2023年3月14日火曜日

画期的な台湾外相の訪米 問われる日本の対応―【私の論評】蔡英文総統は8月訪米、日本も招いて首脳会談すべき(゚д゚)!

画期的な台湾外相の訪米 問われる日本の対応

岡崎研究所


 2023年2月23日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)の解説記事は、台湾の呉釗燮・外交部長(外相)の訪米は米台関係において画期的であると述べ、米台間の要人交流の活発化を報じている。

 台湾の外相が米高官との会談のため訪米した。異例のことである。台湾の中央通訊社(CNA)には、呉釗燮・外交部長と顧立雄・国家安全会議議長がウェンディ・シャーマン米国務副長官らと、米国の台湾における代表機関である米国在台湾協会(AIT)のワシントン本部を後にする姿が写っている。

 CNAによると、2月21日の会談は国家安全保障問題を焦点に7時間に及んだ。台湾の識者達は、台湾問題を扱う米国事務所という準公式の場で行われた今回の会談は米台関係の注目すべき一歩であると言う。

 中国外交部報道官は、2月24日、米国は中国の台頭を封じ込めるために台湾を利用していると非難した。中国は長年、台湾を外交的に孤立させる事に成功してきたが、ロシアのウクライナ侵攻は、台湾が中国に攻撃される可能性への懸念を高め、米国と同盟国は台湾への支持表明を強めることとなった。

 米台間に正式の外交関係はないが、両者は互いの首都に利益代表部を維持し、議員や元官僚の代表団を多数受け入れてきた。米国は台湾に武器も供与し、公式には米国は曖昧政策を続けているが、バイデン大統領は、台湾が攻撃された際には米国は支援すると繰り返し述べている。

 民主党のペロシ下院議員は昨夏、下院議長在任中に台湾を訪問した。最近選出されたマッカーシー下院議長も台湾を訪問したいと述べている。2月23日、カンナ下院議員(民主党、カリフォルニア州選出)率いる議員団が台北で蔡英文総統と会談した。そこには、ゴンザレス(共和党、テキサス州選出)、オーキンクロス(民主党、マサチューセッツ州選出)、ジャクソン(民主党、イリノイ州選出)各議員が含まれる。別途、ギャラガー・米中戦略的競争に関する米国下院特別委員長も訪台し、蔡英文らと会談した。

*    *    *

 台湾の呉外相が最近、米国を訪問し、7時間にわたってワシントンにおいて、米政府関係者と協議した。1979年の米台外交関係断絶以来、現役の台湾の外相がワシントンを訪問し、AIT事務所において米政府関係者と会談したのは初めてのことであり、米台関係における画期的事件ととらえることが出来る。

 WSJはじめメディアは、単に会談が行われた事実を伝えるのみで、内容の詳細については触れていないが、米台間の外交では特筆すべき一大進展であったことは間違いない。

 なお、今のところ、日本では、台湾の総統、副総統、行政院長(首相)、国防相、外相については、日本国内で直接日本政府関係者と会談することを避けるのが、日台断交以来の日本政府の慣行になっている。この点、今回の呉外相の訪米は、このような旧来の日台間の慣行に比して、新機軸をなすものと言えよう。

 呉に同行した台湾代表団には国家安全会議の顧秘書長が入っている。また、米国側より、シャーマン国務副長官やファイナー米大統領副補佐官(国家安全保障担当)が参加した。

 WSJの本記事は米台関係がこのように急速に変貌を遂げつつある背景としてウクライナへのロシアの侵略があり、台湾をめぐっても同じようなことが起こるのではないかとの危惧の念が米国政府側にあるからだろうと述べている。

 正式な外交関係がないからと言って、台湾の状況をただ傍観するだけでは、今後「台湾有事」が発生するのを抑止できなくなる恐れもあると米国側が判断したからというWSJの見方は決して間違ってはいないだろう。

 台湾の世論では、有事の際に米国は果たして支援してくれるのだろうかという議論が引き続き行われている。呉外相の訪米は、米国としての本気度を示すものと受け取られることも折り込んだ米台間のアレンジメントであろう。

 バイデン政権としては、もし将来台湾が武力攻撃の対象になれば、「台湾関係法」を持ち、台湾に武器を供与することにコミットしている米国としては、「一つの中国」政策につき「曖昧さ」を維持しつつも、台湾救援のために駆けつける構えを示したいところであろう。
日台関係の深化は急務

 最近、日本においても「台湾有事」が発生した際に、日本としていかに対応するかが話題になることが多い。日本としては、安保関連法案に基づき、米国の台湾支援に対する後方支援を行うだけではなく、日ごろからハイレベルで、軍事面を含め、台湾の政策決定者との間で情報交換しあうような関係を築く必要がある。今回の呉外相の訪米はそのためのヒントとなろう。

 台湾問題を「核心中の核心問題」と位置づけ「台湾統一」のためには武力を行使することも排除しないとする中国の猛反発は目に見えているが、中国の台湾への軍事侵攻の可能性を考慮すれば、今回の呉外相の米国訪問は、日本の台湾問題への取り組みにおいても重要な課題を提起するものである。

【私の論評】蔡英文総統は8月訪米、日本も招いて首脳会談すべき(゚д゚)!

このブログでは、中国による台湾侵攻は難しいということを掲載してきました。これは、マスコミなどが日々それを煽るため、多くの人が、中国はいとも簡単に台湾に軍事侵攻して、台湾を併合できると思うのではないかと懸念したため、実はそう簡単ではないことを掲載してきました。私は、中国がいとも簡単に台湾に侵攻できると思い込むのは、中国の思うつぼだと思います。

実際、中国が台湾を侵攻しようとすれば、現在ウクライナがロシアに抵抗しているように台湾軍がこれに真正面から抵抗すれば、開戦当初のウクライナ軍よりも、はるかに精強で現代的な兵器を整えてる台湾軍により、中国軍はかなりの損害を被ることが予想されます。

台湾軍女性兵士

なぜなら、台湾は島嶼国でありながら最高峰の玉山(3,952m)は、日本の最高峰富士山よりも高く、東は切り立った山であり、海の水深は深く、西の海は浅いので潜水艦は発見されやすく、上陸地点は限られており、上陸する人民解放軍は、高地の台湾軍から容易に狙い撃ちされることになるからです。

さらに日米が加勢すれば、中国は台湾に侵攻してこれを併合するのはかなり難しくなります。それは、最近の米国の台湾有事のシミレーションによっても明らかにされています。しかし、だからといって中国が未来永劫にわたって台湾に侵攻しないという保証はありません。

中国としては、軍事的手段以外の手を駆使して、台湾併合をはかるでしょうが、最後のひと押しで軍事力を使う可能性は捨てきれません。特に、侵攻は難しいものの、ミサイル等を用いて、台湾の軍事施設などを破壊することはすぐにできます。ただ、台湾も長距離ミサイルを配備しており、そうなれば中国側損失を被るのは必定です。

しかし、侵攻で台湾を一気に併合するのではなく、軍事以外のあらゆる手段を用いて、台湾を外交的に孤立させたり、中国脅威論を煽ったり、通商妨害をしたり、台湾を弱体化するなどのことをしてから、軍事力も用いつつ最終的に台湾を奪取して併合するなどのことは十分に考えられます。私は、むしろこちらのほうがはるかに中国にとって現実的なシナリオだと思います。

中国が軍事力のみで台湾を侵攻するというのなら、台湾もそれに備えて、軍事力を強化し、人民解放軍の弱点を知り抜いた日米も台湾に武器を供与したり、共同軍事訓練をしたりすればそれで良いです。

しかし、事はそう単純ではないのです。台湾の多くの人々は、台湾が中国に併合されることには反対ですが、中国と利害が一致する人や親中的な人も存在します。それも、有力者の中にもそういう人は存在します。

中国が台湾内で影響力を増し、次期台湾総裁選で親中派の国民党の候補者を当選させるなどの工作をし、その他に対してもありとあらゆる方面に幅広く工作して台湾のあらゆるところに浸透し、台湾が合法的に中国に自発的に併合されるという、シナリオも十分考えられます。

もし、自発的に併合されなければ、台湾へのあらゆる方面への工作を強化し、これが最終局面を迎えた段階で、易々と侵攻というか、進駐に近い形で台湾に軍を派遣して奪取することも十分に考えられます。

このような脅威は常に懸念されるからこそ、台湾は米国等と関係を深めようとしているのです。

そうしたなかで、台湾の呉釗燮・外交部長(外相)が先月21日、米首都ワシントンDC近郊で米政府高官と非公式の会談を開いたのは画期的なことです。

台湾の呉釗燮・外交部長(外相)

会談は米バージニア州にある米国在台湾協会(AIT)の本部で実施しました。米国側からはシャーマン国務副長官らが出席し、台湾側からは国家安全会議(NSC)の顧立雄秘書長も参加しました。

米台高官の非公式会談は定期的に実施されています。直近では2022年6月に台湾NSCの顧氏の訪米が報じられました。

さらに、台湾の蔡英文総統が8月までに訪米する方針を固め、米国側と調整に入ったことが分かりました。産経新聞が先月25日、複数の台湾当局関係者の話として報じました。

蔡英文氏は、台湾・民主進歩党主席だった頃、次期総統選候補者として、2015年5月末から6月にかけて訪米したことがあります。台湾総統として、米国を訪れるのは初めてのことです。

蔡氏は来年5月に退任しますが、台湾への軍事的圧力を強める共産党一党独裁の中国を牽制し、蔡政権の外交成果の集大成として「米台関係の緊密さ」をアピールする狙いといいます。中国の習近平国家主席は「台湾の武力統一」を排除しておらず、激しく反発しそうです。

蔡英文総統が米国を訪れるのは画期的なことです。これにより、米台間の揺るぎない関係を中国にに見せつけ、中国の台湾侵攻を牽制することなるのは間違いないです。


蔡氏の訪米待望論は以前からありましたが、米国が中国の反発を懸念してためらっていたようです。ところが、中国は「台湾併合」を公言し、緊張感を高めており、習政権に配慮する意味はなくなりました。米台連携を緊密化することが最大の抑止力になります。

日本も「自由」「民主主義」「人権」「法の支配」といった普遍的価値を共有する台湾との関係を強化すべきです。

日本も、議員団の訪台だけでなく、台湾総統を招くとか、総理大臣や外務大臣が訪台するなどのことをすべきです。そうして日米台連携を緊密にすることがさらに、抑止力を高めることになります。

そうして、来年台湾に新総統が誕生したときには、総理大臣が出向いて、台湾で首脳会談を開催すべきです。

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