近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟
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岡崎研究所
これに先立つ6月17日、欧州委員会は、両国を加盟候補国とするよう勧告していた。その文書には、次のような内容が含まれていた。
・しかし、ウクライナの加盟は腐敗とオリガルヒの影響を減らす「野心的構造改革」にかかっている。ウクライナは最高裁判所判事の選出手続きを見直し、腐敗と資金洗浄と戦っていることを証明し、反オリガルヒ法を執行し、メディアを「既得権益」から自由にする必要がある。
戦争後のウクライナの方向性がこれで決まったとも言える。実際の加盟までには、欧州委員会の文書でも明らかなようにウクライナは腐敗防止など多くの改革を要し、多くの交渉が妥結する必要があるが、ウクライナが西側の国になることになったと言える。ロシアはウクライナへの侵攻を続けているが、ウクライナの版図がどうなるにせよ、ウクライナの大部分が生き残り、EU加盟を目標とした諸改革に取り組むことになろう。
ウクライナは政治的には人権が尊重される自由民主主義国、経済的には自由な市場経済国になる道筋がつけられたと判断される。
プーチンは無謀にも、ウクライナを国家として亡き者にし、ロシアに吸収合併し、ロシア帝国の再興を夢見ていたと思われるが、結果としてプーチンが目にするのはロシア離れをした民主主義国ウクライナということになると思われる。EUに加盟したウクライナは、ロシアにとって政治面での脅威になることは明らかである。
ロシアは強権指導者に率いられる酷い迫害を伴う権威主義体制を続けそうであるが、ロシア人とウクライナ人は兄弟民族であり、ウクライナが自由民主主義で迫害もなく生きていく中で、ロシアでは今の権威主義体制に対する反発は大きくなってくるだろう。
経済的にもウクライナに寄与
経済的にはウクライナの一人当たり国内総生産(GDP)はEUで最も低いブルガリアの半分にもならない。ウクライナ人労働者がEU諸国で働くだけでも、ウクライナは大きな経済的便益を受け取り、加盟当初から何年かは高い経済成長を達成するだろう。他方で、ロシアは、エネルギー輸出が気候変動対策で脱炭素化の流れの中で伸びず、ますます苦境に陥るだろう。
ロシアにとってはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟よりもEUとの統合の方が脅威であるように思われる。それが現実味を帯びてきている。大変歓迎できることである。
なお、ロシアのメドヴェージェフ前大統領は、2年後にはウクライナは世界地図から消えているだろうと発言している。これはプーチンが当初の数日でキーウを占拠、ゼレンスキーを排除し、親ロシアの傀儡政権の樹立を企画したことが実行されるとの前提の話であり、今はその可能性はない。
プーチン自身はウクライナが軍事組織ではないEUに入ることに反対しないと、サンクト・ペテルブルグの国際経済フォーラムで述べた。プーチンは、今やウクライナの存続を前提にした話をしている。
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プーチンと習近平 |
詳細はこの記事をご覧いただものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。
バルト三国等の東欧諸国が、当初中国の「一帯一路」の投資を受け入れたのは、国民一人ひとりを豊かにしたいと考えたからでしょう。しかし、バルト三国より一人あたりのGDPが低い中国にはもともとそのようなノウハウも知識もありません。中露の一人あたりのGDP1万ドル台です。ウクライナがEUに加盟し、経済成長しこの水準を突破すれば、中露にとってかなりの脅威になるでしょう。中国はEUに加盟するウクライナを「一帯一路」に取り込むことは困難になるでしょう。
東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったといえます。
ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなって、中国の投資を受け入れたとしても、経済発展は望めません。せいぜい、ウクライナ戦争開始前の水準に戻すことは、ひょっとするとできるかもしれませんが、それ以上は望めません。
中国は過去には、国内で大規模なインフラ投資をしてきたので、経済発展してきたのですが、いまや投資が一巡して、国内では目ぼしい投資案件がなくなったため、「一帯一路」に望みをかけたのでしょうが、そもそも経済発展のノウハウがない中国が海外投資で、地元国を潤わせさらに、自らも潤うなどという芸当はできません。
ロシアも復興のためには、中国の支援を受け入れるかもしれませんが、その後も中国に頼り、中国のジュニア・パートナーであり続けることはないでしょう。
中露は人口が減少傾向にあり、民主化して体制を変えない限り、没落の道をたどるだけです。欧米としては、ウクライナを取り込み、この国を経済発展させるべきでしょう。それが、何よりも中露への最大の牽制となり、途上国への強いメッセージとなることでしょう。
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詳細は、この記事をご覧いただものとして、この記事では人口や一人あたりのGDPからウクライナの一人あたりのGDPから、ウクライナの一人あたりのGDPが韓国を若干上回れば、ウクライナのGDPはウクライナ戦争直前のロシアを上回る可能性を指摘しました。
ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。
産業基盤もあまりなく、国土も狭く、人口も少ない国が EUに加入したとしても、あまり大きな期待はできませんが、ウクライナは違います。 21世紀には、過去の日本や中国、インドのように急速に経済発展する国はもうないと思われていましたが、ウクライナにはその可能性が十分にあります。国土が広いので経済発展すれば、人口も伸びるでしょう。
ウクライナが経済的にも大国になれば、世界の秩序は一変します。プーチンはロシアにとって良かれと思ってウクライナに侵攻したのでしょうが、それは全く想定もしなかったウクライナの台頭を招くことになりそうです。
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