中国浙江省杭州市にあるアント・グループ本社 |
河北大午農牧集団を創業した中国の著名な農民企業家、孫大午が11月11日未明、突然警察に連行され逮捕された。この事件より1週間ほど前の11月3日には、カリスマ経営者の馬雲(ジャック・マー)が作り上げたアリババ帝国を揺るがす、金融子会社アント・グループ(旧アントフィナンシャル)上場取り消し事件があった。さらに11月17日には南京のIT企業・福中集団の会長、楊宗義が連行された。
この2年、中国では企業家、実業家たちが次々と逮捕されたり失脚させられたり、あるいは不当な圧力を受けたりしている。民営企業の資産接収も相次いでいる。一体これはどういうわけなのか。
❙「違法な資本収集」の疑いで連行された楊宗義
江蘇省揚州市公安当局が11月17日に発表したところによると、民間から「江蘇福信財富資産管理有限公司が違法に資本収集した」という通報を受けて、オーナーの楊宗義を違法公衆資金預金横領の容疑で刑事強制措置として連行した。捜査によると、福信公司は高額のリターンがあると喧伝して大衆から資金を違法に収集していた疑いがあるという。
楊宗義は「南京最初の富豪」とも呼ばれた実業家で、南京市商会の副会長や南京市の政治協商委員も務めていた。幼いころ父親を亡くし、生活苦の中で南京大学化学部を卒業。空港で偶然出会ったシンガポール企業の社長に、流暢な英語能力を気に入られて雇用され、南京市のパソコン市場開拓の仕事を任された。そこで経験を積んだあと、1995年のITバブルの兆しに目をつけ、20平方メートルに満たない事務所を借りて裸一貫でパソコン企業・福中電脳を立ち上げた。それが25年後、保有資産40億元の福中集団(元南京福中情報産業集団)に成長した。楊宗義は慈善事業家としても知られており、財界誌フォーブスの慈善家番付にもしばしば登場していた。
だが今年(2020年)1月に、福中集団四川有限公司は、同社のビジネストラブルを仲裁した地元の成都市成華区人民法院から指導を受ける。そして5月になっても法院が指導した改善が見られないことから、「消費制限」裁決を受けることになり、その成功物語に陰りがさしていた。消費制限令を受けると、生活や仕事に必要ない高額の消費、例えばラグジュアリーホテルの使用や飛行機のファーストクラス利用などが制限される。そもそも裁判所からこの処分を受けること自体が、いわゆる「信用スコア」の大きな減点になり、さまざまなリスクを負うことになる。
福中集団は「狼文化企業」(いわゆるブラック企業)と呼ばれており、社員の間に不満があったともいわれている。楊宗義自身が「春節休みの4日以外、1年中毎日、決まった時間に出勤する」というモーレツ社長で、誰も社長に逆らえない状況だったとされ。その意味では敵の多い人物であったともいえる。
だが、今回、楊宗義が連行された理由が、本当に経済犯罪のみといえるかどうかは微妙だ。というのも、ほんの数日前に別の民営企業家も逮捕されているからだ。
❙習近平体制に批判的だった孫大午
前述したように11月11日、河北大午農牧集団の創業者である孫大午が家族や企業幹部らとともに突然連行され、企業資産が当局に接収された。孫大午は地元では人望があったので、ネット上で現代版「地主狩り」「土豪狩り」などとささやかれた。
孫大午は退役後の1984年に、兵役時代の農牧経験をもとに鶏1000羽、豚50頭の農場からスタートして1995年には中国500強民営企業にまで事業を拡大したカリスマ経営者だ。今や大午集団の従業員は9000人以上、固定資産は20億元、年平均生産額は20億元超えという超優良企業である。
そうした実績をもとに、孫大午は、国家の庇護のもとに胡坐をかいた国営農場や国有企業の在り方や共産党の経済政策について、しばしば厳しい意見を発表していた。
例えば2003年4月31日、同社のサイトで「小康社会の建設と課題」「李慎之を悼む」「2人の民間商人の中国の時局と歴史に関する対話」といった3つの文章を発表した。ところが、地元公安局から「国家機関のイメージを著しく損なった」として、サイトの閉鎖を命じられ、6カ月の営業停止と罰金15000元が課されてしまう。
さらにその年の5月29日に、孫大午は3000人の農民から1億8000万元の資金を違法に集めたとして逮捕され、同時に違法に弾薬を所持していたなどとされた。結局、孫大午は懲役3年、執行猶予4年、罰金10万元の刑を受け、また大午集団としても30万元の罰金を支払わされた。
この時、孫大午を弁護した法律家の中には、新公民権運動の旗手として知られ、のちに国家政権転覆煽動罪で逮捕され実刑判決を受けた法学者、許志永もいた。ちなみに4年の刑期を終えて出所していた許志永は今年2月、習近平退陣論を発表したため、再度身柄を拘束されている。
今年5月、孫大午はSNSで、許志永ら失踪中の(実は当局に拘束されている)人権派弁護士や法律家らについて、関心を持ち続けるように訴えていた。10月には米国の政府系メディア、ラジオ・フリーアジアに、「公有制度は共産党が発明したものであり、社会主義経済の基礎は本来私有経済であるべきだ」といった発言を掲載し、公有経済回帰の政策を打ち出す習近平体制に批判的な態度を示していた。
逮捕の直接的な原因については深く説明されていないが、8月に大午集団の建物を近くの国有農場が強制収用しようとして、従業員と警察がもみ合いとなり、20人以上が負傷する事件があった。大午集団側は、当局の対応への抗議を発表していた。こうした一連の行為が「挑発罪」などに当たる、と見られたのかもしれない。
❙馬雲の発言が習近平の癇に障ったか?
孫大午が逮捕される前の11月3日には、5日に予定されていた中国最大手Eコマース企業アリババ傘下のフィンテック企業アント・グループの上海・香港同時上場が急遽取りやめになるという事件が起きた。アントの上場は中国証券市場最大級IPOと注目されていた。
この上場急遽取りやめも、孫大午の逮捕と全く無関係ではない、という見方がある。
11月1日にアリババ創始者の馬雲(ジャック・マー)と企業幹部が中国金融当局に呼び出されて、「面談」した結果、3日に上場取りやめが発表された。この上場取りやめは習近平自らの命令によるものだったと一部で報じられている。
上場取りやめの理由については、アントの目玉商品である「花唄」「借唄」といった個人・個人経営者向けクレジットローンや消費者金融が、本質は銀行の発行するクレジットカードやローンと同じなのに、民営フィンテックであるがゆえに規制の網をくぐり抜けていたこと、こうした民営企業も対象にした少額ローンに関する法規が間もなく出されることなどが背景にあったと思われる。だが、それ以上にささやかれているのが、馬雲が10月24日に上海で行われた外灘金融サミットで、中国内外の規制がイノベーションを阻害し発展や若者の機会を大切にしていないことを批判した発言が習近平の癇(かん)に障ったのではないか、という理由だ。
7月には、明天系の金融・保険企業9社の資産が「経営リスクがある」として当局に接収された。明天系と呼ばれるトゥモロー・ホールディングス創業者は、香港の高級ホテルから北京当局に拉致されていまだに行方不明扱いの大富豪、蕭建華が創業者だ。彼の失踪(実は北京で拘束されている)が経営リスクを招いたという意味では、大企業の富が、体制の罠によって奪われたという言い方もできなくはない。
また9月には、民営企業ではないが上海光明乳業が「国家の尊厳と利益を損なった」として30万元の罰金が科された。同社の広告に、中国の南シナ海領有を示す九段線が描かれていなかったことが原因だった。
❙企業に「愛国・救国」を求める習近平
こういう企業、実業家たちの受難の真の理由は、習近平が最近、実業界、経済界に対して打ち出したイデオロギーが大きく関与していると私はみている。
習近平は11月12日に江蘇省を視察に訪れた際、南通博物苑を訪れ、清末の実業家・張謇の展示を参観。張謇を中国民営企業家の先賢と模範にするように、との談話を発表している。張謇が創設した中国初の民間博物館、南通博物苑を愛国主義教育基地とし、多くの青少年が張謇に学び、習近平が掲げる4つの自信(社会主義への道、制度、理論、文化に対する自信)を固めるようにと訴えた。
習近平が張謇に言及するのは今年で2度目だ。1回目は7月21日に行われた企業座談会である。習近平は5人の愛国企業家模範に言及し、その中の1人が張謇だった。
張謇は1894年、42歳で科挙の状元(最終試験で1位の成績を修めた者)となり、清朝最後の皇帝・宣統帝の退位詔書を起草、民国臨時政府樹立後は実業総長となった。実業家として、最初期の民族軽工業を起こし、日本の博物館制度や教育制度に影響を受けて博物館や学校をつくるなど、国近代化の先駆者と呼ばれている。同時に「実業救国」を掲げた愛国主義者であり、袁世凱が壬午事変にどう対処すべきかを張謇に訊ねると、「朝鮮前後六策」を出して、李氏朝鮮を併合して中国領土とし、日本を攻撃して琉球(沖縄)を奪取すべし、と助言した。
習近平が張謇を取り上げて民営企業家に伝えたかったのは、「実業」と「愛国・救国」はセットでなければならない、ということだろう。つまり実業家たちに求めることは経営手腕のみならず、富国強兵のために国と党への献身だ。
企業運営チェーンには国境がないが、企業に祖国はある。祖国に対する崇高な使命感と強烈な責任感があるかどうかが企業家に最も求められることであり、言外に「民営企業が儲けた金は国家と党のために使え」「党と国家に批判的な企業はいつ取り潰されるとも限らない」ということを示しているのではないか。
習近平のこうした企業家に対するイデオロギーチェックは、2年前の民営企業座談会で「企業家精神を掲揚し、愛国敬業をなし、法を守って経営し、創業イノベーションを行い、社会に報いる模範たれ」と演説をぶって以来、顕著となった。
❙民営企業は「改革開放牧場」の牛や羊なのか
愛国・愛党を理由に民営資本を弾圧するやり方は、かつて毛沢東が地主やブルジョアや知識層を弾圧した歴史に通ずるものがある。
地主や土豪、知識人たちを階級の敵として、「土地や富を奪い弾圧してもよい」というシグナルを共産党トップが出すことで、政治や社会に不満を抱える庶民の攻撃の矛先が「ブルジョア・金持ち」たちに向かい、社会主義体制への批判がそがれるということを、習近平は毛沢東に学んだのかもしれない。
また、民営企業家の多くは裸一貫から大企業家になったカリスマが多く、馬雲のように国際社会からも支持されていたりする。習近平と比較しても指導者としての資質が高い。自分の長期独裁政権確立の障害となりそうな有能な政治家を、反腐敗キャンペーンの名目で排除してきた習近平にとって、カリスマ経営者は自分の無能さを際立たせる脅威の存在に思えるかもしれない。
10月の第五回中央委員会総会(五中全会)で習近平政権は、国際環境の変化に対応して、経済政策の柱として「大内循環、双循環」を打ち出した。この考え方の根幹は、“共産党がコントロールできる経済”である。今後も中国市場が西側自由主義市場からデカップリング(切り離し)される流れは止まらず、中国は自力更生、計画経済のスローガンに象徴される毛沢東路線回帰に寄っていきそうだ。
中国のカリスマ民営企業家たちは、鄧小平の改革開放路線の一種の産物だ。中国経済のグローバル化の中で資金とチャンスを得て、共産党とも利益供与関係を結ぶことで、限定的な自由市場を手に入れて成長してきた。だがこの自由市場は、所詮、共産党が作ったが企業家の放牧場のようなものだ。共産党にしてみれば、牛や羊を肥え太らせ、ミルクや羊毛を収穫するように、企業家を育てていたに過ぎない。そこから利益を得て中国を世界第2の経済体にのし上げた。
だが、習近平政権は、この大きくなりすぎた「改革開放牧場」をより厳密にコントロールするために、牛や羊を間引く作業に出始めた。大きく、従順でない企業から屠(ほふ)れば、その他の企業は大人しく党に従順になろう。だが、そのような党に従順で大人しい企業、あるいは企業家に中国経済を牽引していくパワーがあるのかどうか。その答えは、たぶんこの数年で現れてこよう。
私は中国は「中進国の罠」に嵌ったので、これから停滞し続けるとこのブログに掲載しました。これについては、過去に何回か掲載させていただきました。そうして、これはマクロ的な見方で中国の停滞を予測したものであり、上の福島香織氏の記事は、これを裏付けるものだと思います。以下に、最近掲載した「中進国の罠」に関する記事のリンクを掲載します。
中国・習政権が直面する課題 香港とコロナで「戦略ミス」、経済目標も達成困難な状況 ―【私の論評】中国は今のままだと「中進国の罠」から逃れられず停滞し続ける(゚д゚)!
習近平
この「1万ドルの壁」とは、中進国の罠といわれるものです。中進国の罠とは、開発経済学における考え方です。定義に揺らぎはあるものの、新興国(途上国)の経済成長が進み、1人当たり所得が1万ドル(年収100万円程度)に達したあたりから、成長が鈍化・低迷することをいいます。
実質経済成長率と一人当たりGDPの推移(60年代以降):1万ドル前後で中所得国の罠に陥る国も
中国経済が中進国の罠を回避するには、個人の消費を増やさなければならないです。中国政府の本音は、リーマンショック後、一定期間の成長を投資によって支え、その間に個人消費の厚みを増すことでした。
ところが、リーマンマンショック後、中国の個人消費の伸び率の趨勢は低下しいています。リーマンショック後、中国GDPに占める個人消費の割合は30%台半ばから後半で推移しています。
昨年の個人消費の推移を見ても、固定資産投資の伸び率鈍化から景気が減速するにつれ、個人消費の伸び率鈍化が鮮明化しました。これは、投資効率の低下が、家計の可処分所得の減少や、その懸念上昇につながっていることを示しています。
現在、中国政府は個人消費を増やすために、自動車購入の補助金や減税の実施を重視しています。短期的に、消費刺激の効果が表れ、個人消費が上向くことはあるでしょう。ただ、長期的にその効果が続くとは考えにくいです。
この記事では、社会のあらゆる方面でイノベーションが起こらないことが「中進国の罠」にはまる原因だとしました。その部分を以下に引用します。
現在の中国が経済発展をして、中進国の罠から抜け出すためには、高橋洋一氏が上の記事で主張しているように、経済的な自由が必要です。
経済的な自由を確保するためには、「民主化」、「経済と政治の分離」、「法治国家化」が不可欠です。これがなければ、経済的な自由は確保できません。
逆にこれが保証されれば、何が起こるかといえば、経済的な中間層が多数輩出することになります。この中間層が、自由に社会・経済的活動を行い、社会に様々なイノベーションが起こることになります。
イノベーションというと、民間企業が新製品やサービスを生み出すことのみを考えがちですが、無論それだけではありません。様々な分野にイノベーションがあり、技術的イノベーションも含めてすべては社会を変革するものです。社会に変革をもたらさないイノベーションは失敗であり、イノベーションとは呼べません。改良・改善、もしくは単なる発明品や、珍奇な思考の集まりにすぎません。
イノベーションの主体は企業だけではなく、社会のあらゆる組織によるもの ドラッカー氏は企業を例にとっただけのこと |
そうしてこの真の意味でのイノベーションが富を生み出し、さらに多数の中間層を輩出し、これらがまた自由に社会経済活動をすることにより、イノベーションを起こすという好循環ができることになります。
この好循環を最初に獲得したのが、西欧であり、その後日本などの国々も獲得し、「中進国の罠」から抜け出たのです。そうしなければ、経済力をつけることとができず、それは国力や軍事力が他国、特に最初にそれを成し遂げた英国に比較して弱くなることを意味しました。
もちろん中国がイノベーションを行っていないというつもりはありません。中国もイノベーションは政治主導で行っています。
しかし、政治主導のイノベーションは社会全体からいえば、点のイノベーションに過ぎないのです。 中国共産党が、価値あると認めたイノベーションのみを実施しても、他の社会の様々な部分でイノベーションが起こらないと、社会の様々な部分であらゆるイノベーションが起こらないと、非合理、非効率な部分が残り経済の急速な発展は起こらないのです。
今日の先進国は、点のイノベーションから、面のイノベーション、さらに立体的なイノベーションが様々な社会の分野で起こり、様々なイノベーションが有機的に結合し、さらに爆発的なイノベーションを生み、社会の発展につれて新しいイノベーションが爆発的に起こり、それが経済発展に結びつき、今日に至っているのです。
たとえば、物流を考えると、小売業者だけがイノベーションを起こしても、卸業者、メーカーもそれに対応したイノベーションを起こさなければ、非効率や非合理が維持され、経済発展に結びつくことはないのです。
中国のように、軍事、人民監視、富裕層の資産形成等の分野に限ったイノベーションでは限りがあり、急激な経済発展にはつながらないのです。しかも、このイノベーションはそれぞれの社会にあったものにしなければなりません。
たとえば、発展途上国のアフリカの奥地の水道のない地域で、すぐに水道を敷設したり、他所から大量の水を運んでくることはできないですが、できないことを嘆くだけではなく水を運ぶ容器を工夫することでもイノベーションは起こせます。下の写真は水を運ぶ容器です。
円筒のプラスチックの容器の真ん中に穴をあけ、そこに紐を通して簡単に水を運べるようにしたものです。こうしたイノベーションでもこの地域の社会には非常に役に立っているのです。従来だと子供が一度に運べる水の量は限られていて、何度か水くみに行かなければなりませんでした。
しかし、この容器を使えば、一度に比較的楽に大量の水を運べ、従来水くみに時間をとられてて学校に行けなかったような子どもたちが学校に行ける時間の余裕を持てるようになったのです。このようなイノベーションは、その社会の実情を知っていなければできません。政府にはできません。その地域の実情を知りつつ、ある程度資金に余裕のある中間層が実施すべきものです。
このようなイノベーションが、これだけで終わることなく、社会の変化にあわせて起こり続けていけば、経済は発展し続けるのです。それを保証するのが、「民主化」、「政治と経済の分離」、「法治国家」なのです、逆にいえば、これを確保して、政府が社会を放置するのではなく、適切に社会の方向性を定めれば、政府がほとんど何をしなくても、多数の中間層が生まれ、彼らが爆発的なイノベーションが起こし、社会・経済が発展するのです。そうして、それが近代以降の政府の正しいありかたです。
私達の身の回りにも昔は使った物やサービスの中に、今は使われないものが結構あると思います。それは、社会のあらゆる場所でイノベーションが行われてきたことの証です。
社会のあらゆる部分でイノベーションが起こらないと、なぜ経済が発展しないのか、それは簡単に理解できます。
たとえば、政府がいくらイノベーションに力をいれても、政府には限界があります。明治維新において、政府は最初は現在の中国のように政府主導のイノベーションを行いましたが、その結果できあがつた金融機関や工場などを徐々に民間に移譲して、民間でイノベーションが起こるようにしました。
その裏付けとして憲法や法律も整備し法治国家化し、さらに経済に直接政府が関与しないことにしました。もし、それを実行しなかったとしたら、その後発展途上国のままだったでしょう。
近代的な役所ができあがり、近代的な軍隊ができあがっても、社会の様々な分野でイノベーションが起こらず、一般家庭にはいつまでも電気もない、まともな通信手段もない、近代的な教育も受けられないという状況であれば、経済発展しようもありません。
現代の中国も同じことです。大都市は一見現代的にもみえますが、その中にも多数の貧困層が存在し、一歩都市部を出れば未だ社会が遅れています。さらには、民衆に対する弾圧も未だに続いています。経済は未だに政府の厳しい統制下にあります。憲法は中国共産党の下に位置づけられています。この状況では社会に多数のイノベーションが起こることは期待できず、経済発展はできません。
上の福島香織氏の記事は、特に「政治と経済」の分離ができていない中国の現実を露呈したと思います。先進国なら、政府が民間企業の経営者に圧力をかけることなど許されることではありません。
民間企業の経営者が政府を批判するには、それなりの理由があります。たとえば政府の様々な規制が、当該企業にとって成長できないことの原因になることは、往々にしてありえることです。事業家の彼らからすれば、自らの事業に邪魔となる規制に関しては、批判するのが当たり前です。
これは、先進国では当たり前であり、これを批判したとしても、政府や特定の政府高官を批判しているとはみなされません。政府としても、その批判が妥当であると判断すれば、規制を撤廃したり、新たな法律を作ろうとしたりするだけの話です。
しかし「政治と経済の分離」が行われていない、中国では政府批判とみられて圧力をかけられたり、はなはだしい場合には逮捕されたり拘束されたりするのです。
上の記事で福島氏が述べているように、中国の民間企業家たちは、鄧小平の改革開放路線の一種の産物です。中国経済のグローバル化の中で資金とチャンスを得て、共産党とも利益供与関係を結ぶことで、限定的な自由市場を手に入れて成長してきたのです。
それを潰すような真似をするということは、自らイノベーションの芽を潰すことになります。これでは、中国で先進国のような社会のあらゆる分野で起こる、立体的イノベーションなど期待できません。それは、中国が「中進国の罠」から今後も抜けられないこと示しています。
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