2021年4月30日金曜日

中国「食べ残し禁止」法可決 浪費ならごみ処理費負担も―【私の論評】中国農業は、都市化、高齢化、Eコマースによる農家破壊という三重苦にあえいでいる(゚д゚)!

中国「食べ残し禁止」法可決 浪費ならごみ処理費負担も

大食い番組も禁止 違反者に罰金

飲食店に掲げられた食べ残しを防止を呼びかけるスローガン(重慶市)

中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は29日、食品の浪費を禁じる法律を可決した。飲食店は、大量に食べ残すなどした客からごみ処理の費用を徴収できる。暴飲暴食をあおる大食いを売りにした番組や動画の放送、配信も禁じ、違反者には罰金も科す。

即日施行した。草案によると、大食い番組にかかわったテレビ局や動画配信業者に最大10万元(約160万円)の罰金を科す。飲食店が客に過剰な注文を促すことも禁止し、是正の警告を無視した違反者には最大1万元の罰金を科す。中国には宴会の主催者が自らのメンツのために多めに注文する習慣がある。

飲食店のほか、食堂を持つ政府機関や学校、出前アプリを展開するネット企業にも食品の無駄が生じないような対策を要求した。スーパーには賞味期限切れが近い商品の管理を徹底し、まとめて売り出すよう求めた。

法律に事細かい要求や禁止を並べたのは、習近平(シー・ジンピン)国家主席が昨年8月「食糧安全保障には常に危機意識を持たなければならない」と強調したことがきっかけだ。大豆やトウモロコシを輸入する米国との対立が長引くことも視野に、飲食時の浪費を戒める指示を出した。

食べ残しを禁じる法律とは別に、「食糧安全保障法案」も2021年中に審議する方針だ。

政府系シンクタンク、中国社会科学院などの調査では、中国都市部の飲食店で年間1700万~1800万トンの残飯が発生している。3000万~5000万人が1年間に食べる量に相当するという。一方、就農人口の減少で25年に約1億3000万トンの食糧不足に直面しうるとの試算もある。

【私の論評】中国農業は、都市化、高齢化、Eコマースによる農家破壊という三重苦にあえいでいる(゚д゚)!

新型コロナウイルスの世界的流行により、国連の世界食糧計画(WFP)は4月、「各地の食糧不足により、1億3500 万人から2億5000万人が飢餓状態に陥る可能性がある」と 警告しました。

中国政府の発表によると、現在国内で消費される食糧の約3割は輸入に頼っています。中国の外貨準備高は2014年に4兆ドル程度であったものが近年は3兆ドル強になって いるようです。

中国はその外貨を石油や天然ガスなどエネルギー輸入に回さなければならず、食糧輸入に回せる外貨は大幅に減少するものとみられています。さらに新型コロナの影 響で、ロシア、ベトナム、ウクライナなどは食糧輸出を制限しており、今年秋以降は食糧価格が高騰するために、中国の食糧調達がますます困難になるのは必至とみられます。

ロシア農業省は4月26日、6月末まで穀物の輸出を停止すると発表しました。ロシアは4月から6月末までの穀物輸出に割当制を導入していましたが、予定していた700万トンの輸出業者への割り当てが終了したとしています。最大の小麦輸出国であるロシアの輸出停止の決定が国際価格に影響を与えるかどうかが注目されます。

ロシア農業省の美しい建物

ロシアが割当制とした穀物は小麦とライ麦、大麦、トウモロコシ。ロシアが主導する旧ソ連圏の経済協力機構「ユーラシア経済同盟」の域外への輸出を対象としていました。農業省は「国内市場で穀物の必要量を保証し、価格が急上昇しないようにする」と説明していました。

ロシアが予定していた700万トンの割当量は前年同期の輸出実績をわずかに20万トン下回る水準でした。ただ4月に割当制を導入して以降、穀物輸出のペースが速まり、1カ月足らずで割り当てが終了することになりました。

世界市場では穀物の供給量や在庫は十分にあるとみられています。一方、新型コロナウイルスの影響で小麦粉などの需要は高まっています。旧ソ連では今春、ウクライナやカザフスタンも小麦の輸出制限を導入しました。ロシアなどで輸出規制を導入する動きが浮上した3月中旬以降、小麦の国際価格はやや上昇に転じていました。

8月10日 に公表された、中国の7月の食糧価格は12カ月連続で2桁上昇し、8月には穀物価格がさらに上昇しています。このままでは収入の少ない内陸部の住民の生活に重大な影響を及ぼす可能性があるので、中国政府内部では毛沢東時代に使用した食料の配給「糧票」の一部地域限定で復活させることまで検討しているといわれています。

この情報を知った欧米の人権団体が懸念しているのは、「中国政府が食糧の供給を都市部に優先し、外国メディアの目の届かぬ内陸部などで餓死者が大量発生すること」だとされています。これはかつて毛沢東政権下で現実に起こった経緯があります。

現実に、中国の発表では、8月22日時点の新型コロナウイルス感染者は8万5000人で、死者は4700人でしたが、これは欧米の主要国と比べてはるかに少なく、その他の事例でも中国当局発表は他国と比べて異常に少ないことが指摘されています。

このように従来の実績から見て、中国の場合、食糧危機やその被害の実態などが正確に報告されず、実相が隠蔽される可能性があるという問題があります。

2020年8月、中国社会科学院は、第14次五カ年計画(2021−2025年)の終わりには1億3000万トンの食糧不足が発生すると発表して、話題を呼びました。報道ではどうしても「食糧不足」という言葉が先走りしてしまうので、少し詳細にこの報道を読み解いてみます。

まず、中国の食糧(中国語でいう「糧食」)の概念を整理しておきます。食糧はお腹を満たす主食を指し、三大食糧として、小麦、米、トウモロコシがあげられます。中国の場合,これら穀物類をはじめとして、芋類や豆類も含みます。

中国新聞社のインタビューに答えた農村発展研究所の杜志雄氏(中国新聞網2020年8月21日)や他の報道(小白読財経2020年8月24日)を総合すると、この食糧不足の重要な意味は大豆にあるようです。

2012年より8年連続で中国の食糧生産量は6億トンを超えており、一方で中国は毎年1億トン以上の食糧を輸入しているのが現状です。ただ,2000年以降食糧自給率は徐々に下落しており、それをもたらしているのが大豆の輸入です。

大豆の輸入は急激に増加しており、現在大豆の85%~90%(8851万トン~1.1億トン)を輸入に頼っています。ちなみに中国の大豆輸入量は世界輸入量の60%を占めており、ブラジル、米国、アルゼンチンでほぼまかなわれています。

2019年の大豆の輸入は全食糧輸入量の70%を占めているため、食糧不足という現象は、大豆の国内生産の減少が作り上げているといってもよいかもしれません。またそもそも輸入大豆は精油や飼料用であり、口にする食糧自体にすぐに影響がでるわけでもないともいわれています。

とはいいながら、農業を取り巻く環境は今後も厳しいようです(Wang 2020)。一つは都市化です。現在の都市化率は60.6%であり、毎年1%前後のペースで都市化が進んでいます。

中国政府は都市化政策を推進してきたが・・・・・

社会科学院も2025年までに中国の都市化率は65.5%に達すると予測しており、14億人の5%、すなわち約7000万人が都市住民になると考えられます。社会科学院は、今後5年間で8000万人以上の農村人口が都市人口に組み込まれると推定しており、農業労働者の割合は約20%に低下するといいます。

もう一つの問題は高齢化です。2018年現在中国の65歳以上の割合は16.8%(中国統計年鑑2019年版)であり、実は国連の予測よりも7年以上も速いペースで高齢化しています。社会科学院によれば、60歳以上という定義ではあるのですが、これが2025年には農村では25%以上になるとしています。農村では出稼ぎで若者が都市に出てしまうために、とくに高齢化が進みやすいとみて良いでしょう。

農業人口が減少し、農業従事者が高齢化するのは日本でも同じです。中国の場合は、都市化が急速に進んでいるため、農村の農業人口の減少と農業人口の高齢化とが同時に進むことになります。中国の食糧確保は国家安全保障上重要な位置付けにあります。安定した食糧供給のためには、農業の生産性向上が今後必要になっていくでしょう。

さらに、最近ではEコマースによる中国農業への悪影響も指摘されています。Eコマースが農村エリアに移行するにしたがって、従来型の非形式的な販売ネットワークは悪化しています。農業製品は、従来あまり制度化されていないマーケティングネットワークを通し、多種多様な代理店を介して販売されていました。

この販売ネットワークは、個人間の私的な信用と現金経済の上に成り立っており、全ての参加者が共生し、リスクを共有し、各業者が固有の情報優位性により利益を得ることができていました。仲介者がより特権的なポジションを確立していたことは確かですが、彼らは農家の経営が成り立つように、数年に渡りローンを提供するといった動機を持っていたので、農家が潰れることはありませんでした。

このようなバリューチェーンは、小規模な土地所有者と制度化された市場の間のバッファのように機能していました。しかしこれらの非形式的なシステムは現在、Eコマースによって激しい競争にさらされ、都市計画の変化の中で、都市から追い出されてしまっています。都市部の卸売業者と小売店は、中国の都市部から刻々と姿を消しているのが事実なのです。

中国の巨大Eコマースは中国の農家を破壊している・・・・・

Eコマースは農家の衰退を補填することはなく、着実に農村コミュニティを構造的に脆弱な体質へと変化させています。従来の非形式ネットワークは、持続可能で、包括的で、農村コミュニティの回復力を保証していました。権力は比較的分散されていましたし、部分的に何かが崩れても、農家は代替手段を簡単に発見することができたのです。

一方でEコマースは強固に制度化されているため、商取引が一部の目立った成績を持つ農家ばかりをプロモートし、収益が不平等に分配されます。さらに言えば、プラットフォームというのは生来的に独占体質であり、農村は旧来の非形式ネットワークにおける仲買人と違い、プラットフォームと交渉する余地を持ちません。

Eコマースサイトはしばしば、仲介者を排除することを売り文句としますが、実際のところは、新しい類の仲介者を生み出しているだけなのです。CUHK(香港中文大学)人類学博士の Sun Rui 氏のフィールドスタディによれば、ほとんどのオンラインショップは特定企業によって運営されており、e コマースの時代には仲介者としての彼らの立場は、依然として重大なものなのです。

近視眼的なEコマース企業によるマーケティング戦略は、地域の製品評価を破壊しかねないです。数千の競合に勝つことを切望する販売者は、しばしば、非倫理的かつ持続可能性のない宣伝・マーケティングを乱用します。

有名な例で言えば、臨沂市から流通したリンゴによって、山西省ではマーケティングキャンペーン後にウイルスが流行しました。原因は強欲な販売者が、物乞いの人々に対し、既に食べることのできない劣化した商品を大量に販売していたためでした。

広告は消費者の同情心に訴えかけますが、その多くは誇張され、農村の現実から切り離されています。多くの人が、Eコマース企業が同情マーケティングとして同じ老人の農家の写真を何回も使い回している事実に既に気づいているかもしれないです。当然このようなやり口は政府の目にも留まっていて、2018年には、臨沂市政府は、ネガティブかつ近視眼的なマーケティング戦略に対し、公式に非難を行っていました。

このように現在の中国農業は、都市化、農家の高齢化、Eコマースによる農家の破壊という三重苦にあえいでいるといえます。こののままにしておけば、将来は食糧不足が起こる可能性もあります。

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