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岡崎研究所
1月25日付のワシントン・ポスト紙(WP)で、同紙コラムニストのジョージ・ウィルが、下院に新設された中国委員会のギャラガー委員長を紹介しながら、米中戦略的競争において米国が勝利する重要性を論じている。
マイク・ギャラガー下院議員は、プリンストン大学卒業後、ジョージタウン大学で博士号を取得する前の7年間、海兵隊に籍を置き、2年間のイラク派兵の間に、意図は良くとも戦略思考が混乱していることが招くコストの高さを学んだ。38歳で、下院議員4期目にして、新設の中国特別委員会の委員長に就任した。
ウクライナで抑止に失敗し、膨大な人命と資産が失われた。同じような失敗が台湾を巡って起これば、より悲惨な状況を生む。ギャラガーの考えは、ハル・ブランズ、マイケル・ベックリー両教授の「危険区間:来るべき中国との戦い」に記されたものと類似する。
両教授は、人口が中国の運命を決めるが、危険区間は今世紀という長期でなく、この10年という短期であるとする。その間、中国は「凋落する勢力」で、侵略の機会を強引に捕らえようとするかもしれない。長期的には米国が有利である。だからこそ「長期戦に持ち込むのは容易ではない」。
ギャラガーは、中国の無謀さは活力を失うにつけ増すと信じている。そこで委員会では次のような質問が出て来る。何故中国は米国の農地を買い占めるのか、何故議会はグアムのミサイル防衛システムの改良予算をつけないのかなどである。
下院中国特別委員会は365対65と超党派で設置された。反対したのは民主党議員である。理由は恐らく中国の脅威が進歩的課題への予算を減らすからだろう。緊縮派の共和党議員の中にも軍の装備を必要以下にしようとする者もいるだろう。ギャラガーは、この両者に対し、ジム・マティス元国防長官の言葉を引用している。「米国は生き残りにかける余裕はある」。
* * *
ジョージ・ウィルは、1974年以来WPに論説を掲載している知性派論説委員である。保守派だが、2016年6月にトランプ氏が共和党の大統領候補に選出されると、無党派に政党登録を変更し大きな話題を呼んだ。
このウィルが下院議会に設置された中国委員会(正式名は「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」)の委員長に選出されたマイク・ギャラガー議員の考えを紹介している。ギャラガーは、元海兵隊員でイラクの経験があり、安全保障と戦略情報の2つの修士と国際関係の博士号を持ち、筆が立つ。
ギャラガーは、米中の戦略的競争において長期的には米国が有利だが、10年の短期では危険な状態にあると述べる。中国は人口減少が生む経済問題などから「無謀さを増す」とし、中国に対し米国は対策を誤っていると具体的指摘もしている。
台湾有事やインド太平洋戦略で最も重要な海軍の近代化は時間がかかり、その間、防衛線上のサモアやグアムなどの防衛体制や海兵隊の基地の準備が不十分であると指摘する。
そして将来の技術を待つのでなく、既存の法や技術、装備の活用を推す。例えば、日本の防空体制強化のために退役予定の弾道弾ミサイル防衛機能を有す米海軍の巡洋艦シャイロー、ヴェラ・ガルフなどに改善を加え日本に残すことである。
ギャラガーは、新委員会の委員長として次のような課題を挙げている。供給網の問題、抗生物質やレアアースなどの過剰な中国依存、中国の殺戮や軍拡への州の年金基金の流用、台湾の防衛強化やインド太平洋諸国との関係強化、共産党中央統一戦線工作部の介入、ロビイング法の甘さや米国の学術組織への影響力、米国の領土や経済安全保障を脅かす土地買収などである。
ギャラガーの基本姿勢は超党派である。早くから台湾防衛への戦略的曖昧さ政策の転換を主張し、バイデンが転換を示唆する発言をするとすぐに評価した。また同盟国や友好国との協力が不可欠なことも強調している。
民主・共和両党に国防費増額反対の議員も
435名中365名の賛同を得て同委員会が設置されたように対中強硬姿勢は超党派だが、両党とも国防費増額に反対する議員がいる。ギャラガーは、もし中国が台湾を支配するようになれば、日本やフィリピンを含む第一列島線が破られ、ハワイやグアムも脅かされる、中国は半導体という新たな武器を得る、そしてインド太平洋地域の国々は中国の臣下になると警告する。
こうした事態を防ぐには、米中戦争になっても米軍が決定的な利を得ると信じ、また平時においては、威圧を加えるのは無駄であると中国に思わせるほど米軍は強力でなくてはならないとする。それだけの軍事力を得るのは安くないが、ギャラガーはマティス将軍を引用し、米国には生き残りにかけるだけの経済力はあると、米中戦略的競争に勝利することの米国と国際社会にとっての重要性を強調している。
中国委員会はバイデン政権の政策に影響を及ぼすのは間違いない。ギャラガーの戦略的思考は注目に値する。
【私の論評】10年以内に中共を潰す勢いの米下院「中国委員会」の設置で、日本も確実に近日中に対応を迫られる(゚д゚)!
ケビン・マッカーシー下院議長 |
ケビン・マッカーシー下院議長は、この委員会については超党派で中国に対峙する形が重要との認識から、民主党の要求を容れました。対決案件は既存の委員会で、あるいは別の特別委員会を設置して、との姿勢です。
例えば中国の投資会社とバイデン大統領の次男ハンター氏の不透明な関係などバイデン家疑惑については、司法委員会(保守強硬派のジム・ジョーダン委員長)で徹底追及する構えです。また、台湾に供給する兵器の選定や優先順位付けなどのテーマは外交委員会(マイケル・マッコール委員長)で扱う予定とされています。
中国問題特別委員会の委員長のマイク・ギャラガー氏は、マッカーシー議長に近いく、まだ38歳と若いですが、元海兵隊の情報将校で、数年来、対中強硬派として鳴らした存在です。
マイク・ギャラガー委員長 |
ギャラガー委員長は、個々の議員が毎年大量に出し、そうして多くは埋もれていく中国関連法案から重要部分をピックアップして取りまとめ、速やかに法制化していくことが委員会の仕事になると述べています。
ギャラガー委員長は当面取り組むべきテーマとして、最先端テクノロジーの対中移転の阻止など経済安全保障分野の諸課題および米側におけるデータ管理の徹底、中国政府による「検閲」排除、スパイ行為や電波妨害に使われるのを阻止するために、米軍基地周辺の土地取得阻止などを挙げています。
検閲に関しては、相互主義および公正をキーワードに追及を強めるといいます。例えばギャラガー委員長は、中国政府が一般国民にツイッターを使わせない一方、外務省報道官などが連日、ツイッターを用いてアメリカ政府を誹謗中傷している状態は不公正の極みと批判しており、SNS事業体の幹部を参考人として招致する意向を示しています。
中国ビジネスを人質に取られる形で検閲に屈してきた米国のプロバスケット協会(NBA)、ハリウッド映画界、ディズニー社の幹部らも追及(事情聴取)の対象になるとしています。
11日(現地時間)の米政治専門紙「ザ・ヒル」によると、共和党所属のマイク・ギャラガー中国特別委委員長はインタビューで、「委員会がボブ・アイガー・ディズニー最高経営責任者(CEO)とアダム・シルバー米プロバスケット(NBA)総裁を聴聞会の証人として呼ぶのか」という質問に「そうだ」と答えました。
ディズニーは2020年に公開された映画『ムーラン』を中国政府の人権侵害で問題になった新疆ウイグル自治区の近隣で撮影し、論議を呼んだ。 上の写真は、実写版映画『ムーラン』のポスターです。
NBAに関しては、米プロバスケットチーム、ヒューストン・ロケッツのGMダリル・モリー氏が「自由のために戦う香港デモ隊と共にする」というコメントをツイッターに載せたのが発端でした。中国バスケットスターのヤオミンがプレーしたロケッツを好む中国人はこのコメントに反発した。モリー氏がすぐにコメントを削除して謝ったが、中国の怒りは激しいものでした。
中国内の独占中継権を持つCCTVが1年近くNBAの試合を放送せず、中国企業がNBAの後援を中断すると、結局、モリー氏はGMから退きました。
ギャラガー委員長は「中国共産党が技術、経済部門を統制するように放置すれば、米国の残りの産業にどのようなことが起きるかを見せた」とし「ハリウッドやNBAの貪欲な経営陣に限られた問題でない」と主張した。ギャラガー委員長はビッグテック(巨大技術企業)と中国の関係にも注目するとし、「米国が中国との競争で勝利する案についてビッグテックと議論することを望む」と話した。
しかも、10年以内に中共を潰す勢いのギャラガー氏の戦略なのですから、日本も確実に近日中に対応を迫られるでしょう。
特別委員会の動きは日本にも様々に波及してくるでしょう。
世界で中国の偵察気球が波紋を広げる中、バイデン米政権と議会で対中直接投資に対する警戒感が一段と高まっています。ハイテク技術の軍事転用を阻止するため、先端半導体や人工知能(AI)、監視技術などの投資を制限する大統領令の準備を加
速。米国は、同盟国を巻き込んだ「対中包囲網」の形成を目指しています。
大統領令は経済安全保障上重要なハイテク分野に限定し、米国企業による中国企業の合併・買収(M&A)やサプライチェーン(供給網)などを監視する「対外投資審査」の導入を宣言する予定です。トランプ前政権時から検討が進められ、投資禁止も視野に入れます。米国に拠点を置く日本企業が中国で事業展開する際も審査対象になるでしょう。
米政府はこれまで、中国企業による米国企業の買収を制限するために「対内投資審査」を厳格化。先端半導体の輸出禁止や輸入関税引き上げなどの貿易制裁も発動しました。ところが、米軍が撃墜した中国の気球に通信傍受機能や米欧製部品が含まれていた疑いが浮上。米国の技術が中国の軍事力向上に使われているとの懸念が強まっています。
世界で中国の偵察気球が波紋を広げる中、バイデン米政権と議会で対中直接投資に対する警戒感が一段と高まっています。ハイテク技術の軍事転用を阻止するため、先端半導体や人工知能(AI)、監視技術などの投資を制限する大統領令の準備を加
速。米国は、同盟国を巻き込んだ「対中包囲網」の形成を目指しています。
大統領令は経済安全保障上重要なハイテク分野に限定し、米国企業による中国企業の合併・買収(M&A)やサプライチェーン(供給網)などを監視する「対外投資審査」の導入を宣言する予定です。トランプ前政権時から検討が進められ、投資禁止も視野に入れます。米国に拠点を置く日本企業が中国で事業展開する際も審査対象になるでしょう。
米政府はこれまで、中国企業による米国企業の買収を制限するために「対内投資審査」を厳格化。先端半導体の輸出禁止や輸入関税引き上げなどの貿易制裁も発動しました。ところが、米軍が撃墜した中国の気球に通信傍受機能や米欧製部品が含まれていた疑いが浮上。米国の技術が中国の軍事力向上に使われているとの懸念が強まっています。
特定の中国企業や品目だけでなく、中国でのモノやカネの流れにまで監視の目を光らせるようになれば、米国の経済安保政策は集大成の段階に入ります。米調査会社ロジウム・グループによると、過去20年間の米国の対中直接投資に当てはめると最大43%が審査対象になり、産業界には痛手です。
中国特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和)は、対中投資制限について「同盟国との協調」を訴えています。台湾、韓国は政府が対外投資審査を行う一定の権限を持ちます。欧州連合(EU)やドイツも審査導入を検討する方向で、日本も確実に対応を迫られるでしょう。
中国特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和)は、対中投資制限について「同盟国との協調」を訴えています。台湾、韓国は政府が対外投資審査を行う一定の権限を持ちます。欧州連合(EU)やドイツも審査導入を検討する方向で、日本も確実に対応を迫られるでしょう。
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