2021年1月4日月曜日

2021年、日本が決めるべき「コロナ対策」は、単純明快だった…!―【私の論評】政府は、交付税交付金を地方に配分し、地方は自由にそれをコロナ対策等に使えるようにすべき(゚д゚)!

2021年、日本が決めるべき「コロナ対策」は、単純明快だった…!

なぜ政府閣僚は辿り着けないのか


重苦しい一年の幕開けで…

なんとも重苦しい新年だ。大晦日、東京都では過去最高の1337人もの新規感染者を記録し、新年はじめのお参りも自粛ムードだ。

新年早々の1月2日、東京都の小池百合子知事や神奈川県の黒岩祐治知事、埼玉県の大野元裕知事、千葉県の森田健作知事の首都圏1都3県の各知事が、政府に緊急事態宣言発令の検討を要請した。西村康稔経済財政・再生相は「国として要請を受け止め、検討していく」と語った。

筆者は例年通りに元旦の早朝にお参りした。その時間は、連年でもお参りする人は少ない時間帯だ。いつも以上に少なかったが、それでもソーシャルディスタンスを保ってお参りした。今年こそはコロナが終息することをお祈りせざるを得なかった。

政府は、昨年12月14日に年末28日からのGoToトラベルの一律一時停止を発表して以来、繰り返し「静かな年末年始を」と呼びかけてきたが、相変わらず新規感染者は増加の一途だ。

国民の願いは、新型コロナの押さえ込みと政府による説明だ。GoToトラベルによる移動者は、日本全体から見ればごくわずかにすぎない。

国土交通省の鉄道輸送統計と航空輸送統計によれば、GoToトラベルの行われていた8~10月の旅客輸送数は50億人弱だ。一方、同じく国土交通省によるGoToトラベル事業における利用実績は、7/22~10/31で3976万人だ。

これは鉄道・航空輸送の1%程度しかない。このGoToトラベルを停止したところで、人の移動に対する影響はたいしたことがないのは明らかだろう。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長もエビデンスはないと公言しているほどだ。

逆の批判に…

それでも、マスコミはGoToトラベルをやり玉に挙げて政府を批判し、政府は一律一時停止を決めると、マッチポンプのように手のひらを消して、旅行飲食事業者はどうするかとの逆の批判に転じた。

こうした時には、政府による筋の通った上で、丁寧かつ責任ある説明が必要だった。GoToトラベルの一律一時停止について、筆者は「よくわからないけど、止めてみる」と考えた。政府の説明はちょっと歯切れが悪かった。

新型コロナの世界の現状を見てみよう。


これと同じ図は、昨年の11月16日付け本コラムでは以下の通りだ。


2つを比べると、各国の位置関係は驚くほど似ていて、横軸が右に伸びているのがわかる。つまり、世界各国で似たように感染拡大になっているのだ。

これらの国の対応は様々だ。新型コロナ感染拡大を抑え込むことに比較的成功している世界の国々は、水際対策の早期強化(オーストラリア)、感染初期に政府権限や罰則等のガバナンス強化(中国)を行っている。

日本の感染症対応体制は、1897年に制定された旧伝染病予防法以来120年の間、地方行政だった。1937年の旧保健所法からは、知事の下の保健所中心の法制だった。1994年には、県型保健所は、政令指定都市・特別区・中核市などの市型保健所へ移管されていった。

その上で、今の新型コロナ特別措置法は、国は緊急事態宣言発出、基本方針策定、都道府県の総合調整を行い、都道府県知事は団体・個人への協力要請、緊急事態時に外出自粛、休業の要請・指示を行うとされている。

一貫した考えとして

知事の権限は比較的強化されているが、休業要請どまりであり、財政余力がない地方自治体では休業補償しにくいので休業要請の実効性が出ない。そのうえ、国は地方にカネをださないが、口を出す。

筆者は、新型コロナ対策のようなものは「戦時体制」に準じたものと考えている。であれば、国は地方に口を出さないまでもカネは十分に出していいと思っている。これは、新型コロナが発生したときから、筆者の一貫した考え方である。

本物の「戦時」であれば、生産拠点がやられて生産力が落ちるので、国によるカネを刷って有効需要を作る財政政策と金融政策の同時発動(マネー・プリンティング政策)は悪性のインフレを発生させる可能性があるが、コロナ対策では幸いにして生産力は落ちずに需要蒸発のような状態なので、悪性インフレのおそれは少ない。実際、こうした筆者の見通しは外れていない。

新型コロナの場合、他の事例での死者数など例示しいくら致死率が低いと説明しても、ワクチンと新薬が開発されるまで人びとの不安は、そう簡単に解消するものではない。ワクチンは既に欧米では接種が開始されており、日本でも早ければ2月下旬から接種が開始される。

それまでの間、新型コロナへの不安は、一般的な各種の消費需要を減退させる。例えば飲食業の中でもデリバリーなど一部のニッチなビジネスは儲かっているが、飲食業全体としてみると消費需要は落ち込んでいるという状態だ。

しかも、ビジネスを推進しようとすると、新型コロナ防止策にマイナスの影響もあり、かえって景気回復が遅れる。その場合、ビジネスを最低限で支え、新型コロナ防止策を優先すべきだ。というわけで、筆者は休業補償について前向きなのだ。

さらに国は、財政政策と金融政策の同時発動を発動すれば、同時に通貨発行益を享受できる。これは、将来世代の負担を考慮することなく、財源が作れるので、これを交付税交付金として地方に配分し、地方は自由にそれを使えばいい。この地方政府にはない国の通貨発行益を利用すべきだ。

一貫した考えとして知事の権限は比較的強化されているが、休業要請どまりであり、財政余力がない地方自治体では休業補償しにくいので休業要請の実効性が出ない。そのうえ、国は地方にカネをださないが、口を出す。

筆者は、新型コロナ対策のようなものは「戦時体制」に準じたものと考えている。であれば、国は地方に口を出さないまでもカネは十分に出していいと思っている。これは、新型コロナが発生したときから、筆者の一貫した考え方である。

本物の「戦時」であれば、生産拠点がやられて生産力が落ちるので、国によるカネを刷って有効需要を作る財政政策と金融政策の同時発動(マネー・プリンティング政策)は悪性のインフレを発生させる可能性があるが、コロナ対策では幸いにして生産力は落ちずに需要蒸発のような状態なので、悪性インフレのおそれは少ない。実際、こうした筆者の見通しは外れていない。

新型コロナの場合、他の事例での死者数など例示しいくら致死率が低いと説明しても、ワクチンと新薬が開発されるまで人びとの不安は、そう簡単に解消するものではない。ワクチンは既に欧米では接種が開始されており、日本でも早ければ2月下旬から接種が開始される。

それまでの間、新型コロナへの不安は、一般的な各種の消費需要を減退させる。例えば飲食業の中でもデリバリーなど一部のニッチなビジネスは儲かっているが、飲食業全体としてみると消費需要は落ち込んでいるという状態だ。

しかも、ビジネスを推進しようとすると、新型コロナ防止策にマイナスの影響もあり、かえって景気回復が遅れる。その場合、ビジネスを最低限で支え、新型コロナ防止策を優先すべきだ。というわけで、筆者は休業補償について前向きなのだ。

さらに国は、財政政策と金融政策の同時発動を発動すれば、同時に通貨発行益を享受できる。これは、将来世代の負担を考慮することなく、財源が作れるので、これを交付税交付金として地方に配分し、地方は自由にそれを使えばいい。この地方政府にはない国の通貨発行益を利用すべきだ。

特措法にも規定すべきでは?

実際、新型コロナ対策の臨時交付金が1、2次補正予算で3兆円計上されているが、発行国債は日銀が買い受けるために将来世代の負担はない。3次補正や新年度予算でも予備費が10兆円計上されているが、こうした国と日銀の連合軍によって、新型コロナ対策の臨時交付金として地方自治体へ交付できるようになる。

また、地方自治体が地方債を発行し、それを日銀が買取対象にすることも考えられる。地方自治体は日銀に利払いをしなければいけないが、それは政府に対する税外収入の納付金になるので、政府はそれを臨時交付金として地方に還元するのもいい。こうした仕組みにより、地方自治体は地方債の利払い負担を考慮せずに地方債を発行できるようになる。

こうした観点から、都道府県知事の休業権限と、国から地方への休業補償のためのカネを十分に交付することを、新型コロナ特措法にも規定すべきである。

幸いにも、政府の中にも、新型コロナ対策として私権制限、行政罰の導入とともに、地方自治体の休業補償に対する国の財政支援の規定も盛り込んだ新型コロナ特措法の改正の機運が出ている。これらは、全国知事会も政府に要請していた事柄でもある。

その上、冒頭に述べたように、2日の首都圏1都3県の各知事が、政府に緊急事態宣言発令の検討の要請もある。これは、4日に霞ヶ関は仕事はじめだが、それこそ正月気分なしですぐに回答が求められている。

それは、上に述べたように、新型コロナ特措法改正を事実上先取りしていくことになるだろう。

そのために、カネのことだけは心配要らないように、3次補正と新年度予算で10兆円の予備費を積んだのだ。

1、2次補正でも10兆円の予備費を計上したが、一部野党とマスコミは予備費が大きすぎると批判した。その結果、予備費の消化が十分にできなかった。主として厚労省関係で「予算の目詰まり」があったともいわれている。

本来であれば、予備費は、医療崩壊を防ぐために使われているべきだったが、欧米と比べて日本は新型コロナ感染の程度は低いのに、医療崩壊というのは情けない。今度も、一部野党とマスコミはまた予備費が大きいという批判をするのだろうか。

いろいろなメッセージが…

ただし、今になって4、5月の1、2次補正の予備費問題をぶり返しても意味がない。今できることは、東京などで飲食店などで営業時間の短縮などを要請し、それに対する補償・協力金を支給することくらいだ。これで、新型コロナの感染拡大を抑え込むのがいい。

最後に、新型コロナ特措法の改正では、新型コロナ対策の意思決定も見直したらいい。今は、新型コロナ対応にあたる政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(尾身茂会長)がいろいろなメッセージを出すが、政府の方針と地方自治体の対応とスムーズに連携していない。

豪州では、今年の3月から「National Cabinet」と称し、新型コロナ対策関係閣僚に8人の州知事全員を加えた新たな国家の意思決定機関を立ち上げ、コロナ対策は全てここで決定している。もちろん、そこへの専門家のアドバイスもある。政府も、その例を参考にして、新型コロナ対策の意思決定を国民に見えるようにしたほうがいいだろう。

【私の論評】政府は、交付税交付金を地方に配分し、地方は自由にそれをコロナ対策等に使えるようにすべき(゚д゚)!

コロナ禍の対処は「戦時体制」に近いかたちで対処すべきであると私も思います。昔ある自衛隊の幹部人に、たくさんの兵士を率いる将官でその有能さと無能さを分けるのは何かと聴いたことがあります。

その答えは「戦場では、後でどんなに大勝利であるとわかった戦闘においても、現場では人がなくなったり、パニックになったりで、現場で戦闘に携わっている人の報告は、かなり"悲観"なものになる。だから、現場の報告を聴いて、すぐに兵を退却させる将官は無能である。

一方、本当に悲惨な状況で戦闘に負けてしまいそうな時にも、当然のことながら、現場に携わっている人の報告は"悲観的"なものになる。これを聞かずに兵を撤収させなければ、戦闘に負けてしまう。

そのため、将官たるものは、部下の報告を聴く時には、普段から客観的な判断ができるよう、5つくらいの基準をもうけて、その基準に照らし合わせて部下の報告を的確に判断しなければならない。また、そういうことを実施する将官が有能であるといえる」というものでした。

確かに、そう思います。これができなくて、失敗した将官は古今東西にあまた存在します。そうして、これにはもう一つ条件があると思いました。それは、敵に比較して、武器弾薬が互角であることです。この条件を欠いてしまえば、前提が崩れます。

高橋洋一氏の主張する「一貫した考え」とはまさに、戦時ではこのことを言うのだと思います。戦争において武器弾薬に相当するのは、コロナ禍においては、十分なおカネです。

そうして、コロナ禍対応で必要なおカネは、高橋洋一氏が主張するように、本来は潤沢に準備できます。国は、財政政策と金融政策の同時発動を発動すれば、同時に通貨発行益を享受できます。これは、将来世代の負担を考慮することなく、財源が作れるので、これを交付税交付金として地方に配分し、地方は自由にそれを使えば良いのです。この地方政府にはない国の通貨発行益を最大限に利用すべきなのです。

さて、高橋洋一氏が上の記事で、示した2つのグラフで、日本だけが患者数が増えているわけではなく、相対的には日本は上手にコロナに対処していると考えても良いと思います。コロナの基礎データについては、昨年10月に更新されたニッセイ基礎研究所の資料が、さらに理解しやすいです。その資料を以下に掲載します。


これまで各国が実施してきた封じ込め政策を見ると、中国のように、都市封鎖(ロックダウン)や大規模な検査により、感染の抑制をしている例がある一方で、インドのように全土で都市封鎖をしても感染がピークアウトしなかった例もあります。欧州のように、都市封鎖や行動制限などによってピークアウトした後、再び感染が拡大するケースもあり、国によって成功例はあるものの、封じ込め政策の「特効薬」というべき方法は見つかっていないと言えるでしょう。

そのため多くの国ではマスクやソーシャルディスタンスの確保といった基本的な感染予防策と、感染者の早期発見・隔離といった医療体制整備をしつつ、感染拡大の状況に応じて効果的な封じ込め政策を模索する状況が続いていると言えます。不確実性は依然として高く、各国ともに油断ができない状況が続きそうです。

2 感染者数や死亡者は各国の報告数値を用いているが、国によって報告基準が異なる点に注意が必要。
3 パキスタンのGDP損失は年度単位で計測しており他国と基準が異なる点には留意が必要。ただし、経済被害が相対的に軽微である国であることは変わらない。

これは、10月に更新されたものですが、日本の感染拡大は懸念されるものの、他国も感染拡大していることを考えると、現時点でも大きく順位が大きく後退していることはなさそうです。それは、高橋洋一氏のグラフからもみてとれます。

これらの資料から、マスコミや野党のように大騒ぎするレベルではないといえます。本来なら、GOTOキャンペーンも中止する必要はなかったかもしれません。さらには、自粛要請の必要性もなかったかもしれません。経済的にも今後ひどく落ち込むこともないようです。ただし、政府が対応を間違えばどうなるかわかりません。 かといって、野党やマスコミが批判するような、酷いレベルではなく、相対的には良いほうです。

各県の知事がどうしても営業時間の短縮をしたいというのなら、別に国に頼らなくても、憲法に反さない形で法的に規制できる方法もあります。それは、風営法規制業種の営業時間を都道府県条例で厳しく制限するという方法です。

その上で風営法違反の厳格な取り締まりを都道府県警察に命じるのです。 これは議会と連携し都知事の権限を行使すれば可能です。ただし、こういうことを実施するにしても、時短営業保証などはすべきであり、そうなると高橋洋一氏が主張していた交付税交付金方式がますます重要になってきます。これは、なるべくはやく実現すべきでしょう。


安倍内閣で内閣官房参与を勤めたこともある、京都大学大学院教授の藤井聡氏によると今全国のコロナ対応病床は全病床の0.7%だそうです。残りの99.3%は概してガラガラだそうです。だから大量に余っている病床をコロナ対応病床にするだけで医療崩壊は防げるのではないでしょうか。

ただし、コロナ患者を受け入れると、病院が赤字になるそうですし、多くの医療従事者はコロナ対応にあたっても、特別手当があるどころか、賃金が下がっているという有様だそうです。このあたり、政府が地方におカネを出し、地方が改善していくべきです。賃金が下がった上、差別も受けるという状況では働きたくなくなるでしょうし、病院側もコロナ患者を受け入れたくなくなるのも道理です。これも、地方が潤沢な資金を用いて補填すべきです。

それと、外国人の全面入国禁止しなくても良いですから、ビジネスも居住者もすべて3日前までのPCR検査の陰性証明と入国後指定ホテルなどでの強制隔離14日間にすべきです。 外国人に関してはホテル代と滞在期間中の民間医療保険の加入を義務化(全額自己負担)して、 日本人でホテル代を払えない人のみ政府貸付にすべきです。

以上のようなことに対応した上で、緊急事態宣言をもう一度検討すべきですし、また最悪出すことになってもターゲットを絞りこむべきです。単純に出すのではなく、経済的対応と非経済的対応もあわせて、最善の策を目指すべきです。やれることをやってから、それでも感染が広がるなら緊急事態宣言もやむなしということで、出すべきです。

11時からの首相会見は生で見ましたが、その後のマスコミ報道が緊急事態宣言を既定路線化するようなものばかりで本当に気味が悪かったです。そうしてネットを含む世論、ワイドショー民がそれにつられているようです。今日の菅総理の記者会見もあくまで「検討」と語っていました。そうして対策のポイントを絞る方向で進むということも言っていました。その方向に進んで欲しいです。

菅総理は専門家たちの意見も聞くといいますが、専門家たちの見解は年末では、飲食店の時間短縮を要望していました。政府としては、極力宣言の回避という前提で東京都と詰めるべきです。

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2021年1月3日日曜日

報道の裏にある現実を見極める眼を 堤 未果 国際ジャーナリスト―【私の論評】日本の選挙は米国のような不正は起きにくいが、それでも選挙以前のプロパガンダに注力せよ(゚д゚)!

報道の裏にある現実を見極める眼を 堤 未果 国際ジャーナリスト

【クローズアップ:米国大統領選と情報戦争】
2020年を振り返ると、真実とそうでない情報が,世界規模で錯綜した一年だったと言えるだろう。

新型コロナウィルスに始まり、各国政府が実施したロックダウンとそれに伴う世界的な景気後退と失業率の拡大、アメリカ大統領選挙の不正疑惑まで、今まで信じてきたものがことごとく崩れてゆく中、言論の自由にまで疑問符がついた。

国際ジャーナリスト 堤未果氏

第二の南北戦争-米国史上最大の混乱

「ニュースを見ても、何が起きているかよくわからない」

日米の主要マスコミが、バイデン勝利で決着がついた前提で本質を伏せた報道を続けているアメリカ大統領選などは、その典型的なケースだろう。

1月20日の就任式まで最終結果は確定されないが、今や現地では「第二の南北戦争」と呼ばれるほど、米国は史上最大の混乱に突入している。

テレビや新聞は繰り返し、敗北を認めないトランプ大統領を「民主主義を冒涜している」と批判する。あるコメンテーターはこう言った。

「今まで散々フェイクニュースを撒き散らし、嘘をついてきたトランプが、今度も世界を騙しているのだ」と。
だが本当にそうだろうか。

壮絶なサイバー・情報戦争

日本の私たちはこの問題を、単に「トランプ対バイデン」という構図でとらえるべきではない。何故ならこれは単にアメリカ一国の問題でなく、わが国と周辺国にとって決して他人事でない、米中間で進行中の、壮絶なサイバー・情報戦争だからだ。

今回の選挙で世界が見せつけられた最大の衝撃は、グーグルやフェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディア企業が、いつのまにか政府や伝統的なメディアを遥かに超える力を持ってしまった現実だろう。

アメリカの上院司法委員会は11月に公聴会を開き、フェイスブックとツイッター、グーグル社のCEOを、選挙期間中の不当な検閲や特定のアカウントを理由なく凍結した行為について批判した。

ツイッターとフェイスブックは、バイデン側のスキャンダル報道を閲覧不可にする一方で、トランプ大統領と共和党支持者のアカウントを凍結し、拡散を阻止した事を追求されている。また、米国行動科学研究所がアリゾナ、フロリダ、ノースカロライナの3州で大規模な有権者調査をした結果、グーグルがバイデン側に有利になるよう検索結果の順番を操作し、民主党支持者のネット画面にのみ「投票を促す表示」を出していたことが明らかになった。

常軌を逸したテック企業の言論統制は、以前から各国で問題になっていた巨大テック企業のやりたい放題を、国家安全保障問題にまで引き上げた。

今回の不正疑惑については、国内だけでなく外国政府が関わっている証拠が当局に提出されたからだ。

12月17日。ピーターナヴァロホワイトハウス大統領補佐官が発表した、接戦6州における大統領選挙の調査報告は、民主党陣営の大規模な不正を明らかにした。50の訴訟と関係者(郵便局員や投票所職員、選挙監視スタッフ、民主党員、共和党員ら)数千人が自ら署名した宣誓供述書を元に、州の公聴会での証言や異議申し立て、実名入りの証拠映像、法律家の分析、投開票や統計データなどが詳細に検証された結果、不正が断定され、裁判所に徹底調査が要求されたのだ。

この6州は1月6日までに、選挙結果の合法性を証明するか、再集計した合法票を出さなければならない。

検証項目の中でも、全米28州で有権者の20%が利用した電子投票機に関する箇所は、安全保障問題を激しく炎上させた。部品の大半が中国製の上、当該企業が2018年に中国系企業が出資する投資会社に買収され、大統領選の1ヶ月前にも4億ドル(400億円)の融資を受けていた事で、今回の不正の数々に、外国政府が深く関わっている事が明らかになったからだ。

加速する米中戦争

世界中どこでも、外国勢力による選挙介入は国際法(不介入原則違反)で禁止されている。特に近年はデジタル技術の進化によって、候補者のイメージ作りや有権者の意思決定、投開票に至るまで、一度介入されればその影響は大規模だ。

これは日本も他人事ではない。例えば憲法改正の国民投票の際、デジタルプラットフォーム企業や外国勢力の意図的な介入を阻止できる体制が、果たして今の政府にあるだろうか?

過去何度も不正選挙が繰り返されている上に、野放しのソーシャルメディアが年々その影響力を拡大するアメリカで、2期目の選挙戦を警戒していたトランプ大統領は先手を打った。2018年に「選挙への干渉が明らかになった外国企業及び個人に制裁を課す」ための「大統領令13848」に署名しておいたのだ。

11月12日、トランプ大統領は中国による国防の脅威を理由に「国家緊急事態」を宣言、それを受けて12月3日に国務省は、最大10年だった中国共産党員とその家族の米国入国ビザを1ヶ月に短縮した。続いて18日に商務省が、米国内で中国のための軍事開発を行なう5大学(国防七子と呼ばれる)を含む、60の組織と企業を「制裁リスト」に加え、実質的な禁輸措置を開始している。

大統領選の陰に隠れた米中間戦争が加速するにつれ、自国の知見や技術が軍事利用される事への警戒が強化されているのだ。(日本にも国防七子と学術協定を結ぶ大学が45校あるが、見直しを検討しているのは16校のみと、危機感は緩い)

SNSが国家の脅威に

12月23日。トランプ大統領は通信品位法230条が、国家安全保障と選挙制度への脅威になっているとして、国防権限法に拒否権を発動した。

230条はSNS上の言論に関し、企業側には一切責任を問わないという企業保護のルールだが、これを廃止する方向で進めるという。

今までは、SNSはメディアではなくプラットフォームだからという理由で規制されずにいられたが、世論を自在に動かせるほどの存在に(ツイッター登録者数1.7億人、フェイスブック登録者数27.4億人、グーグル検索件数35億件/日)なった上、外国政府との深い繋がりが明らかになった今では、国家の脅威になるからだ。

廃止されれば書き込み内容について責任を取らされるので、今回の言論統制は「国家反逆罪」に該当する可能性が高い。反逆罪は極刑だ。そうなれば当局はSNS企業に対し、営業停止と資産凍結、財産没収を実行するだろう。この動きを警戒してか、フェイスブックのCEOマークザッカーバーグ氏は保有する2億8000万ドル分(280億円)の自社株を売却、その後も毎日1210万ドル(12億円)売り続けている。

米国の混乱は日本の近未来


日米マスコミは12月18日に全米の州が選挙人結果を政府に提出した時点で「バイデン勝利確定」を流しているが、矮小化された報道には注意が必要だろう。結果が出るのはまだ先だ。2021年1月6日の開票結果に対し上院議員1名と下院議員1名が二人で異議を申し立てると、すべての選挙結果は無効になる。その場合各州議会が1名ずつ選んだ新しい選挙人が、大統領と副大統領を選ばねばならない。例えバイデンになったとしても、トランプが「反乱法」を発動すれば舞台は軍事法廷に移るため、まだまだ混乱は続くだろう。

中国の脅威と、言論を支配するテック企業の暴走によって、アメリカが事実上のサイバー・情報戦争の真っ只中にあることは、1月20日に誰が大統領に就任しようが変わらない。そしてそれは日本を含む、多くの国の近未来になりうるだろう。

社会のデジタル化が加速するほどに、矮小化された報道の裏で起きている現実を見極める眼が、私たちに求められている。

【私の論評】日本の選挙は米国のような不正は起きにくいが、それでも選挙以前のプロパガンダに注力せよ(゚д゚)!

今回の米大統領選挙で、残念だったのは、上の記事にも掲載されている通り、フェイスブックとツイッター、グーグル社のCEOを、選挙期間中の不当な検閲や特定のアカウントを理由なく凍結したことです。

私自身は、従来からかなりの中共の批判や、米民主党やオバマ、日米マスメディアに関する批判をSNSに書き込んできましたが、だからといって検閲などされたことがないので、保守の論客が、検閲やアカウントの凍結などされているということも、他人事のように感じていました。

しかし、昨年になってからはじめて、twitterに書き込みをしていると、「問題が発生しました」(下写真参照)というメッセージがでてきて、書き込みができなくなり、tweetの内容を多少変えると、書き込みができるということが頻繁に起こりました。



しかし、検閲以前の書き込みと、これらの書き込みがいわゆる公序良俗に反するものとはとても思えず、過激であるとも思えませんでした。やはり、最近になって検閲が厳しくなっていると感じていました。

従来から、既存メディアに関しては日米ともにかなり偏向しており、問題があると思っていましたが、SNSも検閲するようになったので、これは大問題だと思いました。

今回のアメリカ大統領選で、SNS各社は事実を誤認しかねない投稿に警告ラベルを付けるなど対策に乗り出しました。しかし、何が事実であるかをSNS各社が正しく理解しているとは思えません。

ツイッターでは選挙戦の期間、およそ30万件の投稿に警告ラベルを付けたと発表しています。大統領選投票日の後に行われたトランプ氏の支持者の集会。参加者は、SNSが使えなくなったと不満を訴えまました。

インスタグラムは、地域や社会を守るためだとして暴力を助長しかねないアカウントなどを停止しました。インスタグラムだけではありません。ツイッターは、トランプ大統領の投稿に誤解を招く内容が含まれているとして警告のラベル付けを行ってきました。

SNSの影響を調査しているスタンフォード大学などの研究チームによりますと、トランプ大統領のある投稿について投稿のおよそ40分後にツイッターが投稿を隠すラベルを付けたところ、拡散のペースが鈍化したそうです。

ラベルには拡散を遅らせる効果がみられたといいます。ただ、元フェイスブックのセキュリティー部門の責任者で現在はスタンフォード大学で教授を務めるステーモス氏は警告のみのラベルでは情報の拡散は止まらずSNS各社の対応は失敗だったと指摘しています。

だからこそ、いくらSNS側が様々な警告のラベル付けなどの実質上の検閲を行っても、トランプ氏支持者の情報の拡散を防ぐことはできなかったのでしょう。

そのためか、米国でも日本でも、現段階で「米国大統領選挙」が決着したと思っていない人はかなり多いです。

今回の不正選挙疑惑に関しては郵便投票を争点としていることは言うまでもありません。米国の郵便投票について、日本では「不在者投票に近いもの」という誤解があるようです。

不在者投票は離れたところにいて現地で投票できない人たちが、自分から投票用紙を請求して近くの関係機関などで投票するというものです。それに対して、郵便投票は州政府が有権者に投票用紙を送って、それを郵便で返送してもらうというしくみになっています。

郵便投票は以前から不正投票の温床になっていると指摘されていたのですが、今回の選挙では、とくに民主党側が新型コロナウイルスを口実に郵便投票を大々的に広げようとしました。

郵便投票が不正を生みやすいのは、投票用紙が送られるのが有権者であるとは限らない点にあります。州政府がすべての住人について有権者に投票の資格があるかどうかを把握するのは、とくに大きな州では不可能であり、他州に移動したり亡くなっている人たちに送られたことも確認されています

すると、送り返された投票が本当に本人のものかどうかわかりません。さらには、認知症の年配者が多い養護施設などに送られている場合に、その施設が一括して送り返してきた投票用紙が、本当に本人の意思なのか確かめようがありません。

さらに、郵便投票で集計不正が起こると、確かめようがないという不安もあります。そのために、たとえば、民主党が行政を握る州では共和党党員が監視員をするといった措置がとられたのですが、監視がある時間帯に拒否された事例も少なからず報告されました。

ただし、郵便投票不正については、不正の温床であったことは論を待たないと思います。

今回の選挙での郵便投票 日本では特殊な場合を除いてできない

いずれにしても、民主党側が郵便投票で自分たちが有利になるということはわかっており、郵便投票を広めることがトランプ大統領の再選阻止の切り札になると考えていたことは間違いないようです。

だから、トランプ大統領としては郵便投票をできるだけ抑えて、投票所での投票を基本にすることで民主党側が不正できないようにしようとしていたのです。ところが、そのための武器であるはずのツイッターで、肝心のツイッター社が「郵便投票賛成」に回ったために、今度はツイッターによってトランプ大統領が追い込まれることになってしまったのです。

ツイッター社が民主党の手に落ちる一方で、もう一つの巨大SNSフェイスブックも同様に民主党に狙われていました。フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグは、フェイスブックがトランプ大統領誕生の原動力になっていたことが発覚したことから、民主党やリベラル勢力からあたかも集団リンチのように激しく攻め立てられていました。

簡単に民主党に落ちたツイッター社と違い、民主党側が要求する「ファクトチェックをしろ」(これは「トランプの投稿に制限をかけろ」ということとほぼ同意)という圧力に屈せずにいました。そのため、民主党候補のひとりだった左派のエリザベス・ウォーレンは、「フェイスブック解体」を重要な公約に掲げたほどです。

ところが、そのザッカーバーグ氏も執拗な攻撃に、投票直前に“ファクトチェック”をすることを認めました。それは、リベラル派の牙城シリコンバレーの企業であるフェイスブックの社員の多くが民主党支持であり、ザッカーバーグ氏が内外から突き上げられたからでしょう。

そして、トランプ陣営の勝利の切り札となるはずだった、民主党候補ジョー・バイデンの息子ハンター・バイデンの大スキャンダルの報道が、ツイッターとフェイスブックでリンクできない状態に陥りました。これに怒った共和党は、ツイッター社のジャック・ドーシーとザッカーバーグを公聴会に召喚して締め上げました。

特に共和党の重鎮テッド・クルーズ上院議員の怒りは尋常ではなく、「選挙で選ばれてもいないおまえに、なぜ言論をゆがめる権利があるんだ!」と本気の怒りをぶつけて、ドーシー氏を震え上がらせています。ツイッターでハンター・バイデンの記事がリンクできるようになったのは、その直後のことです。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(右)と妻で医師のプリシラ・チャン。

大統領選挙投票が終わり、民主党のバイデン候補が選挙人獲得では優位になっていますが、トランプ大統領はこれに真っ向から戦いを挑んでいます。トランプ大統領は民主党陣営が郵便投票で不正を仕掛けてくることをあらかじめ想定して、司法闘争に持ち込むべく最初から準備していたのです。

ところが、トランプ陣営からもたらされる不正の報告も、メディアではまったくといっていいほど報道されておらず、その点はツイッターもフェイスブックも同じです。トランプ支持者は選挙不正情報を広めるためにSNSで発信していますが、その中にはフェイク情報がかなり入り込んでいるとされSNS側から未だ検閲を受け、支持者側の発信も混乱を極めています。

しかし、トランプ大統領の狙いは単に再選することだけではありません。この選挙結果を通して、民主党の不正体質を明らかにして、民主党ごと力をそぐことにあります。その意図が成就するかどうかは、結局のところ、市民のメディアであるツイッターとフェイスブックが言論の自由を保てるかどうかにあります。いかに、SNSで言論の自由への侵害が強まろうと、既存メディアよりははるかにましな状態にあります。

そういう意味で、今回の選挙の最大の敗者は、事前の世論調査で2016年の反省もせず、またも予想を大きく外してしまった既存メディアです。

トランプ大統領が民主党に打撃を与えられるかどうかは、確実な情勢になりつつあります。そうして、既存メディアは大きなカウンターパンチを食らってノックダウンしたと見て間違いないです。ただし、日米の既存メディア側に反省の色はみじんも見られません。

上の記事で、堤未果氏は、「米国のような状況が、日本を含む、多くの国の近未来になりうるだろう」としています。

私自身は、日本の場合は現在の選挙の方式を大きく変えない限り、不正選挙自体がはびこることはないとみています。

日本の選挙の場合は、投票場が米国に比較すると数がかなり多く、統計上のサンプルも取りやすく、もしいずれかの投票場で不正選挙が行われると、数学的な分析をすると、不正選挙が行われた選挙場の数値だけが異常値を示すということになり、すぐに異常が発見されてしまうからです。

日本の場合は、選挙そのものではなく、その前段階のプロパガンダなどに注力すべきでしょう。いくら米国に比較すれば、選挙を公正を行うことができたにしても、その前段階で有権者に誤った情報が提供されていてはまともな選挙にはなりません。

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2021年1月2日土曜日

コロナ恐怖と経済破壊で狙う“ザ・グレート・リセット”とは 巧妙な“人災”で世界を大混乱させた「新しい戦争のカタチ」 河添恵子氏―【私の論評】日本では、天皇を頂点とする国体はポストコロナにも維持される(゚д゚)!

コロナ恐怖と経済破壊で狙う“ザ・グレート・リセット”とは 巧妙な“人災”で世界を大混乱させた「新しい戦争のカタチ」 河添恵子氏

米首都ワシントンで対峙した、トランプ大統領支持者と、バイデン氏支持者

 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中に甚大な被害をもたらし、政治や経済、社会システムの変化が求められている。この陰で、自由や民主、人権といった価値観が危機に瀕している。浮上した「ザ・グレート・リセット」の真実とは。ノンフィクション作家、河添恵子氏が迫った。


 2020年は、コロナ禍で始まりコロナ禍で終わる未曾有の1年だった。ただ、主流メディアは、中国・武漢から発生した新型コロナウイルスの正体(=人工か天然かを含めて)をタブー視し、「隠蔽」によってパンデミック(世界的大流行)を招いた中国の習近平政権の責任論も盛り上がらなかった。

 さらには、コロナ禍に“かこつけて”新時代への大転換が始まっている。ここで、20年に浮上したキーワードを列挙する。「ロックダウン」「ステイホーム」「ソーシャルディスタンス」「テレワーク」、そして「サスティナブル(=持続可能な)」など。

 これは、「外出してお金を使わせない=経済的ダメージを与える」「(親子愛や恋愛を含め)人間関係を希薄にする」「企業内の上下関係、同僚との関係を希薄にする」などにつながる。

 日本社会の特徴に、家族や地域、会社などの「絆」が挙げられるが、前出のスローガンに従順でいれば、日本的な社会・文化は、将来的には完全に破壊されるだろう。

 汗水流して稼ぐことを「悪」とみなす風潮、中国のような共産主義・独裁国家の政治体制をほうふつとさせる「監視とチクリ社会」が広がっていく気配もある。

 師走の繁華街は、夜10時を過ぎると暗闇に変わる。

 「平常通りに営業をしたいけど、『補助金をもらいながら、あの店は儲けようとしている』と陰口をたたかれる。悪いことなどしていないのに」

 こう嘆息する店舗オーナーは、1人ではない。

 コロナ禍を最大限演出して、地球上の隅々に恐怖を植え付け、「経済を破壊」した先にあるのは、「ザ・グレート・リセット」だ。21年の世界経済フォーラム(通称・ダボス会議)のテーマにも決まっている。

 改革の三大原則は、「環境への取り組み(グレート・ニュー・ディール)」「デジタル技術改革」「貧富の格差是正(従来の資本主義・自由市場の改革)」と耳あたりはいいが、既存の株式会社の解体や再編につなげる動きでもある。

 この動きを厳重警戒する世界の保守は、「新型コロナウイルスを世界支配に利用したいのだ」「これからワクチン漬けになる」「すべてを一様に貧乏にしていく」「5Gを使った監視体制の強化で、言論の自由は無くなる」と警鐘を鳴らす。

 さて、ドナルド・トランプ米大統領とホワイトハウスが4年を費やして目指してきたのは、米中の「デカップリング」である。そして、米国の政治、経済、軍、教育などに深く入り込んだ中国共産党の“赤い毒牙”を抜いていくことだった。

 米大統領選の結果が迷走するなか、ワシントンや各地のデモに参加する米国民は、トランプ氏の支持者や共和党員だけではない。選挙が「不正だらけ」と考える市民たちが、それを封印しようとする主流メディアや司法、権力者に対して、『国民をバカにするな!』との怒りからデモに参加していると聞く。

 だが、「会場周辺で、BLM(ブラック・ライブズ・マター)のメンバーが拳銃を抱えていた。参加しないよう威嚇している」との話もある。

 ジョー・バイデン次期大統領(=ただし、1月20日の就任式までにトランプ氏が『戒厳令』を敷く可能性などがあり、何が起こるか分からない)の演説は「分断から融和」と美しい。

 しかし、主要メディアがバイデン氏の演説として報じる内容こそが、トランプ氏や支持者を批判し、「分断」を煽っている。また、選挙後になって、バイデン氏の次男、ハンター氏に関する疑惑を報じている。関係者は「次男とバイデン氏はビジネスの話をしていない」と強調するが、有権者がそれをうのみにするとは考えがたい。

 目下、「ザ・グレート・リセット」によって「国家」という枠組みを希薄にしようと狙う世界の権力者と、自由・民主という価値観が奪われかねない危機に毅然(きぜん)と立ち上がる「愛国的」な人々が、最終決戦の時を迎えている。

 元バチカン市国行政局次官で、駐米教皇大使も務めたカトリック教会の大司教は「正義と悪の戦い」と表現する。補足すると、バチカンも中共の工作で分断された。

 銃撃戦だけが戦争のカタチではない。巧妙な“人災”で世界を大混乱させた状況は、まさに戦時中であり「新しい戦争のカタチ」なのだ。

 米国の自由と民主主義がこれ以上、劣化し弱体化すれば、日本も無傷ではいられない。しかし、愚民化政策で“情報砂漠”に陥る日本において、本気で立ち上がる政治家や国民はどれほどいるのだろうか?

 ■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。2020年、アパ日本再興財団が主催する、第13回「真の近現代史観」懸賞論文の最優秀藤誠志賞を受賞。著書・共著に『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『覇権・監視国家-世界は「習近平中国」の崩壊を望んでいる』(ワック)、『習近平が隠蔽したコロナの正体』(同)など多数。

【私の論評】日本では、天皇を頂点とする国体はポストコロナにも維持される(゚д゚)!

上の記事にもある「ダボス会議」で有名な世界経済フォーラム(WEF)は、新型コロナウイルスによるパンデミックを、資本主義を完全にリセットする好機と捉えているようです。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウンは徐々に緩和される可能性があるが、世界の社会・経済の見通しに対する不安感は高まるばかりだ。こうした不安にはもっともな理由がある。急激な景気の悪化がすでに始まっており、(世界恐慌が起きた)1930年代以降で最悪の不況に直面する可能性があるからだ。だが、このような結末を招く可能性は高そうに見えるものの、まったく避けられないわけではない」

「結末をより良いものにするために、世界は、教育から社会契約、労働条件に至るまで、我々の社会と経済のあらゆる面の改革に向けて、今こそ手を取り合い、素早く行動しなければならない。米国から中国に至るすべての国の参加と、石油やガスからテクノロジーに至るあらゆる産業の変革が必須だ」

「要するに我々は、資本主義の『グレート・リセット』を必要としているのだ」

世界経済フォーラムではその取り組みを、「グレート・リセット・イニシアティブ」として掲げています。

     昨年10月14日、菅総理は、総理大臣官邸でクラウス・シュワブ世界経済フォーラム
  (WEF)会長等とのテレビ会議を行った。

ところが、「我々の社会と経済のあらゆる側面を改革する」という表現には、不吉な響きがあります。特にそれが、世界経済フォーラムという、世界経済を回している側とされる人々からの発信となればなおさらです。

さらに言えば彼らの提言は、本音の部分では、自分たちは多少の増税等を受け入れる程度の負担増で済ませ、資本主義の連鎖の末端にいる人々に大変革の重荷を引き受けさせようというものです。

教育や社会の契約、労働条件のリセットについて議論しようと思えば、根本的な社会的課題に触れることになります。米国の社会構造には大幅な変革が必須であり、実際に今後は変革が起きるでしょう。

民主・共和という党派で分断された現在の米国の政治状況を見れば、変革の必要性は明白です。どちらの側に属するにせよ、あまりに多くの人が、現行の「社会契約」(その定義はともかく)が、自分たちにとって機能していないと感じているようです。収入および富の不平等は、現実の大問題です。

しかし世界経済フォーラム流の「グレート・リセット」が、こうした現状の解決策になるとは思えません。

幸い、世界経済フォーラムが大きな成果を挙げることはないでしょう。それはむしろ、有り余る富と権力を持つエリートたちが、大衆に救いの手を差し伸べるフリだけをして自らの後ろめたさを和らげる一方で、その過程でさらなる富と権力を手にするという、ありがちな図式の一例に過ぎないと思われるからです。

そもそも、今回のコロ禍が「グレート・リセット」のきっかけになるかどうかも定かではありません。それは、過去のパンデミックをみてみればわかります。

たとえばスペイン風邪はまさに近現代的な伝染病でした。大規模な遠隔地への高速移動が、ウイルスを瞬く間に世界中に拡散させてしまったのです。しかし、同様のパンデミックは14世紀にも起こっていました。それが大黒死病・ペストです。

1918年のスペイン風邪は最低でも5,000万人以上が亡くなったと推定されていますが、14世紀に蔓延したペストは世界全体でそれを遥かに上回る7,500万人から2億人の死者を出しています。当時8,000万人だったヨーロッパ人口のうち、実に60%が命を落としたのです。

ペストは歴史上、無数の頻発のほかに3回の大流行が起こったのですが、なかでも1347年から1352年にかけての史上最悪のペストは「黒死病」として知られています。

このペストのパンデミックは、1346年にモンゴル軍(キプチャク・ハン国)がクリミア半島のカッファ(現フェオドシア)という黒海最大の港湾都市を攻撃したことから始まりました。カッファは北イタリアのジェノバの植民都市であり、黒海のイタリア交易の中心地でした。


いざ攻めてみるとカッファの守りは固く、数週間の膠着状態が続きました。この戦いの最中に陣営内でペストが発生し、モンゴル軍は撤退を余儀なくされました。その際にペストで死んだ遺体を投石機に乗せて、遺体を城壁の中へと飛ばして退却したといわれています。ペストは感染拡大が早く、そのうえ死亡率が高いためにバイオテロに使用される危険があると現代でも各国で警戒されているほどです。

ペストは瞬く間にカッファ城塞内で感染拡大し、ジェノバ商人たちは疫病から逃れるためにイタリアへと逃げ出しました。ペスト菌とともに。

ペストを積んだ船は交易拠点であるコンスタンティノープル、シチリア、サルディニア、ジェノバ、マルセイユへと寄港しました。その港はどれも交易の中心地であったため、それら主要港湾からヨーロッパ全体にペスト菌が拡散していきました。

ヨーロッパだけではありません。コンスタンティノープルからエジプトのアレキサンドリア経由で北アフリカ、中東にまで達しました。唯一、ペストを免れることができたのは、人口が少なく往来もなかったフィンランドとアイスランドだけであったといわれています。

こうして高度に発達した交通網にのって、ペストは瞬く間に全ヨーロッパへと広がっていったのです。

このペストは人口が激減するだけでなく、ヨーロッパ世界の社会構造の変化を「加速」させることになったのです。

当時のヨーロッパでは、疫病は神が下した罰とみなされていました。神が疫病によってその人の悪を裁いたのだと考えるのが一般的であり、ペストに罹ったことは自業自得の結末、悪徳の証明でした。そのためペストは当初、「だから教会の言うことに背いてはならない」という教義的プロパガンダに利用されもしました。

神の代弁者である教皇・クレメンス6世は神に祈って赦しを乞うたのですが、それでペストが鎮まることはありませんでした。教会はさまざまな勅書を出したのですが、対処的なものに止まり、予防や拡大防止に対する実効的な施策を打ち出すことができませんでした。

クレメンス6世はついに万策尽き、ペストから逃れるために教皇庁のあったアヴィニヨン(この当時、ローマではなくフランスのアヴィニヨンに教皇庁があった)から避難してしまいました。疫病が教会の人間を避けて感染することなどという奇跡はないのです。聖職者もまた「悪徳の証明」であるはずの疫病に感染して死んでいきました。

人々が直視を避けていた教会権力の存在意義と疑念が、ペストを契機にして白日のもとに曝されてしまったのです。

一般に「ペストが封建体制を崩壊させた」と説明されることが多いですが、それは正しい言い方ではありません。なぜなら、そのころすでに、封建体制は崩壊しかけていたからです。

ペスト大流行以前、ヨーロッパ社会は限界に達していました。農奴と呼ばれる人々に対して貴族領主や教会などが土地を貸し付け、その対価として地代を納めさせる「荘園制」という経済システムの全盛期でありました。

ペスト以前の13世紀に地代は高水準に達し、農奴たちは生産効率を無視して次々に周辺の新領域へと耕作地を広げていきました。拡大した耕作地を維持するための労働力はといえば、自分の子どもたちです。多ければ多いほどに生産力は上がります。こうして数世代を経て人口は最大限まで膨張していきました。

しかし生産力の限界まで人口を伸ばしたために、少しの天候不順や不作が起これば深刻な飢饉に陥る極めて不安定な状態になってしまっていたのです。現に1315年から17年にかけて大飢饉がヨーロッパを襲っています。既存の社会システムの耐用年数が、もはや限界を迎えてしまっていたのです。

1347年、そこに大黒死病・ペストが到来しました。

ペストの大量死による人口消耗は人口復原力を上回り続けました。人口が激減したことが社会に影響を与えたのではありません。度重なるペストの波によって、それが長期化・慢性化したことが社会変化の必要を「加速」させただけなのです。

人口減少によって希少になった労働力は、当然ながら価値が高騰します。そこで領主は荘園維持の労働力確保のために、土地代や税金を免除するなどの待遇改善を図りました。しかしその一方で、1337年から英仏間で続いていた百年戦争とペストによる追い打ちで困窮しきった領主は、フランスでは農業労働力に対して領主支配力の強化を行い、イギリスでは重税を課すなどの政策を実効してしまいました。

その結果、同じような時期にフランスではジャック・リーの乱、イギリスではワット=タイラーの乱(ピーザント・リボルト)という大規模な農民反乱が勃発してしまうのです。

ふたつの反乱は鎮圧をされたのですが、このあと両国の運命はまったく違ったものになっていきます。

フランスでは、王が経済再建に行き詰まった貧困領主を支援して封建制を再建させ、弱体化した領主を取り込むことによって自らの権威を高めていきました。この王権が、フランス絶対王政へと連なっていきます。

一方、イギリスでは農民反乱を予防するために領主の農民支配は急速に弛緩します。その領主層はやがて王位継承を巡る内乱(バラ戦争)で断絶・衰退していきました。その代わりに新たなジェントリ層や商人層が政界に参入し、イギリス的な脆弱な絶対王政が確立されていくことになります。

この事例のように、ただ単純にパンデミックによってのみ社会が変化したわけではないことがわかります。社会は潜在的に構造転換を必要としていたのです。イギリス・フランスのジャック・リーの乱、ワット=タイラーの乱(ピーザント・リボルト)という大規模蜂起という民衆の積極的行動が、構造変化を加速させたのです。社会構造の変化は、パンデミックを「耐え抜いた」後に自動的にご褒美として付いてくるようなものでは決してないのです。

ペスト被害の最も深刻な地域のひとつはイタリアでした。フィレンツェ市の人口9万人のうち4万人余が、シエナ市とその周辺人口9万人のうち約80%にあたる8万人の人口がペストによって喪失しています。

ペストがルネサンスという創造的時代を形成したとする言質を多く目にしますが、そのような単純なものではありません。12世紀のイスラーム文化との接触や、14世紀初めの商業都市の繁栄、1453年に古代ギリシア・ローマ研究が発達していた東ローマ帝国の滅亡(ギリシア人の知識人が書物と知識を携えてイタリアに亡命してきた)などの諸要素が偶発的に絡み合った結果なのです。無論、ペストも不可欠な要素のひとつであるのですが、「ペストがきたからルネサンスが起こった」というわけではありません。

そもそも、ペストとルネサンスの間にはかなりのタイムラグがあります。イタリアを襲ったペスト大流行の第一波は1347年から1352年にかけてのものですが、初期ルネサンスのギベルティ(ドナテッロの師)とブルネレスキがサンタ・マリア大聖堂の洗礼堂の門扉を製作するコンクールで競い合ったのは1401年のことであるし、ダ・ヴィンチが誕生するのは1452年です。

ペストと向き合うための1世紀の歳月が、人々には必要だったのです。

ペスト以後の絵画として、聖職者や王らが踊る骸骨と一緒に描かれた『死の舞踏』というモティーフがあります。イタリア地域では『死の舞踏』よりも『死の勝利』という骸骨があらゆる階級の生者を討ち倒していくという、より陰惨で暗い絵画が多く描かれました。

これらの絵はすべて、ペストのパンデミックの最中に描かれたものではなく、いずれも1世紀以上経った15世紀以降の作品です。

すべての元凶であるペストを芸術家が絵画作品の主題とするためには、そして人々がペストを絵画として受容できるようになるまでには1世紀もの間、自省と反芻を経て内化していく消化時間が必要だったのです。

人間の物理的な死や既存社会の機能不全という「死」を凝視し、人間存在の脆さに嘆き、失った人間性に気が付くという内省の1世紀を経て、人間本来の精神を解放し、人間の在り方を再考しようとする創造的な文化運動「ルネサンス」が花開くのです。

ハンス・ホルバイン木版画死の舞踏』(1538年


そして現代、我々はいささか驕慢になっていました。特に先進国の人々は自分たちが史上最高なのだという驕りであったかもしれません。パンデミックなど過去のものであり、発展途上国は別にして、先進国では大感染はもう起こらないだろうと高をくくっていました。

しかし、そうではありませんでした。人類が押さえ込みに成功したと思っている結核ですが、2016年には「治療薬の効かない」多剤耐性結核菌で約50万人が感染しています。WHOも指摘する通り、油断ならないです。そうして、結核は未だに日本のような先進国でも存在しています。

2014年の夏には、エボラ出血熱はアフリカからイギリス、アメリカ、イタリアにまで広がりました。終息宣言を出す2016年の2年間の間に世界で2万8,616人が感染し、1万1,310人が死亡しました。そうして、今回のコロナのパンデミックです。こうした病がいつ広がるかはわからないです。

アフターコロナについて多くの人がそれぞれの意見を述べています。しかしどれもが受動的です。それは、受難した分だけ福音があるのだ、と心のどこかで期待しているようでもあります。

しかし歴史はそれでは社会は何も変わらないことを、例示をもって教えています。新型コロナによって新しく起こったこと、これから起こることなどもひとつもないのです。すべては潜在的に存在しており、それが「加速」し、「露呈」したか、これから露呈しいくに過ぎないの
です。

「ザ・グレート・リセット」、「バラダイム・シフト」などと称して、コロナ禍後に期待しても、それ以前から何かが芽吹いていないと、何も起こらないのです。

ましてや、中国の「マスク外交」や「ワクチン外交」にしても、何ら新しい動きにはつながらないでしょう。

現在の米国の大統領選挙に関しても、もう随分前から「不正」については囁かれていました。ディープステートの存在も知られていて、これと戦おうとしたのは、ケネディにつづいて、トランプ氏が二人目です。どうして、米国ではまともな選挙ができないのだろうと、多くの人が訝しんでいました。今回は、コロナ禍とともにそれが「加速」して「露呈」したとみるべきでしょう。この問題は、直近のトランプ氏の戦いで終わることなく継続されるのは間違いないです。

なお、以上では、ペストに関連して述べてきましたが、スペイン風邪についても同じことがいえると思います。中世のヨーロッパに関しては、様々な研究がすすみ、かなり客観的な分析ができますが、スペイン風邪に関しては、歴史的にいえばまだ新しいということもあり、客観的な分析がしにくい面もあり、ここでは中世のペストに関して述べました。

COVID-19とスペインかぜを比較してみると、そこには数々の相違点があります。

この2つは全く異なる病気であり、その病気の原因となっているウイルスも異なります。COVID-19の原因はコロナウイルスであり、スペインかぜやこれまで登場した他のインフルエンザパンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルスではありません。

致死率の年齢別の分布も全く違います。1918年のスペインかぜは特に新生児や若い世代の人々にとって脅威的でした。COVID-19の原因となっているコロナウイルスは、中国での流行初期のエビデンスからもわかるように、特に高齢者にとって致命的なものだと見られています。

また、スペインかぜの大流行に関してはたくさんの国がその情報を非公開にしようとしていたのに対し、現在はデータや研究、ニュースなどが完全ではないにしろ中国を除いてシェアされていることから、過去とは状況がとても異なります。

同時に、現在ではかつてとは比較にならないないほど世界がつながっているのも事実です。1918年当時は線路や蒸気船が世界をつないでいる程度でしたが、飛行機が発達した現在では、人もウイルスもごく短時間で世界中を移動することが可能となっています。

保険医療のシステムやインフラも当時とは大きく異なっています。スペインかぜが世界を襲ったのは、抗生物質が発明される前だったことから、おそらくほとんどの死亡はインフルエンザウイルスそのものによるものではなく、細菌による二次感染だったことが考えられます。

2008年の発表で、Morensらは「スペイン風邪の死者のほとんどは上気道の細菌によって引き起こされた二次感染による細菌性肺炎が原因だった可能性がある」と述べています。

また、健康システムだけではなく、当時の世界は健康状態や生活環境が全く異なっていました。1918年に被害を受けた人たちの大部分はとても貧しい層の人たちであり、その多くの人は栄養失調状態にありました。

世界人口のほとんどが当時は劣悪な健康状態にあり、高い人口密度に加え、衛生状態も悪く、衛生基準自体が低いことが当たり前の時代でした。それに加え、世界のほとんどの地域は戦争で弱っていた時代です。公的な物資は少なく、多くの国々がその資源の多くを戦争に使い切った後だったわけです。

世界の大部分が今では豊かになり、健康状態も良好に保たれています。しかし、そんな今の世界において、やはり一番懸念されているのは、COVID-19の大流行によって一番打撃を受けるのは、貧しい層にいる人々だろうということです。

スペイン風邪の後でも、世界のグローバル化は進行し、第二次世界大戦を経て、さらにグローバル化は進展しました。パンデミックが起こっても、この流れは変わらなかったのです。世界は、グローバル化を止めるのではなくて、健康システムの改革や、富の偏在を従来よりは少なくする方向に進んだのです。

今回のコロナ禍で直接世界が変わることはないでしょう。変わるとすれば、コロナ以前から内包していた変化の動きが加速されることです。

その最たるものは、中共が米国に変わって新たに自分たちに都合の良い世界秩序に作り変えようと企図していることに、米国が気づき、その動きを止めようとしたことです。2018年には、その企図を習近平が明らかにし、米国はその頃から超党派でこれに対抗するようになりました。

その後香港の問題があった頃から、世界の先進国のほとんどが、この動きに追随するようになりました。ポストコロナではこの動きが加速化することになるでしょう。

さて、ポストコロナで、日本でも様々なことが起こると予想している人もいますが、やはり注意しなければならないのは、コロナが直接社会を変えるのではなく、すで起こりつつあることが、コロナによって顕在化したり、加速化されるということです。

世界は、ナショナリズムに回帰しつつも、真の自由貿易をこれからも続けていくでしょう。自由貿易を制限するのではなく、真の自由貿易ができるように、システムを変えていくことでしょう。

スペイン風邪で、グローバル化が止められなかったのと同じく、コロナ禍で何もかもが分断することはないということです。「ロックダウン」「ステイホーム」「ソーシャルディスタンス」「テレワーク」、そして「サスティナブル(=持続可能な)」などの言葉や、「ザ・グレート・リセット」のような仰々しい言葉は別にして、昨日の述べたように、日本では天皇を頂点とする国体はポストコロナにも維持されることでしょう。

様々な珍奇な言葉に、惑わされることなく、私達は堅実に人々の役に立つ仕事(普通の人が普通にしている仕事)をこれからもし続けて、社会を良くするための変化は受け入れつつ、日々歩み続けていくべきなのです。

そうしなければ、クレメンスⅥ世のような運命をたどることになるかもしれません。米国の大統領候補バイデンすらも、そうならないという保証はないのです。

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2021年1月1日金曜日

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 【全文掲載】天皇陛下 新年ビデオメッセージ

2021年1月1日 5時31分 皇室



(天皇陛下)
皆さん新年おめでとうございます。

(皇后陛下)
おめでとうございます。

(天皇陛下)
今年の正月は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、残念ながら一般参賀の場で皆さんに直接お話をすることができなくなりました。そこで、今回は、ビデオで新年の御挨拶をしようと思います。

振り返りますと、昨年7月に、豪雨により多くの尊い命が失われたことは痛ましいことでした。御家族を亡くされた方々や、住む家を無くし、仮設住宅などで御苦労の多い生活をされている方々の身を案じています。

この1年、私たちは、新型コロナウイルスという、今の時代を生きる私たちのほとんどが経験したことのない規模での未知のウイルスの感染拡大による様々な困難と試練に直面してきました。世界各国で、そして日本でも多くの方が亡くなり、大切な方を失われた御家族の皆さんのお悲しみもいかばかりかと思います。

そのような中で、医師・看護師を始めとした医療に携わる皆さんが、大勢の患者さんの命を救うために、日夜献身的に医療活動に力を尽くしてこられていることに深い敬意と感謝の意を表します。同時に、感染の拡大に伴い、医療の現場がひっ迫し、医療従事者の皆さんの負担が一層厳しさを増している昨今の状況が案じられます。

また、感染拡大の防止のために尽力されている感染症対策の専門家や保健業務に携わる皆さん、様々な面で協力をされている多くの施設や、国民の皆さんの努力や御苦労も大変大きいものと思います。

この感染症により、私たちの日常は大きく変わりました。特に、感染拡大の影響を受けて、仕事や住まいを失うなど困窮し、あるいは、孤独に陥るなど、様々な理由により困難な状況に置かれている人々の身の上を案じています。感染症の感染拡大防止と社会経済活動の両立の難しさを感じます。また、感染された方や医療に従事される方、更にはその御家族に対する差別や偏見といった問題などが起きていることも案じられます。その一方で、困難に直面している人々に寄り添い、支えようと活動されている方々の御努力、献身に勇気付けられる思いがいたします。

私たち人類は、これまで幾度も恐ろしい疫病や大きな自然災害に見舞われてきました。しかし、その度に、団結力と忍耐をもって、それらの試練を乗り越えてきたものと思います。今、この難局にあって、人々が将来への確固たる希望を胸に、安心して暮らせる日が必ずや遠くない将来に来ることを信じ、皆が互いに思いやりを持って助け合い、支え合いながら、進んで行くことを心から願っています。

即位以来、私たちは、皆さんと広く接することを願ってきました。新型コロナウイルス感染症が収まり、再び皆さんと直接お会いできる日を心待ちにしています。

そして、今年が、皆さんにとって、希望を持って歩んでいくことのできる年になることを心から願います。ここに、我が国と世界の人々の安寧と幸せ、そして平和を祈ります。

(皇后陛下)
この1年、多くの方が本当に大変な思いをされてきたことと思います。今年が、皆様にとって少しでも穏やかな年となるよう心からお祈りいたします。

また、この冬は、早くから各地で厳しい寒さや大雪に見舞われています。どうぞ皆様くれぐれもお体を大切にお過ごしいただきますように。

【私の論評】天皇彌榮。国民を思い祈り続けてくださる天皇陛下という存在を忘れずに、私たちも生き続けていこう(゚д゚)!

今年は、コロナ禍もあり上の記事にもあるように、異例のビデオメッセージが発信されました。 さらに宮内庁は1日付で、新年を迎えられる天皇ご一家と上皇ご夫妻、秋篠宮ご一家の写真を公表したが、例年はご一家そろって撮影するが、新型コロナウイルスの感染防止のため集まるのを控え、昨年12月に別々に撮影されたそうです。

このコロナにおいて、ビデオメッセージが発信され、多くの国民が視聴する機会が得られたことの意義は大きいです。

新年を迎えられる天皇ご一家=2020年12月21日、東京都港区の赤坂御所(宮内庁提供)

日本は歴史がある国です。先人たちの軌跡は記録で残され、考古学でも2000年はさかのぼることができます。これは素晴らしいことです。そうして日本人が2000年以上大切にしてきたものが天皇です。その理由はもはや誰もわからずとも、そこには何か意味があるわけです。

天皇があっての日本であり、天皇はいわば日本そのものを守り続けている存在であるといえるのではないでしょうか。宮中は古いものを残すことに価値を見出してきた世界です。日本の古きよきものが、社会では失われていても、宮中で継承されています。

三種の神器 (『古事記』によれば、瓊瓊杵命(ニニギノミコト)が地上世界に降りてくる際に託され、ひ孫で初代天皇である初代神武天皇へ継承された) はその最たるものです。

三種の神器とは神代に神々の手によってつくられた剣、勾玉、鏡であり、初代天皇以来、第125代にあたる現在の天皇陛下まで継承されています。

三種の神器

いわば天皇が天皇であるための証しです。

その価値とは物質的なものではなく、そこに天照大御神 (アマテラスオオミカミ。日本神話の中の最高神。天皇の祖先であり、すべての国民の祖神(おやがみ)として伊勢の神宮(内宮)をはじめ、日本の多くの神社に祀られている) の御神霊が宿るということなのです。

そして2000年以上の長きにわたって、歴代天皇は国民一人ひとりを我が子のように愛し、その幸せを祈り続けてきました。ですから天皇とは何かと問われば、祈る存在だとお答えするのが一番正確かもしれません。

日本とはどんな国かを考えるとき、国歌である「君が代」を知ればその姿が見えてきますね。外国の国歌と比較すれば、君が代がいかに素晴らしいかがわかります。

多くの外国の国歌は、国家のために敵を打ち負かし、正義の戦いに勝ち抜いてきたという誇りを歌い上げた軍歌という性格を有しているものが多いです。

君が代はその対局にあります。もともとは、五七五七七からなる和歌であり、古今和歌集に祝いの歌として収録されていたものです。

「君」は大切な人という意味で、国歌では天皇陛下を指します。つまり天皇陛下に長生きしてもらいたいということを神に祈る歌なのです。


そもそも陛下は和歌を通じて国民の幸せを祈ってくださっています。歴代天皇がお詠みになる和歌を御製(ぎょせい)といいますが、御製とは日本国民の幸せを願う祈りそのもの。五七五七七は神に直結するリズムです。

それに対して我々が天皇陛下にできることは、君が代を歌って陛下の長寿を祈ることぐらいなのです。

君が代にさざれ石という言葉を用いたのが、なんとも日本らしいと思います。古事記では岩そのものが永遠の象徴です。さざれ石はただの石ではなく、もともと小さな石が何万年、何十万年という時間を経て岩に成長する、という悠久の時間と永遠性を秘めた存在です。しかもそこにびっしりと苔がむす、それほど君が代が続いてほしいという意味です。

日本人の豊かな精神性に改めて気づかされます。今後の儀式の中で多くの国民が万歳をすると思います。その万歳 (いつまでも生き、長く栄えること。まためでたいこと、 喜ぶべきこと) にも意味があります。日々国民の幸せを願ってくれる天皇陛下が、お元気で長く生きていただきたいというお返しなのです。

さて、天皇の“お仕事”として、最も重要な儀式とされる1月1日の「新年祝賀の儀」でどのようなことを天皇がされているのかみてみます。

午前10時、天皇、皇后両陛下は皇居・宮殿「松の間」(最も格式の高い部屋)で各皇族からの(新年の)祝賀を受けます。両陛下で正面に立ち、皇太子さま、皇太子妃雅子さま、秋篠宮さま、秋篠宮妃紀子さま、他の宮家皇族……(それぞれ男性皇族、妃殿下の順)。

11時になると、松の間の向かって右隣にある「梅の間」で首相、各大臣、官房長官・副長官、各副大臣らの夫妻から祝賀のあいさつ。続いて再び松の間に移動、衆・参両議院の議長・副議長、正月も東京に残っている国会議員らの夫妻から同様に。その後、左隣の「竹の間」に移動し、最高裁判所長官、同判事、各高等裁判所長官らの夫妻から。

11時半からは、各中央省庁の事務次官、都道府県の知事や都道府県議会議長ら(宮内庁が毎年交代で複数指名する)の夫妻から。

午後2時半になると、松の間で、各国の駐日大使夫妻から祝賀を受けるが、午前に行われた各あいさつのように代表だけが行うのではなく、約130カ国全ての夫妻が順番に両陛下の前に進み出てあいさつします。これだけで約1時間。その間、両陛下は立ちっ放しです。

儀式としての新年祝賀の儀は以上ですが、実は元日は、午前10時からのこの儀式開始前、住まいの御所(宮殿から約500メートル離れている)で、普段、両陛下の身の回りのお世話をする宮内庁侍従職の職員からの新年のあいさつも受けられています。今年は、コロナウィルスの影響もあり規模は縮小されます。

ところが、天皇の仕事はこれのみではないのです。さらにそれをさかのぼること約4時間、午前5時半に陛下は宮中三殿に付属する神嘉殿(しんかでん)の前の庭で、古式装束を身に着け、国家の安寧と豊作を四方の神々に祈る「四方拝(しほうはい)」という祭祀を行われます。この時間はまだ暗く、気温は例年は約3度です。さらに5時40分から、宮中三殿で拝礼する年始の祭祀「歳旦祭(さいたんさい)」に臨まれます。

これらのほか、天皇の公務には、社会のさまざまな功労者と面会しねぎらう「拝謁」(年約100件)、訪日した外国の要人と皇居で面会する「会見」(約50件)、既に紹介した儀式に含まれていますが、外国から日本に赴任する大使が持参の信任状(派遣する側の国の元首が、任命した大使の人格・能力を保証し、外交特権を与えてほしい旨を記した文書)を天皇が宮殿で受け取る「信任状捧呈式」が約40件。

2004年現上皇陛下が天皇であらせられたときには、年間119日の土・日曜、祝日のうち、代休が取れず、陛下が“休日出勤”された日が計30日、つまり1カ月分ありました。また、春・秋など式典が多く、叙勲シーズンとも重なれば、1日に6件の公務が入る日もあります。

こうして公務を積み重ねていくと年間約700件もの公務を行われることになります。式典は土・日曜に多く、平日も公務があるため“代休”もままならないのです。

上皇陛下から今生天皇へのご譲位の背景は、こうした実態があったことをぜひ、皆様知っておいてほしいです。

先に述べたように「万歳」が「日々国民の幸せを願ってくれる天皇陛下が、お元気で長く生きていただきたいというお返し」という意味が決して大げさなものではないことを御理解いただけるものと思います。

最後に、私たち「いやさか」(日本人が守り伝えてきた大和言葉で、本来の生命力をいきいきと発現させ、ますます栄えるという意味) という言葉を使います。これも君が代や万歳に通ずるものです。天皇陛下がお元気であられ、日本が栄え、そして私たちみんなお幸せにというイメージをもって「天皇彌榮」(すめらぎいやさか)と唱えるのです。これは言霊ですから。すると日本そのものがまた力をもち、国民も幸せで、一人ひとりは自分らしく生きていくことになるのです。

これは「八絃為宇」(はっこういちう。日本書紀に神武天皇の言葉として記されたものに基づく。私たち日本人はさかのぼれば皆親戚で、日本列島は家である。だからみんなで協力して幸せになろうと説いた) という言葉をもって日本を束ねていった神武天皇の建国の精神そのものです。

天皇陛下が4月末に譲位なさり、新天皇陛下が御即位になります。これは祭祀の継承ということで、三種の神器を受け継ぎ、現在の天皇陛下がなさっている祈りを、今度は新天皇陛下がお引き継ぎになります。

世界ではたくさんの国ができては崩壊すことを繰り返してきました。いろいろな国家統治のスタイルがあったと思います。軍事力、カリスマ性、頭脳……。

では日本の天皇はといえば、「祈り」なのです。

誰も見ていないところで、祈りを通じて国を束ね上げていらっしゃったのです。人々の心がひとつに束ねられ、国土、文化、経済などあらゆるものが強固になり、いまこうして日本という国が存在しています。これが我が国の国体なのです。

人は、決して自分一人では生きていけない、だからこそお互いを思い合い、その和の心で国家が成り立っています。国民を思って常に祈り続けてくださる天皇陛下という存在を忘れずに、私たちも生き続けていきたいです。

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2020年12月31日木曜日

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 中国の世紀にはならない 日米欧の知が世界の針路を語る


左から細谷雄一氏、ジャック・アタリ氏、エドワード・ルトワック氏

 令和2(2020)年、新型コロナウイルス禍が混沌(こんとん)に陥れた世界はこの先、どこへ向かうのだろうか。産経新聞はフランスの経済学者で欧州を代表する知識人のジャック・アタリ氏(77)と戦略論研究で世界的権威の米歴史学者、エドワード・ルトワック氏(78)、国際政治学者の細谷雄一氏(49)によるオンライン鼎談(ていだん)を開催し、世界と日本がとるべき針路を語ってもらった。3氏は、民主主義を守るためにも、加速する変革に積極的に対応していく姿勢が必要だと説いた。

<3氏が語った「21世紀のキーワード」を読む>

 鼎談は7日に行われ、産経新聞の井口文彦執行役員兼東京編集局長が司会を務めた。アタリ、ルトワック、細谷の3氏は5月に、コロナ禍の影響を識者が語る連載

「コロナ 知は語る」にも登場している。

 コロナ禍は現代の社会や経済など各分野で従来の価値観を揺さぶり、そのあり方に変革を迫る。3氏はこれに対し、人々の生活がコロナ禍以前の状態に戻ることはなく、また、戻ろうと考えるべきでもないとの認識で一致した。

 アタリ氏はその上で、医療や教育など「命」にかかわる分野を重視した経済・社会構造への転換を求め、「次の脅威に備える」よう訴えた。ルトワック氏は技術革新の加速に対し、「私たちはコントロールする術(すべ)を理解できていない」と警鐘を鳴らし、グーグルなど「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる米IT大手4社による市場独占への対処など、政治レベルによる技術革新の管理を求めた。細谷氏は「アフターコロナに早く慣れた人や国が世界をリードする」と述べた。

 一方、国際社会ではいち早くウイルスを封じ込めた独裁体制の中国が、民主主義国家に対する「優位性」に自信を深め、米国主導の国際秩序への対抗姿勢と覇権奪取への意欲を鮮明にする。だが、3氏は民主主義の衰退と中国の覇権確立の可能性を明確に否定した。

 アタリ氏は独裁体制に付随する隠蔽(いんぺい)体質が感染拡大を招いたのであり、中国は封じ込めの成功例ではないと指摘。「中国は世界のリーダーになろうとするが、成功しない」と述べた。

 ルトワック氏は「民主主義国家はいつも弱く見えるが、歴史的に勝利を収めてきた」と語り、その理由について、独裁体制にはない自浄能力で「過ちを正してきたからだ」と強調した。

 細谷氏は「21世紀の形」が「2021年からの10年間で決まる」とする一方、「『中国の世紀』になるとは思っていない」と述べ、日米と欧州、インドを中心に民主主義国家が連携を深めれば、「民主主義は世界の中心的な流れであり続ける」と予測した。

【私の論評】人口の多い中国に、先進国が協同して対抗すれば、今世紀が中国の世紀になることはない(゚д゚)!

今世紀が中国の世紀とならないことは、はっきりしています。ルトワック氏が語るように「民主主義国家はいつも弱く見えるが、歴史的に勝利を収めてきた」からです。一言でいうと、このようになってしまいますが、この言葉には多くの意味がこめられていると思います。

エドワード・ルトワック氏

このブログで今年も、主張してきたように、民主主義国家になるためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化は避けて通れません。

なぜ、民主主義国家でこのようなことが行われたかといえば、元々は富国強兵のためでしょう。それは、エリザベス朝のイングランドにまで遡ることになると思います。

エリザベス朝のイングランドには、今日の我々の生活の原点があります。今日の我々の生活様式の中のほとんどすべてのものが、すでにありました。現代の鉄道、電信、病院の原型ができたのもこの時代です。その他にもたとえば、コンピュータの原理もすでにこの時代にできあがっていました。

スペインの無敵艦隊を破り、絶頂期のエリザベス1世

ただし、そのころはコンピュータを実現するための、素材やインフラが整っておらず、それでコンピュータがこの時代には登場しなかっただけです。しかし、後にこの時代に登場した原理、理論と、最新の素材を用いて現在のコンピュータができあがりました。

なぜこのようなイノベーション(ここでいうイノベーションとは社会を変革することという意味、社会を変革しない技術革新なるものや、その他の革新なるものは珍奇な発明や考えの集まりにすぎません)がこの時代に起こったかといえば、富国強兵策としてイングランドが他国に先駆けて、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現したからです。ここでは、なぜ実現したか、なぜ実現できたのかという話は長くなるので省略します。

その結果何が起こったかといえば、ジェントルマン等の中間層が多数輩出され、これらが自由に社会・経済活動を行い社会のあらゆる層や地域において、様々なイノベーションを起こしました。私はこうしたイノベーションを立体的なイノベーションを呼んでいます。その結果社会が富むようになり、さらにその結果として国が富み、軍事力を強化することができ、強国となりました。

それは、他国に軍事的脅威の念を及ぼし、現在のフランス、ドイツなど他国においても、民主化、政治と経済の分離、法治国家化うながされました。それを実現しなかった国々は、強国となれず脱落していきました。

結局、民主化、政治と経済の分離、法治国家を実現することはかなり困難なことであり、それを実現できた国だけが、いわゆる列強と呼ばれた国々になったのです。今日でも、これはこんな困難なことであり、経済発展する発展途上国のほとんどが、いわゆる中進国の罠(あるい中所得国の罠、経済発展をする発展途上国のほとんどが、一人あたりの年収10万ドル=100万円の壁を超えられないことを示す)に嵌ってしまうのです。


ただし、列島国の全部が白人国家であり、これらの白人国家は自国や他の白人国家の民主化は当然のこととしましたが、それ以外の国々の人々の人権を重んじることなく、植民政策を推進しました。無論、植民した国々に関しては民主化をすすめることはありませんでした。

これは、大きな矛盾であり、結局列強による植民地支配は失敗しました。列強国が想定したように、植民地支配は富をもたらすことはありませでした。それは当然といえば当然です。植民地でも民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現しなければ、結局大きな富を生み出すことはできないからです。

こうした列強の植民化に脅威をいだき、日本は明治維新を成し遂げ、急速に近代化をすすめ、先進国の仲間入りを果たしました。いわゆる列強以外の国の発展登場国から先進国になったのは、今でも日本だけです。そうして、二度の大戦を経て、すべての列強国は植民地を手放し、当外国の独立を認めることになりました。

中国共産党は、民主化、政治と経済、法治国家化を実現せずに、経済発展しようとしています。しかし、これでは、いくら中共が様々な分野に巨額の投資をしたとしても、できることは限られており、せいぜい点と線のイノベーションはできても、先に述べたような先進国における立体的なイノベーションはおこらず、結局社会のあらゆる層や地域で、非効率や不合理なことが残存し、そこがボトルネックとなって、社会全体が富むことはなく、したがって国も富むことはできないです。

実際、中国の個人あたりの収入は100万円に近づいています。このままだと、日本のように、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現して、先進国への仲間入りということは不可能です。これからも、国民一人あたりの収入が100万以下という状態が続くとみるべきです。

ただし、中国は人口は14億人ですから、一人あたりのGDPが低くても、他国に比較すれば、かなりの軍事費を投入することができます。だかこそ、中国よりも人口が少ない先進国はこれに連携してあたる必要があるのです。ただし、先進国が中国の軍事的脅威や、間接侵略を防ぐことができれば、中国は自滅します。

自滅した中国では、中国共産党が統治の正当性を失い崩壊して、中国が新しい体制になるかもしれません。あるいは、中国共産党がなんとかして統治の正当性を維持できたとしても、図体が大きいだけの、他国に影響力を及ぼすだけの経済力も軍事力もない、アジアの凡庸な独裁国家の一つになり果てることになります。

上の記事では、細谷氏は「21世紀の形」が「2021年からの10年間で決まる」としていますが、実際にはっきり決まるにはそのくらいの時を経ることが予想されますが、コロナ禍の現在では、何事も変化の速度がはやくなることが予想されるので、来年あたりにはその判断材料が集まりはじめ、数年後にははっきり予想できるようになっていると思います。

今年に引き続き、来年もそうした兆候を探っていきたいと思います。

皆様、昨年はお世話になりました。良い年をお迎えくださいませ。

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2020年12月30日水曜日

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 映画『日本独立』がついに描いた日本国憲法の真実

あまりに粗雑で一方的だった米軍による憲法案起草

飛行するB29(1945年、米空軍撮影/パブリックドメイン)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

「ついに出たか」というのが私の実感だった。日本国憲法がどのように作られたのかをここまで現実通りに描いた作品は、映画に留まらずテレビドラマ、歴史書、学術論文など、どの分野を見渡しても日本ではまずないだろう、と感じた。最近、封切られた日本映画『日本独立』(2020年12月18日公開)を見ての率直な感想である。

 今、あえてこの映画について報告するのは、決して作品の宣伝をするためではない。戦後の日本にとって最も重要といえる憲法についての歴史の展開が、これほど簡明に実際の歴史どおりに報告されることは、私の知る限りまずなかったと思えるからだ。だからその歴史の現実を伝え、知るには、この映画の紹介が好材料だと感じた次第である。

映画「日本独立」のチラシ

米軍の将校十数人が一気に起草

 日本の憲法が、占領下の1946年(昭和21年)2月に米軍総司令部(GHQ)の米軍人たちによっていかにあわただしく作成されたか、私はその経緯を、作成にあたった当事者から詳しく聞いた数少ない日本人の1人である。その当事者が語った実際の歴史は、今回の映画で描かれた経緯とほぼ同じだった。

 実際の歴史をこれほど正確に伝えた表現や描写の記録を私は知らない。つまり日本国憲法の草案作りの実態は、歴史として正確に語られることがほとんどなかったのだ。

 ただし、その骨子はすでに多方面で多様な資料によって明確となっている。日本国憲法は、日本がアメリカをはじめとする連合国の占領下にあった1946年2月3日からの10日ほどの期間に、米軍の将校十数人により一気に書き上げられた。この将校団は連合国軍総司令部(GHQ)の民政局次長だったチャールズ・ケーディス米陸軍大佐を実務責任者としていた。「連合国軍」といっても主体は米軍だったのだ。

 ケーディス大佐の直属の上官は民政局の局長のコートニー・ホイットニー准将、さらにその上官は連合軍最高司令官のダグラス・マッカーサー元帥だった。

 日本の新憲法を作成するにあたって、GHQは当初、日本側にその起草を命じた。命を受けた時の幣原喜重郎内閣は松本烝治国務大臣にその起草を任せた。まもなくその草案ができたが、GHQは一蹴してしまった。「内容が十分に民主主義的ではない」という理由だった。その結果、GHQ自身が日本の新憲法を書くことを急遽決定した。そしてその実務がケーディス大佐に委ねられたのだ。

 その結果、書き上げられた日本国憲法案は、3月13日に日本側の幣原内閣に提示された。日本側は内容を不満だとして抵抗を試みたが、しょせんは戦争の勝者と敗者の関係である。ふつうの独立国家であれば、考えられない戦力の不保持や戦争の放棄、さらには自衛の放棄までをうたうような憲法案を受け入れざるをえなかった。

 米国側の意図はもちろん日本を二度と軍事強国にさせないということだった。そのためには、たとえ自国を守るためでも「戦力」や「戦争」は禁止するという意図だったのだ。

反論の余地なく押し付けられた

 映画『日本独立』は、その米国製の憲法案を押しつけられた日本側の責任者たちの米国との交渉、苦闘を描いている。

 その筋書きは歴史どおり、米国のGHQが独断で書いた憲法草案を、「日本政府が自主的に書いた」という虚構とともに日本側にそのまま受け入れることを強制する、という展開だった。

 出演は浅野忠信、小林薫、宮沢りえ、松重豊、柄本明、浅田美代子といったスターたちだ。監督は、かつて東条英機にユニークな光をあてた映画『プライド・運命の瞬間』を作った超ベテランの伊藤俊也である。

 映画のストーリーは、幣原内閣の外相の吉田茂、そしてその知己の国際派実業家だった白洲次郎に焦点を合わせ、「日本を独立国ではなく、まったくの隷属国として扱っている」(白洲次郎の言葉)米国への反発を追っていく。だが、結局は米国の命令どおりに事態は進んでいく。

 この映画の展開は、私にとってきわめて新鮮に感じられた。なぜならこれまでの日本では、憲法をめぐる論議がこれほど長く、これほど広く進められてきても、憲法草案が占領軍の米軍によってすべて作られ、日本側にはなんの反論の余地もないまま、そのとおりに受け入れさせられたという事実が明示されることはまずなかったからだ。

 その意味で、この映画は重要だといえる。改憲にしても、護憲にしても、まず現在の日本の憲法がどんな経緯で、どんな環境下で作成されたかを客観的に知ることは、憲法問題への取り組みの第一歩だからである。これまでの日本の憲法論議では、その事実認定の第一歩がきちんと踏み出されていないのだ。

真の主役、第9条を書いたケーディス大佐

 映画『日本独立』では、米国側のマッカーサー、ホイットニー、ケーディスという重要人物たちも頻繁に登場し、日本側代表と衝突する。だが当然ながら戦争の勝者の占領軍はほぼ100パーセント、その意思を押し通していった。この映画では、そのやり取りがわかりやすく、ドラマティックに活写されていた。

 その米側の多数の登場人物たちの間でも、真の主役はやはりケーディス大佐である。GHQでの肩書は民政局の次長だった。

 ケーディスは当時39歳、コーネル大学、ハーバード大学の出身で、戦前からすでに弁護士として活動していた。1941年12月に米国が日本やドイツとの戦争に入ると、陸軍に入り、参謀本部で勤務した後、フランス戦線で活動した。日本には1945年8月の日本の降伏後すぐに赴任して、GHQで働くようになった。そして赴任の翌年の2月に憲法草案作成の実務責任者となった。

 私はそのケーディスに1981年4月、面会し、日本国憲法作成の経緯を詳しく聞く機会を得た。場所は、当時75歳の彼が勤務していたニューヨークのウォール街の大手法律事務所だった。

 私の質問に、彼は時には用意した資料をみながら、なんでもためらわずに答えてくれた。結局4時間近くの質疑応答となった。

 私は彼の話から日本国憲法作成の状況の異様さに衝撃を受け続けた。なにしろ手続きがあまりに大ざっぱだったからだ。日本側への対処があまりに一方的な押しつけに徹していたからでもあった。そもそも戦勝国が占領中の旧敵国に受け入れを強制した憲法なのだから当然なのかもしれないが、それにしても、なんと粗雑な点が多かったのかと驚かされた。

 彼の言によれば、起草は都内の各大学図書館から他の諸国の憲法内容を集めることから始まり、後に「マッカーサー・ノート」と呼ばれる黄色の用紙に殴り書きされた天皇の地位や戦争の放棄など簡単な基本指針だけが盛り込むべき内容として指示されていた。

 「私自身が書くことになった第9条の目的は、日本を永久に非武装にしておくことでした。しかも上司からのノートでは、戦争の放棄は『自国の安全保障のためでも』となっていました。この部分は私の一存で削りました。どの国も固有の自衛の権利は有しているからです」

 ケーディスは後に日本側から「芦田修正案」が出されたときも、自分の判断だけでOKを与えたという。この修正案は9条の第2項の冒頭に「前項の目的を達するため」という字句を挿入することで、固有の自衛権を認め、自衛隊保持の根拠を供した。

 憲法草案のこうした枢要な部分は、上司のホイットニー民政局長やマッカーサー元帥の承認を事後に得てはいるが、ケーディスの判断だけでも済んだという。

最大の目的は日本の永久非武装化

 このインタビューでケーディス元大佐が私に語った内容の主要点は以下のとおりであった。

・憲法草案の最大の目的は日本を永久に非武装にしておくことだった。

・草案の指針は日本の自国防衛の権利までを否定する意図だったが、自分の一存でその部分を削った。上司の了解は事後に得た。

・「天皇は日本国の象徴」という表現もアメリカ政府の事前の指示にはなく、ケーディスら実務担当者が思いついた。

・第9条の発案者はマッカーサー元帥か、幣原喜重郎首相か、天皇か、あるいは他のだれかなのか、自分にもいまだにわからないままである。

・アメリカ側は、日本政府が新憲法を受け入れない場合は国民投票にかけるという圧力をかけたが、日本側の受け入れには選択の余地はないとみていた。

 以上の5点からも、現在の日本国憲法は日本の占領下に米軍によって書かれ、なおかつ押しつけられたことがあまりにも明白である。しかも日本を永久に非武装にして自国の防衛の能力や意思をも奪おうとしたのだ。戦後の日本は、自国の防衛という主権行為の権利さえも制約された「半国家」にされたと言っても過言ではない。

 日本国憲法は、あまりにも異常な条件下で、占領する側が一方的に作成した憲法だった。その実態が、憲法案作成から75年近くが過ぎたいま、映画のなかでやっと正確に再現されるようになったというわけである。これも令和という新時代になったからこそ、なのだろうか。

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以下に映画「日本の独立」の予告編を掲載させていただきます。この映画必ず見ようと思います。


さて、日本国憲法というと現在の大統領候補のバイデン氏は、4年前の2016年副大統領だったときの8月15日、「我々が(日本を)核武装させないための日本国憲法を書いた」と発言しました。米国の政府高官が、日本国憲法を「アメリカが起草した」と明言するのは極めて異例でした。

2016年8月15日にクリントン大統領候補を応援する演説をするバイデン氏

この発言は、ペンシルベニア州で民主党大統領候補のヒラリー・クリントン前国務長官(68)の応援演説をした際に、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏(70)を批判する中で飛び出しまとた。

イギリスのオンライン新聞「インディペンデント」によると、トランプ氏が日本に対して核武装を容認する発言をしたことに対して、バイデン氏は以下のように言ったといいます。
核武装を禁止した日本国憲法を我々が書いたことを、彼は理解してないのではないか。彼は学校で習わなかったのか。トランプ氏は判断力が欠如しており、信用できない。核兵器を使用するための暗号を知る資格はない

 第二次大戦後の1946年に交付された日本国憲法は、第9条で「戦力の不保持」を定めている。朝日新聞2014年5月2日朝刊によると、日本国憲法は連合国軍総司令部(GHQ)の最高司令官マッカーサー元帥から指示を受けた日本政府が、GHQと折衝を重ねて草案を作成。議会が修正を加えたことになっています。

憲法9条に関しては、当時の幣原喜重郎首相とマッカーサー元帥のどちらが発案したかについて諸説ある。拓殖大学のワシーリー・モロジャコフ教授によると、マッカーサー元帥は「幣原首相の発案」と証言している一方で、マッカーサー元帥の全面的なイニシアチブによるものという説もあるといいます。

しかし、現実は上の記事の内容であったのはほぼ間違いないでしょう。バイデン発言は、大統領選挙の渦中での副大統領発言ではあったのですが、言外には(日本を無力化させるために)という意味合いがしかり込められていたものと思います。

国の根幹に関わる事項での発言であり、独立国家に対して侮蔑的態度です。普通のまともな副大統領・常識的政治家なら、たとえそれが世界常識的真実であっても、日本の国体への「配慮」はあるべきでした。

占領した側がこうも馬鹿正直に告白しているのに、しかし当の日本国内では中国や北朝鮮など周辺隣国から脅威を仕掛けられているのに「他国の善意を信頼して」無防備とする憲法9条を金科玉条とする勢力が根強く存在しています。

日本の国防研究を妨害し続ける学術会議も、こうした日本無力化のひとつの仕掛けです。バイデンはまさに正直に、戦後一貫した米民主党左派の対日無力化戦略を語ったのです。

この発言について、日本政府は発言の真意を確認する必要があると思います。ましてや、バイデンが大統領になるかもしれない現在の状況ではそうだと思います。

これは、占領国による国際法違反の暴挙を自白ともいえるものです。占領国が相手国に憲法を押しつけるのは普遍法「民族自決」への国際法違反です。

そして現状では米国自身のパワーが衰退していく一方で、このドクトリンは未だに堅持されに自縛的憲法を日本はいまだに克服できていないのです。

この呪縛憲法により、我が国は中国・北朝鮮・韓国に未だになめられ続けている状況です。ただ、かれらからすれば、「日本はなにをやっても反撃してこない。米軍にさえ配慮すればいい」という具合になっているのでしょう。

日本には、未だに米民主党政権・軍による占領からいまに引き続く米軍駐留の現実があり、日本社会の裏表に米国統治コントロールシステムの残滓が残り、未だに日本を縛っているのです。

ケーディスといえば、彼が実質的に率いる民政局は、憲法改正、農地改革に次ぐ大事業として、戦争協力者の追放問題に取り組みました。

チャールズ・L・ケーディス

第一次公職追放令をGHQが発令したのは、昭和21年1月4日でした。その狙いは、軍国主義者の追放と、固化主義団体の解散、それに、かつての大政翼賛議員たちの、戦後第一回総選挙出馬を阻止することにありましたた。日本人の受けたショックは、天皇の”人権宣言”よりも、このパージ指令のほうが、直接的なだけに大きなものでした。

民政局が作成した『望ましからざる人物の公職罷免排除に関する覚書』では、次のような人物が追放の対象とされました。
1、戦争犯罪人。
2、職業軍人。
3、大政翼賛会、翼賛政治会、大日本政治会や、その協力団体メンバー。
4、極端な国家主義団体、テロ団体の有力メンバー。
5、旧植民地の占領地に関係した開発機関、有力企業、金融機関の幹部。
6、旧植民地、占領地の行政機関などの幹部。
ケーディスたちの公職追放政策は、これだけではおさまりませんでした。翌22年1月4日からは、中央政界だけでなく、地方政界、自治体、経済界にまで、追放範囲が拡大されたのです。日本中に粛清の嵐が吹きまくったのです。

追放該当者は、二十一万人以上に達しました。

しかしこれは、決して過去の話ではありません。たとえば最近でも、話題となった日本学術会議のありようを通じて、米民主党左派が作った占領システムが実質的に日本社会を支配し続けていることが暴露されたのです。現在に至るまで日本メディアの基本的ありようもこのシステムの一環なのです。

上の記事にもみられるように、過去には明かされなかった日本の構造、戦後世界の秩序がさまざまに暴露されつつあります。

無論こういう社会秩序のなかでもわれわれは日本の「平和」を確保し自立を探ることを冷静に追究しなければならないです。

しかし、占領・米民主党左派の日本永久支配を自白したバイデンは前言をどうするのでしょうか。バイデンの発言当時から同じく外交上なかったことにし続けるのでしょうか。

菅政権はこれを有耶無耶にするべきではありません。これに対して、バイデンに真意を確かめるべきでしょう。そうして、日本はケーディスの呪縛から脱却すべきです。

もう時代は、米国が日本を米国が日本を核武装させないための日本国憲法を書いたときから70年以上もの時がたちました。

そうして、その頃の世界秩序から新しい世界秩序につくりかえられようとしています。まずは、中国が自分の都合の良いように世界秩序をつくりかえようとしています。それに対して米国は、戦後の米国を頂点とする世界秩序をつくりかえることを許すことはさせまいと、中国と対立しています。

しかし、米国としても、戦後秩序はすでに時代にそぐわないことをしっかり認識していることでしょう。いずれにせよ、今後米中を対立の後に世界秩序は新しいく塗り替えられることになるのです。おそらくは、この戦いは中国の敗北に終わることになるでしょう。

それにしても、新たな世界秩序が打ち立てられるのは確実です。そのようなときに、古い戦後秩序に拘泥しているようでは、日本は周回遅れになり、世界から取り残され、結局半人前扱いされかねないことになります。

日本も古い戦後秩序から脱却して、新たな世界秩序づくり参加して、その新たな秩序の中で、リーダー的役割を担うべきなのです。

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2020年12月29日火曜日

《独自》「国産トマホーク」開発へ 射程2千キロの新型対艦弾 12式は1500キロに延伸―【私の論評】菅政権は敵基地攻撃能力を視野に入れていることは明らか(゚д゚)!

 《独自》「国産トマホーク」開発へ 射程2千キロの新型対艦弾 12式は1500キロに延伸


 政府が研究開発を進める新型の対艦誘導弾の射程が約2千キロに及ぶことが28日、分かった。配備が実現すれば自衛隊が保有するミサイルでは最長射程となる。これとは別に、陸上自衛隊が運用する12式地対艦誘導弾の射程を将来的に1500キロに延伸する案が浮上していることも判明。「国産トマホーク」ともいえる長射程ミサイルの整備を進めることで、自衛隊の抑止力強化につなげる狙いがある。複数の政府関係者が明らかにした。

 新対艦誘導弾は防衛装備庁が平成30年度から研究を始め、令和2年度までに計105億円の関連予算を計上した。4年度までに試作品を開発し、同年度中に性能試験を行う計画だ。

 射程は約2千キロで、日本からの地上発射でも中国や北朝鮮が射程に入る。レーダーからの被探知性を低減させるステルス能力や、複雑な動きで敵からの迎撃を防ぐ高機動性も追求する。地上発射に加え、艦船や航空機からの発射も可能にする。

 12式地対艦誘導弾は、今月18日の閣議で射程の延伸が決まった。当面は従来の約200キロから900キロ程度に延ばすが、最終的に1500キロを目指す。

 政府は平成29年にF35戦闘機に搭載するノルウェー製の「JSM」(射程500キロ)と、F15戦闘機に搭載する米国製の「JASSM」「LRASM」(ともに射程900キロ)の取得を決めた。新型の対艦誘導弾と12式の射程はこれらを大幅に上回り、射程1600キロ以上とされる米国の巡航ミサイル「トマホーク」にも匹敵する。

 長射程ミサイルの導入について、政府は「自衛隊員の安全を確保しながら相手の攻撃を効果的に阻止する」と説明する。相手の射程を上回るミサイルを持つことで事態への対処を容易にする狙いがあり、主に島嶼(とうしょ)防衛を想定している。

 南西諸島に配備した場合、1500キロあれば平壌を、2千キロあれば北京をほぼ射程に収める。政府は12月の閣議決定で敵基地攻撃能力をめぐる検討の無期限延期を決めたが、北朝鮮や中国が自衛隊の長射程ミサイルを「敵基地攻撃能力」と認識すれば、日本への攻撃自体を思いとどまらせる効果も期待できる。

【私の論評】菅政権は敵基地攻撃能力を視野に入れていることは明らか(゚д゚)!

日本の対艦ミサイルは、制度はかなり高いということで評判なのですが、射程が短いというこが懸念されていましたが、今回の「国産トマホーク」開発で、それを補うことができます。

「国産トマホーク」の射程を以下に地図の上で示してみました。



九州から東アジアのほぼほぼの全部の脅威になり得る目標に発射できます。これで敵基地攻撃が可能になります。対艦ミサイルは、地上の目標も容易にとらえることができるからです。洋上から2000km射程のミサイルを撃てるということは、中国軍の拠点も狙えるということです。

「平和は戦争につながる」と主張する米国ルトワック氏は、日本が北朝鮮に先制攻撃できるだけの準備を整えるべきことを主張していました。

確かにルトワック氏のいうようにすれば、そもそも朝鮮半島で問題がおこる可能性はより低くなります。北を先制攻撃できるということは、無論韓国も攻撃できるということです。

日本は、あまりに長い間平和を享受しすぎました。そのことが、今日の危機を招いているのです。そうして、日本が変わらなければこの状態は未来永劫にわたって継続します。

この状況を打破するためにも、米国の戦略家ルトワック氏は先制攻撃できるようにすべきと主張したのです。今回の「国産トマホーク」の開発は、このような先制攻撃をできるようにすることにもつながります。

ルトワック氏

今回のこの計画の発表は、日本が将来的基地攻撃能力を取得するという意思表示でもあり、場合によっては先制攻撃も可能にする意思表示ともとれます。

北朝鮮がミサイルを発射する様子をみせれば、それ以前にミサイルを発射して攻撃することも可能になります。しかも、北朝鮮の防空システムは、数十年前から進歩していないので、地上観測班を送ったり、戦闘機を派遣しても、日本の自衛隊が被る被害も少ないです。

今後想定される、敵基地攻撃能力に関しては、射程の長いミサイルを発射するというだけに留めず偵察やインテリジェント、その他も含めて、総合的観点を含め敵基地攻撃能力の整備に関する論議を進めて欲しいです。

弾を撃たれたら時に、その弾を狙って当てて防御しようというイージス・アショアを前提とするミサイル防衛よりは、俺を撃つならお前を撃つぞという「能力」を持つ方が相手は余程大きな抑止力となります。当たり前といえば、当たり前の抑止力です。

地対艦誘導弾の延伸も、中国艦隊を寄せ付けないために極めて重要です。

政府は18日の閣議で、導入を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策として、「イージス・システム搭載艦」2隻を新造する方針を決めました。巡航ミサイルなどに対応する迎撃ミサイル「SM6」を新たに搭載する方向を打ち出しました。

安倍前首相

安倍晋三前首相は6月の記者会見で、陸上イージスの配備断念を契機に、日本を標的とする攻撃を相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力の保有」を検討する考えを示しました。退陣表明後の9月には「年末までにあるべき方策を示す」とする談話を出しました。

これに関し、閣議決定文書は「抑止力の強化について、引き続き政府において検討を行う」との表現にとどめ、期限も区切りませんでした。公明党が能力の保有に反対していることが背景にあり、議論は事実上棚上げされた形です。

ただ、政府が研究開発を進める新型の対艦誘導弾の射程が約2千キロに及ぶことは、菅政権は敵基地攻撃能力を視野に入れていることは明らかであり、最近の世界情勢をみれば、「敵基地攻撃能力」を持つことを決定してから、開発をすすめるのでは時宜を逸するとの判断からであると考えられます。

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2020年12月28日月曜日

中国経済、要警戒水域に、バブル崩壊直前の日本に酷似…失業率「20%」に急増か―【私の論評】日本は日銀の誤謬で緩和しなかったが、中国には緩和したくてもできない理由がある(゚д゚)!

 中国経済、要警戒水域に、バブル崩壊直前の日本に酷似…失業率「20%」に急増か

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員


 英国シンクタンク「経済ビジネス・リサーチ・センター(CEBR)」は12月26日、「中国は当初の予想よりも5年早い2028年までに米国を追い抜いて世界最大の経済大国になる」との予測を示した。CBERが予測を変更したのは、中国が世界各国と比べて新型コロナウイルスのパンデミックに巧みに対処したからである。

 中国は世界で最初に新型コロナの打撃を受けたものの、極めて厳格な措置を講じることで感染拡大を抑制し、経済活動の停止につながるロックダウンを繰り返すことはなかった。その結果、今年の経済成長率は主要国のなかで唯一プラス成長となる見通しである。

 これに対して米国は、感染者数や死者数の多さから見て世界最悪の打撃を被っており、いまだに「出口」が見えない状態が続いている。CEBRは「ここ数年、米中が経済力とソフトパワーの面で争いを繰り広げてきたが、パンデミックの発生は、明らかに中国に有利に働いた」と指摘する。

 世界経済に占める中国のシェアは、2000年時点はわずか3.6%だったが、現在は17.8%に拡大しており、2023年までには「高所得国」になる見込みである。中国が「独り勝ち」の状況は、リーマンショック直後の2009年頃に似ている。当時の中国は、大規模な経済対策を打ち出し世界経済を牽引したが、今回も同様の展開になるのだろうか。

民間ハイテク企業への弾圧

 CEBRは「中国は経済の一部を管理しつつも、ハイテクなど成長著しい分野では民間主導で成長している」としているが、昨今この「成功の方程式」が崩れ始めている。

 筆者の念頭にあるのは、中国の電子商取引大手アリババ・グループに対する当局の露骨な締め付けである。アリババの創業者である馬雲(ジャックー・マー)氏は、中小企業の味方としてイノベーションを推進し、国内で高い人気を集めているが、今年10月、フィンテック企業に対する過剰規制に公の場で苦言を呈した。これがもとでアリババ傘下の金融会社アント・グループの新規株式公開(IPO)が当局によって差し止められたといわれている。中国政府は12月24日「アリババ・グループが独占的な行為に関与した疑いがある」として正式に調査を開始するなど、AI(人工知能)やデジタルメディアなどにも事業を広げる馬氏の企業帝国に対する「弾圧」が続いている。

「金の卵」を産んできた民間ハイテク企業に対する政府の突然の方針転換については、さまざまな論評がなされているが、その背景には何があるのだろうか。

 中国政府が発表する統計によれば、「経済はすでに回復軌道に乗っている」とされているが個人消費の回復は出遅れている。北京大学国家発展研究院のトップは12月17日、「中国の失業率は当局が発表した6%ではなく20%であり、失業者は1億4000万人に達している可能性がある」と指摘した。その理由は、新型コロナのパンデミックにより中小企業が大打撃を受けたためだが、この指摘が正しいとすれば、中国は「失業者の急増」という社会の不安定化につながる深刻な問題に直面していることになる。

 中国共産党の最高指導部は12月に入り、国内経済の「需要サイド」を改革するとの新たな方針を打ち出した(12月24日付ブルームバーグ)。これまでの経済政策の柱は、産業の高度化など「供給サイド」の改革が中心だったが、この方針転換は家計消費の伸び悩みを共産党が懸念していることを示唆している。需要サイドの改革についての詳細は明らかになっていないが、エコノミストは「所得の再分配や社会福祉などの政策が打ちだされるのではないか」との見方を示している。

 需要サイドの改革は、「高所得国」へ移行するためにも急速に進む「高齢化」に対処するためには不可欠だが、必要な財源を捻出するためには、既得権益に踏み込まざるを得ず、激しい抵抗に遭うことは容易に想像できる。このため「しがらみの少ない民間企業から手を付けよう」と思っていた矢先に、「出る杭は打たれる」ではないが、アリババ・グループが「生け贄」になってしまったのかもしれない。だが「金の卵」を産むガチョウの首を絞めて殺してしまえば、中国経済全体も危うくなる。

「中国包囲網」

 リーマンショック後の中国は、世界のヒト・モノ・カネに自由にアクセスできる環境の下で高成長を謳歌できたが、足元のマクロな経済環境は様変わりしつつある。「中国包囲網」ともいえる米国主導のインド太平洋戦略に、英国・フランス・ドイツが相次いで参加の意向を表明している。特筆すべきはこれまで「中国偏重」とされてきたドイツが、「経済発展を遂げても民主化に至らない『異質な国』であり続ける」として中国の認識を改めたことである(12月27日付時事通信)。

 英国のインド太平洋地域への空母派遣について中国は「またアヘン戦争でもするつもりなのか」と激しく反発している(12月23日付中央日報)が、このような強硬姿勢を続けるだけではますます国際社会で孤立を深めるばかりであろう。

 前述のCEBRは「中国経済は2025年までは年間5.7%、2026年から2030年にかけて年間4.5%の成長が見込まれる」と見ているが、格付け大手S&Pは12月2日、「中国が科学技術分野の自立を余儀なくされれば、今後10年間の経済成長は平均で3%に半減する」との分析結果を明らかにしている。高成長が維持できなくなれば、長年懸念されてきた中国経済のバブル崩壊が現実になってしまうかもしれない。相場研究家の市岡繁男氏は「民間部門債務の対GDP比率が200%を超え、高齢化率が約12%となった現在の中国は、30年前のバブル崩壊前夜の日本と酷似している」と警告を発しているように、中国経済の今後には要警戒である。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

【私の論評】日本は日銀の誤謬で緩和しなかったが、中国には緩和したくてもできない理由がある(゚д゚)!

上の記事では、中国経済、要警戒水域に、バブル崩壊直前の日本に酷似としています。確かに、現象面だけみれば、そういうところはあります。しかし、現象面で同じように見えても、根本的に全く異なります。

まずは、日本のバブル崩壊を振り返っておきます。ちなみに、日本では多くの人がバブル崩壊の原因を未だに理解できていません。

バブル期の一般物価を見ると、実は、インフレ率は健全な範囲内に収まっていました。バブル期はものすごいインフレ状態だったと思っている人が多いのですが、それは誤った認識です。

バブル期に異様に高騰していたのは、株価と土地価格だけです。バブル期は、「資産バブル」の状態にあったのであり、一般物価は健全な状態だったのです。

ところが、日銀はバブルの状況分析、原因分析を正しくできず、政策金利(当時は公定歩合)を引き上げて金融引き締めをしてしまいました。資産バブルを生んでいた原因は、金融面ではなく、法の不備をついた「営業特金」や「土地転がし」などによる株や土地などの資産の回転率の高さだったのですが、日銀は原因分析を間違えて、利上げという策をとりました。

回転率の高さによって起こった「資産バブル」に対しては、利上げは効果がありません。

日銀の利上げは資産バブルの対策としては役に立ちませんでした。

一方で、このトンチンカンな利上げによって叩き潰されたのが、健全な一般物価でした。

以降、日本は深刻なデフレが進み、「失われた20年」を経験することになったのです。

そもそも、資産価格と一般物価を分けて考えるべきで、資産価格が一般物価に影響しそうな場合を除いて、一般物価が上昇していなければ、資産価格が上昇していても金融引き締めをするのはセオリーに反していました。ところが、日銀はセオリーに反してバブル退治のために金融引き締めをしてしまいました。

バブルを退治したとされた「平成の鬼平」三重野康日銀総裁だが・・・・・

この件に関しては、日銀だけを責めるわけにはいきません。マスコミは公定歩合を引き上げた当時の三重野康日銀総裁のことを、バブルを退治した「平成の鬼平」と呼んで、さかんに持ち上げました。マスコミも含めて多くの人が、バブルだから物価が上がっている。だから日銀が金融を引き締めたのは正しいことだという思い込みを持っていたのです。

しかも、この間違った認識はその後もずっと修正されることはなく、日銀は現状維持の金融引き締めを続けて長期のデフレを生んでしまいました。

なぜ日本は「失われた20年」を経験することになったのでしょうか。それを理解するには、バブル期についての誤解を解く必要があります。長期不況のつまずきの始まりは、バブルについての認識の間違いです。間違った経済常識は、悲劇的な結果をもたらすのです。このことは、決して忘れるべきではありません。


日本のバブル崩壊は、上に述べたように、日銀の金融に関する誤謬から生じたものです。現在の中国は金融緩和をしたくてもできない状況にあります。誤謬により金融緩和をしないどころか、金融引締するということと、中国のようにやりたくてもできないということは根本的に違います。ただし、表面上は似たようにもみえます。

しかし、現実を正しく理解しなければ、真の姿は見えてきません。

では、中国では金融緩和したくてもできないという理由は何なのでしょうか。

さて、先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるのです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論を完結にいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。


これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になるが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄しています。

もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要だが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄しました。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、このような先進国タイプにはなれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できないので。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはないのです。

一方、先進国は、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいいながら、完全に資本移動を禁止できないです。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できるのですが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるを得ないのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなります。そのため、中国は量的緩和を使えないというわけです。

それでも、経済規模がまだ小さかった中国では、金融緩和を実行できましたが、現状ではとても無理な規模になってしまいました。

量的緩和を使えないということは、かつての日本のように、バブル崩壊まっしぐらで、その後はデフレが続くということになります。そのため英国シンクタンク「経済ビジネス・リサーチ・センター(CEBR)」の中国は当初の予想よりも5年早い2028年までに米国を追い抜いて世界最大の経済大国になる」との予測は、あり得ません。

むしろ長期にわたるデフレにより、失業率が上昇し、それでも金融緩和策をつかえず、中国は中所得国の罠から逃れないことになるとみるべきです。日本では、金融緩和=雇用拡大ということもあまり介されていませんが、欧米では常識というか、マクロ経済学上の常識です。

ただし、中国が民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめれば、固定相場制から変動相場制に移行できます。しかし、中国共産は、そのようなことは実施できません。それを実施すると、中国共産党は統治の正当性を失い崩壊することになります。

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