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2019年3月17日日曜日

トランプ大統領が「強すぎるドル」を徹底的に嫌う最大の理由―【私の論評】日本の政治家、官僚、マスコミ、識者は無様なほど雇用を知らない(゚д゚)!

トランプ大統領が「強すぎるドル」を徹底的に嫌う最大の理由

過激な発言の一方で冷静なところも





「アメリカファースト」の中身

 「利上げを好み、量的引き締めを好み、非常に強いドルを好む紳士がFRB(米連邦準内に1人いる」

 トランプ大統領が3月2日の演説でこう揶揄した人物とは、ほかでもないFRB議長のジェローム・パウエル氏だ。トランプ大統領は中央銀行の金融引き締め策がドル高を招き、米国経済に悪影響を与えていると度々批判している。

FRBは1月、2019年に予定していた2回の追加利上げを見送る方針を示していたが、トランプ大統領はまだおかんむりのようだ。

ジェローム・パウエルFRB議長

 金融引き締めのタイミングについては、アベノミクス以降日本でも最重要課題となっている。日米の経済を単純比較することはできないが、トランプ大統領はなぜFRB批判を繰り返すのか。

 本コラムでは再三述べてきたが、金融政策とは雇用政策であるということは、経済学の基本中の基本だ。

 ペンシルベニア大学ウォートン校卒のトランプ大統領は、政治は素人でも、この基本をよく理解している。彼のよく言う「アメリカファースト」の中身をよく見てみると、雇用の確保が最優先に据えられていることがわかる。

 FRBは雇用最大化と物価の安定の「二重の責務」を担っていると、公式に宣言している。このため、雇用となれば真っ先に矢面に立たされるのがFRBである。これは米国だけでなく欧州でもそうだ。

 ところが日本で雇用はどうするのかとなると、質問が向かうのは日銀ではなく厚生労働省だ。

 物価上昇率が高いときには失業率が低く、物価上昇率が低いときには失業率が高い。物価と雇用の関係は裏腹である。日銀の仕事は物価の安定のみと言っているが、実質的に雇用の確保の責任を持っている。

 もっとも、いくら金融政策を行っても失業率には下限があり、それは各国で異なる。日本では2%台半ば程度、アメリカでは4%程度とされている。一方、その達成のための最小の物価上昇率は先進国で似通っており、だいたい2%だ。これがインフレ目標となっているのをご存じの読者は多いだろう。

 ここで改めて、なぜトランプ大統領が「強すぎるドル」を嫌い、パウエル議長批判を繰り返すのかを考えよう。

トランプ大統領

 為替は二つの通貨の交換比率から成り立っている。もしアメリカが日本よりも金融引き締めを進めると、市場のドルは少なくなり、相対的にドルの価値は上がる(ドル高)。これは輸出減少と輸入増加を招き、結果としてGDPを減少させる要因となる。国際金融理論の実務でも有名な「ソロスチャート」にも示されている相関関係だ。

 トランプ大統領は米国の年間GDP成長率の目標を3%としていたが、'18年はこれをわずかに上回る3・1%という数値に落ち着いた。目標値を下回るかもしれないとあって、トランプ大統領は相当気を揉んでいたはずだ。国際経済学を理解する彼だからこそ、口酸っぱく金融引き締めを批判し、GDP成長率の押し上げを図っている。

 激しい言動が取り沙汰される一方で、意外と理論派なところもあるのがトランプ大統領だ。

 彼が政府の一員と言える中央銀行にどうモノ申すのか、冷静に追っていく必要がある。

『週刊現代』2019年3月23日号より

【私の論評】日本の政治家、官僚、マスコミ、識者は無様なほど雇用を知らない(゚д゚)!

この記事の冒頭の記事には「日本で雇用はどうするのかとなると、質問が向かうのは日銀ではなく厚生労働省だ」という指摘があります。

雇用に関して、雇用枠を拡大することができるのは、日銀だけです。厚生労働省にはこれはできません。厚生労働省が雇用に関して実行しなければならないのは、雇用統計と労務関連施策であって、雇用には直接関係ありません。

これは、世界の常識なのですが、なぜか日本ではこれが、いわゆる大人の常識になっていません。

多くの人が現在でも、雇用=金融政策とか雇用の主務官庁は日銀というと、怪訝な顔をするようです。

これに関しては、このブログでも指摘したことがあります。
若者雇用戦略のウソ―【私の論評】雇用と中央銀行の金融政策の間には密接な関係があることを知らない日本人?!
当時の就活中の女子大生

この記事は、2012年9月1日土曜日のものです。この当時はまだまだ就職氷河期が続いていおり、就活生の悲惨な状況が報道されていました。この状況はこの年の年末に安倍政権が成立して、金融緩和策を打ち出し、翌年の4月から日銀は異次元の金融緩和策を打ち出しました。そうして、日銀が緩和に転じて、その後雇用状況が良くなり今日に至っています。

上の記事で"「雇用のことって正直、よく分からないんだよね」。今春まで約8年間、東京都内のハローワークで契約職員として勤務していたある女性は、正規職員の上司が何気なく発した言葉に愕然としたことがある"とありますが、この正規職員の上司の発言は正しいのです。

この記事そのものは、雇用=金融政策という原理原則を知らない人が書いたものなので、そもそも読むに値しませんが、ただし、この正直者の正規職員の上司の発言だけは、日本では雇用の主務官庁は厚生労働省が多いと思い込む人が多いことの証左として、読むに値するかもしれません。

先にも述べたように、厚生労働省およびその下部機関である、ハローワークは失業率などの雇用統計や労務に関わるのであって、雇用そのものには関係ありません。厚生労働省やハローワークがいくら努力をしたとしても雇用は創造できません。当時からそのことは全く理解されていませんでした、それに関わる部分をこの記事から以下に引用します。
アメリカでは、雇用問題というと、まずは、FRBの舵取りにより、大きく影響を受けるということは、あたりまえの常識として受け取られていますし。雇用対策は、FRBの数ある大きな仕事のうちの一つであることははっきり認識されており、雇用が悪化すれば、FRBの金融政策の失敗であるとみなされます。改善すれば、成功とみなされます。 
この中央銀行の金融政策による雇用調整は、世界ではあたりまえの事実と受け取られていますが、日本だけが、違うようです。日本で雇用というと、最初に論じられるのは、冒頭の記事のように、なぜか厚生労働省です。
当時の就活中の女子大生 当時は特に女子大生の就活は大変だった
このブログでも、前に掲載したと思いますが、一国の雇用の趨勢を決めるのは、何をさておいても、まずは中央銀行による金融政策です。たとえば、中央銀行が、インフレ率を2〜3%現状より、高めたとしたら、他に何をせずとも、日本やアメリカのような国であれば、一夜にして、数百万の雇用が生まれます。これに関しては、まともなマクロ経済学者であれば、これを否定する人は誰もいないでしょう。無論、日本に存在するマクロ経済学と全く無関係な学者とか、マルクス経済学の学者には、否定する人もいるかもしれませんが、そんなものは、ごく少数であり、グローバルな視点からすれば、無視しても良いです。
それと、気になるのは、 金融政策により為替の大部分が決まってしまうことも、多くの人が知らないことです。

日本円と米ドルの比較でいえば、日本が金融引き締め政策をとり、円そのものを米国ドルよりも少なくすれば、相対的に円の希少価値があがり、円高になります。逆に日本が金融緩和政策をとり、円そのものを米国ドルより多くすれば、円の希少価値が下がり、米ドルの希少価値があり、円安ドル高になります。

無論、為替レートには様々な要因があり、短期的には為替レートを予測することは不可能です。ただし、長期的には日米政府の金融政策によって為替レートが決まります。

こんなことは、ある物が多くなれば、希少価値が少なくなり、ある物が少なくなれば、希少価値が高くなることを知っている人なら簡単に理解できることだと思うのですが、これも何故か日本ではほとんど理解されてないようです。

そうして、このことが理解できいないがために、日本では通貨戦争などを信奉する人も多いようです。通貨戦争など妄想にすぎません。

考えてみて下さい、仮に日本が円安狙いで徹底的に金融緩和策をやり続けたとします。その結果どうなるでしょうか、際限なく日本円を擦り続けた先には、ハイパーインフレになるだけです。だから、金融緩和するにしても適当なところでやめるのか普通なので、通貨戦争などできないし、妄想に過ぎないのです。

このようなことも理解していないからでしょうか、日本の雇用論議や、為替論議を聴いていると、頓珍漢なものが多いです。

私は、為替レートやGDPなどよりも、雇用が最も重要だと思っています。なぜなら、雇用が確保されていれば、大多数の国民にとっては安心して生活することができます。逆に雇用が確保されなければ、大多数の国民安心して生活できません。

仮に他の経済指数などが良くても、失業率が上がれば、政府はまともに仕事をしているとは言えません。

冒頭のドクターZの記事では、

「国際経済学を理解する彼だからこそ、口酸っぱく金融引き締めを批判し、GDP成長率の押し上げを図っている。

 激しい言動が取り沙汰される一方で、意外と理論派なところもあるのがトランプ大統領だ」。

とトランプ大統領を評価しています。

しかし、これは政治家や、マスコミ(特に経済記者)、識者(特に経済関係の識者)は、最低限知っていなければならないことだと、私は思います。

ましてや、雇用に関しては、細かいことまでは知らなくても、大きな方向性は理解していてしかるべきです。

日本では、これを理解している、政治家、官僚、マスコミ、識者はほんの一部のようです。幸いなことに、安倍総理とその一部のブレーンは知っています。それなのに、彼らの多くは米国のほとんどリベラルで占められている新聞やテレビなどのマスコミ報道を真に受けて、保守派のトランプ大統領をあたかも狂ったピエロであるかのように批判しています。

そうして、トランプ大統領のようにまともにマクロ経済の理解はしようとしません。その意味では、先に掲載した、正直者のハローワークの正規職員の上司よりも始末に負えないです。

そのようなことをする前に、彼らは無様なほど雇用を知らないことを自覚すべきです。そんなことでは、まともな経済論争などできません。顔を洗って出直してこいと言いたいです。

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2019年3月8日金曜日

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道―【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背後に何が(゚д゚)!

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道

米朝会談は米国にとっては「大成功」だった

米国が北朝鮮から「核戦力廃棄の確約を得られなかった」ことを主な理由として、「失敗」との報道がなされがちな第2回米朝首脳会談ですが、米大統領補佐官は「成功」だと反論しました。これに同調するのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北朝鮮の今後を予測した上で、米の対北政策が日本にも有益な点を詳しく解説しています。

ボルトンさん「米朝首脳会談」は【大成功】

先日行われた米朝首脳会談について、「大失敗だ!」という意見が多いです。しかし、皆さんご存知のように、REPは「大成功だ!」という立場。それで、3月1日に、こんな記事を出しました。

金正恩の姑息な作戦に乗らず。米朝首脳会談が成功と言える理由

ところで、私と同じ意見の人がいました。ボルトンさん(アメリカ大統領補佐官)です。トランプ政権中枢にいる人が、「大成功!」というのは、当たり前ですが…。
米朝首脳会談は「成功」 米大統領補佐官が擁護
3/4(月)6:32配信 
【AFP=時事】米国のジョン・ボルトン(John Bolton)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は3日、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領との間で先週行われた米朝首脳会談について、双方で合意に至らず会談が失敗だったとの見方を否定した。
「失敗だったとの見方を否定した」そうです。
ボルトン氏はCBSの報道番組「フェイス・ザ・ネーション(Face the Nation)」で、トランプ氏が北朝鮮から核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったことは、「大統領が米国の国益を守り、高めたという意味で成功」と見なされるべきだと語った。
「トランプ氏が核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったこと」=「大統領が国益を守って成功」だそうです。どういう意味でしょうか?
ボルトン氏は、争点はトランプ氏の言う「大事業」すなわち完全な非核化を北朝鮮が受け入れるかまたはそれ以下の「われわれには受け入れ難い」ことのどちらかだったと説明。「大統領は自分の考えを断固として貫いた。大統領は金正恩氏との関係を深めた。米国の国益は守られており、私はこれを失敗だとは全く見ていない」と述べた。
同感です。トランプさんは、「完全な非核化」を要求しました。その見返りは、「体制保証」「経済制裁解除」です。

まあ、アメリカはこれでカダフィを03年にだまし、丸裸にした。結果、彼は11年、アメリカが支援する反体制派に捕まり殺されました。だから金正恩がアメリカを信用しないのは当然。

一方、金正恩は、「一部非核化して、制裁解除」を狙ってきました。これは、過去の「成功体験」を繰り返したのです。1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らか。今回も「これでいける!」と思ったのですね。

このように、アメリカは北をだまそうとしている。いえ、ひょっとしたらトランプさんは、だまそうとしていないのかもしれない。しかし、カダフィの例があるので、金正恩からは「だまそうとしている」ように見える(それに、トランプ後の大統領が政策を変更するかもしれない)。そして、北はアメリカをだまそうとしている。で、結果、「トランプさんは、金正恩にだまされなかった」。だから、RPEも、ボルトンさんも「成功だ」というのです。

これが、「少し非核化して、制裁解除」となったらどうです?金は、「核兵器保有」と「経済発展」の二つを同時に成し遂げた。まさに「偉大な指導者」になることでしょう。

トランプ、金正恩の交渉決裂でどうなるのでしょう?
  • 金は、核実験、ミサイル実験を再開できません。再開したら、アメリカは、「金は交渉を断念したようだ。しかたない…」といって、北を大攻撃するでしょう
  • 北朝鮮は、豊かになりません。現状、中国、ロシアが北支援をつづけている。しかし、これは「国連制裁違反」なので、大々的に、大っぴらにできない。せいぜい「体制が細々と存続していく程度」にしか支援できない
金はこれから、
  • トランプを信じるか?つまり、「完全非核化して、体制保証、制裁解除を勝ち取る」か?(繰り返しますが、アメリカがだますリスクはあります)
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくか?
  • 核実験、ミサイル実験を再開して、アメリカに殺されるか?
いずれかを選ばなければならない。現状、もっとも可能性が高いのは、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
でしょう。そして、中国、ロシア、韓国に、「制裁違反の支援をもっと増やしてください!」と懇願するかもしれない。もしそれで中国が支援を増やせば、米中覇権戦争中なので、アメリカは、「中国は国連安保理の制裁に違反して、北を助けている!」と非難する。そして、対中制裁を強化することでしょう。中国としても悩ましいところなのです。

こう考えると、アメリカの対北政策は、実にうまくできています。アメリカも困らないし、日本も困りません。そのように見る人は、あまりいないのですが。

【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背景に何が(゚д゚)!

私自身は、米朝会談は米国にとっては大勝利だったと思っています。上の記事は、その私の考えをさらに補強するものでした。特に、ボルトン氏が「大成功」としていることで、私の考えは裏付けされたものと思いました。

さて、この大勝利について、「大勝利」とは掲載していないものの、失敗ではないことをこのブログも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 ―【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!
米朝決裂であてのはずれた文在寅
詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に一部を引用します。 
北朝鮮は、外見は中国を後ろ盾にしてはいますが、その実中国の干渉されることをかなり嫌っています。金正男の暗殺や、叔父で後見役、張成沢氏の粛清はその現れです。 
韓国は、中国に従属する姿勢を前からみせていましたが、米国が中国に冷戦を挑んでいる現在もその姿勢は変えていません。 
この状態で、北朝鮮が核をあっさり全部手放ばなすことになれば、朝鮮半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となることは明らかです。これは、米国にとってみれば、最悪です。そうして、38度線が、対馬になる日本にとっても最悪です。
もし今回北朝鮮が米国の言うとおりに、全面的な核廃棄を合意した場合、米国は、米国の管理のもとに北朝鮮手放させるつもりだった思います。まずは、米国に到達するICBMを廃棄させ、冷戦で中国が弱った頃合いをみはからい、中距離を廃棄させ、最終的に中国が体制を変えるか、他国に影響を及ぼせないくらいに経済が弱体化すれば、短距離も廃棄させたかもしれません。
しかし、これを米国が北朝鮮に実施させた場合、多くの国々から非難されることになったことでしょう。特に、日本は危機にさらされ続けるということで日米関係は悪くなったかもしれません。さらに、多くの先進国から米国が北朝鮮の言いなりになっていると印象を持たれかなり非難されることになったかもしれません。 
しかし、今回の交渉決裂により、悪いのは北朝鮮ということになりました。米国は、他国から非難されることなく、北朝鮮の意思で北の核を温存させ、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐことに成功したのです。まさに、「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という結果になったのです。
この記事にも掲載したように、本来「北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる」という点を抜きに、今回の米朝首脳会談が大成功であったと認識するのは困難でしょう。

大方のメディアにはこのような認識がないので、「失敗」と報道するしかなかったのでしょう。

今回の首脳会談後についての金正恩 選ぶ道について、ブログ冒頭の記事では、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
これは、米国にとっては、当面北が核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくにしても、核が存在すること自体には変わりはなく、それは中国の脅威となり、中国の朝鮮半島への浸透が防止されることになることには変わりありません。

これについては、米国が北を屈服させて、そこに米国が中距離核を配備すればよいではないかと考える人もいるかもしれませんが、それをやってしまえば、米国と中国、ロシアとの対立がかなり深まることになります。さらには、国際的に非難されることにもなります。

そうではなく、北の意思によって、核か北朝鮮に存在するといことが重要なのです。

現状を保てたことは、まさに米国にとって大勝利です。ただし、米国としては北朝鮮に核があることが米国にとって有利などということは、口が裂けても公言することはできません。

だから、ボルトン氏もそのことについては、特に言及しないのでしょう。そのことが、米国の大勝利を一般からは理解しにくいものにしています。

トランプ大統領は6日、北朝鮮がミサイル発射施設の復旧を進めているとの情報について、「本当なら非常に失望する」と述べました。
ボルトン補佐官は5日、非核化をめぐる今後の協議について「ボールは北朝鮮にある」と指摘、北朝鮮が本当に核計画を放棄する意思があるかどうか見極めていく考えを示した。

その上で、完全な非核化に応じなければ「経済制裁の強化を検討する」とけん制した。

これらによって、トランプ大統領もボルトン氏も、現所維持を確固なものにするとともに、「ボールを北」に投げたのです。



そうして、米朝会談は今後の中国の動向により、方向付けられるでしょう。現在米国による対中冷戦が繰り広げられています。

この冷戦は、中国が体制を変えるか、さもなくば、中国の経済力が弱体化して他国に影響をおよぽせなくなるまで、継続します。

そうして、私の見立てでは、中国は体制を変えることはしません。体制を変えるといことは、中国共産党1党独裁でなくなるのは無論のこと、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめるということです。

そうなれば、中国共産党の統治の正当性が崩れ、中国共産党は崩壊します。そのような道を中国共産党は選ぶことはないでしょう。

では、残された道は、経済を弱体化され、体制を維持したまま細々と生きていくという道です。

そのようになれば、中国は図体が大きいだけの凡庸な、アジアの独裁国家になりはて、自国のことだけで精一杯になり、朝鮮半島に影響力を及ぼす余力もなくなります。

その時に、次の本格的な米朝会談が始まることになります。というより、中国が弱体化してしまえば、朝鮮半島問題もおのずと、解決することになり、かなり楽に交渉ができるようになると思います。アジアの問題は、やはり中国が最大のものであり、その他は従属関数であるに過ぎないとみるべきなのです。

金正恩

そのことを理解したのか、金正恩は、米朝会談の帰路に、先回の会談後には帰路に習近平と会談したのですが、今回は習近平とは会談せずに北朝鮮に戻りました。一般の報道では、これについて金正恩は「会談に失敗してあわせる顔がない」からなどと報道していますが、それは上で示したような文脈を理解していないからだと思います。

金正恩としては、中国に対峙する米国に対して、当面どちら側につくかを意思表示したのでしょう。

金正恩としては、冷戦においていずれ中国が敗北すると踏んでいるのでしょう。であれば、残された道は、冷戦で中国が弱体化するまで、核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きのび、頃合いをみはからって、核を放棄し制裁解除をしてもらい、経済発展の道を模索するということしかありません。

今回の米朝首脳会談でのトランプ大統領「大勝利」の背景に何があったのかを理解することは、今後の世界情勢を理解する上でかなり重要なことだと思います。

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2019年3月1日金曜日

決裂すべくして決裂した米朝首脳会談だが・・・―【私の論評】今回の正恩の大敗北は、トランプ大統領を見くびりすぎたこと(゚д゚)!

決裂すべくして決裂した米朝首脳会談だが・・・

日本は過度の対米依存から脱却して自立すべし

ベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で、休憩中に散歩するトランプ大統領(右)と
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(左、2019年2月28日撮影)

2月27日・28日に米首脳会談が行われましたが、結果はドナルド・トランプ大統領が適切な決断を行ったと評価したいと思います。

首脳会談前には、トランプ大統領が成果を急ぐあまり、北朝鮮に過度の譲歩をするのではないかと多くの関係者が懸念を抱いていました。

しかし、トランプ大統領が金正恩労働党委員長の要求する「経済制裁の完全解除」を拒絶して、会談は破談となりました。

トランプ大統領は、合意に至らなかった理由について、次のように説明していますが、極めてまともな理由づけです。

「北朝鮮は制裁の完全な解除を求めたが、納得できない」

「北朝鮮は寧辺の核施設について非核化措置を打ち出したが、その施設だけでは十分ではない」

「国連との連携、ロシア、中国、その他の国々との関係もある。韓国も日本も非常に重要だ。我々が築いた信頼を壊したくない」

今回の結果を受けて一番失望しているのは金正恩委員長でしょう。彼は最小限の譲歩(寧辺の核施設について非核化措置、ミサイルの発射はしない)を提示し、最大限の成果(制裁の完全な解除)を求めすぎました。

金委員長は、トランプ大統領を甘く見過ぎて、理不尽な「経済制裁の完全解除」を要求したのは愚かな行為であり、世界の舞台で取り返しのつかない恥をかいてしまいました。

私は、今回の首脳会談の決裂は日本にとって最悪の状況が回避されて良かったと思います。一方で、朝鮮半島をめぐる環境は依然として予断を許しません。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、首脳会談開始日である27日に「日本がやるべきことは、徹底した謝罪と賠償をすることだけだ」と非常に無礼な反日的な主張をしています。

また、韓国は朝鮮半島の諸問題の交渉から日本を廃除し、朝鮮半島に反日の南北連邦国家を目指しています。我が国は自らを取り巻く厳しい状況を深刻に認識することが大切です。

そして、過度に米国に依存する姿勢を改め、自らの問題は自らが解決していくという当たり前の独立国家になるために、国を挙げて全力で取り組む必要があります。

トランプ大統領の発言に多くが懸念表明

27日の首脳会談の滑り出しをみて、「非核化交渉ではなく、単なる政治ショーに終わるのではないか」と懸念する人は多かったと思います。

27日会談当初のトランプ大統領と金正恩労働党委員長の発言には危いものを感じました。

トランプ大統領は「1回目の首脳会談は大成功だった。今回も1回目と同等以上に素晴らしいものになることを期待している」と発言し、金委員長は、「誰もが歓迎する素晴らしい結果が得られる自信があるし、そのために最善を尽くす」と述べました。

しかし、トランプ政権内のスタッフを含めて多くの専門家は、「1回目の首脳会談は失敗だった」と認めていて、トランプ大統領の自己評価の高さが際立っていました。

また、金委員長が発言した「誰もが歓迎する素晴らしい結果」など存在しません。 例えば、日本が歓迎する素晴らしい結果とは、北朝鮮が即座に核ミサイル・化学生物兵器及びその関連施設を廃棄し、拉致問題が解決されることです。

金委員長が日本が歓迎するような結果をもたらすわけがありません。

北朝鮮は核ミサイルを放棄しない

まず金委員長が核ミサイルを放棄することはないことを再認識すべきです。

金委員長は、核ミサイルの保有が自らの体制を維持する最も有効な手段であると確信しています。北朝鮮にとって核ミサイルの保有は国家戦略の骨幹であり、それを放棄すると北朝鮮の戦略は崩壊すると思っています。

一部のメディアは、金委員長の年頭の辞を引用し、「北朝鮮は核開発と経済建設の並進路線から経済建設一本の路線に移行した」と報道していますが、それを信じることはできません。

北朝鮮は、あくまでも核開発と経済建設の並進路線を今後も追求していくと認識し、対処すべきなのです。

一方で、トランプ大統領が自国のインテリジェンスを重視しない姿勢は問題だと思います。

トランプ氏は、「北朝鮮は脅威でない」と発言しましたが、米国の情報関係者や第一線指揮官の認識は正反対です。

彼らは、北朝鮮の核は脅威であり、その非核化に疑問を表明しています。

例えば、米国のインテリジェンス・コミュニティを統括するダニエル・コーツ国家情報長官は1月29日、上院の公聴会で次のように指摘しています。

「北朝鮮は、核兵器やその生産能力を完全には放棄しないであろう。北朝鮮の指導者たちは、体制存続のために核兵器が重要だと認識しているからだ。北朝鮮では非核化とは矛盾する活動が観測されている」

また、米インド太平洋軍司令官フィリップ・デイビッドソン海軍大将は2月12日、上院軍事委員会で次のように指摘しています。

「北朝鮮が、すべての核兵器とその製造能力を放棄する可能性は低いと考えている。北朝鮮が現在も米国と国際社会に与えている脅威を警戒し続けなければいけない」

25年間騙し続けてきた北朝鮮

北朝鮮は、核と弾道ミサイルの開発に関して、25年以上にわたって西側諸国を騙し続けてきました。北朝鮮は、核兵器の開発中止を約束しても、その合意をすべて反故にしてきました。

北朝鮮にとって核兵器と弾道ミサイルは、体制を維持していくために不可欠なものと認識しています。

北朝鮮と長年交渉してきた外交官によりますと、「北朝鮮と締結する合意文書に関しては一点の疑義もないように細心の注意を払わなければいけない。そうしないと、核放棄の約束は簡単に反故にされる」そうです。

2018年6月12日に実施された第1回米朝首脳会談の大きな問題点は、首脳会談までに両国で徹底的に詰めるべき核およびミサイル関連施設のリストや非核化のための具体的な工程表などを詰めていなかったことです。

第2回米朝首脳会談も同じ状況になっていました。米朝間においていまだに、「何をもって非核化というか」についてのコンセンサスができていないという驚くべき報道さえあります。

第2回の首脳会談も担当者間での調整不足は明らかでした。今回の会談では、金委員長が「制裁の完全な解除」という愚かな主張をしたために、米国からの譲歩は回避できたとも言えます。

北朝鮮は、今後とも「北朝鮮の非核化ではなく朝鮮半島の非核化」「段階的な非核化」を主張し続けていくことでしょう。

これらは、過去25年間の北朝鮮の常套句であり、米国などが騙されてきた主張です。

今後の米朝交渉では担当者レベルで徹底した議論と合意の形成に努力すべきです。それをしないで、首脳会談に任せるというのは避けるべきでしょう。

変化するトランプ政権の交渉姿勢

27日、記者団に「朝鮮半島の非核化を求める姿勢を後退させるのか」と問われると、トランプ氏は短く「ノー」とだけ答えました。

しかし、トランプ政権の北朝鮮に対する交渉姿勢はどんどん後退していました。かつては、「すべての選択肢はテーブルの上にある」「最大限の圧力」を合言葉にしていました。

北朝鮮に対しては、この「力を背景とした交渉しか効果がない」という経験則から判断して妥当な交渉姿勢でした。

ところが、この交渉姿勢はどんどん後退していきました。

2018年6月12日以前にトランプ政権が使用していた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID: Complete Verifiable Irreversible Denuclearization)」というキャッチフレーズは死語になりました。

その後にCVIDを放棄し、CVIDの「完全と不可逆的」の部分を削除し、グレードを下げたFFVD(Final Fully Verified Denuclearization)という用語を昨年後半から使い始めました。

FFVDは「最終的かつ十分に検証された非核化」という意味ですが、このFFVDは昨年までは使われていましたが、第2回米朝首脳会談を前にしてあまり使われなくなっていました。

そして、トランプ大統領やマイク・ポンペイオ国務長官は、「米国民が安全であればよい、核実験や弾道ミサイルの発射がなければ、北朝鮮の非核化を急がない」とまで発言するようになりました。

米国の対北朝鮮対応の変化が結果として、金正恩委員長の「制裁の完全排除」という過剰な要求の原因になったのかもしれません。

北朝鮮への対処法では、韓国の金大中元大統領の太陽政策は有名です。この太陽政策の起源は、旅人の外套を脱がせるのに北風が有効か太陽が有効かをテーマとしたイソップ物語です。

金大中の太陽政策は北朝鮮には通用しませんでした。

トランプ政権の交渉姿勢の後退は、北風から太陽への変化と比喩する人がいますが、太陽政策の失敗は「北朝鮮との交渉においては太陽政策による融和は通用しない」ことを明示しています。

米国の北朝鮮への対応は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」に戻るべきではないでしょうか。

トランプ大統領が主張していた「北朝鮮に対する最大限の圧力」は、2017年12月がピークでした。日本の軍事専門家の一部も「2017年12月、米軍の北朝鮮攻撃」説を唱えていました。

しかし、2018年に入りトランプ大統領は「北朝鮮に対する最大限の圧力という言葉を使いたくない」とまで発言するようになり、第1回の米朝首脳会談後の記者会見では「米韓共同訓練の中止や在韓米軍の撤退」にまで言及しました。

我が国の保守の一部には、「第2回米朝首脳会談で北朝鮮が非核化を確約しなければ、トランプ大統領は躊躇なく北朝鮮を攻撃する」と主張する人がいますが、どうでしょうか。

戦争を開始するためには大統領の強烈な意志と周到な軍事作戦準備が必要です。現在の米国には両方とも欠けています。トランプ大統領には、今後とも冷静な判断を継続してもらいたいと思います。

日本にとって厳しい状況は続く

第1回の米朝首脳会談では、「核を含む大量破壊兵器とミサイル開発に関する完全で正確なリストを提出すること」が米朝間で合意されましたが、北朝鮮はそれを実行しませんでした。

この北朝鮮の頑なな姿勢が今後も変わることはないでしょう。北朝鮮は、核ミサイルの全廃を拒否し、その大部分の温存を追求するでしょう。

トランプ大統領の「米国民が安全であればよい、核実験や弾道ミサイルの発射がなければ、北朝鮮の非核化を急がない」と発言することは、米国の国益を考えればむげに非難できません。まさに、アメリカ・ファーストの考えに則った主張です。

しかし、この米国中心の発想は、日本の国益に真っ向から対立します。

なぜなら、北朝鮮の核兵器や短距離・中距離弾道ミサイルは温存されることになり、日本にとっての脅威はなくなりません。

米国の国益は日本の国益とは違うという当たり前のことを再認識すべきです。トランプ大統領が日本のために特段のことをしてくれると期待する方が甘いのです。


結言

私は、安全保障を専門としていますが、重要なことは「最悪の事態を想定し、それに十分に備え対応すること」だと思っています。

今回の首脳会談の結末は、日本にとって厳しいもので、「北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル、化学兵器、生物兵器が残ったままになり、拉致問題も解決しない」状態です。真剣に、この厳しい事態に対処しなければいけません。

また、我が国では2020年に東京オリンピックがあり、サイバー攻撃、テロ攻撃、首都直下地震などの自然災害が予想される複合事態にも備えなければいけません。

一方、トランプ大統領にとって、米朝首脳会談後、米中の貿易戦争(覇権争い)をいかなる形で収めていくのかが最大の課題です。

この件でも米中首脳会談で決着を図ろうとしています。今回の米朝首脳会談による決着の問題点を踏まえた、適切な対応を期待したいと思います。

また、米国では2020年に大統領選挙があり、トランプ大統領の再選が取り沙汰されていますが、彼は現在、米国内において難しい状況にあります。

2018年の中間選挙において民主党が下院の過半数を確保したことにより、予算の決定権を民主党に握られ、下院の全委員会の委員長を民主党が握ることにより、厳しい政権運営を余儀なくされています。

また、トランプ大統領は複数の疑惑を追及されています。2016年大統領選挙を巡るロシアとの共謀疑惑(いわゆるロシアゲート)、その疑惑を捜査するFBIなどに対する大統領の捜査妨害疑惑、その他のスキャンダルです。

この疑惑の捜査結果いかんによっては2020年の大統領選挙における再選が危うくなることもあるでしょう。

いずれにしろ、民主主義国家において選挙は不可避です。その選挙に勝利するために対外政策への対応を誤るケースが過去に多々ありましたから、適切に対応してもらいたいと思います。

【私の論評】今回の正恩の大敗北は、トランプ大統領を見くびりすぎたこと(゚д゚)!

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は「制裁解除」ありきでトランプ米大統領とのハノイでの2回目の会談に臨んだようです。

しかも十分な実務者協議なしにトランプ氏の決断に全てを委ねる賭けに出たことが裏目に出ました。今回の会談失敗は、金氏にとって最高指導者就任以来の重大危機ともいえそうです。

「非核化の準備ができているのか」。28日の会談の合間、米記者団からこう問われると、金氏は「そのような意思がなければここに来なかった」と答えました。

「具体的措置を取る決心は」との質問には「今、話している」と応じました。これに対し、トランプ氏が下したのは「北朝鮮は準備ができていなかった」として合意を見送る結論でした。

北は、ヨンビョンだけではなく、いろいろな地点に核施設(プルトニウム工場や濃縮ウラニウム工場、加えて核弾頭作りの工場など)を保有しています。米は衛星写真などを通して、かなりの率で把握している模様です。


28日の会談でも、トランプがヨンビョン以外での濃縮ウラニウムのことを少し話しただけで金正恩が腰を抜かすほど驚いたともいわれています。米国はここ数年で北朝鮮内部の状況をかなり把握しているものとみられます。

これに加えて連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)の監視網を背景にした米国の「金融支配」により、独裁者の隠し資産は丸裸にできます。

そうして、北朝鮮や中国など、米国と敵対している国々のほとんどが、汚職で蓄財した個人資産を自国に保管しておくには適さないです。いつ国家が転覆するかわからないためで、米国やその同盟国・親密国の口座に保管をするしかありません。

米国と敵対する国々の指導者の目的は、国民の幸福ではなく、個人の蓄財と権力の拡大であるから、彼らの(海外口座の)個人資産を締め上げれば簡単に米国にひれ伏すことになります。

中央日報の報道によると、金正恩氏の海外資産は約30億〜50億ドル(約3300億〜5500億円)と言われています。

金正恩の外交力はどの国の誰にもまして素晴らしいものを持っていると考えられてもいたようですが、今回の結果を見て、あまりにも相手方を十分に値踏みできていないことが明らかになったと思います。

今後どうなっていくのでしょうか。金正恩にとっては、前が何も見えなくなったような状態にあるのではないかと思います。正恩は相当の自信をもってハノイにやってきたはずです。65時間も列車に乗ってやってきたのです。しかもその一挙手一投足を北の住民に知らせる格好でした。

今回こそ、ビッグディールに成功して、北の制裁を解き、お前たちにも楽をさせてやるぞとかなり意気込んでハノイにやってきたはずです。金氏は2月27日のトランプ氏との再会直後には「不信と誤解の敵対的な古い慣行が行く道を阻もうとしたが、それらを打ち壊してハノイに来た」と強調しました。金氏が「古い」と切り捨てたのが、北朝鮮による全ての核物質や核兵器、核施設のリスト申告に基づく非核化から進めるという本来、米側が描いていた方式です。

金氏は1月の新年の辞で「米国が一方的に何かを強要しようとし、制裁と圧迫に出るなら新たな道を模索せざるを得なくなる」と警告し、あくまで制裁解除ありきの交渉を米側に迫りました。同時に「人民生活の向上」を第一目標に掲げており、経済を圧迫する制裁は体制の将来を左右しかねない死活問題でした。

一方で、米側が求める実務者協議には応じようとせず、議題の本格協議に入ったときには会談まで1週間を切っていました。金氏はその2日後の2月23日に専用列車で平壌をたたちました。非核化と制裁に関わる重大事項はトップ同士の直談判で決めるとのメッセージでしたた。ところが、トランプ氏は会談本番で首を縦に振らなったのです。

北朝鮮は金氏の今回の長期外遊を政権高官の寄稿文などで「大長征」と持ち上げて国内向けにも大宣伝し、成果に対する住民らの期待をあおりました。28日には、両首脳の初日の会談で「全世界の関心と期待に即して包括的で画期的な結果を導き出すため、意見が交わされた」とメディアで大々的に報じていました。

米側に制裁の撤回を突き付けた新年の辞は最高指導者の公約といえ、金氏にとって制裁問題での譲歩は難しいです。金氏は退路を断つ交渉戦術で自らを窮地に追い込んだ形となりました。

金正恩体制は、恐怖政治で国民の動向を統制し、社会主義の体裁を取り繕っています。しかし実のところ、同国の計画経済はすでに崩壊しており、なし崩し的な資本主義化が進行しています。貧富の差が拡大し、良い意味でも悪い意味でも「自由」の拡大が始まっています。

それを後押ししてきたのは、実は金正恩氏自身でもあるのです。市場に対する統制を緩めたり強めたりを繰り返した父の故金正日総書記と異なり、金正恩氏は放任主義を続けてきました。この間、「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層の存在感はいっそう大きなものとなり、彼らなしでは北朝鮮の経済は成り立たなくなっているのです。

平壌市内のトンジュ向けのカフェで

北朝鮮で民主化が起きるなら、虐げられた民衆が暴政を倒す「革命」として実現する可能性が高いと多く人がしんじてきたようです。政治犯収容所などにおける現在進行形の人権侵害を止めるには、それしか方法がないからです。

しかし、北朝鮮の体制はそれほどやわではありません。民衆が本気で権力に歯向かう兆候を見せたら、当局はすぐさま残忍に弾圧してしまうだろうことを、歴史が証明しています。

その一方、北朝鮮の体制は「利権」の浸食にめっぽう弱いです。北朝鮮社会では、当局の各部門が持つ大小様々な権限が利権化しています。北朝鮮経済は、利権の集合体であると言っても過言ではないほどで、その仕組みは「ワイロ」という名の潤滑油で回っています。軍隊の中にすら、同じような仕組みが存在するほどです。

ただ、国際社会による経済制裁に頭を抑えられているため、その仕組みはなかなか大きく成長することができませんでした。しかし、ここで制裁が緩和されたらどうなるでしょうか。

韓国や中国から流れ込む投資は、北朝鮮の経済の成長を促し、同国の人々が見たこともないような巨大な利権を生み出すでしょう。また、利権の数自体も爆発的に増え、利害関係の錯綜も複雑さを増します。もはや、ひとりの独裁者の権力の下に、すべての利害を従えることなど不可能になるのです。

そして、無数の利害関係を最大公約数的に調整する多数決の仕組み、つまりは民主主義が必要になるわけです。

いずれにしても、北朝鮮経済のなし崩し的な資本主義化の流れは止まらないです。あの国は遅かれ早かれ、上述したような道を辿ることになります。

北朝鮮の経済・社会はかわりつつあるということです。今回の首脳会談の失敗により、制裁がさらに継続されることは明らかになりました。これから、経済がさら先細りしていけば、トンジュたちの中にも不満を持つものが現れることでしょう。

2017年2月にマレーシアで殺害された北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏の息子・ハンソル氏ら家族3人をマカオから安全な場所に移したとする団体「千里馬民防衛(チョンリマミンバンウィ)」は1日、同国の金正恩体制を転覆させるため、「臨時政府」の発足をウェブサイトで表明し、北朝鮮を脱出した人々や世界各国に共闘を呼び掛けました。同時に、団体名を「自由朝鮮(チャユチョソン)」に変更しました。

同団体がウェブサイトで発表した「自由朝鮮のための宣言文」の全文は以下のリンクからご覧になれます。



さて、このような動きが活発になれば、金正恩とて安穏とはしておられません。今や、金正恩でさえ、これらトンジュを完璧に自分の意のままにあつかうことはできなくなっています。

今回の首脳会談の失敗は、トランプ大統領にはほとんど悪影響はないでしょうが、金正恩にとっては、かなり悪影響がでる可能性が大きいです。またしばらく粛清の嵐が吹き荒れるかもしれないです。そうなると、ますます制裁がエスカレートするというような悪循環に至る可能性も十分にあります。

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2019年2月4日月曜日

【日本は誰と戦ったのか】自由と繁栄を守る 「共産主義」と戦うトランプ大統領 ―【私の論評】トランプ大統領の評判を落とす工作に騙されるな(゚д゚)!


トランプ大統領

 昨年から米中貿易戦争が始まり、あれほど仲が良かった米中関係が一転、米中「新冷戦」へと変わってしまった。北朝鮮の「核・ミサイル開発」に対しても、ドナルド・トランプ政権になった途端、軍事行使をちらつかせながら「絶対に核開発は許さないぞ」と言い始めた。

 なぜ、歴代の米国政権と、トランプ政権はこんなに対応が違うのか。

 キーワードは「共産主義」だ。

 1917年にロシア革命に成功したボルシェビキ(ロシア共産党)の指導者、レーニンは19年、共産主義政党による国際ネットワーク「コミンテルン」を創設した。目的は、世界各国で資本家を打倒して共産革命を起こし、労働者の楽園を作る、というものだ。

 このソ連・コミンテルンの対外秘密工作によって世界各地に「共産党」が創設され、第二次世界大戦後、世界各地に「共産主義国家」が誕生し、東西冷戦が始まった。

 東西冷戦は91年の「ソ連崩壊」によって終結したと言われているが、残念ながらソ連崩壊の後も、アジアには、中国と北朝鮮という2つの共産主義・一党独裁国家が存在し、国民の人権や言論の自由を弾圧しているだけでなく、アジア太平洋の平和と繁栄を脅かしている。

 こうした世界観に立脚しているのがトランプ大統領なのだ。

 マスコミは黙殺したが、トランプ氏は2017年11月7日、共産主義犠牲者の国民的記念日を宣言し、ホワイトハウスの公式サイトに次のような声明文を掲げている。

 《今日の共産主義犠牲者の国家的記念日は、ボルシェビキ革命がロシアで起きて100年にあたる。ボルシェビキ革命は、ソ連と暗黒の数十年にわたる抑圧的共産主義を生み出した。それは、自由と繁栄、人間の尊厳と両立しない政治思想といえる。

 過去1世紀の間に、世界中の共産主義者による全体主義体制は1億人を超える人々を殺害し、搾取、暴力、数え切れない荒廃をもたらした。彼らは、解放のふりをして、罪のない人々から、神が与えた「信仰の自由」や「結社の自由」など、無数の他の権利を奪った。自由を願う人々は、強制、暴力、恐怖によって支配された。

 私たちは、亡くなった方々と、共産主義下で苦しみ続ける人々を忘れはしない。そして、自由を守るために勇敢に戦った世界中の人々の、不屈の精神を尊重する》

 われわれの敵は共産主義であり、現在も続いている共産主義の脅威から自由と繁栄を守る、こうした視点が、トランプ政権の対外政策と米中貿易戦争の背後に存在することは理解しておきたいものである。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。他の著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)など多数。

【私の論評】トランプ大統領の評判を落とす工作に騙されるな(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもあるとおり、ソ連・コミンテルンの対外工作によって世界各地に「共産党」が創設され、第二次世界大戦後、東欧や中欧、中国、北朝鮮、ベトナムなど世界各地に「共産主義国家」が誕生しました。

かくして第二次大戦後、アメリカを中心とする「自由主義国」と、ソ連を中心とする「共産主義国」によって世界は二分され、「東西冷戦」という名の紛争が各地で起こりました。
スターリン。共産主義運動による死者は1億人を超えます。
ある意味、二十世紀は、ソ連・コミンテルンとの戦いでした。

ソ連・コミンテルンと共産主義を抜きにして二十世紀を語ることはできません。そしてこの「東西冷戦」は1991年のソ連の崩壊によって終結したと言われていますが、それはヨーロッパの話です。

ソ連崩壊で撤去されたレーニン像

残念ながらソ連崩壊のあとも、アジア太平洋には中国共産党政府と北朝鮮という二つの共産主義国家が存在し、国民の人権や言論の自由を弾圧しているだけでなく、アジア太平洋の平和と繁栄を脅かしているからです。

これをなんとかしようというのが、安倍総理による「安全保障のダイヤモンド」であり、「自由で開かれたインド太平洋戦略」であり、これにすぐに乗ってきたのが、米トランプ大統領でもあります。そうして、現在ではこれに乗るどころか、自ら積極的に中国に対して経済冷戦を発動しています。

米国のニュースメディアの偏向ぶりは日本よりもひどく、米国には産経新聞のような保守系の全国紙すらありません。ニューヨーク・タイムズがリベラル左翼系の新聞であることは有名ですが、米国に保守系の全国紙が無いというのは驚きです。

テレビ同様で、ほとんどがリベラル・メディアです。唯一の例外がフォックスニュースです。

米国にはリベラル左翼系の新聞しかない、テレビもほとんどがリベラルということは、トランプ氏が大統領選に出馬したことを報じていた米国のニュースメディアからの情報は、全て偏向した内容だいうことです。

保守系のトランプ氏を擁護するような情報など出てくるはずがないわけで、「泡沫候補」とか「差別主義者」とか、ネガティブな情報ばかりが伝えられていた背景にはそれなりに理由があったというわけです。

日本のメディアには「トランプが大統領になったら世界経済が終わる」などと宣っていたエコノミストもいましたが、この手の人々は米国社会の実像を全く知らないことを自ら自白していたことになります。

オバマの「チェンジ」とは?

現在から振り返ってみるとオバマ元大統領の「チェンジ」は、米国を良くするための「チェンジ」ではなく、米国を社会主義化するための「チェンジ」だったというのも驚きで、我々はその立派な言葉にまんまと騙されていたことになります。

私自身は、オバマが社会主義者であることは知っていたましたが、オバマの両親がバリバリの共産主義者だったというのは知りませんでした。

日本には「ウォー・ギルト(戦争犯罪)」というものがありますが、米国にもオバマ政権がもたらした「ホワイト・ギルト(白人の文化は罪)」というものがあり、学校では「黒人奴隷から搾取した白人は黒人に配慮しなければならない」とする自虐教育が行われていました。


国境を重要視するトランプ大統領であるからこそ、地球の裏側にある日本という同盟国の危機にも注意を払うことができます。これが、国境を軽視するリベラル派のヒラリーであれば、一体どうなっていたのかを考えると実に恐ろしいです。

「世界の警察を辞める」と言った民主党のオバマに続いて民主党のヒラリーが大統領になっていれば、日本は北朝鮮に隷属するだけで何もできず、何も言えない国になっていたかもしれないです。

そういう意味で日本人は、米国にトランプ政権という保守政権が誕生したことを我が事のように喜ばなければいけないのかもしれないです。現状、北朝鮮や中国からの攻撃を止めてくれるのは残念ながらトランプ大統領しかいないからです。

中国や北朝鮮の工作員は、日本は言うに及ばず、米国では無論のこと世界中の国々でトランプ大統領貶めるため、あらゆる手段でトランプ大統領の評判を落とす工作をしていることでしょう。我々は、そのような単純なプロパガンダに騙されるべきではありません。

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2019年1月23日水曜日

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋―【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋

米中会談時に演説するトランプ米大統領。2017年11月に北京

複数の米政府当局者によると、トランプ大統領は米中貿易協議で成果を出し、株価を押し上げたいと考えているが、中国側が知的財産権の問題を含め、本格的な構造改革に踏み切らない限り、態度を軟化させることはないとみられる。

中国側が米国製品の輸入拡大を提案しても、それだけでは問題は解決せず、1月末に訪米する劉鶴副首相との協議でも構造改革が議題になる見通しという。

米政府は、中国が知的財産を盗んでおり、中国に進出する米国企業に技術移転を強制していると批判。中国側はそうした事実はないと反論している。

米政府は3月1日までに貿易協議で合意できなければ、2000億ドル分の中国製品に対する制裁関税の税率を10%から25%に引き上げる方針だが、関係筋によると、両国の隔たりは大きく、合意には構造問題の解決が不可欠という。

ある米政府当局者は匿名を条件に「まだ、我々の懸念が十分に対処されたと言える状況ではない」と指摘。対中強硬派のライトハイザー通商代表部(USTR)代表が率いる米国の交渉団は、貿易不均衡だけでなく、構造問題を重視しているとの認識を示した。

国家経済会議(NEC)のカドロー委員長も、ロイターに対し、技術の強制移転、知的財産権の侵害、出資制限が、トランプ政権の優先課題だと指摘。「大統領はこうした問題がいかに重要であるかを繰り返し表明している。大統領は譲歩しない」と述べた。

関係筋がロイターに明らかにしたところによると、トランプ政権は、協議の進展がみられないため、劉鶴副首相の訪米を控えた米中の通商予備協議を拒否した。

劉鶴副首相

フィナンシャル・タイムズ(FT)紙も、通商予備協議が拒否されたと報じたが、複数の米当局者は報道を否定。カドロー委員長はCNBCに対し、通商予備協議を巡る「報道は真実ではない」と言明した。

ホワイトハウスのウォルターズ報道官も「今月末の劉鶴副首相とのハイレベル協議の準備のため、接触を続けている」と述べた。

ただ、ある関係筋は「協議は進展しているが、文書化できる合意はまだ何も成立していないと認識している」とコメントした。

トランプ大統領は、株価への影響を意識し、協議が概ね順調に進んでいるとの見解を示している。19日にはホワイトハウスで記者団に「何度も協議を重ねており、中国との合意がまとまる可能性は十分にある。順調に行くだろう」と表明した。

ムニューシン財務長官は先月、中国が1兆2000億ドルを超える米国製品の輸入を確約したことを明らかにしたが、米当局者は「単なる『確約』で事が解決すると考えるのは、我々の過去の経験を見過ごしていると思える」とコメント。

米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所で中国問題を担当するスコット・ケネディ氏は、中国側は新法の制定などを通じて知的財産権の問題にすでに対処したとの考えを示唆しているが、米国側は満足していないとし、「今後の協議で、中国が知的財産の問題でさらに譲歩するのか、引き続き輸入拡大に軸足を置くのかがわかるだろう」と述べた。

カドロー委員長は「私に言えるのは、月末の劉鶴副首相との会談が非常に重要だということだけだ」と語った。

【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

ペンス米副大統領は16日、「中国当局は国際ルールを無視している」と中国を再び非難しました。米ボイス・オブ・アメリカが17日報じました。

ペンス副大統領は同日、米国務省が開催した「駐外公使会議(Global Chiefs of Mission Conference)」で演説を行いました。副大統領は演説のなか、複数回にわたって中国当局に言及しました。

ペンス副大統領

「中国は近年、世界の安定と繁栄を半世紀にわたり維持してきた国際法とルールを無視してきた。米国としてはもう座視できない」

また、副大統領は、中国当局が「債務トラップ外交」と「不公平な貿易慣行」で影響力を拡大し、南シナ海で「攻撃的な行動」を取っていると批判しました。「すべての国は航行の自由と開かれた貿易取引ができるよう、米国は自由で開かれたインド太平洋を支持する」

ペンス副大統領は、中国当局が不公平な貿易慣行を改め、構造改革を実施すべきだと強調しました。昨年2500億ドル(約27兆円)相当の中国製品を対象にした追加関税措置を通じて、トランプ政権は「中国に警告した」と述べました。副大統領は今後、米中通商協議で中国当局が米中双方の利益にかなう改革に取り組まなければ、対中関税を引き上げると強調しました。

副大統領は会議に出席した米国の外交官に対して、中国当局やイスラム過激派テロ組織「ISIS」、イラン、キューバ、ベネズエラなどが「米国が過去半世紀にわたり守ってきた国際秩序を覆そうとしている」が、これに対抗するために「米国が戻ってきた」と述べましたた。過去の政権の外交・軍事政策を修正したトランプ政権は、「力による平和」の実現に注力し、米の軍事力を強化していくといいます。

劉鶴副首相とのハイレベル協議においては、知的財産権の保護や非関税障壁など中国経済の「構造改革」が主な争点となるとみられます。

さて、このような「構造改革」を本当に実行するためには、ただ単に中国政府が掛け声をかけて、資金を投入すればできるというものではありません。

構造改革とは、現状の社会が抱えている問題は表面的な制度や事象のみならず社会そのものの構造にも起因するものであり、その社会構造自体を変えねばならないとする政策論的立場のことです。

日本では、いわゆる構造改革は失敗して結局何も変わりませんでした。その要因としては、日本の経済の不振は、構造的なものよりも、マクロ経済政策が間違っていたことによることのほうがより悪影響が大きかったためです。

このような状況の中では、まずはまともなマクロ政策を実施して、ある程度経済を良くしなければ、構造改革などできません。実施したとしても、何が良くなれば、何かが悪くなるというもぐら叩き状態になるだけです。そのため、日本のいわゆる構造改革はほとんど掛け声だけに終わりました。何一つ成功したものはありません。

今でも構造改革病の人がいるようですが、そういう人には現在の韓国を見ろといいたいです。現在の韓国では、まさに過去の日本のように構造改革病にとりつかれています。文在寅は、金融緩和はせずに、最低賃金だけあげるという、まるで立憲民主党代表の枝野氏の主張するような経済対策を実行したがために、雇用が激減してとんでないことになっています。

しかし、中国は日本などの先進国とは異なります。中国はまずは構造改革しないことには、まずは米国の制裁を免れることはできないですし、制裁は別にしてもこれから先経済発展するのも不可能です。

そのことは中国もある程度は理解していたようで実は、中国自身も過去に構造改革を進めようとしていました。

2015年の中国経済を振り返ると、1-9月期の成長率は実質で前年同期比6.9%増と前年よりも0.4ポイント低下しました。もっと低いのではとの見方もあって議論になっていますが、確かなのは構造変化が進んでいることで、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という“ふたつの二極化”が起きていました。

中国経済を「世界の工場」に導いた従来の成長モデルは限界に達しており、対内直接投資が伸び悩むとともに対外直接投資が急激に増えてきました。中国経済を供給面から見ると世界における製造業シェアがGDPシェアを10ポイントも上回る過剰設備の状態にあり、需要面から見ると投資の比率が諸外国と比べて突出して大きい過剰投資の状態にあります。そして、この過剰設備(又は過剰投資)の調整を進めれば、成長率を押し下げる大きな負のインパクトをもたらすことになります

中国政府はこの負のインパクトを和らげようと、新たな成長モデルを構築するための構造改革を進めていました。具体的には、需要面では外需依存から内需主導への構造転換、供給面では製造大国から製造強国への構造転換、同じく供給面では第2次産業から第3次産業への構造転換の3点である。この構造改革を三面等価の観点から再整理すると下図表のようなイメージになります。


この構造改革に成功しても中国の成長率鈍化は避けられないです。しかし、成長の壁を克服するには他に道がないため、中国はこの構造改革は続けるしかありません。従って、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という“ふたつの二極化”も長く続くトレンドと考えられます。

そうして、この構造改革の最大のポイントは、個人消費を拡大することです。実際、中国の個人消費はGDPの40%であり、これは日本のような先進国が60%程度、米国では70%にも及ぶことを考えると、数字の上では確かにこの考えは妥当といえば妥当です。

それにしても、この構造改革なかなか進みませんでした。それが進まない中で、米国から厳しい経済冷戦を挑まれてしまったのです。

中国政府事態は、個人消費の拡大という構造改革を自身ですすめつつ、米国からは知的財産権の保護のための構造改革を迫られています。

さて、これらの構造改革を進めるには、実際にどのような改革を行うべきなのでしょうか。

それに必要なのは、まずは中国社会の根本的な構造改革が必要です。それについては、以前からこのブログに掲載してきました。

そうです、民主化、政治と経済の分離、法治国家化です。まずは、これがある程度実施されなければ、そもそも個人消費の拡大などおぼつきません。

先進国が先進国となり、国が富んだのは、まさにこれらを実行したため、多数の中間層ができあがり、それらが自由で活発な社会経済活動を行ったからです。個人消費を伸ばすにはまずはこれが不可欠なのです。政府が音頭をとって、金をバラマキ、個人消費を拡大することはできません。それは、一時的には可能かもしれませんが、長い間継続するのは不可能です。

また、知的財産権の保護についても、まずは中国国内で、これらが保証されない限りは、不可能です。そのため、やはり民主化、政治と経済の分離、法治国家は避けて通れません。

ただし、これを実行すれば、中国における共産党統党独裁は崩さざるを得ません。これらを実行すれば、中国共産党の統治の正当性が崩れてしまうからです。

中国の選択できる道は、共産党1党独裁を崩しても、構造改革を進め、国と国民を富ませるか、構造改革を拒否するしかありません。

なお、構造改革を拒否すれば、中国は経済的に衰退して、図体が大きいだけの、アジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。そうして、他国に対して影響力を行使できなくなります。

米国としては、中国がどちらの道を選んでも良いわけです。ただ、現状のままの中国は許容しないということです。

私としては、中国の共産党幹部は、先進国の民主化、政治と経済の分離、法治国家化などによってなぜ先進国が先進国となり得たのかなど、本当は理解していないため、結局中国は滅びの道を自ら選ぶことになると思います。

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2019年1月16日水曜日

中国経済が大失速! 専門家「いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつある」 ほくそ笑むトランプ大統領―【私の論評】すでに冷戦に敗北濃厚!中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に(゚д゚)!

中国経済が大失速! 専門家「いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつある」 ほくそ笑むトランプ大統領

トランプ氏(左)の攻勢を受ける習主席

  中国経済が明らかにおかしい。昨年の新車販売台数が実に28年ぶりに前年割れとなり、昨年12月の輸出も輸入も予想外の減少を記録した。米トランプ政権との貿易戦争による打撃と同時に、景気減速も鮮明になってきた。米中協議で3月1日の期限までに合意がなければ、米国は2000億ドル(約21兆6000億円)分の中国製品に対する関税の税率を10%から25%に引き上げる構えだ。習近平政権は追い込まれた。

 中国自動車工業協会が14日発表した昨年の新車販売台数は、前年比2・8%減の2808万600台だった。中国メディアによると、前年割れは28年ぶり。

 販売台数は米国を上回り、10年連続で世界一となったが、乗用車が4・1%減と落ち込んだ。

 日系自動車大手4社の販売台数は、トヨタ自動車と日産自動車が過去最高を更新した一方、ホンダとマツダはマイナスだった。日系メーカー幹部は「販売台数を維持しようと、大幅な値引きに頼るメーカーも出始めている。市場の状況は見た目の台数以上に厳しい」との見方を示す。

 不振は自動車にとどまらない。中国税関総署が14日に発表した貿易統計によると、昨年12月の輸出は前年同月比4・4%減、輸入は7・6%減となり、米中貿易戦争による中国経済への影響が本格化していることを示した。

米国との貿易については、輸出が3・5%減の402億ドル(約4兆3500億円)で、9カ月ぶりにマイナスに転じた。米国の追加関税発動を見越した駆け込み取引が一段落し、今後はさらに落ち込む可能性がある。

 米国からの輸入にいたっては、35・8%の大幅減となる104億ドルだった。12月初めの米中首脳会談では中国が米国産の農産物やエネルギー資源の輸入を拡大することで合意し、すでに中国側が米国産大豆の購入を再開しているが、減少に歯止めがかかっていない。

 税関総署の報道官は記者会見で、2019年の見通しについて「環境は複雑かつ厳しい。一部の国の保護主義によって世界経済は減速する可能性がある」と述べ、米国を暗に批判しつつ困難な状況が続くとの考えを示した。

 習政権は急速な景気悪化を懸念し、減税措置など景気刺激策を積極化。今月4日には中国人民銀行(中央銀行)が預金準備率を引き下げる金融緩和措置を発表するなど対応に追われた。ただ、ブルームバーグは「最近の刺激策にも関わらず、(中国)経済が近いうちに底を見つけるという見方はほとんどない」と伝えた。

 こうした状況にほくそ笑んでいるのがトランプ大統領だ。14日、ホワイトハウスで記者団に対し、「われわれは中国とうまくやっている。妥結できると思う」と語った。貿易戦争の悪影響が日増しに大きくなるなかで、習政権側が何らかの妥協案を示してくると見越しているようだ。

 中国は18年の国内総生産(GDP)の成長率目標を「6・5%前後」としているが、ロイターは、19年の目標を「6~6・5%」へと引き下げることを決め、3月にも公表する見通しだと報じた。

 景気の減速に危機感を強める習政権は、近く自動車や家電の購入促進策を打ち出す方針だ。ただ、米アップルのiPhone(アイフォーン)よりも中国メーカーのスマートフォンを購入するよう奨励する動きがあるように、中国メーカーを優先した策となる可能性がある。中国に進出している外資系企業がどこまで恩恵を受けられるかは不透明だ。

 中国経済の失速について「米中貿易戦争が直接の契機になったのは事実だ」と話すのは中国情勢に詳しい評論家の宮崎正弘氏。

 自動車の販売台数に関しては「中国では自動車の場合、無理して売っていたが、各社の生産台数も落ち込んでいる。自動運転と電気自動車も伸びているように見えたが『本当にうまくいくのか』と懐疑の念が起こってきたのだろう。いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつあるという状況ではないか」と分析する。

中国リスクは高まる一方だ。

【私の論評】すでに冷戦に敗北濃厚!中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に(゚д゚)!

懸念される「家計部門」の債務

経済が債務膨張に依存するいわゆる高レバレッジは、2008年のグローバル金融危機発生以来、大きな金融リスクとして広く認識されています。中国でも近年この問題が深刻化しており、高レバレッジ経済からの脱却は主要政策課題の1つに位置付けられています。これまで主として国有企業や地方政府の債務が問題とされてきましたが、ここへ来て、家計部門にも懸念が出始めました。

中国最大のシンクタンクである社会科学院系列の国家金融発展実験室によると、金融を除く実体経済部門(政府、企業、家計)債務の対GDP比(レバレッジ比率)は2008〜16年、年平均12.3%ポイントずつ急上昇し16年239.7%に達した後、17年242.1%、18年上期242.7%となお上昇傾向は続いていますが、落ち着く兆しを見せています。ただ17年〜18年上期、企業のレバレッジ比率が157%から156.4%、政府が36.2%から35.3%へと低下する中で、家計は49%から51%へ上昇しています。同比率は1993年8.3%、08年17.9%で、長期的にも加速的に上昇しています。

実験室の李揚理事長(元社会科学院副院長)は18年4月、海南で開かれたボアオフォーラムで、「17年末、家計の貯蓄性預金伸び率が初めてマイナスに転じた。この傾向が続くと、家計は債務超過になるおそれがある。08年、米国で債務危機が発生した時も、家計の債務が発端だった」「企業・政府部門の赤字を家計部門の黒字で賄うのが一般的な構造だが、グローバル危機発生時の米国がそうであったように、3部門が何れも赤字になると、経済成長は通貨膨張、金融バブルに依存せざるを得なくなり、最終的に金融危機が発生する。中国もそうした状況に陥らないよう高度の注意を払うべき」と警鐘を鳴らしてます。

「債務リスクを誇張すべきでない」との声もあるが

実験室理事長の上記発言はあるが、他方で、実験室の担当部局は以下のような点を指摘し、債務リスクを誇張すべきでないとしています。

①元本返済と利払いを合計した年あたり債務負担額は、仮に金利4〜5%、償還期間15〜20年とすると4兆元強(家計債務42.3兆元×約10%)。これは対可処分所得比(債務負担率)8%で国際平均12%を大きく下回る。

②理財商品(高利回り資産運用商品)など元本保証のないリスク資産を除いても、リスクに対応できるだけの十分な現預金がある。18年6月末銀行預金残高は債務総額を大きく上回る68.7兆元で、現金も含めると債務の約1.8倍。日本よりは低いが、米英等先進諸国に比べはるかに高い。

③家計の貯蓄率は10年ピークで42.1%を記録した後、やや低下傾向にあるが、15年なお37.1%で米国の17年6.9%など、諸外国に比しはるかに高い。

これに対し、リスクの高まりに警戒すべきとの見方は、次のような点に着目して(2018年2月8日付財新網)。

①レバレッジ比率は全国平均50%だが、広東、浙江、上海は60%以上、北京、福建、甘粛が50〜60%と総じて都市部ほど高い。債務負担率も都市部は11.5%と国際平均並み。このように、債務の大半が都市部住民に集中している。

②中国では可処分所得の対GDP比が低い。仮にレバレッジ比率の分母を可処分所得にすると、17年末すでに93.5%と米国の16年末99.4%並み。

③家計負債の対資産比率は13〜15年5〜9%となお低いが、負債が「剛性」、つまり必ず一定額を償還しなければならないのに対し、資産価値は変動するという非対称性がある。また資産の大半は住居で流動性が低く、賃料収入も債務の金利を賄うほどの水準にない。

潜在リスクを「増加傾向」と見るべき理由

以上、どのような指標に着目するかで見方は分かれているが、近年の家計の資産負債構造の変化を踏まえると、方向としては潜在リスクが増加していると見るべきだろう。まず、資産面では銀行預金伸び率が大きく鈍化している(図表1)。
[図表1]家計部門人民元預金残高推移 出処:中国人民銀行

18年4月には、家計の預金残高が単月で過去最大となる前月比1.32兆元の減少となり、大きな関心を呼びました。実は例年4月、家計の預金残高が減少する傾向がある(14〜17年の4月は各々前月比1.23兆元、1.05兆元、9296億元、1.22兆元の減少)。この背景には、多くの理財商品の満期が季末に設定され、満期が訪れると、理財商品に運用されていた資金がいったん当座預金に入った後、再び理財商品購入のため預金から流出していくという季節要因があります。

しかし中長期的に預金が伸び悩み傾向にあることも事実です。成長率鈍化が基本的背景にありますが、08〜11年、12〜14年の各期間、成長率の変動幅は小さいにもかかわらず(各々9〜10%、7%台)、預金増加率はこの間も大きく鈍化し(各々26%→13%、17%→9%)、15年以降ようやく下げ止まっています(概ね7〜9%台の伸び)。

預金が趨勢的に伸び悩んでいる大きな要因は、預金金利が低水準で推移する中で、元本保証はないがより高い利回りを提供する各種理財商品や「余額宝(ユーアバオ)」に代表されるMMF(マネー・マーケット・ファンド)に資金が流れたことです。

銀行が提供する理財商品も急増しており(うち元本保証のない商品が17年末22.17兆元と全体の75%以上)、うち個人向けは倍増です(図表2)。

[図表2]銀行理財商品の膨張

理財商品を提供する銀行は沿海部を中心とした都市部に集中している(図表3)。また、MMF残高は17年末7兆元強(5月18日付中国基金報)。

[図表3]理財商品提供銀行分布

もう一つの要因は、住宅市場が過熱するたびに各地で導入された住宅購入抑制策で、住宅購入の際に必要となる頭金の比率が上昇し、預金を積む余裕がなくなったことも影響している。15年以降預金伸び鈍化に歯止めがかかっているが、これにはいわゆる個人向け仕組預金の増加が寄与している(人民銀行統計で18年11月末残高前年同期比は大型銀行57%、中小銀行53%の大幅増)。

金融監督が強化される中で、銀行がオフバランスシートの理財商品を圧縮するための代替商品として、あるいはMMFに対抗するため、積極的に商品開発・販売したためと思われるが、伝統的な預金に比べると一定のリスクがあり、将来的に家計の債務返済能力に影響を及ぼす可能性がある。

家計債務に占める住宅関連債務は6〜7割

次に、負債面では住宅関連債務の増加が著しい。金融機関の家計向け住宅融資残高は18年上期末23.84兆元、前年同期比18.6%増(人民銀行統計)。その他、国や企業等の住宅公積(積立)金制度から受ける融資残高が17年末4.5兆元(前年同期比11.1%増)あり(全国住房公積金2017年年度報告)、これを含めると、家計債務に占める住宅関連債務は6〜7割。16年以降、銀行の新規融資の過半が家計向けで、融資残高に占める家計向けの割合は15年末28.9%から18年11月末35.2%へと上昇している(図表4)。

[図表4]人民元融資残高推移(注)総融資は国内向け融資の数値。(出所)中国人民銀行統計

このうち中長期融資が7割以上を占めており、その大半が住宅ローンです。消費者ローンや少額ローンの一部も住宅購入に充てられている可能性があり、そうすると、住宅関連債務はさらに高いことになります。2018年10月に発表された上海財経大学高等研究院調査は、17年以降、中長期債務増加率が鈍化する一方、短期債務の増加率が加速する傾向が出ていますが、個人消費はそれほど伸びておらず、短期融資が住宅購入の頭金や住宅ローンの代替として使われている可能性を指摘しています(2018年10月30日付第一財経)。

さらに11月、中国人民大学が発表した「中国宏観経済報告(2018-2019)」は、「去庫存」、すなわち過剰住宅在庫を解消する政策が採られる過程で、農民工の住宅購入が奨励された結果、住宅債務の罠(套牢)に陥る中所得層が増加、これが消費に悪影響を及ぼすことを懸念しています(11月26日付新浪財経)。

このように、家計の資産負債がいずれも住宅市場の動向や政府の住宅政策に大きく左右される構造になっています。

中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に

上海財経大学高等研究院が今月7日に公表した研究調査によると、2017年までの中国家計債務の対可処分所得比率は107.2%に達しました。米国の現在の水準を上回ったうえ、08年世界金融危機が起きた前の米家計債務水準に近い状況だといいます。

また、中国人民大学の研究チームが6月にまとめた調査報告では、中国家計債務の6割以上が住宅ローンだと指摘されました。一部の市民が、頭金の調達は自己資金からではなく、頭金ローンや消費者金融などを利用しているため、金融リスクを拡大させているといいます。

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の経済学者、兪偉雄氏は、中国経済の減速による失業率の上昇と所得減少で、今後住宅ローンの返済が困難な人が急増する恐れがあると指摘しました。「これによって、金融リスクは住宅市場から金融市場全体まで広がる可能性が高い」と、兪氏は米中国語メディア「新唐人テレビ」に対して述べました。

一方、中国の蘇寧金融研究院は、家計債務の増加ペースが非常に速いとの見解を示しました。過去10年間において、部門別債務比率をみると、家計等の債務比率は20%から50%以上に膨張しました。一方、米国では、同20%から50%に拡大するまで40年かかりました。

兪氏は、家計債務の急拡大は、近年中国当局が経済成長を維持するために次々と打ち上げた景気刺激策と大きく関係するとしました。「当局は、いわゆるマクロ経済調整を実施して、経済の変動・衰退を先送りしてきた」

上海財経大学高等研究院は同研究報告を通じて、公にされていない民間の貸し借りを加えると、中国の家計債務規模はすでに「危険水準に達した」と警告しました。

家計債務の急増は個人消費に影響を及ぼしています。中国の個人消費の動向を示す社会消費品小売総額の伸び率は7年間連続で落ちています。2011年の社会消費品小売総額は前年比で20%増でしたがが、昨年1~6月までは、前年同期比で1桁の9.4%増に低迷しました。

個人消費の不振は企業収益の減少、銀行の不良債権の増加につながります。

兪偉雄氏は、今後中国経済がハードランディングする可能性が高いと推測しました。

「中国経済に多くの難題が山積みしている。中国当局が今まで、不合理な政策をたくさん実施してきたことが最大の原因だ」

米国から経済冷戦を挑まれている中国、もう八方塞がりの状況です。今のままでは、可処分所得が減るのは当たり前で、そもそも個人消費がかなり低迷することになるのは必定です。もう、中国は冷戦に負けたも同じです。

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2019年1月6日日曜日

本物のシビリアン・コントロール 「マティス氏退任」は米の民主主義が健全な証拠 ―【私の論評】トランプ大統領は正真正銘のリアリスト(゚д゚)!

本物のシビリアン・コントロール 「マティス氏退任」は米の民主主義が健全な証拠 


トランプ大統領とマティス氏

ジェームズ・マティス氏は昨年12月31日付で、ドナルド・トランプ政権の国防長官を退任した。マティス氏は退役海兵隊大将であり、米国統合戦力軍司令官、NATO(北大西洋条約機構)変革連合軍最高司令官、米国中央軍事司令官などの要職を歴任した人物だ。

 2017年1月20日のトランプ政権発足と同時に、第26代国防長官に就任した。本来は「シビリアン・コントロール(文民統制)」の観点から、元軍人は退役後7年経過しないと国防長官になれない。だが、上院が承認すれば就任できる。議決は「賛成98票、反対1票」だった。

 マティス氏は間違いなく米国のヒーローであり、世論やメディアの評価はいまなお高い。私自身、彼のキャラクターが大好きだし、尊敬している。

 だが、生粋の軍人であるマティス氏と、ビジネスマン出身のトランプ氏は、価値観に大きな食い違いがあったと感じる。

 トランプ氏がビジネスで成功を収めた要因の1つは、「合理主義の追求」である。人事面では、有能な人材を年齢や社歴と関係なく抜擢(ばってき)し、能力給と成功報酬を与える。逆に、無能と判断した人間は過去と関係なく解雇する。いわば人間関係も「損切り」するのだ。

 一方、マティス氏が人生を捧げた海兵隊では、戦場で傷付いた戦友を見捨てることは許されない。米軍でも、特に海兵隊は日本的な「義理人情」に厚いという印象がある。

 今回、シリアからの米軍完全撤退という決定を契機に、マティス氏は辞意を固めた。米軍が撤退すれば、IS(過激派組織・イスラム国)掃討作戦に全面協力したクルド人勢力は、再びアサド政権下で弾圧されるだろう。この厳しい「損切り」の責任者になることが、マティス氏にはとても許容できなかったのだと思う。

 私は、クリスマス前から年始まで米国で過ごしてきた。今回、信頼が厚くて人気の高いヒーローの退任に、多くの米国人が強いショックを受けたかといえば、実はそうでもない。トランプ支持者が愛想を尽かしたかといえば、それもなかった。

 なぜなら、米国民が選挙を通じて自ら選んだのはトランプ大統領だからだ。マティス氏は大統領が選んだ人物に過ぎない。

 大統領の方針に異議があり、説得したが失敗した。健全な民主主義国なら、方針に従うか、退任しか選択肢はない。それが本物の「シビリアン・コントロール」である。

 ちなみに、シリア国内にISの残党がいたら、すぐたたけるように、米軍はシリアからは撤退しても、イラクには残る。この文章の「シリア」が「韓国」に、「イラク」が「日本」になる日は、そう遠くないのかもしれない。

 ■ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士、タレント。1952年、米アイダホ州生まれ。71年に初来日。著書に『儒教に支配された中国人・韓国人の悲劇』(講談社+α新書)、『トランプ大統領が嗤う日本人の傾向と対策』(産経新聞出版)、『日本覚醒』(宝島社)など。

【私の論評】トランプ大統領は正真正銘のリアリスト(゚д゚)!

冒頭の記事で、ケント・ギルバート氏は以下のように述べています。
トランプ氏がビジネスで成功を収めた要因の1つは、「合理主義の追求」である。人事面では、有能な人材を年齢や社歴と関係なく抜擢(ばってき)し、能力給と成功報酬を与える。逆に、無能と判断した人間は過去と関係なく解雇する。いわば人間関係も「損切り」するのだ。
トランプ大統領のイラク撤退の考えが合理的であることは以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
もう“カモ”ではない、トランプの世界観、再び鮮明に―【私の論評】中東での米国の負担を減らし、中国との対峙に専念するトランプ大統領の考えは、理にかなっている(゚д゚)!
昨年末電撃的イラク訪問をしたトランプ大統領
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からシリアから撤退することを決断したトランプ大統領の考え方が、合理的であると説明した部分を引用します。
この判断には、合理性があります。アサド政権の後ろにはロシアが控えていますが、そのロシアは経済的にはGDPは東京都より若干小さいくらいの規模で、軍事的には旧ソ連の技術や、核兵器を受け継いでいるので強いですが、国力から見れば米国の敵ではありません。

局所的な戦闘には勝つことはできるかもしれませんが、本格的な戦争となれば、どうあがいても、米国に勝つことはできません。シリアやトルコを含む中東の諸国も、軍事的にも、経済的にも米国の敵ではありません。

一方中国は、一人あたりのGDPは未だ低い水準で、先進国には及びませんが、人口が13億を超えており、国単位でGDPは日本を抜き世界第二位の規模になっています。ただし、専門家によっては、実際はドイツより低く世界第三位であるとするものもいます。

この真偽は別にして、現在のロシアよりは、はるかに経済規模が大きく、米国にとっては中国が敵対勢力のうち最大であることにはかわりありません。

トランプ政権をはじめ、米国議会も、中国がかつてのソ連のようにならないように、今のうちに叩いてしまおうという腹です。

であれば、トルコという新たな中東のプレイヤーにシリアをまかせ、トルコが弱くなれば、トルコに軍事援助をするということで、アサド政権を牽制し、中東での米国の負担を少しでも減らして、中国との対峙に専念するというトランプ大統領の考えは、理にかなっています。 
物事には優先順位があるのです、優先順位が一番高いことに集中し、それを解決してしまえば、いくつかの他の問題も自動的に解決してしまうことは、優れた企業経営者や管理者なら常識として知っていることです。
無論、このような論評の前提には、そもそもシリアにはアサド政権を含めて、クルド人勢力などの反政府勢力も元々反米的という前提があります。クルド人勢力が反政府勢力となったのは、一時的に米国と利害が一致していたに過ぎません。その証左として、米軍引き上げという 窮地に、トルコと敵対するアサド・シリア政権に庇護を求め、手を結んでいます。

結局、シリアには、アサド政権は無論のこと、クルド人勢力のような反政府勢力も反米的なのです。

だとすれば、いずれが勝利したとしても、米国の勝利にはならないのです。だから、米国の戦略家であるルトワック氏は、米国の対シリア政策は、アサド政権と反政府勢力を拮抗させておくべきというものでした。

であれは、新たな拮抗勢力として、トルコが名乗りをあげたのです。これからトルコがシリアを攻撃して、勝利を収めたとしても、米国としてはアサド政権よりははるかにましです。であれば、シリアから撤退すべきと考えるのが合理的です。

トランプ氏の考え方は、どこまでも合理的なのです。そうして、トランプ大統領はリアリストなのかもしれません。

日本で「リアリスト」というと、あえて大雑把にいえばいわゆる「現実派」というイメージになります。汚い仕事からも目をそらさず実行するという「実務派」という意味でとらえられがちです。

これは米国でも同じであり、時と場合によっては政治信条などを度外視して、生臭い権力闘争や、利権の力学で政治をおこなう実務派たちを「リアリスト」と呼ぶことがあります。例えば、チェイニー元副大統領などがその代表的な人物であり、血の通わない冷酷な人物である、とみられがちです。トランプ氏はそのような側面があることは否めないと思います。

しかし、「リアリスト」にはもう一つの意味があります。それは、「国際関係論」(International Relations)という学問の中の「リアリズム」という理論を信じる人々のことも意味します。

「リアリズム」というと、美術などの分野では「写実主義」のような意味になりますが、
国際政治を理論的に分析しようとする「国際関係論」という学問では、「国際関係を、主に『権力(パワー)』という要素にしぼって分析、予測する理論」です。

ハイパーリアリズムの絵画 もはや写真にしか見えない

つまり、「リアリズム」とは、「国際政治というのはすべて権力の力学による闘争なのだ!」と現実的(realistic)に考える理論です。よってリアリズム(現実主義)となるのです。

さて、この理論の中核にある「権力=パワー」というコンセプトがまずクセものです。「リアリズム」学派では、伝統的に、「権力=パワー」というのは、主に「軍事力」によって支えられると考えられています。

よって、彼らにとってみれば、国際政治を動かす「パワー(power)」というのは、
「軍事力による脅しや実際の行動(攻撃)によって、相手の国を自国の意思にしたがわせる能力」ということなのです。

究極的にいえば、「リアリズム」では、この「パワー」こそが国際社会を動かす唯一最大の要素なのです。ですから、ここに注目してさえいれば、概ね相手の動きは読めてしまう、ということなのです。

このような考え方は、平和信仰の強い日本人にしてみれば、「なんとえげつない理論だ」と思われるかもしれません。

ところが欧米の国際関係論の学界では、この「リアリズム」という概念が一番説得力のある強い理論だとされており、あえて刺激的な言い方をしますと、これを知らない、いや、知っていても認めないし、知ろうともしないアカく染まった日本の学者や知識人たちだけとも言える状況なのです。

国際関係学においては、「リアリズム(現実主義派)」と「リベラリズム(自由主義)」
がメジャーな存在ですが、その他にも、「マルクス主義」や、「コンストラクティビズム」などがあります。


リアリストたちが「国際社会はパワーの闘争によって動かされている!」と考えていることはすでに述べたとおりですが、その彼らにすれば、「平和」というのは単なる「闘争の合間の小休止」、もしくは「軍事バランスがとれていて、お互いに手出しできない状態」ということになります。

よって、軍事バランスがくずれれば、世界の国々はいつでも戦争を始める、というのが彼らの言い分なのです。

では、国際社会を「平和」に保つためにはどうしたらいいのか?彼ら「リアリスト」に言わせれば、そんなことは単純明快であり、「軍事バランスを保つこと」なのです。

より具体的に言えば、世界中のライバル国家たちに軍事力でバランスをとらせて、お互いに手出しさせないようにする、ということなのです。

そうして、現在トランプ政権は、軍事パランスを崩そうとする中国に対して、武力ではなく経済制裁を中心とした、冷戦Ⅱ(ペンス副大統領の言葉)を挑んでいます。

こうしてみると、トランプ氏は、正真正銘の「リアリスト」なのかもしれません。すくなくと「マティス流」の「義理人情」で動くのではなく、あくまでも合理的な判断で政治を行い、「国際関係を、主に『権力(パワー)』という要素にしぼって考えて行動しているのではないでしょうか。

そうなると、トランプ氏は、「リアリスト」と考えるのが妥当だと思います。

最近の韓国 レーダー照射問題においては、言い訳がコロコロ変わっています。これは、軍としては致命的です。 自衛隊記録動画に反証する動画を公表しましたが反証証拠を出せず、レーダー照射そのものは認めざるえなくなっています。

韓国の反証動画。サムネイルに「自衛隊機の低空飛行」を見せかける加工がなされている。

自衛隊はデータリンクを通じて、他国(特に米国)とも情報共有しているわけで、いくらでも証明できるでしょう。特に米国は、日本海で艦船を恒常的に航行させていますから、その一部始終をすでに分析していることでしょう。

韓国の今回の対応は、まさに最悪のクレーム対応の見本のようなものです。これをリアリストのトランプ氏が見れば、韓国の信用度はますます低下したに違いありません。慰安婦問題や、徴用工問題における韓国の妄想による捻じ曲げられた理屈など、トランプ氏には通用しません。

これは、冒頭の記事の最後で、ケント・ギルバート氏が"この文章の「シリア」が「韓国」に、「イラク」が「日本」になる日は、そう遠くないのかもしれない"と語ったように、米軍韓国撤退の日は近いかもしれません。

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2018年12月23日日曜日

米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した(゚д゚)!




 トランプ大統領による米軍のシリア撤退発表は、米政府高官らも驚く突然の決定だった。その背景には、シリアをめぐって「大統領とエルドアン・トルコ大統領の思惑の一致」(ベイルート筋)という“裏取引”が浮かび上がってくる。マティス国防長官はトランプ氏に撤退を思いとどまらせようと最後の説得を試みたが失敗、抗議の辞任に踏み切った。長官の辞任は来年2月の予定。

反対押し切り独断で決定
 撤退の発表は唐突にツイッターで行うというまさに「トランプ流」だった。トランプ大統領は12月19日のツイッターで「イスラム国(IS)に歴史的な勝利を収めた。いまこそ米国の若者たちを帰国させる時だ」と宣言。この発表は米政府だけではなく、シリアに関与してきた中東各国やロシア、イラン、そして米国と組んでISを壊滅させた有志連合諸国を驚がくさせた。

 とりわけ、米国の求めに応じてIS壊滅に多くの血を流してきたシリアのクルド人の衝撃は大きかった。クルド人は将来のクルド人国家の実現を米国が後押ししてくれるという期待があるからこそ、IS攻撃の地上戦の主力を担った。それだけに「裏切られ、梯子を外された」(同)との怒りは強い。

 シリアについては、トランプ大統領は選挙公約で、IS壊滅後、早急に米部隊を撤退させると主張し、今年4月にも盛んに撤退論を繰り返した。しかし、マティス国防長官ら政権内の安全保障チームが強く反対、9月になって大統領はIS壊滅後も敵性国イランの影響力拡大を阻止するため、小規模の部隊をシリア領内に残すことに同意し、シリア政策を変更した。

 事実、大統領の信頼が厚いボルトン補佐官(国家安全保障担当)は当時、「イランの部隊が展開している限り、われわれが撤収することはない」と言明していたし、米政府のマクガーク有志連合代表もつい先週、ISを物理的に壊滅させても、われわれはこの地域の安定が維持されるまで留まる」と述べていた。

 政策が変わったのは大統領がツイッターで撤退を公表した前日の18日だ。ワシントン・ポスト紙などによると、この日、ホワイトハウスでごく少人数の秘密会議が開催された。出席者はトランプ大統領、ポンペオ国務長官、マティス国防長官、ボルトン大統領補佐官らだった。

 この席で大統領がシリアから部隊を撤退させたい意向を表明。これに対し、出席者のほとんどはIS掃討作戦がまだ完全には終わっていないこと、イランやロシアの影響力拡大を食い止める必要があること、米部隊が撤退すれば、混乱が生まれかねないことなどを主張して反対した。だが、大統領は反対論を強引に押し切った。

 シリアの米部隊は公式には503人だが、実際には4000人弱の規模と見られている。ほとんどが特殊部隊で、クルド人に訓練や武器援助し、ユーフラテス川の北東部に駐留。クルド人とともに、シリア全土の3分の1を支配下に置いている。トランプ大統領は30日以内に撤退するよう指示した、という。

取引の中身

 撤退の決定は1国の指導者を除いて事前に伝えられることはなかった。その指導者とはトルコのエルドアン大統領である。両首脳はサウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、カショギ氏殺害事件について先の20カ国・地域(G20)首脳会合の場で話し合い、続いて12月14日に電話会談した。

 トランプ大統領が撤退の決定をする要因となったのがこの電話会談だったようだ。エルドアン大統領はこの直前、テロリストと見なすシリアのクルド人勢力の脅威を取り除くため、数日中にシリアに侵攻すると恫喝、事実、シリアとの国境に軍や戦車を集結させ、巻き込まれないよう米軍に警告していた。

 同紙によると、エルドアン大統領はこの電話会談で、シリアのクルド人はテロリスト集団であること、ISはすでに掃討されているのに、米軍が駐留する必要性はないこと、有事の際には北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるトルコが対処するので心配ないことなどを伝えたという。

 また、特筆すべきはトルコが1年以上も求め続けてきたパトリオット迎撃ミサイルの売却について、トランプ政権が撤退の決定と同時期に承認し、議会に通告した点だ。政権内部では、エルドアン氏がロシアから最新の迎撃ミサイル・システムを購入するなどしたため、パトリオットの売却に反対論が噴出していた。しかし、トランプ大統領は今回、エルドアン氏の要求をのんだことになる。

 いずれにせよ、大統領はエルドアン氏の説得に応じて撤退に傾いたことが濃厚だ。大統領にしてみれば、選挙公約であるシリアからの軍撤退を実現し、仮にトルコが侵攻しても、米兵が巻き添えを食うことはなくなる。カショギ氏殺害事件についても、撤退を条件に「トルコがサウジの責任追及をやめる」約束を取り付けた可能性すらある。

 トランプ大統領は現在、ロシアゲートや不倫もみ消し事件、大統領就任式準備委員会の不正など様々な疑惑追及にさらされている。しかも民主党が下院の多数派を握ったことで、弾劾の可能性が現実味を帯びてきている。このため、シリアからの軍撤退を発表することで、こうした厳しい追及を逸らす意図もあるかもしれない。

 エルドアン大統領にとってみれば、米軍の撤退で目の上のコブが消え、シリアに侵攻し、最大の懸案だったクルド人の勢力拡大に歯止めを掛けることが可能になる。トランプ大統領が米国に居住している政敵のイスラム指導者ギュレン師を強制送還してくれる、という期待もあるだろう。カショギ氏殺害事件の追及をやめても十分お釣りがくる計算だ。

「私には辞任の権利がある」

 撤退には一貫して反対してきたマティス国防長官は20日、大統領を翻意させようとホワイトハウスに赴き、最後の説得を試みたが、大統領は耳を貸さなかった。長官は提出した辞表で「大統領には考え方の近い国防長官を持つ権利があり、私には辞任の権利がある」と述べた。

 マティス長官は同盟国との国際協調を重視し、大統領の“暴走”にブレーキを掛けてきた。だが、長官の辞任により、政権内に大統領に直言できる人物はいなくなり、大統領の米国第一主義に基づく行動が加速することになるだろう。

 マティス氏は大統領から請われて国防長官に就いた。大統領は当初、長官をあだ名の「マッド・ドッグ」(勇者)と呼んで称賛、大のお気に入りだった。だが、大統領の戦略なき衝動行動を諫めているうちに遠ざけられ始め、ここ数カ月は話もできないような関係になっていた。

 とりわけ長官が次の統合参謀本部議長にゴールドフィン空軍参謀長を推挙したのに、大統領がこれを無視、ミリー陸軍参謀長を選んだのは長官への当てつけだった。北朝鮮との交渉でも、長官は外され、長官が大統領に見切りをつけるのは時間の問題と見られていた。

 トランプ大統領は将軍好きといわれ、就任当初からマティス長官のほか、フリン補佐官(辞任)、マクマスター補佐官(同)、ケリー国土安全保障長官(当時、後に首席補佐官)ら将軍を重用した。しかし、ケリー氏は年内で更迭されることが確定し、残るのはマティス将軍だけとなっていた。

【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した(゚д゚)!

トルコ紙ヒュリエト(電子版)は21日、トランプ米大統領がシリアからの米軍部隊撤収を決断したのは、14日に行われたエルドアン・トルコ大統領との電話会談の最中だったと報じました。
エルドアン・トルコ大統領

それによると、トランプ氏は電話の中で、「われわれが撤収したら、(トルコが)過激派組織『イスラム国』(IS)の残存勢力を一掃できるのか」と質問。エルドアン氏は、IS掃討でトルコがテロ組織とみなすクルド人勢力に頼る必要はないと強調し、「われわれがやる」と答えました。

この直後、トランプ氏は電話会談が続く中で、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)に撤収に向けた準備に取りかかるよう指示したといいます。

トルコのアナトリア通信はこれより先、14日の電話会談について、両首脳がシリア情勢をめぐり調整を行うことで合意したと伝えていました。トルコのチャブシオール外相は21日、撤収を歓迎すると述べた。

以上のことは、多くの人々に驚天動地の出来事であったかもしれません。しかし、米国の戦略家ルトワック氏の米国のあるべきシリア戦略について知っていればそのようなことはなかったかもしれません。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。
アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!
シリアの首都ダマスカス。アサド大統領のポスターの前で警備に当たるロシア軍とシリア軍兵士。
米軍が大規模な攻撃を仕掛ければ、ロシアとぶつかる危険がある

 ルトワックが2013年にシリアに関する記事をニュヨークタイムズに寄稿をしています。その中に戦略が掲載されています。その記事のリンクを以下に掲載します。
In Syria, America Loses if Either Side Wins

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に翻訳を掲載します。
どちらが勝ってもアメリカはシリアで敗北する
2013年 8月24日 byエドワード・ルトワック
先週の水曜日のニュースでは、シリアの首都ダマスカスの郊外で化学兵器が使われたことが報じられた。人権活動家によれば、これによって数百人の民間人が殺害されたということであり、エジプトの危機のほうが悪化しているにもかかわらず、シリアの内戦がアメリカ政府の関心を引きはじめた。 
しかしオバマ政権はシリアの内戦に介入してはならない。なぜならこの内戦では、そのどちらの側が勝ったとしてもアメリカにとっては望ましくない結果を引き起こすことになるからだ。 
現時点では、アメリカの権益にダメージを与えない唯一の選択肢は「長期的な行き詰まり状態」である。 
実際のところ、もしシリアのアサド政権が反政府活動を完全に制圧して国の支配権を取り戻して秩序を回復してしまえば、これは大災害になる。 
カギを握るのは、イランからの資金や武器、そして兵員たちやヘズボラの兵士たちであり、アサド氏の勝利はイランのシーア派とヘズボラの権力と威光を劇的に認めさせることになり、レバノンとの近さのおかげで、スンニ派のアラブ諸国やイスラエルにとって直接的な脅威となる。 
ところが反政府勢力側の勝利も、アメリカやヨーロッパ・中東の多くの同盟国たちにとっても極めて危険である。その理由は、原理主義グループたち(そのうちの幾つかはアルカイダだと指摘されている)が、シリアにおける最も強力な兵力になるからだ。 
もしこれらの反政府勢力が勝利するようなことになれば、彼らがアメリカに対して敵対的な政府をつくることになるのはほぼ確実だ。さらにいえば、イスラエルはその北側の国境の向こうのシリアにおいてジハード主義者たちが勝利したとなれば、平穏でいられるわけがない。 
反政府運動が二年前に始まった時点では、このような状況になるとは思えなかった。当時はシリア国内全体が、アサド政権の独裁状態を終わらせようとしていたように見えたからだ。 
その頃は穏健派がアサド政権にとって代わることも現実としてありえる感じであった。なぜならそのような考え方をもつ人々が国の大半を占めていたからだ。 
また戦闘がここまで長引くことも考えられなかった。長い国境線を接している隣国で、はるかに巨大な国で強力な陸軍を持つトルコが、その力を使って介入してくることも考えられたからだ。実際に2011年の半ばにシリアで内戦がはじまると、トルコのエルドアン首相はすぐにその内戦を終結させるようシリアに要求している。 
ところがアサド政権の報道官はそれに屈する代わりにエルドアン首相をバカにする発言を行い、軍はトルコの戦闘機を撃ち落とすという行動をとったのだ。さらにそれまでにトルコ領内に繰り返し砲撃を行っており、トルコとの国境では車に爆弾をしかけて爆破させている。 
ところが驚くべきことに、トルコ側からは何も復讐はなかった。その理由は、トルコ領内に大規模な少数派民族(ブログ管理人注:クルド人のこと)がいて火種をかかえており、彼らは政府を信用していないだけでなく、トルコ軍も信用していないからだ。 
そういうわけで、トルコは権力を行使するどころか、むしろ機能停止状態であり、エルドアン首相はシリア内戦をすぐそばで眺める、単なる傍観者にしかなれていないのだ。 
結果として、アメリカはトルコが支援した反政府勢力にたいして武器やインテリジェンス、それにアドバイスを行うことができず、シリアは無政府的な暴力による混乱に陥ることになったのだ。 
内戦は小さな軍閥やあらゆる種類の危険な原理主義者によって闘われている。たとえばタリバン式のサラフィー派の狂信主義者は、熱心なスンニ派まで殺害しているのだが、これは彼らがスンニ派の異質なやり方をマネすることができなかったからだ。 
スンニ派の原理主義者たちは無実のアラウィー派やキリスト教徒を殺しているのだが、その理由は単に彼らの宗教が違うからだ。そしてイラクをはじめとする世界中からのジハード主義者たちは、シリアをアメリカやヨーロッパにたいするグローバルなジハード運動の拠点にすることを宣伝している。 
このような悪化する状況を踏まえると、どちらかの勢力が決定的な結果を出すことも、アメリカにとっては許容できないことになる。イランが支援したアサド政権の復活は、中東においてイランの権力と立場を上げることになるし、原理主義者が支配している反政府勢力の勝利は、アルカイダのテロの波を新たに発生させることになるのだ。 
よって、アメリカにとって望ましいと思える結末は「勝負のつかない引き分け」である。 
アサドの軍隊を拘束し、イランとヘズボラの同盟をアルカイダと共闘している原理主義の戦闘員たちとの戦争に引きこませておくことによって、ワシントン政府は四つの敵を互いに戦争をしている状態におくことなり、アメリカやアメリカの同盟国たちへ攻撃を行うことを防げるのだ。 
これが現在の最適なオプションなのだが、これは不運であると同時に、悲劇でもある。しかしこれを選択することは、シリアの人々にとって残酷な仕打ちになるというわけではない。なぜならそれらの多くが全く同じ状態に直面しているからだ。 
非スンニ派のシリア人は、もし反政府勢力が勝てば社会的な排除か虐殺に直面することになるし、非原理主義のスンニ派の多数派の人々は、もしアサド政府側が勝てば新たな政治的抑圧に直面するのだ。そして反政府勢力が勝てば、穏健なスンニ派は原理主義的な支配者たちによって政治的に排除され、国内には激しい禁止条項が次々と制定されることになる。 
アメリカは「行き詰まり状態」を維持することを目標とすべきだ。そしてこれを達成する唯一の方法は、アサド側の軍隊が勝ちそうになったら反政府勢力に武器を渡し、もし反政府勢力側が勝利しそうになったら武器の供給を止めるということだ。 
この戦略は、実はこれまでのオバマ政権が採用してきた政策である。オバマ大統領の慎重な姿勢を「皮肉な消極的態度だ」として非難している人々は、その対案を示すべきであろう。アメリカが全力で介入して、アサド政権をとそれに対抗している原理主義者たちをどちらも倒すということだろうか? 
こうなるとアメリカはシリアを占領することになるが、現在アメリカ国内でこのような費用のかかる中東での軍事的な冒険を支持する人はほとんどいないだろう。 
どちらか一方にとって決定的な動きをすることは、アメリカを危険にさらすことになる。現段階では「行き詰まり状態」が唯一残された実行可能な選択肢なのだ。
その後ご存知のように、ISが勃興して、シリア・イラクの大部分を制圧したのですが、 現在はこの勢力はほとんど一掃されました。そうして、現状はこのルトワックの記事の頃に戻ったような状態です。

ルトワックの提唱する戦略は、アサドの軍隊をクルド人勢力などの反政府勢力と戦わせておいて、アサド側の軍隊が勝ちそうになったら反政府勢力に武器を渡し、もし反政府勢力側が勝利しそうになったら武器の供給を止めるという「行き詰まり状況」を維持するということです。

ただし、ここにきて状況が変わってきました。エルドアン首相はシリア内戦をすぐそばで眺める、単なる傍観者であることをやめて、権力を行使するとトランプ大統領に表明したわけです。

トルコ軍の特殊部隊

エルドアン首相は、トランプ氏に対して、ISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明したのです。トランプ大統領としては、この状況であれは、米国としては、この地域に関してはNATOの同盟国でもあるトルコに任せるべきと判断したのでしょう。

シリアに対してはトルコに対峙させ、米国はこれを支援するようにし、トルコが劣勢になれば、米国が軍事的、資金的に支援すれば良いと考えたのでしょう。パトリオット迎撃ミサイルの売却はその意図の現れです。トランプ大統領は、クルド人勢力に変わる、シリアへの拮抗勢力としてのトルコに期待したのでしょう。

しかし、これはトルコという新しいプレイヤーが登場したというだけで、本質的にはルトワックの戦略と変わりはないのかもしれません。米国はトルコがすぐにアサド政権を打倒できるとは考えていないでしょうが、当面「行き詰まり状態」を維持できることになります。

これで、米国としてはシリアに拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると考えたのでしょう。それに、トランプ氏のIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約も果たせることになります。

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