まとめ
- アサド政権の崩壊は、ロシアとイラン勢力の弱体化によるもので、特にロシアのウクライナ戦争が影響を与えた。
- 反体制派の攻勢により、アサド家の統治が半世紀以上で終焉を迎えた。
シリアのアサド政権の崩壊を招いたのは、後ろ盾だったロシアとイラン勢力の弱体化が要因だ。ロシアは2022年からのウクライナとの戦闘で疲弊。イランと親イラン民兵組織ヒズボラは昨年10月以降、パレスチナ自治区ガザなどでのイスラエルとの交戦で力をそがれていた。
シリアでは11年に中東民主化運動「アラブの春」が波及し反政府デモが本格化、内戦に突入した。アサド政権は劣勢に立たされたが、ロシアの支援で一気に盛り返した。20年にロシアと、反体制派を支援していたトルコが停戦合意し、戦闘は下火になっていた。
ところが、ロシアのウクライナ侵攻は長期化し、アサド政権を支える余裕は失われた。ガザでの戦闘では、ハマスと共闘するヒズボラは中東最強のイスラエル軍の攻撃にさらされ、大きく力を失った。
シリアでは11年に中東民主化運動「アラブの春」が波及し反政府デモが本格化、内戦に突入した。アサド政権は劣勢に立たされたが、ロシアの支援で一気に盛り返した。20年にロシアと、反体制派を支援していたトルコが停戦合意し、戦闘は下火になっていた。
ところが、ロシアのウクライナ侵攻は長期化し、アサド政権を支える余裕は失われた。ガザでの戦闘では、ハマスと共闘するヒズボラは中東最強のイスラエル軍の攻撃にさらされ、大きく力を失った。
【私の論評】地中海への足場が失われ露の中東・アフリカ戦略に大打撃
まとめ
- ロシアにとってシリアは地中海に面した戦略的要衝であり、タルトゥース海軍基地とフメイミム空軍基地を通じて中東やアフリカへの影響力を行使していた。
- アサド政権の崩壊は、ロシアにっとって重要な軍事拠点を失うことを意味しており、反体制派への空爆を行っていた。
- タルトゥースはロシアの唯一の地中海軍基地であり、地域の軍事活動を支える重要な拠点である。
- トルコによるボスフォラス海峡通過の制限により、タルトゥースの重要性が増していた。
- 反体制派はロシア軍の駐留を拒否する可能性が高く、これによりロシアのシリアにおける影響力が大きく揺らぐ。
- シリアの未来は不透明であり、そこには新たな混乱の種が潜んでいる。
ロシアにとって、地中海に面するシリアは戦略的な要衝である。2つの主要な軍事施設を通じて、中東やアフリカへの影響力を行使してきた。
タルトゥース海軍基地は、ロシア海軍にとって地中海での唯一の補給・修理拠点である。気候が温暖で、一年中利用できる貴重な軍港だ。また、フメイミム空軍基地は近年、アフリカでの活動を広げるロシアにとって中継拠点としての価値が高まっていた。
反体制派が攻勢に出た11月27日から、わずかな期間でアサド政権は崩壊した。父の代から半世紀以上続く「アサド家」の統治はあっけない終焉を迎えたのである。
ロシアは2015年、アサド政権側でシリア内戦に軍事介入し、戦況を政権軍に有利に覆した。ロシアは介入を通じ、旧ソ連時代から租借してきたタルトゥースの軍港に加え、北西部のフメイミム空軍基地の使用権も獲得した。これらは中東やアフリカにおける軍事的影響力を行使するための拠点である。
しかし、今回の反体制派の攻勢でアサド政権が打倒された場合、ロシアはこれらの拠点を失う危険性があると見て、反体制派への空爆に着手していた。
シリア国内のロシア軍拠点 |
タルトゥース海軍基地やフメイミム空軍基地の他、ロシア軍はシリアに複数の拠点を持っている。ハマ周辺にはロシア軍の基地があり、シリア内戦において重要な役割を果たしている。また、ホムスにもロシア軍の拠点があり、シリア政府軍と共に活動している。
一方、イドリブは反体制派の支配地域であり、ロシア軍の公式な拠点は少ないが、空爆や支援活動が行われていた。最後に、ラタキアにはロシアの重要な軍港があり、ここもロシア軍の拠点として機能し、シリア政府軍への支援が続けられていた。
ただし、ロシア軍が特に力を入れていたのはタルトゥース海軍基地とフメイム空軍基地である。ロシアは主に海軍力と空軍力をシリアに配置しており、陸軍はほとんど駐留していなかった。これはアサド政権に任せるという姿勢を示していた。
もしロシアがウクライナ戦争をしていなければ、シリアに陸軍を派遣し、アサド政権を本格的に支援していた可能性がある。
特にタルトゥース海軍基地はロシアにとって非常に重要な拠点である。その理由は明白だ。まず、タルトゥースはロシアの地中海における唯一の海軍基地であり、地中海での軍事活動を支える戦略的な拠点である。ここからロシア海軍は地中海地域での作戦や支援活動を行うことができる。
次に、タルトゥースはシリア政府との強固な関係を象徴している。シリア内戦を通じてロシアの影響力を維持する手段となっている。この基地を通じて、ロシアはシリア政府軍への支援を行い、地域の安定を図ることができているのだ。
さらに、トルコはボスフォラス海峡を通過する外国の軍艦に対して制限を設けており、これがロシアにとってタルトゥースの重要性を高めている。ボスフォラス海峡を通過できない場合、タルトゥースがロシアの地中海へのアクセスを確保するための重要な拠点となる。
2020年5月ロシア海軍とシリア海軍タルトゥース港で合同演習を実施していた |
ロシア海軍が地中海方面に南下するにはタルトゥース基地に頼らざるを得ない状況であるが、反政府勢力が迫る現在、同基地の存在は危ぶまれている。ウクライナ侵攻前であれば、ロシアは追加部隊を派遣して基地の防衛を強化し、反政府勢力を押し返すことも可能であったが、現在のロシア軍にはその余裕がない。ロシアのラブロフ外相は否定しているものの、おそらく艦隊を退避させたことがそれを示している。退避した艦艇は一旦、北アフリカの友好国であるアルジェリアやリビアの港に退避したと推測される。
アサド政権が崩壊したシリアのジャラリ首相は8日、アサド政権との合意に基づいて駐留してきたロシア軍の今後について「私の権限外であり、新しい政府が決めるだろう」と述べた。これは、アサド政権を打倒した反体制派とロシアの協議次第だとする考えを示している。中東の衛星テレビ、アルアラビーヤでの発言として露タス通信が伝えた。
しかし、反体制派はロシア軍の駐留を拒否するだろう。これにより、シリアにおけるロシアの影響力は大きく揺らぐことになる。ロシアの地中海への足場が失われることは、国際的な戦略においても大きな打撃となるだろう。シリアの未来は不透明であり、そこには新たな混乱の種が潜んでいる。
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