2025年8月31日日曜日

メディアに守られた面妖な首相、三度の敗北を無視した石破政権が民主主義を壊す


まとめ
  • タイのペートンタン・シナワトラ首相は通話録音流出を発端としたスキャンダルで2025年8月29日に憲法裁判所により失職し、司法と政治の対立を示す事例となった。
  • 日本には首相を直接解任する制度がなく、内閣不信任案や政治圧力に依存する現状は、国民の意思を十分に反映できない弱点となっている。
  • 石破茂首相は三度の選挙敗北後も続投を宣言し、これは憲政史上初の異常事態である。一部メディアはこれを擁護し、民主主義を軽視する姿勢を見せている。
  • 自民党内には総裁選の前倒しや両院議員総会による退陣勧告など、首相辞任を促す制度があるが、実効性には疑問も残る。
  • 英独の制度を参考に、不信任決議時に次期候補を同時提示する「建設的首相交代制度」を導入し、レームダック化や政治混乱を防ぐ改革が求められる。
🔳タイ首相解任劇が突きつけた教訓
 
タイのペートンタン・シナワトラ元首相

2025年8月29日、タイのペートンタン・シナワトラ首相が憲法裁判所の判断により失職した。辞任ではなく裁判所の命令による解任であり、タイ国内外に衝撃を与えた。彼女は2024年8月、タイ史上最年少で2人目の女性首相として就任したが、シナワトラ家の強大な影響力を背負いながらの政権運営は短命に終わった。

発端は、2025年6月に流出したカンボジアのフン・セン元首相との通話録音だった。「おじさん」と呼ぶ親密なやり取りや、タイ軍高官への批判が含まれていたため国家の威信を損なったと非難が集中。これを契機に連立政権の要だったブムジャイタイ党が離脱し、政権は危機に陥った。7月1日、憲法裁判所は7対2で首相の職務を停止。8月29日、6対3で「国家利益より私情を優先した」と断じ、失職が確定した。この一連の流れは、司法と政治が鋭く対立しながらも機能した例として国際的な注目を集めた。

🔳石破政権が示す日本政治の異常事態
 
一方、日本では首相を裁判で解任する制度は存在せず、議院内閣制の下で首相は国会の信任に基づいて選出される。首相の辞任は内閣不信任案の可決や与党内の圧力、刑事責任の追及など政治的プロセスで行われてきた。田中角栄元首相もロッキード事件での辞職は司法判断によるものではなく、政治的圧力による決断だった。

米国や韓国のような大統領制国家では、議会が法的手続きを経て国家元首を解任できる「弾劾制度」がある。米国では下院が訴追し上院で審理、有罪なら罷免される仕組みだ。リチャード・ニクソン元大統領は弾劾審理開始前に辞任し、ビル・クリントン、ドナルド・トランプ両氏は訴追されたが罷免を免れた。韓国では朴槿恵元大統領が国会で弾劾され、憲法裁判所の判断で罷免された。こうした仕組みは大統領の強大な権限を抑制するための法的装置だ。
 
2020年トランプ大統領は弾劾裁判で無罪となった

しかし日本には弾劾制度がない。理由のひとつは、こうした制度が政争の道具になりやすいからだ。実際に、韓国では大混乱を招いている。だが、今の日本政治はそれ以上に深刻な危機に直面している。石破茂首相は三度連続の選挙敗北(うち二つは国政選挙)にもかかわらず辞任を拒み続投を表明した。これは日本憲政史上初の異常事態であり、彼の政治姿勢の異常性を鮮明に示している。従来、日本では選挙の結果が首相や政権の正統性を直ちに左右し、敗北した首相や総裁は責任を取って辞任するのが常識だった。その慣習を無視する行為は国民の意思を軽視し、議会制民主主義の根幹を揺るがす暴挙である。さらに一部のマスコミは「石破首相は辞める必要はない」というキャンペーンを張り、選挙結果を軽視する報道を続けている。権力監視という報道機関の使命を放棄し、世論操作に加担する姿勢は民主国家において看過できない。

自民党内には首相や総裁を辞任に追い込むための制度も整備されている。党則により国会議員や地方組織の過半数の要求で総裁選を前倒しできるほか、党所属議員の三分の一以上の要請で「両院議員総会」を開き、退陣勧告を突きつけることが可能だ。法的弾劾がなくても、党内の仕組みを使えば現職首相に対抗できる余地は十分にある。

それでも石破首相は「選挙で敗れた総裁は辞任する」という長年の自民党慣例を破り、総裁の座に居座った初の人物である。この前例は党内統治の根幹を揺るがし、自民党総裁でない人物が首相に就くという事態を現実化させる恐れすらある。その結果、政権は完全にレームダック化し、政治の停滞、外交的信用の失墜、国民の不信拡大など計り知れない悪影響をもたらすだろう。
 
🔳日本に必要な「建設的首相交代制度」
 
日本は今こそ首相の責任を制度的に問う新たな仕組みを整えるべきだ。米国や韓国の弾劾制度のような政争の温床になりかねない制度ではなく、英国やドイツの制度に学ぶ道がある。英国は議会の信任が揺らげば即座に不信任投票を行い、可決されれば首相交代に進む。ドイツはさらに踏み込み、「建設的不信任案」によって次期首相候補を同時に提示し、政治空白を回避している。「反対」だけでなく「誰を据えるか」という合意を形成することで、不信任案が単なる政争に終わらず、合理的で安定した政権交代を実現するのだ。

ヘルムート・シュミット首相(当時)

ただし、英国ではこれによって辞任した首相は存在しない。ドイツではただ一つ1982年10月1日、当時の西ドイツで行われた歴史的な出来事が唯一だ。この日に、議会(ブンデスターク)はヘルムート・シュミット首相に対して「代替候補を同時に提示する建設的不信任案」を可決し、新たにヘルムート・コール氏を首相に選出した。これはドイツ連邦共和国史上唯一、首相が建設的不信任案によって交代したケースだ。

日本でもこれを応用し、首相への不信任決議時に次期候補を提示する「建設的首相交代制度」を法制度化すべきだ。党総裁と首相の地位の連動を法的に明確化し、慣例崩壊による正統性の揺らぎを防ぐことも必要だ。この制度は議院内閣制の枠組みを補強し、国民の意思を制度的に担保しつつ迅速で安定的な政権交代を可能にする改革案となる。

首相を辞任に追い込む明確な制度を整えることは、政治の停滞と混乱を防ぎ、国民の信任を取り戻す鍵である。石破政権の前例が放置されれば、権力の正統性は崩れ、政権は完全なレームダック化に陥る。いま必要なのは、この危機を乗り越えるための制度改革である。ただし、このような制度が作られたにしても、英国のように一度も実施されないことの方が、望ましいことは言うまでもない。

【関連記事】

石破政権は三度の選挙で国民に拒絶された──それでも総裁選で延命を図る危険とナチス悪魔化の教訓 2025年8月25日
石破政権は三度の選挙で国民から退場を突きつけられたが居座り続けようとしている。ナチス台頭期の「合法性を偽装した権力掌握」から何を学ぶべきか。痛烈な歴史からの警鐘を届ける論考。

参院過半数割れ・前倒し総裁選のいま――エネルギーを制する者が政局を制す:保守再結集の設計図 2025年8月24日
参院過半数割れと前倒し総裁選のいまを検証。エネルギー安全保障を軸に、LNG→SMR→核融合の三層戦略と保守再結集の筋道を示す。

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 2025年8月22日
外交の視点から石破政権の戦略的脆弱性を浮き彫りにした記事。

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然 2025年8月18日
党内勢力構造と総裁選の裏側、保守派再結集の構図を整理した興味深い論考。

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来 2025年6月8日
現政権の選挙敗北と保守再編の潮流が鮮明に描かれた分析記事。

2025年8月30日土曜日

日本のF-15J、欧州へ! 日英の“空の連携”がいよいよ実戦仕様になる


まとめ

  • 公式確認:英防相スピーチと日英共同声明が、日本戦闘機の欧州(英国拠点)展開と「数週間以内」の時間軸を明示した。
  • 狙い:相互運用性の実地検証、RAAの運用確認、GCAPに直結する運用知見の獲得。
  • 訓練:英本土のRAFロジーマス、RAFコンニングズビーなどQRA拠点で、スクランブル~識別~離脱の手順を共通化。
  • AAR前提:F-15Jはブーム受給、英空軍ボイジャーはプローブ&ドローグ専用のため、USAFのKC-135/46やMMFのA330MRTT(ブーム)を活用。
  • 実利と意義:受給回数・オフロード量・滞空延伸、Link 16共有率・遅延、QRAのタイムライン、TATや補給リードタイム、RAA通関所要、GCAP“差分抽出”で成果を数値化。日本戦闘機の欧州展開は初で、海(POW寄港)と空(F-15J展開)で協力を常態化する。

今回の記事、専門的な言葉も多く使用してしまい、読書に読みにくい印書を与えるかもしれない。用語に関しては、文末に「用語の簡潔な説明」に簡潔に説明したので、それを参考にしていただきたい。結局このブログ記事の趣旨は、日英の連携強化の政治の言葉を現場の運用で裏打ちする動き(日本の戦闘機の欧州展開)があることを強調するものである。

🔳決定事項と背景
 
日本の戦闘機が欧州に向かう。英国防相ジョン・ヒーリーが東京のパシフィック・フューチャー・フォーラムで「今後数週間のうちに、日本のF-15が英国を拠点に欧州へ展開する」と明言した。日英防衛相の共同声明も「日本の戦闘機と輸送機による、英国を含む欧州への将来の展開を歓迎」と書き込んだ。これは憶測ではない。英政府の一次情報が裏づける既定路線である。

中谷防衛相は28日、英国のジョン・ヒーリー国防相と防衛省で会談し、両国の安全保障協力の拡大を盛り込んだ共同声明を発表した。日英の防衛相会談で共同声明を出すのは初めてで、インド太平洋地域で覇権的な動きを強める中国をけん制する狙いがある。
背景には、英空母「HMSプリンス・オブ・ウェールズ」の東京寄港がある。英海軍は今回の長期展開をオペレーション・ハイマストと名づけ、来日を大きく打ち出した。主要通信社も「前例のない安全保障協力の水準」と評している(ReutersAP)。インド太平洋と欧州大西洋はつながっている――両政府はそう示したのである。

🔳狙いと運用の要点
 
今回の欧州派遣の狙いは三つに絞られる。第一は相互運用性の実地検証だ。指揮系統、戦術無線、Link 16(NATO標準の戦術データリンク)まで、現場の“癖”を合わせ込むには、同じ空で飛ぶしかない。第二はRAA(相互アクセス協定)の運用である。相手国内での共同訓練に伴う出入国・装備搬入・税関・法的地位といった手続きを簡素化する枠組みで、日英では2023年1月に署名2023年10月に発効した。第三はGCAP(次期戦闘機共同開発)への波及だ。現場の知見は要件定義、試験・評価、ソフト更新に直結する。これらの方向性はすべて共同声明が示している。

実際の訓練像も見えてくる。英国本土のQRA(Quick Reaction Alert=領空警戒即応、平時から24時間365日、数分〜十数分で発進)を担うRAFロジーマスRAFコンニングズビーで、要撃の標準手順を短時間で擦り合わせるのが近道だ。QRAの仕組み自体は英空軍の公式解説が詳しい。ここで「スクランブル→識別→離脱」の流れを共通化できれば、運用の“合格証”を早期に手にできる。

イラク上空で給油をおこなう英国の給油機

一方で、空中給油(AAR)には技術仕様の違いがある。F-15Jはブーム受給(給油機の硬いパイプ=フライング・ブームを機体の受油口に差し込む方式)だが、英空軍の主力タンカーボイジャーはプローブ&ドローグ方式(受油側の細いプローブを、給油機のホース先端のドローグ=バスケットに差し込む方式)に特化し、ブームを装備していない。構成は英空軍のボイジャー解説に明示がある。ゆえに欧州でのF-15Jへの給油は、米空軍のKC-135/46や、ブーム装備のA330MRTT(MMFなど)を組み合わせるのが筋だ(運用上の制約はKCL War Studiesの分析ペーパーも参照に値する)。
 
🔳実利の可視化と今後

では、この派遣は日本にどれほどの“実利”を運ぶのか。ここは数字で可視化する。空中給油は受給回数・平均オフロード量・滞空延伸で手応えを測る(方式差は上記のとおり)。データ連接は英側C2とのトラック共有率・遅延で評価する。QRA手順はスクランブルから識別までのタイムラインと誤警戒率で見る。海空の複合作戦(COMAO=多種機が役割分担して同時進行する複合航空作戦)なら、電子戦環境での隊形維持率・任務成功率を演習ごとに残す。整備面はTAT(ターンアラウンド時間)と補給リードタイムを欧州条件で測る。制度面はRAAの入出国・通関所要でボトルネックを洗う。そしてGCAPは、今回の共同運用から得られる**“差分抽出”件数**(センサー融合・通信仕様の改善点)でカウントする。これらは共同声明の方針に沿う“現場の物差し”である。

QRAとは何かを最後に押さえる。QRAは領空警戒の即応態勢だ。監視・識別・指揮のハブであるCRC(管制警戒所)からの通報で、戦闘機が短時間で上がり、識別・警告・誘導を行う。英国では前述のロジーマス、コンニングズビーが中核を担い、仕組みは英空軍のQRA解説に沿って運用されている。日本も同趣旨のスクランブルを常時実施し、2023年度の実績は669回だった(防衛省の公表資料参照)。


歴史的意義は重い。日本の戦闘機が欧州に展開すれば初だ。長距離フェリー、在外整備、保安・保険、契約実務まで、遠隔地航空作戦に必要な総合力が鍛えられる。英側ではすでに英F-35Bの「かが」発着が実現し、その点も共同声明に明記されている。海の相互運用に空の循環が加われば、日英協力は“示威”から“常態”へ踏み込む。

なお、日本側の時期・基地・規模は未公表だが、英防相スピーチは「数週間以内」と時間軸を示し、共同声明も政策枠を固めた。正式発表が出次第、さらに当ブログに掲載する。

最後に要約する。英空母の東京寄港という“海のシンボル”に呼応し、日本のF-15Jが“空のシンボル”として欧州へ渡る。政治の言葉を現場の運用で裏打ちする動きであり、この記事で訴えたかったのはまさにこの一点である(寄港の一次情報はRoyal Navy公式、全体の政策枠は英政府一次資料が担保する)。

主要ソース


用語の簡潔な説明
  • ブーム受給:給油機の硬いパイプ(フライング・ブーム)を受油口に差し込んで燃料を受ける方式だ。F-15やF-16などが採用する。

  • プローブ&ドローグ:受油側が細いプローブを伸ばし、給油機のホース先端の**ドローグ(バスケット)**に差し込んで受ける方式だ。タイフーンやF-35Bなどが採用する。

  • AAR(空中給油):飛行中に燃料を補給する運用の総称だ。方式は大きくブームプローブ&ドローグの二つがある。

  • QRA(Quick Reaction Alert):領空警戒の即応態勢だ。24時間365日、短時間(一般に数分〜十数分)で戦闘機を発進させ、識別・警告・誘導を行う。

  • CRC(Control and Reporting Centre):レーダー監視・識別・指揮を担う管制警戒所だ。QRA発進の指令中枢になる。

  • COMAO(Composite Air Operation):多種類の航空機が役割分担して同時に作戦を行う複合航空作戦だ。

  • Link 16:NATO標準の戦術データリンクだ。友軍位置や目標情報をリアルタイム共有する。

  • RAA(相互アクセス協定):共同訓練などで相手国に出入りする部隊の法的地位・装備搬入・通関手続を簡素化する協定だ。

  • GCAP(Global Combat Air Programme):日英伊の次期戦闘機共同開発計画だ。運用知見が要件定義や試験に直結する。

  • KPI:「重要業績評価指標」(Key Performance Indicator)の略で、組織の大きな目標達成に向けたプロセスの進捗状況を数値で測定するための中間目標指標のこと。

【関連記事】

東京寄港の背景と狙いを整理。日英協力の地政学的意味を押さえ、今回のF-15J欧州展開の文脈がつながる。

 AUKUS・中国・台湾・インドの潜水艦動向を俯瞰。海の抑止の要を整理し、空の連携との補完関係を示す。

FOIPの再評価と外交資源の配分を論じ、対中抑止を軸に据えるべき理由を提示する。

欧州発の“力の空白”がアジアへ波及するリスクを解説。日英連携強化の必要性を裏づける視点。 

前方配置・即応体制の実像から、日本が学ぶべき抑止の原則を抽出。多域連携の具体像を描く。

2025年8月29日金曜日

英国空母、初の東京寄港 日英はランドパワー中露を睨む宿命の同盟国だ



まとめ
  • 2025年8月28日、英国空母HMSプリンス・オブ・ウェールズが初めて東京港を防衛外交の一環として訪問し、日本の国際的地位や日英関係の深化を世界に示した。
  • この派遣は欧州からアジアまで展開する「オペレーション・ハイマスト」の一環で、12カ国・約4,000人規模のキャリア・ストライク・グループに所属し、多国間連携と戦力投射を象徴した。
  • 日本とイギリスはユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家であり、ロシアや中国といった大陸勢力に対抗してきた歴史を共有し、戦略的理解を深めやすい関係にある。
  • 1923年に日英同盟が解消され日本は孤立し、イギリスも極東戦略に空白を生んだとされるが、維持されていれば第二次世界大戦や両国の権益は大きく変わった可能性があると歴史家らは指摘している。
  • HMSプリンス・オブ・ウェールズの東京寄港は単なる友好訪問ではなく、日英の歴史的絆と未来志向の協力を象徴し、両国は戦略的関係をさらに強化すべきことを示している。
🔳東京港を揺るがす歴史的寄港と多国間連携の象徴
 

英海軍の空母HMSプリンス・オブ・ウェールズは2025年8月28日、初めて東京港に寄港した。外国空母が防衛外交の一環として東京港を公式訪問したのは史上初である。戦後直後の占領期には米海軍の空母ヨークタウンやハンコックが東京湾に入港した例があるが、主権国家となった日本の首都港に平時に友好国の空母が寄港するのは極めて画期的だ。

この派遣は「オペレーション・ハイマスト」と名付けられた戦略任務の一部であり、欧州からアジアまでの長期展開を通じて英国のインド太平洋関与を示した。プリンス・オブ・ウェールズは12カ国・約4,000人規模のキャリア・ストライク・グループ(CSG)に所属し、空母を中核とした多国間戦力の象徴となった。CSGは護衛艦、潜水艦、補給艦を組み合わせた洋上戦闘部隊で、国際的な戦力投射と連携強化の象徴でもある。
 
🔳演習で示された日英連携能力と外交的意義
 

寄港に先立ちフィリピン海で日米を含む多国間演習が実施され、対潜・防空・補給作戦のほか、英国F-35B戦闘機が日本の護衛艦「かが」に着艦するクロスデッキ訓練も行われた。これは日英間の戦術的連携の高さを世界に示す歴史的成果だ。

艦上では「パシフィック・フューチャー・フォーラム(PFF’25)」や防衛産業関係イベントも開かれ、サイバーや宇宙、先端技術などでの日英協力が加速した。中谷元防衛相は「日英の安全保障協力は前例のない水準に達した」と語り、ジョン・ヒーリー英防衛相も「インド太平洋と欧州大西洋の安全は不可分だ」と強調。プリンス・オブ・ウェールズの東京寄港は、単なる友好訪問を超えた安全保障メッセージとなった。
 
🔳歴史の教訓が示す「運命の同盟」
 
日英両国は地政学的にユーラシア大陸の両端を守る海洋国家

日英両国は地政学的にユーラシア大陸の両端を守る海洋国家であり、歴史的にロシアや中国といったランドパワーを牽制する宿命を背負ってきた。19世紀には英国が中央アジアでロシア帝国と対立した「グレート・ゲーム」を展開し、日本も日露戦争や満州国建国を通じてソ連と緊張関係を維持した。こうした歴史を踏まえると、日本の行動は英国にとって理解しやすく、米国などとは異なる視点で共感し合える関係が築かれてきたといえる。

1902年に締結された日英同盟は日本の国際的地位向上に寄与したが、1923年に解消され、英国は極東での戦略的パートナーを失った。歴史家の伊藤之雄氏やイアン・ニッシュ氏は、この決断が日本の孤立と英帝国の極東戦略の崩壊を招いたと指摘している。もし同盟が維持されていれば第二次世界大戦の様相は大きく変わり、日本も外交交渉を通じて破滅的な敗戦を避けられた可能性がある。

共通の脅威にさらされてきた日英両国にとって、関係強化は歴史的必然だ。プリンス・オブ・ウェールズの寄港は、その必然性を示す行動であり、日英が再び世界秩序を支える同盟国となるべきことを力強く物語っている。

【関連記事】

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 2025年8月22日
安倍晋三元首相のインド太平洋戦略を軸に、石破茂首相のアフリカ経済圏構想を比較検証。日英を含むシーパワー同盟の地政学的価値を再認識できる内容。

日印が結んだE10系高速鉄道の同盟効果──中国『一帯一路』に対抗する新たな戦略軸 2025年8月15日
日印協力による高速鉄道プロジェクトがもたらす経済・安全保障のインパクトを解説。中国の覇権構想「一帯一路」に対抗する新戦略の一環として重要。

米露会談の裏に潜む『力の空白』—インド太平洋を揺るがす静かな地政学リスク 2025年8月16日
米露対話の表舞台の陰で、インド太平洋の安全保障に深刻な影響を与える「力の空白」が生じていることを警告。日英連携の必要性を裏付ける視点が得られる。

外交部「台湾海峡は国際水域」 中国の主張を非難 2022年6月14日
台湾有事リスクが高まる中、日本の防衛戦略の鍵は中長距離ミサイルの独自開発・配備にあると論じた記事。中国の覇権的動きを鋭く批判。

インド太平洋に同盟国合同の「空母打撃群」を 2021年5月21日
インド太平洋の安全保障を左右する「空母打撃群」の戦略的重要性を徹底解説。日本も日英米と連携し、ランドパワーに対抗する海洋戦力を持つべきだという提言。

2025年8月28日木曜日

米国で暴かれた情報操作の闇、ロシアゲートの真実を報じぬ日本メディア


まとめ

  • 米国ロシアゲートは司法・議会・報道の検証で「政治的プロパガンダ」であった可能性が高まり、情報機関の政治利用やFISA制度の乱用が明らかになった。
  • 英国元スパイのスティール文書は裏付けに乏しい虚偽情報でありながら監視令状の根拠となり、その政治利用が公式に確認された。
  • 石破政権は政策の迷走や外交方針の失敗で選挙に連敗しながら続投し、メディアは「裏金」「統一教会」「外国介入」問題を強調して責任転嫁している。
  • 2025年参院選でX(旧Twitter)が複数アカウントを凍結し、平将明デジタル大臣が外国勢力介入の報告を公言。こうした事実を盾にした世論操作の危険性が米国ロシアゲートと重なる。
  • 日本メディアはロシアゲート再評価をほぼ報じず、政権擁護的論調が目立つため、筆者は海外報道を重視し。読者もAI翻訳を活用し、海外情報を直接得るべき。
🔳ロシアゲートの崩壊と制度的再評価

2016年の米大統領選で広まった「ロシア疑惑(ロシアゲート)」は、いまや政治的物語の枠を超え、司法・議会・報道が動員される大規模な制度的検証へと姿を変えている。当初、民主党やリベラル系メディアは「トランプ陣営がロシアと共謀し選挙を不正に勝ち取った」という物語を繰り返し報じ、世界中の世論を煽った。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、CNNなどは疑惑を「確定的事実」のように描き、政権初期のトランプを不信の渦に追い込み、米国の分断を一気に深めた。

「ロシア疑惑(ロシアゲート)」は米国では過去に確定的事実のように報道された

しかし、その後の調査で事態は一変する。2023年以降、司法省による独立調査や議会公聴会、さらに2025年夏の段階的な機密文書公開によって、この疑惑の土台は崩れ去った。ロシアゲートは事実ではなく、政治的意図を帯びたプロパガンダであった可能性が濃厚になったのだ。

2025年7月、国家情報長官(DNI)トゥルシー・ギャバードは2017年作成の「情報コミュニティ・アセスメント(ICA)」の関連文書を三度に分けて公開した。この公開で明らかになったのは、CIAやNSAがごく一部の情報を恣意的に重視し、異論を排除したまま「ロシアはトランプを支持した」という結論を作り上げた事実である。政治圧力が影を落とした報告書だったことが、初めて公式記録で示されたのだ。

司法省も動いた。パム・ボンディ司法長官は同年8月、大陪審を招集し、FBIの「クロスファイア・ハリケーン」捜査の起源やFISA令状申請の適法性を徹底的に洗い出した。ロシアゲートは単なる党派対立の材料から、国家司法制度による正式な調査対象へと格上げされた。

さらに、ジョン・ダーラム特別検察官の報告書付録がチャック・グラスリー上院司法委員長の要請で機密解除された。この付録には、ヒラリー・クリントン陣営が「トランプをロシアと結び付ける工作計画」を進めていた疑惑や、FBIが虚偽記載を含むFISA令状更新を繰り返した事実が明記されていた。議会の報告書は、当時の情報評価が限られた証拠に依拠し、意図的な情報操作があったことを指摘した。

トゥルシー・ギャバード(Tulsi Gabbard)国家情報長官は評価作成に関わった37名の情報高官のセキュリティクリアランスを剥奪した。CIAはこれを「報復」と非難したが、政権側は「情報機関の政治利用を正すための措置だ」と断じた。ロシアゲートは、国家権力を使った情報戦争の象徴として、その真相が白日の下にさらされつつある。
 
🔳スティール文書とFISA制度に潜む政治利用

ロシアゲートの核心を握るのが、英国元スパイ、クリストファー・スティールの手になる「スティール文書」だ。この報告書は民主党寄りの調査会社Fusion GPSの依頼を受けて作成された。文書は、トランプ陣営がロシア政府と裏で癒着していたと断定し、メディアや議員の間で「動かぬ証拠」として扱われた。

だが2017年、FBIが情報源に直接接触した結果、この内容は伝聞や二次情報に基づくもので、裏付けがほぼ皆無であることが判明した。にもかかわらず、FBIはこの文書を基にFISA令状を取得し、カーター・ペイジ元陣営顧問らへの監視を正当化した。

クリストファー・スティール

2019年、司法省監察官マイケル・ホロウィッツの報告書は、申請過程での誤りや情報省略を明確に指摘し、スティール文書の信頼性を完全に否定した。Fusion GPS(米国ワシントンD.C.に本拠を置く調査・リサーチ会社)関係者の虚偽証言やBuzzFeed(米国のインターネットメディア、および同ウェブサイトを運営する企業)を相手取った訴訟の結果も、この文書が政治的プロパガンダだったことを裏付けた。

2017年8月にはFusion GPS共同創業者グレン・シンプソンが議会で「スティール文書はFBI捜査の起点ではなかった」と証言。2018年にはジェームズ・コミー元FBI長官が「ほとんど裏付けられていない」と述べ、ダーラム特別検察官は「証拠は皆無」と断言した。さらに「クロスファイア・ハリケーン」内部記録公開で、情報機関が政治圧力で判断を歪められていた事実が公式に裏付けられた。

FISA(外国情報監視法)は1978年制定の法律で、外国勢力やその関係者を秘密裏に監視する制度だ。国家安全保障の名の下に透明性が低く、監視の乱用リスクが極めて高い。ロシアゲートでは、この制度の仕組みが政治闘争に利用され、国家権力の危うさを世界に示す事例となった。
 
🔳日本の石破政権と「日本版ロシアゲート」

米国の教訓は、日本の現状にも重なる。2024年以降、自民党は衆院選、都議選、参院選と連敗を重ね、2025年には参院で少数派に転落した。それでも石破茂首相は辞任せず、続投を強行した。

政権の敗因は明白だ。左派リベラル寄りの政策、親中外交、外国人政策の緩和、財政・金融政策の不透明さなど、根本的な問題が山積している。しかし党執行部と主要メディアは政策批判を避け、「裏金問題」「統一教会問題」を前面に押し出し、保守派攻撃に利用している。これは米国でロシアゲートが「トランプ=ロシア共謀説」を政治的攻撃の旗印にした構図と酷似している。

さらに、選挙敗北の原因を「外国勢力の介入」や「SNSの工作」に転嫁する言説も増えた。2025年参院選ではX(旧Twitter)が複数のアカウントを凍結し、平将明デジタル大臣が『外国から介入された事例の報告がある』と公言した。総務省・デジタル庁の合同会見で明らかになったのは、海外IPアドレスを利用した情報操作の具体的痕跡である。

慣例をやぷって続投しようとする石破首相

TBSやNHKも「不自然なバズり」「世論操作の兆候」を報道し、産経新聞はセキュリティ企業SolarComの調査を引用。選挙期間中、150万人規模のフィッシング攻撃が確認され、中東系開発者の関与が疑われると報じた。

こうした脅威は事実だが、問題はそれが敗北の責任転嫁や物語づくりに利用される危険である。ロシアゲートも「選挙不正の象徴」とされながら、その後に政治的プロパガンダだったことが明らかになった。日本も同じ道を歩む恐れがある。

現在、政府はナショナルサイバーセキュリティーオフィスの強化や情報対策会議で防衛策を進めている。しかし、これが政権の失策隠蔽や保身の盾として使われれば、国民の信頼は失墜するだろう。

ロシアゲートの本質は、サイバー攻撃や外国勢力の脅威そのものではなく、それを政治的道具にした情報戦にある。日本でも「裏金」「統一教会」「外国介入」などの言葉が乱れ飛び、政策失敗が曖昧化されている。SNSやサイバー攻撃の実態が政権の盾になれば、民主主義の根幹は崩壊しかねない。

ロシアゲートは国家機関の政治利用を示す象徴だ。米国ではスティール文書とFISA制度の乱用が暴かれ、司法と議会が徹底検証を進めている。一方、日本では石破政権の政策失敗が「裏金」「統一教会」「外国介入」という物語に置き換えられつつある。

しかし、この米国でのロシアゲート再評価と真相解明は、日本国内ではほとんど報じられていない。むしろ日本のメディアは、石破政権の失政を覆い隠すかのような報道ばかりを繰り返している。だから私は、官報や議会資料などの一次情報は閲覧するが、日本のマスメディアはほとんど見ない。と言うより、あまり稚拙で見ていられない。

代わりに海外メディアを中心に情報を追っている。外国メディアも偏向や誤報はあるが、それでも日本メディアよりは情報の多様性と透明度が高い。特に保守系メディアは、日本国内ではほとんど触れられない重要情報の宝庫である。最近の私のブログでの引用記事の多くが海外報道であるのもそのためだ。

今では生成AIの翻訳機能で日本語化は容易である。だからこそ皆さんも日本の大手報道だけでなく、海外メディアを直接読み、多角的に情報を得るべきと思う。そうして初めて、国家の情報操作やメディア戦略に惑わされない視点を持つことができるだろう。

【関連記事】

石破政権は三度の選挙で国民に拒絶された──それでも総裁選で延命を図る危険とナチス悪魔化の教訓 2025年8月25日
連続敗北にもかかわらず続投する政治判断を批判し、正統性の問題を提起。米国ロシアゲートの“物語で本質を覆う危険”との対比材料になる。

石破茂「戦後80年見解」は、ドン・キホーテの夢──世界が望む“強い日本”と真逆を行く愚策 2025年8月6日
政策の方向性と国際潮流のずれを具体的に論じる。メディアが本質論から目を逸らす構図の検証に有用。

外国人問題が参院選で噴出──報じなかったメディアと読売新聞の“異変”、そして投票率操作の疑惑 2025年7月16日
参院選2025で「外国人問題」が大争点化したのに、大手メディアの論点設定が偏っていた事例を検証。今回の本稿で指摘した“責任転嫁の物語化”と直結する。

『WiLL』と『Hanada』の成功の裏側:朝日新聞批判から日本保守党批判への転換と商業メディアの真実 2025年6月12日
いわゆる“保守系メディア”の商業構造と論点の移り変わりを分析。国内報道だけに依存しない情報摂取の必要を裏付ける。

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使―【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男 2025年4月2日
米ロ関係の水面下の駆け引きを通じて、ロシアゲート以降の“情報戦”の実相を読み解く素材。国際面から本稿テーマを補強。

2025年8月27日水曜日

ナイジェリア誤発表騒動が突きつけた現実──移民政策の影で国民軽視、緊縮財政の呪縛を断ち切り減税で日本再生を


まとめ

  • ナイジェリア政府の誤発表は、移民政策への不安を映す象徴的事件であり、地方では外国人比率が20〜30%に達する地域もある。
  • ビザ緩和の事実はなかったが、誤解が拡散し国民の政治不信を深めた。
  • 欧米は国境管理強化や減税を進め、国民優先政策に回帰している。
  • IMF・OECDは減税の効果を1円で1.3〜1.6円のGDP押上げとし、消費税増税時の急落もその証左。
  • 財務省主導の緊縮策が停滞を招き、日本保守党は減税と国内投資での成長戦略を訴えている。

🔳外国人急増と「誤解騒動」が示した国民の不安
 
ナイジェリア政府が「日本がナイジェリア人向け特別ビザを設ける」と発表し、後に撤回した騒動は、単なる外交上のミスでは済まされない。これは今の日本が抱える移民問題や政治への不信、社会の不安心理を象徴する出来事である。

地方では外国人住民の急増が目立つ。北海道占冠村では住民の三分の一以上が外国籍で、赤井川村も28.5%に達する。群馬県大泉町や大阪市生野区など、20%前後の外国人比率を抱える地域も少なくない。かつての日本では想像できなかった変化が進行しているのだ。


こうした中で「特別ビザ」という言葉が出れば、国民が敏感に反応するのは当然だ。SNSでは「移民流入が加速する」との不安が瞬く間に広がり、自治体への問い合わせも殺到した。この騒動は、日本社会に広がる根深い不安の表れである。

発端となった「JICA Africa Hometown」構想は、アフリカ諸国との地域交流を目的としたもので、移民政策とは無関係だ。しかし、ナイジェリア政府の誤解を招く発表と「ホームタウン」という表現が火種となり、国民の疑念を増幅させた。日本政府とJICAは声明削除を要請し、ビザ緩和や移住政策は検討していないと明言したが、不安の解消には至っていない。

外国人増加、物価高、増税。これらが重なり、国民の怒りは静かに膨れ上がっている。参院選での与党敗北もこうした空気を反映しているが、石破政権は外国人受け入れを推し進めようとし、国民の警戒心は強まる一方だ。この騒動は、社会にくすぶる不信感の前兆であり、政府の無関心が事態を悪化させていることを示している。
 
🔳欧米の「国民優先」への回帰と日本の遅れ
 
参政党の「日本人ファースト」というスローガンは排外主義ではない。国家の第一義的使命は自国民を守ることにあり、これは欧米諸国でも当然の原則である。アメリカでは公共サービスや福祉は国民・永住者が対象であり、イギリスやドイツも同様だ。

しかし欧米では、移民政策を急速に推し進めた左派政権が社会不安を拡大させた。フランスやスウェーデンでは治安の悪化や社会保障の逼迫が現実化し、ドイツの難民政策は国内分断を深めた。イギリスがEU離脱を決めた背景にも移民問題への不満があった。

トランプ米大統領はUSAIDを実質廃止

アメリカはさらに鮮明な政策転換を行った。トランプ政権はUSAID(米国国際開発庁)の実質廃止や国境管理の強化、ビザ発給制限などを断行し、法人税減税や規制緩和で景気を刺激した。コロナ前には雇用拡大を実現し、イギリスも社会保障制度を国民優先に再構築した。欧米は「国民を守る」という国家の根本理念に回帰しつつあるのだ。
 
🔳減税の効果と政治の責任
 
日本では減税の議論になると、必ず「財源はどうするのか」という声が上がる。だが、海外援助や外国人政策に巨額の予算を投じても同じ批判はほとんど聞かれない。この二重基準に国民は気付き始めている。

IMFやOECDの研究は明快だ。景気後退期に行う所得税や消費税の減税は、1円の投入で1.3〜1.6円のGDPを押し上げる。減税は単なる景気対策ではない。投資・雇用・所得を底上げし、税収を増やす「利益を生む政策」なのだ。

一方、政府モデルは現実と乖離している。内閣府は「消費税を1%上げればGDPは0.2%下がる」と見積もるが、2014年の5%→8%増税ではGDPは年率▲6.8%、2019年の8%→10%でも▲6.3%と急落した。実際の衝撃は想定の何倍も大きかった。IMFも「不況期には財政政策の効果は平時より大きい」と指摘している。


日本保守党は「減税は成長のエンジンであり、財源は成長が生む」と訴えている。これは欧米の政策転換や国際機関の研究とも一致する主張だ。緊縮一辺倒の財務省路線と日銀の金融引き締めが30年以上の停滞を生んだ現実を、多くの国民は既に見抜いている。財務省、日銀の言いなりの政治家は、移民と経済政策の不味さで日本毀損するというそこはかない脅威に目覚めている。

今回の騒動や参政党のスローガンは単なる移民拒否ではない。政治が国民生活から乖離していることへの警告だ。欧米が国民国家の原則に立ち返る中、日本だけが遅れれば国家の基盤が崩れる。今こそ政府は国民の声に向き合い、減税と国内投資に舵を切るべきである。

【関連記事】

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識” 2025年7月25日
「減税と積極財政の併用は常識」という視点で、実例を交えた力強い論説。

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証 2025年6月19日
消費税・ガソリン税の減税効果をデータで説明し、政策の転換を強く訴える記事。

移民大量受け入れが招く公共負担の増大――商品券配布と国民信頼の断絶 2025年3月16日
移民政策と税負担への懸念を絡め、政治責任を問いかける視点。

「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む 2025年4月6日
グローバル経済の混乱と日本の政策判断を多角的に分析した経済記事。

トランプの政策には“移民対策”が含まれる──アメリカ国民国家への回帰 2025年1月18日
米国の国民優先政策と移民抑制を語る論説。日本の文脈にもつながる視点。

2025年8月26日火曜日

日本よ目を覚ませ──潜水艦こそインド太平洋の覇権を左右する“静かなる刃”だ

まとめ

  • 米CSISのデンマーク上級研究員は、AUKUSを潜水艦開発協力にとどめず、中国有事を想定した共同作戦計画に格上げすべきだと提言し、抑止力の維持と米豪英同盟の信頼性確保を強調した。
  • 中国は80隻体制を目指し無人潜航艇も開発、ロシアはボレイ級・アルクトゥルス級で核抑止力を強化。台湾は「海鯤」級を国産建造中で2027年までに2隻配備予定、インドも「プロジェクト75」で6隻の国産潜水艦建造を開始した。
  • 日本の「たいげい型」潜水艦はリチウムイオン電池や新型魚雷で性能が向上し、全8隻体制を整備中で静粛性や水中持続力は世界最高水準にある。
  • SSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を含め、潜水艦は“報復の最後の砦”として核抑止を支え、情報戦・シーレーン防衛・抑止力の中核的存在となっている。
  • 日本は潜水艦技術をさらに強化し、米英豪・台湾・インドとの情報共有や共同演習を深化させ、AUKUSへの技術協力を通じてインド太平洋の秩序を主導する立場を確立する必要がある。

🔳AUKUSへの提言と国際安全保障の転換点
   
米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のアブラハム・デンマーク上級研究員

米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のアブラハム・デンマーク上級研究員は、2025年8月25日前後に発表した報告書で、米・英・豪の安全保障枠組みAUKUSを「潜水艦の共同開発」にとどめるのではなく、「中国との有事を見据えた共同作戦計画」に格上げすべきだと強く訴えた。デンマーク氏はバイデン政権下で国防総省のAUKUS担当上級顧問を務めた経験がある。同報告書は、オーストラリアのマルズ国防相が訪米していた時期に公表されたもので、米豪英三カ国の戦略議論に直接的な影響を与える意図があったと考えられる。

彼が強調するのは、台湾や南シナ海で衝突が起きた場合に備え、米英豪が統合作戦計画を事前に策定することの必要性である。計画の存在が即応力と抑止力を両立させ、さらには中国への政治的メッセージとなりうる。また、米国内政治の混乱が同盟の信頼性を揺るがす危険を軽減する効果も期待できる。背景にはオーストラリアの中国依存による軍事関与への慎重姿勢、米国の二正面作戦への対応負担、中国の軍拡が日米安保やクアッドの枠を超える脅威となっている現状がある。

日本にとってもこれは対岸の火事ではない。日本はAUKUSの正式メンバーではないが、量子・AI・サイバーなど先端分野で協力する余地がある。台湾有事の最前線にある以上、米英豪と綿密に調整しなければ自衛隊の作戦は成立しない。石破政権のNATO欠席の経緯を考えれば、日本が西側戦略にどう位置づけられるかは喫緊の課題である。
 
🔳世界各国の潜水艦強化とインド太平洋の変動
 
インドの潜水艦の進水式

ここ3日間にも、潜水艦に関する重要な動きが報じられた。CSIS報告書は、AUKUS潜水艦計画の中止が米国の信頼性と抑止力を大きく損なうと警告し、課題は多いが継続は不可欠であると結論づけた。インドでは、マザゴン・ドック・シップビルダーズ社(インドの造船会社)を中心に、総額約7兆ルピー(約2.4兆円)の「プロジェクト75」が始動。6隻の潜水艦を国産で建造する計画は、インドの造船技術の飛躍を象徴している。インドは原潜・通常動力型ともに国内造船所での建造能力を確立しつつあり、すでに自前の潜水艦を就役させており、戦略的自立を目指している。

現代戦において潜水艦の価値はますます高まっている。静粛性を備え敵の目をかいくぐる潜水艦は、情報収集・長距離ミサイル攻撃・特殊部隊輸送など多様な任務に対応可能だ。原子力潜水艦は長期間の潜航が可能で、補給線・シーレーンへの“見えざる刃”として機能する。弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Submarine-launched Ballistic Missile Nuclear-powered)は、核兵器を搭載した弾道ミサイルを発射できる潜水艦であり、“報復の最後の砦”として核抑止における心理的抑止力の中核をなす。水上艦や航空戦力が衛星やレーダーで追跡されやすい現代において、潜水艦こそが戦略的優位の象徴となりつつある。

中国は2025年までにディーゼル型と原子力型合わせて約65隻、2035年には80隻体制を目指し、「商級(Shang級、Type093B)」や次世代「095型」の建造を加速している。加えて大型無人潜航艇(XLUUV)の開発にも注力し、海底作戦能力の強化に動いている。ロシアも「ボレイ級」SSBNを複数就役させ、「ボレイA型」、次世代「ボレイB型」の建造を進めており、2037年以降には最新の高ステルス型「アルクトゥルス級」の就役も計画されており、核抑止力の増強が着実に進行している。

台湾では「海鯤(ハイクン)」による自国建造プログラムが進行中だ。CSBCが建造した「海鯤」は2023年に進水し、2025年6月に主要システムの海上試験を完了した。2027年までに2隻配備を目標に、米英の最新技術を取り入れた設計は中国への有力な抑止となる。

日本の動きも着実である。「そうりゅう型」の後継、「たいげい型」は全8隻の配備を計画中で、「たいげい」「はくげい」「じんげい」「らいげい」がすでに就役。「ちょうげい」は2024年進水、2026年配備予定だ。リチウムイオン電池の採用で静粛性と水中持続力が飛躍的に向上し、新型魚雷「18式魚雷」、垂直発射装置(VLS)、スタンドオフ巡航ミサイルの搭載も進んでいる。
 
🔳日本が果たすべき役割と戦略的選択
 
AUKUSの戦略議論、インドの自国建造計画、台湾の独自計画、中国・ロシアの軍拡、そして日本の技術革新──インド太平洋は潜水艦を軸に勢力図が激しく変動している。潜水艦は単なる兵器ではなく、国家の抑止力と戦略的信頼を象徴する存在である。

日本の潜水艦隊

では、日本はこの潮流の中で何をすべきか。第一に、世界でもトップクラスにある潜水艦技術をさらに磨き、海上自衛隊の抑止力を質・量ともに向上させることが不可欠だ。海中監視網と情報戦の強化も急務であり、米英豪あるいは台湾、インドとの情報共有および共同演習を深化させるべきだ。また、造船技術やリチウムイオン電池といった日本の技術をAUKUSの技術協力に積極的に反映させ、地域全体の安全保障基盤を強固にすべきである。

シーレーン防衛は日本経済の生命線であり、潜水艦戦力は軍事的意味だけでなく外交上のメッセージとしても圧倒的な力を持つ。今こそ、日本は「静かだが決定的な抑止力」としての潜水艦戦力を中心に、インド太平洋の秩序を主導する国家としての地位を確立すべき時である。

【関連記事】

潜水艦とAWACS:米軍装備の“危機”と日本の優位性 2025年5月12日
米海軍の潜水艦・AWACS戦力の老朽化を指摘しつつ、日本の航空・潜水艦戦力がいかに信頼できるかを際立たせた考察記事。

米ヴァージニア級原潜「ミネソタ」のグアム派遣、域内抑止力を強化 2024年11月28日
アメリカ海軍がグアムに最新鋭の原潜を配備し、インド太平洋の海上抑止体制を強化した動向を解説。

新型潜水艦「たいげい」型が日本の専守防衛を飛躍させる 2024年3月17日
世界初のリチウムイオン電池搭載潜水艦「たいげい型」により、日本の潜航力・静粛性・火力が飛躍した背景を分析。

P-1哨戒機による対潜訓練を初公開、テレビで見た日本のASW力 2023年1月15日
P-1哨戒機の潜水艦捜索・魚雷攻撃訓練を通じて日本の対潜能力を紹介。テレビ初取材で判明した実力を解説。

音響測定艦「ひびき」「はりま」が守る日本の“潜水艦の耳” 2016年8月3日
海上自衛隊が極秘運用する音響測定艦での音紋収集の実態を追い、日本の潜水艦対策の強さを示した記事。

2025年8月25日月曜日

石破政権は三度の選挙で国民に拒絶された──それでも総裁選で延命を図る危険とナチス悪魔化の教訓

夜の国会議事堂

まとめ

  • 選挙は民主主義の根幹であり、国民の審判を軽視すれば政治は正統性を失う。歴代総理は選挙敗北を受けて辞任してきたが、石破政権は三度の敗北にも関わらず延命を図り、世論調査でその流れを覆そうとしている。
  • 党内総裁選による権力維持は、国民の意思を無視した危険な手段である。総裁選は政党内の権力闘争に過ぎず、国民の信任を代替できない。過去にも党員投票省略などで正統性が疑問視された例がある。
  • ナチスの台頭は、制度の形を保ちながら自由を奪う危険性を示した。ナチスは選挙で絶対多数を得られなかったにもかかわらず、緊急令や全権委任法、同調化政策で権力を掌握し、独裁体制を築いた。
  • 戦後ドイツは「ナチス悪魔化」で国民の加担責任を曖昧にし、現在も過去を盾に言論を封じている。歴史家の異論は封殺され、AfDへの批判も「ナチスの亡霊」とレッテル貼りされるなど、民主主義の議論が阻害されている。
  • 日本は虚像のドイツ像を模範と誤解し、自虐史観で自らを過剰に断罪してきた。帝国時代の文明的貢献や教育政策を評価せず、自己否定を続けてきた結果、国家の誇りを失い民主主義を弱体化させている。
🔳選挙こそ民主主義の礎

衆院選にて石破茂総裁を中心に当選者にバラを付ける執行部

民主主義の本質は、選挙にある。国民の一票こそが政治の正統性を支え、為政者の去就を決める絶対の審判である。この重みを軽視し、権力に固執すれば、民主主義は形骸化し、国は衰退の道を歩むしかない。歴代総理が選挙敗北を受けて退陣してきたのは、日本がまだその原理を理解していた証であった。麻生太郎元首相が2009年の衆院選惨敗で退いたのも、宇野宗佑元首相が1989年参院選の結果を受けて辞任したのも、すべて国民の審判に従ったからである。

石破政権は、すでに衆院選、都議選、参院選で三度の敗北を喫した。これは一時的な人気の揺らぎではない。熟慮を重ねた国民の拒絶の意思である。それにもかかわらず、メディアは「支持率回復」という見出しを掲げ、政権延命の空気を演出している。だが世論調査は回答率が3割前後に過ぎず、高齢層に偏ったサンプルで結果は容易に歪む。NHKの調査では70歳以上の回答者が全体の4割を超え、30代以下はわずか1割という偏りが指摘されている。こうした数字で、選挙という最高の民意を覆すことは許されない。

さらに重大なのは、この状況下で党内総裁選を開き、石破氏が出馬を画策していることだ。総裁選は政党内部の代表者を決める手続きにすぎず、国民の信任を代替するものではない。過去には党員投票を省略し議員票を優先した総裁選が批判を浴びたこともある。党内の論理だけで権力にしがみつこうとすれば、民主主義の根本理念と正面から衝突する。国民の信任を欠いた指導者が内外で信頼を失い、政治を混乱に陥れることは歴史が証明している。
 
🔳ナチス台頭の教訓と「悪魔化」の欺瞞

ヒトラー

この危険を象徴するのがナチスの台頭だ。1933年3月のドイツ国会選挙でナチス党は43.9%の得票で第一党にはなったが、絶対多数には届かなかった。合法性の仮面をかぶった権力掌握はそこから始まった。同年2月の国会議事堂放火事件を口実に発令された「国会議事堂火災令」で言論・集会・報道などの基本的自由は停止され、共産党員ら反対派は大量逮捕された。続く3月の「全権委任法」は、議員への威圧や共産党議員の排除によって成立し、議会は骨抜きにされた。さらに「グライヒシャルトゥング(同調化)」政策により地方自治、司法、教育、文化、報道までもが徹底的に掌握され、独裁体制が築かれた。形式的な選挙や法の手続きを保ちながら自由を失っていった過程は、制度の脆弱さを如実に物語る。

戦後ドイツは、この歴史と「真剣に向き合った」と世界から称賛されてきた。しかし現実は違う。ドイツは「ナチス」という絶対悪を作り上げ、国民の加担責任を巧妙に隠した。数百万の国民が選挙でナチスを選び、熱狂し、戦争を支えた歴史は曖昧にされたままだ。歴史家エルンスト・ノルテがナチスの暴政をスターリン体制など他の全体主義と比較して理解すべきだと論じた際、彼は「修正主義者」と糾弾され、学界から追放同然の扱いを受けた。現代でもAfD(ドイツのための選択肢)が移民政策やEUの矛盾を指摘すれば「ナチスの再来」と決めつけられる。過去を盾にして国民の異議申し立てを封じるやり方は、自由主義を装った抑圧である。
 
🔳日本の自虐史観と民主主義の危機

日本統治時代、京城(現在のソウル)に置かれた朝鮮総督府の建物

日本もまた、この虚像の影響を強く受けた。ドイツが自国民の責任を覆い隠した一方で、日本は自らを過剰に断罪し、帝国時代の文明的功績や教育政策をほとんど語らなくなった。台湾や朝鮮に帝国大学を設け、現地の若者に高等教育の門戸を開いた事実や、当時の朝鮮地方議会で多数の朝鮮人議員が活動していた歴史、鉄道や上下水道の整備、医療や法制度の導入なども同様である。これらは支配の一側面ではあったが、同時に文明共有の試みであった。しかし戦後日本は「ドイツは謝罪した、日本はしていない」という虚像に縛られ、自らを叩き続けてきた。その自虐史観は国家の誇りを失わせ、国民の精神を弱らせている。

歴史は過去を利用して現在を縛るための道具ではない。真実を直視し、未来を築くための礎であるべきだ。ナチスの暴政は「悪魔の所業」として切り離された結果、ドイツ国民自身の責任は曖昧にされた。そして日本はその手法を模範と誤解し、自らを叩き続けた。こうした歴史観は民主主義を守る力を奪う。
 
現在の日本政治において、選挙の結果を軽視し、世論調査や党内権力闘争で政権を延命する発想は、ヴァイマル崩壊の再演になりかねない。三度の選挙で拒絶された政権は潔く退くべきである。それを報道や世論のムードで覆せば、民主主義は空洞化し、国民の自由は脅かされる。歴史は何度もこの危険を警告してきた。日本は虚像や空気に惑わされず、選挙という最高の民意を尊重し続ける国家でなければならない。

【関連記事】

参院過半数割れ・前倒し総裁選のいま――エネルギーを制する者が政局を制す:保守再結集の設計図 2025年8月24日
参院過半数割れと前倒し総裁選のいまを検証。エネルギー安全保障を軸に、LNG→SMR→核融合の三層戦略と保守再結集の筋道を示す。

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 2025年8月22日
外交の視点から石破政権の戦略的脆弱性を浮き彫りにした記事。

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然 2025年8月18日
党内勢力構造と総裁選の裏側、保守派再結集の構図を整理した興味深い論考。

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来 2025年6月8日
現政権の選挙敗北と保守再編の潮流が鮮明に描かれた分析記事。

石破政権延命に手を貸す立民 国民民主と好対照で支持率伸び悩み 2025年3月29日
商品券問題や政権延命の構図に対する野党の動きを鋭く指摘している。

2025年8月24日日曜日

参院過半数割れ・前倒し総裁選のいま――エネルギーを制する者が政局を制す:保守再結集の設計図


まとめ

  • 自民党は参院で過半数を失い求心力が低下したが、綱領に「保守」「改憲」を明記する本来の保守政党であり、保守系は“ガス抜き要員”ではないという立場を再確認した。総裁選は推薦人20人が必要で、運用次第で政局は大きく動く。
  • 現状打開には、自民党内保守×参政党の保守的潮流×日本保守党×草の根・保守メディア・論壇を横断連結して結束を固めることが要諦だ。
  • 国家運営の土台はエネルギーであるとの前提に立ち、短中期はLNGで安定を確保しつつ既存原発を活用、並行してSMRを立ち上げ、長期は核融合へ投資する「多層戦略」を採る。家計・企業負担となる再エネ賦課金は見直し(縮減・廃止)を争点化する。
  • 技術ロードマップは、SMRの国際連携・国内整備を進めつつ、核融合はJT-60SAで運転知見を蓄積し、ITERの工程(D-T運転の段階的開始見通し)と接続して2030年代の発電実証、2040年代の商用化を狙う。
  • 象徴的リーダーには高市早苗氏が最適と評価する。政・官・党の実務経験(経済安保担当相、総務相、政調会長)、安保・外交での一貫性、エネルギー戦略との整合性、世論調査での競争力という点で条件を最も満たす。
🔳いま何が起きているのか――政局の骨格
 

石破茂内閣は昨年秋に発足し、今年7月20日の参院選で与党(自民・公明)が過半数を割り、政権は上下両院で“少数与党”となった。総裁である石破首相が続投表明をしつつも、党内外から責任論と路線論が交錯する構図だ(選挙の結果と与党の過半数割れは nippon.comの選挙分析(日本語)同(英語) 参照)。

自民党のルール面を押さえる。総裁選は党則と「総裁公選規程」に基づき、立候補には国会議員20人の推薦が必要である。運営の細目は執行部の裁量余地が小さくないが、規程が示す枠(推薦人要件、投票主体など)が基盤である点は変わらない。自民党は「立党宣言・綱領」に保守政党であること、そして「憲法改正を目指す」ことを明記してきた事実も確認しておくべきだ。
 
🔳自民保守は“ガス抜き”ではない――勢力図と再結集
 
SNSの保守層が自民は「所詮ガス抜き」と辛らつな反応が目立つように

「自民党保守系は党のガス抜き要員にすぎない」という揶揄がある。だがこれは間違いだ。第一に、綱領上の自己規定は保守であり、改憲推進を掲げるという“党の芯”がある(前掲の綱領・改憲特設サイト 自民党 憲法改正実現本部 参照)。第二に、数の上でも保守色を持つ議員層が最大であることは衆目の一致である。確かに派閥資金問題を経て派閥は形式的に解体・縮小し(派閥解体の難しさを解説する論考 参照)、旧来型の“締め付け”は弱まった。だが、だからこそ理念軸での結束が効く。左派リベラル・対中融和的な結束の強さに押され、総裁選の力学で主導権を奪われたという反省は重い。ここからの反転には、保守が“同盟”を組むしかない。自民党内保守、日本保守党、参政党の保守層、他党保守系、草の根・メディア・論壇まで、横串に束ねる発想である。象徴としての人選は効果が大きい。たとえば高市早苗氏のように、改憲・安保・エネルギーに明快な旗を立てられる総裁像を担ぎ、以後は“数の力”を健全に回しながら、保守内部で政権交代が起こり得る仕組み(政策競争の土俵)を整えるべきだ、という提案である。

新勢力の動きも直視する。参政党は党員主導・草の根色の濃い“参加型”の運営を打ち出しており(公式の政策ページ)、保守層を含む大衆政党志向が強い。他方、日本保守党は綱領・政策の明確さが前面に出る“理念先導型”の保守政党で、エネルギー・税・移民などで明瞭な選好を提示している(党公式サイト /政策詳細は後述リンク)。7月の参院選で日本保守党は比例で議席を得て国政政党としての足場を固め、存在感を一気に増した(例:比例上位候補の当選報道として 毎日新聞の速報)。“破竹”の言を控えても、短期間での到達点としては十分に大きい。支持層の細かなデモグラフィックについては、公的な大規模データの公開がまだ限定的であるため、確定的断言は避ける。
 
🔳なぜエネルギーを最優先に据えるのか――安保・外交・改憲を支える土台
 
安保、外交、そして改憲。三つの論点はいずれも国家の大黒柱だ。だが、それらを支える“根太”がエネルギーである。供給が揺らげば、防衛生産も外交交渉力も財政運営も脆くなる。中東有事とホルムズ海峡への依存はアジアの急所であり、日本の脆弱性は繰り返し指摘されてきた(APの分析記事)。ゆえに、当面は安価で機動的な“つなぎ”のエネルギーとして、天然ガス(LNG)へのフォーカスを強めるべきだ。

そのうえで、中長期の“勝ち筋”を二本柱で描く。第一がSMR(小型モジュール炉)、第二が核融合だ。SMRは工場モジュール化で建設リスクを抑え、系統安定と産業熱供給の両面で使い勝手がよい。政府は国際連携で「2030年前後の技術実証」をめざす方針を示してきた(政策枠組みの一端は 経産省資料(英)資源エネ庁の解説記事(英)2025年版エネルギー白書・原子力章 参照)。規制は、推進(経産省・資源エネ庁)と規制(原子力規制委員会)の分離が前提で、独立性の高い三条委員会体制が安全確保の要である(原子力規制委の位置づけ解説)。

出典)© 2021 Joint Special Design Team for Fusion DEMO All Rights Reserved.(原型炉設計合同特別チーム)

核融合は「日本が勝ちにいける」戦略分野だ。国内では、JT-60SAが世界最大級の超伝導トカマクとして2023年10月に初プラズマ達成、統合試運転を重ねている(QSTのリリースFusion for Energyの発表)。国際協力の要であるITERは、2024年の「In a Few Lines」で工程を見直し、D-T運転開始は2039年見通しを公表した(ITER公式の要約ページマックスプランクIPPの解説)。日本政府も「2030年代の発電実証」に向け明確化を進める方向を示した(内閣府・フュージョン戦略(改定素案)文科省・委員会サイト)。

ここで再エネ賦課金だ。家計・企業コストの観点からは、電気料金の構造的圧力になっている。2025年度の標準的な賦課金単価は3.98円/kWhと公表されている(資源エネルギー庁の発表(英))。負担の見直し、とくに景気と産業競争力を重視する立場からは、賦課金の段階的縮減や廃止を求める声が強い。さらに、最近では国立公園内の釧路湿原にメガソーラを設置しようという動きすらあり、国民の多くが怒っている。日本保守党は政策として「再エネ賦課金の廃止」を明記しており、保守連合の共通公約に据えやすい論点である。

さらにガソリン税問題は単なる税制議論ではなく、日本のエネルギー安全保障や国家戦略の入口だ。本来、価格高騰時に税を止める「トリガー条項」は国民を守る仕組みだが、長年凍結され政治の怠慢を象徴している。

今こそ税制見直しを突破口に、石油依存の脆弱性や再エネの限界、原子力の現実的運用を含むエネルギー政策全体を再構築すべきだ。筆者の結論は明快だ。短中期は天然ガスを基軸に電力安定を確保しつつ、SMRを最速で立ち上げ、核融合は国家総力戦で前倒しする。その“橋”としての化石燃料重視は現実主義であり、安保・外交・改憲のいずれを進めるにも不可欠の土台である。

最後に、政局への帰結をもう一度明確にする。自民党は“左派リベラル・親中”に乗っ取られたという憤懣が保守層に強いのは事実だが、これは見方の問題でもある。派閥解体後の“自由化”で思惑が表に出やすくなり、結果として結束で劣った――それが敗因の核心である。ここからの挽回は、理念で束ねる横断連携と、象徴的リーダーの下で“勝てる政策”(とくにエネルギー)に集中投資することだ。保守はもう“ガス抜き”ではない。国家の屋台骨をもう一度組み上げる当事者である。
 
🔳象徴的リーダー――なぜ高市早苗氏なのか
 
高市早苗氏

結論から言う。現状で象徴的リーダーに最も相応しいのは高市早苗氏だ。理由は四つある。

第一に、経験と実績だ。高市氏は岸田内閣で「経済安全保障担当相」を務め、内政・技術・安全保障が交差する最前線で意思決定を担った。過去には総務相を歴任し、党内では政調会長も務めた(自民党公式プロフィール)。この“政・官・党”の三面経験は、エネルギー・半導体・安全保障が一体化する時代に強い武器である。

第二に、安保・外交での骨の通った姿勢だ。高市氏は保守色が明確で、歴史認識や安全保障で一貫していることは国内外メディアも繰り返し報じてきた(ロイターの人物紹介)。また、今年8月には台湾の頼清徳総統と会談し、供給網・新技術・防衛協力などで「価値観を同じくする国々の連携」を強調した(台湾総統府・英語リリース)。地域秩序の核心である台湾海峡と経済安全保障を一体で語れる政治家は、いまの日本に多くない。

第三に、エネルギー政策との整合性だ。自民党総裁選における原子力の扱いは常に争点だが、近年は「脱原発一辺倒」から現実路線への回帰が進み、候補者群の中で原子力を一定の役割として認める機運が強まっている(Japan Timesの総裁選と原子力を巡る分析同・原子力への姿勢の変化)。高市氏は経済安保の現場と接点が深く、LNG・既存原発・SMR・核融合という多層戦略を政治的に束ねる「顔」になり得る。

第四に、勝てる可能性だ。直近の報道ベースでも、高市氏は保守系の中核として世論調査で上位に位置づけられてきた(例:読売の支持率データを引く ロイターのまとめ記事)。もちろん、最終的な勝敗は派閥力学と都道府県連の動きに左右される。だが、保守を横断で束ねる“象徴”としての条件を最も満たしているのは高市氏である。

要するに、理念の明確さ、実務の厚み、外交安保の発信力、エネルギー戦略との整合性、そして選挙戦での実効性。この五点が合わさった政治家は希少だ。高市氏は“旗”を立てられる人材であり、保守再結集の号令役として最適任だと判断する。

参考・根拠(主だったもの)
(注)本文の主張のうち、価値判断・将来提案に属する部分は筆者の分析であり、事実部分は上掲の一次・準一次情報で検証可能である。リンクはすべて辿れる公開情報のみを用いた。

【関連記事】

釧路湿原の危機:理念先行の再エネ政策が未来世代に残す「目を覆う結果」 2025年8月23日 —— メガソーラー乱開発と賦課金負担の実相から、エネルギーと環境の両立の欠落を指摘。

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然 2025年8月18日 —— 石破総裁誕生の裏側と派閥力学を整理し、保守再結集と制度改革の必要性を論じる。

落選に終わった小野寺勝が切り拓いた「保守の選挙区戦」──地方から始まる政党の構図変化 2025年7月21日 —— 日本保守党の地方区挑戦の意味と、参政党との差異から見える新しい保守地図。

参政党・神谷宗幣の安全保障論:在日米軍依存の減少は現実的か?暴かれるドローンの落とし穴 2025年7月9日 —— 安保論の実務性を検証し、保守政策の“勝てる現実路線”を探る。

参政党の急躍進と日本保守党の台頭:2025年参院選で保守層の選択肢が激変 2025年7月6日 —— 参院選を起点に、保守票の行き先と自民への影響を概観。

天津SCOサミット──多極化の仮面をかぶった権威主義連合の“新世界秩序”を直視せよ

まとめ 天津SCOサミットは非西側諸国の結束を誇示し、国連事務総長の参加は国連の権威低下を象徴した。 中国経済は製造業PMI49.4で縮小、BRIは債務危機や計画中止が相次ぎ、影響力に陰りが見える。 SCO加盟国の多くは権威主義体制で、国際規範を弱体化し西側の秩序を脅かしている。...