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2019年4月24日水曜日

孤立する金正恩氏 中国すら制裁履行で…“プーチン頼み”も失敗か 専門家「露、大して支援はしないだろう」 ―【私の論評】ロシアは、朝鮮半島の現状維持を崩すような北朝鮮支援はしないしできない(゚д゚)!


ロシア・ハサン駅に到着した正恩氏=24日(ロシア極東沿海地方政府のホームページから)

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は24日、特別列車で国境を越え、ロシア極東を訪問した。国境に接するハサン駅での歓迎式典出席後、ウラジオストクに向かった。25日にウラジーミル・プーチン大統領との初の首脳会談に臨む。2月の米朝首脳会談決裂後、最大の支援国だった中国すら国際制裁を順守する姿勢を見せるなか、正恩氏にはロシアから経済的支援を引き出す狙いがあるとみられる。ただ、専門家からは厳しい見方が出ている。

 「ロシアの地を訪れることができてうれしい。これは最初の一歩にすぎない」

 正恩氏は24日午前、ハサン駅に到着した際、こう語った。ロシアのコズロフ極東・北極圏発展相らが迎えた。

 北朝鮮の最高指導者の訪露は、金正日(キム・ジョンイル)総書記による2011年8月以来、約8年ぶりで、正恩体制では初めて。

 ロシアメディアなどによると、露朝首脳会談は25日、ウラジオストク南部のルースキー島の極東連邦大学で行われる。

 北朝鮮は、ベトナムの首都ハノイで2月末に行われた米朝首脳会談が物別れに終わった後、「対話路線」から「瀬戸際外交」に戻ったような動きを見せている。

 米国には、マイク・ポンペオ国務長官を対北交渉から外すよう要求し、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を「愚か者」と罵った。韓国には、正恩氏自らが演説で「差し出がましい」と非難した。

 ただ、国際社会による対北朝鮮制裁は厳格に維持されている。

 国連安全保障理事会の制裁対象である北朝鮮の海外出稼ぎ労働者について、中国やロシアが自国で働く労働者の半数超を北朝鮮に送還したことが3月に判明した。

 韓国紙、東亜日報(日本語版)は3月28日、中国による北朝鮮労働者送還を報じた記事で、「ある消息筋によると、北朝鮮は中国の制裁履行に不満を示したという」と指摘した。

 孤立化の気配すら漂う北朝鮮だが、ロシアへの接近で経済的支援を引き出すことができるのか。

 福井県立大学の島田洋一教授は「ロシアは最近、ベネズエラに軍事顧問団を送るなど『米国が嫌がることを何でもする』という感じだ。今回の首脳会談も、米国への牽制(けんせい)になるとみているのではないか。ただ、ロシアの財政状況が厳しいことを考えても、身銭を切るような支援は大してしないだろう」と語った。

【私の論評】露は、朝鮮半島の現状維持を崩すような北朝鮮支援はしないしできない(゚д゚)!

以前このブログで朝鮮半島情勢の根幹にあるのは、現状維持(Status quo)であることを述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。

北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、現状の朝鮮半島の状況がまさしく現状維持(Status quo)であることを述べた部分を以下に引用します。
北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。 
この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。

だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。 
ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。

ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。 
では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。
米国の立場を掲載した部分を以下に引用します。
米国・中・露とも現状維持を望んでいるのです。韓国は中国に従属しようとしてるのですが、韓国は中国と直接国境を接しておらず、北朝鮮をはさんで接しています。そうして、北朝鮮は中国の干渉を嫌っています。そのため、韓国は米国にとってあてにはならないのですが、かといって完璧に中国に従属しているわけでもなく、その意味では韓国自体が安全保障上の空き地のような状態になっています。 
この状況は米国にとって決して悪い状態ではないです。この状況が長く続いても、米国が失うものは何もありません。最悪の自体は、中国が朝鮮半島全体を自らの覇権の及ぶ地域にすることです。これは、米国にとっても我が国にとっても最悪です。
 このような最中に、韓国だけが南北統一など、現状を変更する動きをみせたため、米国はおろか、中国・露も韓国に対して良い顔はできないわけです。北朝鮮の金正恩も現状維持を旨としています。文在寅に良い顔をしていたのは、単に制裁のがれをするためです。そのために、文を利用しただけです。

南北首脳会談を前に文とてをつなぎ軍事境界線を越えた金

韓国の文在寅は朝鮮半島情勢をリードしているつもりだったのでしょうが、結局一人芝居を演じただけでした。

最近北が、ミサイル発射実験を匂わせつつ、結局「新型戦術誘導兵器」の実験をしたという発表があっただけでした。

「新型戦術誘導兵器」の詳細は不明ですが、金委員長は昨年11月中旬、国防科学院の実験場を訪れ、「新たに開発した尖端戦術兵器の試験を指導していた」(朝鮮中央通信)ことから国防科学院で研究、開発されていた兵器であることは間違いないようです。

この時の視察でも軍事関係者では李炳哲第一副部長と朴正天砲兵司令官だけが付き添っていたことから、今回テストされた兵器はロケット戦略軍(司令官:金洛謙・陸軍大将)が使用する弾道ミサイルではなく、砲兵部隊が局地的に使用する対空砲や誘導ミサイル、もしくは攻撃用兵器の可能性が高いです。弾道ミサイルでなければ、国連決議に反せず、安保理の制裁対象ともなりません。

金正恩も、米国・中・露とも現状維持を旨としていることは理解しているのでしょう。だからこそ、現状維持を破るような以前のような、核ミサイルの頻繁な発射には踏み切れなかったのでしょう。

ただし、制裁は徐々に効きつつあり、ロシアに訪問したのは、ほんの一部でも良いので、制裁を緩和して欲しいという意向があったからでしょう。

金正恩とプーチン

ロシアも現状維持を望んでいますから、現状維持を崩すような大規模な支援はしないでしょう。ブログ冒頭の記事では、福井県立大学の島田洋一教授が「ロシアの財政状況が厳しいことを考えても、身銭を切るような支援は大してしないだろう」としています。

私は仮に、ロシアの財政状況が良かったとしても、ロシアは現状維持を崩すような規模の援助はするつもりもないし、できないと思います。

現状のロシアのGDPは韓国を多少下回る程度で、韓国のGDPは東京都と同程度です。ロシアは、旧ソ連の核兵器や軍事技術を引き継いでいるということで、決して侮ることはできませんが、それにしても東京都程度のGDPではもともとできることは限られています。

ロシアは、現状維持を崩すような北朝鮮支援は絶対にしませんし、できないでしょう。

そんなことは、最初からわかっていることなのに、それでも金正恩はロシアに赴かなけば、ならなかったのです。これ事態が制裁がかなり効いていることの証です。金正恩は、自分自自身も、朝鮮半島の現状を維持することを望んでおり、米国はもとより、周辺諸国とも事を構えるつもりはないことをプーチン大統領に伝えることで、制裁がさらに強化されることを防ぐ狙いがあるものと思われます。

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文大統領“屈辱” 米韓首脳会談たった「2分」 北への制裁解除熱望も成果ゼロ―【私の論評】トランプ大統領は、外交音痴の文に何を話しても無駄と考えた?

2019年4月14日日曜日

金正恩氏、文政権に「おせっかいな仲裁者ではなく...」 米韓首脳会談も不調、苦しい立場に―【私の論評】朝鮮半島問題の本質を理解しない文在寅は、今のままでは米中露北からまともな扱いを受けられない(゚д゚)!

金正恩氏、文政権に「おせっかいな仲裁者ではなく...」 米韓首脳会談も不調、苦しい立場に

行き詰まる米朝交渉、その打開を目指した韓国・文在寅大統領だが、なかなか思うに任せない。

 2019年4月11日(現地時間)、米ホワイトハウスで行われた米韓首脳会談を受け、韓国メディアでは厳しい論評が相次いだ。さらに北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長からは、「仲裁者」としての立場を改めて否定するような発言まで飛び出した。

トランプ氏とともに笑顔で記者に対応した文氏だったが…(米ホワイトハウス公式FBより)

朝鮮日報は「ノーディール」とバッサリ

 2019年2月27、28日に行われた、ベトナム・ハノイでの第2回米朝首脳会談の「決裂」から、約1か月半。両国の仲裁者を自任する文氏にとっては、ドナルド・トランプ米大統領になんとしても、再び交渉のテーブルに着いてもらうことが、最大のミッションだった。そのために文氏が提案したとされるのが、段階的な非核化・制裁緩和を容認する「グッド・イナフ・ディール(十分に良い取引)」への転換だ。

 しかしトランプ氏は、制裁緩和はあくまで完全な非核化が前提だとする「ビッグ・ディール(大きな取引)」論を曲げなかった。また3回目の米朝首脳会談についても、実施に意欲を見せつつ、「一歩一歩だ」「急げば良い取引にならない」。早期開催を求めた文氏と、考え方の溝を垣間見せた。

 今回の会談に対し、韓国内の採点は総じて辛い。特に、保守系の大手紙・朝鮮日報は、「ハノイに続きワシントンでもノーディール」(引用は日本語ウェブ版より。以下同じ)と切り捨てる。野党・自由韓国党の羅卿ウォン・院内代表も、「(米国に)なぜ行ったのかわからない」「アマチュア外交」と糾弾した(中央日報)。

韓国リベラル派も認める「カード不足」

 もちろん、評価の声もある。リベラル派新聞のハンギョレは、「ひとまず、文大統領が南北首脳会談を推進し、金委員長を説得するための基本動力は作られた」「仲裁者または促進者として文大統領の役割に重ねて信頼を示した」と、会談の成果を強調した。

 だが、そのハンギョレですら、「しかし、金(正恩)委員長を説得するカードが明確でないのが問題だ」「文大統領はトランプ大統領に直接確認した『ビッグ・ディール』と『より明るい経済的未来』という立場を金委員長に伝え、決断を下すよう説得するしかない」と指摘する。つまり、文氏が「仲介役」として双方を説得しようにも、肝心の「カード」がないということだ。とすれば結局、文氏にできることは「説得」しかない。それを、支持層のリベラル派さえ認めざるを得ないわけである。

こうした中で12日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は最高人民会議での演説で、自ら米国との関係に言及した。国営メディアの朝鮮中央通信によれば、「今年の末までは忍耐力を持って米国の勇断を待ってみる」と期限を切りつつ、米国側に「ビッグ・ディール」からの譲歩を迫ったのである。

金氏、トランプ氏とは「敵対的ではない」 韓国ははしごを...

その演説内容は、
「私とトランプ大統領との個人的関係は両国間の関係のように敵対的ではなく、われわれは相変わらず立派な関係を維持」
「米国が正しい姿勢をもってわれわれと共有できる方法論を探した条件で第3回朝米首脳会談をしようとするなら、われわれとしてももう一度ぐらいは行ってみる用意がある」
「今後、朝米双方の利害関係に等しく合致し、互いに受け付け可能な公正な内容が紙面に書かれれば、私は躊躇(ちゅうちょ)せずその合意文にサインするであろうし、それは全的に米国がどんな姿勢でどんな計算法をもって出てくるかにかかっている」
など、米国の譲歩を前提にしてはいるものの、交渉に対し前向きとも取れるものだ。

一方、韓国側に対しては、
「南朝鮮(韓国)当局は、すう勢を見てためらったり、騒がしい行脚を催促しておせっかいな『仲裁者』『促進者』の振る舞いをするのではなく、民族の一員として気を確かに持って自分が言うべきことは堂々と言いながら、民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」
と要求、改めて「仲裁者」としての立場を否定する。韓国としては、はしごを外されたに等しい内容だ。

【私の論評】朝鮮半島問題の本質を理解しない文在寅は、今のままでは米中露北からまともな扱いを受けられない(゚д゚)!

以前このブログで指摘した通り、文在虎も韓国の大多数の政治家も、それに韓国マスコミも、朝鮮半島問題の現状を理解していないようです。

朝鮮問題も当初は、米国・韓国と中露・北朝鮮の対立というところから出発しましたが、朝鮮戦争終了から70年近くたち、随分と様相が変わってしまいました。

韓国は、北との接近をはかりつつ、中国に従属しようとしています。これは明らかに、同盟国米国に対する敵対行為です。

2017年文材寅は中国を訪問したが、驚くほどの冷遇を受けていた

ソ連は崩壊し、ソ連の軍事力や軍事技術を引き継いだロシアは、軍事大国としては相変わらず大国ではありますが、経済規模は縮小し、今やそのGDPは東京都を若干下回る程度しかありません。ちなみにこれは、韓国と同規模です。中国は、経済発展をとげ一人あたりのGDPはまだまだ小さいものの、全体では世界第二位の経済大国になりました。

これについては、中国の経済統計はデタラメで、未だドイツ以下とする識者もいますが、それが事実だとしても、ロシアなどは問題外であるほどに経済が大きくなったのは事実です。しかも、人口はロシアは一億四千万人ですが、中国は十三億人以上です。極東においては今やロシアよりも、中国のほうがはるかに影響力が強大です。

一方の北朝鮮は、中国の干渉を嫌うようになりました。張 成沢氏や金正男氏を殺害したのはそれを阻止するためです。北朝鮮は核ミサイルを開発しました。これについては、ほとんど報道されませんが、北の核ミサイルは、日米にとって脅威であるばかりではなく、中露にとっても脅威です。

北朝鮮にとって、ロシアの影響力は弱まったのですが、中国の影響力は増すばかりで、金正恩は、自らが後継者となった金王朝を守るためには、中国の影響を弱めなければならないと判断したため、核ミサイルの開発により、中国に脅威を与えるとともに、米国との接近を図ろうとしたのです。

そのため、結果として、北朝鮮とその核は、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐ役割を果たすようになりました。

ただし、金正恩としても、中国の影響力を削ぎたいのであり、中国と本格的に対立しようなどという意図は毛頭ありません。無論、米国に従属したいとは毛頭考えていません。米国に従属してしまえば、金王朝を守り抜くことは難しくなります。金正恩の本音は、国境を接している中国の北朝鮮への影響を削ぎ、自らと自ら継承した金王朝を守り抜くことです。

だからこそ、米国に接近を図ったのです。そうして、米朝会談にまでこぎつけることができました。

そうして、北朝鮮は、韓国と統一したり、中国・ロシア、米国などと対立する気は毛頭ありません。本当に望んでいるのは、現在の体制をそのまま維持することです。

一方、米国や中国・ロシアも現状維持を望んでいます。米国にとっては、朝鮮半島問題で最悪なのは、半島全体が中国の影響下に収まってしまうことです。一方中国にとっては、北朝鮮が完璧に米国の配下に収まってしまうことです。

これらの状況よりは、現状維持のほうが、米国にとっても中露にとってもはるかに良いのです。これについては、以前のこのブログにも掲載しました。

朝鮮半島において、現状維持が崩壊するような動きがあれば、米中露とも具体的な行動をすることでしょう。

2017年9月6日、ロシア極東ウラジオストクで行われた経済フォーラムで握手するプーチンと文

現状では、ロシアは経済的に半島問題に直接介入する力はありません。米中としても、米中の経済冷戦が勃発した現在、朝鮮半島は現状維持をして、経済戦争に専念したいと考えています。特に、米国は本気で長期にわたる冷戦を挑んでいます。朝鮮半島問題などは、この冷戦で勝利すれば、自動的に解決すると考えています。

ところが、文在寅をはじめとする韓国の政治家やマスコミは、この現状を把握していないようです。だから、以前このブログでも述べたように、文材寅は米中露・北朝鮮が現状維持を望んているにもかかわらず、それを破壊するような行動に出て、一人芝居をしているようなものなのです。

金正恩は、韓国や文在寅に対して、親近感を抱いているわけでも何でもありません。厳しい制裁に対する抜け穴として利用したいと考えているだけです。だから、文在寅に対して良い顔をしておだててきました。

金正恩におだてられた文在寅

そうして、文在寅は、有頂天になり、北制裁の緩和や排除を標榜し、米国に赴き、仲介者の役割を果たそうとしました。

北朝鮮としては、これ自体は悪いことではありませんが、文在寅の一人芝居が過ぎるようになってきたため、それを放置しておけば、自らも米国や中国・ロシアから、現状維持を崩そうとしてみられる危険性を懸念するようになったのでしょう。

だからこそ、韓国の「仲裁者」としての立場を否定してハシゴを外したのでしょう。文在寅はこうした背景を理解しないと、いつも北朝鮮からハシゴを外されるようになるでしょう。

そんなことより、文在寅は、朝鮮半島問題の本質である現状維持(Status quo)を理解したその上で北、米中露へ対応していくべきでしょう。これができないから、一人芝居状態になっているのです。トランプ、習近平、プーチン、金もその点では一致していると思います。

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2019年3月8日金曜日

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道―【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背後に何が(゚д゚)!

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道

米朝会談は米国にとっては「大成功」だった

米国が北朝鮮から「核戦力廃棄の確約を得られなかった」ことを主な理由として、「失敗」との報道がなされがちな第2回米朝首脳会談ですが、米大統領補佐官は「成功」だと反論しました。これに同調するのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北朝鮮の今後を予測した上で、米の対北政策が日本にも有益な点を詳しく解説しています。

ボルトンさん「米朝首脳会談」は【大成功】

先日行われた米朝首脳会談について、「大失敗だ!」という意見が多いです。しかし、皆さんご存知のように、REPは「大成功だ!」という立場。それで、3月1日に、こんな記事を出しました。

金正恩の姑息な作戦に乗らず。米朝首脳会談が成功と言える理由

ところで、私と同じ意見の人がいました。ボルトンさん(アメリカ大統領補佐官)です。トランプ政権中枢にいる人が、「大成功!」というのは、当たり前ですが…。
米朝首脳会談は「成功」 米大統領補佐官が擁護
3/4(月)6:32配信 
【AFP=時事】米国のジョン・ボルトン(John Bolton)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は3日、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領との間で先週行われた米朝首脳会談について、双方で合意に至らず会談が失敗だったとの見方を否定した。
「失敗だったとの見方を否定した」そうです。
ボルトン氏はCBSの報道番組「フェイス・ザ・ネーション(Face the Nation)」で、トランプ氏が北朝鮮から核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったことは、「大統領が米国の国益を守り、高めたという意味で成功」と見なされるべきだと語った。
「トランプ氏が核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったこと」=「大統領が国益を守って成功」だそうです。どういう意味でしょうか?
ボルトン氏は、争点はトランプ氏の言う「大事業」すなわち完全な非核化を北朝鮮が受け入れるかまたはそれ以下の「われわれには受け入れ難い」ことのどちらかだったと説明。「大統領は自分の考えを断固として貫いた。大統領は金正恩氏との関係を深めた。米国の国益は守られており、私はこれを失敗だとは全く見ていない」と述べた。
同感です。トランプさんは、「完全な非核化」を要求しました。その見返りは、「体制保証」「経済制裁解除」です。

まあ、アメリカはこれでカダフィを03年にだまし、丸裸にした。結果、彼は11年、アメリカが支援する反体制派に捕まり殺されました。だから金正恩がアメリカを信用しないのは当然。

一方、金正恩は、「一部非核化して、制裁解除」を狙ってきました。これは、過去の「成功体験」を繰り返したのです。1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らか。今回も「これでいける!」と思ったのですね。

このように、アメリカは北をだまそうとしている。いえ、ひょっとしたらトランプさんは、だまそうとしていないのかもしれない。しかし、カダフィの例があるので、金正恩からは「だまそうとしている」ように見える(それに、トランプ後の大統領が政策を変更するかもしれない)。そして、北はアメリカをだまそうとしている。で、結果、「トランプさんは、金正恩にだまされなかった」。だから、RPEも、ボルトンさんも「成功だ」というのです。

これが、「少し非核化して、制裁解除」となったらどうです?金は、「核兵器保有」と「経済発展」の二つを同時に成し遂げた。まさに「偉大な指導者」になることでしょう。

トランプ、金正恩の交渉決裂でどうなるのでしょう?
  • 金は、核実験、ミサイル実験を再開できません。再開したら、アメリカは、「金は交渉を断念したようだ。しかたない…」といって、北を大攻撃するでしょう
  • 北朝鮮は、豊かになりません。現状、中国、ロシアが北支援をつづけている。しかし、これは「国連制裁違反」なので、大々的に、大っぴらにできない。せいぜい「体制が細々と存続していく程度」にしか支援できない
金はこれから、
  • トランプを信じるか?つまり、「完全非核化して、体制保証、制裁解除を勝ち取る」か?(繰り返しますが、アメリカがだますリスクはあります)
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくか?
  • 核実験、ミサイル実験を再開して、アメリカに殺されるか?
いずれかを選ばなければならない。現状、もっとも可能性が高いのは、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
でしょう。そして、中国、ロシア、韓国に、「制裁違反の支援をもっと増やしてください!」と懇願するかもしれない。もしそれで中国が支援を増やせば、米中覇権戦争中なので、アメリカは、「中国は国連安保理の制裁に違反して、北を助けている!」と非難する。そして、対中制裁を強化することでしょう。中国としても悩ましいところなのです。

こう考えると、アメリカの対北政策は、実にうまくできています。アメリカも困らないし、日本も困りません。そのように見る人は、あまりいないのですが。

【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背景に何が(゚д゚)!

私自身は、米朝会談は米国にとっては大勝利だったと思っています。上の記事は、その私の考えをさらに補強するものでした。特に、ボルトン氏が「大成功」としていることで、私の考えは裏付けされたものと思いました。

さて、この大勝利について、「大勝利」とは掲載していないものの、失敗ではないことをこのブログも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 ―【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!
米朝決裂であてのはずれた文在寅
詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に一部を引用します。 
北朝鮮は、外見は中国を後ろ盾にしてはいますが、その実中国の干渉されることをかなり嫌っています。金正男の暗殺や、叔父で後見役、張成沢氏の粛清はその現れです。 
韓国は、中国に従属する姿勢を前からみせていましたが、米国が中国に冷戦を挑んでいる現在もその姿勢は変えていません。 
この状態で、北朝鮮が核をあっさり全部手放ばなすことになれば、朝鮮半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となることは明らかです。これは、米国にとってみれば、最悪です。そうして、38度線が、対馬になる日本にとっても最悪です。
もし今回北朝鮮が米国の言うとおりに、全面的な核廃棄を合意した場合、米国は、米国の管理のもとに北朝鮮手放させるつもりだった思います。まずは、米国に到達するICBMを廃棄させ、冷戦で中国が弱った頃合いをみはからい、中距離を廃棄させ、最終的に中国が体制を変えるか、他国に影響を及ぼせないくらいに経済が弱体化すれば、短距離も廃棄させたかもしれません。
しかし、これを米国が北朝鮮に実施させた場合、多くの国々から非難されることになったことでしょう。特に、日本は危機にさらされ続けるということで日米関係は悪くなったかもしれません。さらに、多くの先進国から米国が北朝鮮の言いなりになっていると印象を持たれかなり非難されることになったかもしれません。 
しかし、今回の交渉決裂により、悪いのは北朝鮮ということになりました。米国は、他国から非難されることなく、北朝鮮の意思で北の核を温存させ、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐことに成功したのです。まさに、「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という結果になったのです。
この記事にも掲載したように、本来「北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる」という点を抜きに、今回の米朝首脳会談が大成功であったと認識するのは困難でしょう。

大方のメディアにはこのような認識がないので、「失敗」と報道するしかなかったのでしょう。

今回の首脳会談後についての金正恩 選ぶ道について、ブログ冒頭の記事では、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
これは、米国にとっては、当面北が核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくにしても、核が存在すること自体には変わりはなく、それは中国の脅威となり、中国の朝鮮半島への浸透が防止されることになることには変わりありません。

これについては、米国が北を屈服させて、そこに米国が中距離核を配備すればよいではないかと考える人もいるかもしれませんが、それをやってしまえば、米国と中国、ロシアとの対立がかなり深まることになります。さらには、国際的に非難されることにもなります。

そうではなく、北の意思によって、核か北朝鮮に存在するといことが重要なのです。

現状を保てたことは、まさに米国にとって大勝利です。ただし、米国としては北朝鮮に核があることが米国にとって有利などということは、口が裂けても公言することはできません。

だから、ボルトン氏もそのことについては、特に言及しないのでしょう。そのことが、米国の大勝利を一般からは理解しにくいものにしています。

トランプ大統領は6日、北朝鮮がミサイル発射施設の復旧を進めているとの情報について、「本当なら非常に失望する」と述べました。
ボルトン補佐官は5日、非核化をめぐる今後の協議について「ボールは北朝鮮にある」と指摘、北朝鮮が本当に核計画を放棄する意思があるかどうか見極めていく考えを示した。

その上で、完全な非核化に応じなければ「経済制裁の強化を検討する」とけん制した。

これらによって、トランプ大統領もボルトン氏も、現所維持を確固なものにするとともに、「ボールを北」に投げたのです。



そうして、米朝会談は今後の中国の動向により、方向付けられるでしょう。現在米国による対中冷戦が繰り広げられています。

この冷戦は、中国が体制を変えるか、さもなくば、中国の経済力が弱体化して他国に影響をおよぽせなくなるまで、継続します。

そうして、私の見立てでは、中国は体制を変えることはしません。体制を変えるといことは、中国共産党1党独裁でなくなるのは無論のこと、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめるということです。

そうなれば、中国共産党の統治の正当性が崩れ、中国共産党は崩壊します。そのような道を中国共産党は選ぶことはないでしょう。

では、残された道は、経済を弱体化され、体制を維持したまま細々と生きていくという道です。

そのようになれば、中国は図体が大きいだけの凡庸な、アジアの独裁国家になりはて、自国のことだけで精一杯になり、朝鮮半島に影響力を及ぼす余力もなくなります。

その時に、次の本格的な米朝会談が始まることになります。というより、中国が弱体化してしまえば、朝鮮半島問題もおのずと、解決することになり、かなり楽に交渉ができるようになると思います。アジアの問題は、やはり中国が最大のものであり、その他は従属関数であるに過ぎないとみるべきなのです。

金正恩

そのことを理解したのか、金正恩は、米朝会談の帰路に、先回の会談後には帰路に習近平と会談したのですが、今回は習近平とは会談せずに北朝鮮に戻りました。一般の報道では、これについて金正恩は「会談に失敗してあわせる顔がない」からなどと報道していますが、それは上で示したような文脈を理解していないからだと思います。

金正恩としては、中国に対峙する米国に対して、当面どちら側につくかを意思表示したのでしょう。

金正恩としては、冷戦においていずれ中国が敗北すると踏んでいるのでしょう。であれば、残された道は、冷戦で中国が弱体化するまで、核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きのび、頃合いをみはからって、核を放棄し制裁解除をしてもらい、経済発展の道を模索するということしかありません。

今回の米朝首脳会談でのトランプ大統領「大勝利」の背景に何があったのかを理解することは、今後の世界情勢を理解する上でかなり重要なことだと思います。

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2019年1月12日土曜日

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「金王朝」死守したい金正恩の頼みの綱はやっぱり核

2回目の米朝首脳会談に向けて動き出した米中朝の思惑

中国・北京の人民大会堂で、写真撮影に臨む北朝鮮の
金正恩朝鮮労働党委員長夫妻(左)と習近平国家主席夫妻(右)。

 年明け早々の1月7日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。過去1年間に中朝首脳会談は、①2018年3月26日(北京)、②5月7~8日(北京・大連)、③6月19~20日(北京)に開かれており、今回が4度目である。

 昨年は、6月12日にシンガポールで歴史的な米朝首脳会談が開かれたが、その後半年が経つのに、両国関係に際だった進展がないままである。近いうちに第2回目の首脳会談を開催すべく、アメリカと北朝鮮の間で調整が行われている。今回の金正恩の訪中は、その準備のためのものと考えてよい。

核こそが「金ファミリー体制」保障する最大のカード

 朝鮮半島情勢を長年にわたり観察してきた者としては、半年前の米朝首脳会談を境にして従来とは異なる局面が出てきているように見える。それは、北朝鮮のみならず、アメリカ、中国、韓国、ロシア、日本についてでもある。

 建国以来の北朝鮮の国家戦略を振り返ってみると、最優先課題は「金王朝」の継続である。実際に、金日成→金正日→金正恩と、父から息子への権力継承が行われてきた。この点では、同じ共産党一党独裁体制であっても、ソ連や中国の権力継承のあり方とは大きく異なっている。

 体制の維持という最大の目的を達するための第一の方法は、核のカードの活用である。

 金王朝を崩壊させる能力と意思とを持った国はアメリカである。北朝鮮の後ろ盾には中国とロシア(ソ連)がいるが、彼らには、アメリカの攻撃を受けた北朝鮮を救う力はない。そこで、自らの体制を守ろうとするならば、自らアメリカに反撃できる軍事力を持つべきであり、それは核兵器である。アメリカ本土に到達する核爆弾を一つ持つだけで、その効果は計り知れないものがある。そこで、国民の生活を犠牲にしても核開発に力を注いできたのである。

 実はこの発想、フランスのドゴール大統領に似ている。米ソ冷戦下で、フランスがソ連から核攻撃を受けたら、アメリカはソ連に対して報復の核攻撃を行ってくれるか。ドゴールの答えは、「ノン(否)」である。アメリカはパリのためにワシントンDCを犠牲にはしない。フランスがモスクワに到達する核を持つことによってしか、ソ連の核から身を守ることはできない。それがドゴールの出した結論だった。

 金ファミリーも同様な核思想を持ち、それは期待以上の効果を生んだ。核開発というカードを活用すれば、開発中止の代価として経済協力を得ることができるからである。「米朝枠組み合意」がその典型である。

 北朝鮮は、1993年に核拡散防止条約(NPT)から脱退し、核開発を進めたため、国際社会は何とか話し合いで北の核開発を終わらせようと努力した。その結果、1994年10月21日に米朝間で「米朝枠組み合意」が締結された。北朝鮮は核開発プログラムを凍結する見返りとして、黒鉛減速炉から軽水炉への転換支援と毎年50万トンの重油供給を受けることが決まった。その実行組織として、米韓日などが参加して朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が組織された。その結果、北朝鮮はNPTに残留することを決める。

 しかし、2002年10月に北朝鮮がウラン濃縮プログラムを進めているという疑惑が浮上し、2003年1月には北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)からの再脱退を決めた。この年12月にはKEDOは軽水炉の建設工事を中断し、2006年5月には軽水炉計画は完全に中止されたのである。

金正恩から見たら「アメリカは約束違反」

 短命に終わったこの「米朝枠組み合意」の歴史は、アメリカにとっても、北朝鮮にとっても快いものではなかった。しかし、「核というカードがいかに有効なものであるか」を北朝鮮は十分に認識したのである。

 そこから、アメリカ本土を核攻撃する能力を持つために、大陸間弾道ミサイルと核爆弾の開発に全力をあげる。そして、度重なる実験の結果、その実現間近まで行ったところで、米朝首脳会談という運びになったのである。北朝鮮のような小国が世界一の大国アメリカと対等の立場で首脳会談ができるのは、「核兵器のお陰」なのである。

 したがって、北朝鮮は、然るべき見返りがないかぎり、核開発を容易には放棄することはないと考えたほうがよい。

 体制維持のための第二の方法は、アメリカのみを相手にするということである。中国やロシアは支援してくれる兄貴分であり、日本や韓国はアメリカの手下である。北朝鮮は、アメリカと話をつけることができれば、体制は維持できると考えている。日韓両国は、経済的な協力を得られるかぎりにおいて付き合うが、それ以上に期待することはない。

 祖父や父が推進してきたこの姿勢を金正恩も踏襲しているが、問題なのは、米朝首脳会談を行ったにもかかわらず、1994年の米朝枠組み合意のようなメリットがまだ何も現れてこないことである。

 北朝鮮の最大の不満は、核実験もミサイル発射も中止しているのに、制裁解除がないことである。昨年6月の米朝首脳会談では、アメリカは「一括、即座の非核化」という要求を、北朝鮮に譲歩し「段階的非核化」で決着させた。金正恩にしてみれば、非核化が段階的ならば、制裁解除も段階的でよいはずである。

 米朝首脳会談後の共同声明では、非核化については、「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む」と記されている。しかし、アメリカが要求するCVIDのうち、V(検証可能な)やI(非可逆的な)については一切言及がない。しかし、トランプ政権は、CVIDが実現しなければ、制裁解除はないと言い続けている。

 金正恩はこれを約束違反と判断しても不思議ではない。そこで、1日の「新年の辞」で、「制裁を続けるなら新たな道を模索せざるを得なくなる」と述べて、アメリカを牽制したのである。

新年の辞を伝える北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長

韓国ソウルの鉄道駅のテレビに流れた、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長による新年の辞を伝えるニュース映像(2019年1月1日撮影)。(c)Jung Yeon-je / AFP〔AFPBB News

 昨年6月の共同声明では、「トランプ大統領は、北朝鮮に対して安全の保証を提供することを約束した」とあるが、金正恩は、これで本当に金王朝の継続がアメリカに認められたとは思っていないであろう。

北朝鮮が習近平の「対米交渉カード」になる可能性も

 このような北朝鮮側の不満と不安に対して、来たるべき第2回目の米朝首脳会談でトランプはどこまで金正恩に「お土産」を渡すことができるのであろうか。

 金正恩は、訪中して習近平と会談し、「非核化の立場を引き続き堅持し、対話を通じて問題を解決する。2回目の米朝首脳会談が、国際社会が歓迎する成果が得られるよう努力する」と強調した。これに対して、習近平は、非核化を目指す北朝鮮の立場を支持すると表明した。制裁緩和については、「米朝が歩み寄ることを望む」、「北朝鮮側の合理的な関心事項が当然解決されるべきだ」と述べている。

 しかし、米中は国際社会で熾烈な覇権争いを展開しており、中国がどこまで北朝鮮の後見人として振る舞えるか疑問である。むしろ、米中摩擦の緩和のために、北朝鮮をカードとして使い、金正恩に「見返りなしの非核化」を求める可能性もある。

 アメリカの研究機関は、衛星写真の解析から北朝鮮がウラン濃縮を再開していると判断している。北朝鮮の非核化、経済改革などの目的は、すぐには達成されそうもない。

【私の論評】韓国は中国の朝鮮半島浸透の防波堤の役割を北に譲ってしまった(゚д゚)!

「金王朝」死守したい金正恩の頼みの綱としての核という考えは別にして、北朝鮮国内には非核化に反対する勢力が存在し、金正恩朝鮮労働党委員長が国内の権力闘争に生き残りつつ非核化にこぎ着けるのは「極めて困難」だと考えられます。

そのような勢力は北朝鮮に間違いなく存在します。それを理解するには、北朝鮮経済の現代史や韓国の歴史を知る必要があります。

北朝鮮の経済はかつて、社会主義的な「計画経済」一辺倒でした。国民の生活に必要なモノの種類と量を国家が決定し、工場や農場に生産を指示。出来上がったモノを国民に配給するというものでした。

ところが、このシステムは1990年代に崩壊してしまう。北朝鮮を経済的に支えていた旧ソ連・東欧の社会主義圏が消滅し、さらには数十万単位の人が餓死したと言われ大飢饉「苦難の行軍」に襲われたからです。

中学生くらいの少女が露天の食堂で客の食べ残しに手を伸ばしている。
1999年12月咸鏡北道の清津市にて撮影キム・ホン(アジアプレス)

これにより、国民を養えなくなった国家は、人々がそれまで禁じられていた「商売」に乗り出すのを黙認するようになりました。北朝鮮の人々の生存本能は、金儲けの楽しさを知るのとともに「商魂」へと変じ、国の経済をなし崩し的に資本主義化させてしまったのです。

「苦難の行軍」が発生した当初、人々が売ったのは衣類や家財道具などのなけなしの財産でした。それを売り払ってからは、やむなく売春に走る女性たちもいました。

ところが今では、資本家と呼べる人々まで登場しています。たとえば、中国との小規模な密輸で原資を蓄え、そのカネをエネルギー不足で開店休業状態の国営工場に投資。海外から燃料と発電機、原材料を輸入し、中国企業からの委託生産で大規模な輸出を行う――といったパターンです。

しかしこれも、国家の力が弱まったからこそ可能になったことです。非核化によって経済制裁が解除され、韓国や中国から大規模な経済支援が行われたら金正恩体制がパワーを取り戻し、強力な中央集権に回帰してしまうことになります。

これが、現在の北朝鮮経済で既得権を握る高官や富裕層の心配事なのです。

だからこそ、金正恩はすぐに非核化に走ることができないのです。これを前提として、現状をみまわすと、朝鮮半島の独立を中国からの独立を守っているのは実は北朝鮮の核であり、韓国ではないという皮肉な結果になっています。無論、これは金正恩や、北の高官や富裕層が期せずしてそうなっています。

そうして、これは何も北朝鮮の核保有を認めよなどと言っているわけではありません。しかし、現状、北朝鮮がすぐに非核化をすすめた場合、朝鮮半島は中国に飲み込まれてしまう可能性が大です。

そもそも、韓国は自ら独立を勝ち取った経験などなく、歴史的に中国や日本、米国の支配下に置かれてきた経緯からみても自国の防衛や独立に関心がないです。
中国に抵抗しようという気もありません。

最近の海自哨戒機へのレーダー照射事件をみても、韓国は本気で中国と対峙しようという考えがあるなら、そもそもあのようなことはしないし、したとしても早期に解決したでしょう。韓国は、中国の覇権に対抗するための国際連携の一員に加わることはできません。



もし、韓国が自らの独立に関心があるのであれば、在日米軍基地がある日本に安全保障を全面的に依存しているのに、日本と無用ないさかいを起こしたりはしないはずです。韓国が反日であるということは、韓国が本質的な外交政策に関心がないことを意味するものとみなすべきです。

日本との関係や米韓同盟をないがしろにする形で北朝鮮との融和政策を進める韓国の文在寅政権は、これまで米国に保護されていたのを中国に保護してもらうよう打算的に移行しているにすぎないです。

朴槿恵時代から、中国に急速に接近した韓国は中国の朝鮮半島浸透の防波堤の役割を北に譲ったも同じです。

結果として、北朝鮮の核保有は北朝鮮の独立を保証すると同時に、中国の影響力を朝鮮半島全土に浸透させることも防いでいます。米国にとって、朝鮮半島が南北に分断され、北朝鮮が核を保有している現状が中国をにらみ望みうる最善の状態です。

おそらく、トランプ政権も最近では、そのようにみているのでしょう。ただし、米国が北朝鮮を核保有国として認めることは、永遠にないでしょう。今すぐではないにしても、いずれ非核化したいと望んているのは間違いないです。だからこそ、現在は、この均衡を崩さないようにしつつ、対中国冷戦Ⅱを発動しつつ、北に対する制裁も同時に実行しているのです。

この均衡が崩れるのは、どのような場合かというと、北がまたミサイル発射実験を頻繁に行うようになるか、実際に核兵器を使用してしまうこと、中国が、朝鮮半島を自国に併合するために実行動をすること、その他ロシアや韓国の動きなどが考えられます。

今のところ、このような動きはみられず、現状は絶妙なタイミングで、均衡しています。米国としては、ここしばらくこの均衡を崩さないようにして、様子を見ることでしょう。均衡が敗れれば、米国は何らかの行動をするでしょう。その中には当然のことながら、北朝鮮への武力行使などのオプションも含まれているはずです。

逆にいうと、この均衡が続く限りは、北朝鮮に対して、米国は目立った動きはしないということです。今年はそのような状況が続くかもしれません。

この均衡が続くことを前提として、米国の対中冷戦Ⅱが継続し、中国が体制を変えるか、経済力が現在のロシアなみ(GDPで韓国を若干下回る)に弱った場合、北と米国の本当の交渉が始まることでしょう。その日は、今から10年後かもしれないですし、ひょっとすると20年後かもしれません。

ただし、いずれの国であれ、この均衡を破りそうなときには、軍事オプションを含め、米国は何らかの動きをするのは間違いないでしょう。

金正恩も、当然のことながら、この均衡を崩さないことを前提にしつつ、少しでも自らに有利になるように立ち回ることでしょう。

第二回米朝首脳会談において、その方向性をうかがうことができるかもしれません。

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2018年8月9日木曜日

“死神”ボルトン氏、北に重大警告「非核化に必要な措置を取っていない」 ―【私の論評】北軍事攻撃の前にイランの惨状を金正恩と習近平にみせつけるトランプ政権(゚д゚)!

“死神”ボルトン氏、北に重大警告「非核化に必要な措置を取っていない」 


非核化に消極的な正恩氏に、ボルトン氏(写真)が重大警告を発した

 北朝鮮に「死神」と恐れられているジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に“重大警告”を発した。6月の米朝首脳会談で約束した「非核化」について、北朝鮮が実行していないと批判したのだ。ボルトン氏は、正恩氏が4月の南北首脳会談で「1年以内の非核化」を言い出したことも暴露した。北朝鮮は確実に追い込まれつつある。

 「北朝鮮は非核化に向けた必要な措置を取っていない」

 ボルトン氏は7日、FOXニュースの番組に出演し、こう述べた。

 シンガポールで6月に行われた米朝首脳会談の共同声明で、正恩氏は「朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」と、ドナルド・トランプ大統領に約束した。

 北朝鮮がその後、具体的に核廃棄を進めている気配はまったくない。それどころか、「米国が『制裁・圧迫』という旧石器時代の石斧を捨てて、信頼と尊重の姿勢にどれほど近づくかによって未来の全てが決定されるであろう」(6日付、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」)などと、逆に米国を批判している。

 制裁解除を哀願する北朝鮮に対し、ボルトン氏は番組で、「真に必要なのは言辞ではなく行動だ」と指摘し、現段階での制裁緩和は一切検討していないと強調した。

 ボルトン氏の強気姿勢の背景には、非核化の実行を言い出したのが正恩氏自身という事情がある。

 ボルトン氏は5日、4月の南北首脳会談で、正恩氏が韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対し、「(非核化を)1年以内に行う」と約束したことを明らかにした。

 そのうえで、ボルトン氏は「1年以内に(非核化を)終わらせるというアイデアがどこから来ているのかについて多くの議論があったが、正恩氏から来ている」と述べ、「彼らが核兵器を放棄するという戦略的決断をすれば、1年以内にできるはずだ」と語った。

 トランプ政権の「我慢の限界」は近づきつつある。

 ボルトン氏は7日の番組で、マイク・ポンペオ国務長官が正恩氏との会談のため再訪朝する用意があることも明かした。訪朝が実現すれば、正恩氏自身が約束した「1年以内の非核化」を実行するよう、ポンペオ氏が迫る可能性もありそうだ。

【私の論評】北軍事攻撃の前にイランの惨状を金正恩と習近平にみせつけるトランプ政権(゚д゚)!

トランプ政権は、イランに対する制裁による窮状を北に見せつける腹であるのは明らかです。これにより、北を威嚇するだけではなく、その背後にいる中国にもかなりの脅威を与えることがトランプ政権の目論見であると考えられます。

イランの核合意離脱に伴いトランプ大統領は、「これまでで最も痛みを伴う制裁」を行うと表明しました。

トランプ大統領はかねてからイランと敵対関係にあることから、制裁は本格化し関係国にも大きな影響を与えるものと見られます。

これに対し、昨年の今頃は一触即発の危機にあった北朝鮮との関係は現在沈静化しています。それ自体は決してマイナス面ばかりとは言えないですが、では好ましい状況かと言えばそうも言えないです。

北朝鮮が本当に約束を守る国だと思っているのは、世界でも文在寅と日本の左翼くらいのものかもしれません。実際は現在でも北の軍拡が行われていると考えるのが自然です。

トランプ大統領もその辺りは百も承知でしょう。今度北朝鮮が約束を違反すれば、その時は中国もロシアも表面上は反対するかもしれませんが、それでも米国による北攻撃には反対できないでしょう。

米朝首脳会談でトランプ大統領がみせた融和的な態度

米朝会談のトランプ大統領の融和的な態度は、そのための「笑顔の」演出であったとみるべきでしょう。そうなると今回のイランへの制裁は北朝鮮と中国への見せしめでもあるみるのが妥当です。

トランプ政権は、核合意を離脱し、対イラン制裁を再開して、威勢よくイラン経済を追い詰めることにより、どれほどの損害と犠牲が出るかを北と中国に見せつけようとしているのです。

米国のドナルド・トランプ大統領は8月6日、対イラン制裁を再開する大統領令に署名しました。その前哨戦として米政府は今年5月、各国の反対を押し切って2015年に成立した核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)から離脱しました。

米政府は声明で「アメリカ合衆国は、すべての経済制裁が実行されるよう全力を尽くし、イランと商取引のある国々とも密接に連携し、制裁を完全なものにするつもりである」と述べました。

CNNの報道によれば、今後イラン政府は、米ドルの購入ができなくなります。また、イランと金(ゴールド)や貴金属の取引のほか、黒鉛、アルミニウム、鉄鋼、石炭の直接的・間接的な供給も制裁対象です。

イラン通貨取引の大きな部分は禁じられ、イランの自動車産業も制裁対象となります。米国と欧州で製造された航空機をイランに販売することもできなくなります。

11月5日までには、米政府はイランのエネルギー部門に対する「核関連制裁」を完全実施し、イラン産原油の輸入禁止と、外国金融機関によるイラン中央銀行との取引禁止も始まる予定です。

トランプ大統領は8月6日、核合意は「一方的でひどい取引」だったと述べ、「イランの核兵器保有への道を完全に絶つという根本的な目的を達成することができないどころか、虐殺や暴力、混乱を拡大し続ける残忍な独裁政権に、現金という援助を差し伸べるものだ」と新ためて批判しました。

今回の大統領令を受けて、イランのジャバド・ザリフ外相は次のようにツイートました。「トランプ政権は、イラン国民のことを案じているふりをしている。それでいて、最初に科した制裁は、200機を超えるジェット旅客機の輸出を止めることだが、これこそイラン国民が生きるのに欠かせないインフラだ。アメリカの偽善には際限がない」

2015年Timeが選ぶ最も影響力がある100人のうちの一人に選ばれたムハマド・ジャバド・ザリフ氏

トランプの大統領令に先立ち、フランス、イギリス、ドイツの外相と、欧州連合(EU)の外交安全保障上級代表は8月6日に共同声明を発表し、アメリカ政府の決定について遺憾の意を表明しました。外相らはまた、ヨーロッパとイランの経済的な結びつきを守ることを約束しました。

実は、ルノーやプジョー、フォルクスワーゲンといったヨーロッパの自動車メーカーがイランに工場を持っていることから、イランの自動車生産台数は世界12位です。トランプ大統領は、イラン経済で最大かつ海外からの投資が最も多い部門に打撃を与えることになります。

イランの企業や政府と取引できなくなっても、米国企業はさほど困りません。イラン経済は米国に依存していないし、米国と強い結びつきを持っているわけでわもありません。影響が大きいのは、欧州の企業や政府のほうです。

トランプ大統領は、米国が彼らにとって最大の貿易相手国であることを盾に取り、イランとのつながりを断てと脅しているのです。

イランの通貨リアルは暴落しています。イランは外界に向けて完全に開放されていない最後の主要な新興市場です。8000万人の消費者を擁し、人々の教育水準は高く、貴金属など天然資源も豊富です。

米国による経済制裁は、少なくともトランプ大統領の任期が残っている間は、潜在力を発揮しようとするイランの取り組みにとって大きな打撃となることでしょう。

イランは自国に巨大な消費市場を持っており、3億人規模の消費者を擁する中東や北アフリカでは主要な工業国です。経済制裁は、原材料や主要部品へのアクセスを制限することで、イランの鋼鉄やアルミ、自動車といった産業に打撃を与えるよう計算されています。

過去数カ月の間に米国が経済制裁の再開に言及しただけで、2015年の核合意後に築き上げてきたあらゆる活気が勢いを失っています。

15年のリセッション(景気後退)後、イラン経済は16年に12.5%の成長を記録しました。今年も堅調な伸びを示すとみられています。国際通貨基金(IMF)の試算によれば、今年の経済成長率は4%です。しかし、これは、米国が核合意から離脱する前に計算されたものです。

核合意後は欧州の主要企業が数十億ドル単位の契約を次々と結んでいきました。しかし、資本調達と法人株主による投資の両方の観点から米金融街は重要であり、欧州企業は経済制裁第2弾のリスクに直面することはできません。

米国はイランの指導層と一般の人々との間に不和を引き起こし、最終的には政権交代を目指していると信じている人は多いです。米政府は政権交代について否定しています。

通過リアルの暴落は一般のイランの人々にとっては大きな打撃です。失業率は上昇し、特に若年層が厳しい状況に陥っています。輸入品のコストのせいでインフレも進んでいます。断続的な経済制裁が何年も続いていることでインフラへの投資が不十分なため水や電気が不足しています。

ハメネイ師を最高指導者とする政治体制は、穏健派とみられている政府と強硬派の軍とのバランスを取ろうとしています。人々からの圧力を受けるのは今後もロウハニ大統領ということになるでしょう。

ロウハニ大統領

米政府に対して強い不信感を抱いている強硬派が勢いづくのは間違いないです。強硬派はまた、国内のあらゆる場所に勢力を伸ばしていることから、イランが世界経済に対して完全に開かれた場合には失うものが最も多い存在でもあります。

テヘランなどの大都市では抗議デモが起きています。ところがその怒りは、トランプ大統領や米国ではなくハサン・ロウハニ大統領に向かっています。核開発より経済を優先してアメリカのオバマ前政権などと核合意にこぎつけたロウハニは今、イランの経済苦境の理由を国会で証言するよう、国会議員たちから迫られています。

イランの惨状はこれから、さらにエスカレートしていくことでしょう。ハメネイ師を最高指導者とする政治体制も崩壊するかもれしれません。そうなると、イランは混乱の巷になるはずです。

これは、北にとってはかなりの脅威となることでしょう。「核廃棄」をしなければ、北もイランと同じようなことになるということで、かなりの見せしめになるはずです。

このブログでは、米国の本命は米国を頂点する戦後秩序に挑戦しようとする、中国であると掲載してきました。また、米国と中国が直接軍事対決することは米国のドラゴンスレイヤー(対中国強硬派)ですら、現実的ではないとみなしていることを掲載しました。

しかし、北朝鮮を軍事攻撃することは、非現実的とはいえないかもしれません。米国は、北がイランの経済制裁の結果をみせつけてもなお、「核廃棄」をしなければ、北に軍事攻撃をするかもしれません。

そうして、それは中国に対して、最大級の脅威となることでしょう。これを米国が実行した場合、米国は中国本土は攻撃はしないものの、元々中国の領土ではない、南シナ海の環礁埋立地を米国が攻撃するかもしれないと危惧させるには十分であるといえます。

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2018年6月21日木曜日

ごまかし正恩氏にトランプ氏激怒 中国で「段階的非核化」主張、中朝へ制裁強めるか―【私の論評】いずれに転んでも、金正恩はトランプの対中国戦略の駒として利用される(゚д゚)!

ごまかし正恩氏にトランプ氏激怒 中国で「段階的非核化」主張、中朝へ制裁強めるか

中国メディアは、習主席が平壌に戻る前の金委員長と19日に続いて再び会談し、
昼食をともにする様子を報じた 写真はブログ管理人挿入 い 

 中国の習近平国家主席と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がまた、「北朝鮮の非核化」でごまかしを図っている。19日に3度目となる首脳会談を行い、正恩氏は「段階的な非核化」を主張したのだ。「米中貿易戦争」が指摘されるなか、ドナルド・トランプ大統領が激怒するのは必至とみられ、両国への制裁を強める可能性もありそうだ。


 中国国営新華社通信などによると、正恩氏は、米朝首脳会談(12日)の合意を段階的に履行すれば、「朝鮮半島の非核化は新たな重大な局面を切り開くことになる」と述べた。非核化の進展ごとに制裁解除などの見返りが得られる「段階的措置」を訴えたかたちで、習氏は正恩氏の訪中を「高く評価する」と語った。

 トランプ政権は「北朝鮮が完全に非核化したことを示すまで制裁を解除することはない」(マイク・ポンペオ国務長官)との立場を堅持している。今回の習-正恩会談は米国を牽制(けんせい)していることが明白といえる。

 中朝の「裏切り」に対し、トランプ政権は断固たる姿勢を貫いてきた。

 中国・大連で5月7、8日に行われた2回目の中朝首脳会談後、トランプ氏は「少し失望している。なぜなら、正恩氏の態度に変化があったからだ」と語った。

 「正恩氏直結の女」とも呼ばれる北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が同月24日に、マイク・ペンス副大統領を罵倒し、「核戦争」に言及する談話を発表した後には、米朝首脳会談を打ち切る書簡を送りつけた。これに狼狽(ろうばい)した北朝鮮は再び米国にすり寄り、米朝首脳会談にこぎつけた。

北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官

 当然、米国は北朝鮮の動向を監視している。

 河野太郎外相が17日にテレビ番組で明かしたように、非核化をめぐってトランプ米政権は、核や生物兵器、化学兵器、ミサイルなど47項目をリストアップしている。

 ポンペオ氏は18日の講演で、非核化の手順などについて話し合うため、「遠すぎない将来」に再訪朝する意向を示した。

 北朝鮮との協議で、中朝両国の後ろ向きな態度が明らかになった場合、米国はどう出るのか。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「トランプ氏は、今月の日米首脳会談後の記者会見で『北朝鮮に対し、300以上の追加制裁を用意している』と話している。中国に対しては、大手銀行への金融制裁にまだ踏み込んでいない。そうしたカードを振りかざしつつ、中国と北朝鮮に対し、『本当の非核化をやれ』と圧力をかけていくのではないか」と話した。

【私の論評】いずれに転んでも、金正恩はトランプの対中国戦略の駒として利用される(゚д゚)!

三度目の中朝首脳会談は、金正恩が平城に戻る前の19日開催されたというのですから驚きです。米朝首脳会談の後、ほとんど間髪をおかずに中朝首脳会談を開催するということは、金正恩は中国もないがしろにはしないことを表明したものであり、今後正恩は米中を同時に相手にする二股外交を展開することを表明したも同じです。

私自身は、このブログで、何度か米朝首脳会談の開催直後(半年以内)に中朝首脳会談が開催されることになれば、トランプ氏は北を見限るだろうと予測していました。そのため、これだけ早い時期に三度目の中朝首脳会会談が開催されたことに、正直驚いています。

私自身は、中朝会談をすぐに開催するかしないかが、金正恩にとっての踏み絵になるのではないかと考えていたくらいです。すぐに開催しなければ、トランプ大統領は正恩が、米国の対中国戦略の駒になることを意思表明したものとみなし、北の存続を許容するだろうとみていたのです。

その逆に、すぐに首脳会談を開催すれば、トランプ大統領は北を見限るであろと考えていました。

なぜそのように考えたかといえば、トランプ大統領が一時、米朝会談の中止を宣言したときの経緯からです。

トランプ米大統領は先月24日、シンガポールで6月12日に予定されていた、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との「米朝首脳会談」を中止する意向を明らかにしました。北朝鮮が、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、「朝鮮半島の非核化」を目指す姿勢を示した直後の発表でした。

これに慌てた金正恩は韓国の文在寅大統領と急遽、板門店で首脳会談を行い、米朝首脳会談開催への「確固たる意志」を表明し、決裂回避に動き始めました。トランプ大統領はツイッターで、自身で表明した首脳会談の中止から一転して、今度は開催に前向きな姿勢を示しました。

結局、米朝首脳会談は当初の予定通り、シンガポールで6月12日に開催されました。私は、突如首脳会談中止を表明し、相手が慌てたところで「やっぱりやろう」と揺さぶったトランプ大統領に、「ディールの達人」の恐ろしさを見ました。そして、金委員長は、完全に逃げ場を失い、「袋小路」に追い込まれました。

「ディールの達人」トランプ大統領

トランプ大統領は「朝鮮半島の完全な非核化の実現」を一歩も譲らないでしょう。また、拉致問題の解決なども、日韓(実質的に日本)に北の支援を任せたことからも、拉致問題の解決に関しても一歩も譲らないでしょう。

日本としても、拉致問題が解決しなければ、北朝鮮に援助するなどは一部の野党は賛成するかもしれませんが、与党はもとより、国民の大多数の感情が許さないでしょう。

今後、北朝鮮が再度何らかの声明を発表したり、行動を起こして、「核の全面放棄に積極的な姿勢」を示さなければ、北朝鮮に対し、300以上の追加制裁措置が実行されることになるでしょう。その中には、当然米韓演習の再開も含まれているでしょう。

トランプ大統領は18日、2000億ドル規模の中国製品に対し10%の追加関税を課すと警告。500億ドル相当の中国製品に対する米国の関税発表を受けて中国が同規模の報復関税を決めたことへの対抗措置だと説明しました。これに対し中国も、米国は「極度の圧力や脅し」をかけていると非難し、「質的かつ量的な」措置で反撃すると表明しました。

トランプ大統領は、2000億ドルの中国製品に対する関税に対抗して中国が再び報復措置を発表すれば、米国はさらに2000億ドルの中国製品に関税をかけるとも警告。これまでに総額4500億ドル規模の中国製品に対して関税適用を警告したことになり、中国の対米輸出額5000億ドル強の大部分がターゲットになった形です。


ナバロ通商製造政策局長は、貿易戦争では中国のほうが失うものが大きいとの見方を示しました。私もそう思います。

同氏は記者団との電話会見で「中国はトランプ大統領の強い決意を過小評価していた可能性がある」とし、「(米国からの)輸入を幾分拡大するだけで、米国の知的財産権や技術を盗むことをわれわれが容認すると思ったなら誤算だ」と述ました。

これを「はったり」とか「ディールの一部」と見る向きもあるようですが、金正恩が中国寄りの、中途半端な姿勢を見せたことから、今後の米朝の実務者協議で、北が「段階的な非核化」を主張した場合、米国は北にはさらなる制裁の強化、中国には貿易戦争に加えて金融制裁に踏み切ることになるでしょう。

北が「段階的非核化」にこだわりつづけるなら、トランプ大統領はこれを好機ととらえ、金正恩の約束の反故とそれを高く評価する習近平を徹底的に非難しつつ、それを理由に中朝制裁に踏み切るでしょう。それでも、金正恩が翻意をしなければ、軍事的オプションも行使し、中国に対して最大限の圧力をかけるでしょう。

いずれに転んでも、金正恩は、トランプ大統領の対中国戦略の駒として利用されるのです。中米両国を手玉にとるつもりだった、金正恩はとんでもない人物を敵に回してしまったと後に後悔するでしょう。いや、後悔する暇(いとま)もないかもしれません。

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2018年5月30日水曜日

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朝鮮半島の"再属国化"を狙う習近平の誤算

歴史的には"隷属関係"が当然だが…

開催が不透明な状況にある米朝首脳会談。混乱の背景について、著述家の宇山卓栄氏は「北朝鮮の後ろ盾として介入姿勢を強める中国を、アメリカが牽制したのだろう」とみる。その構図を読み解くには、123年ぶりに朝鮮半島の「属国化」を狙う習近平と、中国を利用しつつ干渉は避けたい金正恩という、両国の約2000年の歴史についての知識が必要だ――。

正恩(左)率いる北朝鮮の属国化を目論む習近平(右)だが。5月に開かれた2度目の中朝首脳会談にて

2000年に及ぶ隷属関係

5月24日、トランプ米大統領は突如、米朝首脳会談の中止を表明しました。それに先立つ22日、同大統領は金正恩・朝鮮労働党委員長が、習近平・中国国家主席と2回目の会談をしてから「態度が少し変わった。気に入らない」と発言しています。

27日、トランプ大統領は再び会談に応じると表明しました。会談の主導権はアメリカにあると、明確に示した格好です。24日の会談中止表明は、北朝鮮への介入を急激に進めつつある中国への、アメリカの牽制だったと考えられます。

漢の武帝が紀元前108年、楽浪郡を朝鮮に設置して以来、朝鮮半島は約2000年間、中国の属国でした。高麗(こうらい)王朝の前半に一時期、独立を維持したことがありましたが、朝鮮はその歴史のほとんどにおいて、中国に隷属させられていたのです。

下関条約

日清戦争後の1895年、下関条約により、日本は清(しん)王朝に、朝鮮の独立を承認させます。日本は中国の朝鮮に対する属国支配の長い歴史を断ち切りました。それから123年の時を経た現在、中国は朝鮮半島を再び属国にしようとする野心を隠しません。

中国が目論む二つのステップ

中国は10年~20年くらいの時間をかけて、朝鮮の再属国化を実現することを考えているようにみます。第1段階では、経済支援を通じ、北朝鮮を中国資本の傘下に組み入れます。北朝鮮の立場を強化したうえで、第2段階として、北朝鮮に南北朝鮮の連邦制統一を主導させます。韓国に文在寅政権のような左派政権が現れたことも、赤化統一の追い風になっています。

この二つの段階を経て、中国は朝鮮半島への支配を復権させることができます。普通に考えれば、妄想のように思えるかもしれませんが、中国はこういう妄想を実行する(実行した)国であることをよく認識しておかねばなりません。

2018年の3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で、2期10年の国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正が承認され、習近平主席が独裁権を固めました。習主席は、いわゆる「習近平思想」を国の指針として憲法に盛り込み、中国の国益拡大を狙っています。中国の世界戦略は、これまでのフェーズとは全く違う段階に入っているのです。

中国とむしろ距離を置いてきた歴代「金王朝」

とはいえ北朝鮮のほうは、簡単に中国の支配下に組み込まれる気はないようです。

中国は以前から、北朝鮮を中国資本の傘下に組み入れようと画策し、北朝鮮に「改革開放」を迫ってきました。金正恩委員長の父の金正日は、2000年5月の最初の電撃訪中以降、2011年までに合計8回、訪中しています。その度ごとに、江沢民や胡錦濤は上海の経済特区を金正日に見学させるなどして、共産主義体制を維持しながら資本主義的な市場開放を行うことは可能だと示し、北朝鮮も中国にならって改革開放路線を歩むべきと説得しました。

金正日

しかし、金正日はこれを拒否し続けました。表向きは、「経済の自由化は政治の自由化を求める危険な動きとなる」ということでしたが、実際には「中国の介入を受けるのがイヤだ」ということだったのでしょう。

金正恩も露骨に中国を嫌い、中国を「1000年の宿敵」と呼んでいました。これは前述のように、朝鮮が長年中国の属国であった歴史的経緯を踏まえての発言です(歴史的な事実に基づけば、「2000年の宿敵」と言わなければならないところですが)。さらに2013年には、親中派の代表格で、改革開放を推進しようとしていた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)を処刑します。これ以降、北朝鮮と中国との関係は急速に冷え込みました。

そこへトランプ大統領が登場し、北朝鮮への圧力政策を進めたことで、北朝鮮は窮地に陥ります。中国はこれを好機と見なしました。北朝鮮のクビが絞まれば絞まるほど、中国の差し伸べる「救いの手」は高く売れるからです。

習近平と金正恩は何を話し合ったのか?

ところが、北朝鮮は簡単には中国の「救いの手」を握りませんでした。北朝鮮は韓国を仲介にして、アメリカへ抱き付いたのです。この抱き付き作戦が予想以上に効果を発揮し、3月8日、トランプ大統領は米朝首脳会談の開催を決めました。

この一連の動きに焦ったのが中国です。中国は、北朝鮮が窮すれば自分たちのところへ頭を下げに来るはずだとタカをくくっていましたが、見事に当てが外れました。3月と5月に、習主席は金正恩と2回にわたって会談。3月の会談は中国側が金正恩を招聘(しょうへい)したもので、5月の会談も中国側の招聘で行われたとみて間違いないと思います。中国は北朝鮮という暴れ馬の手綱を握ろうと必死なのです。

この2回の首脳会談で、中国は北朝鮮に譲歩し、北朝鮮に有利な合意が形成されたことでしょう。これは、アメリカと中国をてんびんにかける北朝鮮の二股外交です。中国が金正日時代から求めている改革開放路線は是認されたものの、「カネも出す、口も出す」とはいかず、「口も出す」部分について、中国は大幅に制約をかけられたとみるべきです。

よくありがちな「北朝鮮が中国に泣きついた」論では、実態を捉えることはできません。北朝鮮はわれわれが考える以上に、外交技術に長(た)けた国です(北朝鮮は、外交官だけは処刑しない)。貧弱な小国でありながら、これまでも、アメリカや中国などの大国に外交上伍(ご)してきました。転んでもタダでは起きないのです。韓国の文在寅政権などが扱える相手でないことだけは確かです。 ただ、トランプ大統領が首脳会談の中止を表明した5月24日以降は、北朝鮮もトランプ大統領にはかなわないと思ったことでしょう。

金日成による朝鮮戦争後の「親中派」粛清

中国は北朝鮮との経済連携を進めていきさえすれば、いずれ北朝鮮を中国資本の傘下に収めることができるという長期的な戦略を描いているでしょうし、それを対アメリカの外交カードに利用することもできます。そこで、まずは北朝鮮と経済連携をすることを急いだのです。習主席は5月16日、北朝鮮の訪中使節団に対し、「金正恩委員長と2度も会い、両国の関係発展の共通の認識を持つことができた」と述べました。

しかし、過去に、中国は北朝鮮に痛い目に合わされています。1950年に勃発した朝鮮戦争で、中国は北朝鮮を支援しました。戦後、毛沢東は北朝鮮への影響力を強め、属国にしてしまおうともくろんでいましたが、失敗します。中国は北朝鮮内の「延安派」と呼ばれる親中派の一派と連携していましたが(延安は1930年代後半の中国共産党の本拠地)、金日成はスターリン批判(1956年)以降の中ソ対立の隙を突いて、延安派を速やかに処刑していきました。

1959年、毛沢東の大躍進政策に対する批判が巻き起こり、中国指導部で内部紛争が生じたとき(彭徳懐の失脚)、金日成は「延安派」を完全に根絶やしにしました。中国は混乱に巻き込まれている間に、北朝鮮支配の足場を失ってしまったのです。中国共産党の対北朝鮮政策は、このように失敗続きでした。

北朝鮮は金日成時代と同じように、中国を都合よく利用しつつ中国の影響力は断つという方法を、今後模索していくと思われます。今日の習政権が、経済連携を通じて北朝鮮という暴れ馬の手綱を完全に握ることができると考えているなら、大きなしっぺ返しを食らうでしょう。中国の「朝鮮属国化構想」を阻止するうえで最も大きな力を発揮するのは、アメリカではなく北朝鮮かもしれません。

「二股外交」はどこまで通用するか

もっとも、アメリカと中国の両方を利用しようとする北朝鮮の二股外交が、トランプ政権にどこまで通用するかはわかりません。

北朝鮮はこれまで、中国の支援を背景にアメリカに対して強気なアプローチを展開し、ペンス副大統領を罵倒までして揺さぶりをかけていました。ところが、トランプ大統領が突然会談中止を表明したことで、北朝鮮のこうしたアプローチはピシャリと退けられました。同時に、裏で策動していた中国の影響力も、一定のレベルで低下しました。

会談中止の発表直後、中国の「環球時報」は「信義にもとる行為」などという言葉を使って、トランプ大統領を批判する記事を掲載しました。一方で、同じ記事内では「アメリカが北朝鮮に対する軍事的圧力を高めないことを望む」と記され、中国のアメリカに対する屈服をうかがわせる内容となっています。

北朝鮮問題はその本質において、アメリカと中国の二大国の駆け引きであり、「米中冷戦」と呼ぶべき現在の危機構造の一部として存在しています。アメリカにとって、北朝鮮に譲歩することは、中国に譲歩することと同じなのです。「ドラゴンスレイヤー」と呼ばれる対中強硬派で占められたトランプ政権の中枢は、そのことを最もよく理解しています。

宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『「民族」で読み解く世界史』(日本実業出版社)などがある。

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トランプ大統領は東シナ海を中国の内海にはさせない

アメリカの最終的な北朝鮮問題に関する、目標が、朝鮮半島の「非核化」(denuclearization)、朝鮮戦争の「終結」(the conclusion of the peace treaty)にあるとは思えません。 

なぜなら、北朝鮮問題は、アメリカという世界唯一のスーパーパワー(=hegemon:世界覇権国)にとっては、そこまで大きな死活問題ではないはずです。核とICBMを持ったからといっても、経済制裁(=兵糧攻め)でいずれ干上がるのですから、平和条約など結ばないで放置しておいてもいいのです。

しかし、相手が中国となると話は違ってきます。中国はアメリカの世界覇権に挑戦し、建国100周年の2049年までに、アメリカを凌ぐ「世界覇権国」になることを宣言しています。これを「中国の夢」(中国梦)と言いますが、そんなことが実現したら、世界はどうなるでしょうか。


ブログ冒頭の記事にもあるように、習近平国家主席は憲法を改正して“終身皇帝”となり、「中華民族の偉大なる復興」を目指して着々と政策を進めています。AIIB(アジアインフラ投資銀行)も「一帯一路」構想も、みなそのための布石です。いまや、南シナ海は、7つの人工島により中国の「内海」となってしまったことは、世界中が知るところです。

自由と人権を無視した“中華秩序”(新冊封体制)が、世界秩序になる、そんな世界が実現して良いはずはありません。

結局北朝鮮問題とはは、中国の世界覇権への挑戦問題とセットなのです。米国としては、中国の夢を打ち砕くためにも、北朝鮮の体制保持を認めることはできないのです。できれば潰したいのです。そうすれば、中華秩序は韓半島に及ばなくなり、東シナ海を南シナ海と同じように中国の内海化されずにすみます。

ドラゴン・スレイヤーが跋扈するトランプ政権

本当の外交は、表面で進行している状況とはと必ずしも一致しているわけではありませか。トランプ大統領が米朝会談をどのように位置付けているかはわかりません。単なる「外交ショー」、「ディール」としているなら、追い詰められた金正恩が「CVID」(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を約束するだけで、体制保証と制裁解除を見返りに与えるかもしれないです。

しかし、そうだとしても、それは「罠」です。アメリカがOKとする非核化までに時間がかかると困るのは、北朝鮮のほうだからです。

北朝鮮は少しでも非核化達成の時期を長引かせます。そうして、段階的に援助を引き出し、うまくいけば核を隠し持とうとするだろうという「見方」が大勢を占めているようです。しかし、そんなことをすれば、経済制裁は解除されず、北朝鮮は完全に干上がります。それはアメリカにとっては思う壺で、そのうちに北朝鮮内に内乱を起こさせ、体制を転覆させることができるでしょう。

アメリカの最終目標は、朝鮮半島の非核化ではなく、金正恩をイラクのサダム・フセイン、リビアのカダフィと同じく、この世から葬ることと考えるべきです。

そうして、“朝貢国”である北朝鮮の背後にいる“冊封国”中国にプレッシャーを与えること。これが、アメリカの本当の狙いでしょう。

トランプは、今年になって政権内を「強硬派」(hawk)で固めました。ハーバート・マクマスターの代わりにやってきたジョン・ボルトン補佐官(安全保障担当)は、「悪魔の化身」(the devil incarnate)と、「狂犬」(mad dog)と称されるジェームズ・マティス国防長官から言われる人物です。

ジョン・ポルトン補佐官

ヘンリー・キッシンジャーやジェームズ・ベーカーなど共和党の歴代国務長官のバックサポートを受け、「平和は力によって達成できる」(=交渉や条約では達成できない)と信じています。かつて、「国連などというものはない。あるのは国際社会だけで、それは唯一のスーパーパワーたるアメリカによって率いられる」と発言したことがあります。

水面下交渉のため2度、平壌に行ったマイク・ポンペオ国務長官も、完全な強硬派です。ボルトンもポンペオもかつて北朝鮮に対しては、予防戦争をやって体制を崩壊させるべきだと発言していました。

対北朝鮮ばかりか対中国を見ても、トランプ政権内には「対中強硬派」(ドラゴン・スレイヤー:dragon slayer)がそろっています。制裁関税に反対して政権を去った大統領国家経済諮問委員会のゲリー・コーン委員長に代わったのが、ラリー・クドロオ氏。アンチ・チャイナの代表的論客で、中国へ高関税を課すのは「当然の罰だ」と言う人物です。

さらに、商務長官のウィルバー・ロス氏、国家通商会議のピーター・ナヴァロ氏、そしてUSTR(アメリカ合衆国通商代表)のロバート・ライトハイザー氏も、対中強硬派である。とくにナヴァロは「アメリカの災難はすべて中国によってもたらされている」と言ってはばかりません。

このようなトランプ政権が、非核化だけで北朝鮮を生かし続けるるはずがありません。 いくら核を捨てようと、彼らは暴力と恐怖で国民を支配する独裁体制を維持し続けます。これから人々を解放することが本当の平和の達成であり、かつまた、アメリカ覇権(パクス・アメリカーナ)を維持することです。

要するに、米朝会談をきっかけとして、いずれ北朝鮮を国家として葬り、中国の力を削いでいくこと、これが、いまのアメリカの国家目標でしょう。これが、トランプ氏の本音でしょう。

トランプ大統領は金正恩をがんじがらめに

13日、ポンペオ国務長官は、アメリカの民間企業による北朝鮮への投資を認めるかもしれないと、『FOX』のニュース番組で発言しました。また、アメリカの投資家が北朝鮮のエネルギー供給網構築を支援できるかもしれないとも述べました。

ボルトン補佐官もまた、『ABC』の番組で、非核化の証拠が得られれば、アメリカは北朝鮮に民間投資を導き、経済を繁栄させる用意があると、ポンペオと同様の話をしました。

これは金正恩に対する「CVID」に同意せよというメッセージであり、「撒き餌」でしょう。この餌に食いつかせれば、あとはアメリカの思惑通りにできます。ところが、金正恩
は、中国に行き、習近平と会談しました。

トランプ大統領は27日、元駐韓国米大使で現在は駐フィリピン米大使を務めるソン・キム氏が率いる米国実務者代表団を北朝鮮に派遣しました。ソン・キム氏は長年にわたり北朝鮮の核問題を担当してきました。

同行者の中には、国家安全保障会議(NSC)のフッカー朝鮮部長のほかに、ランディ・シュライバー国防次官補らがいました。ランディ・シュラ-イバー次官補は、このブログでも紹介したことがありますが、強烈な反中派です。

その彼が、いまや板門店の北朝鮮側施設「統一郭」にいて北朝鮮の対米外交を担当する崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官らと、実務者レベルの話し合いをしていたのです。話し合いは29日まで続いたとされています。

同時にトランプ大統領はシンガポールにヘイギン米大統領次席補佐官ら一行を派遣し、北朝鮮との間で米朝首脳会談開催の調整に当たらせています。北朝鮮側からは金正恩委員長の執事(秘書室長格)とされているキム・チャンソン国務委員会部長が参加。

彼は北京経由でシンガポール入りしました。キム・チャンソン部長は5月24日に北京に到着し、26日に帰国した人物です。その間に、トランプ大統領の米朝首脳会談中止宣言が出されました。

北朝鮮とシンガポールで米朝実務者レベルが会談するという状況にいきなり追い込まれた金正恩委員長としては、まさか習近平に助けを求めに行くことなどできはしないでしょう。

おまけにトランプ大統領は27日にツイッターで「北朝鮮には素晴らしい潜在力があり、いつか偉大な経済・金融国家になるだろう。金委員長と私はこの点で認識が一致している」とつぶやいています。「北朝鮮が核放棄に応じれば、北朝鮮がこれまでにない経済発展を遂げることができる」とも言い、金正恩委員長の心を刺激しています。

金正恩は「だとすれば、いっそのこと、中国ではなくアメリカ側に付いてしまった方が得かもしれない」と心ひそかに思ったかもしれません。

トランプは、5月16日に北朝鮮が南北閣僚級会談をドタキャンしたり、「米朝首脳会談だって考え直さなければならない」などと「デカイ態度」を示し始めたことを、「金正恩が習近平と二度目の会談をしてからのことだ」と言い始め、5月7日と8日の大連会談に疑義を挟み始めました。

そうして、トランプ大統領は5月16日以降の北朝鮮の態度の変化を「中国のせい」にしておいて、それもちらつかせながら米朝首脳会談を中止しました。

これに対して、金正恩は、米朝首脳会談復活となれば、この段階でさらに習近平にSOSを出せぱ、きっとトランプがまた機嫌を悪くして「中止する」と言い出しかねないと考えたに違いありません。金正恩としては、腹の中ではどんなことをしてでも米朝首脳会談を成功させたいと考えているでしょうから、彼はもう訪中はできません。。

おまけに板門店とシンガポールの挟み撃ちで米朝実務者レベルの会談に急に追い込まれた状況で、習近平に会いに行くなどしたら、トランプの逆鱗に触れることになります。

こうして金正恩をまず、「がんじがらめにして習近平に会わせないようにする」ことに、トランプは成功したのです。

金正恩をがんじがらめにしたトランプ大統領

こうなると、習近平としては、もう何もできないです。自ら積極的に「さあ、北京にいらっしゃい」とは言えないのです。

トランプ氏は、金正恩の豹変を「中国のせい」ではないことを知りながら、あえて「中国のせい」にしたのです。

さらに、5月26日の今年に入ってから第2回目の南北首脳会談のあと、文在寅大統領は米朝首脳会談のあと「南北米」で朝鮮戦争の終戦協定に入ってもいいと27日に語りました。

となると、朝鮮戦争で最も多くの兵士を参戦させ、また多くの犠牲者を出した中国は、その終戦協定という平和体制への移行に発言力を持てなくなってしまいます。

しかし「米朝は対話のテーブルに着け」と言い続けてきたのは中国です。今まさにそのテーブルに着こうとしているのですから、中国としては文句が言える筋合いではありません。こうしてトランプは、習近平の口をも閉ざさせてしまったのです。

これが十分に練り上げた戦略として編み出されたものか、あるいはトランプのビジネスマンとしての「勘」が、結果的にここまで行ってしまったのかは、わからないです。いずれにしても、トランプの圧勝です。

もしトランプが北朝鮮の「完全な非核化の程度」に満足して莫大な経済支援をしたとすれば、金正恩なら、「習近平からトランプに乗り換える」くらいのことは、やるかもしれないです。

どんなに中朝軍事同盟があり、中朝蜜月を演じたとしても、それはアメリカへの威嚇であって、その威嚇が必要となくなれば、中国は「いざという時の後ろ盾」程度の位置づけになり、存在感を失うことになるでしょう。

こうして、「中国の覇権」を抑え込むために、トランプは十分に金正恩という駒を駆使しているのかもしれないです。

中国に対抗することが米国の長期戦略に

先に、トランプ大統領の目標は、「朝鮮を国家として葬り」と掲載しましたが、これは何も軍事作戦だけを意味するものではありません。

北朝鮮の体制を転換させ、いずれ民主化させるということもありえます。そのほうが、経済的にも、恵まれることになります。そうして、そのときには、北朝鮮は米国にとって軍事的にも経済的にも、対中国の最前線基地になっているかもしれません。

一方、北朝鮮があくまで、体制転換を望まないというなら、その時には徹底的に制裁をして、軍事力も用いて、北の現体制を潰し、新たな政権を樹立させるかもしれません。

トランプ大統領としては、場合によってどのような道も選べるように、強烈なタカ派を重用しつつ、中国に対抗できる体制を整えたのです。そうして、中国に対抗していくことを米国の国家戦略に据えたのです。

そうして、この戦略は習近平が、習近平国家主席は憲法を改正して“終身皇帝”となり、「中華民族の偉大なる復興」を目指して着々と政策を進めている現在、たとえポスト・トランプが誰になろうと、民主党政権に政権交代したとしても、引き継がれることでしょう。その意味で、少し前までの米国と現在の米国は根本的に変わってしまったのです。

これから米国がどのように変わったにしても、習近平皇帝の意のままにはさせないということで、米国は一致団結することでしょう。

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2018年5月25日金曜日

【米朝会談中止】北、中国傾斜加速か 正恩氏、目算外れ窮地―【私の論評】正恩はオバマが大統領だった頃とは全く状況が違うということを見抜けなかった(゚д゚)!

【米朝会談中止】北、中国傾斜加速か 正恩氏、目算外れ窮地

金正恩

   米朝首脳会談に向け、「いかなる核実験も必要がなくなった。核実験場も使命を終えた」との宣言を実行するかのように北東部、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長。爆破直後のトランプ米大統領の反応はまさかの首脳会談の中止通告だった。自らが描いた行程表通りに事を進めていた金正恩氏だが、目算は完全に外れた。

 金正恩氏は1月の「新年の辞」で対米非難の一方、韓国に「緊張緩和のためのわが方の誠意ある努力に応えていくべきだ」と主張。以降、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は北朝鮮の期待に応じ続け、南北首脳会談を行い、「歴史的」な初の米朝首脳会談を控える段階にあった。

 今回の核実験場爆破を北朝鮮は、外国メディアに現地取材させ「核実験中止の透明性の確保」(4月20日の党中央委員会総会での政策決定)を誇示した。米朝首脳会談に向け非核化の意思を行動で示すことで、北朝鮮が米国に対し「一方的な廃棄要求には応じない」と相応の措置を求めてくるのは必至とみられていた。

 現に実験場廃棄の表明段階から、ロシアが米国と韓国に「適切に呼応する措置を取るべきだ」(露外務省の声明)と呼びかけるなどの“後押し”が金正恩氏を勇気づけた可能性もある。だが、トランプ政権の米国は、はるかにその上を行った。トランプ氏以下、米政府高官はこれまで「北朝鮮には二度とだまされない」と繰り返していた。

 北朝鮮は2008年にも海外メディアを前に寧辺(ニョンビョン)の核関連施設を爆破したが、その後も核実験を継続。最終的に金正恩氏が昨年11月末に宣言した「国家核戦力完成」に至った。

 今回爆破した実験場も「過去の実験で崩壊状態にあり、価値がない」(南成旭(ナム・ソンウク)高麗大教授)との見方が多い。6回の核実験を行った用済みで不要な核実験場を廃棄しただけの可能性もある。核開発中止の保証はなく、北朝鮮は核を廃棄せず保有している。

 「朝鮮半島非核化のためにわが国が主導的に講じている極めて有意義かつ重大な措置」と強調し核実験場爆破を見せた北朝鮮。金桂寛(キム・ゲグァン)第1外務次官の16日の談話に続き、24日にも崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官の談話で、米朝首脳会談の再考を警告した。

崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官

 譲歩の姿勢を見せる一方、要求が受け入れられないと交渉決裂を繰り返してきた北朝鮮。その裏切りの前例から疑念を捨てていない米国を、北朝鮮は甘く見ていた。金正恩氏にとって、米国の即座の反応は予想外だったに違いない。

 追い込まれた金正恩氏としては、3月以降、2度訪問し関係改善に努めている中国から手を差し伸べてもらうしかない。選択肢は限られ、北朝鮮が中国への傾斜を強めるのは必至とみられる。

 今年、平昌五輪を機に韓国に接近し、南北首脳会談で笑顔を振りまいた金正恩氏だったが、局面は一気に変わり、窮地に追い込まれた。同時に北朝鮮をめぐる“つかの間の春”は暗転し、朝鮮半島情勢は混迷と緊張が再現しそうな状況となった。

【私の論評】正恩はオバマが大統領だった頃とは全く状況が違うということを見抜けなかった(゚д゚)!

今回の米国の反応は、予想どおりのものでした。これについては、以前何度か掲載してきした。一番新しいのは以下のものです。
米韓首脳会談、文氏「仲介」は完全失敗 トランプ氏は中朝会談に「失望」怒り押し殺し…米朝会談中止も―【私の論評】米国は北攻撃準備を完璧に終え機会をうかがっている(゚д゚)!
文大統領(左)と会談したトランプ大統領(右)。金正恩氏の勝手にはさせない

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみ掲載させていただきます。
いずれにせよ、金正恩が過去1年間で恐喝、融和、手のひら返しのような様々な策を弄しているうちに、米軍は目的、目標、期間、規模、効果の観点からありとあらゆる方式で北朝鮮を攻撃する方法をシミレーションならびに演習を通じて実行できる体制を整えているのは間違いないです。軍はすぐにでも行動に移せる状態になっていることでしょう。
現在の米軍の北朝鮮対応力は1年前から比較すれば、格段に向上しています。昨年は、北朝鮮の海域に空母打撃群を3つも派遣しながら、結局攻撃しなかったのは、準備が整っていなかったからです。

そもそも、政治や安全保障に経験がないトランプ氏が大統領になったばかりでしたし、米軍のほうは、オバマ政権による軍事予算の削減で、かなり弱体化していました。さらに、オバマ前大統領のいわゆる「戦略的忍耐」が追い打ちをかけ、米軍が北朝鮮を攻撃することを思いとどまらせました。

「忍耐」と言えば、その背後に高尚な戦略、ないしは哲学が控えていると受け取る楽天主義者がいるかもしれませんが、オバマ氏の「忍耐」の場合、どうやらその文字のごとく、もっぱら黙ってきただけです。もしオバマ氏が戦略的「忍耐」ではなく、関与政策を実施していたならば、金正恩ものんびりと核開発に専心できなかったでしょう。
オバマ前大大統領

北は2006年に最初の核実験に成功しました。それから着実に核の小型化、核弾頭搭載可能の弾頭ミサイルの開発、プルトニウム爆弾だけではなくウラン原爆にも手を広げ、水爆実験も実施しました。

これらのことが全て事実とすれば、北は11年余りで、核計画を急速に進展させたことになります。その11年間のうち8年間はそっくりオバマ前政権下でした。北の核開発問題ではオバマ政権の責任が問われる理由はまさにここにあるわけです。

もちろん、オバマ大統領は国連安全保障理事会を通じて北に制裁を課してきましたが、その政策は終始中途半端でした。オバマ政権は北が核開発を急速に進めている中、米独自の軍事的圧力の行使は控えていました。

金正恩氏は父親から“金王朝”を継承した後、計4回の核実験を実施しました。そして北の過去6回の核実験のうち、4回はオバマ政権下でした。北側からオバマ政権は軽く見られていたことが推測できます。「オバマなら口で批判するが、何もしない。軍事制裁など全く視野にないだろう」と受け取られてきたわけです。

オバマ政権の8年間は北がその核開発を急速に進歩させた期間と重なります。
2006年10月 9日 1回目の核実験。プルトニウム型
09年 5月24日 2回目。プルトニウム型 (同年オバマ政権誕生)
13年 2月12日 3回目。小型化成功と主張  (同年オバマ政権二期目に入る)
16年 1月 6日 4回目。水爆成功と主張
9月 9日 5回目。核弾頭爆発実験成功と主張
17年 9月 3日 6回目。大陸間弾道ミサイル(ICBM)弾頭部に装着する水爆実験成功と発表。
18年 1月 トランプ政権誕生
(出所・時事通信)
繰返しますが、「核の小型化」、「核弾頭爆発実験」、「水爆実験」、「ICBM用の水爆実験」といった核開発計画の重要ステップはオバマ氏が忍耐している最中、北側が着実に達成していった技術的成果です。

クリントン米政権時代の国防長官を務めたウィリアム・J・ペリー氏は昨年初め、オバマ政権の対北政策「戦略的忍耐」について、「核・ミサイル開発はむしろ進み、状況は悪化した」と指摘している一人です。

いかなる軍事活動にもそれを指示した指導者の責任が問われる。北朝鮮の核問題では、オバマ氏は「忍耐」という名でその責任を回避してきた大統領だったといえます。

オバマ政権ではない政権が米国に誕生したという事実が、米国の対北朝鮮政策を根本的に変えたてのです。ただし、過去の1年間は、先に述べたように、政治や安全保障に経験がないトランプ氏が大統領になったばかりであったこと、軍事予算の削減で米軍がかなり弱体化していたこと、オバマ前大統領の「戦略的忍耐」による負の遺産により米軍が北朝鮮を攻撃することを思いとどまらせただけだったのです。

もしオバマ大統領が「戦略的忍耐」で責任を回避せず、本格的な制裁や、軍事制裁を検討していたとしたら、金正恩は今そこにある危機に対応するため、核兵器開発など後回しにし、通常兵力を強化していたに違いありません。

ところが、オバマの「忍耐」を良いことに、金正恩は通常兵器の強化は後回しにして、核兵器の開発に多くの資源を割当あてました。

そのため、現状の北朝鮮軍の通常兵器はかなり遅れています。まずは、防空体制ゼロといっても良いような状況になっています。北朝鮮のレーダーは40年前のもので、これでは現在のステルス機に対しては全くの無防備です。

戦闘機も、40年前からほとんど新しいものは導入されておらず、かつて中東上空や、ベトナム上空で米軍など先進国の空軍ととわたりあったこともある北の面影は今は全くありません。


たとえば、上は北朝鮮空軍の防空訓練の様子を撮影したとされる写真です。撮影日時、場所は不明です。写っている軍用機は、旧ソ連製のMIG21戦闘機とみられます。MIG21は1956年に初飛行し、東西冷戦時代には東側の主力戦闘機となった代物です。北朝鮮空軍ではこの古い機体が今でも使われています。

陸軍も、装備は貧弱で50~60年代のものが主力となっており、なかには第二次世界大戦で運用された兵器もあります。

個人装備もベトナム戦争で南ベトナム解放戦線(ベトコン)がアメリカ軍を相手に使ったAK-47が主力のようです。

ただし、数は多く、旧式といえども戦車だけでも3000両以上を保有しており、数だけならば自衛隊の定数300両を大幅に超えます。しかし、数が多くても、米韓軍の敵ではありません。

なぜこのようなことになったかといえば、核兵器の開発に力を奪われ、通常兵力の整備がおろそかになったからです。

実際に、通常兵力同士の戦いになったとしたら、北朝鮮には全く勝ち目はありません。頼みの綱の核兵器は、実際に使えば、米国に北核攻撃の格好の口実を与えることになり、おいそれと使えるものではありません。

それでも、国家破綻の淵に追い込まれれば、使う可能性もありますが、その兆候がみられれば、今や北朝鮮の情報に隅々まで精通した米軍により発射の前に叩かれてしまうことでしょう。叩きもらしも若干でるかもしれませんが、発射された核ミサイルも撃ち落とされる可能性は高いです。

金正恩は戦略を誤りました、昨年米軍が北を攻撃しなかったため、事態を軽くみてオバマが大統領だった1年前とは全く状況が違うということを見抜けませんでした。

一方米朝首脳会談が中止されたことで、アメリカは中国への圧力をさらに強めることになるでしょう。すでに貿易摩擦に発展している中興通訊(ZTE)への制裁に関しても、トランプ大統領は最大13億ドルの罰金を科すとともに経営陣の刷新を求める案を明らかにしています。

ウィルバー・ロス商務長官はアメリカ側が選んだ人物をZTEに送り込み、同社に法令順守部門を設置させる可能性も示唆しています。中国としては、アメリカによる査察体制の受け入れを許せば他業種にも波及する恐れがあるため、この条件はのみたくてものめないでしょう。

それに先立って行われた米中通商協議では、中国がアメリカの製品やサービスの輸入を大幅に増やすことで合意しましたが、アメリカが求めていた対米貿易黒字の2000億ドル削減については具体策な言及がなく、成果は乏しいものでした。

中国としてはZTEの制裁を緩和してもらいたいのはやまやまでしょうが、米議会が強硬に反対している以上は望み薄です。そこで、輸入拡大でお茶を濁しているという苦しい事情が見て取れます。

アメリカの国防権限法案には先端技術を保有する企業同士の買収を禁じる項目なども入っており、このままいけば、かつての対共産圏輸出統制委員会(ココム)のような仕組みがつくられる可能性もあるでしょう。

冷戦期に自由主義陣営を中心に構成されたココムは、共産圏諸国への軍事技術や戦略物資の輸出規制を目的とした組織です。すでにアメリカは知的財産権の侵害を理由に中国製品に対する制裁を進めていることからも、今後は中国を狙い撃ちにするかたちの21世紀版ココムがつくられたとしてもおかしくないです。

ココムというと、日本では東芝機械ココム違反事件が有名です。これは、1987年に日本で発生した外国為替及び外国貿易法違反事件です。共産圏へ輸出された工作機械によりソビエト連邦の潜水艦技術が進歩しアメリカ軍に潜在的な危険を与えたとして日米間の政治問題に発展しました。

習近平(左)と金正恩(右)

このような厳しい規制がさらに強化され制裁の次元に高まれば、中国経済はガタガタになります。そうなると、中国とて北朝鮮の後見をしたとしても、自国が苦しむだけになります。北朝鮮に肩入れすることはやめることになるでしょう。

いずれにしても、米中が本格的貿易戦争ということになれば、中国には全く勝ち目はありません。であれば、中国はいずれ北を完璧に見放すことになるでしょう。そのとき北朝鮮の命運は完璧に絶たれることになるでしょう。

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