2024年12月26日木曜日

グリーンランドの防衛費拡大へ トランプ氏の「購入」に反発―【私の論評】中露の北極圏覇権と米国の安全保障: グリーンランドの重要性と未来

グリーンランドの防衛費拡大へ トランプ氏の「購入」に反発

まとめ
  • デンマーク政府はグリーンランドの防衛費を拡大し、予算を少なくとも15億ドルに増やすと発表した。これは長距離ドローンの購入に充てられる予定である。
  • トランプ次期米大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示したが、エーエデ首相は「我々は売り物ではない」と反発した。
  • グリーンランドは地政学的に重要な地域であり、ロシアの軍備増強や資源開発が進む中、米国の安全保障上の関心が高まっている。
北極圏にある世界最大の島グリーンランド

 デンマーク政府は、グリーンランドの防衛費を拡大することを発表した。この発表は、トランプ次期米大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示した後に行われたが、エーエデ首相は「我々は売り物ではない」と反発している。デンマークの国防相であるポールセン氏は、これまで北極圏への投資が不足していたことを認め、グリーンランドの防衛予算を少なくとも15億ドル(約2350億円)に増やすと述べた。この資金は、長距離ドローン(無人機)の購入などに充てられる予定である。

 グリーンランドが近年注目される背景には、その地政学的な重要性がある。米国のニュースサイト「ポリティコ」によると、ロシアが米国に向けて核を搭載した長距離弾道ミサイルを発射した場合、グリーンランド上空を通過する可能性が高いとされている。また、グリーンランド北部には米軍の宇宙軍基地も存在するが、視界が悪い北極圏上空では十分な対抗ができないという懸念もある。

 近年、ロシアは北極圏での軍備を増強しており、中国も資源開発を進めている。トランプ氏はこうした状況を考慮し、「米国はグリーンランドを所有し、管理することが絶対に必要だ」と訴えている。実際、1946年には当時のトルーマン米大統領もグリーンランドの購入をデンマークに打診していたことがある。

 グリーンランドは面積が約217万平方キロメートルと日本の約6倍であり、国土の約80%は氷で覆われている。人口は約5万6000人で、主な産業はエビや魚の輸出である。しかし、地球温暖化の影響で氷が解け始め、地下資源の調査が容易になっている。グリーンランドには豊富なウラン、金、レアアース(希土類)、さらには石油や天然ガスが埋蔵されている可能性が高い。これにより、グリーンランドの地政学的な価値はさらに高まりつつある。 

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中露の北極圏覇権と米国の安全保障: グリーンランドの重要性と未来

まとめ
  •  ロシアと中国は、北極圏の軍事プレゼンスを拡大し、資源の管理を強化している。
  • 中露の活動が米国の警戒レベルを引き上げ、早期警戒能力を制限し、北極圏での軍事的プレゼンスを強化する必要が生じている。
  • トランプ前大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示したのは、北極圏での影響力を高めるための重要な戦略である。
  •  中露が北極圏の資源を独占することで、米国や日本、欧州諸国のエネルギー供給が制限される可能性がある。
  • NATOとロシアの軍事演習の拡大や、通信インフラの損傷事件が、北極圏での監視の困難さを浮き彫りにしている。


中露が北極圏での影響力を強化している今、私たちが目にしているのは単なる地政学的な変化ではない。これは、未来のエネルギー供給や安全保障を左右する大きな潮流である。2022年夏、ロシアのプーチン大統領は「ロシア連邦海洋ドクトリン」を改訂し、北極圏を戦略的優先地域と位置づけた。北方艦隊の防衛体制を強化し、北極海航路沿いでの防衛を強化することで、資源保護だけではなく、NATOに対する警戒も意識している。

一方、中国も「氷上シルクロード」構想の一環として、北極開発に乗り出している。ヤマルLNGプロジェクトへの270億ドルの投資は、その象徴だ。このプロジェクトは、ロシアの天然ガスを欧州やアジアに輸出するための重要なインフラとなり、中国の影響力を一層強化する。中露の連携は軍事演習にも及び、北極圏での戦略的パートナーシップを堅固にしている。

ロシアは旧ソ連時代の軍事基地の再開発や新設を進め、フランツ・ヨーゼフ諸島やノヴァヤゼムリャに新たな軍事インフラを構築している。対空ミサイルシステムや新型レーダーを配備することでその存在感を高め、ノルウェーに近いコラ半島には潜水艦基地を増強している。このような動きは、ロシアが北極圏全体を支配する力を増していることを示している。

これらの活動は、米国にとって多方面での脅威をもたらす。特に、グリーンランド北部にある米国の宇宙軍基地が悪天候や極夜の影響を受けやすいことから、ロシアのミサイル発射に対する早期警戒能力が制限される。これにより、米国はより高い警戒レベルを維持せざるを得ない。新たな監視システムの導入や基地とその人員を増やすことで、迅速な対応を可能にする必要があるのだ。

さらに、中国の影響力も無視できない。グリーンランドやアイスランドでの科学調査やインフラ投資を通じて、北極圏全体における影響力を強化している。グリーンランドでの鉱山開発プロジェクトへの投資は、米国や西側諸国にとって戦略的な懸念材料となっている。アイスランドでは、海底ケーブルの敷設計画が進行中で、中国が通信インフラを通じて地域での影響力を拡大しようとしている。

2022年の事件は、北極圏の状況の深刻さを浮き彫りにしている。ノルウェーのスバールバル(Svalbard:地図上)諸島にある世界最大の人工衛星地上局は、北極海底の光ファイバーケーブルの一部が切断され、バックアップ回線に頼らざるを得なくなった。


この損傷は偶然の事故かもしれないが、ノルウェー軍の司令官はロシアにケーブルを切断する能力があると警告している。さらに、ロシアのウクライナ侵攻によってポスト冷戦期が終わりを告げる中、北極海での軍事演習が拡大していることも見逃せない。

今年も北極圏に接するバルト海で海底ケーブル2本が相次いで破断した問題について、中国の貨物船「伊鵬3」がこれらを意図的に切断した疑いが持たれており、NATOの複数の軍艦が1週間以上にわたって同貨物船を包囲して監視を行っていた。

もし、中露が北極圏の覇権を握ると、豊富な天然資源を独占的に管理することで、エネルギー供給の面で世界的な影響力を強化することになる。特に、ロシアや中国がエネルギー供給の主導権を握ることで、米国や日本、欧州諸国はエネルギーの供給源を制限され、経済的な依存度が高まるリスクがある。また、北極圏での軍事的存在感が高まることで、米国本土への脅威が現実のものとなり、米国は北極圏での軍事的なプレゼンスを強化せざるを得なくなる。

このような状況下で、トランプ前大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示したことは非常に重要である。グリーンランドは北極圏の戦略的な地理的位置にあり、米国にとっては軍事的な拠点を強化するための鍵となる地域である。グリーンランドを米国が管理することで、北極圏での影響力を高め、ロシアや中国の動きに対抗するための戦略的な優位性を確保できる。


さらに、グリーンランドには未開発の資源が豊富に存在し、これを米国が管理することでエネルギー覇権を中露に渡すことを阻止できる。グリーンランドの「購入」は単なる土地の取得にとどまらず、北極圏における安全保障や経済的な利益を守るための重要な戦略と言える。

このように、中露の北極圏での覇権が強化されることに対抗するために、グリーンランドは米国にとって非常に重要な意味を持つのだ。トランプ氏が本気でグリーンランドを購入すべきと考えているか否かは別にして、これは西側諸国と、そうして中露に対しても強烈な政治的メッセージを送ることになったといえる。デンマーク政府と米国政府が折り合いをつけ、北極圏で中露に十分に対抗できる体制を整えてもらいたいものだ。

北極圏を巡る争いは、今後ますます激化するだろう。その行方は、私たちの未来にも大きな影響を及ぼすに違いない。

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