2022年2月10日木曜日

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る―【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る

岡崎研究所

 ウクライナ危機は、プーチン政権の終わりにつながり得るかもしれない。ウクライナ危機が深刻化する中、こうした指摘も増えてきているようだ。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジェニファー・ルービンは、1月26日付けで‘The West may not be able to deter Putin. But at least he knows the consequences will be devastating.’(西側はプーチンを抑止することができないかもしれない。しかし少なくとも彼は結果が破壊的であることを知っている)と題する論説を書いている。

 上記のルービン論説の他、ウォールストリート・ジャーナル紙も1月26日付で同紙コラムニストのホルマン・ジェンキンズによる‘Waiting for the Last Days of Putin’(プーチンの最後の日々を待つ)と題する論説を掲載している。また、ワシントン・ポスト紙は1月28日にもカール・ビルト(スウェーデン元首相)の‘Why Putin’s gamble on Ukraine is insane’(なぜプーチンのウクライナについてのギャンブルは気違い沙汰なのか)という論説を掲載、ビルトは「ロシアの侵攻は長期的対決の始まりになり、結果としてより大規模な戦争とロシアの政権の崩壊につながる可能性がある」としている。

上記ルービンは、今回のウクライナ危機についての諸問題を、次のように指摘する。

・ロシアが侵攻すれば、西側同盟を再活性化し、ロシアは経済的にどうしようもない国、国際的な「のけ者」になる。プーチンはこれを理解しているだろう。

・ホワイトハウス高官は、「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、従来のような漸進主義はとらず、今回はエスカレーションの梯子のトップから始め、そこにとどまる」と言っている。

・米政権は、北アフリカ、中東、アジアを含む世界の各地で、ロシア産でない天然ガスの追加量を見出し、欧州に割り当てようとする努力をしている。ノルドストリーム2は閉鎖されうる。

・米政権は、人工知能、ロボット、レーザー、防衛、航空宇宙のような分野(プーチンが石油・ガスから経済を多様化させようと力点を置いている)で対ロ制裁の構えを見せている。

・ロシアの侵攻は、スウェーデンやフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加入、NATOの拡大につながるだろう。

・ウクライナ軍の抵抗によるロシア側の死傷者を考えると、軍事的冒険は、国内での愛国的プーチン支持を巻き起こすよりもロシアを混乱させるだろう。しかし、プーチンは自らを追い込んでおり、後戻りするのは難しいかもしれない。

 その上で、ルービンは、今後の見通しについて、ロシアにおけるプーチン政権の終りにつながりうると論じている。ルービンの論旨には賛成できる。

ソ連の栄光は取り戻せない

 ロシア人は、今ウクライナと戦争をすることを支持する気分にはないだろう。ウクライナとの戦争でロシア国民が愛国心を高揚させて、プーチンの支持率が大きく上がるというようなことは考えられない。

 プーチンは何かを勘違いしているように思われる。小規模であっても、旧ソ連を復活させることは、歴史を書き換え、逆回転させることであって、昔の栄光を取り戻したいという、いわばノスタルジア政治であるが、そのようなことは起きないし、無理にそうする力は今のロシアにはない。プーチンが今の路線を突き進むとプーチン政権の崩壊に至る可能性もあるとのルービンその他の指摘は、その通りであろう。今度の危機は、まさに現実が見えなくなった独裁者の末期的な誤判断であると思われる。

 プーチンの退場が早ければ早いほど、世界平和のためにも欧州の平和のためにも良い。今すぐにというわけではないが、キエフでのレジーム・チェンジより、モスクワでのレジ-ム・チェンジの可能性が、出てきたのではないだろうか。プーチン後の政権は、今の政権よりはましであろうから、それが出てきたときに日露関係の改善も考えたらよいだろう。

【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

2017年当時も、北朝鮮はミサイルを連射し、トランプ政権は3つの空母打撃軍を朝鮮半島付近に派遣し、さらにこの打撃群には、外見は空母のように見える、日本のヘリコプター搭載護衛艦も旭日旗を掲揚しつつ随伴していました。

        星条旗を掲げ航行する米原子力空母「ジョージ・ワシントン」(奥)と
          これに伴走する旭日旗を掲げた海自「いづも型」護衛艦(手前)


その姿は米国で毎日のようにテレビで報道され、米国では今にも日米合同軍が、北朝鮮に攻め込むのではないかという雰囲気だったと、知り合いの米国人が語っていたのを思い出します。

無論、冷静に考えてみれば、日本の海自が北朝鮮に攻め込むなどということはあり得ないし、さすがに米国の報道機関も、日本が北朝鮮に攻め込むなどとは報道はしてはいないのですが、日本のことをあまり知らない多くの米国人はそのように思ってしまうのかもしれません。

実際、日本による北朝鮮侵攻はありませんでしたし、米国によるそれも結局ありませんでした。

ロシアのウクライナ侵攻もこれと似たようなところがあるのかもしれません。連日のように、ロシア軍の動きをテレビなどで報道されると、多くの人はそう思ってしまうのかもしれません。


ただ、一番の責任はプーチンにあるのではないかと思います。このブログでもすでに何度か述べたように、現在のロシアはウクライナに攻め入り、ウクライナ全土を占拠する力はありません。

その理由ははっきりしています。まずは、現在のロシアのGDPが韓国なみであるということです。しかも、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。そのロシアが、いくら旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承する国家であったにしても、大戦争を遂行する力はありません。

上の記事では、「プーチンは何かを勘違いしているように思われる」としていますが、私はプーチンは意図的にロシアによるウクライナ侵攻を喧伝しているか、喧伝するのを許容しているのだと思います。

そうでなければ、すぐにウクライナ国境付近から軍隊を引き上げさせ、通常の守備レベルに戻すと思います。そうすれば、西側諸国もすぐにロシア批判をやめるでしょう。

プーチンとしては、現状のように西側諸国が、ロシアの軍事的脅威を煽るのは、決して悪いことではないのでしょう。

プーチンは旧ソ連に戻ったような気分が味わえますし、ロシア国民にもそのような気分を味合わせることができます。何よりも現状のロシアやプーチンの立場の弱さを糊塗し、さらに米国やEUに対して大きな譲歩を迫ることができる可能性もあります。プーチンとしては、現状を放置したままにして、そうした機会をうかがっているというのが実情でしょう。

実際、ロシアは弱体化傾向にあります。

まずは、直近で一番国民生活を苦しめているのはインフレです。ロシアでは2020年から食料品を中心にインフレが進んでいます。昨年12月のインフレ率は8.4%と中央銀行の目標値(4%)の2倍以上となりました。日本でも、原油価格の高騰によりインフレになるのではと心配する人もいますが、日本では日銀の物価目標2%にも到達していない有様です。ロシアと比較すれば、杞憂に過ぎないです。


ウクライナ情勢の緊迫化により通貨ルーブル安も進み、「輸入品の価格上昇でインフレ率が2桁になる」との懸念が高まっています。

ロシアの中央銀行は昨年12月、主要政策金利を7回連続で引き上げており、金利高による景気悪化も現実味を帯びつつあります。

プーチン政権の長期化への不満がこれまでになく高まっている中で、インフレと不景気の同時進行(スタグフレーション)が起きるリスクが生じています。

上のグラフご覧いただければ、2015年あたりには、ロシアはかなりのインフレだったことがわかります。これは、無論ロシアのクリミア侵攻に対する西側諸国の報復制裁の悪影響によるものです。これは、最近のことなので、多くのロシア国民の記憶にも新しいでしょう。

ロシアでは、ソ連崩壊後の1990年代前半のインフレや経済の混乱は極めて深刻でした。男性の平均寿命がいっとき60歳を切った時期さえありました。忍び寄るインフレの足音がソ連崩壊時の悪夢を多くの国民やプーチン大統領の脳裏に呼び覚ましていたとしても不思議ではないです。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

さらに、現在のロシアは人口が減少傾向です。ロシア連邦統計局は1月28日に、「同国の人口が昨年に100万人以上減少した」と公表しました。

減少幅はソビエト連邦崩壊以降で最悪であり、日本の年間の人口減少数(約50万人)をも上回っています。経済が悪化したことで出生率が低下し死亡率が上昇しているロシアに対し、新型コロナのパンデミックが追い打ちをかけた形です。

ロシア政府は2020年夏に世界で初めて新型コロナのワクチン(スプートニクV)を承認したのですが、自国産ワクチンに対する国民の根強い不信感から接種率40%台と低迷しています。このことも出生率に悪影響をもたらしているようです。

最後に、ロシアでは、石油資源が減少化傾向にあります。ロシアの昨年の原油生産量は前年比25万バレル増の日量1052万バレルだったのですが、ソ連崩壊後で最高となった2019年の水準(日量1125万バレル)に達していません。

ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯でした。巨大油田が集中し、生産コストが低かったのですが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、過去10年で約10%減少しています。

ロシアが原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないのですが、2014年のロシアによるクリミア併合に端を発する欧米諸国の経済制裁の影響で技術・資金両面から制約を受け、期待通りの開発が進んでいません。

ロシア政府が2020年に策定した「2035年までのエネルギー戦略」では「2035年時点の原油生産量は良くても現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と予測しています。その後ロシア政府高官が相次いで「自国産原油の寿命は20年に満たない可能性がある」とする悲観的な見方を示しています。

このような状況で、西側諸国の制裁がさらに強まれば、ロシアはとんでもないことになります。

ただ現在のような状況をいつまでも続けているわけにはいきません。会津の什の掟ではありませんが、「ならぬことはならぬものです」。いずれプーチンは、ウクライナ侵攻をきっぱりと否定しなければならなくなります。その時期を誤れば、プーチンのロシア国内での威信は地に落ち、それこそプーチン政権崩壊につながりかねません。

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2022年2月9日水曜日

海自艦が米軍と共同訓練 ウクライナ危機と台湾有事の連動警戒 台湾「米国含む価値観が近い国々とパートナーシップ関係を深める」―【私の論評】インド太平洋地域と地中海への米艦隊の派遣の比較から見る、米国の真意(゚д゚)!

海自艦が米軍と共同訓練 ウクライナ危機と台湾有事の連動警戒 台湾「米国含む価値観が近い国々とパートナーシップ関係を深める」

   共同訓練を行う、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」(中央)と、
   海自護衛艦「こんごう」(左から5番目)など(海自提供)

 日米が抑止力強化を進めている。海上自衛隊は8日、イージス護衛艦「こんごう」などが4~7日、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」などと沖縄周辺海域を含む東シナ海、西太平洋で共同戦術訓練を実施したと発表した。ロシアがウクライナ侵攻をチラつかせ、中国が台湾への軍事的圧力を強めるなか、日米同盟の絆を見せつけた。

 日米が抑止力強化を進めている。海上自衛隊は8日、イージス護衛艦「こんごう」などが4~7日、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」などと沖縄周辺海域を含む東シナ海、西太平洋で共同戦術訓練を実施したと発表した。ロシアがウクライナ侵攻をチラつかせ、中国が台湾への軍事的圧力を強めるなか、日米同盟の絆を見せつけた。


 共同訓練に参加したのは、海自は「こんごう」とP3C哨戒機、米海軍は「エーブラハム・リンカーン」と、強襲揚陸艦「アメリカ」、巡洋艦「モービル・ベイ」、ミサイル駆逐艦「スプルーアンス」、ドック型輸送揚陸艦「グリーン・ベイ」など計11隻。

 6日には、南西諸島への展開手順を確認する目的で、陸上自衛隊の離島防衛専門部隊「水陸機動団」(長崎県)が加わり、ヘリコプターによる米強襲揚陸艦への着艦訓練も実施した。

 ウクライナ危機が「台湾有事」「日本有事」に連動する危険性が指摘されるなか、日米は、中国の海洋進出が強まる海域に大規模な艦艇を展開させて抑止力を誇示した。

 海自は1月17~22日にも米空母2隻などと共同訓練を実施している。

 中国は「平和の祭典」である北京冬季五輪の開幕(4日)前の1月31日にも、台湾の防空識別圏(ADIZ)に複数の軍用機を進入させた。

 台湾国防部によると、進入したのは戦闘機「殲16」3機と、電子戦機「殲16D」1機、早期警戒管制機「空警500」1機。殲16Dはレーダーや通信システムなどを攪乱(かくらん)・無力化する能力を持つ。ロシアがクリミア併合で見せた「ハイブリッド戦」を意識した脅しとみられる。

 こうしたなか、米国務省は7日、台湾の地対空ミサイル「パトリオット」などを維持、改良するための装備売却(約1億ドル=約115億円)を承認、議会に通知した。

 台湾総統府の報道官は8日、「台湾は自衛能力を向上させ、米国を含む価値観が近い国々とパートナーシップ関係を深める」と強調した。

【私の論評】インド太平洋地域と地中海への米艦隊の派遣との比較から見る、米国の真意(゚д゚)!

上の記事には、海自は1月17~22日にも米空母2隻などと共同訓練を実施している旨が欠かれていますが、それについてはこのブログでも解説しました。

さらに他の記事では現在、米軍はインド太平洋地域に3隻の空母のほか、強襲揚陸艦2隻も派遣しており、これはベトナム戦争以来のことであることも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!
1月17~22日海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。

空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻が同じ時期にインド太平洋地域に出現しており、これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結と言っても良いです。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしていると考えられます。

さて、この記事でも上の記事でも、空母2隻(「エイブラハム・リンカーン」と、「カール・ビンソン」)という言葉があり、インド太平洋地域に米軍は空母打撃群を2つしか派遣していないのではないか思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、やはり3隻の空母が、インド太平洋地域に現在、派遣されているのです。そうして、上記で示した2隻以外のもう1隻はどこにいるかといえば、それは現在日横須賀に停泊中でメンテナンス中だったのです。その空母の名称は「ロナルド・レーガン」です。

さて、米軍はもちろん他の地域にも空母を派遣しています。米海軍第6艦隊は2022年2月7日(月)、フランス、イタリア両国とともに地中海で共同訓練を行ったと発表しました。

参加したのは米空母「ハリー・S・トルーマン」を中心とした空母打撃群で、フランスからは空母「シャルル・ド・ゴール」を中心とした「タスクフォース473」、イタリアからは空母「カブール」を中心とする戦闘群です。この3か国の空母と随伴する多くの艦船が統合され、訓練しつつ一定期間、艦隊を組んで航海しました。

     並走する米仏伊3カ国の空母。手前から仏空母「シャルル・ド・ゴール」、
     伊空母「カブール」、米空母「ハリー・S・トルーマン」

なお現在、米海軍の「ハリー・S・トルーマン」空母打撃群には、ノルウェー海軍フリゲート「フリチョフ・ナンセン」が、協力的配備計画の一環として、同空母群の指揮下に入り活動しています。

一方、フランス海軍の空母「シャルル・ド・ゴール」を中心とした「タスクフォース473」には、スペイン海軍イージス駆逐艦「アルミランテ・ファン・デ・ボルボン」や、ギリシャ海軍フリゲート「アドリアス」を始めとして、ベルギーやドイツといったNATO加盟国のほか、モロッコ軍艦も指揮下に入り行動中のため、今回の艦隊演習には米仏伊の3か国以外にもこれら各国艦船が集結したことになります。 

加えて、同じく2月7日には、ロシア北方艦隊の軍艦3隻も地中海へ入ったそうです。ロシア海軍によると、ジブラルタル海峡を通過して地中海へ入ったのは、スラヴァ級ミサイル巡洋艦「マーシャル・ウスチーノフ」、フリゲート「アドミラル・カサトノフ」、ウダロイ級大型駆逐艦「ヴィツェ・アドミラル・クラコフ」とのことです。

ロシア海軍は、この北方艦隊3隻のほかに、ウラジオストクのロシア太平洋艦隊からスラヴァ級ミサイル巡洋艦「ヴァリヤーグ」、ウダロイ級大型駆逐艦「アドミラル・トリブツ」、ボリス・チリキン級補給艦「ボリス・ブトマ」の3隻を分派しており、今後は地中海エリアで、黒海艦隊を含めた艦隊間演習などを実施する予定としています。

以上は、当然のことながら、ウクライナを意識してのことでしょう。

これら、中露を東西から挟むような艦隊の配置から、米国の意図が読み取れると思います。

米軍が地中海に派遣した空母は、「ハリー・S・トルーマン」1隻です。ただ、仏・伊の空母も参加していますから、大艦隊であることは間違いありません。

ただ、米国は3つの空母打撃群と、2隻の強襲揚陸艦をインド・太平洋地域に派遣する米国の意図は何なのでしょう。もちろん、中国・北朝鮮を牽制することもありますが、同時にロシアを東から牽制するという意味もあると考えられます。

それについて述べた部分を以下に引用します。ウクライナ情勢に関しては、以前このブログにも述べたように、現在のロシアは一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、米国を除いたNATOと正面から対峙するのは困難です。それに、ロシア地上軍は今や20数万人の規模であり、ウクライナ全土を掌握することはできません。

現在のロシアにできることは、ハイブリット戦などを駆使したとしても、ウクライナの一部の州もしくは、一部の州のロシア国境側の地域等の占拠のみということになるでしょう。ウクライナ全土に侵攻できる軍事力はありませんし、もしそうしたとしたら、ウクライナをはじめ周辺諸国が軒並みNATOに加盟することになります。

そうなると、ロシアはNATOと直接軍事衝突しなければならなくなります。それでは、勝ち目は全くありません。運が悪ければ、NATO軍にロシア領内深くまで攻め入られることになりかねません。

米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。

そうして、バイデン政権は、ロシアへの脅威に対しては、米国も参加するものの、あくまでもNATOが対処すべきであり、また現状のロシアならNATOで十分対応できるとみているのでしょう。

しかし、中国は違います。中国は現状では軍事的には未だ未整備な部分が多いですが、それにしてもGDPでロシアをはるかに上回っています。一人あたりのGDPはロシアと中国はさほど大きな差はありませんが、人口はロシアが1億4千万人、中国は14億人で丁度ロシアの10倍です。そのため、ロシアのGDPは中国の1/10で韓国と同じくらいです。

しかし、ロシアの領土は広大です。ロシア軍は中国よりも広大な領土を守備しなければならないのです。たとえ、韓国がロシアのように核兵器と優秀な軍事技術を持ち、人口もロシアと同じくらいだったにしても、韓国の経済力でロシア全土を守備し、それに加えてウクライナ全土に侵攻して、占拠できるなどと考える人は誰もいないでしよう。

ロシアは戦争を起こしたとしても、クリミアのときのように短期で局所戦のみでしょうが、中国は現在はともかく将来は長期的な総力戦も遂行できるようになる可能性があります。米国もこれには、長期に渡る対応が必要になります。

バイデン政権か優先しているは、やはり中国への対峙なのでしょう。インド太平洋地域にベトナム戦争意向最大数の空母などを結集させていることがそれを示しています。そうして、日本の海自もこれらと行動をともにしているのです。直近の2回の日米合同演習がそれを示していると思います。

これは米国が日米の協同が、中国対応への一つの鍵だとみている証拠です。日本は米国に頼りにされているのです。日本のマスコミはこれを報道しませんが、日本としてはこれをしっかり認識すべきです。重い責任を担うことにもなりますが、日本の存在価値を高めるチャンスでもあるととらえるべきです。

ロシア、中国、イランの策動は今後も続き、これら3枢軸国と、米国とその同盟国を中心とした、「米国連合」の対峙はもうすでに新冷戦の様相を示しています。もう、両陣営とも引き返すことはできない所まで来ています。いずれ決着をつける時は必ずきます。

ヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」、後方は同「いせ」

「3枢軸国」と「米連合」を比較すれば、信条・価値観などが近いのは無論「米連合」です。「3枢軸国」のそれは、日本国民のほとんどは受け入れられないでしょう。

日本は、かつて冷戦において、日本は米軍に基地を提供する以外にも、オホーツク海においてソ連原潜の動きを封じ込め、西側諸国に大きな貢献をして冷戦戦勝国に名を連ねることができました。新冷戦でもそのような道を選ぶことが、日本の進むべき道です。

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2022年2月8日火曜日

台湾、福島など日本5県産食品の輸入解禁 早ければ今月下旬にも公告へ―【私の論評】日台には未だ尖閣、南京に関する懸案事項が存在するが、互いに関係を深めていくべき(゚д゚)!

台湾、福島など日本5県産食品の輸入解禁 早ければ今月下旬にも公告へ

関係省庁のトップらと共に会見に臨む行政院の羅報道官(右から4人目)

 行政院(内閣)の羅秉成(らへいせい)政務委員(無任所大臣)兼報道官は8日、福島など5県産食品に対する輸入禁止措置の解除について、早ければ今月下旬にも正式に公告する見通しだと明らかにした。今後は規制の対象を「特定の地域」から「特定のリスクのある品目」に変更し、福島など5県産のコシアブラやキノコ類、野生鳥獣肉(ジビエ)の輸入は引き続き禁止する。

 台湾は2011年の東京電力福島第1原子力発電所事故以降、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産食品の輸入を禁止していた。環太平洋経済連携協定(TPP)への加入を目指す蔡英文(さいえいぶん)政権にとって、輸入規制の撤廃は解決すべき重要な課題だったが、昨年12月の国民投票で成長促進剤「ラクトパミン」を使用した豚肉の輸入継続が決まったことが5県産食品の禁輸解除への追い風となった。

 5県産食品の輸入に当たっては、リスクがある品目を対象に放射性物質検査証明と産地証明の2つの証明の添付を求めるほか、5県産の全ての食品に対して水際で全ロット検査を実施する。日本で流通が禁じられている食品の輸入は認めないとしている。

 羅氏は記者会見で、現在TPP加盟国を含む40余りの国々がすでに輸入規制を完全に撤廃しており、米国やイスラエルも昨年、これに続いたと言及。5県産食品の輸入を完全に禁止しているのは世界で台湾と中国のみであり、ハイレベルのTPPに加入を果たすならば科学的基準と根拠は無視できないと主張し、「政府は日本が提示する合理的な訴えから目を背けることはできない。責任を持って問題に向き合い、問題を解決する必要がある」と説明した。

【私の論評】日台には未だ尖閣、南京に関する懸案事項が存在するが、互いに関係を深めていくべき(゚д゚)!

自民党の高市政調会長は8日、台湾当局が福島県など5県産の食品に関する輸入禁止措置の解除を発表したことを受け「台湾との友情、協力関係を深めていきたい」と強調しました。

台湾当局は2011年、東日本大震災による福島第一原発事故以降、福島県、栃木県、群馬県、茨城県、千葉県の5県産の食品の輸入禁止措置を続けてきました。

8日に台湾当局がこの禁止措置解除を発表したことを受けて、高市氏は記者会見で「この緩和というのは多くの加工業者、生産業者にとって嬉しいことだと思う」と歓迎する考えを示しました。

その上で「台湾との友情、協力関係をこれからも深めてきたい」と語りました。また中国や韓国を念頭に、輸入制限を続けたままの国々に解除を促すよう政府に対応を求めました。

高市政調会長は、この件に関して、以下のようなツイートもしています。
台湾は親日国とされていますが、日台間には様々な懸案事項もあります。その一つが、福島県など5県産の食品に関する輸入禁止措置でした。

他にはどのようなものがあるかについては、以前このブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「尖閣は台湾のもの?」“二重国籍”蓮舫新代表が知っておくべき日本と台湾の対立点―【私の論評】南京・尖閣問題で台湾は決して親日ではない(゚д゚)!
民進党代表決定の名前を呼ばれる直前にハンカチで目頭を押さえる 蓮舫新代表=2916年9月15日

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に台湾と日本の対立点をこの記事より引用します。
台湾は、戦後のある時期から「尖閣諸島は我々のものだ」と主張をしており、今もその立場を変えていない。

尖閣問題というと、対中国(中華人民共和国)のことを想定しがちだが、台湾もまたこの問題に絡んでいるのだ。

この主張がかなりの無理筋であることは、この記事に掲載してありますので、是非それを参照していただきたいです。

もう一点は、現在でも中国と台湾の両方が、いわゆる南京虐殺事件において「30万人(100万人とも言っている)の南京市民が犠牲になった」と主張していることがあります。これについても、この記事に詳細を記してありますので是非御覧ください。

尖閣は台湾領であることと、南京虐殺に関しては台湾は現在でもそう主張しています。これは、事実です。

無論だからといって、私は日台がいがみ合うべきなどと主張するつもりはありません。ただ、懸案事項に関しては、これから話し合いをして、解消に向けて努力すべきだと言いたいのです。

日台には、福島など日本5県産食品輸入禁止のように、後に撤回されたものもあります。

沖ノ鳥島は、日本の領土ではなく単なる「岩」だとした主張を事実上撤回したことです。

2016年5月5日海上保安庁が沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)で違法操業していた台湾漁船1隻を拿捕(だほ)した問題で、台湾の馬英九政権が、沖ノ鳥島を国連海洋法条約でEEZを設定できる「島」ではなく、設定できない「岩」だと主張し始めました。

台湾ではこの拿捕をきっかけとして、小規模の抗議活動が起こり、台湾当局は 公船を当該海域に派遣するなどして緊張が高まったのですが、5月 20 日の政権交代を機に対話路線へ転じ ることとなりました。

沖ノ鳥島に上陸して、日章旗を掲げた在りし日の石原慎太郎氏 2012年5月

台湾の行政院(内閣に相当)の童振源報道官は2016年5月23日、沖ノ鳥島について、国連大陸棚限界委員会の決定を尊重し、決定前には「法律上、特定の立場を取らない」と述べ、「岩」だとした馬英九前政権の主張を事実上、撤回しました。

また、日台双方の窓口機関が「海洋協力対話」の枠組みを立ち上げることで一致したとも発表しまし。そうして、この対話は実際に何度かなされています。

このような問題も日台で話し合われているわけですから、尖閣や南京に関しても、両国で話あいの場を持ち解決の道を模索していくべきです。

そうして、日台は友好国から、実質的な同盟国にまで関係を深めていくべきと思います。台湾が香港のように中国に飲み込まれてしまえば、日本にとって大きな危機となります。

だからこそ、麻生太郎前副総理兼財務相は昨年7月5日、東京都内で講演し、中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法が定める「存立危機事態」に認定し、限定的な集団的自衛権を行使することもあり得るとの認識を示したのです。



今回の福島など日本5県産食品の輸入解禁により、台湾のTPP加入ははずみがつくと思います。日本としては、台湾のTPP加入を後押しし、安全保障の面でも関係を深めていくべきです。

私は、このブログでは主に軍事的根拠を示しつつ、中国による台湾武力侵攻はないであろうことを強調してきました。しかし、武力侵攻以外にも台湾に浸透する方法はいくらでもあります。

特に台湾には、戦後に台湾に移り住んだ、外省人やその子孫の人たちも大勢います。その人達の中には大陸中国に親しみを感じる人も多いです。さらに中国では国民動員法が施行されて以来台湾に在住する中国人は有事には中国共産党の意図に沿って動かざるを得ないこともあり得ます。

その意味では、台湾は常に安全保障上の危機に直面していることは間違いないです。こうした面でも、日本は台湾に協力すべきですし、スパイ防止法すらない日本は、それを有するとともに、中国の浸透を防ぐために施行された「反浸透法」を有する台湾を参考にすべきです。

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2022年2月7日月曜日

北方領土の日 露の不当性を広く訴えよ―【私の論評】冷戦勝利に続き、新冷戦でも日本が戦勝国になれば、北方領土をとりもどせる(゚д゚)!

北方領土の日 露の不当性を広く訴えよ

出邸する岸田文雄首相=3日午前、首相官邸

 ロシアによるウクライナ再侵攻が国際的に懸念される中で、2月7日の「北方領土の日」を迎えた。岸田文雄首相には、日本固有の領土である北方四島返還に向けた決意を、国民の代表として力強く語ってほしい。

 ただし、求められているのは、日本にますます傍若無人な態度をとるプーチン露政権に迎合し、懇願するような対露外交ではない。

 ウクライナ危機でロシアの無法ぶりが国際的に批判されている折である。日本がなすべきは、対露制裁の策定などで米欧と歩調を一つにし、さらには北方領土問題でのロシアの不当性を広く国際社会に訴えることだ。

 近年のプーチン露政権は北方領土が「第二次大戦の結果としてロシア領になった」との虚説をふりまき、領土問題の存在すら否定する。一昨年の露憲法改正では「領土割譲の禁止」を盛り込み、厳しい罰則規定も設けた。ロシアのガルージン駐日大使は最近の日本外国特派員協会での記者会見で、日本と行ってきたのは平和条約締結交渉であり、北方領土交渉ではないと言ってのけた。

 昨年の北方領土の日に本紙「主張」は「日本を愚弄し、翻弄し続けるプーチン政権との領土交渉はこちらから打ち切る決断をすべきときではないか」と訴えた。この立場は何ら変わっていない。

 今の日本が全力を尽くすべきは、民主主義陣営の結束強化であり、北方領土問題の「国際化」である。1990年から92年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)は毎年、議長声明や政治宣言でソ連・ロシアに北方領土問題解決を促した。これに倣い、日本への支持を広く取り付けてロシアに圧力をかけることが重要だ。

 ロシアは2014年、ウクライナ南部クリミア半島を併合し、東部でも親露派武装勢力を支援して政府軍との紛争を惹起(じゃっき)した。昨年秋以降もウクライナ国境近くに10万人以上の軍部隊を集結させ、軍事的威嚇を続けている。

 北方領土でソ連・ロシアの侵略を受けてきた日本は、ウクライナと認識を共有し、ウクライナを支える米欧諸国と協調すべきだ。歴史的にソ連・ロシアに辛酸をなめさせられてきた東欧・バルト諸国の知見にも学ぶ必要がある。

 北方領土を返還させる好機は必ず来る。着々とそれに向けた素地をつくっておくことだ。

【私の論評】冷戦勝利に続き、新冷戦でも日本が戦勝国になれば、北方領土をとりもどせる(゚д゚)!

ウクライナ問題が深刻になり、ロシアの軍事進攻の可能性の有無が喫緊の国際問題になっているように見えます。最大の問題は、ロシアが昨年の2月頃および昨年末に、10万から12万余りのロシア軍をウクライナ国境に配備し、今年初めにはベラルーシにも軍を展開したことです。

その前提となっているのが、「1990年代初めに、NATOは1インチも拡大しないとNATOや米国はロシアに約束したのに、口頭の約束だったのでそれを破って、西側は1997年以来次々とNATO拡大を続けてきた」とのプーチンのに主張です。

昨年12月23日の毎年ロシア恒例の大記者会見で、プーチン大統領は英国記者の「あなたは無条件に、ロシアが本当にウクライナや他の主権国家を攻撃しないことを保証することができるか?」との質問に「NATOに関しては、あなた方は90年代に、東方には1インチたりとも拡大しないとわれわれに言ったではないか。われわれは騙されたのだ。あなたたちは露骨に騙したのだ」ときわめて感情的な言葉を投げ返しました。

この「約束」を前提に、ロシアはNATOあるいは米国に、NATOの今後の不拡大と、東欧・バルト諸国の軍備を1997年以前に戻すことを、今度は口頭ではなく文書で約束することを強く求めてきました。

更に問題なのは、日本のメディアや専門家・政治家たちが、「90年代初めの口頭での約束」というロシア(プーチン)側の主張を当然の前提として、様々な情報や見解などを展開していることです。

例えば1月28日20時からのBSフジ・プライムニュースや29日の午前9時30分からのBSテレビ東京などのウクライナ特集です。後者は、放送局自体が、1990年2月9日の米国ベイカー国務長官とゴルバチョフ会談の写真を示し、この場で「NATOは1インチも拡大しないと約束したが、文書にしなかった」と解説し、それを前提に全ての番組は組み立てられていました。

この28日、29日の放送では、招かれた専門家や政治家たちも、この前提については、それを復唱する者はいても疑問を呈する者は誰もいませんでした。

しかし、ロシア側が前提としている「NATOは1インチも拡大しないと約束」しことはなく、全くの間違いまたは意図的なフェイク情報です。それは、ロシア側の情報からも裏付けることができます。いくつかあげます。

まず、最初は露紙『新時代』(2016.1.18)掲載の国際記者B・ユナノフの記事の一部です。
1994年4月初めのNATO評議会は、NATOは東方のボスニア戦争に介入すべきではないとした。しかしM・ヴェルナーNATO事務総長は逆に、民族浄化のボスニア和平の為に、NATOは東方に介入すべきだと主張し、評議会で支持された。 
こうして「NATO東方拡大」の概念が生まれた。といっても、当初これはロシアへの接近ではなく、セルビアのような独裁体制を抑える為だった。しかし今年(2016)の1月5日に、プーチン大統領はこの事実を否定し、彼は突然、「ベルリンの壁が崩れた後、NATOは東方に拡大しないと言った。私の記憶によると、そう言ったのは、当時のNATO事務局長ヴェルナーだった」と述べた。 
NATOの元軍事委員会議長K・ナウマンは2010年に、「NATOの東方拡大の否定は、口頭でも文書でも、誰もソ連に対して述べたことはない」と私に言明した。 
つまり、1992年のボスニア戦争によって「NATOの東方拡大」という概念が生まれたが、プーチンの主張とは逆に、その頃はウクライナやジョージアに拡大するなど誰も考えていなかった。皆が考えていたのは、崩壊したユーゴにおける民族浄化と「大セルビア」主義への対応であった。プーチンは「NATOの東方拡大」の脅威をいつも呪文のように唱えている。そして追随者たちも、同じことを唱えている。
次の証言は露紙『独立新聞』(2015.12.15)のものです。1990年代初めルツコイ副大統領の報道官で、その後は作家、評論家として活動したN・グリビンスキーの論文の一部です。「プーチンの生んだ神話」の催眠術的影響を次のように述べています。
ロシア国民はテレビによって危険な催眠術にかけられ、次のような神話が広められている。西側はロシアを敵視し、ロシアを侮辱し略奪し滅ぼそうとしている、と。 
この神話の核心は「侵略的なNATO」だ。NATOはロシア国境へ接近し、ロシアへの最初の一撃を狙っている、という。しかし明確なことは、1991年からクリミア事件に至るまでは、西側はロシアに重大な損害は何も与えていない、ということだ。 
西側はロシアが国内政治で危機に陥っていた時(1990年代)も、ロシアの地方の分離主義や住民投票を煽ったり併合したり孤立させるのではなく、逆に重要な国際組織に加盟させた。わが国で生じた諸困難の責任は、神話的なNATO拡大や「国際的陰謀」にではなく、我々自身にあるのだ。

NATO拡大に関し、「欧米はゴルバチョフに拡大しないと約束した」というのも神話だ。ゴルバチョフ自身が2014年10月16日に、「当時はNATO拡大の問題そのものが提起されなかった。それは私が責任をもって確言できる」とRussia Beyond the Headlines(露の英語メディア)で述べている。 
当時ロシアは西側諸国にとって敵ではなく、彼らの同盟国やパートナーとなると期待されていた。必然的に、ロシアがリベラルな民主主義の路線から離れれば離れるほど、ロシアにとって「NATOは敵」というイメージが強まるのだ。

ロシアの安全保障問題の権威で、現ロシア政権の安全保障顧問で元下院議員の世界経済国際関係研究所安全保障センターのA・アルバトフは次のように述べています。(『独立新聞』2022.1.17)
NATOの拡大は止まらず、現在NATO加盟国は16カ国から30カ国になった。その責任はNATO側にあるとしても、われわれも自らに「冷戦終了後に、なぜ14カ国の東欧、旧ソ連諸国が、中立国ではなくNATO加盟を望んだのか、それを考える必要がある。 
この変化の結果、今日のNATO30カ国の兵員数や軍備は、拡大前の16カ国よりも少ない。では何故ロシアは不安を感じているのか。ロシア側の要求で欧米が受け入れ不可能なのは、NATO不拡大の要求だ。 
その理由は、この要求がNATO条約に反するからだ。NATO条約第10条は、NATOの諸原則を受け入れる全欧州諸国は加盟申請を受け入られるとしているからだ。 
申請国の加盟は、NATO全加盟国の同意により認められる。ウクライナとジョージアをこの例外にするにはNATO条約の改定が必要だし、その改定にも、現加盟国30カ国の同意が必要となる。 
今日においては、NATO諸国の半分と、米国のエスタブリッシュメントの大部分は、ウクライナとジョージアのNATO加盟に反対している。問題は、わが国の武力と圧力や外交手腕により相手側を譲歩させられるのか、あるいは「原則は譲らない」という相手の立場をさらに強めるのか、だ。 
われわれはウクライナが、モスクワに5-10分で到達するミサイルを保有することを容認できない。そのようなミサイルがABM条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)以前のように、ウクライナや欧州諸国に現れないように、米国と再び交渉して合意することができるだろう。

NATO非加盟の中立国フィンランドやスウェーデンは、ウクライナを巡る戦争が始まったとしたら、直ちにNATOに加盟するだろう。そうなるとロシアは、ウクライナとの国境の代わりに、フィンランドとスウェーデンとの間に、陸上、海上を含めてNATOと数千キロメートルにわたり国境を接することになる。つまり、バルト海沿岸諸国は黒海沿岸諸国と同じく、全てが敵国になるのだ。
以上、プーチンが「西側は、NATOは1インチたりとも拡大しないとの約束を破った」と呪文のように唱える被害者意識について、90年代初期のロシア側当事者や関係者、また近年の露メディアなども、それが事実ではないと否定しているのです。

プーチンだけでなく、わが国のメディア、政治家、専門家たちが考えるべきは、A・アルバトフの「冷戦終了後に、なぜ14カ国の東欧、旧ソ連諸国が、中立国ではなくNATO加盟を望んだのか」という問題なのです。

1990年代はプーチンが被害妄想で述べるように、西側諸国はソ連に続きロシア連邦の瓦解や分裂を望んでいたのではありません。逆に、核兵器を持つロシアがユーゴ化したら人類の危機だとの問題意識から、ロシアが混乱なく民主主義、市場経済に軟着陸するための「対露支援」が国際的な重要課題でした。

わが国では「日本国際問題研究所」が中心となり、日、米、露の「三極フォーラム」を組織し、日・米・露の関係改善を模索しました。また領土問題を抱えながらも、日本が行った対露支援「マネタイゼーション」、食料や生活必需品を日本商社を通じてロシアに寄贈し、それをロシアの店で売って、売上金を国民福祉に使うという試みも実施されました。

これに関わった人々は、90年代の西側諸国の対露姿勢をよく知っています。APECへのロシア加盟を強く推し進めたのも日本です。

NATOの拡大や欧米とロシアの関係悪化は、ロシアの「大国主義の復活」「勢力圏拡大」に大きな関係があります。改革派だったA・チュバイス元副首相も、2003年にはソ連時代の大国主義を賛美して「リベラルな帝国主義」を主張し(『独立新聞』2003.10.1)、やはり改革派だったV・トレチャコフ『モスクワ・ニュース』紙編集長も、2006年には中央アジアなどの「民意に従う」ロシア併合などを唱えました(同紙2006.3.3-9)。

また、ロシア外務省高官は、2006年に「領土保全」に代えて「自決権」を正面に出し(『イズベスチヤ』2006.6.2)、2008年のロシア軍のグルジア侵攻による南オセチア、アブハジアの「独立」や2014年の「クリミア併合」の伏線を用意しました。

プーチンが「ドネツク共和国」や「ルガンスク共和国」の、あるいはウクライナ東南部の「ノヴォロシア」の独立とかロシア併合を認めないのは、ウクライナが2つに分裂すると、同国の西側は必然的にNATOに加盟するからです。

ただ、ウクライナ全体をロシアに併合するのは、政治・経済的に負担が大きすぎます。このブログでは過去に何度も述べた来たように、ロシアのGDPは現在では日本の1/3程度に過ぎず、韓国を若干下回る程度です。

しかも、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。ただ、ロシアは旧ソ連邦の核兵器と軍事技術を継承する国であり、決して侮ることはできませんが、それにしてもロシア経済は元々規模も小さいし、いっときは石油・天然ガスで経済発展していた時期もありますが、今は見る影もなく、これから発展していく見込みも全くありません。

現状では、ロシア軍は米国を除いたNATOとも経済的にあまりに差がありすぎて、いくらハイブリット戦を駆使したにしても、直接対峙するようなことはできません。イギリス、ドイツ、フランスは一国でも、ロシア経済を遥かに凌駕しています。



直接戦えば、確実にNATOに負けます。初戦においては、軍事技術に優れたロシア軍は高いパフォーマンスを発揮して善戦するかもしれませんが、戦いが長引くうちに、兵站に支障をきたすようになり、NATO軍にかなり痛めつけられることになるでしょう。最終的には、NATO軍に惨敗することになります。

エマニュエル駐日米大使は7日、「北方領土の日」に合わせてツイッターに動画を投稿し、「北方四島に対する日本の主権を(米国は)1950年代から認めている」と説明し、北方領土問題の解決に向け日本を支持すると強調しました。

エマニュエル駐日米大使

大使はロシアによる「主権軽視」の例として、ウクライナにも言及。緊迫するウクライナ情勢と北方領土問題を重ねることで、日本の協力を促し、ロシアをけん制する狙いがあるとみられます。

これは無論のこと、このブログにも最近掲載した、米軍の空母三隻と、強襲揚陸艦のインド・太平洋地域への結集とも関係しているでしょう。その記事のリンクを以下に掲載します。
米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。 

空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻が同じ時期にインド太平洋地域に出現しており、これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結と言っても良いです。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしていると考えられます。

2017年11月の北朝鮮の核・ミサイル危機当時、米空母3隻が韓半島近隣で訓練しました。このため北朝鮮に対する警告性のメッセージだという解釈が出ていました。

米海軍勢力が2017年当時と異なるのは最新ステルス戦闘機F35を搭載している点です。「カール・ビンソン」「エイブラハム・リンカーン」はF35C(空母搭載型)を、「アメリカ」「エセックス」はF35B(垂直離着陸型)をそれぞれ搭載しています。

ウクライナ情勢に関しては、以前このブログにも述べたように、現在のロシアは一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、米国を除いたNATOと正面から対峙するのは困難です。それに、ロシア地上軍は今や20数万人の規模であり、ウクライナ全土を掌握することはできません。

米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。

装備はなお移動中ですが、当局者や専門家は、ロシアによる軍備増強の次の段階なのか否かを見極めようとしています。

 こうした米国の動きに日本の自衛隊も関与しているのですから、これは中露・北に対して大きな圧力になることは言うまでもありません。

海上自衛隊は1980年代、対潜哨戒機P-3Cを100機整えることによってソ連潜水艦の動向を察知し、いざという時にはこれを撃沈する態勢を整えることによって、西側そうして日本も勝利した冷戦の終結に大きく貢献しました。

今日も、中露にとって最も嫌なことは自国のSSBN(弾道ミサイル搭載原子潜水艦)を探知、攻撃される態勢を整えられて自国が締め上げられることです。日本の努力指向も、ここに集中しなければならないでしょう。

そうして、日本はASW(対潜水艦戦闘能力)を高めるため、潜水艦22隻体制をはやばやと整えています。新型のP1哨戒機は、42機体制であり、旧型のP3Cは44機数配備され、延命措置をほどこされ、今も最前線で活躍しています。

潜水艦については、日本の潜水艦のステルス性は世界一であり、哨戒能力も高く、他のASW(対潜水艦戦闘力)関連の艦艇や、技術は米国と並び世界トップクラスであり、中露をはるかに凌駕しています。

これによって、日本は再び新冷戦の終結に多いに貢献できるでしょう。新冷戦が終結した場合、北方領土交渉は格段にしやすくなるでしょう。西側諸国は無論、多くの国々が日本への北方領土変換に賛成することでしょう。

一回の冷戦勝利では、あまり日本にとって良いこともなかったようにも見えますが、それはリリベラル・左派がそれを喧伝させないようにがんじがらめにしただけであって、本当はそうではありません。その実績がなけば、日本の安倍元総理が、インド太平洋戦略やQUADなど提唱してもいずれの国も振り向かなかったでしょう。

また、これらを成就するために、日本が架け橋になることもなかったでしょう。

さすがに、2回続けて、冷戦戦勝国になれば、諸外国が日本を見る目だけではなく、日本国内も変わってくるでしょう。日本国内のリベラル左派、左翼、メディアなどもプーチンのようにフェイクを語ったり、習近平のように妄想に耽っていることもできなくなるでしょう。

その頃には、中露は国力が凋落しており、相変わらず危険な相手あることには違いないでしょうが、それでも西側諸国に伍して、外交問題を解決するどころではなくなっていることでしょう。

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2022年2月6日日曜日

土地利用規制、200カ所指定へ―【私の論評】「土地利用規制法」の全面施行では今だ不十分!日本の不動産取引は未だ国際的に開かれ過ぎた自由市場(゚д゚)!

 土地利用規制、200カ所指定へ


陸上自衛隊東千歳駐屯地の周りの広大な土地を囲むように中国が買い占めてる ことはよく知られている。住宅の中には使途不明のアンテナがたてられている

 政府は、安全保障上重要な施設などを対象とした「土地利用規制法」を今年9月に全面施行するのに合わせ、全国の約200カ所を重要度の高い「特別注視区域」に指定する方向で検討に入った。南西諸島付近で中国が軍事活動を活発化させていることを踏まえ、沖縄県与那国町の陸上自衛隊与那国駐屯地の周辺などを含める。政府関係者が6日、明らかにした。

 同法は自衛隊基地や、領海の根拠となる国境離島、原発周辺の土地を特別注視区域や「注視区域」に指定。所有者の調査のほか、施設の機能を妨害する行為への中止勧告・命令を可能とする。特別注視区域では一定面積以上の売買に事前届け出も義務付ける。

【私の論評】「土地利用規制法」の全面施行では未だ不十分!日本の不動産取引は国際的に開かれ過ぎた自由市場(゚д゚)!

上の記事にもでてくる「土地利用規制法」について、詳細を知りたいかたは以下のリンクを御覧ください。





本法は、国土のうちの国の安全保障等に関係する重要な土地等につき注視区域・特別注視区域を指定し、注視区域においては土地等の利用者等に利用規制を課し、特別注視区域においては、この規制に加え、所有権等の契約の締結の際に事前に届出義務を課し、場合によっては罰則を科すことも定めるものです。

このことは、これらの区域における不動産の取引において影響を及ぼすものです。本法の定める土地等の所有権、利用権に対する規制は、その必要性・内容・程度に照らすと、土地の公共性、公共の福祉のための内在的な制限で、合理的なものであり(憲法29条2項、民法206条参照)、従来野放図に放置され、後手に回っていた問題に対して必要な最少限度の規制を定めたものです。

今後、本法の制定の背景になった流動的な国際環境等にさらに重大な変化が生じる等した場合には、迅速な適用だけでなく、必要な法改正によって的確、柔軟な対応ができるようにすることも課題です。本法は、必要な規制の第一歩であり、過大な制限ではなく、遅ればせの規制であるといえます。

土地等の取引においては、取引に関与する事業者としては、まず、安全保障等に関係する地域に注目しつつ(国境の島部、本州等4島の海岸線、自衛隊等の施設等)、注視区域、特別注視区域を確認し、取引の当事者が誰であるか等を確認した上で、これらの区域内において前記内容の利用制限、所有権等の契約締結前の届出規制があることを説明することが必要かつ重要になります。なお、本法は、通常の社会生活、社会活動、経済活動を行う者にとっては何らの制限、制約はありません。

土地等の取引の当事者の中には、名義貸し、ダミーの利用、取引目的等の虚偽の説明、利用状況の偽装、違法行為の仮装等が行われる可能性が相当にあるため、不動産の事業者としては、取引の目的・内容、当事者の属性、土地の所在、周囲の状況等の事情を様々な方法で確認し、適正な取引であるかを判断することが必要になります。当事者が安易に不正な取引、利用を行った場合には、これに加担したものとして責任が問われる可能性があります。

この法律に対しては、与党の一部や野党、弁護士会などから「財産権、プライバシー権などの人権を侵害する」「曖昧な要件の下で刑罰を科しており、罪刑法定主義に反する」などの反対論が相次ぎました。しかし、国家安全保障の観点から人権が一定の制限を受けることは当然であり、また、運用方針を具体的に定めることによって恣意(しい)的な刑罰適用は避けることができます。

ただこの法律は、安全保障の観点からはまだまだ不十分であると言わざるを得ないです。この法律は「外国人は日本の土地を買うことができない」というものではなく、あくまでも、その利用行為に限って制限を加えたものに過ぎないからです。

ネックになるのが、日本が1994(平成6)年に加盟したGATS(サービス貿易に関する一般協定)における「日本人と外国人の待遇に格差を設けてはならない」(内国民待遇の保障)という国際ルールの存在です。

それでも、加盟時に土地取得に関する「留保」を行っておけば外国人の土地所有を禁じることもできたのですが、お粗末なことに、日本は世界からの投資を呼び込みたいがために、この「留保」を行っていなかったのです。

しかしながら、外国人の土地取得は国家の存立にかかわる問題です。日本は不動産取引については国際的に開かれ過ぎた自由市場であり、常に外国人による買い占めの危険にさらされています。今回の9月からの法律全面施行で安堵することなく、国際ルールの壁を乗り越えるために、GATS加盟国への働きかけを強め、協議を進めていくべきです。

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北京五輪と習体制の総仕上げ 日本は過度な配慮ばかりせず「人権追及と尖閣防衛の確立」を―【私の論評】石原氏も言及しなかった、尖閣を守り抜く日本の潜水艦隊の実力(゚д゚)!



防衛施設周辺で外国資本の土地取得規制に向け調査可能に 自民が通常国会に法案提出へ―【私の論評】オホーツク海を支那原潜の聖域にさせるな(゚д゚)!

2022年2月5日土曜日

北京五輪と習体制の総仕上げ 日本は過度な配慮ばかりせず「人権追及と尖閣防衛の確立」を―【私の論評】石原氏も言及しなかった、尖閣を守り抜く日本の潜水艦隊の実力(゚д゚)!

日本の解き方

聖火の点火者を務めたウイグル族のジニゲル・イラムジャン選手(左)と漢族の趙嘉文選手

 4日に北京冬季五輪の開会式が行われる。人権問題や経済、安全保障など習近平政権の国内外の現状と、五輪後の課題はどのようなものがあるのか。

 1日の衆院本会議で「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」が採択された。筆者は関係議員からこの問題について聞く機会がしばしばあり、この決議文にいたる経緯を知っていた。結論からいえば、遅きに失して、しかも決議文に「中国」が一度も登場せず、「非難」「人権侵害」といった重要な表現も削除された骨抜きの内容だ。

 当初決議案が、自民、公明の与党内調整でどのように修正されていったのかは、関係者のネットをみれば簡単に分かる。

 「名指しはなくても中国の人権侵害を非難していることは分かる」という人もいるが、この決議案を英訳すると、誰も非難していないことになる。

 次期夏季五輪開催国であるフランスでも、議会では中国によるウイグル族への人権侵害を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定し、非難する決議が出たのと好対照だ。先進国ではよくあることだが、フランス政府は次期五輪を控えて慎重だが、議会はその政府に圧力を加えるものとなった。

 それにしても、中国への過度な配慮は公然と行われている。1月31日には、旧暦の大みそかに合わせて東京タワーが赤くライトアップされた。新型コロナウイルスの緊急事態宣言かと勘違いしそうだが、実は中国紅(チャイナレッド)で、中国の春節(旧正月)の祝いだそうだ。岸田文雄首相や小池百合子東京都知事が祝辞を送り、中国でも生放送された。その一方、相変わらず尖閣諸島周辺では中国公船が領海侵入を繰り返している。

 中国は隣国なので、その動向を注視しなければいけないのは不幸ともいえるが、隣国に最大限注意するのは国際政治ではやむを得ないことだ。

 中国は北京五輪後、習体制の総仕上げに向かおうとするだろう。それは、本コラムで再三指摘してきた中国の「核心利益」の最後のパーツである「台湾・尖閣」を手中に収めることだ。それを諦めることはあり得ず、これまでも着々と準備している。尖閣への領海侵入も日常茶飯事だ。

 普通の国なら、尖閣に防衛拠点を設けるだろう。それは軍事的に抑止力になるが、国際政治では実効支配の証だ。

 作家で元東京都知事の石原慎太郎氏が1日に逝去された。石原氏は2012年4月、「日本人が日本の国土を守ることに何か文句がありますか」と都が尖閣諸島を購入すると表明した。

 その後、民主党政権下で国有化されたが、石原氏は船だまり施設の構築などを主張していたから、都が所有していれば、今より実効支配は明確になっていただろう。人権問題で言うべきことは言いつつ、一方で実効支配を確立していかなければいけない。

 石原氏は現状をかなり憂えていたはずだ。ご冥福を祈りつつ、恥ずかしくない行動をすることが、日本の五輪後の課題だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】石原氏も言及しなかった、尖閣を守り抜く日本の潜水艦隊の実力(゚д゚)!

尖閣防衛については、実は自衛隊は随分前から、準備していて軍備的には十分な防備ができる体制になっています。人によっては、日本は中国と戦争などすれば、すぐに負けて尖閣は人民解放軍に占領されてしまうと思い込む人もいますが、そんなことはありません。

尖閣諸島

日本の軍備の特徴は何かといえば、それはASW(対潜水艦戦闘力)が強いということにつきます。これには、中国は今でも全く及びません。それはこのブログでも何度も掲載してきました。

日本の潜水艦は、「非大気依存推進機関(AIP)」の搭載により作戦時にはエンジン駆動で蓄えた電気で航行できるため、ほとんど音を発しません。リチウム蓄電池の性能向上で静粛航行時間も大幅に伸びています。航行可能深度は500メートルとされます。最近では、リチウム電池だけで動く、潜水艦が開発され、それはさらに航行時間を伸ばしています。

米原潜を除けば世界のほとんどの潜水艦が400メートル以下を限界とするので、これらの真下を航行することが可能です。また、海上自衛隊の潜水艦救難艦は深度1000メートルでの救助活動が可能な深海救難艇を搭載しているほか、乗組員(水中作業員)は450メートルの深さで潜水作業した記録を持ちます。

米英の原潜は艦内で酸素を生成でき航続距離は非常に長い一方、構造上蒸気でタービンを回し続ける(原子炉を止めたり動かしたりはできない)ため静粛性では日本製に劣ります。もちろん中国の潜水艦もそうです。

潜水艦探知能力については、潜水艦配備の装備と艦外の味方からの情報を高性能コンピューターで迅速に統合管理しています。ソナーは潜水者の酸素ボンベを使った呼吸音のレベルまで見分ける能力を持ち、レーダーは潜水艦配備と衛星・対潜哨戒機の双方の監視をコンピューターで統合運用を実施しています。

しかも、これに日米合同演習で培ってきた米国側のレーダー網からの情報が加わり、日本海側全般のほか、太平洋側では中国が第2列島線とする範囲(大日本帝国が絶対防衛権とした線とほぼ同じでサイパンやパラオ、グアムまでを含む)を探ることも可能といわれています。

攻撃能力については、日本は魚雷の推進速度と距離では、終戦直後の一時期を除けば、第2次世界大戦時から現在まで、世界最高クラスを維持し続けています。また、最新鋭艦の「たいげい」型は、潜水艦上部から海上に向けて打ち上げるミサイルも搭載可能で、魚雷と併せれば水中と空中の双方からの攻撃が可能です。

日本が、太平洋インド地域全域を防備するとか、場合によっては地球の裏側まで行くという戦略的な軍事目的を遂行するのであれば、原潜も必要になりますが、日本周辺や台湾・尖閣などを防備するというのなら、現在の日本の潜水艦隊で十分に中国海軍に対応できます。

私が日本の潜水艦の能力を世界一だとするのは、他国の潜水艦は兵器ショー(兵器製造国が他国に売る武器を展示する展覧会)でパンフレットに能力を掲載しているので、それらを比較対照すれば、ほぼ間違いなく日本製より劣ると分かるからです。

無論最新型はパンフレットなどには、掲載されていない場合もありますが、既存のものを検討すれば、最新型もある程度はその性能を計り知ることができます。

そうりゅう型潜水艦

中国の潜水艦は明らかに日本の潜水艦に劣り、潜水艦探知能力も劣っています。その結果中国海軍は、日本の潜水艦を探知することも攻撃することもできません。そうなると、いざ海戦になれば、中国の潜水艦は日本の潜水艦に撃沈され、空母、その他の艦艇も撃沈されることになります。

尖閣防衛には、この日本の性能が優れた潜水艦を2隻から3隻常時尖閣付近を航行させ、中国が尖閣侵攻の動きをみせれば、尖閣諸島を包囲すれば良いです。そうして、近づく艦艇を撃沈し、近づく航空機も撃墜すれば良いです。

さらに、尖閣付近に機雷などを敷設すれば、中国海軍は尖閣に近づくこともできなくなるでしょう。それでも、無理やり上陸させたとしても、日本の潜水艦に包囲されれば、水・食糧、弾薬などが補給できなくなり、尖閣に上陸した人民解放軍はお手上げになります。

日本の潜水艦の実力は、米軍などとの合同訓練で「訓練では世界一強い日本の潜水艦隊」であることが証明されています。たとば、旧型の潜水艦が米国と合同演習をしていたときに、米軍の空母打撃群の司令官が「一体日本の潜水艦はどこに行っているのだ」と苦情をいうと、何と潜水艦が空母のすぐ横に浮上したというのです。

対潜哨戒能力に優れた米国海軍にも日本の潜水艦は発見するのが難しいです。その他も、日本のはASA(対潜戦闘能力)世界トップレベルであることが、様々な訓練などで実証されています。

それと、昨年10月12日にも、防衛省は中国海軍所属とみられる潜水艦1隻が鹿児島県・奄美大島周辺の接続水域内を潜水したまま、航行したと発表しました。領海への侵入はなかったとしています。これは、防衛省が発表し、それが様々なメディアによって日本国内や海外に伝えられました。

これに対して、同じように日米の潜水艦が、中国海軍によって台湾海峡や黄海、南シナ海で発見されたというニュースは未だにありません。これは、中国海軍の潜水艦探知能力が未だに低いことを如実に示しています。

このことから日本の海自の潜水艦は、訓練はではでき、その訓練では驚異的な成果をあげているのですが、有事においては、自衛隊は法律や社会的制約にがんじがらめにされ、その実力を本番では発揮できないのです。

例えば「国際法の順守」。これは事実上の〝攻撃禁止令〟となっており、極端なことをいうと現場の自衛隊はやられるのを待つしかないといえます。

また、訓練も時間や予算の制約でご都合主義に陥り、対潜訓練でも「最強の軍艦」であるはずの潜水艦が簡単に水上艦に探知されるなど、「八百長」がまかり通っているともいわれています。

こうした問題を解決するために、私は、自衛隊を普通の軍隊に変えたり、「軍政と軍令」の整理や「軍司法」の整備を早期に実施し、「敵前逃亡が盗撮の罪よりも軽い」といったおかしな現状を正すことが急務だと思います。そうして自衛官の地位と権威を高めることが自衛隊を強くする要でもあるといえると思います。

そうして、私自身は、日本が強力な、ASW(対潜水艦戦闘能力)を有しているからこそ、中国は尖閣付近で様々な虚仮威(こけおどし)をするのですが、結局尖閣を奪取しないのだと思います。日本が明らかに海戦能力においては中国を凌駕しているので、中国海軍が尖閣を奪取しないのでしょう。

そうでなければ、とっくに尖閣や沖縄は中国に奪取されていた可能性もあります。確かに、有事においては、自衛隊は法律や社会的制約にがんじがらめで、動けないとされていますが、本当に中国が台湾に侵攻したり、尖閣に侵攻したりすれば、日本の世論も随分変わるのではないかと思います。

政府はなかなか対応をきめられず、得意の「遺憾砲」を発射するだけで何もできないかもしれません。しかし、世論が動いて、国会で審議が行われることになり、自衛隊を普通の軍隊に変えたり、「軍政と軍令」の整理や「軍司法」の整備を早期に実施して、尖閣に上陸をした中国軍の排除に向かうことになると思います。

林芳正外相は国会で「遺憾砲」を炸裂させたが・・・・・・

これについては、既成事実を作られたら手遅れなどという人もいますが、たとえ1年〜2年かかったにしても、自衛隊が普通の軍隊になり、日本の潜水艦が尖閣を包囲し、補給をたてば中国軍はお手上げになるだけです。

中国が超音速ミサイルを発射したらどうするとか、核兵器を用いたらどうするなどの意見もありますが、そうなると確かに日本の領土は攻撃されて破壊される可能性はありますが、日本の潜水艦隊は深く潜航して、反撃の機会を待つことになるでしょう。

そうして、中国海軍を崩壊させることになると思います。何しろ、日本の潜水艦が中国の港に入ったとしても中国側はこれを発見するのは難しいです。一昔前の古い戦術かもしれませんが、たとえばかなり大きな中国の艦艇を港の入り口付近で撃沈すれば、その港を長期にわたって封鎖することができます。さらに、機雷を敷設した場合はどうなるでしょう。

そうなると、中国海軍は港を一歩も出られなくなりますし、出たとしても撃沈されます。

こんなことを言うと、中国が超高速ミサイルを発射したり、核兵器を発射したらどうなるとか、ドローンで飽和攻撃をしてきたらどうなるという意見もあると思いますが、そうなれば、日本の世論は激高し、憎き中国をやっつけるために、核兵器などを開発することになるでしょう。

それに核兵器など、どこに潜んでいるかもわからない潜水艦攻撃に使うとすれば、ありとあらゆる海域に打ち込まなくてはならなくなります。たとえ、打ち込んだとしても、深海に潜む潜水艦を破壊てきるかどうかはわかりません。超高速ミサイルも、ドローンも発見できない敵に対しては無効です。

水中に潜む日本の潜水艦隊を中国側は、発見できません。潜水艦隊がすぐに反撃に出るのは間違いないでしょう。それに当然のことながら、米軍なども加勢することになるでしょう。

日本では、なぜか尖閣防衛というと、潜水艦やASWに言及する人は少ないです。しかし、日本の潜水艦隊は、尖閣を防衛するだけでなく、他の作戦も同時にいくつも実行できるだけの能力があります。潜水艦22隻体制(一隻事故で、就航できなくなったが、新たなの潜水艦の就航でまもなく22隻体制が整う)を早々と構築した日本は、強力な海戦能力を得たといえます。

島国である日本は、強い海戦能力によって、他国の軍事的侵入を防ぐことができます。

ミサイルなどで他国を破壊することと、軍事力による侵攻とは別問題です。ただ、破壊するだけではほとんど意味がありません。

軍事力によって他国に侵攻することの意味は、侵攻して他国や他国の一定の地域を占拠して、占拠した地域を自国の思い通りにさせることです。ただ、破壊するだけではこれは成就しません。

中国による台湾侵攻も、ロシアによるウクライナ侵攻も、中露が破壊力があるから簡単に侵攻できると思い込むのは間違いです。台湾やウクライナを占拠するためには、破壊力だけではなく、軍隊を常駐させて、統治する必要があります。

これには、相当の人員と物資が必要となり、中国は海上輸送力が劣っているため、台湾侵攻はできないでしょう。ロシアも、今やGDPでは韓国とほぼ同等かそれを若干下回るくらいしかありません。一人あたりのGDPでは、韓国を大幅に下回ります。米国を抜いたNATOともまともに対峙する力はありません。ロシアが、ウクライナ全土を占拠して、従わせることは至難の業です。

このあたりが、多くの人に混同されているように思います。破壊と、軍事侵攻は別物です。確かに日本の潜水艦隊は、我が国国土の破壊を完璧に防ぐことはできないでしょうが、他国の軍事侵攻は十分に防ぐことができます。

しかし、このブログにも度々述べてきたように、潜水艦の行動は昔からいずれの国でも秘匿されてきましたし、日本もその例外ではないため、日本の潜水艦隊の実力が過小評価されるのだと思いますし、石原氏もそれに言及することはなかったのだと思います。

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2022年2月4日金曜日

森友学園問題とは何だったのか フィクション批判は意味がない、必要なのは事実に基づいた報道―【私の論評】新聞記者、映画もネット版も結局妄想で簡単な事実を歪め複雑化して見えなくしているだけ(゚д゚)!

日本の解き方


 森友学園問題を下敷きにしたとみられるドラマ「新聞記者」が、遺族の了承を得ていなかった問題などが報じられた。

 このドラマが現実と異なる点が多いと批判的に評していたジャーナリストもいるが、ドラマはフィクションなのだから、この批判は意味がないだろう。

 マスコミ関係者の中には、フィクションとドキュメンタリーの区別がつかない人が多いと、筆者は感じている。文学部出身で文章が書きたくて新聞記者になった人が多いためか、実際の事件をそのまま記事にするというより、自分のストーリーが先にあり、事実はそれを補強するために取捨選択しているかのような記事を目にすることもなくはない。

 森友問題の報道でも、筆者はまず新聞記者のストーリーありきだと感じた。それは、当時の首相夫人の関与があったので、財務省近畿財務局は国有地を値引きしたというもので、そのストーリーに都合の良い報道をするばかりだった。

 筆者の見立ては違う。森友学園に売却した国有地の東半分はその前に大阪府豊中市に売却している。その際、ゴミが埋まっていたことが判明し、同市に補助金交付が行われ、実質的な売却価格はほぼゼロだった。

 そもそも問題の国有地にゴミが投棄されたのは地元の人なら知っていることだという。こうした経緯を踏まえれば、近畿財務局は地中のゴミを前提として競争入札すべきだった。その結果はおそらくゼロ円入札となり、値引きは必要なかっただろう。

 当時の財務省理財局長は国会で追及され、この事務ミスを言い出せずに場当たりで答弁した。答弁ミスをできる限り顕在化されないように、近畿財務局の決裁文書が改竄(かいざん)された。

 決裁文書に書かれている「余計な」部分の削除であり、首相夫人の箇所はわずか一部でしかない。改竄箇所から、首相や首相夫人の関与はなかったことが明らかになっている。

 こうした筆者の推測は、過去の経緯を見ればすぐ分かることだが、マスコミは当初の思い込みで気がつかなかったのだろう。いろいろなマスコミに話しても否定されたことはない。当初段階で、筆者はあるテレビの生放送でこの話をしたところ、直後に財務省からテレビ局に猛烈な抗議があったが、その根拠は全くのデタラメだった。筆者の指摘が図星だったのだろう。

 元衆院議員の事務所もこの件に関係しており、近畿財務局とのやり取りが詳細なメモになっている。それを見ても元首相夫人の関与は全くなく、むしろ近畿財務局の事務の杜撰(ずさん)さばかりが明らかになっているのだ。

 森友問題で、関係するマスコミは、今回のドラマでも遺族の了解を取っていなかったなど、信じがたい醜態だが、事実に基づき、誰も文句のいえないドキュメンタリーを作れないものだろうか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】新聞記者、映画もネット版も結局妄想で簡単な事実を歪め複雑化して見えなくしているだけ(゚д゚)!

上の記事にもある、ドラマ「新聞記者」ネットフリックスが配信したドラマです。公文書改ざんを命じられた官僚が自殺した事件を描いています。

森友事件の遺族・赤木雅子さんにドラマ化を持ちかけたのは東京新聞の望月衣塑子記者だそうです。写真も借りていったそうです。ところが、制作陣は「全部フィクション」と言い始め、望月氏も連絡を絶ったそうです。詳しくは文春のサイトでご覧ください。以下のリンクからご覧になれます。


映画「新聞記者」ではコメントを述べていた望月衣塑子

森友問題の本質は、近畿財務局は地中のゴミを前提として競争入札すべきだったものを、なぜか随意契約にしてしまったことです。それ以上でも、以下でもありません。マスコミ報道や野党などが、かなり複雑にしていますが、事実は極めて単純です。そうして、疑いの余地もありません。

競争入札(競売)その結果はおそらくゼロ円入札となり、値引きは必要なかっただろうという、単純な話です。

森友問題はゴミが埋まっている国有地の売買は競争入札すべきルールだったのに、近畿財務局が随意契約してしまい、後で値引きしてしまい、佐川理財局長(当時)が誤った国会答弁をして、帳尻合わせで文書改竄させたというものです。メディアは妄想でストーリーを作りあげた上ルールを無視したということです。

普通は競売にするのに、なぜか随意契約にしたのかを調べるのが筋だったと思いますが、それについてはほとんど調査されていません。ただただ、妄想でマスコミや野党が首相の疑惑にまで発展させたものです。その疑惑も、首相や夫人が関係しているに違いないという、思い込みだけです、何らのエビデンスもありません。

そうして、この問題の責任は、近畿財務局と理財局にあり、当時の安倍首相と、夫人には何の関係もありません。

このことは、いわゆる森友問題がマスコミ等で報じられた頃、すでに髙橋洋一氏が主張されており、すべてはエビデンスに基づいた納得の行く説明だったので、私自身はこの問題には当初からほとんど興味がありませんでした。マスコミや野党が追求しているのを見ると倦怠感を覚えるだけでした。

当時この問題は国会での安倍総理追求にまで発展しましたが、もし安倍総理や夫人が直接関与して随意契約の中身に直接関与し、しかも値引きまでさせていたとしたら、それは犯罪であり、国会である程度追求されても仕方なかったかもしれません。

ただ、犯罪であれば、いつまでも国会で追求し続けるのではなく、司法に任せるべきでした。国会とは、法律を制定したり、そのための審議をしたりするところであり、犯罪等を追求したり処罰したりする場ではありません。今から考えると、裁判をするに値する物証も何もなかったので、裁判にせずに、安倍政権に対するネガティブ・キャンペーンを繰り返したということでしょう。

野党やマスコミはそれを知りながら、安倍政権に打撃を与えるという目的で、追求を続けたのでしょう。得意のフレーズで「疑惑は深まった」とでも言っておけば、マスコミも大騒ぎで報道しましたから、正のフィードバックが働き、「疑惑」に過ぎない思い込みが、いつまでも続いてあのようになったのでしょう。

挙げ句の果てに、森友学園の籠池理事長夫妻も、「疑惑」を深めるために、マスコミや野党に利用されたのでしょう。あのように赤木さんに寄り添ってきた新聞・メディアはなぜ「新聞記者」のゴタゴタを報道しないのか不思議です。

結局、赤木さんのことを政府批判の道具として利用したに過ぎないのでしょう。現在のマスコミの身内の恥を隠し通す態度は、ジャーナリズム精神にもとると思います。

加計問題も、桜問題もその源は同じようなものだと思います。そうして、この問題を立憲民主党は未だに追求しようとしています。2日の衆議院予算委員会の 新型コロナウイルス対策集中審議において、立憲民主党、森友問題始めました。


マスコミや野党があれだけ声高に叫んでいた安倍首相や夫人の関与の証拠なるものは未だに発見されもせず、提出もされていません。

森友問題の源は新聞記者の陰謀論といっても良いでしょう。確たる証拠が何年経っても1つもない上に、 安倍夫妻や政治家の関与のない一次資料ばかりが増え続けているだけです。 それでも「証拠があるはずだ、疑惑は深まった」と記者や野党は繰り返すばかりです。

ちなみに映画「新聞記者」新聞記者の 日本興行収入は6.0億円、 観客動員数は 日本で40.0万人 です。相良智弘によれば、日本映画のヒットの目安は日本映画製作者連盟が10億円以上の映画を発表するという理由から総興行収入10億円となる。

新聞記者の歴代興行収入ランキング(vodzoo調べ)では、 日本の興行収入は857位、観客動員数は852位 となる結果になりました。

これでは、映画としては、とても成功作品とはいえません。結局まともな視聴者は見なかったということでしょう。しかも、この映画はコロナ以前のものですから、コロナ感染が興行成績を下げたとはいえません。私自身は、この映画の興行前に、すでに森友・加計問題の本質を知っていたので、見る気もおきませんでした。


『新聞記者』に関しては「意義ある作品なだけに残念」という声も参見されました。一体どのような意義があったというのでしょうか。

映画版は加計学園をモデルにしている大学の新設が生物兵器の開発を目的としたものだとするなど悪質な妄想全開の内容なのに望月記者や前川喜平が出演しあたかも現実を下敷きにしていると思わせたトンデモ作品です。

ネットドラマも遺族の了承を得ていなかったという問題があります。どちらも酷いものです。意義など全くありません。

「新聞記者」は映画もネット版も結局妄想で真実を歪め複雑化して見えなくしているだけです。全く視聴したり論評したりする価値はありません。

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2022年2月3日木曜日

日韓関係改善のカードも飛び交う韓国大統領選―【私の論評】韓国には日米は何の期待もできないが、これからも安全保障上の有益な空き地であり続けるべき(゚д゚)!

日韓関係改善のカードも飛び交う韓国大統領選

岡崎研究所

 3月9日の韓国大統領選挙に向けて与野党の選挙戦が激しくなってきた。1月13日付けの中央日報の社説は、「革新与党候補者李在明(前京畿道知事)の強い要請にこたえて、文在寅が3月の選挙の前に補正予算を組むことを受け入れた。そのために企画財政部は税収見通しを操作しているようだ。ポピュリズムがフル回転している」と批判する。与党は現在国会で安定過半数を維持しており、補正予算承認は簡単であろう。


 革新与党は、ポピュリストの性格が強い。その候補者である李在明は、日韓関係を含め自分は何よりも実用主義を重視すると言っているが、強い信念というよりも世間のムードで動くポピュリストの性格が色濃い印象を受ける。予測不可能な印象も受ける。発言の撤回も多いようだ。

 世論調査の結果も振れており、目下の選挙戦は混とんとしている。1月17日発表の韓国の世論調査会社リアルメーターの支持率調査では、尹錫悦(保守野党、前検事総長)40.6%、李在明36.7%、安哲秀(中道野党、実業家、政治家)12.9%となり、再び尹錫悦リードに反転した。この発表の10日前の7日の韓国ギャラップの結果は、李在明36%、尹錫悦26%、安哲秀15%だった。

 尹錫悦の急落は、保守野党に衝撃を与えていた。尹錫悦を支持してきた若者層が安哲秀に流れたといわれる。尹錫悦の急落には理由があった。ひとつは12月来に激化した野党選対委の内部分裂だった。もう一つは尹錫悦の夫人金建希の略歴詐称・誇張(結婚前のものだが)のスキャンダルだった。夫人は12月26日記者会見を行い謝罪、国民の許しを請った。


 支持率急落を受けて急遽党内で和解した。また尹錫悦と安哲秀の間の野党候補統一化の可能性が取り沙汰されるようになった。しかしそれは保守野党にとっては一つの可能性にはなるが、過去の例を見ても実現はそう簡単ではない。

 主要候補者はどちらも特徴的である。2人とも国会議員の経験はなく、いずれも党内政治的にはアウトサイダー、パラシュート型の候補者であり、党内基盤も強固ではない。

 李在明は、文在寅派、李洛淵の非主流派のいずれでもない、謂わば「その他」に属する。尹錫悦は朴槿恵前大統領訴追の際の検事で、今回選挙前に保守野党「国民の力」に入党したばかりだ。両者ともにスキャンダルを抱えている(李在明は大庄洞開発疑惑等、尹錫悦は上述の通り)。人格的には、李在明は直情的、実用主義、ポピュリスト等、尹錫悦は優柔不断とも言われる。

 選挙まで1カ月少々となったが、選挙の帰趨はまだまだ分からない。世論調査の結果は非常に不安定だ。保守党寄りになっていた若者層の帰趨も不安定である。他方、政権交代論は非常に強い(世論調査でもそれを望むとの数字が高い)。これは野党に有利になるが、自責点をしないでそれを生かせるかどうかは野党次第である。

 また今後経済が大きなイシューになると思われ、両候補の経済政策が注目される。尹錫悦も効果的な経済政策が必要となる。外交問題では既にある程度の議論は出ている。李在明は、今のところ文在寅政権の政策の範囲内のことしか言っていない(南北や対中関係を重視、対日・対米関係は慎重)。尹錫悦は、現実主義で、日米韓や日韓関係重視、対中警戒、南北警戒と言える。

候補者が日本大使と会見という異例事態も

 日韓関係については、今後実際の行動を見る必要があるものの、李在明は対日強硬、尹錫悦は現実的である。李在明は、対日強硬のイメージ払拭のため11月下旬頃より実用主義で行くとスタンスを修正したが、これまでの強硬な発言は消し難く、ポピュリズムの動向や党の枠の規制も受けるだろう。尹錫悦については日米韓、日米関係重視の発言は安心感を与える。

 今回選挙で異例のことは両候補が日本大使と会見したことだ。11月下旬、尹錫悦は相星駐韓大使と会見した。日韓関係改善のカードを公式化した。

 それから1カ月後の12月下旬には李在明も日本大使と会見した。日韓関係が選挙の直接のイシューになっている訳ではないが、日韓関係の改善の一般的必要性は多くの国民の間に一定の底流として共有されていると思われる。

 しかし、特にいわゆる「労働者問題」(徴用工問題と呼ばれたりもするが適切ではない)は、解決案の中味が問題であり、韓国側が「国内措置」として解決しようとしない限り、解決はなかなか見通せない。それにしても文在寅政権の過去5年の責任は大きく、「労働者問題」と「慰安婦問題」の二つの問題が日韓の「永遠のトゲ」となって歴史に残らないよう、文在寅には残る数カ月の間にもそれを解決する責任があると言わざるを得ない。

【私の論評】韓国には日米は何の期待もできないが、これからも安全保障上の有益な空き地であり続けるべき(゚д゚)!

韓国政府は、朴槿恵(パク・クネ)大統領のときも反日であり、しかもプーチンにまで告げ口外交をする始末であり、今後誰が大統領になったにしても、反日姿勢は変わらないとみておくべきでしょう。一旦影を潜めたようにみえても、何かの危機があれば、すぐに再燃すると考えるべきであり、まかり間違っても新大統領になったからといって、関係を修復するべきではありません。

朴槿恵前韓国大統領とプーチン・ロシア大統領

その理由は、以前にもこのフログに上げたことがあります。それは米国の戦略家ルトワック氏の『自滅する中国』(2012年出版)に掲載されている韓国の分析です。以下にそれを再掲します。
●国家は普通は独立を尊ぶものだが、従属したがる国もある。それが韓国だ。 
●彼らは中国と中国人にたいして、文化面で深い敬意を持っている。中国の「マーケットの将来性」にもその原因がある。 
●韓国における中国と中国人への尊敬の念は明の時代にまでさかのぼることができる。その一番の担い手は、知的エリートとしての官僚である両班だ。 
●面白いことに、中国文化の影響が非難されるのは北朝鮮。北では漢字は事実上禁止され、ハングルの使用だけが許されているほど。 
●韓国では教育水準が高ければ高いほど反米の傾向が強まる。しかも最近はアメリカが衰退していると考えられているために、中国の重要性のほうが相対的に高まっている。個人で中国でビジネスを行っている人が多いという事情もある。 
●極めて奇妙なことに、韓国は大規模な北朝鮮の攻撃を抑止するのは、グローバル規模の軍事力を持つアメリカの役目だと考えられており、実際に天安沈没事件や延坪島の砲撃事件にたいしても(死者が出たにもかかわらず)ほとんど報復は行っていない。 
●つまり実際のところ、韓国政府は米国と中国に依存する従属者となってしまっている。米国には全面戦争への抑止力、そして中国には一時的な攻撃にたいする抑止力を依存しているのだ。 
●ところがこれは、米国にとって満足できる状況ではない。韓国を北朝鮮から庇護するコストとリスクを、米国は独力で背負わなければならないからだ。 
●その上、韓国への影響力は中国と折半しなければならない。中国は北朝鮮への統制を中止すると脅かすことで、常に韓国政府を締め上げることができるからだ。今のところ韓国が中国に声を上げることはない。 
●米韓同盟を形成しているものが何であれ、そこには共通の「価値観」は含まれていない。なぜなら韓国はダライラマの入国を中国に気兼ねして堂々とビザ発給を拒否しているからだ。 
●現在のような政策を保ったままの韓国は、いわゆる「小中華」の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員となることを模索しているのかもしれない。韓国が自国の安全保障のコストとリスクを受け入れず、かわりに従属者になろうとしているのは明らかだ。 
●このような韓国の安全保障の責任を逃れようとする姿勢は、「日本との争いを欲する熱意」という歪んだ形であらわれている。ところが日本との争いには戦略的に何の意味もないし、日本へ無理矢理懲罰を加えても、韓国側はリスクを背負わなくてすむのだ。
1.米国に従属している韓国は、同時に中国にもすり寄っていこうとしている。 
2.その大きな理由は二つ:歴史的・文化的な面での尊敬と、ビジネスのチャンスだ。 
3.安全保障面では、北のコントロールを中国に、そして全面戦争の抑止は米国に依存。 
4.その責任逃れの憂さ晴らしとして、日本にたいする情熱的な敵対心を展開。
この状況は根本的にも現在でも変わっていません。注目すべきは、ルトワック氏が、韓国の保守・リベラル左派とか、与党・野党などと区分して語ってはいないことです。韓国というシステムそのものの特徴や属性を語っているのです。もちろん、韓国にもこの特徴や属性にあてはまらない人もいます。しかし、韓国全体ではこのような特徴と属性を有しているといえるでしょう。

韓国には、他にも問題があります。それは、韓国という国の戦略的な脆弱さです。ソウルは北との国境線である非武装地帯から近く、対空防衛システムや防空シェルターなども十分ではないという脆弱性を晒しており、韓国の軍隊は自国をまったく守れない状態にありました。というのが40年以上も前の状況でしたが、実は今も全く同じなのです。

政府機能や民間企業の本社などを、ソウルから遠くに分散するなどの対策を一切実行していません。空襲に対応するシェルターも不十分です。40年数年前と違うのは、北朝鮮が核兵器や長距離ミサイルを開発したことだけです。もし戦争が起きれば、北朝鮮は最初の一撃で韓国の指揮所や対戦車兵器などを潰せます。

40年前にアメリカが提案した、首都機能を南に移すことや、企業の光州への移動や、軍事面での72項目にものぼる細かい変更など、ほとんどなされていません。半島有事の際に作戦を指揮する権限は、いまだに韓国軍ではなく長い間在韓米軍司令官にありました。米国側が長年、返還を示唆しても逃げ口上を駆使して延期し続けていました。これについては、2017年ようやっと韓国軍に引き継がれました。ただ韓国は、北朝鮮の核開発を阻止する動きは今でも全く見せていません。
ルトワック氏は韓国を強く批判し、次のように述べています。
韓国は北朝鮮の非核化には殆ど興味がなく、金正恩体制の崩壊は望んでいない。日米が直面しているのは「朝鮮半島問題」で、二つの国で構成されている。一つは北朝鮮であり、どんな手段でも核武装解除を進めるべき国である。そしてもう一つは、韓国という無視すべき国である。
このような現実をみれば、日本が韓国に対してどのような姿勢を取るべきか明らかです。無論、無視です。ただ、韓国が、日本政府が「佐渡島(さど)の金山」(新潟県)」を世界文化遺産候補として推薦したことに対して、批判した場合などのように、歴史の歪曲などをした場合は、これに対して史実等をもとに反論をすべきでしょう。

その他は、輸出入管理でも、通貨スワップでも、信用保証やその他の関係でも日本の都合だけで決め、韓国は一切無視で良いです。

上の記事にもあるように、韓国は安全保障面では、北のコントロールを中国に、そして全面戦争の抑止は米国に依存という虫の良い考え方をしているようですが、そのような考え方が通用するはずもありません。

そもそも、北朝鮮は中国の浸透を嫌っています。そうして、このブログで以前述べたように、北朝鮮には核ミサイルがあり、この核ミサイルは日米などに向けられているのと同時に、中国にも向けられているものであり、結果として北朝鮮とその核は朝鮮半島への中国の浸透を防いでいます。もし、そうでなければ、韓国は中国に擦り寄り姿勢であり、今頃朝鮮半島は中国の朝鮮省になっていたかもしれません。 

私は、最近の北朝鮮のミサイル発射について、以下のように分析しました。

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。しかし、それを盛大に祝うための成果が、ミサイル発射以外にないという状況にあります。だから、ミサイルを連発しているのでしょう。

日米に対して、何かのプロパガンダを発しているとか、何らかの要求をしているという面は、全くないとはいいませんが、それにしても、従来のように米国などに明確にメッセージを発しているというようには見えません。

ただ、現在北は表には出しませんが、コロナ感染症で経済・社会かなり痛めつけらており、これに乗じて中国が北朝鮮に浸透しようとするかもしれないとの危惧の念を抱いており、これに対する牽制の意味もあって、ミサイルを連発している可能性もあるとみています。

1 月5日に発射したとみられる北朝鮮の超音速ミサイル

国連児童基金(ユニセフ)は昨年9月1日、北朝鮮が中国製(シノバック)の新型コロナウイルスワクチン約300万回分の受け取りを拒否したと明らかにしています。北朝鮮は世界的なワクチン不足を考慮し、感染状況がより深刻な国にワクチンを回すよう求めたとされています。

韓国紙、中央日報は17日、韓国政府筋の話として、国連が北朝鮮へ新型コロナウイルスワクチン6千万回分(を支援する案を打診したと報じました。昨年10~11月に米ニューヨークで、国連関係者が北朝鮮の金星国連大使に提案し、金氏は平壌の返答を待っているとしていました。この打診がその後どうなっかについての報道はありません。

ただ、中国製ワクチンを拒否したことについては、そもそも中国のワクチンの効き目を信じていないという憶測もありますが、私としては、中国の浸透を忌み嫌う北朝鮮側の意向もあったのではないかと推測しています。

この状況のなかでは、韓国は日米にとって最早安全保障上は空地のような存在ではありますが、それでもこの空地があるという状態は決して悪い状況ではないのです。

最悪の状況は、北朝鮮が非核化し、米国側につくのであれば良いですが、そうではなく北が中国に飲み込まれ、ついで韓国も飲み込まれ、結果として朝鮮半島全体が中国の支配下に入ることです。こうなると、38度線は、対馬海峡になることになります。これだけは、避けるべきでしょう。韓国には何も期待できないですが、そこに安全保障上の空地があるということが重要なのです。これからも、日米の空き地であり続けるべきです。

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2022年2月2日水曜日

トランプのPACが2021年下半期に5100万ドルを集める―【私の論評】トランプは2024年大統領選挙の有力な候補者である(゚д゚)!

トランプのPACが2021年下半期に5100万ドルを集める

<引用元:FOXニュース 2022.1.31-2.1
トランプのPACは1億2200万ドル以上の現金を手中に
29日にテキサス州コンロ―の集会で話しをするトランプ前大統領
トランプのセーブアメリカ政治活動委員会(PAC)による1月31日の発表によると、トランプ前大統領のPACは2021年下半期に5100万ドルの資金を集めており、PACは1億2200万ドル以上の現金を手にしている。

「トランプ前大統領が前代未聞のペースで資金集めを継続していることから、2022年以降の共和党の未来は、おそらく米国の歴史上で引き続き最強となることがわかる―MAGA運動は浸透している!」と発表には書かれていた。

さらにセーブアメリカPACは、集めた全資金には、トランプのプラットフォームに向けたり、トランプの似顔絵や推薦を使用したりして他のキャンペーンで集めた数億ドルは含まれていないと指摘した。

「ドナルド・J・トランプ大統領は、継続して共和党の未来を獲得し明確にする政治団体を作り上げた」とトランプの広報担当部長テイラー・ブドビックは声明で述べた。

「トランプ大統領は、彼の指導力の必要性がかつてないほどに重要になる中で11月以降を見据えて非常に良い位置にある」とブドビックは続けた。

だがトランプが2021年下半期に集めた5100万ドルは、前大統領が同年の上半期に集めた8200万ドルから著しく減少した。

トランプは2024年の大統領選再出馬をほのめかしているが、今のところ正式な発表は控えている。先週はトランプが「45代及び47代」の米国大統領となるだろうと述べた動画が浮上した。先週土曜日のテキサス州コンロ―でのセーブアメリカ大会で、トランプはもし自身が再度大統領となったら2021年1月6日の議事堂暴動に参加して収監された人々に恩赦を与えると示唆した。

「もし私が出馬して勝ったら、あの1月6日の人々を公平に扱うだろう」とトランプは、多くがワシントンDCに収監されている暴動参加者について述べた。

「そしてもし恩赦が必要なら、恩赦を与えるだろう。なぜなら非常に不公平な扱いを受けているからだ」とトランプは続けた。
【私の論評】トランプは2024年大統領選挙の有力な候補者である(゚д゚)!

日本では、ほとんど報道されませんが、ドナルド・トランプ前大統領は29日にテキサス州コンロ―の集会で1万人を超える参加者に話し、バイデン政権の外交政策と「不正な」2020年選挙を批判しました。


以下に要旨のみを掲載します。
毎日、バイデンの無能さが米国を危機にさらしている。みなさんご存知の通り、私が大統領だったら、プーチンとロシアがウクライナにやっていることは決して起こらず、可能性すらなかった。
とトランプは、ウクライナ国境で高まるロシアの侵攻に言及しました。

トランプはジョー・バイデン大統領のアフガニスタン撤退も批判し、米国は850億ドル相当の軍装備品をタリバンに与えたと指摘しました。トランプは、バイデンの政策は「本物の第三次世界大戦の危険」を作り出していると主張しました。

また前大統領は、バイデンのCOVID-19パンデミック対応について話し、
米国人が全てのCOVID関連の義務化から独立を宣言する時だ。
と主張しました。

トランプはさらに、「不正な」2020年選挙と民主党が今月初めに提案して失敗に終わった選挙権法案を批判しました。
我々の国を真に取り戻すためには、あらゆる問題の中で最も重要な事を解決しなければならない。自由で、公平で、正直な選挙を守ることだ。2020年選挙は不正操作されたのであり、誰もがそれを知っている。他の誰よりもそれを知っているのは誰か分かるだろうか?民主党だ。 
ちょうど昨日、素晴らしいペンシルベニア州で我々は大勝利した。全州の裁判所は、盗まれた選挙の直前に民主党によって導入された弁解なき郵便投票行為は、違法であり著しく憲法に違反していると判決を下した。それゆえに我々が州で勝利していたのだと確信している。
トランプはこう続けました。
我々はウィスコンシン州でも大きな訴訟に勝利した。本当に不正が盛んで、裁判官はドロップ・ボックス、彼らは鍵付きボックスと呼ぶが我々は鍵なしボックスと呼んでいるのだが、それが違法だと判決を下した。それらは違法だった。何万票も。それが違法だという判決が出た。
トランプはまた2022年と2024年の「レッド・ウェーブ」を呼びかけました。

2024年の大統領選挙には、トランプ前大統領が共和党の候補として出馬する可能性が高いですし、そうでなくてもトランプ氏寄りの人が出てくる可能性は否定できないです。

最近、有力候補としてメディアで名前が上がり始めたのは、フロリダ州のデサンティス知事です。彼はもともと、トランプ氏の支持を得てフロリダ州の知事になっています。ただし、大統領選挙に名乗りを上げるかは定かではないし、彼自身は現在、トランプ氏とは微妙な距離を保っているようです。

フロリダ州 ディサンティス知事

仮にトランプ氏が出馬するならば、彼に勝てる人はいないてしょう。しかし、仮に出ない場合、昨年11月のバージニア州知事選挙が参考になります。

バージニア州知事選では、トランプ氏が支持を表明した共和党の実業家グレン・ヤンキン氏が勝利しました。いまやトランプの支持を得ることは、共和党の中で勝ち残るためには有効な手段なっているのです。

たとえば、トランプ支持者が納得するような候補者を立て、予備選の段階ではトランプの支持を全面に出しておき、選挙本戦ではトランプを隠して、トランプ色を薄めるような戦略も考えられます。そうすれば、トランプが嫌いな人や無党派層の票も取り込めるので、選挙で勝てるのです。

グレン・ヤンキン氏

では、バイデンはどうなのかといえば、年齢から言っても懐疑的にならざるをえないです。

トランプ前大統領は70歳で大統領に就任し最年長でしたが、その後、78歳で就任したバイデン大統領がその記録を塗り替えています。バイデン大統領は現在79歳で、現役大統領として最高齢記録を更新しました。2024年に仮に選挙に勝利したとすると、2期目の就任時には、82歳になります。

それにバイデン大統領のスピーチ能力にも心配がある。彼がアドリブで話す時には、ファクトの間違いが多いと指摘されているいます。たとえば彼は、自分が10代の頃、公民権運動に関連して逮捕されたということをしばしばスピーチの中で披露していのですが、彼が逮捕されたという記録は確認できない上、逮捕されたとされる場所も曖昧で、当時の年齢についても13歳という時もあれば15歳と発言する時もあるのです。

また、カマラ・ハリス副大統領のことを過去何度も、「ハリス大統領」と言い間違えていることでも有名です。1月中旬に、1月6日の議会占拠1周年を記念した式で演説をした時にも、「先週、ハリス大統領と私は……」と述べ、訂正もしませんでした。

これらは、大きなミスではないかもしれないですが、1度や2度ならず複数回も間違えるとなれば、一国の大統領としての資質を問われても仕方がないです。

バイデン大統領(左)とカマラ・ハリス副大統領(右)

一方、ハリス副大統領の大統領候補の可能性ですが、残念ながら1年目の彼女の功績はほとんどない上、担当した移民問題でも、昨年6月の中南米訪問で「(移民はアメリカとの)国境に来ないで」と発言してしまいました。彼女の支持率は低いです。

他にもピート・ブティジェッジ運輸長官、テキサス出身のベト・オルーク元下院議員などの名前が出ることもありますが、まだまだ民主党の候補の方は不透明です。

NBCテレビによりますと、トランプ氏がこれまでに支持を表明している候補者は現職を含めおよそ90人いて、今年の中間選挙でこうした候補者たちが当選するかどうかが、トランプ氏の影響力を測る試金石になるとして注目されています。現時点では、トランプ氏は次期大統領選挙での有力な候補者と言って間違いないです。

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