2026年4月6日月曜日

またぞろ始まった『日本はもう駄目だ』――中東有事で暴かれた、マスコミの愚と我が国の底力


 まとめ
  • 中東有事で「日本はもう危ない」と騒ぐ声が広がる中、政府は実際には備蓄、物流、医療物資、中小企業支援まで具体的に動いている。その現実を、感情ではなく実務で見せる。
  • 物価、エネルギー、失業率、若年雇用を欧州、中国、韓国と比べると、我が国だけが特別に追い詰められているわけではない。マスコミがあまり語らない「日本はまだかなり持ちこたえている」という事実を数字で示す。
  • コロナ禍でも、我が国は雇用を大きく壊さず危機をしのいだ。今回も必要なのは、煽りに飲まれることではなく、現実の数字と政府対応を見て冷静に構えることだ。

中東情勢が緊迫すると、決まって「日本は危ない」「すぐに物がなくなる」といった声が大きくなる。だが、こういう時こそ見なければならないのは、騒ぎの大きさではない。政府が実際に何をしているかである。経済産業省は中東情勢関連対策ワンストップポータルを立ち上げ、4月2日には重要物資の安定供給確保のためのタスクフォースを始動させた。厚生労働省も、医薬品、医療機器、医療物資の確保対策本部を設けた。中小企業庁も、特別相談窓口を拡充している。まず押さえるべきは、「何もしていない政府」ではないという事実である。政府はすでに、供給の詰まりを拾い、先に手を打つ体制に入っている。 (経済産業省)

1️⃣不安をあおる前に、まず政府の実務を見よ



今回の対応は、掛け声だけではない。赤澤経産相は4月3日の会見で、小児用カテーテルの滅菌に必要なA重油、九州地方の路線バス用軽油、医療用器具の滅菌に必要な酸化エチレンガスについて、すでに供給を確保できたと明らかにした。原油や石油製品だけでなく、ナフサについても、備蓄放出や代替調達によって「日本全体として必要となる量」を確保し、化学品全体では国内需要4か月分を押さえているという。つまり、政府の視線は店頭の不安をあおる方向ではなく、医療、交通、物流、農業といった生活の土台を守る方向に向いているのである。 (経済産業省)

もっとも、だから何も心配はいらないと言うつもりはない。今回の肝は、「量が足りるか」より「どこで詰まるか」である。会見でも、塗料用シンナーでは川上の供給は続いていても、川中のどこかで目詰まりが起きている可能性が示された。かんぱち稚魚の輸入でも、特殊燃料不足による遅延を受け、関税特例の検討が進められている。危ないのは、全面的な欠乏ではない。特定の業種、特定の地域、特定の流通段階に先にしわ寄せが出ることである。 (経済産業省)

だから必要なのは、買いだめでも悲鳴でもない。
局所的な異変を早くつかみ、早く対処することだ。 (経済産業省)

企業、とりわけ中小企業は、「まだ大丈夫」と黙って耐えるべきではない。関東経済産業局は、販売事業者名、契約状況、数量、価格、契約期間、今後の調達見込みなど、かなり具体的な情報の提供を受け付けている。資金繰りや経営相談についても、中小企業庁の特別相談窓口がすでに動いている。個人もまた、地域で継続的な供給異常や不自然な販売制限を見たなら行政窓口につなげばよい。便乗値上げや店頭トラブルなら、消費者ホットライン188を使えばよい。SNSで不安を増幅するより、そのほうがはるかに役に立つ。 (関東経済産業局)

2️⃣日本だけが特別に苦しい、というのは雑な比較である

中国の就職フェア

ここで思い出すべきなのは、我が国のマスコミがよくやる、あの癖の悪い比較である。普段は海外を持ち出して「日本は遅れている」「日本は駄目だ」と言いたがるくせに、物価や雇用の話になると、急に比較が雑になる。だが、足元の数字を並べれば、我が国は主要国の中でかなり冷静でいられる側にある。日本の総合CPIは2026年2月で前年比1.3%、完全失業率は2.6%である。これに対し、ユーロ圏の3月インフレ率は2.5%、EUの失業率は2026年2月で5.9%、ユーロ圏は6.2%である。韓国の2月失業率は3.4%で、3月のCPI上昇率は2.2%だった。中国は2025年の都市調査失業率平均が5.2%、2026年2月も5.3%である。日本が無傷だと言うつもりはない。だが、「日本だけが特別に危ない」という絵は、数字の上では立たない。 (総務省統計局)

その差は、若年雇用を見るとさらによく分かる。EUの若年失業率は2026年2月で15.3%、ユーロ圏でも14.9%である。韓国では15〜29歳の若年失業率が2026年2月に7.7%となった。中国では、在校生を除く16〜24歳失業率が2026年2月に16.1%、25〜29歳でも7.2%である。これに対し、OECDは、日本の失業率が主要国の中でもきわめて低く、若年失業の面でももっとも落ち着いた部類にあることを示している。指標の取り方には国ごとの差がある。だが、それを差し引いても、日本の若者雇用が欧州、中国、韓国より安定していることは見て取れる。 (European Commission)

エネルギー価格でも、我が国だけが特別に苦しいわけではない。EUの家計向け電気料金は2025年前半で平均28.72ユーロ/100kWh、家計向けガス料金は11.43ユーロ/100kWhである。ガスは2024年後半に12.33ユーロ/100kWhまで上がり、過去最高を記録した。他方、資源エネルギー庁の国際比較では、2023年の家庭用電気料金は日本30.2円/kWhに対し、英国63.5円、ドイツ61.9円、フランス35.9円である。家庭用ガス料金も、日本15.6円/kWhに対し、ドイツ20.4円、イタリア19.0円、フランス17.6円、英国17.3円である。統計系列が完全に同じではない以上、乱暴な単純比較は慎むべきだ。だが、それでもなお、「エネルギー高で日本だけが突出して苦しい」という話ではない。むしろ欧州主要国のほうが、家計負担は重い。 (Energy)

要するに、生活が苦しいのは事実である。
しかし、我が国だけが世界で一番危うい場所にいるかのような語りは、やはり雑なのである。 (総務省統計局)

3️⃣コロナの時と同じく、最も危ういのは“空気”に流されることだ

この局面で思い出すべきなのは、コロナ期の教訓である。高橋洋一氏は2021年7月、四度目の緊急事態宣言や無観客五輪について、実際のリスク管理よりも、マスコミにどう叩かれるかが意思決定をゆがめているのではないかという趣旨の批判をしていた。表現の好き嫌いはあってよい。だが、「報道の熱量」と「現実のリスク管理」は別物だという指摘そのものは、今読み返しても重い。 (Reuters Japan)

しかも、日本のコロナ対応は、少なくとも雇用と社会の安定という点では、かなり成功した部類に入る。OECDによれば、日本の雇用率は2020年5月でも2020年1月比で0.8ポイント低下にとどまり、その後はコロナ前水準まで回復した。季節調整済み失業率も2020年10月の3.1%がピークで、その後は低下した。IMFのワーキングペーパーは、雇用調整助成金が2020年4月から10月にかけて失業率を約2.6ポイント押し下げたという政府試算を紹介している。危機のさなかには「日本は失敗した」という空気が強かった。だが、後から数字を見れば、我が国は雇用を大きく壊さず危機をしのいだ国なのである。失業率の低さは、特筆に値する。 (OECD)

無観客で開催された東京五輪

東京五輪についても、後から見れば見直す余地は大きい。東京大学CREPEの分析は、観客の直接効果をかなり限定的に見ていたし、2025年の研究でも、東京2020と北京2022は、適切な対策の下では開催都市のCOVID-19発生率に有意な影響を与えなかったとしている。他方で、別の分析は東京で感染者増を推計しており、評価が完全に一致しているわけではない。だが、少なくとも「厳格な条件付き有観客は絶対に不可能だった」と、今なお断言するのは難しい。今から振り返れば、限定的有観客でも、ほとんど問題なく運営できた可能性は十分にある。少なくとも、当時の不安の熱量は、後から見ればかなり大きかった。 (crepe.e.u-tokyo.ac.jp)

あの時も今も、本当に警戒すべきなのは同じである。
事実そのもの以上に、過熱した空気に引きずられることだ。 (OECD)

結論

要するに、我が国で物価が上がっているのは事実である。生活が楽だと言うつもりもない。だが、物価、エネルギー、失業率、とりわけ若年失業まで含めて見れば、日本は欧州の多くの国や中国、韓国に比べて、なおかなり安定している。しかも今回は、政府が備蓄、供給網、医療物資、中小企業支援の各面で既に動いている。コロナ期にも、我が国は雇用を大きく壊さず危機をしのいだ。その事実は重い。だから必要なのは、ただ「安心しろ」と言うことではない。政府の対策を確認し、国際比較で自国の位置を知り、そのうえで局地的な物流の詰まりや特定業種へのしわ寄せだけを冷静に見張ることだ。マスコミの煽りに流されず、実務と数字を見る。この平常心こそ、いま我が国が持つべき最大の備えである。

【関連記事】

高市・トランプ会談は成功である――日本は艦船を約束せず、国益を取り、米国も実利を得た 2026年3月20日
危機の時代に、我が国は本当に押し切られたのか。そう思っている読者ほど、読み終えた後に景色が変わる。日米交渉の現実をたどることで、日本が守ったものと取りにいったものが、はっきり見えてくる。 

ホルムズ危機 中国は海を封鎖できる 日本は海を開く──世界がまだ知らない 日本の掃海艦隊 2026年3月15日
危機の本質は、ただ物が足りなくなることではない。海を閉じる力と、海を再び開く力の差に注目すると、日本が持つ本当の強みが浮かび上がる。 

石油不足ではない。石油が動かないのだ──世界を再び動かせるのは日本 2026年3月13日
中東危機の核心は、資源不足ではなく物流の目詰まりにある。今回の記事の「慌てる前に構造を見よ」という視点を、さらに深く腹に落とさせる一本である。 

商品価格、26年にコロナ禍前水準に下落 経済成長鈍化で=世銀—【私の論評】日本経済の試練と未来:2025年、内需拡大で危機を乗り越えろ! 2025年4月29日
安倍・菅政権が合わせて100兆円規模の補正予算を組み、雇用と需要を守った意味は何だったのか。危機の時こそ大胆に守るべきものがあると知れば、今の中東情勢の見え方も変わってくる。 

高橋洋一氏 岸田政権ぶった切り「ショボい!とろい!」給付金もGOTOも遅すぎ―【私の論評】今のままだと、自民党内で岸田おろしがはじまり、来年総裁選ということになりかねない(゚д゚)! 2021年11月17日
日本のコロナ対策は本当に失敗だったのか。そうした思い込みをいったん外し、死亡率、雇用、医療崩壊回避という現実から振り返ると、我が国が危機に案外強い国であることが見えてくる。

0 件のコメント:

またぞろ始まった『日本はもう駄目だ』――中東有事で暴かれた、マスコミの愚と我が国の底力

  まとめ 中東有事で「日本はもう危ない」と騒ぐ声が広がる中、政府は実際には備蓄、物流、医療物資、中小企業支援まで具体的に動いている。その現実を、感情ではなく実務で見せる。 物価、エネルギー、失業率、若年雇用を欧州、中国、韓国と比べると、我が国だけが特別に追い詰められているわけ...