2020年11月2日月曜日

【独話回覧】米大統領選後の景気 どちらが勝つにせよ、株高基調維持ならコロナ不況回復 経済動向見るとトランプ氏圧勝だが…バイデン氏がつけ込む“隙”も―【私の論評】菅政権もトランプのように、財政赤字に対する日本人の常識を覆すべき(゚д゚)!

 【独話回覧】米大統領選後の景気 どちらが勝つにせよ、株高基調維持ならコロナ不況回復 経済動向見るとトランプ氏圧勝だが…バイデン氏がつけ込む“隙”も



 いよいよ米大統領選の投票日が迫った。米国の世論調査はいずれも民主党のバイデン前副大統領が共和党のトランプ大統領を8%程度の幅でリードしている。現職大統領が再選に失敗したとしたら1992年のブッシュ父大統領以来となるが、経済面での実績が世論の現職支持に結びつく度合いが弱いというのは、拙論の記憶にある限り初めてだ。

 トランプ氏は景気の立て直しに成功したが、中国・武漢発の新型コロナウイルス禍対策の印象が悪く、評価を下げた。トランプ氏が「チャイナウイルス」憎しの一念をますます募らせるのも無理はない。

 経済こそは、これまで現職大統領の再選を左右してきた。古くは80年、民主党のカーター大統領が共和党のレーガン氏に敗れた。当時は第2次石油危機を受けて、高インフレと不況が同時並行していた。レーガン大統領は84年の大統領選では、有権者に向かって「Are you better off?(あなた方の暮らし向きはよくなったか)」と問いかけ、圧倒的な「Yes(そうだ)」との反応を得て、大勝した。

 92年、再選をめざすブッシュ父大統領が民主党のクリントン氏に敗れた主因も経済問題だ。景気が思わしくないのに「増税」の可能性を否定せず、「ジョブ(職)」を連呼して雇用促進を目指し、訪問した日本で米国製品の売り込みを図ったものの、宮沢喜一首相との晩餐(ばんさん)会で倒れ込んだ映像を全米のTVに流されてしまった。

 クリントン氏は経済重視を唱えて、カリフォルニア州シリコンバレーのハイテク業界やニューヨーク・ウォール街の金融資本の支持を取り付けた。ホワイトハウスの主に収まると、経済面でライバル視する日本の市場をこじ開けると称して日本たたきを画策したが、結果は不発。とみるや、中国市場に着目し、日本を飛び越えて親中路線を敷いた。

 日本にとってみれば、悪夢のような民主党政権だったが、大統領任期を終えたクリントン氏を超高額の報酬を支払って日本の民間が招いたのも、日本人として情けなく思ったものだ。しかも親中路線は以来、ブッシュ子政権、オバマ政権と続き、中国の脅威を膨張させてきた。

 2008年9月のリーマン・ショック後の選挙で共和党のマケイン候補に勝った民主党のオバマ大統領は12年に再選を果たした。景気回復は極めてなだらかだが、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和政策によって株価が上昇軌道に乗ったことが背景にある。

 トランプ政権はどうか。米国に雇用やビジネスを取り戻す「アメリカ・ファースト」を掲げ、4年前に民主党のヒラリー・クリントン氏を接戦の上で破ったのは記憶に新しい。筆者はちょうどその投票直前に早稲田大学の埼玉県稲門会総会に呼ばれて講演したが、経済の流れはトランプ氏を指し示していると説明しながら、彼が勝つとまでは言わなかったことが、ちょっと悔やまれる。

 今回は、経済動向からすれば、トランプ圧勝、再選になるはずだ。

 グラフはリーマン・ショック後の米株価と米実質国内総生産(GDP)を指数化して推移を追っている。株価は一時的な調整局面を経ながらも、上昇軌道に乗ったままだ。下落時はFRBによる利上げが影響しているのだが、コロナ・ショックは株価に関する限りはどこ吹く風どころか、追い風にすらなっている。

 株価が米国の実体経済動向と連動する度合いが高いというのが、拙論の分析であることは本欄などで述べてきた。株価と実質GDPについて、統計学でいう相関係数(完全相関値は1)は08年9月からコロナシ・ョック勃発時の今年3月までの期間でみると、0・98と完全相関に近いのには驚かされる。

 相関係数自体は因果関係を示すわけではないが、家計や年金基金の株式資産の運用比率は高く、株高は個人消費を押し上げる。株式市場が活況だと、企業も設備資金をやすやすと株式市場から到達し、新規分野に投資する。

 コロナ感染拡大が人の動きを止め、飲食サービス業などの雇用の重圧になっていても、株高は景気の先行きを明るくする。トランプ氏にしてみればしてやったり、との思いもあり、そのことが、コロナ対策についてのぞんざいな発言につながったのではないか。

 もう一つ、株高は富裕層をますます富ませるが、コロナ不況に苦しむ中低所得層との格差が拡大する。米国社会の分断問題深刻化の要因であり、トランプ氏はそれに対応しきれていない。コロナ対策と合わせた、トランプ政権に対するネガティブな印象がバイデン氏につけ込ませる隙を与えている。

 さて、大統領選後の米景気はどうなるか。大統領の座をどちらが得るにせよ、グラフが示す通り、株価さえ上昇基調が維持されれば、コロナ不況からの回復は確保されるだろう。

 ■田村秀男(たむら・ひでお) 産経新聞社特別記者。1946年高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後の70年日本経済新聞社入社。ワシントン特派員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級研究員、日経香港支局長などを経て2006年産経新聞社に移籍した。近著に『検証 米中貿易戦争』(ML新書)、『消費増税の黒いシナリオ デフレ脱却はなぜ挫折するのか』(幻冬舎ルネッサンス新書)など多数。

【私の論評】菅政権もトランプのように、財政赤字に対する日本人の常識を覆すべき(゚д゚)!

トランプ氏が経済政策面でもたらした最大のインパクトは、自らの想定とはかけ離れたものになるのかもしれないです。それは、財政赤字に対する米国人の常識を覆した、ということです。

トランプ氏は企業や富裕層に対して大幅減税を行う一方で、軍事支出を拡大し、高齢者向けの公的医療保険「メディケア」をはじめとする社会保障支出のカットも阻止し、財政赤字を数兆ドルと過去最悪の規模に膨らませました。新型コロナの緊急対策も、財政悪化に拍車をかけています。

これまでの常識に従うなら、このような巨額の財政赤字は金利と物価の急騰を引き起こし、民間投資に悪影響を及ぼすはずでした。しかし、現実にそのようなことは起こっていません。トランプ氏は財政赤字を正当化する上で、きわめて大きな役割を果たしたといえます。


米国では連邦政府に対して債務の拡大にもっと寛容になるべきだと訴える経済学者や金融関係者が増えています。とりわけ現在のような低金利時代には、インフラ、医療、教育、雇用創出のための投資は借金を行ってでも進める価値がある、という主張です。

もちろん、財政赤字をめぐる対立軸が消えたわけではありません。民主党が政権を握ったとしても、財政赤字を伴う政策を提案すれば、共和党が反対に回るのは間違いないでしようし、その逆も然りです。ただ、連邦政府の債務が拡大すれば大惨事になるとの警告は、もはや以前のような重みをもって受け止められることはなくなるでしょう。

最近まで、ほとんどのエコノミストは、政府が平常時にささやかな規模以上に借り入れを膨らませる行為を非難してきました。彼らはおおむね政府を信用せず、公的債務が民間投資を圧迫するだけでなく、物価を高騰させ、景況感を冷やすと証明できる理論を持っていました。ところが今や、財政赤字はそれほど悪い存在ではありません。むしろ総じて良いとの見解が優勢です。

古い考え方が死に絶えたわけではありません。政府はいわば国家という大きな家族で、収入以上にお金を使うべきでないという理屈は直観的に訴えかける力があります。ドイツのメルケル首相も、こうした価値観を「シュバーベン地方の主婦」たちの倹約精神になぞらえています。

メルケル首相

「財政赤字悪玉論」により、ユーロ圏加盟国は平常時に財政赤字を国内総生産(GDP)比3%までに抑えるよう求められ、ドイツは「債務ブレーキ」と呼ばれる制度を導入。財政赤字がGDPの0.35%に達すると、原則としてさらなる政府借り入れを禁じているほどです。

依然として少数の政治家(主としてドイツ人)は、大規模な財政赤字を計上するのは単純によろしくないと考えています。一部の有名エコノミストも同意見です。米大統領経済諮問委員長を務めたクリスティナ・ローマー氏は最近、大幅な財政赤字の持続は「強力かつ健全な超経済大国になるための方策にならない」と発言しました。

ところが、ほぼ全ての面で判断基準は変わりつつあります。今ある数々の事実は、旧理論と相いれないのです。

米国、日本、ドイツ、フランス、英国、イタリア、カナダという先進7カ国(G7)を検討してみます。国際通貨基金(IMF)のデータに基づいた2007年時点のG7の財政赤字の対GDP比は平均1.5%で、カナダとドイツは黒字でした。そして世界金融危機が発生後の3年間で同平均は7%を超え、15年以降も3%を下回っていません。

しかし財政赤字が明らかに成長を損なった形跡はありません。G7の国民1人当たりGDPの年平均成長率が下振れしたのは確かです。01年から07年まで1.4%でしたが、14-19年は1%になっています。もっとも01-07年は持続不可能な金融活動によって水増しされ、14-19年は貿易戦争と先進国の全般的な景気減速が圧迫要因になりました。

G7の物価上昇率の平均は、まさに金融危機が勃発した08年に2.9%とピークを付けました。翌年には0.3%に鈍化し、11年に2.6%に戻った後、また下振れしました。IMFは19年の平均を1.4%と見込んでいます。インフレを起こす要因を本当に理解している人はいませんがが、財政赤字が「容疑者リスト」に入っているようには見受けられません。

財政赤字を嫌う人々は、いつでも自分たちの思想を正当化する論理を見つけてくることができます。実際、足元で無害に思われる借り入れが、長期的な問題を蓄積させているのかもしれないです。

IMFの計算で米国の今年の財政赤字はGDPの5.6%、つまり1兆ドルを超える規模で、長らく予想されていた経済への悪影響がいよいよ顕在化する恐れもあるかもしれませんが、いまのとこ全くそのような兆候はありません。

今後、財政赤字の功罪を巡る理論的な闘争は激化するでしょうが、思考のバランスを取る助けになってきたのは現実的な心配です。中央銀行は今、景気後退に対処して利下げする余地が乏しいです。債券などの資産を買い入れて金融市場に新たな資金を投入することは可能とはいえ、そうした手法の効果はまだ証明されていません。だから財政支出拡大の方が、景気対策として妙味があるように見えます。

理論的な見地からも情勢変化は歓迎されるべきです。政府は実際には「非常に大きな家計」ではなありません。通貨当局としての最終的な権限を持ち、経済活動を維持するのに十分なお金を確実に流通させる責任を負っています。通貨創造の任務はほとんどを民間銀行に請け負わせているものの、彼らが満足に機能しなくなった場合は、政府が乗り出すことができるし、乗り出さなければならないのです。

政府向けのローンは、全てのローンと同様に基本的に新たなお金を生み出すので、財政赤字は旧理論で想定されたような、民間投資に向かう資金を奪うわけではありません。また政治的に有能な政府であれば国内で借り入れを賄い、債務残高がGDP比で高水準になっても維持できます。その上、本来使われなかった経済的な諸資源を活用する財政支出なら、赤字であってもインフレを醸成させるよりも生産を押し上げるでしょう。

財政赤字についてもっと柔軟になるべきだとの考え方を受け入れる点では、エコノミストよりも有権者や政治家の方が積極的なようです。追加的な財政支出は、有益なインフラ整備の投資を後押しし、貧困を減らして質量両面で雇用状況を改善してくれます。さらに次の景気後退の到来時期を遅らせ、その深刻度を和らげてくれる可能性もあります。さすがのドイツでさえ、財政赤字への抵抗感が弱まっているのも、むべなるかなと言えそうです。

当然リスクはあります。財政赤字は適度な規模なら大抵は好ましいですが、危険な存在になり得ます。アルゼンチンやジンバブエの事例で分かるように、歯止めなしの通貨発行は、最終的に制御不能のインフレをもたらします。先進国で40年もディスインフレが続いた後で、狂乱的な物価高騰などは想像しがたいです。それでも政治家が選挙で勝つことに執念を燃やし、彼らを抑制する財政規律が存在しない世界では、インフレの暴走が現実に起きるかもしれないです。

ただ、先進国においては、物価目標というものがあります。日本なら、2%です。これは、政府がどのように大規模や金融緩和や積極財政をしようと、物価上昇率が2%未満であれば、安全ということです。

それにしても、トランプ氏は財政赤字は決して悪いことではないということを知っていたというのは、やはりトランプ氏のバックグラウンドが政治家ではなく、実業家だったからでしょう。

トランプ大統領

企業でもある程度規模の大きい企業なら、企業の財政赤字を家計の赤字のように即悪いことなどとは考えません。借金をしてでも、場合によっては、企業規模を増したり設備投資をします。それで企業業績を伸ばし借金を返せれば、何も問題はありまません。

ましてや、政府の場合は、企業などよりもはるかに規模は大きいし、さらには、生身の人間と比較すれば、不死身のような存在ですから、ある程度の借金をしても全く問題はないのです。

それを身をもってトランプ氏は示したといえます。日本でも現在政府が国債を発行して、日銀がそれを引き受けるという形で、政府がコロナ対策に要する資金を調達していますが、これも全く問題はありません。日本は、デフレ気味なのですから、まだまだ余裕があります。物価目標2%にはまだ程遠いです。仮に2%以上になれば、すぐにこれをやめ、金融引締や緊縮財政に転じれば何の心配もありません。

日本の菅政権も、トランプ氏のように、財政赤字に対する日本人の常識を覆すべきです。2%の物価目標に達するまで、国債を発行し日銀はそれを引き受け、従来では考えられなかったほどの規模の対策を実行してほしいものです。

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