2024年12月4日水曜日

中国が南シナ海スカボロー礁とその周辺を「領土領海」と主張する声明と海図を国連に提出 フィリピンへの牽制か―【私の論評】中国の明確な国際法違反と地域緊張の高まり

 中国が南シナ海スカボロー礁とその周辺を「領土領海」と主張する声明と海図を国連に提出 フィリピンへの牽制か


中国政府はフィリピンと領有権を争う南シナ海のスカボロー礁とその周辺が「領土領海」と主張する声明と海図を国連に提出したと発表しました。

中国の国連代表部は2日、スカボロー礁と周辺海域が「領土領海」と主張する声明と関連する海図を国連に提出したとWEBサイトで発表しました。

声明と海図は国連のWEBサイトで公開されるとしています。

中国の海警局は先月30日スカボロー礁周辺に巡視船を派遣するなど領有権を争うフィリピンへの牽制を強めています。

中国政府は「領土領海」を主張する声明と関連の海図を国連に提出することでスカボロー礁の領有権を国際社会にアピールする狙いです。

【私の論評】中国の明確な国際法違反と地域緊張の高まり

まとめ
  • 中国政府は南シナ海のスカボロー礁に関して、独自に「領海基線」を定めて一方的に公表したが、この行動は国際海洋法条約(UNCLOS)に明確に違反している。
  • スカボロー礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置し、中国は2012年以降、実効支配を続けているが、2016年のハーグ仲裁裁判所は中国の主張を国際法上の根拠がないと認定した。
  • 中国が定めた「領海基線」は、スカボロー礁から12海里(約22.224キロメートル)の範囲を領土領海として主張しているが、これはUNCLOSの規定に違反している。
  • フィリピン政府は、中国の「領海基線」に対抗する法律を制定し、中国外務省はこれに強く反発したが、フィリピンは中国の主張を「法的根拠も効力もない」と非難している。
  • 中国の行動は国際法上の正当性を欠いており、国際社会はこのような不当な行為に断固として反対し、中国による南シナ海での横暴な振る舞いを徹底的に批判する必要がある。
中国政府は、南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)について、領海を示す根拠となる「領海基線」を独自に定めて一方的に公表した。この基線は、中国が主張する領海の範囲を示すものである。しかし、この行動は国際海洋法条約(UNCLOS)の手続きに従っているようにみせながらも、明確に違反するものであり、国際社会からの強い批判を招いている。


スカボロー礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置しているが、中国は2012年以降、実効支配を続けてきた。中国のこの主張は、フィリピンと領有権を巡って争う動きの一部であり、中国の実効支配を正当化しようとする狙いがある。2016年のオランダ・ハーグの仲裁裁判所では、中国が主張する九段線に基づく主権や管轄権、歴史的権利は国際法上の根拠がないと認定されている。

九段線(九断線)は、南シナ海における広範な海洋権益を主張するための歴史的な線引きであるが、国際法的には認められていない。対して、領海基線は具体的に領海の範囲を定めるための地理座標を示すものであり、中国の場合にはUNCLOSの規定に違反するものである。

中国が定めた「領海基線」に基づいて、スカボロー礁から12海里の範囲を領土領海として主張している。12海里はキロメートルに換算すると約22.224キロメートルに相当し、スカボロー礁を中心とする半径約22.224キロメートルの円形の海域が、中国の主張する領土領海の範囲となる。しかし、この主張はUNCLOSの規定に違反しており、スカボロー礁はEEZまたは大陸棚に関する権原を生じない地形であると裁定されている。


中国のこの行動は、フィリピン政府が領海などの範囲を改めて明確に規定する法律を制定したことへの対抗措置とみられる。フィリピン政府は最近、領海などの範囲を改めて明確に規定する法律を制定し、中国外務省はこれに強く反発し、対抗措置をとる可能性を示唆していた。フィリピン政府は、中国が発表した「領海基線」は「法的根拠も効力もない」と非難しており、国連への抗議も行っている。

しかし、中国の行動はUNCLOSの規定に違反しており、その国際法上の正当性を欠いている。九段線を含む中国の主張は、UNCLOSを超えて主権や管轄権を主張するものであり、国際法違反と認定されている。スカボロー礁周辺では、中国海警局が船を相次いで派遣し、国連への海図寄託と合わせて実効支配を既成事実化しようとしている。中国側は「領海基線」の発表によって今後、スカボロー礁周辺で司法権を行使した動きに出る可能性もあり、フィリピンとの対立がさらに激しくなる恐れもある。


このように、中国が主張する領土領海の範囲はは明確なUNCLOS違反であり、その国際法上の正当性を欠いたものである。中国政府は、この行動を国連海洋法条約の締約国として履行義務の実践と位置づけるが、それは単なる自己正当化に過ぎない。

このような不当な行為には断固として反対すべきである。国際社会は、中国による南シナ海での横暴な振る舞いを徹底的に批判し、その無法な行動には厳しい制裁措置を講じる必要がある。国際法と海洋の秩序は守られなければならず、中国による南シナ海での横暴な振る舞いには断固として反対し、その無法な行動には厳しい制裁措置を講じる必要がある。国際社会は、この問題に対して一丸となって対応し、中国による不当な領有権主張を許さない姿勢を示すべきである。

【関連記事】

中国、南鳥島沖で「マンガン団塊」大規模採鉱を計画…商業開発認められればレアメタル独占の可能性―【私の論評】日米とEUの戦略的関与で中国主導の深海資源採掘ルール形成を阻止せよ! 2024年12月1日

米海軍がグアムに初のバージニア級原潜を派遣、印太地域情勢に対応―【私の論評】日本メディアが報じない米ヴァージニア級原潜の重要性と南シナ海における米軍の戦略 2024年11月28日

トランプ再登板で早くも始まった「世界の大転換」…EUが「ロシア産」天然ガス「米国産」に乗り換え、中国資本の企業にも「脱中国」の動きが!―【私の論評】トランプ政権下での日本の対応:安倍首相の成功と石破首相辞任後の課題 2024年11月14日

南シナ海、米比合同演習の周囲を埋め尽くす中国船が見えた―【私の論評】鈍い中国の対応、日米比の大演習に対抗する演習をしない中国の背後に何が? 2024年4月26日

日米比、初の3カ国首脳会談-中国進出念頭に海上訓練拡充で合意―【私の論評】安倍イズムが育んだ日米比の安全保障協力 - 官僚レベルから首脳レベルまでの歴史的な絆 2024年4月12日


0 件のコメント:

経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき―【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき

高橋洋一「日本の解き方」 ■ 経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき まとめ 経済産業省はエネルギー基本計画の素案を公表し、再生可能エネルギーを4割から5割、原子力を2割程度に設定している。 20...