2020年11月26日木曜日

国産潜水艦の建造がスタート、「国防自主」への強い決意示す―【私の論評】台湾潜水艦建造でますます遠のく、中国の第一列島線確保(゚д゚)!

 国産潜水艦の建造がスタート、「国防自主」への強い決意示す

 蔡英文総統は24日午前、台湾南部・高雄市で行われた国産潜水艦の起工式に出席した。蔡総統は、
 起工式は主権を守るという台湾の強い意志を世界に示すものだと述べた。(総統府)

蔡英文総統は24日午前、台湾南部・高雄市にある台船公司を訪れ、国産潜水艦の起工式に出席した。蔡総統は「今日の起工式は3つの重要な意義を持つ。1つ目は事実に反するデマを粉砕すること、2つ目は『国防自主』にかける政府の強い決意を示すこと、3つ目は台湾の主権を守る強い意志を世界に示すことだ」と述べた。蔡総統はまた、国産潜水艦の建造は美しい実を結び、国防に新たな力を添えることになるだろうと語った。蔡総統の祝辞概要は以下のとおり。

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本日は潜水艦の国産プロジェクトにとって非常に重要な日だ。過去4年余り、我々は潜水艦の国産化を決め、予算を組み、契約を結び、設計図を引き、潜水艦を建造するための造船所を作って準備を進めてきた。どの段階も、我々が「国防自主」の実践を目指す歴史におけるマイルストーンとなるものだ。

本日の起工式は3つの重要な意義を持つ。第一は、起工によって事実に反するデマを粉砕することだ。これまで我々は、多くの疑いの眼や批判にさらされてきた。本日に至ってもなお、潜水艦の国産化など到底不可能だと疑う人がいる。本日の起工式は、我々の実績を証明し、デマを粉砕するためのスタートとなるだろう。

第二は、起工によって「国防自主」にかける政府の強い決意を示すことだ。平和は国防によって得られる。着実な国防には、勇敢な国軍だけでなく、しっかりとした軍備が必要だ。近年、沱江級コルベットの量産を加速し、新型高等ジェット練習機「勇鷹(英語名:Blue Magpie)」の初飛行に成功した。それから本日の国産潜水艦の起工に至るまで、いずれも「国防自主」のエネルギーが日に日に強化されていることを国民に示している。

第三は、起工によって台湾の主権を守る強い意志を世界に示すことだ。潜水艦は海軍が非対称戦力を向上させ、台湾本島の周辺海域に出没する敵艦を威嚇するための重要な装備となる。これまで多くの人は、口先ばかりで行動が伴っていないと思ったことだろう。これからは国産潜水艦の建造から編隊まで、台湾の主権を守るという我々の強い意志を世界に示すことになるだろう。

国産潜水艦の建造が正式に始動する。国防部、国家中山科学研究院、台船公司に対しては、緊密な意思疎通を図り、慎重且つ厳粛な態度で最上のリスク管理を行い、国産潜水艦を予定通り完成させるようお願いしたい。

【私の論評】台湾潜水艦建造でますます遠のく、中国の第一列島線確保(゚д゚)!

台湾の潜水艦建造は民間造船大手の台湾国際造船が手掛けます。ディーゼルエンジンを使った通常動力型の潜水艦となります。米国製の戦闘システムなども導入される見込みです。1隻目の建造には、25年までに493億台湾ドル(約1800億円)の予算を充てました。

設計・デザインは、日本の海上自衛隊の主力潜水艦で、世界有数の高性能ディーゼル潜水艦「そうりゅう型」などを参考にしているともされます。

ただ、建造の難易度は非常に高いです。台湾国防部のシンクタンクである国防安全研究院の蘇紫雲所長は「6割は台湾の技術、4割は欧米などの技術輸入に頼ることになる。完成形としては、標準的な潜水艦よりも上のレベルのものになる」と指摘しました。

台湾は現在4隻の潜水艦を有します。しかし、旧式のため早急な更新が課題でした。新鋭の潜水艦を持てば、海洋進出を強める中国に大きなけん制となるため、米国などに潜水艦の売却を求めてきました。

米国はブッシュ政権(第43代)時代の01年に台湾への潜水艦の売却方針を固めました。しかし、最終的には中国の激しい反発などが考慮され実現しませんでした。

しびれを切らした台湾の海軍の強い要望で、馬英九前政権時代に初めて自前による潜水艦(IDS)建造計画が浮上しました。ただ、対中融和路線を敷く馬政権では結局、前進しませんでした。16年に総統に就いた蔡英文・民進党政権下でIDS計画が加速。ようやく今回、着工にこぎつけた経緯があります。中国は以前から計画に激しく反発しています。

台湾が潜水艦自主建造を始めたのは、本当に素晴らしいと思います。この決断は、コストパフォーマンからいっても、軍事戦略・戦術的にいっても本当に優れたものです。

しかし、残念ながら、日本の報道などはこの優れた面を報道しているものは皆無といって良い状況なので、本日このブログに掲載しました。

なぜ台湾が今回潜水艦を自主建造することが優れた判断であるかといえば、まずは、現在の海戦が、最初に日本が第2次世界大戦中に本格的に運用をはじめた、空母打撃群を中心としたものでは、時代遅れになりつつあるということがあります。

世界初の正規空母日本の「鳳翔」

中国ロケット軍が今年の8月に、対艦弾道ミサイル2発を南シナ海に撃ち込んでから10週間ほど経過した11月上旬、『超限戦』の共著者として高名な王湘穂・北京航空航天大学教授(『超限戦』執筆時は中国人民解放軍空軍大校=上級大佐)が、8月26日に実施したDF-21DとDF-26Bの試射は、内陸から西沙諸島南方海洋にミサイルを撃ち込んだのではなく、当該海域を航行していた標的船に命中させた画期的なステップであったことを明らかにしています。

これが本当だとすれば、過去半世紀にわたって米海軍が世界中の海に睨みを効かせてきた際の主戦力であり、米海軍だけでなく米軍の強大さのシンボルであり続けてきた超大型航空母艦(スーパー・キャリアー)に、強力な脅威が名実ともに出現したことになります。96年の台湾海峡危機の際のように、アメリカ軍が数セットの空母打撃群を東シナ海や南シナ海に派遣するだけで中国軍を沈黙させてしまうことなど、もはや夢物語となってしまったようです。

ただし、このような脅威は以前から言われており、これに対して最近米軍は海洋戦術を変えたようです。それに伴い、海洋戦略も変えたか、変えつつあるものと思われます。これは、すぐではないにしても、いずれ公表されることになるでしょう。

空母打撃群は海洋戦の初戦では時代遅れの産物になりつつある

では、どのように戦術を変えたのか、そうしてその根拠は何なのかについて掲載します。これについては、すでにこのブログの読者ならご存知でしょうが、再度簡単に解説します。

まずは、海洋戦術をどのように変えたかといえば、従来は初戦で空母打撃群を派遣する戦術とそれに基づく戦略だったのを、初戦では潜水艦隊を派遣する戦術と戦略に変えたか、変えつつあるということです。

その根拠としては、先にもあげたように、米軍が南シナ海などの海洋戦に従来のように最初に空母打撃群を派遣するようなことをすれば、中国の格好の標的になり、すぐに撃沈されとしまうからです。

中国の軍事技術は進んでいるいるところもあるのですが、現状では歪です。特に対潜哨戒能力等の哨戒能力は米軍に比較して今でも格段に劣っています。そのため、中国は米国の原潜を発見するのは困難です。これに比較して、世界最高レベルの対潜哨戒能力を持つ米軍は、これまた静寂性には程遠い中国の潜水艦を発見するのは容易です。

この米軍の中国に対する優勢を考慮すれば、米軍は従来の初戦に空母打撃群を派遣するという海洋戦術をやめて、初戦は潜水艦隊により制圧する方式に転換するのは当然のことです。しかも、現在の潜水艦は、第2次世界大戦注の潜水艦とは違い、何ヶ月も水中に潜り続け、様々なミサイルや魚雷を装備し、その破壊力は空母に匹敵します。

そうして、これには根拠があります。米軍はすでに5月下旬に潜水艦の行動に関して公表しています。潜水艦の行動は、通常どの国も公表しないのでこれは異例ともいえます。

この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて今年5月下旬にマスコミで報道されました。太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられます。

お花畑の日本のマスコミ等は、このニュースを見ても、字面通りに受け取るのでしょうが、私はそうは受け取りませんでした。

無論、当時空母でコロナが発生したという事情もからんでいるでしょう。空母打撃群が水兵のコロナ罹患で出動できない間隙をぬって中国が不穏な動きを見せないように牽制したものと思います。逆に、米軍は空母打撃群でなくても潜水艦隊があれば、中国の動きを牽制できると考えているともいえます。これは、明らかに米国の海洋戦術、戦略の転換を宣言したものと受け取れます。

そうして、日本は今年の3月に22隻目の最新鋭潜水艦「たいげい」が進水しています。22隻もの潜水艦を持つこと自体が、日本の海洋戦術が潜水艦隊主体であることを如実に示しています。日本の潜水艦は静寂性では世界一であり、中国に探知されずに、自由にあらゆる海域を自由に航行できます。こちらのほうが、空母などより余程戦力になります。

米軍としては、カールビンソン等が水兵のコロナ罹患で、相当の危機感を感じていたのでしょう。しかし、潜水艦隊を空母打撃群のかわり派遣することで、十分中国を牽制できると考えて、異例ともいえる公表に踏み切ったのでしょう。それにコロナ禍はいつまでつづくかも予測できなかったので、潜水艦隊で中国に十分対処できることで中国側を牽制したのでしょう。

現在、南シナ海、尖閣諸島付近には、通常の潜水艦配置に新たな7隻が加わり、複数の米国原潜が潜んでいるでしょう。原潜は、通常型潜水艦と比較するとどうしてもある程度の騒音が出るので、中国側もこれを発見できるチャンスはあります。しかし、要所要所に潜水艦を潜ませておき、中国側が不穏な動きをみせれば、水中から魚雷やミサイルで突然攻撃するという戦法をとれば、これは中国側には防ぎようがありません。

米国の最新の攻撃型原子力潜水艦「ミシシッピ(SSN-782)」

以上のようなことを考えると、今回台湾が空母などを建造するよりは、潜水艦を建造するほうがはるかにコストパフォーマンスが高いといえます。

台湾が1隻目の建造には、25年までに493億台湾ドル(約1800億円)の予算を計上するのですから、これは本気です。おそらく、少なくとも中国の対潜哨戒機などには発見されない潜水艦を製造するでしょう。

そうして、将来少なくと6隻くらい建造すれば、3隻の潜水艦を交代で常時台湾付近をパトロールできます。

そうなると中国にとっては脅威です。仮に中国が台湾に上陸したとしても、台湾の潜水艦が台湾を包囲してしまえば、近づく艦艇や輸送機が潜水艦に攻撃され、補給ができなくなります。それと台湾の陸上部隊が加われば、中国の上陸部隊は降伏するよりなくなります。

それに、台湾有事となれば、日米も加勢するでしょう。日本は、静寂性を活かして哨戒活動にあたり、米原潜は近づく中国の輸送艦艇や輸送機などを破壊するでしょう。

今回の台湾が潜水艦建造にとりかかったことは、本当に正鵠を射たものといえます。

中国としては、日米が潜水艦隊中心の海洋戦術・戦略に変更しつつあることと、台湾が潜水艦を建造することにより、第二列島線確保どころか、台湾・尖閣を含む第一列島線の確保すら、難しくなることを痛感させられたと思います。

それにしても、日本のマスコミは以上のようなことは、それこそ日米が公表しないと気づかないのでしょうか。もちろん中国の脅威を侮るようなことはすべきではないとは思いますが、それにしてもこのようなマスコミの態度は、いたずら中国の脅威を煽り、結果として中国を利することになっているのではと危惧しています。

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