2023年12月29日金曜日

世界が揺れた2023年への5つの希望―【私の論評】日米の「縮み志向」:文化、地政学、そして来年への展望

世界が揺れた2023年への5つの希望

岡崎研究所

まとめ
  • ウォルトの論説の要点は以下、大国間の戦争は回避された、米国は地政学的および経済的に恵まれている、人道活動家たちの努力に感謝する、リベラルな民主主義にとって希望の光が見える、表現の自由が守られている。
  • ウォルトは、暗いニュースが多い中にも、感謝すべき事柄はたくさんあると主張している。しかし、同時に、これらの事柄の中には、逆に深刻な課題が透けて見えるものもあることもある。

スティーヴン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

 2023年11月23日付Foreign Policy誌は、スティーヴン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)による「2023年に感謝を捧げるべき世界における5つの事柄」と題する論説を掲載している。
  1. 大国間の戦争がなかったこと:大国間の全面戦争は弱小国間の紛争よりも多くの人的損害をもたらすため、その回避は感謝すべき事柄である。しかし、大国間の戦争がないことは、大国から小国への武力行使が行われやすくなる可能性を示唆している。
  2. 地政学上および経済面での幸運:米国は地政学的に恵まれており、外国の侵略の脅威にさらされていない。また、世界で最も豊かな社会である。しかし、米国が国内の問題が増え、国外への視線が向きにくくなる兆候があるという事実は、日本にとって危険信号である。
  3. 人道活動家、平和に向けて努力する人たち、正義に向けて抗議する人たちの存在:彼らは世界の困難に対抗し、重荷を軽くし、苦しみを軽減し、分断を橋渡しするために毎日努力を払っている。彼らの存在は、世界がもっと悲惨な場所となることを防いでいる。
  4. 希望の光:暗い年の中でも、良い判断が恐れや疑いを煽る勢力に打ち勝つ瞬間がある。例えば、ポーランドの総選挙で「法と正義」党が敗北したことは、民主主義に前向きな一歩である。しかし、各国の選挙では、「非リベラルな民主主義」を志向する党の勝利の方が上回っているのが現状である。
  5. 表現の自由:学術における自由は攻撃にさらされているが、依然として自由に考え、執筆することができる。しかし、表現の自由が脅かされつつあることは、来年の大統領選挙の結果次第で、その状況がさらに悪化する可能性を示している。
 これらの事柄は、ウォルトが感謝の対象として挙げているものですが、それぞれには逆に深刻な課題が透けて見える。これらの懸念は、ますます危険な状況となりつつある世界において、日本にとって小さくない影響を及ぼす可能性がある。

 この論説は、米国の「縮み志向」を示しているとも解釈できる。ウォルトの論説は、暗いニュースが多い中にも明るい要素を見いだそうとしたが、その中には深刻な課題が透けて見えるという視点から、現代の国際情勢を独自の視点で捉えている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日米の「縮み志向」:文化、地政学、そして来年への展望

まとめ
  • 「縮み志向」は日本文化の特性を理解する視点で、日本人が小さいものに美を認め、あらゆるものを「縮める」という特性を指摘している。
  • 「縮み志向」にはマイナスの面もあり、自粛文化、国際社会との協調性の欠如、健康不安などが挙げられ。
  • スティーブン・ウォルト氏は現在の米国人が「縮み志向」にあると指摘し、トランプ大統領が登場すれば、その傾向が強まると懸念しているようだ。
  • しかし、保守派の視点からは、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策は米国の利益を優先させるものであり、孤立主義や「縮小」を意味するものではない。
  • 日米両国とその同盟国は、共通の利益と価値観に対する脅威に直面したとき、「縮み志向」ではなく、強固な決意を固めることでのみ利益を得て、前に進むことができる。
上のスティーヴン・ウォルト氏の論説は、リベラル派の視点です。この見方には保守派は賛同できません。

上の記事にでてくる岡崎研究所による「日本人の縮み志向」とは、韓国の文芸評論家である李御寧氏が提唱した日本人論の一つです。彼は、日本人が小さいものに美を認め、あらゆるものを「縮める」ところに日本文化の特徴があると述べています。



例えば、世界中に送り出された扇子やエレクトロニクスの先駆けとなったトランジスタなどは、この「縮み志向」が創り出したオリジナル商品であるとされています。

また、入れ子型、折詰め弁当型、能面型など「縮み」の類型に拠って日本文化の特質を分析し、その結果をもとに「日本人論中の最高傑作」とも評される著書「縮み志向の日本人」を発表しました¹²。このように、「日本人の縮み志向」は日本文化と日本人の特性を理解するための一つの視点となっています。

「縮み志向」にはマイナスの面も存在します。以下にいくつかの例を挙げます。
  1. 自粛文化: 「縮み志向」は日本社会の様々な面に現れ、その典型が“自粛文化”であり、「臭い物には蓋をする」もその一例とされています。これは、問題を解決するために直接対処するのではなく、問題を隠蔽しようとする傾向を指します。
  2. 国際社会との協調性: 「縮み志向」の日本人は「拡がり」に弱いとされ、国際社会という外の社会の中で協調、共存しながら生きていくには「縮み」志向の限界をよく認識し対応していかなければならないと指摘されています。
  3.  健康不安: 世界一の長寿国でありながら、健康不安が高い日本人に対して、健康診断の厳しすぎる基準値によって「病人」に仕分けられる人が多いという問題も指摘されています。
スティーブン・ウォルト氏は現在米国人はマイナスの「縮み志向」にあり、来年トランプ大統領が登場すれば、米国人の「縮み志向」がますます強まるように懸念していると岡崎研究所は分析してますが、私はそれは逆ではないかと思っています。

そうではなくて、民主党政権こそがポリティカル・コレクトネス、キャンセル・カルチャーなどで「縮み志向」にあり、トランプ氏は、この「縮み志向」をただそうとしているのです。


トランプ氏

われわれ保守派は、ウォルト教授とは少し違った世界を見ています。トランプ政権下の米国の「縮み志向」については、ウォルト教授の懸念には同意できないです。トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策は、単に米国の利益をグローバリズムよりも優先させるということであり、米国が孤立主義になるとか、世界の舞台から「縮小」するということではありません。

そのことはトランプ政権下で実証されたと思います。当時、米国は支配的な超大国としての地位を再確立しようとし、中国、ロシア、イランの脅威に対抗し、悪い貿易協定を再交渉し、同盟国が相互防衛に公平に貢献するようにしようとしたのです。トランプ氏は、米国が世界的な挑戦に直面して受け身でいる余裕はなく、自信と強さを誇示しなければならないことを理解していました。米国が表に出ず、後ろからリードする時代は終わったのです。

日本にとっても、強くて自信に満ちた米国は、安全保障と貿易で日本に依存している同盟国にとっても好都合です。日本の「縮み志向」は、文化的な文脈では役に立つかもしれないですが、地政学においては、各国が自国の利益のために立ち上がることが不可欠です。無論、自由で公正・公平な自由貿易などを目指すのは当然のこととして、危険な時代には、グローバリズム礼賛は強さではなく弱さを示すことになります。


全体として、ウォルト教授の分析には説得力がありません。保守派として私たちは、平和は希望的観測ではなく、強さによってもたらされると認識しています。そして、自国を第一に考えることは美徳であり、これは恥ずべきことでも、謝罪すべきことでもありません。むしろ、他国の利益を第一に考えるなどと語る政府や指導者は、偽善者であるとの誹りを受けても仕方ないです。

各国とも、自国の利益を第一に考えた上で、外交、安全保証をすすめるべきですが、それだけでは、他国との摩擦も増えるので、互いに譲れるとことは譲り、譲れないところは譲らないということで、秩序が形成されていくのです。その中にあってある国の政府や指導者が、自国をないがしろにしてまで、他国の利益を優先するなどということなどあり得ないです。

それでは、強い国だけが、栄えることになるではないかと考えるのも間違いです。弱い国を強い国が蔑ろにすれば、他の強い国はそれに危機を抱いて、弱い国を助けようとします。そのようなことで、秩序が形成されていきますし、さらに現在では国際法が戦争のありかたや、戦争行為のあるべき姿を示し、国際関係がカオス状態にならないように存在しているのです。

日米両国とその同盟国は、共通の利益と価値観に対する脅威に直面したとき、「縮み志向」ではなく、強固な決意を固めることでのみ利益を得て、前に進むことができます。そうでなければ、後退するだけです。これは、来年ますます明らかになっていくことでしよう。

皆様今年は、大変お世話になりました。来年もよろしくお願いします。

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