まとめ
- 日本は中堅国ではない。GDP総量、技術力、資本、防衛力を見れば、我が国は秩序を設計できる側に立てる国である。一人当たりGDPの数字などだけで自らを小さく見積もってきたこと自体が錯覚だ。
- 停滞の原因は能力不足ではない。消費税増税をはじめとする政策判断の誤りが成長を抑え、資本を海外へ向かわせた。問題は「弱さ」ではなく、「使わなかった力」にある。
- 中堅国の仮面をかぶり続ければ、日本は揺さぶられ、地域も不安定化する。トランプ政権が求めているのは従属ではない。能力である。均衡を担う強い日本こそが、同盟にとっても地域にとっても必要なのである。
| カナダ首相マーク・カーニー |
トランプに毅然と立ち向かった。大国に迎合しない。譲らない矜持と勇気。最近のカナダ報道は、この物語で満ちている。首相マーク・カーニーは米国の関税圧力に対し、「労働者と国を守るため、あらゆる選択肢を排除しない」と明言し、
見直しを前に交渉体制を整え、防衛産業戦略を掲げて対米依存の緩和を打ち出した。言葉と政策を同時に動かしている。
しかし外交は、言葉で動くのではない。構造で動く。
カナダの対米輸出依存は極めて高い。米国市場へのアクセスは生命線である。どれほど毅然と語っても、輸出、投資、金融、供給網の結びつきが交渉の可動域を決める。発言はできるが秩序は設計しにくい。抗議はできるが最後は調整に帰着する。これが中堅国の現実である。
数字もそれを示す。カナダの一人当たりGDPは日本を上回る水準にある。しかし経済総量では日本が大きく上回る。人口規模も市場規模も異なる。つまりカナダは「豊かな国」ではあるが、「秩序を設計する規模の国」ではない。ここを取り違えると議論は曖昧になる。
2️⃣日本は中堅国ではない ― 政策失敗と中堅国化の錯覚
しかも、日本の一人当たりGDP停滞は供給能力の衰退ではない。政策の失敗である。金融政策は明らかに失敗し。財政においては、消費税増税の繰り返しという明確な政策判断の誤りが総需要を冷やし、名目成長を抑え、期待成長率を引き下げた。その結果が現在の数字である。
しかし国力はフローだけで測れない。ストックも見る必要がある。日本は対外純資産で世界最大級の債権国であり、技術基盤も厚い。半導体装置、先端材料、精密機械など供給網の急所を握る分野を持つ。防衛費も増勢にある。総量、技術、資本、防衛力という条件は揃っている。
しかしここで冷静に見なければならない。対外純資産が世界最大であることは強みである。しかしそれは同時に、国内で魅力的な投資機会を十分創れなかった側面も示している。資本が海外に向かったのは、日本の期待成長率が相対的に低かったからである。もちろん経常黒字や為替評価など複合要因はあるが、国内成長への確信が強ければ資本は国内に向かう。海外に積み上がった資産を国内の成長と安全保障に転化できなければ、それは「強い国家」ではなく「資産を眠らせた国家」にとどまる。問題は資産の量ではなく、それをどう使うかである。
3️⃣日本はなぜ中堅国のように振る舞ってきたのか
| 1997年アルバニア暴動時に自国民を救出する米軍 |
ではなぜ、日本はしばしば中堅国のように振る舞ってきたのか。
戦後の我が国は、経済大国でありながら、外交と安全保障では極力前面に出ない姿勢を選んできた。日米同盟の傘の下で経済発展を優先し、「国際協調」「対話」「自制」を強調してきた。その姿勢自体が誤りであったとは言わない。しかし結果として、日本は「能力はあるが前に出ない国」という印象を周辺国に与えた。
尖閣沖衝突事件、レアアース問題、公船侵入の常態化、徴用工問題、レーダー照射問題、北朝鮮の核・ミサイル、ロシアの北方軍備強化。これらは日本が弱小だから起きたのではない。能力を持ちながら、政治的意思が曖昧と見られたから試されたのである。
その延長線上に「もし日本が中堅国の仮面をかぶり続ければ」という問いがある。
米国からは設計する同盟国ではなく調整対象として扱われる。台湾有事や南西諸島の危機で主導権を握れない。同時に周辺国からは揺さぶりやすい国と認識される。
そして重要なのは、日本が設計側に立たなければ不安定化の影響は日本だけにとどまらないという点である。
国家能力とは抽象論ではない。
最後の局面で自国民を守る選択肢を持ち、それを実行できる能力と意思のことである。
1997年、アルバニアでネズミ講崩壊を契機とする大規模動乱が発生した。治安は崩壊し、外国人は危険に晒された。このときドイツは連邦軍を派遣し、戦後初となる武装を伴う国外退避作戦を実行した。ドイツ人だけでなく、日本を含む他国民も救出している。
これは例外ではない。米国、英国、フランスも同様に在外国民退避を繰り返してきた。国家が自国民を守るために軍事力を用いることは、国際政治の現実において特異な行為ではない。能力を持つ国家は、危機の際に動く。
日本には能力がないのではない。
能力を行使する国家像を、長らく自らに課してこなかったのである。
結論
カナダは中堅国としての構造制約の中で毅然を演じる。それは現実である。しかし日本はそもそも中堅国ではない。
総量、技術、資本、防衛力という条件は揃っている。問題は能力の不足ではなく、自らをどう位置づけるかである。
中堅国の仮面をかぶり続ければ、日本は揺さぶられ、地域の均衡も不安定化する。しかし仮面を捨てることは傲慢になることではない。それは均衡を引き受ける責任を自覚することである。
設計する側に立つのか。設計される側に回るのか。
分水嶺は、いま目の前にある。
【関連記事】
グリーンランドは次の戦場──北極圏航路で始まった静かな争奪戦 2026年1月21日
領土の小競り合いに見える話が、実は航路・資源・軍事拠点をめぐる「秩序の設計権」の争いだと分かる一編だ。我が国が「参加はしているが設計していない」立場に落ちる怖さが、具体像として刺さる。
決断しない国は淘汰される──経済が「戦場」になった世界で、来るべき選挙が問うもの 2026年1月17日
世界は“議論”ではなく“決断”を前提に動き始めた、という現実を腹落ちさせる記事だ。「中堅国の仮面」ではなく「設計する国」になるとはどういうことか、その前提を読者に一気に入れ替えさせる。
トランプ氏、カナダ・メキシコ・中国に関税 4日発動―【私の論評】米国の内需拡大戦略が世界の貿易慣行を時代遅れに!日本が進むべき道とは? 2025年2月2日
カナダが「毅然」を演じざるを得ない構造が、対米関係の“数字”として見えてくる。トランプの関税が単なる脅しではなく、米国が同盟国に何を要求しているのかを読み解く材料になる。
「米国第一主義は当然、私もジャパン・ファースト」自民・高市早苗氏、トランプ氏に理解―【私の論評】米国第一主義の理念を理解しないととんでもないことになる理由とは? 2025年1月24日
「従う日本」か「能力を持つ日本」か――この論点を、トランプ的世界観の正面から整理した記事だ。今回の主張である「トランプ政権が求めるのは従属ではなく能力」という一文の根を、ここで補強できる。
【ロシア制裁で起こる“もう一つの戦争”】バルト海でのロシア・NATO衝突の火種―【私の論評】ロシアのバルト海と北極圏における軍事的存在感の増強が日本に与える影響 2025年1月14日
海底ケーブル、ハイブリッド戦、示威行動――「戦争未満」で秩序が削られる実態を突きつける。日本が中堅国の顔をして揺さぶられ続ければ、インド・太平洋全域の安定が連鎖的に崩れるという話を、読者が現実として理解できる。
0 件のコメント:
コメントを投稿