まとめ
- シリアのアサド政権崩壊後、反体制派が攻勢を強め、「シャーム解放機構」(HTS)が国土の中枢を掌握し、権力移譲の主導権を握る可能性があるが、統治方法の不透明感から警戒が強まっている。
- トルコは反体制派を支援し、シリア国境に「安全地帯」を設ける意向を示しているが、クルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)との対立が続いている。
- 米国はIS討伐を重視しつつ、反体制派への関与を慎重に見極めている。ロシアやイランはアサド政権の影響力低下を懸念し、反体制派との関係構築を模索している。
シリアのアサド政権崩壊を受け、反体制派の攻勢が始まり、戦況が再び動き出している。特に「シャーム解放機構」(HTS)が北西部イドリブ県から急速に進軍し、わずか12日間で国土の中枢部を掌握した。これにより、反体制派が今後の権力移譲プロセスを主導する可能性が高まっている。しかし、彼らの統治方法は不透明であり、過激なイスラム主義から穏健路線への転換を強調しているものの、警戒感が強まることが予想される。
トルコは反体制派と深い関係を持つ隣国であり、エルドアン大統領はHTSをテロ組織に指定しながらも、彼らの進攻を容認している。トルコはシリア国境に約30キロの「安全地帯」を設け、シリア難民を帰還させる意向を示しているが、これによりクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)との対立が続いている。SDFは、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討の一環として米国の支援を受けており、アサド政権に対抗するため政権支配地への進攻を試みている。しかし、トルコとの関係から劣勢に立たされる可能性がある。
米国はシリア国内でのIS討伐を重視し、バイデン大統領は約900人の米軍駐留を継続する意向を示した。しかし、反体制派に対しては「今は正しいことを言っているが、言葉だけでなく行動で判断する」と述べ、関与の是非を見極める構えを示している。
一方、アサド大統領を支えてきたロシアやイランは、今後影響力の低下が避けられない状況にある。ロシアはアサド氏の亡命を受け入れ、地中海沿岸のシリア北西部にあるロシア軍基地の維持が死活問題となっている。イランも「国の将来を決めるのはシリア国民」との立場を示し、アサド氏との距離を置き始めている。両国は反体制派との関係構築や影響力の確保を模索しているようである。
トルコは反体制派と深い関係を持つ隣国であり、エルドアン大統領はHTSをテロ組織に指定しながらも、彼らの進攻を容認している。トルコはシリア国境に約30キロの「安全地帯」を設け、シリア難民を帰還させる意向を示しているが、これによりクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)との対立が続いている。SDFは、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討の一環として米国の支援を受けており、アサド政権に対抗するため政権支配地への進攻を試みている。しかし、トルコとの関係から劣勢に立たされる可能性がある。
米国はシリア国内でのIS討伐を重視し、バイデン大統領は約900人の米軍駐留を継続する意向を示した。しかし、反体制派に対しては「今は正しいことを言っているが、言葉だけでなく行動で判断する」と述べ、関与の是非を見極める構えを示している。
一方、アサド大統領を支えてきたロシアやイランは、今後影響力の低下が避けられない状況にある。ロシアはアサド氏の亡命を受け入れ、地中海沿岸のシリア北西部にあるロシア軍基地の維持が死活問題となっている。イランも「国の将来を決めるのはシリア国民」との立場を示し、アサド氏との距離を置き始めている。両国は反体制派との関係構築や影響力の確保を模索しているようである。
【私の論評】シリア内戦とトルコの戦略:秋篠宮両殿下のトルコ訪問が示す新たな展望
まとめ
- シャーム解放機構(HTS)はアサド政権を崩壊させたが、イラクの大部分を占拠していない。
- イスラエルはシリア南部に防衛地帯を設け、空爆を通じてシリアの戦略兵器を破壊した。
- トルコのエルドアン大統領は、シリアの政変を利用して影響力を強化し、HTSを支援している。
- トルコはクルド人勢力の排除も目指し、米国との関係に影響を及ぼすリスクがあるともみられるがトランプ政権はトルコの覇権を許容するだろう。
- このような時期に秋篠宮両殿下のトルコ訪問は、まことに時宜をえたものであった。日本政府も今後トルコとの関係を強めていくべきである。
「シャーム解放機構」(HTS)は、アサド政権を崩壊させたが、イラクの大部分を占拠したわけではない。アサド政権の崩壊後、残存勢力が互いに争い、空白地域を埋めようとするのは必然の流れであり、今後しばらくシリアの内戦状態は継続するだろう。
イスラエルのカッツ国防相は、イスラエルに対するテロの脅威を防ぐため、シリア南部に「イスラエル軍が常駐しない防衛地帯」を設けることを目指していると発表した。イスラエル軍は最近の空爆でシリアの戦略兵器の大半を破壊し、アサド政権崩壊後の48時間で350回以上の攻撃を実施した。
さらに、イスラエルのミサイル艦艇がシリア海軍の施設を攻撃し、シリア全土への攻撃は反政府勢力による戦略兵器の使用を防ぐためであると説明している。ネタニヤフ首相はシリア内政に干渉する意図はないとしながらも、安全確保のために必要な行動をとると強調した。
アサド政権崩壊後、イスラエル軍は緩衝地帯に進軍し、ダマスカスを見下ろす戦略的拠点を管理下に置いたとされている。また、イスラエルの部隊はさらに進出し、カタナの町に到達したとの情報もある。しかし、イスラエル軍はダマスカスに向けて進軍しているとの報道を否定している。
一方、トルコのエルドアン大統領は、シリアでの政変を受けて影響力を高め、国内外での政治的地位を強化した。HTSはエルドアン氏を英雄視し、トルコ紙はシリアにおけるトルコの役割を称賛している。コンサルティング会社の専門家は、アサド政権崩壊後、トルコが最も影響力のある外国勢力として浮上したと述べている。
トルコに支援されるHTSは、クルド人勢力の排除に積極的であり、これはトルコの長年の目標である国境沿いの緩衝地帯設置に沿った動きである。しかし、これは米国からの反発を招くリスクを伴う。米国が支援するクルド人勢力はIS掃討に重要な役割を果たしており、トルコが軍事行動を起こせば米国の利益を損なう可能性がある。
エルドアン氏の戦略に関するトルコの当局者は、トランプ政権がクルド人勢力に対してどう対応するかが米国・トルコ関係に大きな影響を与えると指摘している。また、トルコの外相は、国際社会がシリア国民に支援を行い、包括的な政府の樹立を促進するよう期待していると述べている。シリアの復興はトルコのインフラ企業に機会をもたらし、通商関係の強化も見込まれる。
ただし、第一次トランプ政権の際、米軍はシリアから撤退している。この際、トランプ氏とエルドアン氏の間に裏取引があったとされる。詳細は以前のブログで解説しているが、ここではざっくりと概要をまとめる。
エルドアン首相は、トランプ氏に対しISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明した。トランプ大統領は、この状況で米国としてはNATOの同盟国であるトルコに任せるべきと判断したと考えられる。これにより、米国はシリアに拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると見込んだのだ。さらに、トランプ氏はIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約を果たすことにもなった。
当時、米国内ではシェールオイル・ガスが発掘され、シリアの原油はトランプにとって魅力を失っていた。米国がシリアに拘る理由が薄れ、莫大なリソースを中国との対峙に振り向ける方が得策だと考えたのだろう。
エルドアン トルコ大統領とトランプ米大統領 |
こうなると、トランプ政権が今後クルド人勢力に支援してまでシリアで覇権を行使する理由は見当たらない。あくまでトルコに任せる姿勢を維持するだろう。イスラエルも混乱が続くよりは、こちらの方を望むだろう。
当面は混乱が続くかもしれないが、HTSがトルコの支援を受けつつ勢力を拡張し、いずれイラクの大部分を統治する可能性が高い。トルコもその方向で動くことが予想される。以前このブログでも述べたように、シリアに新たな親トルコ政権ができれば、トルコは「エネルギー地政学」での地位をさらに強化できる。現在、シリアとトルコ間には石油・ガスのパイプラインは存在しないが、これが実現すれば、トルコはEUに対するエネルギー源の中継地を押さえることになる。トルコがその機会を逃すはずはない。
米国とは異なり、未だに中東の石油に大きく依存する日本は、今後トルコとの関係をさらに強めていくべきだ。秋篠宮皇嗣同妃両殿下は、令和6年12月3日から8日までの6日間、日本とトルコの外交関係樹立100周年を記念してトルコ共和国を公式にご訪問遊ばされた。このご訪問は、まさに時宜を得たものである。
トルコ・アンカラの大統領府で、エルドアン大統領夫妻と面会される秋篠宮皇嗣同妃両殿下 |
トルコはSDFがクルド労働者党(PKK)と関連していると主張し、PKKをテロ組織と見なしている。これに対する国際的な支援や認識に対して批判的な立場を取ることが多い。埼玉県川口市のクルド人の中にはPKK関係者も存在するとされている。この問題は、トルコと日本の関係を毀損する可能性もあり、早急に解消すべきだ。日本政府も、今後トルコとの関係を強化していく必要がある。
【関連記事】
「アサド家」の統治、あっけない終焉 要因はロシアとイラン勢力の弱体化 シリア政権崩壊―【私の論評】地中海への足場が失われ露の中東・アフリカ戦略に大打撃 2024年12月9日
ウクライナで変わった戦争の性格 日本の専守防衛では対処困難 米戦争研究所ケーガン所長―【私の論評】日本の安全保障強化に向けたISWの指摘と憲法改正の必要性 2024年12月7日
シリア・アサド政権は崩壊間近…ウクライナの泥沼にハマったプーチンが迫られる究極の選択」と、その後に襲う「深刻な打撃」―【私の論評】アサド政権崩壊がもたらす中東のエネルギー地政学の変化とトルコの役割 2024年12月3日
米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した
2018年12月23日
0 件のコメント:
コメントを投稿