2025年11月22日土曜日

日本はAI時代の「情報戦」を制せるのか──ハイテク幻想を打ち砕き、“総合安全保障国家”へ進む道

まとめ

  • AIは認知戦・サイバー攻撃・無人兵器で戦争の構造を変えつつあり、日本はこれら三領域で対応が遅れている。
  • AI万能論は誤りで、戦争の勝敗は今も兵站が決め、ウクライナ戦争では旧式兵器が優位に立つ例が示された。
  • アメリカは製造力、中国は品質、ロシアは部品供給に弱点があり、総合力ではいずれも脆さが露呈している。
  • 日本は精密製造と素材の両面で世界最強クラスの基盤を持ち、素材から加工・製造装置まで一貫して国内で完結できる稀有な国である。
  • 高市政権はAI・製造・素材を統合する国家戦略を明確に掲げており、日米EUがそれぞれの強みを補完し合えばAI時代の最強の安全保障圏となる。
1️⃣AIが変えた戦争の現実──認知戦、サイバー、無人兵器

サイバー攻撃をリアルタイムで表示するカぺルスキーの地図


AIは戦争の姿を根本から変えた。かつて弾丸や砲弾が戦場を支配した時代は過ぎ、今は映像一つ、投稿一つが国家を揺るがす。欧米では選挙がAI偽情報によって翻弄され、市民の判断が攻撃対象になっている。これが現実だ。

だが我が国では、AIが国防の最前線にあるという感覚が薄い。表現の自由だの萎縮だのと議論が空を切り、肝心の“国家を守る”という視点が抜け落ちている。この遅れは致命傷になりかねない。

AIが変えたのは認知戦だけではない。AIはサイバー攻撃の武器にもなり、脆弱性の探索から攻撃実行までを自動化し、国家の中枢を一瞬で麻痺させる。防衛省がAI防衛を強化し始めたとはいえ、人材も法制度も追いついていないのが実情だ。

さらに無人兵器である。ウクライナ戦争では安価なドローンが高価な戦車を次々に葬った。AI搭載の無人機は偵察から攻撃までを担い、戦場の主役に躍り出た。他国がこの波に乗る中、我が国の防衛産業は民間依存と制度の遅れで大きく立ち遅れている。

2️⃣ハイテク万能論の崩壊──戦争は兵站で決まり、旧式技術が甦る

ウクライナ陸軍の2S3「アカ―ツィヤ」152mm自走榴弾砲(画像:ウクライナ国防省)


AIの進歩は目覚ましい。だが、いくら技術が進もうとも、戦争の勝敗を決めるのは“兵站(ロジスティックス)”であるという古来の真理だけは揺るがない。補給が滞れば、最新鋭のAI兵器もただの箱である。

ウクライナ戦争はその現実を突きつけた。高性能戦車が無人機や榴弾砲で破壊され、逆に旧式戦車が戦場に戻った。理由は単純だ。旧式は部品が手に入りやすく、修理が容易で、量を揃えられる。戦争は結局、こうした“回る兵器”が強い。

この兵站の視点で見れば、アメリカの弱点もはっきりする。アメリカは設計なら世界一だが、肝心の製造力が衰え、自国で作れないものが増え続けている。中国は量は作れても品質に限界があり、ロシアは制裁一つで部品供給が止まり、現代戦を維持できない。

ここで浮かび上がるのが我が国の強みだ。我が国は旧式技術と先端技術の両方を保持できる数少ない国である。金属加工、鋳造、油圧、精密機械、アナログ回路。これらは高齢化で細っているとはいえ、世界最高水準の技術者と企業が今も現場に残っている。

さらに我が国は素材でも世界最強クラスだ。半導体フォトレジスト、高純度フッ化水素、炭素繊維、光学材料、電池素材など、AI、半導体、宇宙、無人兵器の核となる素材の多くは日本企業が圧倒的シェアを握っている。これらは単なる材料ではない。代替の利かない戦略資産である。

そして我が国は素材から精密加工、製造装置までを国内で完結できる“世界でも極めて稀な国家”だ。この一貫性こそ、AI戦争時代において決定的な力になる。

3️⃣日本こそ“AI+製造+素材”で最前線に立てる国──高市政権と日米EUの連携

三沢航空祭での12機のF-35Aによる大編隊飛行

この潜在力を国家戦略として束ねる歴史的契機が、高市政権の登場である。高市首相は総務相時代から通信・電波行政を刷新し、サイバー防衛、量子暗号、次世代通信など最先端分野を国家の柱として扱ってきた。経済安保担当相としても、装備庁改革、半導体戦略、製造基盤の再生など、国家の“実体”を築く政策を徹底してきた。

高市政権はAIだけを進める政権ではない。AIと製造と素材の三本柱で国家を立て直す政権である。戦後の日本政治でこの方向性がここまで明確に示されたのは初めてだ。我が国が総合安全保障国家へと踏み出す条件は整っている。

この“AI+製造+素材”を国家戦力として統合できる国は、中国でもロシアでもない。日米、そしてEUである。アメリカは設計とAI研究で世界を牽引する。EUは国際標準化、化学規制、航空宇宙材料など、世界経済を動かす規格と素材を握っている。我が国は精密製造と先端素材で他国の追随を許さない。

この三者が手を組み、それぞれの強みを補い合えば、AI時代における最強の安全保障圏が形成される。我が国はその中心に立つ条件を揃えている。

AI時代の国防は、技術への理解と同じだけ、国家としての覚悟が問われる。我が国は、旧式技術と先端技術、ソフトとハード、兵站とAI、素材と製造。その全てを総合し、国家の実体を再び強固なものにしなければならない。

歴史は常に、備えを怠った国から消えていく。我が国だけは、その轍を踏んではならないのである。

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