報や共通の医療戦略は存在せず、被害の少ない国が被害の多い国を助けるなどの相互支援もあまりなかった」 
 「EUの連携した外交政策も皆無だった。例えばイタリアは中国からの支援を喜んで受け入れた。他方、ドイツやスウェーデン、オランダなど他の欧州諸国は中国の支援を拒絶した。融合を目指したEUは役割を見失った。今後は英国に続き、多くの加盟国が静かに脱退していくはずだ」 
 「米中関係は悪化の一途をたどり続けるという意味で一貫している。わずか十数年前、米国は『パンダ・ハガー』(媚中派)に席巻されていた。違っていたのは国防総省だけだ。風潮は変わりつつあるが、新型コロナが人々の対中意識の変化を加速させるだろう。誰もがウイルスが中国由来であり、中国当局が対応を誤ったことを知っているからだ」 
 --米中による「大国間競争」はどうなる 
 「トランプ米政権に有利に働くだろう。これは、米国の(自由民主主義的な)政治制度と中国を統治する(共産党独裁)体制とのせめぎ合いだが、中国の同盟国はパキスタンとイランの2カ国だけ。イタリアも中国に征服された。イタリアは歴史上、間違った側について、後から態度を変えることで有名だ」
 「一方、他の国々は中国に背を向け、米国に付いている。ラーブ英外相が4月16日、『対中関係を全面的に見直すべきだ』と語っているのが良い例だ。中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化する。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示すが、世界各地で拒絶されている」 
 --製造業のサプライチェーン(調達・供給網)への影響は 
 「日本政府は企業が中国の拠点を国内に回帰させるか、第三国に移転させるのを後押しする費用として総額2435憶円を緊急経済対策に盛り込んだ。他国の企業も、自国政府の支援の有無とは無関係に、中国との縁を完全に切りたい思惑から脱出を進めている。中国の実業界も同様だ。彼らは資産をニューヨークに移そうと血眼になっている」 
 --国際機関や多国間枠組みの役割はどうなる 
 新型コロナはいわば「真実を暴くウイルス」だ。EUが機能しないことを暴き、多数の死者を出したイタリアの無秩序ぶりを暴いた。中国は虚言の国であることも白日の下にさらした。日本については『日本は中国とは違うから安全』といった意識が間違っていたことを思い知らせた」 
 「新型コロナ危機を受けて起きているのは、グローバル化の揺り戻しとしての『脱グローバル化』だ。グローバル化は国際機関の台頭と連動してきた。EUや世界保健機関(WHO)などの機能不全が明白となったことで、世界はグローバル化や多国間枠組みから後退し、国民国家が責任をもって自国民を守る方向に回帰するだろう」 
<中略>

 「グローバル化が独裁制と親和性が高いのは、国際機関が非民主的だからでもある。EUとは選挙で選ばれた各国政府の権限を欧州委員会に移管するものだ。欧州中央銀行(ECB)の運営も非民主的だ。欧州諸国の民主体制が弱体化したのも、各国の権力が(EUという)非民主的な体制に移されたせいだ。グローバル化が民主主義に何ら寄与しなかった以上、脱グローバル化によって民主主義が損なわれることはない」(聞き手 ワシントン=黒瀬悦成)
中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化しました。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示したのですが、世界各地で拒絶されています。

日本でもマスクや医療用品、自動車部品、トイレなどの住宅建築用品などの中国への依存度の高さが露呈し、安全への危惧が高まり、脱中国・チャイナプラスワン、国内回帰が検討され始め政府の支援策も出されています。

いずれにせよ、これらの動きは、脱グローバル化、ナショナリズムへの回帰への前兆です。国民国家の安全保障は、国家存亡に関わる産業を支えるための最低限の製造供給能力を推し量って非常時への備えをすることから始まります。

ところが、日本では多くの財務官僚等のエリートや企業経営者の頭の中身が、この未曾有の惨禍でも未だに平時の思考のままです。コロナ禍で判ったことは、真の非常時には自国のみで生き抜いていくリソースと能力=技術力を平時から備える計画立案であることです。

産業界においては欧米風の「MBA」を崇めてその言説に囚われ、日経ビジネス電子版の「逆・タイムマシン経営論」で指摘されているような「トラップ」が我国の優位性をことごとく踏み潰してきました。

米国MBA卒のエリートらが80年代から盛んに主張し、必ず推奨したアウトソーシング戦略は、多くの大企業経営者が無思考的に採用してしまいました。エンロン問題で破綻したアーサー・アンダーセン(AA)は、自社生産は止めて外注への転換一点張りでした。自社の内製技術ノウハウ、サプライチェーン保全など、無視されました。

AAのにとっては、商品は中身の優劣ではなくマーケティングでしかありませんでした。BCP(事業継続計画=Business Continuity Plan)は生産を複数・多国にして凌げば良いという論理でした。

今回のコロナ禍で中国が露骨に示した西側諸国に対する「潰し戦略」はかなり前から行われていました。その一例としてマグネシウム産業をあげます。

マグネシウムは精錬に高度な技術を要するのですが軽量かつ他の金属の改質に重要な元素なので、航空宇宙を始めとした国防先端産業用部品から日常生活にわたり重要です。

日本マグネシウム協会(2017)まとめでは、マグネシウムインゴット生産の85%が中国、以下、米国6%、ロシア5%、イスラエル2%です。



1980年以前は日本を含めた西側諸国とソ連で生産されていたのですが、中国はコピペ工場で市場価格より30%安い価格、実質ダンピングで市場供給を開始しました。

当然、西側諸国メーカーは赤字になり淘汰されました。米露イスラエルは市場価格に見合わないにもかかわらず、国防上の理由から各1社ずつ保有しています。

我国ではマグネシウム合金を大量に製造しているのですが、インゴット95%と大量の合金を中国から輸入しています。この輸入品が無いと自動車も作れません。

更に、肥料に添加するマグネシウム塩類、食品加工用(例えばニガリ)、薬品、難燃剤など、マグネシウムは生活の隅々まで入り込んでいる元素です。

つまり、中国と対峙しようとすると、武器弾薬から豆腐カニカマに至るまで製造できなくなるのです。「マスクが足らない」どころの騒ぎでは済まないのです。戦う前から負けなのです。

コロナ禍以前から鳩山元総理大臣の様に中国と東アジア経済共同体を目指す人々が多数います。友好善隣は絶え間ない努力が必要であることは自明です。

しかし、首に縄をかけられた状態で対等の外交などありえないです。だから、彼らは矛盾しています。中国共産党との友好的関係を保ちたいなら、まず、国家の安全保障の足枷となる材料と技術のサプライチェーンの再構築を検討すべきなのです。

日経新聞を始めとする経済関係論議ではコロナ禍後の世界経済について種々意見が喧しくなってきました。多くは株価を議論しますが、平時の感覚でコロナ禍以前の世界秩序に戻ることを考えているようです。

しかし、株価ではなく本当の国家の足腰強さは重要物資を自前で供給できることに依存します。コロナ禍後に向けて小手先のBCP(事業継続計画)を体裁よく作るのではなく、前例踏襲を止めて、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直すことが必要です。

以上はマグネシュウム産業についてですが、日本は自力でできるものまで、価格が安い等の理由だけで、中国に安易に依存している産業が他にも多くあります。これらについては、自国で生産するのか、あるいは信頼できる同盟国から輸入するかを検討すべきです。

現在の世界は、ナショナリズムが強まっていますが、一度グローバリズムの良さを知った世界は、完璧にナショナリズムにもどる ことはないと思います。同じルールで貿易ができる国々同士では、これからも自由貿易を続けていくでしょう。

ただし、先進国は従来のように安易にルールを守れそうもない体制の国々まで、同じルールで貿易をしようとする従来のグローバリズムに戻ることはないでしょう。

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2020年5月9日土曜日

新型コロナ、日本人の低死亡率に新仮説…すでに“集団免疫”が確立されている!? 識者「入国制限の遅れが結果的に奏功か」―【私の論評】日本がクラスター対策で成功している背景には、他国にはない日本ならではの事情が(゚д゚)!


新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真
(米国立アレルギー感染症研究所提供)

 日本の新型コロナウイルス対策は「PCR検査が少ない」「自粛措置が甘い」などの批判もあり、厚労省は8日、感染の有無を調べるPCR検査や治療に向けた相談・受診の目安を見直し、公表した。ただ、欧米諸国に比べて、日本の死者数や死亡率がケタ違いに少ないのは厳然たる事実である。この謎について、京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授と、吉備国際大学(岡山県)の高橋淳教授らの研究グループが「日本ではすでに新型コロナウイルスに対する集団免疫が確立されている」という仮説を発表して注目されている。感染力や毒性の異なる3つの型のウイルス(S型とK型、G型)の拡散時期が重症化に影響したといい、日本は入国制限が遅れたことが結果的に奏功したというのだ。

 「2週間後はニューヨークのようになる」など悲観的な予測もあった東京都、そして日本の新型コロナ感染だが、別表のように現時点ではニューヨークにもロンドンにもなっていない。中国や韓国、表にはないが台湾など東アジアが総じて欧米よりも死者数や死亡率が抑えられている。


 理由を解き明かすには、新型コロナウイルスの型を押さえておく必要がある。中国の研究チームが古い「S型」と感染力の強い「L型」に分けたことは知られている。

 研究プラットホームサイト「Cambridge Open Engage」で発表した京大の研究チームは、新型コロナウイルスに感染した場合、インフルエンザに感染しないという「ウイルス干渉」に着目。インフルエンザの流行カーブの分析で、通常では感知されない「S型」と「K型」の新型コロナウイルス感染の検出に成功した。「S型やK型は感知されないまま世界に拡大した。S型は昨年10~12月の時点で広がり、K型が日本に侵入したピークは今年1月13日の週」だという。やや遅れて中国・武漢発の「G型」と、上海で変異して欧米に広がったG型が拡散した。

 集団感染が最初に深刻化した武漢市が封鎖されたのは1月23日。その後の各国の対応が命運を分けた。イタリアは2月1日、中国との直行便を停止。米国は同2日、14日以内に中国に滞在した外国人の入国を認めない措置を実施した。

 これに対し、日本が発行済み査証(ビザ)の効力を停止し、全面的な入国制限を強化したのは3月9日だった。旧正月「春節」を含む昨年11月~今年2月末の間に184万人以上の中国人が来日したとの推計もある。

 ここで集団免疫獲得に大きな役割を果たしたのがK型だった。上久保氏はこう解説する。

 「日本では3月9日までの期間にK型が広がり、集団免疫を獲得することができた。一方、早い段階で入国制限を実施した欧米ではK型の流行を防いでしまった」

 欧米では、中国との往来が多いイタリアなどで入国制限前にS型が広まっていたところに、感染力や毒性が強いG型が入ってきたという。


 上久保氏は「S型へのTリンパ球の細胞性免疫にはウイルス感染を予防する能力がないが、K型への細胞性免疫には感染予防能力がある」とし、「S型やK型に対する抗体にはウイルスを中和し消失させる作用がなく、逆に細胞への侵入を助長する働き(ADE=抗体依存性増強)がある」と語る。

 専門的な解説だが、結論として「S型に対する抗体によるADE」と、「K型へのTリンパ球細胞性免疫による感染予防が起こらなかったこと」の組み合わせで欧米では重症化が進んだという。

 日本で4月に入って感染者数が急増したことについても説明がつくと上久保氏は語る。「3月20~22日の3連休などで油断した時期に欧米からG型が侵入し、4月上旬までの第2波を生んだと考えられる」

 現状の日本の感染者数は減少傾向だが、課題も残る。「病院内で隔離されている患者には集団免疫が成立していないため、院内感染の懸念がある。また、高齢者や妊婦などは、K型に感染しても感染予防免疫ができにくい場合がある」

 さらに「無症候性の多い新型コロナウイルス感染症では、間違ったカットオフ値(陰性と陽性を分ける境)で開発された免疫抗体キットでは正しい結果が出ない」と警鐘を鳴らす。

 上久保氏は「日本の入国制限の遅れを問題視する声もあったが、結果的には早期に制限をかけず、ワクチンと同様の働きをする弱いウイルスを入れておく期間も必要だったといえる」と総括した。

【私の論評】日本がクラスター対策で成功している背景には、他国にはない日本ならではの事情が(゚д゚)!

冒頭の記事の仮設は、非常に興味深いものです。ただし、矛盾も感じます。感染者数の少ない、死亡者数とも少ない韓国はMersのときの反省もあって、比較的早い時期に海外からの渡航を制限しました。

さらに、上の記事にはなぜか例示されていませんが、日本よりも感染者数や死者数が少ない、台湾でも早い時期に海外からの渡航を禁止していました。

ただし、韓国も台湾もかなり中国とは関係が深く、仮に日本よりも早い時期に、海外からの渡航を禁止したとしても、かなり中国などからの感染者がすでに国内に入り込んでおり、免疫を獲得していた可能性もあります。

このあたりは、今後さらに研究をすすめて、明らかにしてほしいところです。

それにしても、一つ言えることは、まずは人口100万人あたりの感染者数や死者数等をみたうえで、評価しないと、客観的に日本の感染者数や死者が多いのか、判断などできないということです。

日本国内でも、都道府県別の感染者数や、死者数をみるときでも、10万人あたりの感染者数や死者数等をみないと客観的に比較などできないのは当然のことです。

日本のマスコミ、特にワイドショーなどでは、最初から100万人あたりとか、10万人あたりの見方をせずに、単に実数だけで、多くのコメンテーターが「ああでもない、こうでもない」と当て推量を言い合うというような展開で、いたずらに脅威を煽るような結果になっていました。

挙げ句の果に、「イタリアを見習え」「韓国を見習え」「ドイツを見習え」などと語っていたコメンテーターもおり、まさに噴飯ものの状況が日々続いていました。

このようなコメンテーターらの発言などは問題外として、やはり、日本のコロナ感染者数と死亡者数が少ないことは、やはり何か原因があるものと考えられます。

私としては、それについてはこのブログですでに述べてきたとは思うのですが、体系的に述べてはいなかったので、一つの仮設として再度はっきりさせておきたいと思います。

まず考えられるのは、日本社会の特徴です。例えば、近年は高齢者が「高齢者のみの世帯」で生活している率が高く、若い世代との接触を遮断するのが容易だということです。

例えば、日本の高齢者入居施設の場合は2月の早い段階から家族を含めた入所者以外の訪問を停止して厳格な管理をし、大規模感染は起きていません。また、大家族が比較的残っている地方は人口密度が低く、反対に人口密集地域では2世帯、3世帯の同居は少なくなっていることが理由として上げられます。

他にも、公衆衛生の概念が浸透しているとか、手洗いの習慣、マスク着用など生活様式の特徴も理由になりそうです。漠然と説得力を感じるストーリーですが、例えば同じように高齢者の命を奪う季節性のインフルエンザの場合は、例えばアメリカで毎年1万5000人前後の死亡者を出している一方で、日本は3,000から5,000の死亡者数で推移しています。しかし、米国の人口は約3億人、日本は1億2千万にですから、あまり有意な差異はありません。

そうなると、社会の特異性だけでは説明できません。その他、死亡者数の隠蔽とか、PCR検査数が少ないなどというのは単なるフェイクにすぎません。(これについては、過去の記事などを参照していただくものとしてここでは、詳細の説明はしません)

であれば、日本と外国で差異が最も顕著なのは何かといえば、やはりクラスター対策です。

この戦略は、3月19日の専門者会議以降、関係者が徐々に説明を始めていますが、要するにSARSを制圧したのと同じ手法で、感染の連鎖を潰していく作戦です。

PCR検査の投入方法も、限りある検査キットを感染者とその濃厚接触者に集中させ、クラスターを抑え込むことを優先して決めているようですし、例えば「ダイヤモンド・プリンセス」下船者については、100%クラスターの発生は抑止されたという説明もされています。

さらに、日本ではCTの普及率が世界1であることも奏功していると思います。コロナ感染者の中にはほとんど自覚症状のない人がいて、咳の症状すらない人もいます。しかし、そういう人の中には肺の異常がみられる人もいます。そういう人の場合でも、CT検査をすると肺に異常がみつかることがあるそうです。

とにかく、CT検査をすると、コロナであろうかなかろうが、肺炎なのかそうでないのか、肺炎だとして、重篤なのか、軽症なのかもすぐにわかります。肺に異常が見られた人で、症状が重い人、これから重くなりそうな人は、PCR検査を優先的に実行するとか、入院させるということが、医師の判断でかなり迅速にできます。


だからこそ、日本ではクラスターを抑え込むことができたともいえると思います。これは、CTが普及しており、総合病院ては大体設置してあるどころか、診療所レベルの小さな医療施設でも設置している場合もある日本だから、可能だったのです。

CTの普及率が日本よりも相対的に少なく、精度の低いPCR検査自体に頼らなければならない他の国と日本の根本的違いです。

そうだとしても、仮に今後「感染経路の見えない」形で、多数の感染者が発生し、クラスターを抑え込むことができなくなる可能性は残っています。専門家会議の言う「オーバーシュート」とはそうした事態であり、これを恐れて警戒を強めようという趣旨は理解できます。

仮にこの仮設が相当程度にあたっているにしても、専門家委員会が声高にそれを誇るのではなく、警戒を促しているというのは正しい姿勢だと思います。

今後、日本や、台湾などの感染者数が低い理由は、本格的に研究を進めていくべきと思います。

なお、中国の場合は、死者数が少ないことにはなっていますが、中国は1月にコロナの統計のとりかたを3回も変えたという事実があることと、その後もコロナ感染者でも症状が出ていない人は、コロナ感染者数に含めないなどの措置をとっていることから、全く信用ができず、疫学的調査には信頼にたるデータを得られる可能性は低いです。

韓国・ソウルの朴元淳市長は9日、市庁で記者会見し、市内繁華街・梨泰院のクラブを訪れた後、新型コロナウイルスへの感染が発覚した20代男性に関連し、同日正午時点で計40人の感染が確認されたと発表しました。感染封じ込めが期待されてきた韓国は、再び増加に転じた感染者数を前に緊迫感が漂っています。

メルケル首相が6日、新型コロナウイルスに絡む規制の大幅緩和を打ち出したドイツ各地で、クラスター(感染者集団)発生が確認されています。どこまで規制を緩和するかは14州と2特別市ごとに決めるが、難しい地域も生まれそうです。

まだまだ、予断を許さない状況であることは間違いないようです。

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2020年5月8日金曜日

どうやらアメリカは「中国を本気で許さない」つもりだ―【私の論評】米国は、ソ連崩壊後のロシアのように中国を弱体化させる(゚д゚)!

コロナで激化する米中対立の現在地


トランプは意外に慎重だが…

新型コロナウイルスの発生源について、米国のドナルド・トランプ大統領やマイク・ポンペオ国務長官が5月3日、相次いで「武漢ウイルス研究所からの流出説」を唱えた。だが、肝心の証拠は示されていない。真実は明らかになるのか。

日本では、大統領や国務長官が「研究所からの流出」を断定的に語ったかのように報じられた。だが、2人の発言内容を詳しく検証してみると、必ずしもそうと言い切れない部分もある。そこで、発言をあらためて紹介しよう。まず、トランプ氏からだ。


大統領の発言は、ホワイトハウスのホームページに全文が掲載されている(https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-president-trump-fox-news-virtual-town-hall/)。トランプ氏は「FOXニュース」の視聴者と語る番組で、次のように語っていた。問題の部分は、以下の通りである(一部略)。
質問者:あなたは「ウイルスが武漢ウイルス研究所から来た」と信じるに足る証拠を見たのでしょうか。 
大統領:そこで何が起きたのか、を正確に示す報告書が出てくるだろう。それは、非常に決定的なものになる、と思う。 
質問者:何か邪悪なことがあったのか、それとも単なる間違いだったのか。それを示唆する材料はありますか?
大統領:私は個人的に「彼らはとんでもない間違いを犯した」と思う。彼らはそれを認めたくないのだ。我々はそこ(注・武漢ウイルス研究所)に行きたかったし、世界保健機関(WHO)も行きたかった。彼ら(注・WHO)は認められたが、ずっと後になってからだ。すぐではなかった。私の意見では、彼らは間違いを犯した。彼らは火事のように消しにかかった。だが、消せなかった。……言い換えれば、彼らは問題が生じたことを知っている。彼らは問題に当惑した、と思う。ものすごく当惑したのだ。
これを見る限り、トランプ氏は「研究所からの流出を裏付ける証拠がある」とは言っていない。ただ「そこで何が起きたのか、を示す報告書が出てくる」、それは「決定的なものだ」と言ったにすぎない。流出が意図的だったのか、事故だったのかについても、慎重に断定を避けている。

大統領は「彼らはとんでもない間違いを犯した」と言ったが、わざわざ「個人的に(personally)そう思っている」とか「私の意見では(my opinion)」というように、留保条件を付けている。

つまり、研究所から流出したかどうかについて、自分の考えを述べたのであって、調査の結果を基に語ったのではない。大統領は「証拠を見た」とか「流出を裏付ける決定的な報告書が出てくる」とは言っていないのである。これが1点。

ポンペオ国務長官は踏み込んだ

次に、ポンペオ氏はどうだったか。彼は同じ3日の米「ABC」テレビのニュース番組に出演し、次のように語っていた。以下は、番組ホームページにある発言全文からの抜粋である(一部略、https://abcnews.go.com/ThisWeek/video/secretary-state-mike-pompeo-70478299)。
キャスター:情報機関の人たちは「中国政府は1月初めの時点で医療用品を買い占める一方、新型コロナウイルスの深刻さを国際社会に隠していた」と言っている。「自分たちがマスクをかき集めるために、意図的に隠蔽していた」のだと思うが、報復する考えはありますか? 
国務長官:あなたは事実を正しく認識している。中国共産党は、まさに世界が適切なタイミングで問題を認識できないように、そうしていたのです。彼らはジャーナリストを追い出し(注・ニューヨーク・タイムズなど米国3紙の特派員を国外退去させた)、中国国内で医療プロフェッショナルたちを沈黙させた。報道も黙らせた。これは全体主義国がやる手口だ。古典的な共産主義国の情報統制です。それが途方もないリスクを招いた。米国では数万人もの人々が被害を受けた。トランプ大統領は「彼らに説明責任を果たさせる」という点を明確にしています。 
〈新型コロナウイルスの起源については、国家情報長官室(DNI)が今週、プレスリリースを出して「ウイルスは中国で発生した。人工でも、遺伝子操作でもない点では科学的な同意がある。動物から感染が広がったのか、それとも実験室での事故の結果なのかについては、引き続き調査を続ける」と言っている(https://www.dni.gov/index.php/newsroom/press-releases/item/2112-intelligence-community-statement-on-origins-of-covid-19)〉
キャスター:あなたは「ウイルスが武漢の実験室から発生した」と確信させるような何か、を見たのですか。 
国務長官:感染はそこから始まった、という多くの証拠がある。我々は最初から「ウイルスは武漢に起源がある」と言ってきた。世界中が知っているように、中国は世界に感染を広げ、基準に満たないお粗末な実験室を運営してきた歴史がある。中国の実験室における失敗の結果として、世界がウイルスにさらされたのは、今回が初めてではない。私はあなたに「これ(ウイルス)が武漢の実験室から来たことを示す膨大な証拠がある」と言うことができる。最高の専門家は「これは人工物だ」と考えているようだ。私には現時点で、それを信じない理由はない。 
キャスター:では、彼らは意図的にウイルスをばらまいたのか、それとも実験室の事故だったのか。 
国務長官:それについて、言うべきことは何もない。言えるのは、そうしたすべての疑問に答えるために、我々は調査チームを派遣しようとしてきた、ということです。WHOも派遣しようとした。だが、武漢の研究所にも、他の中国の研究所にも派遣は認められなかった。これは現在進行中の問題だ。我々は行く必要があるし、ウイルスのサンプルが必要です。中国共産党は西側世界にアクセスしているが、私はあなたの質問に答えられない。中国共産党が世界の専門家たちに協力するのを拒んでいるからです。
これを読むと、ポンペオ氏は大統領よりも、さらに一歩踏み込んで「研究所からの流出を示す膨大な証拠がある」と断言したことが分かる。だが、証拠そのものは示していない。

これに対して、中国外務省の報道局長は5月6日の会見で「証拠があるというなら、示してほしい。それを出せないなら、そもそも証拠がないからだ」と反論した。WHOも会見で「さらなる国際調査団の派遣について、中国側と協議している」と語った(https://digital.asahi.com/articles/ASN5735XDN57UHBI00G.html)。

続々と報じられる「隠蔽」
この問題を報じる米メディアの受け止め方もさまざまだ。

たとえば「ニューヨーク・タイムズ」は4月30日付で「トランプ政権の高官たちが情報機関に『武漢ウイルス研究所からウイルスが流出した』という見方を裏付ける証拠を発見するように、圧力をかけている」と報じた(https://www.nytimes.com/2020/04/30/us/politics/trump-administration-intelligence-coronavirus-china.html)。

大統領らの発言が報じられると、5月3日付の記事は2003年のイラク戦争にも言及して、トランプ政権の前のめり姿勢を批判した(https://www.nytimes.com/2020/05/03/us/politics/coronavirus-pompeo-wuhan-china-lab.html?searchResultPosition=2)。

当時「米国の情報機関は『サダム・フセインが大量破壊兵器を作っている』という見方を公表するよう、ブッシュ(ジュニア)政権に迫られた。だが、それは結局、間違いだった」「異議を唱えた情報機関は無視されたか、はねつけられた」。新型コロナウイルスをめぐる圧力も、それと同じではないか、というのだ。

ニューヨーク・タイムズはトランプ政権に批判的なので、そこは割り引いて読む必要がある。だからといって、中国に甘いわけでもない。同じ記事は、中国当局が上海の研究所を突然、閉鎖した件に言及している。

この1件は、中国政府が情報を隠蔽し、感染を世界に広げた責任問題に関わっているので、詳しく紹介しよう。研究所の閉鎖を最初に報じたのは、香港の有力紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」である。同紙は2月28日付で次のように報じていた(https://www.scmp.com/news/china/society/article/3052966/chinese-laboratory-first-shared-coronavirus-genome-world-ordered)。

上海公衆衛生医療センターの研究チームは1月5日、当時は未知のウイルスだった新型コロナウイルスの遺伝子配列情報を突き止めるのに成功した。チームは同日、中国国家衛生健康委員会に分析結果を報告するとともに、公共の場所では適切な感染予防と管理をするよう提言した。この時点で、重篤な患者が出ていたからだ。

にもかかわらず、当局がなんの警告も出さなかったので、チームは1月11日、自分たちの発見を、遺伝子情報を扱う公開のプラットフォーム(複数)で公表した。感染は拡大していたが、当局は「ヒトからヒトへの感染を示す証拠はなく、1月3日以来、新たな感染者もいない」と発表していた。

すると、翌12日に突然、上海衛生健康委員会が研究所の閉鎖を命じたのである。理由は「改善するため」の一言だった。何を改善するのかは、不明のままだ。

研究所の関係者は匿名で「我々は研究所の再開を求める報告書を4回、提出したが、なんの返事もなかった。科学者たちが新型コロナウイルスに対応する方法を見つけるために、一刻を争って努力しているのに、研究所を閉鎖するのは大変な影響がある」と同紙に語っている。

この「1月初めから半ば」という時期は、重要な局面だった。武漢市は1月6日から10日まで、湖北省は11日から17日まで、それぞれ人民代表大会(議会)と政治協商会議(諮問会議)という最重要のイベントを控えていた。

2つのイベントを成功させるために、現地の責任者は感染拡大を放置しただけでなく、武漢当局は「新規症例が大幅に減少した」と嘘の情報まで流していた。上海の研究所をめぐる動きも、これと「軌を一にしていた」とみていい。この間、隠蔽工作は全国規模で展開されていたのである。

上海の研究チームは発見を論文にまとめ、世界的に権威ある科学誌「ネイチャー」に投稿し、2月3日付で掲載された。論文が世界の医師や科学者に参照され、ワクチン開発などに生かされたのは、言うまでもない。中国当局は、そんな研究を圧殺していた。

もしも「武漢ウイルス研究所からの流出」が、トランプ氏やポンペオ氏が言うような「決定的証拠」で裏付けられなかったとしても、中国政府による事実の隠蔽と、医師や市民など告発者を弾圧した事実は消せない。

トランプ政権は方針を固めた

中国の許しがたい行動は、ほかにもある。たとえば、「ABC」のキャスターが指摘した医療用品の買い占め問題である。

米「AP通信」は5月4日、米国土安全保障省が「中国は1月段階で、マスクや防護服など医療用品を世界的に買い占めるために、世界保健機関(WHO)に対して、新型コロナウイルスが感染拡大している事実を報告しなかった」という内容の報告書をまとめた、と報じた(https://apnews.com/bf685dcf52125be54e030834ab7062a8)。

この「買い占め作戦」は、カナダの有力メディア「グローバル・ニュース」も長文の調査報道記事にして報じている(https://globalnews.ca/news/6858818/coronavirus-china-united-front-canada-protective-equipment-shortage/)。カナダでは、在カナダ中国人を動員して、買い占めが組織的に繰り広げられていた。

ホワイトハウスは米紙「ワシントン・イグザミナー」の記事を引用して、中国による買い占め作戦を公式に発表している(https://www.whitehouse.gov/westwingreads/)。この1件をみても、トランプ政権が本気で中国と対決する方針を固めたのは、間違いない。

【私の論評】米国は、ソ連崩壊後のロシアのように中国を弱体化させる(゚д゚)!

5月3日に続き、7日にはトランプ大統領は以下のような発言をしています。

トランプ米大統領は7日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は中国から始まったと強調した上で「発生源で簡単に止められたはずだった。無能あるいは愚かな者がいたんだろう」と述べ、改めて中国を批判しました。ホワイトハウスで記者団に語りました。

トランプ氏はこれまで、ウイルスが中国湖北省武漢の研究所から流出した説に自信があるとの立場を示してましたが、この日も詳細には触れませんでした。近くまとまるとしていた米情報機関による調査報告書についても時期の明言は避け「公表するかどうか分からない」と述べました。

ただ、中国について「やるべきことを怠った」と指摘し、引き続き感染拡大の責任を追及する姿勢をにじませました。

私自身は、このブログで「ウイルスが中国湖北省武漢の研究所から流出した説」を立証するのは困難であり、特に中国の協力なしには不可能という立場をとってきました。それは今もかわらないです。

そもそも、これにあまり固執しすぎると、サダム・フセインが大量破壊兵器を作っているとの情報に踊らされた、ブッシュ政権のようなことになりかねません。

   2006年12月30日、イラクバグダッドイラク国営テレビ局は、
   イラク前大統領サダムの首に(袋の上から?)縄をかけて、まさに
   処刑するところを報道した。

そうして、このような立証が不確かなことを追求するよりも、情報統制や役人の保身などに起因する初動の遅れこそが、中国ウイルスのパミデミックを招いたことを忘れるべきではないし、米国はこれに関する情報をさらに収集すべきであると主張しました。

実際米国は、その方向に舵を切ったようです。米国の情報能力を駆使して、これに関するを収集し、中国に対して、有無を言わせないほどの情報をつきつけるべきです。

香港の有力紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」による、上海衛生健康委員会が研究所の閉鎖については、米国側も詳細を調査すべきでしょう。

とにかく、米国側としては、情報統制や役人の保身などに起因する初動の遅れを徹底的に調査し、それが組織的ものなのか、あるいは体系的に行われたのか、中国共産党はどのように関わっていたのか、習近平はどこまで関わっていたのか、あるいは関わりのないところで行われたのかを明らかにすべきでしょう。

仮に習近平の関わりのないところで行われていたとしても、これは中国の体制に大問題があることになります。だとすれば、これからも習近平の預かり知らないところで、これからも世界にも大きな影響を及ぼすことが起こり続けることになります。これに対する結論は、中共一党独裁には根本的な問題があるということで、中共解体です。

習近平が関わっているとすれば、すくなくとも、習近平を失脚させるべきです。米国は、これを中共にやらせるべきです。やらないというのなら、これまた、中共解体しかないです。

いずれにしても、中国がまともになるためには、どのみち中共は解体するしかないようです。

さて、これを中国共産党はどのように捉えているのでしょうか。米国としては、中国が中共の一党独裁などの体制変換を自ら行わない場合は、中国が姿を消しても、米国や他の国々が悪影響を受けないように準備をしつつ、中国に対する制裁をどんどん強めていくことになるでしょう。

この場合どのくらいまで、制裁を続けるかについては、すでにモデルがあります。それは、ソ連の崩潰です。ソ連の崩潰により、ソ連後継は、ロシアとなりましたが、そのロシアは未だに世界第2の軍隊をもってはいますが、経済は他の国でいえば、韓国なみです。日本の都市でいえば、東京都なみです。ただし、面積は今でも中国より広いです。

ソ連(USSR)は崩潰した

米国は、このくらいまで、中国を経済的に衰退させることになるでしょう。東京都がいくら世界第2の軍隊を持ったとしても、世界の警察官になることはおろか、EUとも単独ではまともに渡り合うことすら不可能です。

ロシアはそれでも、今でも中等にロシア太平洋艦隊を派遣したりしていますが、これは最早象徴的な意味しかありません。米海軍と本格的に対峙すれば、5分ともたないでしょう。中国の南シナ海の基地も、象徴的な意味しかなく、これも米軍が本気で攻撃すれば、5分で吹き飛ばすことができます。

さらに、中国とロシアが同じくらいの経済になれば、長い国境を説していますから、互いに他を牽制し、険悪な関係となるのは目に見えています。そうなると、中露は放置しておいても、互いに牽制しあって、今後世界の脅威になることはなくなるでしょう。

それを米国は最終的に目指しているものと思います。無論、冷戦が長く続いたように、米中冷戦も結構長い間にわたって続き、中国はソ連のように弱体化していき、いずれ崩潰することになるでしょう。

全体国家や、独裁国家は、このように弱体化することが、世界の安定に寄与します。中露がそのような目にあえば、独裁国家を大きくしようとたり、比較的大きな国を全体主義化しようという試みも、割りに合わないものとして、誰もそれに取り組むことはないでしょう。

そうして、何よりも良いのは、全体主義国家、独裁国家の情報隠蔽等により、世界が大きな危機に至ることを未然に防ぐことができることです。

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2020年5月7日木曜日

西村担当相vs吉村大阪知事、コロナで対立も解消「絆深まった」―【私の論評】今後、様々な政治家や、都道府県知事の本質・地金がコロナであぶり出されることになる(゚д゚)!


新型コロナ緊急事態宣言

記者会見する西村経済再生相=6日午後、内閣府

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための政府の緊急事態宣言をめぐり、西村康稔経済再生担当相と大阪府の吉村洋文知事が一時対立したが、解消した。

 吉村氏は5日、外出自粛や休業要請を解除する独自の基準「大阪モデル」を公表し、「本来ならば国に示してほしかった」と批判した。西村氏は6日の記者会見で「勘違いしているのではないか。強い違和感を覚える。解除は知事の権限だ」と述べていた。

 緊急事態宣言の根拠となる改正新型インフルエンザ等対策特別措置法では、都道府県知事が外出自粛要請や店舗を含む施設の使用制限の要請、指示、公表ができる。解除の判断も知事の裁量だ。

 西村氏は7日の記者会見で、6日に吉村氏と電話で協議したことを明らかにした上で「お互いのちょっとした言葉のあやというか誤解があったので、解いた」と説明した。「府知事として指標を考えるのは、説明責任を果たすということで非常によいことだ」と述べた。

 一方で、緊急事態宣言の解除の基準に関しては「国全体として対象地域をどう考えるかというのは国の責任なので、私が説明責任を負う。しっかり示したい」と語った。吉村氏との「わだかまり」の有無を問われると「むしろこれで絆が深まったと思う。連携して収束に向けて全力で取り組んでいきたい」と強調した。

【私の論評】今後、様々な政治家や、都道府県知事の本質・地金がコロナであぶり出されることになる(゚д゚)!

大阪府の吉村知事が、5日外出自粛や休業要請を解除する独自の基準「大阪モデル」を発表しましたが、これは一体どういうものなのでしょうか。以下に大阪モデルの概要を掲載します。


大阪モデルは、「客観的なモニタリング指標の設定」「指標の見える化により府民の行動変容を促す」「基準に基づく自粛要請・解除などの対策を段階的に実施」「陽性者数等を踏まえた必要な感染拡大防止策の実施」を柱にするもので、自粛を解除する指針をが具体的に示したものです。


感染拡大状況を判断するため、府独自に指標を設定し、日々モニタリング・見える化した事が最大の特徴。各指標について、「感染爆発の兆候」と「感染の収束状況」を判断するための警戒基準を設定した。今月、中旬に国で検討される判断基準を踏まえて最終決定する。

モニタリングの分析事項は、「市中での感染拡大状況」「新規陽性患者の発生状況、検査体制のひっ迫状況」「病床のひっ迫状況」の3つ。

新規陽性者におけるリンク不明者数が10人未満、確定診断検査における陽性率が7%未満、患者受入重症病床使用率60%未満を7日間連続達成すれば、自粛を段階的に解除するとしている。


特に、基準が示されていということは、良いことです。これだと、誰もがこの基準に照らして、現状を把握して、これは基準に合致している、合致していないということが確かめられます。

これによって、「自粛要請が遅すぎる」とか「自粛要請がはやすぎる」などの無駄な論議を避けることができます。

大阪府が前もってこのような基準を発表しておけば、これに反対の人はその根拠を示してそれに反対すればよいわけです。それが妥当なものであれば、大阪府は基準を変える可能性もあります。

基準が一度定まってしまえば、それに向けて各方面が努力すれば良いので、無駄な議論もさけることができます。

このようなことは、コロナ感染対策でなくても、あらゆる組織のマネジメントにいえることです。特に優先順位をつけるという事が重要です。

経営学の大家であるドラッカー氏は、優先順位と劣後順位について以下のようなものを述べています。

「いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない」(『創造する経営者』)

誰にとっても優先順位の決定は難しくないです。難しいのは劣後順位の決定です。つまり、なすべきでないことの決定です。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきでなのです。このことが劣後順位の決定をためらわせるのです。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。

「容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る」(『経営者の条件』)

大阪モデルでも、警戒基準からみて、優先順位はやはり(1)市中の感染拡大を少なくする、(2)新規陽性患者の発生を少なくすること、(3)病状の逼迫状況を少なくすること、なのでしょう。

これは、非常に納得しやすい、事項です。他にもPCR検査がどうのとか、ガウン、マスクがどうのこうのという細かなこともありますが、これは目的を達成するための手段であり、PCR検査をすること自体や、医療器具・機器など自体を増やす事自体が大問題であるわけではありません。

無論、検査体制や機器がなければ、基準を達成することはできないですが、これは基準を満たすための制約要因であって、それ自体が目標ではないわけです。このようなことは、言われればわかることですが、優先順位をつけたり、基準を設けなければ、混乱してしまうことが多いものです。

ドラッカー氏は、大阪府や政府、省庁などの公的機関には、6つの規律が重要だとしています。

「あらゆる公的機関が、六つの規律を自らに課す必要がある。事業の定義、目標の設定、活動の優先順位、成果の尺度、成果の評価、活動の廃棄である」(ドラッカー名著集(13)『マネジメント──課題、責任、実践』[上])

今ようやく日本でも、公的機関の見直しが急ピッチで進められています。しかしドラッカーは、すでに3分の1世紀前に、公的機関に成果を上げさせるための規律を明らかにしています。
第一に、自らの事業を定義することである。「事業は何か」「何であるべきか」を定義する。ありうる定義をすべて公にし、それらを徹底的に検討する。 
第二に、その定義に従い、明確な目標を設定することである。成果を上げるには、活動に直結する目標が必要である。目標がなければ活動のしようがない。 
第三に、活動に優先順位をつけることである。同時に、期限を明らかにし、担当する部署を決めることである。 
第四に、成果の尺度を明らかにすることである。尺度がなくては、せっかくの事業の定義や目標も、絵空事に終わる。 
第五に、その尺度を使って成果のフィードバックを行なうことである。全組織が成果による自己目標管理を行なわなければならない。 
第六に、事業の定義に合わなくなった目標、無効になった優先順位、意味の失われた尺度を廃棄することである。不十分な成果に資金とエネルギーを投入し続けることのないよう、非生産的なものすべてを廃棄するシステムを持つ。
これらのステップのうち最も重要なものは、事業の定義だと誰もが思います。ところがドラッカーは、最も重要なものは、第六のステップだといいます。企業には、非生産的な活動を廃棄しなければ倒産するというメカニズムが組み込まれている。ところが、公的機関にはそのようなメカニズムがありません。

公的機関が必要としているのは、人の入れ替えの類いではないというてのです。わずか六つの規律を守ることだというのです。

「公的機関に必要なことは、企業のまねではない。成果をあげることである。病院は病院として、大学は大学として、行政機関は行政機関として成果をあげることである。つまり、自らに特有の目的、ミッション、機能を徹底的に検討して、求められる成果をあげることである」(『マネジメント』)

大阪府は、現在当面している最も重要な問題である、自粛や休業要請の解除に関して、明確な基準を打ち出しました。これは、大阪府が上の6つの規律のうちのいくつかを確実に実行していることを示しています。

対して政府は、基準や目標を定めずに、自粛の延長を決めてしまったわけで、これは明らかにドラッカーの示す、6つの規律に反していると思います。

本来であれば、国もこのような基準を示し、各都道府県はその基準を参考にしつつも、さらに各都道府県の特性にあわせて独自の細かい基準を策定するというのが筋だと思います。

そうして、こうした国の基準をクリアした都道府県から最初に、自粛を段階的に解除していくという方式が望ましかったと思います。

“大阪モデル”の発表に際して吉村知事は「大事なのはまず数値で示すということなので、まず数値で出口戦略をする」「本来は国で示して頂きたかったが、それが示されないということになったので、府としてのモデルを決定したいと思う」と説明していました。

大阪府の吉村洋文知事

この件に関する受け止めを聞かれた西村大臣は「報道で承知している」とした上で、「何か勘違いをされているのではないかと、強い違和感を覚える。各都道府県の裁量で休業要請なり解除なりを行っていただくわけなので、その説明責任を果たすのは当然。都道府県の知事の権限・裁量を増やしてほしいと要請や主張をされながら、『休業要請を解除する要件の基準は国が示してくれないから』というのは大きな矛盾だと思う」と反論していました。

それを踏まえ、国の考えとして「緊急事態宣言の対象区域、解除の基準をどう考えていくか。先般少し指標についてお示ししたように、今後の出口について責任をもって数値・基準をお示したいと考えている」と述べました。

西村大臣の言っていることは形式的には間違いでないようにもみえますが、霞ヶ関の官僚がいうような縄張り争いのようであり、政治家の発言としては器の小さなものだと思います。それを批判されたので、

吉村大阪府知事は、大阪府下の経済状況を把握した上で、どのように被害を最小限に留めるべきなのか、考察をし続けているのでしょう。

実は新型コロナウイルス感染拡大で発生する死者よりも、その影響による経済的な死者の方がはるかに上回るのではないかと、私は考えています。その根拠として、このブログでも年間自殺者数が、平成時代(この機関はほぼデフレ)には3万人台を超えていました。昨年は2万人を切ったことを掲載したことがあります。

西村経済再生相と吉村大阪府知事を単純比較はできないですが、明らかに当事者の立場に近いのは吉村大阪府知事です。

緊急事態宣言が延長されて経済活動が止まり続ければ、自殺者が多く出ることは誰でも理解できる状況です。

経済活動を止め続けることで死者が出ることに対し、政治家は真摯に責任を持たなければならないはずです。

これ以上の経済危機による死者、生活困窮者がでないように、政府は真摯に地方経済を把握している首長の発言、提案くらい最初から真摯に耳を傾ける度量くらい持つべきでしょう。

以前このブログで、コロナ感染拡大の危急存亡のときには、人や組織の本質や地金がみえてくると主張しましたが、今回もそれがはっきりしたと思います。

西村経済再生相は、政治家としては器が小さいです。吉村大阪府知事は、真摯に府政に向き合っているようです。

これは、大阪モデル発表と同時期に記者会見を行った東京都の小池知事にいえます。小池知事の会見は、吉村知事とは対照的であり、自粛解除の基準も示さず、それを示さなかった政府に対して苦言を呈するでもなく、終始精神論ばかりを語っていました。

今後、様々な政治家や、都道府県知事の本質・地金がでてくるでしょう。本質・地金を見るにつけても、感情論に流されたり、非論理的な見方をすれば、正しい見方はできないと思います。

そのようなときにこそ、ドラッカー氏のいう優先順位、劣後順位に関する主張や、公的機関の守るべき6つの規律などを参照するべきものと思います。

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2020年5月6日水曜日

「金正恩氏重病」に振り回され……たまにある北朝鮮の「とびきり情報」には虚偽も―【私の論評】北朝鮮に限らず、世界中て観測気球が上げられるている事実に目覚めよ(゚д゚)!

「金正恩氏重病」に振り回され……たまにある北朝鮮の「とびきり情報」には虚偽も

中朝国境の様子。手前は中国吉林省集安、対岸は北朝鮮慈江道満浦(筆者撮影)

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の「重病説」に同調していた北朝鮮出身の韓国政治家2人が4日、謝罪の気持ちを表明し、今後の言行には慎重を期すとの考えを示した。一方で「重病説」を報じた米CNNテレビは自社報道に対する検証結果などは伝えず、釈明するにとどめた。北朝鮮をめぐっては裏付けの取れない“機密情報”が少なくなく、外部メディアはそれに振り回される。ただ、北朝鮮で厳しい情報統制が続く限り、その状況が変わるのは難しい。

◇脱北の韓国政治家とCNNのけじめ

 韓国の北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」が先月20日に「金委員長が手術を受けた」と報じ、CNNも「重体」と続けた。これに北朝鮮出身の韓国野党政治家である池成浩氏(未来韓国党)と太永浩氏(未来統合党)が反応し、それぞれ「99%死亡を確信」「自ら立ち上がれない状態」などと発言していた。

 北朝鮮国営メディアが今月2日、金委員長の健在ぶりを伝えたことから、韓国国内で2人に対する批判がわき上がり、2人は4日、謝罪表明に追い込まれた。

 太永浩氏は「この2日間、多くの叱責を受け、自分のひとことが及ぼす影響について、切実に実感しています。理由に関わらず、国民のみなさまにおわび申し上げます」と述べた。そのうえで「今度のことを契機に、より慎重で、謙虚な議員活動を展開してまいることを約束いたします」と誓った。

 池成浩氏は「国民のみなさまに深くおわび申し上げます」と謝罪。「過去数日間じっくり私自身を振り返ってみた」と明かしたうえ、先の韓国総選挙での当選と重ね合わせて「(国会議員という)ポストの重さを深く感じました。これから公人として慎重に行動します」と反省の弁を述べた。

 一方、CNNは、北朝鮮メディアが金委員長の動静を伝えた2日の時点では「写真の真偽と撮影日は確認されていない」と慎重な態度を見せてきた。だが、写真が捏造ではないことを確認すると、「北朝鮮には言論の自由がなく、国の最高指導者に関する情報はしばしば『光が目に届かない黒い穴』になる」と表現するだけだった。

◇北朝鮮「韓国で虚偽ニュース横行」

 北朝鮮側は、韓国政治家2人の発言を念頭に、対外宣伝媒体である「メアリ」が5日、「南朝鮮(韓国)で日増しに勢いを増す『虚偽ニュース』が、人々を混沌とした状態に陥らせている」と伝えた。

 メアリはこの「虚偽ニュース」を「一定の政治的・経済的目的により、特定の対象・集団に対する虚偽事実を意図的に捏造して流す世論操作行為」と定義している。

 ただし、メアリはこの報道の中で、金委員長の「重病説」には一切触れていない。「金委員長に健康問題に関連してデマが流された」と伝えるだけでも、住民らに動揺が生じる恐れがあるためだ。

◇“国境情報”

 北朝鮮情勢を取材していると、時々“国境情報”といわれるものに出くわすことがある。これは中国に潜伏する脱北者支援組織のメンバーらが、北朝鮮側にいる協力者と連絡を取り合うなかでやり取りされるものだ。

 北朝鮮の咸鏡北道や慈江道など、中国との国境付近では中国の携帯電話の電波が入るため、双方が中国のスマホを持っていれば、国境を隔てて文字情報や動画・写真などのやり取りが可能だ。

 またこのルートは「双方向」になっているため、北朝鮮側の協力者は国外の情報に触れることができる。ここから公式メディアが伝えない「重病説」などが逆流している可能性もある。

 北朝鮮の治安当局は時に、情報漏洩ルートをあぶり出すため、疑わしい複数の人物に、個別にそれっぽい話を握らせて、情報の流れを点検するとされる。たとえば、ある人物には「金委員長は3日前に死んだ」、別の人物には「金委員長の叔父が権力を握った」、残るひとりには「金与正氏が監禁された」といった、メディアが欲しがるような「故意の誤報」をあえて流し、どの人物に流した情報がどのようなルートを経て外部で報じられるようになるのかを確認するというものだ。こうした情報は絶妙なタイミングで流され、筆者もだまされて情報源を遮断された経験をもつ。


【私の論評】北朝鮮に限らず、世界中で観測気球が上げられるている事実に目覚めよ(゚д゚)!

北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長の健康状態について韓国の情報機関は6日、異常はなく、手術も受けていないと判断していることを明らかにしました。

北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長をめぐっては、先月、アメリカのCNNテレビが、「手術のあと重篤な状態になっているという情報がある」と伝え、健康状態に関心が集まっていました。

北朝鮮の国営メディアは今月2日になって、キム委員長が肥料工場のしゅんこう式に出席したと報じ、20日ぶりに公の場に姿を現したことが確認されました。

これについて韓国の情報機関、国家情報院は6日、国会の情報委員会に対し非公開で報告を行いました。出席した議員によりますと、この中で国家情報院は、キム委員長の健康状態に異常はなく、手術も受けていないと判断していることを明らかにしました。

その理由としては、手術を受けた場合、4週間から5週間程度は療養しなければならないと、専門家が指摘していることを挙げ、動静が伝えられていなかった間も、正常に国政運営を行っていたとする見方を示しています。

また、国家情報院は、ことしに入って公開されたキム委員長の活動が17回と、例年の同じ時期に比べておよそ3分の1にとどまっているとしたうえで、その背景には新型コロナウイルスの影響もあると指摘しました。

以上から、今のところ金正男氏は健康かどうかはわかりませんが、少なくとも生存しているのは明らかなようです。

では、死亡の噂が駆け巡ったのはどうしてなのでしょうか。北朝鮮をめぐるうわさは、今回だけではなく常に起きてきたし、30年前からの歴史的記録も残っています。北朝鮮国内にはいくつか、うわさの出どころとみられる場所もあります。

過去には、北朝鮮国内の外国貿易部門として知られる場所が、同国指導部に関する一部のうわさの出どころだと考えられてきました。資金やぜいたく品を調達して指導部へと送る朝鮮労働党39号室には、北朝鮮と海外を行き来する海外工作員が配置されています。

指導部とこの部門との間ではある程度のやりとりが交わされることから、大規模な工作員ネットワークの一部から発生したうわさもあると、長らく考えられてきました。こうした工作員ネットワークが存在するのは、私たちがみな知っていることです。

かつてそこで働いていた脱北者が証言しています。うわさの一部はやがて、日本や韓国のメディアへと流れていきます。

しかし、だからといって情報の性質はさほど変わりません。ゴシップに過ぎないわけです。

朝鮮労働党中央委員会の施設で働いていれば、井戸端会議もあるでしょう。金一族の生活には強い関心が向けられていると、かつて働いていた人たちが証言しています。ある話の3分の1がもととなった井戸端会議程度の話は、人々が思うより簡単に、北朝鮮国外へと伝わっていきます。

うわさやゴシップは北朝鮮のような全体主義体制の中でかなりはびこっています。1つの例が、2017年に殺害された金氏の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏の母方の伯母、成恵琅(ソン・ヘラン)氏の回顧録「藤の家」に記されています。

この中で成氏は、金一族に仕えるスタッフの1人から、金正恩氏の一家が有利な立場にあると聞かされた時のことを明かしています。特筆すべき点は、成氏が自分の情報源は「信頼できる」とわざわざ書いていることです。

繰り返しになりますが、情報のブラックホールの中では手に入るものを手に入れる、それが北朝鮮の仕組みです。戦場の霧(不透明な状況)の中ではそれほど多くの選択肢はありません。つまり、北朝鮮に関するゴシップに正当性を与えるのは不相応と言えます。

世界中の諜報機関もまた、オープンソースの情報を確認し、自分たちの手法で仮説を検証しようとするでしょう。

韓国には北朝鮮を監視する独自の方法があります。時には衛星を使うこともあります。そして韓国統一省は先週、北朝鮮の状況を頻繁に監視しているが特異な動向はみられないと明かしました。

米国が複数の偵察機を飛行させたことは、世界のメディアが報じたため公然の秘密となっています。偵察機で北朝鮮の状況を確認していたというわけです。

では、北朝鮮をめぐる話がうわさによるものなら、なぜ北朝鮮側はこうしたうわさを取り締まらないのでしょうか。この逆は違いますが、北朝鮮から韓国側へ連絡を入れるのは非常に簡単なのですから。

2008年ごろは、金氏に関する会話は密室で行われていたでしょうが、今日では携帯電話技術がその状況を一変させています。北朝鮮の指導者のうわさ話をする市民は、確実に追跡されるでしょう。

しかし、新たにそういう機会が生じるまでは取り締まりを受けることはないかもしれないです。金氏はこうした情報のまん延を制御できそうにはないです。ただし、金氏と近しいあるいは結びつきのある人物に関連したうわさをすれば、どうなるかは想像がつきます。

ごく一般的な北朝鮮国民は何も知らないということを留意しておくのは重要です。2016年に脱北した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使は、2017年の米議会公聴会で、ほとんどの北朝鮮国民は自分たちの指導者がスイスで教育を受けていたことすら知らないだろうと証言しています。

脱北した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使
太氏は、北朝鮮の一般市民が情報にアクセスできるよう、衛星の使用とマイクロチップの密輸を提唱していました。

実際には、金氏の健康状態に関する正確な情報にアクセスできる人はほんの一握りしかいないでしょう。だからといって、うわさが漏れないわけではないし、うわさが正しくない可能性もあります。

これまでも常にそうだった。1986年に金日成(キム・イルソン)主席が心臓発作を起こしたといううわさが流れました。当時、そう報じられていたにも関わらず、これはでたらめでした。

1990年から1992年には、金日成主席と金正日総書記が鉄道駅のプラットホームで軍によって銃殺されたとのうわさが流れましたが、全くそうではありませんでした。

咸鏡北道で朝鮮人民軍第6軍団によるクーデターが起きたとする証言が3つ存在します。第6軍団はその後解体されたままです。何かがあったということ以外、詳細はわかりません。金正日氏は2003年にすでに死亡していて、影武者が国を指揮していたといったうわさもあります。

世界のどこでもそうであるように、今でもゴシップは生まれ、うわさは広まっています。そしてほかのどんな場所とも異なっているのは、北朝鮮が望む通りにうわさを認めたり否定したりするという、その気まぐれさを、私たちはどうすることもできずにいることです。

ただ、私たちはこうしたことが、北朝鮮にだけ限ったことではないことを認識すべきです。たとえば、我が国においても、政府や、官僚、政治家などが、観測気球をあげることがしばしばあります。

たとえば、産経新聞には以下のような記事が掲載されました。
政府、緊急事態宣言に伴い首都圏での鉄道減便要請を検討 新幹線も対象
2020.4.6 13:23
 政府が7日にも発令する緊急事態宣言に伴い、首都圏などの対象区域で鉄道各社に対する減便の要請を検討していることが6日、分かった。対象は新幹線にも及ぶ見通し。不要不急の外出を抑制する狙いがあり、宣言が出れば来週以降、減便が始まる可能性がある。 政府がJR東日本などと検討しているのは、7日にも緊急事態宣言が出た場合、来週から当面の間、平日にも土日・祝日のダイヤを運用し、終電も繰り上げる。その後、通常の最大5割程度に列車の運行本数を間引きした臨時ダイヤに移行。新幹線は5割以上の減便も検討する。
鉄道減便は未だに実行されていません。これは、おそらく政府もしくは、国土交通省の官僚などによる、観測桔梗であると考えられます。ようする、何かの施策を実行するにしても、それが国民などに受け入れられやすいものなのかを確認するためのものです。

この記事に関しては、かなり批判的な意見が多く、ツイッターでは以下のような意見がみられました。
・おいおい、マジでこんなこと考えてるの? ニューヨークはそうやって感染拡大したんじゃなかったっけ?「通勤制限」「一部企業活動停止」せずに5割減便したら、朝から晩まで満員。感染爆発を引き起こすぞ
・現実を知らない政治家たちの愚かさに呆れる。朝夕の電車内は間違いなく3蜜
この他にも、困窮世帯に限った30万円の支給とか、減税に関するものなど、日本でも様々な観測気球がながれています。

新聞の記事や、テレビの報道など、ただ単純にながめていただけでは、それが観測気球であるかどうかすらわからないでしょう。

財務省なども、増税の前などには、観測気球を良くあげます。世論を読んで、その時時で増税できそうかどうかを確かめるのでしょう。日経新聞などには、良く財務官僚のものとおぼしき観測気球記事がみられます。

観測気球をあげるのは簡単です、さも重要な情報であるかのように、記者やその周辺にほのめかしたり、政府の発表や省庁による発表に尾ヒレ葉ヒレをつけることでできます。

北朝鮮の金正恩氏死亡説に関しては、最初からこのような観測気球なのかどうかは、わかりませんが、途中からは観測気球に変わった可能性が濃厚です。

金正恩もしくは、北の高官は、もっともらしい金正恩死亡説をすぐに取り消さなかったのは、これが一種の観測気球になると考えたからでしょう。

金正恩氏が、死亡した場合、たとえば中国はどのような出方をするのか、韓国はどうするのか、あるいは日米は、そうしてロシアはどうでるのか。あるいは、金正恩氏死亡の情報がどこから漏れて、どこに伝わったのか。

それに付随して、北朝鮮内部に金正恩氏の反対勢力は存在するのか、存在したとして、それは誰なのか、あるいはそれに協力する敵対勢力は外国勢力は存在するのか、等々です。

実際北朝鮮は、日米の確かな意思を明らかにすることができたかもしれません。これにつついては、先日このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
金正恩氏、新型コロナ感染!? 中国医療団が北朝鮮へ「ECMO」「アビガン」持ち込み情報 感染者は「国内にいない」としているが―【私の論評】米空軍と空自の日本海や沖縄周辺空域で共同訓練は、北朝鮮より中国と韓国を牽制するものと見るべき(゚д゚)!
金正恩氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、日米の北有事の際の意思に関わる部分を以下に引用します。

言うまでもなく、文在寅大統領および与党「共に民主党」は、反日、反米、従北、親中を鮮明にする左翼革新政権です。 
今般の選挙結果を受けて、さらにその路線への傾斜を強めるのではないかと懸念され、日韓関係の改善は期待できないばかりか、「米韓相互防衛条約」を締結している同盟国・米国との関係にも亀裂拡大の恐れが指摘されています。

韓国総選挙で当選した与党「共に民主党」の李洛淵前首相(左)=ソウルで15日
このようなことを前提に考えると、米空軍と空自が22日、日本海や沖縄周辺空域で共同訓練を実施したことの意味がまた別の方向からみえてきます。 
まずは、この種の訓練には、従来なら韓国空軍も参加していましたが、今回は参加していません。これは、最早米国は、韓国を信用しておらず、朝鮮半島に危機があった場合は、日米が共同で事に臨むことはあっても、親中・従北の韓国は外すという明確な意思表示であることがうかがえます。 
そうして、この演習は、北朝鮮に向けての演習でもあるのでしょうが、それはサブの扱いくらいにすぎず、どこに向けての演習かといえば、それは中国でしょう。 
もし、中国が軍事的な意図を持って、北を脅かそうとした場合、米国としては何らかの軍事行動をし、中国の意図を挫く意思があることをみせつけ、牽制したとみるのが妥当です。それも、韓国抜きでそれを実行するという意思をみせつけたのでしょう。
金正恩氏もしくは、北朝鮮としては、日米の意思表示を確認することができたといえます。

このように観測気球は、日本でも、北朝鮮でも、そうして世界中の国々で様々な手段を用いて実施されているとみるべきです。

日本国内でも、新聞を読んだり、テレビの報道をみるときには、報道内容の中には、こうした観測気球が紛れ込んでいることを認識すべきです。

そうでないと、私たちは単に他人に操られる存在になるだけです。主体的にものを考えていくときには、観測気球の有無、観測気球をあげる人は誰なのか、その目的は何なのかをつねに主体的に考えていくべきなのです。

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2020年5月5日火曜日

トランプ大統領、中国を罰する選択肢を検討中-ムニューシン財務長官―【私の論評】追加関税は当然どころか、さらに厳しい措置も予想される(゚д゚)!

トランプ大統領、中国を罰する選択肢を検討中-ムニューシン財務長官

トランプ大統領

トランプ米大統領は情報機関とともに中国と新型コロナウイルスに関するデータを精査していると、ムニューシン財務長官が語った。トランプ氏は中国を罰するための選択肢を検討しているとも、同長官は述べた。

ムニューシン氏は、中国が第1段階の貿易合意に基づく義務を果たすだろうとの見解を示し、「十分な根拠に基づき、この合意を中国が守ると想定している。守らない場合は中国企業との経済活動について、米中関係や世界経済に極めて重大な影響が及ぶことになる」と警告した。
原題:
Mnuchin: Trump Is Reviewing Options To Penalize China(抜粋)

【私の論評】追加関税は当然どころか、さらに厳しい措置も予想される(゚д゚)!

日本では、ほとんど報道されおらず、そのためか日本国内では、ほとんど知られていませんか、トランプ大統領は、昨年12月に米中貿易「第1段階合意」を中国の完敗に終わられせたことを、今でも明確に意識しているようです。

昨年12月13日に発表された米中貿易協議「第1段階」合意は、中国側による全面的な敗北の結果でした。そのことは、合意に関する中国側の声明文からは簡単に読み取ることができるものでした。

13日深夜に発表された中国側の公式声明によると、米中間の合意項目は(1)知的財産権(2)技術移転(3)食品と農産物(4)金融サービス(5)為替とその透明度(6)貿易拡大(7)双方による査定・評価と紛争処理の7項目に及びました。

7項目合意の具体的内容について中国側の声明は直接に触れていませんでした。しかし、今までの米中貿易協議の経過と内容からすれば、この7項目合意の内容は概ね推察することができます。要するに、7項目合意の内容は全て、中国側がアメリカ側からの要求を飲んでアメリカ側に譲歩した結果なのです。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中貿易「第1段階合意」が中国の完敗である理由―【私の論評】米国の一方的な完勝、中共は米国の要求に応ずることができず、やがて破滅する(゚д゚)!
       13日に北京で会見する財政相副大臣の廖岷。重要な会見の
       はずなのに出席者はいずれも副大臣級ばかりだった
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
(1)から(6)までの米中間合意の概要であるが、そこには1つの共通点があることにすぐ気がつく。この共通点とは要するに、(1)から(6)までの合意項目の全ては、中国側がアメリカ側の要求に応じて何かを約束したのであってその逆ではない、ということである。 
そうすると、合意項目(7)の「双方による査定・評価と紛争処理」の意味は自ずと分かってくる。要するに今後において、中国側が自らの約束したことをきちんと実行しているかどうかを「査定・評価」し、それに関して双方で「紛争」が起きた場合はいかにそれを「処理」するかのことであろう。中国側の発表では一応「双方による査定・評価」となっているが、実際はむしろ、アメリカ側が一方的に中国側の約束履行を「査定・評価」することとなろう。
この(7)は、要するに(1)〜(6)までについて、米国が監査をするという意味です。そうして、合意が守られていなければ、米国はさらに制裁を課すと、米国側が表明したということです。

中国側が、従来のようなつもりで、これを上辺だけ実行したようにみせかけても、米国は納得しないでしょう。そんなことは、中国のWTO加盟後の中国の不誠実な対応で懲りています。

であれば、もうすでに3ヶ月後(今年3月以降)には、米国から報復されることはほぼ確定だったのです。これは、バブル崩壊中の中国を追い詰めることになったはずです。これによって、中共崩壊へまっしぐらということにもなりかねませんでした。

ところが、そこに降って湧いたのが、中国ウイルス問題です。当初はあまり酷くなかった感染が3月には米国でもかなり悪化しました。

そのため、この米中貿易「第1段階合意」に関しては、一時棚上げ状態のようになってしまいました。そのため、中国は命拾いをしていたようなところがありました。

ムニューシン財務長官

しかし、米国側からすれば、この合意は生きているものとみています。本日上の記事にもあるとおり、トランプ米大統領は情報機関とともに中国と新型コロナウイルスに関するデータを精査していると、ムニューシン財務長官が語りました。トランプ氏は中国を罰するための選択肢を検討しているとも、同長官は述べたのです。

米中貿易「第1段階合意」は簡単に言うと中国が米国から農産品やエネルギー商品、工業品の輸入を増やす見返りに、米国が対中関税の一部を引き下げるという内容でした。

関係筋2人によると、中国への制裁発動や、新たな関税またはその他の貿易制限のほか、国家は外国の裁判権に服さないとされる国際法上の「主権免除」を中国に対し認めない措置などが検討されているといいます。

ポッティンジャー大統領副補佐官(国家安全保障担当)らNSC関係者から報復措置を求める声が強い一方、財務省当局者は慎重な対応を促しているもようです。

ポッティンジャー大統領副補佐官(国家安全保障担当)

関係筋らは、議論はきわめて予備的な段階にあり、近く大きな措置が講じられるとはみられていないと話しました。

米紙ワシントン・ポストは30日、関係筋の情報として、米政府高官が中国保有の米国債の一部を帳消しにすることを協議していると報じました。米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長は「全くの誤り」として報道内容を否定しました。

トランプ氏は、中国に制裁を加える措置として債務支払い停止を検討するかどうか問われ「異なるやり方がある。関税発動によって同じ制裁でも金額が増やせる。そうすれば(債務支払い停止の)必要はなくなる」と応じたとされています。

いずれにせよ、新たな関税発動は十分にありそうです。それに、今回が追加関税に終わったにしても、中国が合意を守らなかったことが明らかになったり、これからも守らないようであれば、より厳しい措置が課せられる可能性は十分にあります。

米国にある中国関連や、中国の幹部の資産の凍結や、中国保有の米国債の一部を帳消しにするなどのこともあり得ます。これを実行されると、中国はたまったものではありません。それこそ、以前このブログに掲載したように、中国が石器時代に戻るということも考えられます。

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ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”―【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚” まとめ ロシアの今年1月から3月までのGDP伸び率が去年の同期比で5.4%と発表された。 これは4期連続のプラス成長で、経済好調の兆しとされる。 専門家は、軍事費の増加が経済を一時的に押し上げていると分析。 I...