これまで世界で共産党は110ほど結成されている。そのうち現存し、指導政党なのは中国、北朝鮮、キューバ、ラオス、ベトナムの5カ国で、そこでは一党独裁だ。そのほか現存するのは76、解散などで事実上現存しないのは29にのぼる。その中で、共産党(共産主義を掲げる政党)で国会に議席を有するものは、一党独裁の5カ国を含めて56カ国ある。
世界初の共産党は、1912年1月に結党されたソビエト連邦共産党だ。同党はソ連崩壊とともに、91年12月に解散している。中国共産党の結党は21年7月であるが、それ以前に結党された共産党は世界17カ国にある。そのうち解散した国はソ連など6カ国、民主主義国の中で存在するのは11カ国(うち国会に議席を有するところは7カ国)。ちなみに、日本共産党の創立は22年7月であるので、中国共産党が100周年のときに、99周年となる。
こうしてみると、中国共産党は長く存在し、今や一党独裁の指導政党になっているのだから、世界の共産党の中では希有(けう)な存在だ。
中国は政治的には一党独裁であるが、経済面では「社会主義市場経済」と称して、78年以降部分的な開放政策を行い、国内総生産(GDP)は世界2位になっている。経済面で中国を経済大国にしたのは、紛れもなく中国共産党の功績といっていいだろう。
問題はこれからだ。政治的な独裁は、自由で分権を基調とする資本主義経済とは長期的には相いれないのは、ノーベル経済学賞学者であるフリードマン氏が50年以上も前に『資本主義と自由』で喝破している。
本コラムでは、そうしたフリードマン氏の主張は、独裁的な政治では民主国家にならず、ある一定以上の民主主義国にならないと1人当たりGDPは長期的には1万ドルを超えにくいという「中所得国の罠」という形で紹介してきた。
1万ドルの壁を超えるためには、一部の産油国などを例外とすれば、一定の民主主義が必要だ。英エコノミスト誌が公表している民主主義指数でいえば、少なくとも香港と同程度の「6」以上だ。しかし、中国の民主主義指数は「2・3」程度しかない。これから、現在の中国は1万ドル程度だが、1万ドルを長期に超えることはできず最後は民主主義対非民主主義の覇権争いに負けるだろうと予測できる。
要するに、中国が一党独裁を続けようとすると、中所得国の罠にはまり、長期的な成長はできなくなると筆者はにらんでいる。
これは習指導部であってもなくても、中国が一党独裁を続ける限り妥当するだろう。
併せてこの社会科学理論から予測できるのは、現在一党独裁のベトナムは、国有企業改革や資本自由化を含む環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に加入したので、10年程度以内で政治的な一党独裁を放棄し、民主主義国に転換し資本主義経済に移行することだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】中国も、他の発展途上国と同じく中所得国の罠から抜け出せないワケ(゚д゚)!
中国は、このままだと「中所得国の罠」に嵌るのは確実であり、今後経済が伸び悩むのは当然の帰結です。
このブロクでは、なぜ「中所得国の罠」が存在するかの背景について、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされないからだとしてきました。
これらが実施されないと、いわゆる「中間層」が成長することなく、たとえ政府が音頭をとって、大金を投入して何らかのイノベーションを行おうとしても、それは点のイノベーションに過ぎず、結局社会に非合理、非効率なことが温存されてしまい、そのため経済も社会も発展しないのです。
「民主化」「政治と経済の分離」「法治国家化」がある程度なされると、多くの中間層がでてくる余地がてできます。様々な地域や、様々な階層の人々の中に、自分の身近な社会の非合理や非効率を是正しようと試みる人がでてきます。
そういう試みを実行することにより、富を得ることができます。そうして、中間層は富裕層ほどではないものの、ある程度の富が得られることになります。
ここが重要なところです。現在の中国のように、富裕層と貧困層ばかりが多い社会においては、富裕層はそもそも社会の非合理、非効率を改革する動機などあまりありません。中には、いるかもしれませんが、それはほんの少数の変わりものです。さらには、何かを変えたいと思っても、そもそも富裕層なので単なるユートピアを夢見ることに終始しがちです。
貧困層に至っては、日々の生活を送ること、生きることに精一杯であり、そもそも社会の非合理や、非効率などには無関心にならざるを得ないです。中には、それを是正しようと試みるものもでるのですが、貧困がゆえに考えるだけに終わってしまうことになります。
これは、100年前の中国ではありません。現代中国です。 |
この状況が放置されると、社会には非効率と非合理が温存されたままとなり、経済発展もままならなくなります。これが「中所得国の罠」です。中世まではほとんどの国というか、地域がこの状況下にありました。
その壁を最初に破ったのは英国です。英国は他国に先駆けて、国民国家を形成し、国民国家を強くするために、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめました。
そうなるとどうなるかといえば、国家の中のあらゆる地域、あらゆる階層に、中間層が輩出することになります。それらが、自由な社会・経済活動を行うことになります。
富裕層から中間層が輩出するというのは、おかしな表現かもしれませんが、元々は富裕層だったもののうち、家督をつがないか、そもそも嫡子でないものが、中間層になり活発な社会経済活動を行うようになります。
そうして、国家の中のあらゆる地域や階層で、星の数ほどの中間層が、あるものは理想に燃えて、ある者は富を求めて、あるいは両方を求めて、爆発的なイノベーション(技術革新ではなく、社会を変革するのが真のイノベーションです)を行うことになるのです。これを促すのが、民主化であり、政治と経済の分離であり、法治国家化なのです。
そうして、社会が豊かになり、経済発展し、軍事力を強化して、英国は世界最初の海洋国となったのです。この状況をみて、自国も強い国にしたいと考えた現在の先進国というわれる国々もこれに追随したのです。
こう言うとイメージがわかないかもしれないので、以下に事例をあげます。これは、「ヒッポウォーターローラー」というものです。
これは、1991年、南アフリカのデザイナーのジョアン・ジョンカーとぺティ・ペッツァーが、これをデザインしました。
それまで南アフリカの女性や子どもが生活用水を運ぶ際に使っていたポリバケツは、約20リットルの水しか入りませんでした。それを頭や肩の上に載せて運ぶため、それ以上重くなると持ち運べなくなるからである。
場所によっては生活に必要な水量を確保するために、給水地と自宅を1日に3往復しなければならなりませんでした。時間を拘束するだけでなく、さらに、20kgの水を頭上に載せて歩くことによって背骨が圧迫され、子どもの健全な成育に支障が出ることも多かったのです。
このような状況を解消するには、富裕層の人間であれば、すぐに水道を導入するなどの方法を考えるでしょう。無論水道を導入すれば良いのでしょうが、たとえそれを実行したにしても、貧困層の人々には水道料を払うことができませんし、水道を完備するためには、かなりの年月を要することになります。
このような状況を解消するには、富裕層の人間であれば、すぐに水道を導入するなどの方法を考えるでしょう。無論水道を導入すれば良いのでしょうが、たとえそれを実行したにしても、貧困層の人々には水道料を払うことができませんし、水道を完備するためには、かなりの年月を要することになります。
そうして、貧困にあえぐ人達は、何とか水くみの苦しみから逃れたいと思っても、日々生活していくのが精一杯であり、情報を得られることもなく、この苦しみを甘受するしかありません。
しかし、経済的に余裕があり、現地に密着した中間層ならば、「ヒッポウォーターローラー」のような道具を思いつく可能性は高いです。実際、南アフリカのデザイナーのジョアン・ジョンカーとぺティ・ペッツァーも中間層なのだと思います。
これによって、時間とエネルギーが節約されると同時に、背骨への負担を減らすことができました。女性や子どもたちは学んだり遊んだりする時間を手に入れました。実際、多くの集落において教育レベルや識字率が向上し、なかには女性起業家の数が増えた集落もあるといいます。まさに、新たな中間層の登場です。
ローラーの耐用年数は7年間で、販売価格は9,000円。発売された1991年以降、南アフリカ共和国を中心にアフリカ全土で3万2,000個以上のローラーが使われており、22万5,000人以上の生活を変えています。
このイノベーションにより、地域が以前よりは豊かになるはずです。豊かになった地域の中間層は、さらに次のイノベーションにとりかかり、次のイノベーションを生み出すでしょう。さらに豊かになった地域では、水道料が支払えるようになり、水道が導入されるようになるかもしれません。このような地域は、たとえ現在貧乏であっても、将来への希望が見え、明るい社会になります。
このように、「民主化」「政治と経済の分離」「法治国家化」が達成され維持されていれば、戦争や大規模な自然災害でもない限り、地域や階層を問わず、継続的なイノベーションが行われるようになり、いずれの地域であってもどの階層であっても、いずれ一定レベル以上のインフラを獲得できるようになるのです。そうして、豊かな社会となり経済的にも発展することになるのです。
それが、今日の先進国の姿です。しかし、そもそも、「民主化」さえされていない中国は、このようなことは起こり得ず、中国共産党が多額の投資をして、イノベーションを行ったにしても、それは点か、せいぜい線のイノベーションにしかなりえず、先進国にみられる、あるゆる地域、あらゆる階層にまで広がることはなく、継続もされず、その結果として「中進国の罠」から抜け出せなくなるのです。
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