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2020年7月26日日曜日

未来学者フリードマン氏が看破する中国の致命的弱点— 【私の論評】中共は米国に総力戦を挑むことはないが、国内で統治の正当性を強調するため、世界各地で局地戦を起こす可能性大!(◎_◎;)

未来学者フリードマン氏が看破する中国の致命的弱点

米中間に「トゥキディデスの罠」が当てはまらない理由

中国、北京の道路

(平井 和也:翻訳者、海外ニュースライター)

 近年、米中対立が激しさを増している中で、国際政治の専門家の間で米中間の「トゥキディデスの罠」という考え方が浮上している。トゥキディデスの罠とは、新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる状態を指す言葉だ。ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が古代ギリシャの歴史家トゥキディデスにちなんで提唱した概念として注目されている。

 アリソン教授は、東京新聞のインタビュー記事(2019年12月2日)の中で「トゥキディデスの罠に米中が陥り、全面戦争に発展する可能性は高まっているのか」という問いかけに対して、「もしトゥキディデスが今の米中関係、特に中国の国益を追求する姿を見ていたら、新興国(中国)と覇権国(米国)は、衝突する方向に明らかに加速している、と言うだろう」と答えている。

 この米中のトゥキディデスの罠について、米ジオポリティカル・フューチャーズ(GPF)の創設者であり、世界的なインテリジェンス企業ストラトフォーを創設したことでも知られている未来学者・地政学アナリストのジョージ・フリードマン氏が、7月14日にGPFのサイトに一読の価値がある論考を発表した。

 フリードマン氏はこの論考で、「中国の台頭」にまつわる言説には誤解があると指摘し、米中間に「トゥキディデスの罠」は当てはまらないと述べる。中国には経済面、軍事面で「弱点」があり、依然として米国には対抗できないというのだ。以下では、フリードマン氏の論考の概要を紹介したい。

「台頭する中国」は誤認

 記事の冒頭でフリードマン氏は、アテネとスパルタの間で戦われたペロポネソス戦争から数千年後に、評論家たちは「この戦争が、権威主義的な政府は民主的な政府を打ち破るだろうということを示した」と論じたとし、この考え方は第2次世界大戦の初期段階に広く唱えられ、冷戦の間も繰り返し唱えられたと述べている。

 ただしフリードマン氏は、「実際には、民主主義国と圧政的な体制についてトゥキディデスが言ったことは、敗北主義者が引き合いに出す単純なスローガンよりもはるかに洗練されて、複雑なものなのだ」と指摘する。

 トゥキディデスの罠が持ち出される言説には、しばしばいくつかの間違っている点があるという。フリードマン氏は次のように述べている。

 「間違っているのは、中国が台頭する大国だという考え方だ。中国は毛沢東の死後から急激に盛り上がったという意味で台頭という言葉を使っているのだとしたら、それは正しい。しかし、中国が米国に挑戦することができるくらいまで台頭したと言われているのは、誤認に基づいた言説だ。米国が過剰反応するかもしれないという議論は、この間違った認識に基づいている。米国は中国に強い圧力をかけるという戦術を選んでいるが、そのリスクは低い」

中国の輸出依存体質

 フリードマン氏によると、中国に関して最も重要な点は、中国の国内市場が、工場で作られた製品を資金的に消費できないことである。

 「中国は確かに成長したが、その成長ゆえに海外の顧客に囚われの身となってしまったのだ。中国の国内総生産(GDP)の20%は輸出によって生み出されており、輸出の5%を買っているのは、中国にとって最大の顧客である米国だ。長期的に見て中国経済を約20%減少させる可能性があるのは、このどうしようもない脆弱性だ。新型コロナウイルスが今後も多くの国を傷つけ続けるだろうが、中国にとっては、国際的な貿易が崩壊すれば、国内消費の減少が海外市場の損失の上に現われることになる」

 「中国は米国からの非軍事的な脅威にさらされている。米国はそのGDPの1%のわずか半分を中国からの輸出に依存しているにすぎない。米国は中国製品の購入を減らすだけで、中国にダメージを与えることができる。中国が台頭する大国だとしても、その台頭は非軍事的な非常に滑りやすい傾斜の上に成り立っている」
 加えてフリードマン氏は、米国にはさらに軍事的な破壊的なオプションがあるとしている。

 「中国は、大きく依存している世界市場に、東海岸の港からアクセスしなければならない。そのため、南シナ海は中国にとって特別な利益を握る境界だ。

 中国は海洋にアクセスするために少なくとも1カ所の出口から通商航路をコントロールしなければならない。しかし、米国はこれらの通商航路をコントロールする必要はなく、中国に航路を与えなければいいだけの話だ。この違いには極めて大きな意味がある。中国はアクセスを確保するために、米国を深くまで後退させる必要があるが、米国は、巡航ミサイルを発射するか、または地雷を設置するための適所にいるだけでいいのだ」

中国が太刀打ちできない洗練された同盟システム

 さらにフリードマン氏は、米国の同盟システムの有効性について述べている。

 「米国海軍は、アリューシャン列島から日本、朝鮮、台湾、フィリピン、インドネシア、オーストラリアに至るまでの太平洋をコントロール下に置いており、中国が太刀打ちできないような洗練された同盟システムを持っている。

 同盟国を持たないということは、紛争時に他の国を巻き込む戦略的なオプションを持たないということだ。中国は周辺の1カ国と同盟関係を結ぶだけで、戦略的な問題は解決するかもしれない。同盟国を獲得できないことは、中国の力と信用を地域的に評価する上での指標となる。中国の戦略的な問題には、中国の国益に対して敵対的なベトナムやインドといった国と国境を接しているという面もある」

 「仮想的には、中国はロシアと同盟関係を構築できるかもしれない。だが問題は、ロシアが西方とコーカサス地方に注力しなければならないという点にある。ロシアには中国に貸せるような陸軍はなく、太平洋の作戦で決定的な意味を持つような海軍も持っていない。ロシアによる西方からの、そして中国による東方からの同時攻撃は、一見すると興味深いものに思えるが、米国と同盟国を分断するには至らず、中国に対する圧力を排除でき
ない」

輸出依存のままで戦争を始めるのは無理な話

 次にフリードマン氏は、中国の輸出依存体質について再度強調する。つまりグローバルな貿易システムに組み込まれた中国の脆弱性について、である。

 「中国が台頭する大国であることは確かだが、前述のとおり、中国は毛沢東時代から台頭している。中国は相当程度の軍隊を持っているが、その軍事力は輸出依存という脆弱性が排除されない限り、縛られたままだ。このような状況では、戦争を始めるなどというのは無理な話だ。中国はたぶん世界のどこの国よりも、グローバルな貿易システムを破綻させるようなリスクを冒すことができない国だ」

 「米国は西太平洋での戦争には興味がない。西太平洋の現状は満足のいく状況であり、紛争を起こしても、何も得るものはない。ただ、米国は太平洋をあきらめてはおらず、これまでにも太平洋を維持するために、第2次世界大戦や朝鮮戦争、ベトナム戦争を戦ってきた。米国は中国大陸を侵略したり征服したりすることはできないし、巨大な中国陸軍に対して軍を差し向けることもできない。その意味で、中国は安全だ。中国が恐れているのは、世界市場からの孤立という海洋にある」
トゥキディデスの罠は米中には当てはまらない

 軍事力そのものに関しても、米国は今なお中国に対して圧倒的に優勢だという。フリードマン氏は以下のように述べる。

 「戦争に勝つためには、経験豊富な人員と、勇敢でモチベーションの高い軍隊、へまをしない工場が必要だ。工学技術は戦争の一部だが、その本質ではない。もちろん、テクノロジーは重要だが、それは実戦経験を積んだ人々の手の中にあって初めて決定的な意味を持つ。

 しかし、中国はそれを欠いている。ハードウェアとテクノロジーを持っているとは言っても、中国は1895年以来、海戦を戦っていない。中国は陸上での戦闘経験と比べて、海戦の伝統がない。それに対して、米国は、航空機で陸上の標的に対抗したり、対潜水艦調査を実施したり、実戦環境で艦隊用の防空システムを運用したりしてきた豊富な経験がある」

 「私が誤認した識者の意見に反対するのは、この点においてである。彼らは、米国が追いついていないテクノロジー面での優勢に着目して、中国は台頭していると考えている。たぶんその通りだと思うが、米国は依然として経済的な優勢、地理的な優勢、同盟関係における政治的な優勢、海と空、宇宙における経験の優勢を誇っている。テクノロジーは、これらの点における不足を相殺するだけだ」

 以上のような考察からフリードマン氏は、「トゥキディデスの罠という概念は米中には当てはまらない、と私は考えている。中国はいかなる側面においても、米国を追い詰めてはいない」と結論づける。米国は実戦経験など様々な分野において依然として圧倒的な優勢を誇っているため、トゥキディデスの罠の理論は米中には通用しない、というわけである。
【私の論評】中共は米国に総力戦を挑むことはないが、国内で統治の正当性を強調するため、世界各地で局地戦を起こす可能性大!(◎_◎;)
私は、フリードマン氏の主張には全面的に賛成です。なぜかについては、もうすでにこのブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
米、対中制裁リストに11社追加。ヒューストン中国領事館閉鎖命令— 【私の論評】米中はトゥギディディスの罠に嵌って総力戦をすることはないが、局地戦あり得る!(◎_◎;)

習近平とオバマ


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではそもそも中国は超大国ではないし、超大国になる見込みもないことから、米中はトゥキディディスの罠に嵌って、総力戦をすることはないが、米軍が南シナ海の中国軍基地を爆撃するなどの、局地戦はあり得ることを掲載しました。

上の記事で、フリードマン氏は指摘はしていませんでしたが、いわずもがなの、米ドルは基軸通貨でありながら、人民元はそうではないということも、中国にとって徹底的に不利です。

何しろ、元々人民元は、中国が多数の米ドルや米国債を所有していることにより、保証されているわけです。

そもそも、米国が中国による米ドルの使用禁止を実施したり、中国米国債の無効化をしてしまえば、人民元は紙切れになる可能性もあります。

そうして、それ以前に、国際貿易のほとんどが、ドル決済されているため、中国は貿易ができなくなります。

このような状況では、中国が米国に対して戦争を挑むようなことは到底考えられません。

トゥキディデスの罠とは、新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる状態を指す言葉ですが、中国が米国にとってかわろうことなど到底できません。

にも関わらず、中国はなぜ、戦浪外交を展開するのでしょうか。それには、二つの可能性があります。一つは、先にリンクを掲載した当ブログ記事の記事にもあるとおり。中国もしくは習近平の妄想によるものです。

この記事では、以下のように掲載しました。いかに一部を引用します。
2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会いました。オバマは、中国の台頭が構造的ストレスを生み出してきたが、「両国は意見の不一致を管理できる」と強調しました。また両者の間で「大国が戦略的判断ミスを繰り返せば、みずからこの罠にはまることになる、と確認した」と習は明らかにしています。
以下に、これに関連する部分をさらに引用します。
私自身は、2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会ったことが、習近平に勘違いをさせたのではないかと思います。
オバマ大統領、本来ならば、中国は超大国米国には、到底及ばないことを習近平にはっきりと言うべきだったと思います。軍事力でも、技術力でも、金融の面でも、遠く及ばないことを自覚させるべきでした。米国にたてつけば、石器時代に戻してやるくらいの脅しをかけるくらいでも良かったと思います。
妄想ではあっても、中国がその妄想を実現すべく邁進しているわけですから、当然米国は、これに対峙せざるを得ないのです。
パラク・オバマは、習近平の妄想を最終的に、後押ししただけで、それ以前からこのような論調は、ありました。

最近、私は英語の読解力を上昇させようとして、”速読速聴・英単語 Advanced 1100 ver.4”という教材を読んでいます。本日で61回目の読み込みに入ったのですが、この教材の中に、”China’s biggest exports growing nicely”(The Sydney Morning Herald, June 21. 2012)という記事が掲載されていました。

オーストラリアは今でこそ、中国に対して厳しい態度をとっていますが、2012年あたりだと、政権そのものが親中的でした。 この記事の中に、以下のような記載がありました。(日本語訳の方を掲載します)
彼ら(ブログ管理人注:中国のこと)は、2017年に世界最大の経済国として米国を追い越す過程にあるに違いないのだから、消費をあおるプロセスの中で投資と建築はそのコアメンバーとともに重要な要素なのである。 
現在、オーストラリアが中国に依存しているほど、中国はヨーロッパ経済に依存してはいない。したがって、準備銀行取締役会の議事録における我々の最大の貿易相手国に関する残りの段落がとりわけ重要なのである。
現在では、中国に対して厳しい態度をとっている、米英豪加、あたりでもこのような見方をしている人は大勢いました。

2012年というと、このブログでは、すでに中国経済の脆弱性や、他の様々な問題について論じていました。それどころか、中国の崩壊に関することも論じていました。

しかし、当時は、米国でもパンダハガー(親中派)が主流でした。米国在住のある日本の国際政治学者 は、米国では中国に対するエンゲージメント(関与)派が米国エスタブリッシュメント(支配層)の主流を占めているので、米国の親中国的姿勢はこれからも続くとしていました。

結局、多くの国々が通商により、あらゆる面で伸びゆく中国と取引をして金儲けのビジネスをしようとしていたので、つい数年前までは、中国に対して親和的的でした。それが、中国を増長させて、特に習近平を増長させて。超大国幻想を助長した面は否めません。この超大国幻想が、現在の中国の戦浪外交を後押ししている可能性が大です。

もう一つの見方としては、習近平は、建国の父毛沢東や、経済改革をして今日の中国の経済の基礎を作った鄧小平などと比較すると、誇るべき実績がなく、自らの統治の正当性を強く主張できないという状況にあることです。

中国には、選挙はありませんが、それでも全人代で幹部に指名されたり、幹部になった後に自分の思い通りに国を動かすには、強力に統治の正当性を主張する必要があります。特に、共産党幹部や長老たちを納得させなければなりません。そうでなければ、権力闘争が凄まじくなります。

この側面から見ると、習近平には誰をも納得させる実績が全くと言って良いほどありません。だからこそ、党内でも諸外国に対しても、弱みを見せられないのです。だからこそ、外国に対して戦狼外交を展開しているのです。

この二つの見方のいずれが正しいのか、あるいは、両方とも正しいのかもしれません。しかし、今のところははっきりとはしません。いずれ、わかる時期が来ると思います。

しかし、厄介なのは、いずれの場合であったにしても、中国は米国と総力戦に入ることはありませんが、三戦などを駆使しつつ、南シナ海や東シナ海、台湾、あるいはインドやロシアとの国境で、あるいは全く思いがけないところで、局地戦を起こす可能性が高いということです。下表に、中国による日本に対する「三戦」で想定されるものを掲載します。


これらのいずれかの戦争を起こし、プーチンがクリミア併合を成し遂げたように、勝利を収めれば、プーチンがそうだったように、習近平は国内で統治の正当性高めることになるからです。中国の場合は、中国共産党の統治の正当性も大いに高めることになるからです。

中国に対峙する我々自由主義陣営の国々は、米中が総力戦に入ることはないと見て良いですが、局地戦ありうるとの認識のものと、対抗策を講じるべきです。そうして、局地戦が起こった場合には、必ずこれを勝利に導くべきです。

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2020年7月23日木曜日

米、対中制裁リストに11社追加。ヒューストン中国領事館閉鎖命令— 【私の論評】米中はトゥギディディスの罠に嵌って総力戦をすることはないが、局地戦あり得る!(◎_◎;)

米、対中制裁リストに11社追加。ヒューストン中国領事館閉鎖命令 宮崎正弘氏のメルマガ(7月23日1:43配信)

     中国総領事館の敷地内で、文書などが焼却される様子も見られ、
     現地の消防隊も出動するなど総領事館の周囲は騒然とした
米国商務省のブラックリスト(ELリスト)に中国の11社を追加
かつらの「和田浩林」から中国科学院傘下の「北京基因組研究所」まで
****************************************

 7月20日、米国商務省は「ウイグル少数民族の弾圧に使用された」監視カメラ製造あるいは、弾圧されて強制収容所内で作られた製品を製造販売した容疑で、11の中国企業をブラックリストに加えた。筆頭は「和田浩林髪飾品」。ウィグル強制収容所でウィグル族に作業させた製品としてボストン税関で13トンのカツラが押収された。

 またエスケル集団の「エスケル繊維」はYシャツやマスクの製造で知られ、グループ全体で5・7万人の従業員がいる。エスケルはラルフ・ローレン、ヒューゴ・ボスなどのアパレル、ポロシャツなどのOEM生産で急成長してきた。

 さきにあげられていたのはファーウェイ、ハイクビジョン、センスタイム、ダーファー、メグビーなどだが、ウィグル弾圧の監視カメラなどが中心だった。

新しいリストに新たに加わったのは、このほかに「KTK集団(今創集団)」、同社は鉄道、線路設備一連の製品、また「湯園技術」(音訳。アルミ製品)、そして「南昌Oフィルム」は、アップル、アマゾン、マイクロソフトへも部品を供給している企業だ。
 
 驚きは中国科学院傘下の「北京基因組研究所」(国家生物信息中心)までがリスト入りしていることで、理由をマルコルビオ上院議員は「この研究所は中国共産党直属である」とした。

 同日、トランプ政権はテキサス州ヒューストンのある中国領事館の閉鎖を命じた。外交的に前代未聞の措置、まるで戦争前夜の様相を呈してきた。

【私の論評】米中はトゥギディディスの罠に嵌って総力戦をすることはないが、局地戦あり得る!(◎_◎;)

中国は眠らせておけ。目を覚ましたら、世界を震撼させるから・・・・・。

ナポレオンがそう警告したのは、200年前のことです。そして今、中国は目覚め、世界を揺るがし始めているようです。

新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、新旧二国間に危険な緊張が生じます。現代の米中の間にも、同じような緊張が存在するようです。それぞれが困難かつ痛みを伴う行動を起こさなければ、両国の衝突、すなわち戦争は避けられないかもしれません
猛烈な勢いで成長を遂げてきた中国は、米国の圧倒的優位に挑戦状を突きつけています。このままでは米中両国は、古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが指摘した致命的な罠に陥る恐れがある。2500年前のペロポネソス戦争を記録したトゥキディデスは、「アテネの台頭と、それによってスパルタが抱いた不安が、戦争を不可避にした」と書いています。
過去500年の歴史では、新興国が覇権国の地位を脅かした事例が多数あります。よく知られるのは、100年前に工業化して力をつけたドイツが、当時の国際秩序の頂点にいたイギリスの地位を脅かした事例でしょう。
その対立は、第一次世界大戦という最悪の結果を招きました。このように戦争に行き着いた事例は多く、戦争を回避したのはわずかです。このように、戦争が不可避な状態まで従来の覇権国家と、新興の国家がぶつかり合う現象を米国の政治学者グレアム・アリソンは、「トゥキディデスの罠」と命名しました。

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第二次世界大戦後、米国主導でルールに基づく国際秩序が構築された結果、70年にわたり大国間で戦争のない時代が続きました。現代人のほとんどは、戦争がない状態が普通だと思っています。
ところが、歴史家に言わせれば、これは史上まれにみる「長い平和」の時代です。そして今、中国はその国際秩序を覆し、現代人が当たり前のものとして享受してきた平和を、当たり前でないものにしようとしています。
2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会いました。オバマは、中国の台頭が構造的ストレスを生み出してきたが、「両国は意見の不一致を管理できる」と強調しました。また両者の間で「大国が戦略的判断ミスを繰り返せば、みずからこの罠にはまることになる、と確認した」と習は明らかにしています。

習近平とオバマ
そのとおりだと私も、思いたいです。米中戦争は今ならまだぎりぎり回避できるかもしれません。
トゥキディデスも、アテネとスパルタの戦争も不可避ではなかった、と言うでしょう。「トゥキディデスの罠」は、運命論でも悲観論でもありません。メディアや政治家のレトリックにまどわされず、米中間に巨大な構造的ストレスが存在することを認め、平和的な

関係構築に努めなければならない、という警鐘だと思います。

迫りくる米中両国の衝突は、戦争に発展するのか。トランプと習、あるいはその後継者たちは、アテネとスパルタ、あるいはイギリスとドイツの指導者と同じ悲劇的な道をたどるのでしょうか。それとも100年前の英国と米国、あるいは冷戦時代の米国とソ連のように、戦争を回避する方法を見つけるのでしょうか。もちろん、その答えは誰にも分からないです。しかし、トゥキディデスが明らかにした構造的ストレスが、現状でもかなり大きくなっているのは間違いないです。
ブログ冒頭の、宮崎正弘氏のメルマガを読むと、現在はまさに戦争前夜のような状況です。ただし、私自身は、現在の米中の関係が、「トゥキディディスの罠」にはまり込むような関係にはなっていないと思います。
というのは、米国は明らかに世界唯一の超大国になっていますが、中国はそうでないという現実があります。
中国が経済的に台頭したとは言っても、GDPでさえ米国には追いついていませんし、一人あたりのGDPでは米国には遥かに及びません。軍事力も軍事費は伸ばしてきたとは言いつつも、軍事費でも、軍事技術、ノウハウでもこれも米国には遥かに及もつきません。
技術などのイノベーション力も、中国は米国に遥かに及びません。中国の技術のかなりの部分が、米国などをはじめとする国々のそれを剽窃したものです。だから、一見効率が良いように見えても、大規模なイノペーションはできません。
中国の5G技術も元々は他国から剽窃したものをベースにして開発したものであり、この方面のイノベーションも現時点の少し先を行くことはできますが、6G、7G、それ以降など遥かに先端に行くことはできません。できるとすれば、リバースエンジニアリングによって他国の技術を分析するか、剽窃によるしかないのです。
さらに金融の面でも、世界金融市場をカジノに例えると、米国は胴元であり、中国は一介のプレイヤーに過ぎません。中国は、大金を回せるかもしれませんが、そもそも人民元の信用はドルに裏付けされたものです。
それに今でも人民元は、国際取引ではほとんど用いられておらず、そのほとんどはドルで決済されています。米国はいくらでもドルを刷ることができますが、中国にはそれはできません。一方、中国は米国からドルの供給を断たれることにでもなれば、その日からほとんど貿易ができなくなります。
この状況では、いくら中国が国単位としては、経済的、軍事的に力をつけてきたとはいえ、超大国とは言えず、現在でも米国には足元にも及ばないというのが現実です。現在の世界では、米国のみが唯一の超大国です。旧ソ連も、崩壊するずっと前に、超大国の地位を失っていました。
2015年の調査では、中国が超大国になると
考えている人の割合は、日本が最低だった
米国を頂点とする自由主義陣営の国々は、中国が経済大国になれば、自由主義陣営のように体制に変わるだろうと思っていたのですが、その期待はことごとく裏切られました。
そうして。最近では米国は、中国は米国に成り代わって、世界に新たな秩序を作ろうという疑念を抱くに至りました。
中国はその米国の態度に対して、正面から答えることがなかったのですが、2018年中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩を構築していくことを宣言しました。
習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道されました。同報道によると、習近平氏は6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したといいます。

この会議の目的は、中国の新たな対外戦略や外交政策の目標を打ち出すことにあり、これまで2006年と2014年の2回しか開かれていません。
この会議での対外戦略の総括は、その初めての回答となりました。つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という米国の疑念に対し、まさにその通りだと応じたのです。
旧ソ連のように、超大国にもなれていない中国が、超大国米国に対してあからさまに、新たな世界の秩序づくりを宣言されたわけですから、これを捨て置くわけにはいきません。
だからこそ、この直後より米国の対中国対策はかなり厳しいものになり、今日に至っているのです。
私に言わせば、世界の新秩序を作り出すなどの考えは、単なる中国というか、習近平の妄想にすぎないと思います。私自身は、2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会ったことが、習近平に勘違いをさせたのではないかと思います。

オバマ大統領、本来ならば、中国は超大国米国には、到底及ばないことを習近平にはっきりと言うべきだったと思います。軍事力でも、技術力でも、金融の面でも、遠く及ばないことを自覚させるべきでした。米国にたてつけば、石器時代に戻してやるくらいの脅しをかけるくらいでも良かったと思います。
妄想ではあっても、中国がその妄想を実現すべく邁進しているわけですから、当然米国は、これに対峙せざるを得ないのです。

習近平やその取り巻きは、中国国内では、とにかく金は無尽蔵にあり、金で人民のほっぺたを叩き付けたり、それでもだめなら、城管や、警察、人民解放軍で鎮圧すれば、いかなる人民も自分たちの言うことを聞くので、外国でもそれができると、勘違いしているのかもしれません。

彼らは、中国内では、人民元など好きなだけ刷れるし、ドルも潤沢なので、自分たちは何でもできるという極度の自己肯定感に浸っているのではないかと思います。しかし、実際に米国と対峙してみると、経済でも軍事でも、技術面でも彼我の差があまりに大きいことに気づくことになるでしょう。
トゥギディディスの罠に話を戻すと、先にも述べた通り100年前に工業化して力をつけたドイツが、当時の国際秩序の頂点にいたイギリスの地位を脅かした事例がありますが、当時のイギリスとドイツの関係は、軍事力、技術力、経済力とも現在の米国と中国との関係よりも、かなり伯仲したものでした。
だから、米中がトゥギディディスの罠に嵌る可能性は低いと思います。米中が総力戦に入る遥か手前で、米国の対中冷戦で中国の方がお手上げなるでしょう。
ただし、場合にはよっては局地的な戦争になることは大いにあると思います。たとえば、南シナ海の中国軍基地をなきものにするということは大いに考えれます。

中国が発生源と思われる新型コロナウイルスの蔓延などによって、米国人の対中感情は、1979年の米中国交正常化以降、最悪と言えるほど悪化しています。そうした国内世論を受けて、共和党のトランプ陣営と民主党のジョン・バイデン陣営は、どちらが対中強硬派かという争いをしているからです。
米国の戦略家ルトワック氏からいわせると、南シナ海の中国の軍事基地など象徴的な意味しかなく、米国が本気になれば、5分で吹き飛ばせると言います。
南シナ海は、中国本土から1000kmも離れているため、中国との全面戦争にもなりにくいでしょう。それでも米国内では、「悪の中国の基地をぶち壊した」とアピールすれば、トランプ氏は、支持率を上げるでしょう。東南アジアの国もこれを、歓迎するかもしれません。

そもそも中国の南シナ海の実効支配は、国際司法裁判で根拠がないと裁定されています。米軍がこれを爆撃したとしても、それなりの手続きを踏んで実行すれば、国際法上は問題はありません。

1999年5月7日に、米軍のB-2がベオグラード市内に出撃、誤って駐中華人民共和国大使館JDAM爆弾で攻撃し、29人の死傷者を出しました。後に緊急会議が開催され、NATOや米合衆国連邦政府は、中華人民共和国に対し誤爆を謝罪しましたが、当時中華人民共和国は、セルビア側を支援していたため、故意に攻撃したのではないかという観測も報道されました

この際には、無論中国は、米国を非難しましたが、目立った報復ありませんでした。中国人はこの出来事に激怒し、北京市にあるマクドナルドを襲撃、10店舗を破壊するデモ活動をしました。なお、この爆撃の目標を指示した米中央情報局中佐のウィリアム・J・ベネット氏が2009年に殺害されたという事件が起こりました。

ただ米軍がそこまでやると、トランプ大統領にはとっては、かえって選挙に悪影響となるかもしれず、そこまではせず、例えば潜水艦と艦艇を用いて。南シナ海の中国軍基地の周辺を封鎖して、兵糧攻めにするなどのことは、十分に考えられます。場合によっては、機雷による封鎖ということも考えられます。

ただし、米国と中国の国力の差異などからみて。両国がトゥキディディスの罠に嵌って、総力戦に入るということはないでしょう。そのはるか以前に中国はお手上げになります。
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