2022年7月14日木曜日

政府はなぜ減税しないのか!? 官僚が好む「補助金型」で恩を着せるも 予算の未消化が起きやすい―【私の論評】何もしなくてもすぐできる減税を日本でも早急に実施すべき(゚д゚)!

日本の解き方




 2021年度一般会計決算は、税収が前年度比10・2%増の67兆379億円と過去最高になった。一方、歳出では22兆円余りの予算執行を22年度に繰り越すと報じられている。国は予算の出し惜しみをしているのか。適切な使い道はないのか。

 予算は、原則として年度内に使い切ることとなっている。使い切れなかったものは、予算を計上したものの結果的に使う必要のなくなった「不用」となるか、一定の手続きにより次年度への「繰越」となる。

 財務省が5日発表した21年度の一般会計の決算概要によると、不用額は6兆3028億円と過去最高となった。これとは別に、特別会計などで22兆4272億円が22年度に繰り越された。

 21年度の予算総額は補正予算を含め過去2番目に大きい142・5兆円だった。20年度からの繰越もあり、結果として不用額が増えた。不用額について、20年度は3・9兆円、21年度はさらに6割増え6・3兆円だった。21年度不用の内訳は、資金繰り支援で経済産業省1・4兆円、財務省0・6兆円、「Go To トラベル」0・9兆円などだ。

 繰越については、20年度が30兆円強だったが、21年度の22・4兆円は過去2番目の大きさだった。公共事業費4兆円、地方創生臨時交付金の5・7兆円、中小支援事業復活支援金2・3兆円などだ。

 予算はもともと歳出権の上限を決めるものだ。コロナで経済の状況が読めない以上、多めに予算を組むのは当然である。もし足りなかったら、それこそ大問題だ。多めの予算でも別に無駄になるわけではない。不用や繰越を避けるために、年度内で無理矢理に予算消化する方が無駄であろう。いずれにしても、本件は必要以上に予算を組んで、財務省が勝手に怒っているだけともいえる。

 予算の使い方として、補助金型と減税型がある。補助金型とは、節電ポイントや、ガソリン補助金などの給付の方法のことだ。補助金型は、事前申請が必要で手間がかかるため、予算の未消化が起きやすい。

 事前申請の必要のないプッシュ形の給付金もあり、欧米先進国では主流になりつつあるが、日本ではマイナンバーと銀行口座のリンクが一部しかなされていないのでまだまだ実施されていない。一方、減税型は申請がいらないので原則的に100%予算を消化できる。

 減税型でも補助金型と同様の経済効果が出るのに、なぜか政府は減税をやらない。補助金型が多いのは先進国で日本だけの特色だ。例えば、ガソリン価格の安定のために、ガソリン税減税は行わないが、補助金を出すのはその典型だ。減税は直接消費者に恩恵が行くので明快だが、補助金は業者に行くので消費者から見ればその効果が分かりにくい。しかし、官僚から見れば、減税では自分に頭を下げないが、補助金は恩を着せられると考えるだろう。

 官僚主導の日本では、官僚の存在感が増すように補助金型の予算が多いのが問題であり、予算を余らせずに使うには減税が簡単で効果的だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】何もしなくてもすぐできる減税を日本でも早急に実施すべき(゚д゚)!

上の記事を書いた髙橋洋一氏は、動画で繰越自体は全く問題がないことを力説していましたか。特にコロナ禍があった昨年は、もしものことがあった場合に足りなければ大変なことになったはずであり、余剰が出る事自体はほとんど問題でははないとしています。


ただ、強いて問題があるとすれば、使い切れなくなるのは、日本では減税ではなく給付金による支援が突出して多いことが問題であるとしています。そうして、それを記事にせず、財務省の言い分をそのまま垂れ流している日経新聞の記事を批判しています。以下にその記事のリンクを掲載します。

税収、最高の60.8兆円 剰余金4.5兆円も最多 20年度決算

給付金と減税は、手元のお金が増える点で似ていても、その意味や使い勝手は大きく違います。補助金や助成金は原則、特定の目的に限って支給され、それ以外の目的に使うことはできません。

これに対し、減税で手元に残ったお金は自分のお金ですから、何に使おうと自由です。飲食店の店主であれば、生活費の足しにしても良いですし、新しい商売の準備に使っても良いです。用途を縛られたお金より、自由に使えるお金のほうが使い勝手は遥かに良いです。

また、政府から支給されるお金は、手元に届くまでに時間がかかりがちです。1次補正で計上した1人10万円の給付金は届くのが遅かったことを記憶している人も多いでしょう。厚生労働省の雇調金のオンライン申請システムは初日にトラブルが発生し、停止してしまいました。何ともお粗末ですが、減税なら、さほど時間はかかりません。

財政出動には様々な手法があるが、日本では給付金が突出している

欧州では、新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた経済を立て直すための経済復興策として、各国で減税措置が実施されました。「2020年度 欧州・CIS投資関連コスト比較調査」によると、ドイツでは2020年7月から12月末まで付加価値税(VAT)が19%から16%に引き下げられ、軽減税率は7%から5%となりました。

詳細をご覧になりたい方は、以下を御覧ください。

2020年度 欧州・CIS投資関連コスト比較調査(概要・分析) (998KB)
2020年度 欧州・CIS投資関連コスト比較調査(都市別データ) (338KB)

英国でも同年7月15日から2021年3月末まで、飲食や宿泊、娯楽産業に対して、VATを20%から5%に引き下げている。今回の調査対象ではないですが、ベルギーやオーストリアでも、飲食業界などに限ってVATの減税に踏み切りました。

VAT減税の影響により、2020年8月のユーロ圏のインフレ率は前年同月比でマイナス0.2%となり、2016年5月以来のマイナスに転じました。9月から12月まではマイナス0.3%で横ばいでしたが、2021年1月に6カ月ぶりに0.9%のプラスとなりました。ドイツのVAT減税措置が12月末に終了したことが要因の1つとみられます。

中・東欧でも新型コロナウイルス感染拡大による厳しい経済状況を考慮した税制改正が行われまし。チェコでは、一連の税法改正が1月1日に発効し、個人所得税の課税ベースが見直された(2021年1月7日記事参照)。ハンガリーは、2021年の新たな税の導入や地方事業税を含む地方税の増税を禁じました(2020年12月10日記事参照)。さらに、遅くとも2022年1月1日までに25歳未満の若者に対する個人所得税が現在の一律15%から免除されます(2021年1月22日記事参照)。


自民党の若手議員約15人は2022年3月30日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気減速を受け消費税率を6月に10%から5%に下げるよう求める声明を出しました。食料品などに対象を限定している8%の軽減税率を当分の間0%とし全品目に適用する案も示しました。財源は国債の発行などで賄うとしました。政府が同年4月にまとめる過去最大規模の緊急経済対策に反映するよう求めていました。

対象はこの際、消費税に限らす何でも良いです。苦しむ市民に素早く手当ができ、現在日本経済に存在する巨大な需給ギャップ30兆円超の需給ギャップを埋めるのにも役立ちます。減税は、昔から善政として称えられてきました。試みる価値はあるはずです。

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2022年7月13日水曜日

バイデンは左派との「対決」で活路を見出せ―【私の論評】インフレが収拾し経済が良くならなければ、トランプ氏の大統領再選は絶対にないとは言い切れない(゚д゚)!

バイデンは左派との「対決」で活路を見出せ

岡崎研究所

 6月23日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストのザカリアが、国内支持率が低迷するバイデンは文化の闘いでもっと得点すべきだと述べている。


 ザカリアは、バイデンの支持率が上がらない理由について次の二点を指摘する。

 第一に、民主党左派は、常に現職大統領に不満を持ち、大統領に反乱してきた。ザカリアは、左派は民主党内で常に大きい勢力だった(ジョンソン時代のハンフリー、1970~80年代のテッド・ケネディ等)、それが民主党の歴史だと言いたいのだろう。納得できる。

 第二に、「国民は、経済の先行きが不確実であっても、経済について左傾化することはせず反対に文化について右傾化する」、国民に語る時「左派は、先ずそれは文化的に革命的でないことをはっきりさせねばならない」、「民主党左派は社会問題を語る時「ラティンクス」や「有色人社会」等といった言葉を使い多くの国民を疎外する」、「民主党は屡々最も左の支持者に応えようとするので、町の平均的な人々を疎外する」と指摘する。

 その上で、バイデンは左派の過激な社会政策や文化政策につき「クリントンやブレアのように党内の人々と対決したこともない。更にバイデンはこれらの問題に関する自分の立場を伝えようと意図したこともない」と指摘する。党内左派のカルチャーやバイデンの「対決」欠如の指摘は当たっていると思う。

 「対決」の必要性の指摘はよく分かる。特に貿易について左派や議会と対決すべきだった。問題を避けていては、前途は開けない。

 バイデンは、議会人なるが故に対決よりも取引をやりたいのかもしれないが、やはり一度はきちっと対決すべきだ。大統領になった以上、国民を相手にし、党内左派よりも国民を恐れるべきだ。そうすることによって彼のアジェンダや理想が一層明確になる。

乗り越えるべきトランプ再選阻止の代償

 米国人はそのような大統領を尊敬し、好むだろう。米国の大統領には本来それだけの威厳がある。大統領らしい大統領への国民的願望は依然として残っているのではないか。

 しかし、バイデンに同情するのは、民主党予備選の段階で、左派の協力に大きく依存しなければならず、左派に人事などで譲歩せねばならなかったことだ。現政権にとり、人事や政策で左派の影響は避けられないことになった。それが現政権の制度に埋め込まれてしまっている。

2020年2月のテレビ討論会で激論を交わす、バーニー・サンダース氏とジョー・バイデン氏

 このことはトランプ再選を阻むためのやむを得ない代償だったかもしれない。しかしそれでも大統領になった以上、バイデンは自己を変え、もう少し変革型な大統領に変わり、主導して欲しいものだ。

 ギャラップ調査によれば、6月のバイデン支持率は41%だった。最高は政権発足前後で、それでも57%である。

 11月の中間選挙まで後4カ月を残すのみとなった。有権者の間には、外交に加え、経済が大きなイシューになっていると思われる。外交での果敢な努力と同じように、経済についてもう少し果敢にやる方が良いのではないか。大統領が努力していることを国民に見せつけることが重要ではないかと思われる。

【私の論評】インフレが収拾し経済が良くならなければ、トランプ氏の大統領再選は絶対にないとは言い切れない(゚д゚)!

2024年大統領選にジョー・バイデン大統領よりもドナルド・トランプ前大統領に出馬して欲しいと思う米国人が多いですが、どちらの候補も選挙運動で広い支持が見込めていないことがポリティコの最新世論調査でわかりました。

登録済み有権者全体の中で、バイデンが「間違いなく」または「おそらく」出馬すべきとしたのが29パーセントだったのに対し、トランプに対しては同じ回答が35パーセントだったことが調査でわかりました。しかしながら調査ではすべてがトランプに肯定的というわけではなく、どちらの人物も2024年の出馬見込みに対する強い反対があり、約半分がどちらの出馬にも反対しています。

世論調査によるとトランプについては米国人の48パーセントが「決して」出馬すべきでないと答え、46パーセントがバイデンの出馬に対して同様に「決してすべきでない」と答えました。

トランプ前大統領に対するもう1つの懸念は、彼が2020年大統領選挙結果について「嘘をついた」と考える共和党が増えているということです。

調査を受けた登録済みの共和党のうち44パーセントは、トランプが選挙について嘘をついたと感じており、6月から7パーセント増加したことが調査でわかりました。これは1月6日委員会の公聴会―それぞれの調査の間に実施されました―によるものである可能性もあり、それがあの日の襲撃についての国民の理解を再形成したとポリティコのニュースレターは推測を述べました。

全有権者の中で66パーセントは、トランプが「選挙は不正だったと証拠なしに述べた」と感じたことが調査でわかりました。

しかしながら依然としてトランプは共和党の大統領予備選挙の予測では先頭に立っており、今選挙を行えばトランプが登録済みの共和党の52パーセントの票を集めることが調査でわかりました。フロリダ州のロン・デサンティス知事は共和党予備選挙で21パーセントの票を得て2位となるという結果です。

世論調査は7月8日から10日までに実施され、サンプルサイズは有権者2005人だった。誤差の範囲は2パーセント。

米国の「ニューヨーク・タイムズ」紙とニューヨーク州のシエナ大学が7月11日、2024年大統領選挙などに関する世論調査結果を発表しました。

それによると、2024年の大統領選挙が今日行われたら、誰に投票するかという問いに対して、ジョー・バイデン大統領が44%、ドナルド・トランプ前大統領が41%で、バイデン氏が3ポイント上回りました。

一方で、民主党は候補者としてバイデン氏を再指名すべきか、もしくは別の候補者にすべきかという問いには、「バイデン氏以外の候補者」が64%と大多数を占め、「バイデン氏」は26%と3割を下回りました。

その理由として、「年齢」33%、「仕事ぶり」32%、「誰か新しい候補者を望む」12%、「進歩が十分でない」10%などが挙がった。バイデン氏の大統領としての仕事ぶりに対する支持率は33%(「強く賛同する」13%、「やや賛同する」20%)にとどまりました。

米国が現在直面する最も重要な問題としては、「経済」20%、「インフレ・生活費」15%、「民主主義の状況・政治的分断」11%、「銃に関する政策」10%、「中絶・女性の権利」5%が上位を占めました。

米紙ニューヨーク・タイムズが12日公表した世論調査結果によると、共和党支持層で2024年の大統領選候補としてトランプ前大統領がふさわしいと回答した人が49%に上り、2位以下を圧倒した。党内でトランプ氏の人気が依然として高いことを裏付けました。

5~7日に共和党支持者350人を対象に行われた調査では、過激な言動で知られ「ミニ・トランプ」ともあだ名される南部フロリダ州のデサンティス知事が25%で2位。クルーズ上院議員が7%、ペンス前副大統領とヘイリー元国連大使がそれぞれ6%、ポンペオ前国務長官が2%で続きました。

一方、共和党支持層の中でも若者や高学歴の人には「トランプ離れ」の傾向も見られた。トランプ氏と回答した人を年齢別に見ると、45~64歳で53%だったのに対し、18~29歳では41%。最終学歴が大卒未満の人では58%に上ったが、大卒以上では28%にとどまりました。

次の米大統領選挙は2024年ですから、どうなるかは今のところ未知数ですが、現時点ではトランプ氏が再選される可能性もあるということです。そうして、トランプ、バイデンの再対決ということになれば、トランプのほうが若干有利なようです。

ただ、やはり中間選挙の結果をみないとなんともいないところがあります。

中間選挙は、議会や各候補への評価だけでなく、現職大統領の2年間の政策への「信任投票」の意味合いがあるからです。任期2年の下院は全435議席、任期が6年の上院は全100議席のうち3分の1が改選の対象となります。


上院選で争う35議席のうち民主党の現有議席は14、共和党は21です。上院は両党の議席が50ずつで拮抗しており、民主党が1議席でも減らせばバイデン政権は法案や意中の人事案を通すのに共和党の協力が欠かせなくなります。中間選挙は政権与党に厳しい目が向けられ、大統領選で勝った政党が議席を減らす場合が多いです。オバマ元大統領の民主党は2010年、14年に上下院とも議席を減らしました。

大統領選と同時に実施される議会選挙に比べ、有権者の関心が低いため大統領選よりも低投票率になりやすいです。一方、2年後の大統領選に向けて各州の有権者の動向を探る試金石として注目されています。

ギャラップが5月2日から22日にかけて米国の成人1007人を対象に行った世論調査で、バイデン大統領の支持率は41%でした。また、議会の支持率は18%、経済を前向きに評価する人の割合はわずか14%でしたた。

これらの数値はすべて、1974年以降の中間選挙の年の平均を10ポイント以上下回っていました。バイデン大統領の支持率(41%)は、2018年のトランプ前大統領と同率で、2006年のジョージ・W・ブッシュ前大統領(38%)をわずかに上回りました。

ギャラップのデータは、今年の中間選挙で民主党が議席を減らす可能性が高く、このような低い評価が続けば通常より多くの議席を失うことを示唆しました。

1974年以降のデータで、中間選挙で大統領の所属政党が失う議席数の平均は23議席とされています。この数字は、大統領や議会の支持率に応じて変動し、共和党はトランプ前大統領の支持率が41%だった2018年に40議席を失いました。一方、民主党は、オバマ前大統領の支持率が45%だった2010年に63議席を失いました。オバマの支持率は現状のバイデンよりも高かったのですが、議会の支持率は21%で、31%が経済を否定的に捉えていました。

ここで気になるのは、中間選挙における民主党の動向です。共和党は下院で5議席、拮抗状態にある上院では1議席を獲得すれば議会の支配権を獲得できます。ギャラップは、現在の傾向から中間選挙が共和党に勝利をもたらす可能性があると予測しています。

民主党が11月までにどのように巻き返しを図れるかを考えた場合、例えば、最高裁は今後の数週間で「ロー対ウェイド判決」(1973年に下された妊娠中絶の権利を認める判決)を覆し、各州に中絶を禁止させる判決を出しましたが、この動きは人々の投票を促し、民主党の追い風になるでしょう。また、ギャラップによると、一連の銃乱射事件をきっかけに高まった銃規制をめぐる議論も、中間選挙に重要な役割を果たす可能性があります。

連邦最高裁前で抗議する中絶反対派と女性の選択権支持派(6月23日、米ワシントン)

ただ、いまのところ民主党に有利な動きはこれくらいなものです。私自身は、バイデンが上の記事で主張しているように、左派との「対決」姿勢を見せたからといってそれだけでは情勢は変わらないと思います。

よほどのことがない限り、民主党は中間選挙で大敗するでしょう。そうすると、トランプの大統領再選への目がでてくることにはなりますが、これも今の時点では、まだ見えないことが多すぎです。

ただ一つ言えるのは、トランプ氏の大統領再選は絶対にないとは言い切れないということです。

特に、今後インフレが収束せずに、中間選挙になれば民主党はボロ負けして、共和党が躍進するでしょう。そうして、これはサマーズ氏も予告しているのですが、2024年の大統領選挙の頃に、インフレが継続していれば、トランプ氏が再選される可能性が高まります。

私としては、2024年にインフレが収拾するだけではなく、経済がある程度回復していなければ、トランプ再選の可能性は高まるものと思います。

特に日々利用する、ガソリン価格をはじめとするエネルギー価格に対して米国人は敏感です。他に成果があったにしても、エネルギー価格が高騰している限り、民主党は中間選挙で敗北し、バイデンの大統領再選の道は険しく、トランプ再選の可能性は高まることになるでしょう。

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2022年7月12日火曜日

安倍氏死去/頼副総統、安倍元首相の葬儀に参列 今夜帰国/台湾―【私の論評】安倍元首相がなぜ世界から称賛されるのか、その本質を理解する人こそ安倍晋三氏の遺志を引き継ぐ人(゚д゚)!

安倍氏死去/頼副総統、安倍元首相の葬儀に参列 今夜帰国/台湾

安倍元首相の葬儀への参列を終え、会場の増上寺を後にする頼副総統

 安倍晋三元首相の弔問のために訪日している頼清徳(らいせいとく)副総統は12日、東京・港区の増上寺で営まれた葬儀に参列した。頼氏は同日夜に台湾に戻る予定。

 頼氏を乗せた車は12日午後0時34分ごろ、増上寺に到着した。葬儀は安倍氏の近親者らで執り行われた。頼氏は葬儀への参列を終えた後、同午後に帰国の途に就くとみられる。

【私の論評】安倍元首相がなぜ世界から称賛されるのか、その本質を理解する人こそ安倍晋三氏の遺志を引き継ぐ人(゚д゚)!

安倍元総理を悼み 台湾・蔡英文総統が台北市内の特設会場に弔問

蔡英文総統は11日朝、日本台湾交流協会台北事務所(台北市松山区。台湾における日本大使館に相当)を弔問に訪れ、亡くなった安倍晋三元首相の遺影に花を手向けました。

蔡総統は日本台湾交流協会に到着後、安倍元首相の遺影前で献花を行い、深々とお辞儀をした。また、色紙(写真下)に「台湾の永遠の良き友へ。台日友好と世界の民主主義、自由、人権、平和のために尽くしたあなたの貢献に感謝します」としたためました。


現在時代が動き、世界の秩序が変わろとしています。そうして、この現在を作ったのは米国でも英国でもロシアでも独仏でも中国でもありません。「アジアの民主的安全保障ダイヤモンド」を10年前に英語で発表した、安倍晋三氏という傑出した政治家に他ならないのです。

「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」は、2012年の第2次安倍政権発足直後、首相名で発表されたチェコ・プラハに所在地がある言論サイト「ブロジェクト・シンジケート」の英文の論文「アジア民主主義防護のダイアモンド」構想が最初でした。中国の台頭に対抗することを念頭に置いて、インド、ASEAN、オーストラリア、アメリカ、それに英国、フランスまでが加わる日本発の安全保障構想です。


米国はこの構想に基づいて、ハワイに本拠を多く太平洋軍の名称を「インド太平洋軍」と改称し、インド軍、自衛隊、オーストラリア軍などが加わる軍事訓練を重ねています。

これが2012年暮れに公開されているということに注目していただきたいです。この時点で中国に対してここまで懸念を抱いていた世界のリーダーは、先進国中では当時の安倍総裁(当時は総理大臣になる直前)のみだったと思います。

そうして、これを念頭に当時の安倍総理は、外交、安全保障、経済でも改革をしようとし、実際にできたもの、積み残したものもありますが、インド太平洋戦略を現実のものにしたことは、大きな功績です。優れた構想をだすだけ、あるはすでに確立された構想を実現する人は過去にも多数いたと思いますが、その両方を実現した人は稀です。

中国は、以前は日本を見下していました。実際に、1994 年中国の当時の李鵬首相が、オーストラリアを訪問した時に、当時の オーストラリアのジョン・ハワード首相に向かって 「い まの日本の繁栄は一時的なものであだ花です。 その繁栄を創ってきた世代の日本人がもう すぐこの世からいなくなりますから、20 年もしたら国として存在していないのではないで しょうか。 中国か韓国、 あるいは朝鮮の属国にでもなっているかもしれません」 という 発言をしました。

ところが安倍政権が誕生して以降、気がつけば日本が中国包囲網の中心になっていたのです。 安倍総理大臣が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICADVI)の場で提唱してから5年以上が経過し、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現することの重要性が、国際社会で広く共有されてきています。

当時の安倍首相がこの構想を出したとき、中国はほとんど気にしていませんでした。しかし、その枠組みが目の前にでき上がってしまったということが、彼らの誤算でした。しかも「AUKUS(オーカス)」、「ファイブ・アイズ」という2つ枠組みがあり、アジアのなかでは日本だけが枠組みの一部に入るような事態も招いたともいえます。

しかし、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

ジョー・バイデン米大統領は5月23日の日米首脳会談後の共同記者会見で、「台湾防衛への軍事的関与」を明言しました。この発言は失言なのか、それとも意図的なものなのか、現在でも論争の的になっています。

これには、この直前に公表された安倍論文が関係しているのではないかと言う有力な説があります。

これについては、以前もこのブログに掲載しました。その記事より以下に一部を引用します。

米国においては、もはや中国に対峙する姿勢は、上下左右から支持され、米国の意思となったといって過言ではありません。現在米国では中国に融和的発言をすれば、米国に対する裏切り行為だと指弾されかねません。

台湾を巡っても、中国に融和的な発言をすれば、ウクライナ侵攻直前にロシアのウクライナ侵攻に米軍を派遣することはないと名言したときのように、大反発をくらい、それこそ中間選挙では大敗確実になるのでしょう。

そうしてこれには、4月12日にチェコ・プラハに所在地がある言論サイト「ブロジェクト・シンジケート」に安倍元総理が発表した、米国は台湾防衛に曖昧戦略はやめよと主張した英語論文の影響もあることでしょう。


同論文は瞬く間に反響を呼び、「ロサンゼルス・タイムズ」や仏紙「ルモンド」など、米国をはじめ30カ国・地域近くのメディアで掲載されました。

同論文では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を台湾有事と重ねたうえで、米国がこれまで続けてきた「曖昧戦略」を改め、中国が台湾を侵攻した場合に防衛の意思を明確にすべきだと主張しています。

1979年、米国は中国と国交を結んで台湾と断交し、台湾に防御兵器を提供することを定めた「台湾関係法」を制定しました。しかし、中国が台湾へ軍事侵攻した場合、米国が軍事介入するかどうかについては明らかになっていません。安倍氏は、この「曖昧戦略」を見直すべきだと主張しています。

まさに、この論文は、世界中の様々なメディアに共有され、SNSで拡散されました。なぜそこのようなことになったのかといえば、 「アジア民主主義防護のダイアモンド」構想 は、その後の世界に大きな影響を与え、まさに現在の世界はこの構想の通り動いているからです。

そのような論文を書いた、安倍氏がまた論文を掲載して、 米国は台湾防衛に曖昧戦略はやめよと主張しているわけですから、バイデン大統領も「米国はこれからも曖昧戦略を継続する」と、はっきりとは言いづらかったのだと思います。

そうして、世界の多くの人は、また安倍氏の論文が世界のスタンダートになっていくだろうと見ていると思います。

ところが、日本ではこうした現在世界のスタンダードとなっている考え方を記した安倍論文のことをマスコミはほとんど報道しませんでした。 また、それに向かって国内外で着々と努力を積み重ねていったこともほとんど報道しませんでした。

林外相は閣議後の記者会見で、これまで259の国や地域、機関から1700件以上寄せられていることを明らかにしました。

林外相は「多数のメッセージが寄せられていることを受けて、改めて外交に残された大きな足跡を感じている」と語りました。

また、林外相は「安倍元首相は地球儀を俯瞰する外交を実践し、多大なる功績を残された。積極的な首脳外交を展開し、各国地域と良好な関係を築かれた」と述べた上で、哀悼の意を表しました。

林外相は残念ながら、安倍元首相の本当の外交の成果をしっかりと認識していません。安倍首相は地球儀外交をして、各国地域と良好な関係を築いたから、称賛されているのではありません。

「アジア民主主義防護のダイアモンド」構想を公表し、公表しただけでなく、本当に世界がこの構想通りになるように国内外で行動し、今日インド太平洋地域の構造を作り上げたからこそ、称賛されているのです。これを一言も語らないというか語れないのが、認識していない証拠です。

この本質を理解する人こそ、政治家であろうがなかろうが、どのような立場や地位にいようが、年齢や性別に関わらず、安倍晋三氏の遺志を引き継ぐ人であると私は思います。安倍元総理の論文がマスコミに報道されず、日本国内ではほとんど目立たかなかったのと同じく、こういう人たちも今は目立たないでしょうが、しかしこういう人たちが、さらにこれを理解する人たちを増やし、日本を変える原動力になっていくのは間違いないと思います。

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2022年7月11日月曜日

自民大勝「安倍元首相が力くれた」 内閣改造・人事 政界への影響―【私の論評】「黄金の3年間」に安倍元総理の遺志を引き継ぐ議員と国民がとるべき行動(゚д゚)!

自民大勝「安倍元首相が力くれた」 内閣改造・人事 政界への影響

開票センターで当確者の名前に花を付ける自民党総裁の岸田首相(右)と高市政調会長=10日午後9時50分、東京・永田町の党本部

 参議院選挙での自民党大勝を受け、安倍元首相が銃撃され死亡した事件が、今後の政界に与える影響について、国会記者会館から、フジテレビ政治部・門脇功樹記者が中継でお伝えする。  今回の自民党の勝利について、安倍派の幹部は、「安倍元首相が力をくれた結果だ」と語っている。  参議院選挙の選挙運動の期間中、安倍元首相は、北海道や新潟など接戦区を中心に応援演説に入ったが、FNNが調べたところ、安倍氏が入った14選挙区全てで勝利を収めていた。  事件は投票日の2日前に起きたが、ある関係者は「弔い選挙の様相を帯びた最終日に岸田首相が入った大接戦の山梨・新潟は大差での勝利となった」と話している。  一方、党内からは「安倍元首相が、保守派のよりどころになって意見をまとめ、岸田政権とのバランスを保っていた。それが大きく崩れた」と、政権への影響を懸念する声も出ている。  岸田首相は参院選を受けて、内閣改造や党役員人事に向けた調整を進めるが、これまで以上に、党内への配慮が必要になるとみられる。

【私の論評】「黄金の3年間」に安倍元総理の遺志を引き継ぐ議員と国民がとるべき行動(゚д゚)!

参院選から一夜明けた11日、岸田首相は自民党本部で党総裁としての記者会見を行い、内閣改造や党役員人事について「党の結束を大事にしていかなければらならない」と述べました。

岸田首相は会見で内閣改造や党役員人事について「タイミングや内容を考えていかなければいけないが、今の時点では具体的なものは何も決めてはいない」と述べました。

その上で、岸田首相は「厳しい様々な課題を前にして党の結束を大事にしていかなければならない。そういった思いで人事等についても考えていきたい」と述べました。

安倍元総理が亡くなった直後なので、今後の安倍元総理が亡くなったことを受けて、今後の政局の動きなどを考えるのは、まだ時期尚早かもしれません。ただ、やはりかんがえて置かなければならないでしょう。

特に、安倍総理の遺志を引き継ぎ継承していくという観点からもこれはなおざりにできません。

安全保障や物価高について舌戦が繰り広げられるなか、選挙戦最終盤で安倍晋三元首相が暴漢に銃撃され、死去する衝撃的な事件が起きました。自民党の勢いを加速させたのは、「安倍氏の喪失」に危機感を募らせた岩盤保守層が、自民党に〝保守政党〟としての自覚を促した一押しだったとの見方があります。

岸田政権の基盤は強固になりましたが、「憲法改正」や「防衛力強化」を着実に推し進められるのでしょうか。9月までに実施する方向の「内閣改造・党役員人事」を含めて真価が問われることになるのは間違いないです。

「大勝の決め手は、岸田政権への信任ではない。安倍元首相が象徴する『保守・自民党への期待』であり、『野党への圧倒的不信任』だろう。岸田首相は、有権者、国民が期待する国家運営、政策実現に全身全霊を尽くすべきだ」

政治学者の岩田温氏は選挙結果について、こう分析しました。


報道各社の世論調査では、序盤から「自公与党優勢、野党苦戦」が伝えられてきました。だが、自民党が激戦区も含めて多くの小選挙区で競り勝ち、比例も上積みを見せたのは、安倍氏の「非業の死」を受けた、保守系有権者の投票行動だという見方です。

岩田氏は「国家観、安全保障、経済政策など、各政策で自民党を『真の保守』たらしめていたのは、『安倍晋三』という存在だった。その存在を失い、自民党の未来は大いに不安だ。安倍氏の後継者といえる人物も今のところ、見当たらない。安倍氏が実現できなかった政策がある。『憲法改正』と、国防を確かにする『防衛費増額』だ。岸田政権はこれを実現する責務がある。そうでなければ、安倍政権の継承は名乗れない」と指摘します。

岸田政権は今後、衆院を解散しなければ、3年間は国政選挙がなく、国家運営に専念できる「黄金の3年」と呼ばれる時期を迎えます。自民党と公明党、改憲に前向きな日本維新の会、国民民主党の合計議席は憲法改正の国会発議に必要な参院3分の2を大きく超えています。

国政の焦点である「憲法改正」への条件は整っています。これへの取り組みで、岸田政権の真剣さが、はっきり見えてくることになります。近く行われるであろう自民党役員人事・内閣改造が、岸田政権の試金石となるでしょう。

安倍晋三元首相の遺体を乗せた車を待つ自民党の高市早苗政調会長(右から2人目)と福田達夫総務会長(同3人目)=9日午後、東京都渋谷区

憲法改正の推進力は紛れもなく、安倍氏でした。政策が近い高市早苗政調会長をどう処遇するるでしょうか。仮に、高市氏を外し、後任を清和政策研究会(安倍派)からも取らなければ、憲法改正や防衛強化への岸田政権の決意は、極めて疑わしくなります。

ウクライナに侵攻したロシアや、覇権主義を強める中国は、日本周辺で協調して軍事活動を活発化させています。核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮の脅威も深刻です。

参院選では、泉健太代表の立憲民主党などが議席を減らし、松井一郎代表(大阪市長)の日本維新の会が躍進しました。「憲法9条への自衛隊明記」などの憲法改正に反対し、「護憲」に固執する左派政党に、有権者は厳しい審判を下したといえます。

岸田首相が領袖(りょうしゅう)を務める宏池会はリベラル色が強く、選挙後の岸田政権の対応には懸念も指摘されます。安倍氏の積み上げた、「憲法改正」や「防衛力強化」に向けた基盤を、岸田首相は前進させられるのか。厳しい視線が注がれることになります。

それと、もう一つ考えておかなければならないことがあります。安倍元総理は凶弾に倒れました。しかし、日本は終わっていません。円高を求めるあまり、需要不足の真っ只中で、金利を上げ、また財政の辻褄合わせの為に緊縮財政を目指すようなことがあれば。安倍総理が心配していた「失敗への道」を繰り返すことになります。

「失敗への」道を繰り返せば、自民党はまた短期で政権交替がおこることになるでしょう。岸田政権は民主党による政権交代直前の麻生政権のようになりかねません。

安倍元首相がご存命であれば、このようなことは起こらないかもしれません。しかし、今後はそのようなことが起こりかねません。

自民党の安倍元総理の遺志を引き継ごうという人たちは、安倍元総理の行動をよく研究すべきです。ただし、研究して、ある事象があったときに安倍元首相はどのような対応をしてどう成功したなど因果律だけに注目するので終わらせることなく、安倍元首相の行動を原理原則にまとめるべきです。

原理原則とは原理原則については以前このブログにも掲載したことがあります。経営学の大家であるドラッカー氏はマネジメントにおける原理原則を論じています。

そのためでしょうか、因果律を重んじる現在の米国の経営学においては、ドラッカーの原理原則を論じる経営学はほとんど忘れ去られているそうです。残念なことです。

さて、原理原則とはどのようなものか、以前書いた記事から引用します。
原理原則とは誰もが単純に理解できるものでなければ、原理原則になり得ません。ただし、原理原則が成立するまでには、科学的検証はもとより、様々な経験や失敗があり、その上に原理原則が成立し、高校や大学の教科書などにも記載されているのです。

そうして、財政政策の原理原則も簡単です。景気が悪ければ、積極財政と金融緩和を、景気が良ければ、緊縮財政と金融引締をするというものです。

そうして、景気の状況を見分ける原理原則も簡単です。一番重要なのは、失業率です。たとえば、景気が悪い時には失業率があがります。そうなれば、積極財政や金融緩和を行います。それで失業率が下がり始めますが、ある時点になれば、積極財政や金融緩和をしても、物価は上がるものの、失業率は下がらなくなります。その時点になったことが、はっきりすれば、積極財政や金融緩和をやめれば良いのです。

反対に景気が過熱してはっきりとしたインフレ状況の場合は、緊縮財政、金融引締を行います。そうすると、物価が下がり始めます、しかしこれも継続していると、やかで物価は下がらず、失業率が上がっていく状況になります。そうなれば、緊縮財政、金融引締をやめます。

基本的には、政府の財政政策と日銀(日本の中央銀行)の金融政策の基本です。さらに、もう一つあげておきます。それはデフレへの対処です。日本人は平成年間のほんどとはデフレであったため、デフレと聴いてもさほど驚かなくなってしまいましたが、デフレは景気・不景気を繰り返す通常の経済循環から逸脱した状況です。デフレが異常であるというのは、疑う余地のない原理原則です。

これは、財政・金融政策に関する原理原則です。あまりにも当たり前の原理原則です。しかし、経済関してはこの原理原則を踏襲していれば、ほぼ間違いはありません。

ただ、この原理原則を曲げて、隙きあらば増税しよう、緊縮しようというのが財務省です。そうして、アベノミックスを掲げて、積極財政をしようとした安倍元総理ですが、財務省の抵抗にあり、結局在任中に2度も消費税増税をせざるを得なくなりました。

ただ、安倍総理は在任中には、2度消費税増税の引き上げを延長しています。さらに、コロナ対策においては、安倍・菅両政権で合計100兆円の補正予算を捻出し、様々な対策を行い、両政権期間中の失業率は2%台で推移しました。これは、大いに参考にすべきです。この時の安倍元総理の行動など仔細に分析して、財務省への対処法を原理原則としてまとめておくと良いと思います。

外交でも、Quadの設立や、インド太平洋戦略などに尽力されました。これらも参考にすべきです。

マスコミや野党などは、安倍総理の功績を無視して、批判ばかりしますが、こうした論調に引きずられることなく、様々な成果に至ったその行動を学び、そこから原理原則を導くべきです。

原理原則化することにより、その内容を誰にでも伝えられます。原理原則にあてはまることなら、 すぐに解決できます。そうして、原理原則を多数つくっておけば、そこから外れる例外的な問題に集中することができます。

そうして、原理原則はきちんと文書にまとめ、勉強会などで公表できる形にすれば、さらに効率的になります。

そうして、例外的な問題に関しても、それを解決した後にその対処法など、原理原則化すれば、さらに例外は少なくなります。

こうすることにより迅速に行動できます。このようなやり方で、岸田総理がモタモタしたり、安倍元総理の遺志を引き継ごうとするたちに対して障害になるようであれば、素早く動いて、機先を制することなどができると思います。

「黄金の3年間」には、保守派は、安倍元総理の遺志を成就させるべく、反対派の自民党有力議員に陳情し、賛成派にまわるようにし、安倍元総理の遺志を引き継ごうとする議員たちは、原理原則に基づいて行動し、安倍元総理の遺志を実現すべきです。

特に、現在はSNSでも陳情できる便利な世の中になりました。これを利用しない手はないと思います。そうすることにより、安倍元総理の遺志を引き継ぐ議員たちを実質的に応援することにもなります。野党・マスコミ批判をするなとはいいませんが、批判ばかりしていても、得るところは少ないです。それよりも、自民党大物議員で意見が異なるひとたちに陳情しましょう。

そうして、この3年間を文字通り私たちの「黄金の3年間」にすべきです。

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2022年7月10日日曜日

一色正春氏「捜査当局がリークする情報への注意点」をFBで公表―【私の論評】不可解な安倍元首相暗殺報道(゚д゚)!

一色正春氏「捜査当局がリークする情報への注意点」をFBで公表

一色正春氏

一色正春氏は、今回の暗殺事件に関して捜査当局がリークする情報の留意点を自身のフェイスブックで公開しました。その内容を以下に掲載します。

クリックすると拡大します

【私の論評】不可解な安倍元首相暗殺報道(゚д゚)!

今回の暗殺事件のマスコミの取り上げ方当初から疑問を感じました。なんと行っても、山上容疑者が、海上自衛隊に在籍したことが強調されていますが、2004年に任期を満了しています。つまり18年も前のことです。しかも一任期3年間だけの勤務です。

海上自衛隊の名誉のために述べますが、山上容疑者は護衛艦の見習の砲雷科員、その後、術科学校の練習船で勤務したといいます。銃の射撃訓練は年1回程度あるも、銃や弾丸を作る訓練など存在しません。このテロ事件と自衛隊との関係を強調し過ぎることには、問題があります。

海外の報道では”暗殺”という言葉も ”統一教会”の名も出しているのに 日本の報道各社は ”暗殺”とはいわないし 特定の宗教団体とはいうものの ”統一教会”の名は出さないです。

きわめつけは、以下の写真です。安倍元首相の暗殺の大手新聞の第一報が、全部一字一句違わず「安倍元首相撃たれ死亡」です。


大規模な災害や事件など、マスコミの報道によって世の中を乱す可能性がある場合は、警察は「報道管制」という方法を用いて混乱を回避することもあるとされていますが、これも「報道管制」ではないかとみなしても不自然ではないと思います。

山上容疑者が、母親が宗教団体に多額の寄付して、破産したことを恨みに思って暗殺に及んだらしいことが、報道されていますが、これは2002年のことだとされています。二十年もたってから犯行に及ぶというのも不自然です。

犯人がまだ詳細に供述もしていない段階で「政治思想的な背景はない」と真っ先に報道されたのも不自然です。

警視庁のSPや奈良県警による警備が甘かったという批判がありますが、3月に札幌地裁で出た判決を思い出した人は多いはずです。安倍氏の札幌での選挙演説中に「安倍辞めろ」とヤジを飛ばし警官に制止された男女が「政治的表現の自由を奪われた」と訴えて勝訴しました。

安倍首相へのヤジに対する、警察官の「実力行使」が「違法」と判断された判決は、北海道警、警察庁に衝撃を与えました。

判決を受けて札幌地裁前で心情を語る原告の大杉雅栄氏(右端)と紙を掲げる原告の桃井希生氏(右から3人目)

たとえ明らかに演説妨害に見えるヤジであっても「表現の自由」であるならば、街頭演説における警備というのはやりにくくなるでしょう。あの判決以来、現場で警官による職務質問が減っているという話を聞いたことがあります。 今回も容疑者がふらふらと近づいてきた時に、なぜ現場の警官が職質しなかったのか不思議でした。もしそういう「空気」があるとしたらこれは極めて危険なことです。

北海道は、排除によって2人の表現の自由が違法に侵害されたと認めた札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴しています。

私自身は、この判決は異常だと思います。街頭演説で演説している人の話の内容が聞き取れなくなるほどをヤジを飛ばせば、これは明らかに演説を聞きたいと考えている人の権利を侵害していることになると思います。

実際2017年には、同じ札幌で当時の安倍総理が応援演説をしているとき、ヤジが飛んだのですが、札幌市民がそれをしている人を叱って止めたということもありました。

学校などで、たとえば校長先生が話をしているときに、その話が聞こえなくなるほどヤジを飛ばした生徒がいたとして、この行為は「表現の自由」として認められるのでしょうか。そのようなことが許されて良いはずがありません。


「闘う政治家」だった安倍氏に対しては攻撃もまた激しかったのですが、中には「許さない」とか「死ね」「お前は人間ではない、叩き切ってやる」とか明らかに常軌を逸したものもありました。

このような表現など、一般社会では到底許されるものではありません。大企業や役所の中でも派閥や、組合の違いがあったとしても、ここまでひどい罵声を浴びせることはないでしょう。

私自身もこのプログを書いていますが、たとえば民主政権時代においては、民主党政権をかなり強い調子で批判したりしたことがありますが、是々非々で批判したものであって、総理大臣に向かって、「許さない」「死ね」ましてや「叩き切って」やるなどという罵声を浴びせかけたことはありません。というより、そんなことできません。これが平気でできる人は、精神が病んでいると思います。

こうしたことの流れの延長として、「保育園落ちた日本死ね!!!」発言が出てきたのだと思います。マスコミはこの言葉を褒めそやしました。それどころが、この言葉が「流行語大賞」を受賞しました。これ自体信じがたいことです。私は、この言葉到底容認できません。日本が本当に死んだらどういうことになるでしょうか。

こういうことが許容されてしまい、安倍晋三氏への個人攻撃が当たり前となってしまい、安倍晋三氏になら何を言っても構わないという雰囲気が醸成され、ヤジを表現の自由とする判決が出たり、様々な要因が重なり、安倍元首相の暗殺に結びついた面は否めないと思います。

裁判においては、このあたりも含めて明らかにしていただきたいものです。

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2022年7月9日土曜日

対露経済制裁は効果出ている 3年続けばソ連崩壊級の打撃も…短期的な戦争遂行不能は期待薄―【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)!

日本の解き方





 ウクライナ侵攻を受けて、欧米や日本など西側諸国はロシアに経済制裁を実施しているが、これまでのところどのような効果を発揮しているのか。

 対露制裁としては、カネに関する①金融制裁②対外資産凍結と、モノに関する③ロシアからの輸入規制④ロシアへの輸出規制―に大別できる。

 これらの経済制裁に参加している国は、欧米中心だ。3月7日にロシアが公表した非友好国リストでは、米国、カナダ、欧州連合(EU)全加盟27カ国、英国、ウクライナ、モンテネグロ、スイス、アルバニア、アンドラ、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、サンマリノ、北マケドニア、日本、韓国、オーストラリア、ミクロネシア、ニュージーランド、シンガポール、台湾の計48カ国となっている。

 中国やインドなどアジア諸国、中東諸国は経済制裁に参加していない。この意味からいえば、経済制裁には抜け穴があるので、それを使った取引も少なくなく、そうした事例を使えば、経済制裁は効果がないという説明も可能だろう。

 しかし、いくら個別事例を挙げても、制裁でどれだけロシア経済が疲弊しているかを説明しないと意味がない。経済制裁は効くか効かないかという二択ではなく、どの程度ロシア経済にダメージを与えているかという観点からの分析が必要だ。

 戦時経済ではよくあることだが、ウクライナ侵攻以降、ロシアは貿易統計を公表していない。国内の経済統計についても公表しないか、公表しても信用するのは難しい。

 ただし、他国のロシア向け輸出やロシアからの輸入については分かるので、輸出入の実態はロシアからの公表がなくてもある程度推測できる。

 5月13日の英エコノミスト誌によれば、ウクライナ侵攻以降、ロシアの輸入は44%減少、輸出は8%減少した。輸出の減少が抑えられているのは、エネルギー価格の上昇にも支えられているという。

 これらからロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう。これは、リーマン・ショック並みの影響だといえ、これが3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになる。

 この推計は、国際通貨基金(IMF)など国際機関の経済見通しとも整合的である。こうしたロシア経済への影響が全て経済制裁によるものとはいえないが、ロシアは自国が戦火にさらされているわけではないので、かなりの部分は制裁によるものと考えていいだろう。

 実際、ミクロでみても、ロシアに対する輸出規制により、部品やIT機器が入ってこないので、ロシアの自動車産業は壊滅的になっている。その結果、かなりの雇用も失われているはずだ。軍事産業に対しては、各種の抜け穴を使って影響を最小限度にとどめているのだろうが、ロシア国民が徐々に困窮していくことは避けられない。

 ただし、こうした経済制裁によってロシアの戦争遂行能力が不能になることは短期的には期待できない。あくまで長期的にロシアの国力を奪うものだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)!

上の記事で、高橋洋一氏は、「ロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう」としています。そうして、「この推計は、国際通貨基金(IMF)など国際機関の経済見通しとも整合的である」としています。

4月19日に国際通貨基金(IMF)は、新たな世界経済見通しを発表しました。1月の前回見通しから、2022年の世界の成長率見通しを0.8%ポイント下方修正して+3.6%、2023年は0.2%ポイント下方修正して同じく+3.6%としました。

ウクライナ紛争の当事国であるウクライナの成長率見通しは2022年に-35.0%、ロシアは-8.5%となりました。ロシアの成長率見通しは、他の国際機関などの見通しと比べてやや高めですが、これは、ルーブル相場の持ち直しを受けて、物価高騰による経済の押し下げ効果が小さくなったことを反映していると見られます。

ただしIMFのチーフエコノミストのグランシャ氏は、通貨ルーブルが回復しても、高インフレなどのロシア経済の状況には変わりはなく、ウクライナ侵攻に伴う一連の制裁で受けた打撃からすぐには立ち直らない、との見方を示しています。

さらに同氏は、対ロシア制裁が強化され、エネルギー輸出も制限されれば、ロシア経済は2023年までに17%のマイナス成長に陥る可能性がある、との予想を示しています。その場合、エネルギー価格の上昇、センチメントの悪化、金融市場の混乱などの波及的な影響によって、世界経済の成長率見通しがさらに2%ポイントも押し下げられる恐れがある、と述べています

ロシアは、燃料や弾薬などは自給できる国ですし、この備蓄量もかなりあるとみられています。ロシア軍は、秋の大演習の1週間で10万トンの弾薬を使います。彼らはものすごい量の補給はできます。

ロシア軍が単に戦争を継続するとか、ウクライナ東部に居座り続けるだけであれば、ある程度の期間は続けられるでしょう。ウクライナ東部はロシア本土からも近いですから、兵たんの負担もそれほど大きくなくて済みます。長期にわたってここで戦線膠着させて持ちこたえるということは、ありうるでしょう。ただ、制裁が続けば3年後には、それすらできなくなる可能性が高いです。

ただ、そうではあっても、数年という期間でみれば、リーマン・ショック並みの影響が3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになるのは間違いないでしょう。

2008年リーマンショックのときにはロシア経済は一気に落ち込んでいる

これは、ロシアにとっては間違いなく甚大な被害です。3年でソ連崩壊のときのようなことになるのは容易に想像がつきます。ただ、それが現在でも明確に予想されるのです。

問題は、3年という数字をどうとらえるかということです。これは、経済的制裁の期間としては決して長い期間とは言えないと思います。

たとえば、緩やかなインフレだと、賃金はあがります、ただ数年ですぐに2倍、3倍になるかといえば、そのようなことなく、一年では誤差くらいにしか思えないですが、20年〜 30年経つと倍になるという状況です。

「マジックナンバー69」と言う賃金倍増の法則があります。実質成長率が3%の場合69÷3=23つまり23年で賃金が倍になります。成長率が2%でも約35年で給料は倍になります。経済成長がいかに大事かということが理解できると思います。当然の事ながらこれはデフレ状況では絶対に不可能なのです。実質経済成長率が3%台というのは、私が実感できる数字で1980年代前半と同じです。


そうして、この給料が倍というのは、同じ会社で同じ職位であったとしてもそうなるということです。日本でも以前はこのような時代があったということです。誰もが先に希望が持てた時代といえます。

以前、どのようになれば賃金が上がったと実感できるかというアンケートがあり、それに「1年で倍」などと答えている人がいたのに驚いたことがあります。

このようなせっかちな人なら、3年という数字を聞くと、気の長くなる話に思えるのかもしれませんが、しかしロシアを疲弊させるということでは、決して長い期間とは言えないと思います。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

ただ、短期に終わらせることもできます。それは、NATOが直接参戦して、ロシア本土を攻撃することです。そうなるとは、ロシアは核兵器を使うことでしょう。それに対抗して欧米諸国も核兵器を使うでしょう。そうなれば、戦争の決着はすぐつくかもしませんが、世界中が核兵器で破壊されてしまうことになります。

そうして、世界はその後復興するのに何十年もかかると思います。それと、3年とを比較すれば、3年のほうがはるかに短いです。

これと、経済制裁がどちらが良いかといえば、経済制裁に決まっています。そうして、経済制裁でロシア経済がソ連崩壊地並に破綻するとみられるのは3年後ということになりますが、それは決して長いとは言えないと思います。


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2022年7月8日金曜日

安倍晋三元首相が死亡 街頭演説中に銃撃―【私の論評】政権の支持率を落としても、安保法制を改正し、憲政史上最長の総理大臣となった安倍晋三氏逝く(゚д゚)!

安倍晋三元首相が死亡 街頭演説中に銃撃

街頭演説する安倍元総理 この直後に銃撃された

 奈良市西大寺東町の近鉄大和西大寺駅近くの路上で8日午前、街頭演説中に銃撃された自民党の安倍晋三元首相が同日午後5時すぎ、搬送先の病院で死亡した。67歳だった。

 捜査関係者らによると、安倍元首相は背後から拳銃で撃たれ、搬送されたが心肺停止状態だった。

 奈良県警は殺人未遂の現行犯で、元海上自衛隊員で奈良市の山上徹也容疑者(41)を逮捕。拳銃も押収した。捜査関係者によると、「安倍元首相の政治信条に対する恨みではない」などと供述しているという。警察当局は山上容疑者の取り調べを本格化させ、動機の解明を進める。

 事件は8日午前11時半ごろ発生。総務省消防疔によると、安倍元首相は右首に銃で撃たれた傷があり出血。左胸の皮下出血も確認された。

 岸田文雄首相は官邸で記者団の取材に応じ「民主主義の根幹である選挙が行われている中で起きた卑劣な蛮行であり、決して許すことはできない。最大限の厳しい言葉で非難する」と語った。

【私の論評】政権の支持率を落としても、安保法制を改正し、憲政史上最長の総理大臣となった安倍晋三氏逝く(゚д゚)!

あまりのことに、ショックが大きすぎです。今晩は、ブログを書くのをやめようと思いましたが、気を取り直してやはり書こうと思います。とはいえ、まずは安倍晋三氏のご冥福をお祈りさせていただきます。

今後、安倍総理の生い立ちや経歴、政治家として総理としてなした貢献などが報道されると思いますが、私自身が最大の貢献と思うことがらと、その理由について述べます。

集団的自衛権行使を一部容認する安全保障関連法が施行されて今年3月29日で 丸7年になりました。私は、なんと言ってもこれが最大の日本国民と世界に向けての貢献だと思います。

これがなければ、日本は今のような状況ではなかったと思います。安全保障関連法に関することは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
安保法施行5年、進む日米一体化=武器等防護、豪州に拡大へ―【私の論評】正確には武器防護は一度も行われてないないが、警護は行われ、それが中国等への牽制となっている(゚д゚)!

日本の燃料補給艦から補給を受ける米軍のイージス艦

この記事の元記事より一部を引用します。

 「もう米国から『ブーツ・オン・ザ・グラウンド』『ショー・ザ・フラッグ』と言われるような日本ではなくなっている」。茂木敏充外相(当時)は (同年同月)22日の参院外交防衛委員会で、イラク戦争で自衛隊の貢献を求められた象徴的な言葉を引き合いに、安保法施行後の日米同盟強化を強調しました。

 同法施行により、自衛隊は外国の艦艇や航空機を「武器等防護」の名目で護衛することが可能になった。2017年5月に初めて海自護衛艦が米補給艦を防護して以降、18年は16件、19年は14件と着実に実施。防衛省幹部は「米国からの信頼を得ている証しだ」と胸を張る。

 20年は25件で過去最多となった。内訳は、弾道ミサイル対応を含む情報収集・警戒監視に当たる米艦艇の防護が4件、共同訓練の際の航空機防護が21件だった。

 しかし、自衛隊の任務が拡大する一方で、その活動実態は不透明だ。防衛省は運用状況を毎年公表しているが、分類は「情報収集・警戒監視」「輸送・補給」「共同訓練」といった概要のみ。実施場所や時期も明らかにしていない。岸信夫防衛相は23日の記者会見で「相手(米軍)との関係で発信できる情報も限られてしまう」と理解を求めた。
これがまさに安倍総理の最大の貢献だと思います。

この記事からさらに【私の論評】の部分から一部を引用します。
安保関連法がもしなかったとしたら、トランプ前政権の時代は大変だったでしょうし、バイデン政権にも不興を買う恐れは十分にありました。2015年当時にやっておいて本当によかったです。当時は、マスコミも憲法学者も左派・リベラルも安保法制には大反対でした。

選挙などには明らかに不利になることを覚悟で当時の安倍総理は。安保法制の改正に取り組みました。ただ、中国や北朝鮮の脅威が高まりはじめていた当時には、いずれ誰ががやらなければ ならかったことは明らかでした。
安全保障関連法案(安保法案)が2015年7月16日、衆院本会議で可決されました。以下にその概要をまとめておきます。

法案は、新しくつくられる「国際平和支援法案」と、自衛隊法改正案など10の法律の改正案を一つにまとめた「平和安全法制整備法案」からなります。
  • 集団的自衛権を認める
  • 自衛隊の活動範囲や、使用できる武器を拡大する
  • 有事の際に自衛隊を派遣するまでの国会議論の時間を短縮する
  • 在外邦人救出や米艦防護を可能になる
  • 武器使用基準を緩和
  • 上官に反抗した場合の処罰規定を追加

などが盛り込まれました。歴代内閣が否定してきた集団的自衛権の行使容認がなされることになったのです。


安保関連法の審議のとき、年配のワイドショー民などは、「安保法制」が成立すれば、「成立した途端に戦争になる」と語っていましたが、あれはどうなったのでしょうか。

この安保関連法の改正がなかったら、現在の日本はなかったと思います。そもそも、米国や英国などからまともな独立国としては扱ってもらえなかったでしょう。日本の総理大臣が、世界を飛び回って、「あれをします。これをします」などと安全保障関連で、約束しても、「日本は特殊な国だから」といって金はうけとりはするものの、その他は請け合ってはもらえなかったでしょう。

ただ、集団的自衛権の行使という点で言えば、現憲法9条を超えてしまうのではないかという意見もあります。本来ならば憲法を改正して、集団的自衛権の行使を憲法上で認めた上で、こういう法制ができればよかったというものです。

しかし北朝鮮問題など、日本を取り巻く国際情勢等を考えると憲法改正には時間がかかるので、これを先にやらなければ、いまそこにある危機に対して対処できないということで、これが先に進めたと考えられています。ですかこの7年間で、国民投票まで行かないにしても憲法改正が進んだのかと言うと、まったく進んでいません。

結果的にそのためのリスクが考えられます。例えば実際の戦闘地域になったとき、厳密にはその地域に派遣された自衛隊は撤退しなければならないでしょう。国会の了解があれば、そこにとどまって集団的自衛権の行使ができるような体制にはなっていますが、スムーズにスイッチできるのかと考えると、かなり難しいです。

ただ、これには別の考え方もあります。そもそも現行の日本憲法典の九条は、パリ不戦条約、国連憲章などのコピーであり、このような条文を持った国は他にもあり、それらの国々は普通に軍隊を持っていることから、日本は自衛のための戦争まで禁止されているわけではないという解釈もあります。

この解釈についてはこのブログにも掲載したことがあります。百田氏をはじめ、日本の保守派でもこの解釈を認めない人は多いです。

ただ、日本の多くの保守派は、そもそも日本国の現行の憲法は、米国によって作られたものであり、日本独自の憲法をつくるべきであると考えているため、この解釈を認めないのだと思います。

ただ、現実に即していうと、実際に危機が起こったときには、現行の安保法制があることと、憲法解釈の変更もできる可能性が十分あります。

安倍元総理は、そこまで見通していたと思います。だからこそ、安保法制の改正などに踏み切ったのでしょう。

このような思いきった改革を実行しながらも、安倍晋三首相は2020年8月24日、第2次政権発足後からの連続在任日数が2799日に達し、佐藤栄作氏を抜いて歴代最長になりました。第1次安倍政権を合わせた通算在任日数はすでに明治・大正期の桂太郎を超えてトップに立っていました。

安倍内閣は2020年9月16日午前の臨時閣議で総辞職しました。2012年12月26日の第2次内閣発足以降、安倍晋三首相の連続在任日数は2822日で幕を閉じました。第1次政権を含む通算在任日数は3188日でいずれも憲政史上最長となりました。


マスコミの印象操作や、野党の全くくだらないものの執拗な「もりかけ桜」追求などで、間違った考えを持った人も一部いるのでしょうが、その実体はとてつもない人気ものだったのではないでしょうか。そうでなければ、憲政史上最長の総理大臣になるはずがありません。

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2022年7月7日木曜日

スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請―【私の論評】スリランカ危機の背景にある、一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!

スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請

スリランカのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領

 ウクライナで侵攻を続けるロシアのプーチン大統領に対して、スリランカの大統領が支援を要請しました。国家の破産を表明したスリランカで一体、何が起きているのでしょうか。

 国家の「破産」。人々は怒っています。

 治安部隊は放水銃で応戦。催涙弾も使われています。

 国が破産するとは、一体、どういうことなのか。

 ウィクラマシンハ首相:「今までは発展途上国として(IMF(国際通貨基金)と)交渉してきた。今は破産国家として交渉に臨んでいる」

 通貨の下落と、極端な物価の上昇。

 1日に何時間も停電になり、米はこの1年で4倍に値上がりしています。

 給油待ちの人:「3日前から並んでいます。いつガソリンが手に入るか分かりません」

 怒りの矛先はラジャパクサ大統領ら、政治指導者に向かっています。

 運転手:「人々が何日も列に並んでいるのは、支配者たちの近視眼的な政策のせいです。これは大きな犯罪だと思います」

 外貨不足により、輸入に頼る医薬品も不足。弁護士の団体もデモに参加するなど、あらゆる階層が声を上げています。

 弁護士:「私たちは、この腐敗した政治家たちと戦います。彼らは何十年もかけて私たちの国を台無しにしてきました」

 祖国の窮状を憂いている男性。都内でスリランカ料理店を営むカピラさんです。

 タップロボーンオーナー、カピラバンダラさん:「もともと多分、破産していた。これはきのう、きょうの話じゃなくて、今の大統領は政治家として何も知らない人」

 大統領の一族による政治支配が今の状況を招いたとカピラさんはみています。

 タップロボーンオーナー、カピラバンダラさん:「(政治家を)選んだ国民が今お返しをもらっている。日本の国民に言いたいんですが、やっぱり選挙は大事なもの。日本の皆様も他人事じゃないと思います」

 国家の破産。ラジャパクサ大統領は燃料輸入のため、ロシアのプーチン大統領に支援を要請しました。

テレビ朝日

【私の論評】スリランカは始まりに過ぎない!一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!

スリランカは、中国から融資を受けて、南部ハンバントタ港や同国最大の都市コロンボの港湾開発事業など、次々と発展プロジェクトを展開しました。同国が過去10年間にわたり、インフラ投資の名目で中国から受けた融資は総額50億ドル (約5,693億6,497万円)を上回りました。

スリランカはたちまち返済に窮し、2018 年には「借金のカタ」に、ハンバントタ港を中国の国有企業に引き渡す羽目に陥りました。同港の運営権は今後99年間にわたり、中国が握りました。

スリランカのラジャパクサ大統領(左側)と中国の王毅外相(右側)が1月9日、中国の投資で建設したコロンボ国際金融都市を見学

追い詰められた同国のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は2022年1月9日、同国を訪問していた中国の王毅国務委員兼外相に、対中債務返済計画の再考と2021年の輸出品目35億ドル(約3,985億7,819万円)に対する関税条件の緩和を要請しました。

王外相はこれに対し、「両国は地域包括的経済連携、中国を含むアジア太平洋の自由貿易協定、および中国市場の広大さから利益を得るよう努めるべきだ」と述べ、中国とスリランカの間の自由貿易協定についての協議を再開するよう求めました。

さらに、スリランカが一帯一路イニシアチブの恩恵を受けている点を強調し、今後もスリランカが「一時的な困難」を乗り越えるために支援を継続する意向を明らかにしました。しかし、肝心の債務返済についてはノーコメントでしたた。「債務のワナ」については、事実無根と反発しました。

こういう状況だったスリランカにさらに追い打ちをかけるようなことがありました。まずは、パンデミックによって観光客が来なくなり観光業が壊滅しました。そうして今年2月からのウクライナ紛争によって食料や燃料の輸入が困難になり、それが危機に拍車をかけました。

物資不足のため国内ではインフレが進行し、庶民は食料や燃料を手に入れることが難しくなりました。生活苦を理由として3月頃から国内でデモ・暴動が頻発し、2019年から務めていたマヒンダ・ラジャパクサ首相(ゴタバヤ・ラジャパクサ現大統領の兄)は国内の混乱の責任を取る形で5月9日に辞任しました。

その直後に現職のウィクラマシンハ首相が就任したのですが、首相が交替しても経済危機は全く収まりませんでした。4月18日には約7,800万ドル(約105億円)分の米ドル建て債の利払い期限を迎えたが支払えず、その後1ヶ月の猶予期間を経ても支払えなかったために、スリランカは5月18日にはデフォルトとなりました。

通貨であるスリランカルピーも今年になって暴落。1~2月は1ドル=200ルピー付近で推移していたレートですが、3月以降はルピーが暴落して6月には1ドル=360ルピーと年初の半分近くの価値になりました。

5月のデフォルト以降は政府による借り入れが難しくなり、国内の経済事情はさらに悪化しました。ガソリンがほとんど手に入らないため、ガソリンがあるスタンドには常に大行列ができています。また食料品が手に入らず1日3食食べられない国民も増えています。

そのような状況が続き、今週5日にウィクラマシンハ首相は議会演説でスリランカの「破産」を宣言しました。この宣言をもってすぐに状況が一段と悪化するわけではないですが、スリランカ経済が極めて厳しい状況にあることが改めて確認されました。現在スリランカのインフレ率は年間50%程度と言われており、ウィクラマシンハ首相は「年末までに60%になる見通し」と述べていました。


しかし本当の問題はスリランカだけではありません。パンデミックによるサプライチェーンの混乱やウクライナ紛争によって、世界的に食料や燃料が手に入りにくくなっている。日本でも食料品の値上げが毎日のように発表されているものの、日本はそれほど深刻ではありません。

中東やアフリカの途上国ではスリランカのように食料や燃料が手に入らず、経済危機に陥る可能性のある国が増えています。サプライチェーンの混乱やウクライナ紛争が続く限り、世界的なインフレや途上国の危機は終わりが見えないです。

セバスチャン・ホーン、カーメン・ラインハート、クリストフ・トレベシュは、Centre for Economic Policy Researchのオピニオンサイト、VoxEU.orgに寄稿した論考で、一帯一路に代表される中国の海外投資ブームが、ロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかるだろうと述べています。

その根拠となるのは、中国の政府系金融機関がロシアとウクライナ、およびベラルーシに対して行っている融資額の大きさです。ホーンらによれば、中国の国有銀行は2000年以降、ロシアに対しエネルギー関連の国有企業を中心に累積1250億ドル以上、融資してきました。

中国はまた、ウクライナに対しても主に農業とインフラストラクチャー分野のプロジェクトを中心に70億ドル程度、さらに、ベラルーシに対しても80億ドル程度、融資してきました。この3カ国を合わせると、過去20年間の中国の海外向け融資の20%近くを占めるといいます。

もともと、近年急激に増加しつつある中国の対新興国への資金貸付は、どのような基準に基づいて行われているのかが明確ではなく、債務不履行などのリスクを生じやすいものであることが指摘されてきました。スリランカはまさにその一つの例です。ホーンらは、中国の対外貸付のうち、債務危機にある借入国に対する比率は10年の約5%から現在では60%にまで増加したと指摘しています。

世界銀行のデータによれば、中国から新興国の政府部門への資金の純移転は、16年をピークに減少し、19年と20年にはマイナスに転じています。ホーンらはこのデータをもって、中国の国有銀行はすでに成長のための資金提供者から債務の回収者へと転じている可能性があるとしています。ウクライナ危機およびその後の経済制裁によってロシアおよびその同盟国の経済が直面することになったリスクは、その傾向をさらに増幅させることになるでしょう。

中国の政府系金融機関は、今後ロシアなどに対する融資が不良債権化するリスクを、よりリスクの高い債務国への新規融資の停止あるいは債権回収によって埋め合わせるかもしれないです。このことが持つインパクトは、おそらくこれまで西側諸国によって喧伝されてきた「一帯一路が『債務の罠』をもたらす」という問題よりもはるかに大きなものになると考えられます。

ただ、国土面積も大きく、人口も比較的多く、基盤産業もある程度整っているウクライナはEUに入ることができて、戦争によってロシアの一部領土を掠め取られたにしても、大部分がウクライナの版図として残りますから、これから経済発展することが望めますし、中国からの債務も返していくことができるでしょう。

しかし、スリランカやベラルーシのような中国からの返済が危うい国は他にも多数あります。


中国が新興国に対する気前のよい資金供給者の役割から撤退するならば、そのあとにどのようにしてそれらの国々の持続的な経済成長を支えていけばよいのでしょうか。長期化が懸念されるウクライナ危機は、国際社会に対してこのような問いを突き付けていることを忘れるべきではありません。

そうして、スリランカの危機は、こうした危機の始まりに過ぎないことを認識すべきと思います。

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2022年7月6日水曜日

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟―【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟

岡崎研究所

 6月23日、欧州連合(EU)の首脳会議において、ウクライナとモルドバにEU加盟候補国の地位を付与することが承認された。この決定は大きな意味を持ち、歴史的決定と評価していいだろう。


 これに先立つ6月17日、欧州委員会は、両国を加盟候補国とするよう勧告していた。その文書には、次のような内容が含まれていた。
・ウクライナは民主主義を保証する諸制度の安定性達成、法の支配、人権尊重、少数派の尊重と保護で相当前進しており、ロシアの侵攻にかかわらず引き続き強いマクロ経済指標を示している。

・しかし、ウクライナの加盟は腐敗とオリガルヒの影響を減らす「野心的構造改革」にかかっている。ウクライナは最高裁判所判事の選出手続きを見直し、腐敗と資金洗浄と戦っていることを証明し、反オリガルヒ法を執行し、メディアを「既得権益」から自由にする必要がある。

 戦争後のウクライナの方向性がこれで決まったとも言える。実際の加盟までには、欧州委員会の文書でも明らかなようにウクライナは腐敗防止など多くの改革を要し、多くの交渉が妥結する必要があるが、ウクライナが西側の国になることになったと言える。ロシアはウクライナへの侵攻を続けているが、ウクライナの版図がどうなるにせよ、ウクライナの大部分が生き残り、EU加盟を目標とした諸改革に取り組むことになろう。

 ウクライナは政治的には人権が尊重される自由民主主義国、経済的には自由な市場経済国になる道筋がつけられたと判断される。

 プーチンは無謀にも、ウクライナを国家として亡き者にし、ロシアに吸収合併し、ロシア帝国の再興を夢見ていたと思われるが、結果としてプーチンが目にするのはロシア離れをした民主主義国ウクライナということになると思われる。EUに加盟したウクライナは、ロシアにとって政治面での脅威になることは明らかである。 

 ロシアは強権指導者に率いられる酷い迫害を伴う権威主義体制を続けそうであるが、ロシア人とウクライナ人は兄弟民族であり、ウクライナが自由民主主義で迫害もなく生きていく中で、ロシアでは今の権威主義体制に対する反発は大きくなってくるだろう。

経済的にもウクライナに寄与

 経済的にはウクライナの一人当たり国内総生産(GDP)はEUで最も低いブルガリアの半分にもならない。ウクライナ人労働者がEU諸国で働くだけでも、ウクライナは大きな経済的便益を受け取り、加盟当初から何年かは高い経済成長を達成するだろう。他方で、ロシアは、エネルギー輸出が気候変動対策で脱炭素化の流れの中で伸びず、ますます苦境に陥るだろう。

 ロシアにとってはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟よりもEUとの統合の方が脅威であるように思われる。それが現実味を帯びてきている。大変歓迎できることである。

 なお、ロシアのメドヴェージェフ前大統領は、2年後にはウクライナは世界地図から消えているだろうと発言している。これはプーチンが当初の数日でキーウを占拠、ゼレンスキーを排除し、親ロシアの傀儡政権の樹立を企画したことが実行されるとの前提の話であり、今はその可能性はない。

 プーチン自身はウクライナが軍事組織ではないEUに入ることに反対しないと、サンクト・ペテルブルグの国際経済フォーラムで述べた。プーチンは、今やウクライナの存続を前提にした話をしている。

【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!

ウクライナの詳細については、外務省のサイトをご覧いただくと良くわかると思いますので、詳細はこちらに譲るとして、以下にはウクライナはIT大国であるという観点から、ウクライナの概要を掲載します。

ウクライナは、旧ソ連構成国の中でロシアに次ぐ2番目に大きな人口、4159万人(※2021年の統計)を抱えます。国土は日本の約1.6倍の面積があります。ロシアを除けば、国土面積ではヨーロッパ最大です。

人口ではドイツ、イギリス、フランス、イタリアに次ぎます。 ハリコフ、キエフ、オデッサなど24の州oblast'とクリミア自治共和国からなります。 ウクライナという名称は〈辺境〉を意味するクライkraiからつくられたもので、12世紀ころから使われていました。

国旗の2色の意味は、青色が空、黄色が小麦畑とされます。(※諸説あります)1991年にソ連崩壊とともに独立したウクライナですが、それまでも、2色の旗は、ウクライナ人やウクライナ民族解放運動のシンボルとして知られていました。

ウクライナは、現在の中国の軍事技術の多くを提供したといわれ、軍事産業があり、またもし
ウクライナの宇宙産業がなければ、世界の多くの宇宙開発計画は存在しなかったといわれる宇宙産業も存在します。

また隠れたスタートアップ拠点そしてIT大国として世界で注目されています。JETRO=日本貿易振興機構によりますと、ウクライナのIT産業は1990年代初頭から発展し2010年から急速に成長。2018年のIT産業市場規模は約45億ドルと10年で9倍近くになりました。

背景には、優秀な人材と豊富な教育機関があると言います。

ウクライナのエンジニアリングの学位取得者は欧米諸国と比べても多く、フランスやドイツ、英国より多い統計があります。(図参照)


さらにJETROによりますと、人件費は米国の4分の1程度だということで、欧米諸国はウクライナのIT人材に注目しています。

ウクライナ発のIT企業として有名なのは「Ring」や「Grammarly」です。

「Ring(リング)」は住宅のドアに設置する防犯カメラを開発する会社で、画像認識機能やAI(人工知能)で来訪者を見分けることもできるといいます。Amazonに買収されたあとも多機能なセキュリティーカメラのメーカーとして注目されています。


Grammarly(グラマリー)」はAI(人工知能)やNLP(自然言語処理)を用いて、文法チェックやスペルチェックそして盗用の検出といったサービスを提供しています。2009年にウクライナで創業され、業務を拡大させています。このアプリは私もお世話になっています。

また、世界中で使われるあのメッセージアプリも実はウクライナ出身の実業家が創業しました。

米大手メッセージアプリ会社WhatsApp(ワッツアップ)の共同創業者で、2018年まで最高責任者を勤めたジャン・コウム氏は、ウクライナのキエフ生まれで、のちに米国に渡ったといいます。米国での報道によるとコウム氏は、フィットネスジムを利用している際に「電話をとりそこなうのでどうにかできないか」とアプリ開発につながるアイデアを思いついたそうです。
WhatsAppは2020年時点で世界で約20億人が利用すると発表しています。

日本でもウクライナ人女性が、女性のためにと起業しました。アンナ・クレシェンコさんらは2020年、妊婦さんや子育てママのサポートや月経・妊活そして更年期への対応など、女性のライフステージにあわせた心のケアを展開する会社Flora(フローラ)を起業。登録すると、専門家への相談や情報交換あるいは講義が受けられるとしています。

Floraを創業したアンナ・クレシェンコさん

女性の心の不調が社会課題のひとつとされるなか、クレシェンコさんは、身近な出来事をきっかけに、解決に取り組みたいと起業したといいます。

人を動かす、ウクライナのIT技術。その行方にも世界中が注目しています。

ウクライナの、国民総生産(GDP)1,555億ドル(2020年:世銀)、一人当たりGDP3,726ドル(2020年:世銀)です。

現在のウクライナは、上でも示した、一人あたりのGDPではEUでは最低の9,975.78 ドル(2020年)のブルガリアの半分にも満たないです。

これは常にロシアによる危機や干渉があったこと、そうして特にゼレンスキー政権の前の政権までは政界、産業界も腐敗まみれであり、とても民主主義体制であるといはいえなかったことが最大の原因でしょう。

これでは、いくらある程度の産業基盤があっても経済は発展しません。ウクライナがEUに加盟して、ロシアから干渉を抑え、西欧並の民主化に成功すれば、急速に経済成長するのは目に見えています。これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑―【私の論評】ウクライナを経済発展させることが、中露への強い牽制とともに途上国への強力なメッセージとなる(゚д゚)!

プーチンと習近平

詳細はこの記事をご覧いただものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。

バルト三国等の東欧諸国が、当初中国の「一帯一路」の投資を受け入れたのは、国民一人ひとりを豊かにしたいと考えたからでしょう。しかし、バルト三国より一人あたりのGDPが低い中国にはもともとそのようなノウハウも知識もありません。

東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったといえます。

ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなって、中国の投資を受け入れたとしても、経済発展は望めません。せいぜい、ウクライナ戦争開始前の水準に戻すことは、ひょっとするとできるかもしれませんが、それ以上は望めません。

中国は過去には、国内で大規模なインフラ投資をしてきたので、経済発展してきたのですが、いまや投資が一巡して、国内では目ぼしい投資案件がなくなったため、「一帯一路」に望みをかけたのでしょうが、そもそも経済発展のノウハウがない中国が海外投資で、地元国を潤わせさらに、自らも潤うなどという芸当はできません。

ロシアも復興のためには、中国の支援を受け入れるかもしれませんが、その後も中国に頼り、中国のジュニア・パートナーであり続けることはないでしょう。

中露は人口が減少傾向にあり、民主化して体制を変えない限り、没落の道をたどるだけです。欧米としては、ウクライナを取り込み、この国を経済発展させるべきでしょう。それが、何よりも中露への最大の牽制となり、途上国への強いメッセージとなることでしょう。
中露の一人あたりのGDP1万ドル台です。ウクライナがEUに加盟し、経済成長しこの水準を突破すれば、中露にとってかなりの脅威になるでしょう。中国はEUに加盟するウクライナを「一帯一路」に取り込むことは困難になるでしょう。
ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただものとして、この記事では人口や一人あたりのGDPからウクライナの一人あたりのGDPから、ウクライナの一人あたりのGDPが韓国を若干上回れば、ウクライナのGDPはウクライナ戦争直前のロシアを上回る可能性を指摘しました。 

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

産業基盤もあまりなく、国土も狭く、人口も少ない国が EUに加入したとしても、あまり大きな期待はできませんが、ウクライナは違います。 21世紀には、過去の日本や中国、インドのように急速に経済発展する国はもうないと思われていましたが、ウクライナにはその可能性が十分にあります。国土が広いので経済発展すれば、人口も伸びるでしょう。

ウクライナが経済的にも大国になれば、世界の秩序は一変します。プーチンはロシアにとって良かれと思ってウクライナに侵攻したのでしょうが、それは全く想定もしなかったウクライナの台頭を招くことになりそうです。

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