2021年8月11日水曜日

自民幹部「ワクチン一本足打法では限界」、衆院選にらみ経済対策求める声―【私の論評】菅政権の経済対策においては、物価目標2%を達成するまでは財政出動を優先し続けよ(゚д゚)!

自民幹部「ワクチン一本足打法では限界」、衆院選にらみ経済対策求める声



 自民党内で、新たな経済対策を求める声が強まっている。新型コロナウイルスの感染拡大で菅内閣の支持率は低迷しており、大規模な財政出動を掲げて局面打開を図る狙いからだ。秋までに迫った次期衆院選をにらみ、党は近く議論を開始し、政府への提言をまとめる方針だ。

 「コロナを克服するための追加経済対策にしっかり取り組んでいく」

 10日朝、東京都板橋区の街頭に立った自民党の下村政調会長は、コロナ禍で打撃を受けた経済を下支えするための追加経済対策を取りまとめ、政府に働きかける考えを強調した。

 政府は2020年度、コロナ対応のため3度にわたって補正予算を編成した。国民1人当たり10万円の一律給付や、観光支援策「Go To トラベル」を盛り込み、補正だけで歳出総額は70兆円を超えた。

 21年度に入ってからは、追加対策が打ち出されておらず、党内からは「もう1、2回、大きなショットを出して国民の生活を支えていく対策が必要だ」(安倍前首相)との声が上がる。

 背景には、衆院選までに政権浮揚の好材料が乏しいという事情がある。東京五輪でのメダルラッシュは内閣支持率の上昇につながらず、読売新聞社が7~9日に実施した全国世論調査では過去最低の35%に落ち込んだ。党幹部は「ワクチン接種拡大の一本足打法では限界がある」と吐露する。

 二階幹事長は、補正予算案について「選挙前に骨格ぐらいは組んで国民に問いかけるのは、与党・自民党の責任だ」とし、衆院選前に大枠を提示すべきだとの考えだ。「30兆円に近い」規模が必要とも語る。

 具体的には、生活困窮世帯への支援策が焦点となりそうだ。下村氏は個人的な考えとし、住民税非課税世帯などへの1人当たり10万円給付を提唱する。

 首相も「常に経済対策は頭の中に入れている」とし、衆院選前の補正予算案の編成指示を視野に入れる。ただ、「先に数字を出せば、野党はさらにそれ以上の金額を言ってくる」(自民中堅)との懸念から、打ち出すタイミングは慎重に見極める考えだ。

【私の論評】菅政権の経済対策においては、物価目標2%を達成するまでは財政出動を優先し続けよ(゚д゚)!

選挙のことなど別にしても、再びある程度の経済対策を打つべきことは、昨日もこのブログで解説したばかりです。昨日の記事のリンクを以下に掲載します。
高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲―【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!
高市早苗氏

この記事では、高市早苗氏が、総裁選に立候補する旨を公表し、週間文春に総裁選の公約にもなると考えられる政策やその考え方に関して掲載していることを述べました。

その中で、特に経済対策にして「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」としている点に注目しました。

コロナ禍になる前から、物価目標2%はとても達成できる見込みはありませんでしたが、このような状況下では、2%物価目標を達成するために、政府は財政出動を何よりも優先すべきであり、日銀は包括的な金融緩和をするのが当然です。

この目標すら達成できず、しかもコロナ禍に見舞われたわけですから、なおさら、政府は積極財政、日銀は大規模な金融緩和に踏み切るのが当然です。

そのためにも、政府が大量の国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式(政府と日銀の連合軍)で、資金を調達するのは当然のことです。これを大掛かりに実施すれば、経済に悪影響があるのではと懸念する人もいますが、唯一の懸念はインフレだけです。

ただ、日本は未だ2%の物価目標も達成できない有様ですから、デフレ傾向にあり、かなり国債を発行してもインフレになる心配はありません。

だからこそ、高市氏は「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と名言したのでしょう。

しかし、このことを理解している議員は、安倍氏や高市氏など自民党でも一部の議員のみです。菅総理は、どの程度理解しているかは、わかりませんが、安倍政権の政策を踏襲するという意味では、ある程度は理解しているでしょう。

しかし、多くの議員は冒頭の記事にもあるように、経済対策を選挙対策の一環ぐらいにしか考えていません。

野党議員だとほとんどの人が理解していません。さらに、マスコミはほとんど理解していません。与野党の議員も、マスコミも、ほとんど経済に関して正しい認識ができず、その時々の政争の道具くらいにしか考えていません。

議員ですらこの有様ですから、議員の発言や主張などを切り取って報道するマスコミの報道のみを情報源とする人々は全く経済のことなど理解せず、単なる気分で、政府を批判しているようです。

各種の報道によれば、ようやく菅政権は補正予算の策定を指示するようです。総選挙の日程はいまのところ10月上旬が濃厚です。補正予算はその後になると言われているようですが、経済的な閉塞感の蔓延を防ぐためにも、パラリンピック終了後に臨時国会で補正予算を通すべきでしょう。その上で総選挙が良いです。

世論調査では、自民党支持層でも菅政権への支持率が低下傾向にあります。再び民主党政権誕生前にみられた、ワイドショー的な煽りが加熱していることもあるのでしょう。

あの当時は、「自民党にお灸をすえる」「一度は民主党にやらせよう」という無責任で無思考な流れがありました。今回は、ワイドショーなど報道は、新型コロナの感染拡大やワクチン接種などで、「印象操作報道」を多く繰り広げています。それが政権へのダメージになるからです。

ワクチンに関しては、日本は摂取が世界でも遅れて、菅政権は大失敗したとの印象操作がなされています。現実には、日本はすでに必要なワクチンを確保しているどころか、それを上回り有り余るほどのワクチンを確保ずみですし、1日のワクチン接種回数は世界トップクラスです。以下のグラフは、100人あたりの1日ワクチン接種数の国際比較。


この事実を見る限り、日本はかなりの速度でワクチン接種が進んでいるというか、世界一であることがわかります。

以下のグラフは、コロナワクチンの確保状況を示しています。日本は100%を超えています。


いまだに根強い偏見のひとつは、「日本はワクチンを確保していない。ワクチンが足りないし個別交渉でファイザーからの追加供給に失敗した大失態。ワクチンを確保できないのは菅政権のせい」というものです。確かに国内では、供給のミスマッチがあっても人口を上回るワクチンを確保しています。IMFとWHOによるわかりやすい図です。

いかなる政権も弱体化すればするほど、大胆な政策は打てなくなります。だからこそ、戦争や未曾有の大災害の場合など、政権交代などするべきではないのです。

菅政権も弱体化しつつつあるというのは事実のようです。実際本来菅政権自体は、もともとはGOTOトラベルを継続するつもりでしたし、緊急事態宣言も繰り返すつもりはなかったようですし、五輪ももともとは制限しつつも有観客で実施しようとしていました。しかし、野党・マスコミによる印象操作により、弱体化し大胆な政策は打てなくなり、現在に至っています。菅政権としても、これは不本意てしょう。

民主党政権誕生の時の教訓は、世論というかワイドショー民(ワイドショー的報道に判断を大きく左右される人たち)には、合理的な判断よりも目先の印象が重要になる、そして、その結果は、日本社会や経済にとって最悪なものになるということでした。多くの有権者が自民党に「お灸」を据えるつもりが、民主党政権が誕生してしまい、とんでもないことになってしまいました。

有権者がまた「お灸」を据えるというつもりで、政権交代を許してしまえば、「悪夢の民主党政権時代」の繰り返しなってしまいます。それだけは避けたいところてすが、菅政権も自らそのようなことは避けるべきです。

菅政権は世論の関心を大きく転換するような大胆な経済政策を行うべきです。それしか現在の八方ふさがりの閉塞感を打開することはできないでしょう。

その意味でも、菅政権は高市早苗氏の経済対策を、そのまま実行する必要まではありませんが、参照はすべきでしょう。特に財政政策として「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」というところは外せません、これを外せば、一時的には良くなっても長続きはせず、閉塞感を打開することはできなくなるでしょう。


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2021年8月10日火曜日

高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲―【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!

高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲

高市早苗

任期満了に伴う自民党総裁選挙について、高市早苗 前総務大臣は10日発売の月刊誌「文藝春秋」に論文を寄せ、立候補に意欲を示しました。

この中で、高市氏は、去年、菅総理大臣が選出された経緯に触れ「私が1票を投じたのは、安倍内閣の政策を踏襲すると明言したからだが、アベノミクスの2本目の矢である『機動的な財政出動』は適切に実行されなかった。小出しで複雑な支援策に終始している感がある」と指摘しています。


そのうえで、菅総理大臣の自民党総裁としての任期が来月末に迫っていることを踏まえ「力強く安定した内閣を作るためには総裁選挙を実施し、すべての党員から後押ししてもらえる態勢を作ることが肝要だ。社会不安が大きく課題が多い今だからこそ、今回、私自身も総裁選挙に出馬することを決断した」として総裁選挙への立候補に意欲を示しました。

高市氏は、衆議院奈良2区選出の当選8回で60歳。

党内の派閥には所属していませんが、安倍前総理大臣に近いとされ、安倍政権では、党の政務調査会長や総務大臣などを歴任しました。

【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!

高橋早苗氏の「文藝春秋」に寄せた論文のリンクを以下に掲載します。
高市早苗「総裁選に出馬します!」
詳細は、この記事を是非ご覧になってください。

この中で私が最も注目したのは、以下です。
インフレ率2%を達成するまでは、時限的にプライマリーバランス(PB)規律を凍結して、戦略的な投資にかかわる財政出動を優先する。頻発する自然災害や感染症、高齢化に伴う社会保障費の増大など困難な課題を多く抱える現状にあって、政策が軌道に乗るまでは、追加的な国債発行は避けられない。

こう述べると「日本国が破産する」と批判される方がいる。しかし、「日本は、自国通貨建て国債を発行できる(デフォルトの心配がない)幸せな国であること」「名目金利を上回る名目成長率を達成すれば、財政は改善すること」「企業は借金で投資を拡大して成長しているが、国も、成長に繋がる投資や、将来の納税者にも恩恵が及ぶ危機管理投資に必要な国債発行は躊躇するべきではないこと」を、強調しておきたい。

「強い経済」は、結果的に財政再建に資するものであり、全世代の安心感を創出するための社会保障を充実させる上でも不可欠だ。外交力や国防力、科学技術力や文化力の強化にも直結する。

「インフレ目標2%を達成するまでは、インフレ率2%を達成するまでは、時限的にプライマリーバランス(PB)規律を凍結して、戦略的な投資にかかわる財政出動を優先する」ということをはっきりと発言したのは総裁候補とみられる人の中では高市早苗氏だけかもしれません。

総裁選出馬にあたって、高市氏は政権構想「日本経済強靭化計画」の一部を披露しています。う上で引用した部分は、その流れで出てきた内容です。

高市氏は、「私は、国の究極の使命は、『国民の皆様の生命と財産を守り抜くこと』『領土・領海・領空・資源を守り抜くこと』『国家の主権と名誉を守り抜くこと』だと考えている」

そう基本軸を設定したうえで、大胆な「危機管理投資」と「成長投資」が必要だと指摘。

「『危機管理投資』とは、自然災害やサイバー犯罪、安全保障上の脅威など様々なリスクについて、『リスクの最小化』に資する研究開発の強化、人材育成などを行うことだ。(中略)

『成長投資』とは、日本に強みのある技術分野をさらに強化し、新分野も含めて、研究成果の有効活用と国際競争力の強化に向けた戦略的支援を行うことだ」

 さらに、「中国リスク」への対策も盛り込まれています。

「今後、中国共産党が日本社会への浸透と工作を仕掛けてくる可能性もある。(中略)日本国内の企業や大学や研究機関の内部に設置された中国共産党組織が、先進技術や機微技術の流出拠点となる懸念も大きい」としたうえで、法制度整備と体制強化を提案している。

中国対策に関しては、現状の中国の傍若無人な態度や行動をみていれば、当然であり、他の総裁候補も同様のことをいうでしょう。

しかし、どのような形であれ「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言するのは高市氏だけかもしれません。やっと、自民党総裁候補にも、緊縮派とはいえない人が出てきたと思います。安倍元総理も、緊縮派ではありませんでしたが、ここまではっきりとは言っていなかったと思います。

景気が低迷したとき、標準的なマクロ経済学では、積極財政、金融緩和をせよと教えています。

それは特にデフレのときには、これらを実行して、速やかにデフレから脱却せよと教えています。そうしてそれは、古今東西どこでも正しいことが立証されています。これ以外の政策を実施した場合はすべて失敗しています。

マクロ経済の全体像

ところが、安倍政権が成立するまでの日本では、デフレであるにもかかわらず、政府は緊縮財政を行い、日銀は金融引締策ばかりを実行してきました。

そこに安倍政権が登場して、政府は積極財政、日銀は金融緩和に転じました、そうして景気は凄まじい勢いで回復していきました。特に雇用の改善には目覚ましいところがありました。

ところが、財務省は増税キャンペーンを執拗に繰り返し、これにマスコミや多くのエコノミストが加勢し、安倍政権は二度にわたり増税を延期したのですが、とうとう増税せざるを得ない状況になり、2014年4月には消費税を8%に増税し、2019年10月には消費税は10%になりました。

日銀は、安倍政権発足のときには、異次元の包括的金融緩和を実施しましたが、緩和の姿勢を崩してはいませんが、2016年からは、イールドカーブ・コントロールを実施し、抑制的な緩和に転じました。

増税と、抑制的な緩和により、物価目標2%の達成は未だできていないどころか、現状のままでは、とてもおぼつきません。 

これに対しては、積極財政と金融緩和が有効であり、コロナ禍の現状で経済が低迷してい現状では、すみやかに大規模な財政出動と金融緩和を実行して、素早く景気を回復させる必要があります。そのためには、国債を大量に発行すべきです。

金利がマイナス、もしくはゼロに近い国債を大量発行したとしても、政府の負担はそれほどでもありません。マイナスであれば、発行すればするほど政府は儲かることになります。これは、たとえば銀行の貸し出し金利がマイナスになれば、借りれば借りるほど儲かるし、マイナスでなくても金利がゼロに近ければ借りやすいというのと同じであり、小学生にでも理解できると思います。

国債を発行すると将来世代へのつけとなるという非常識な人もいますが、それは完璧に間違いであることをこのブログでは、根拠を示して何度も述べています。

高市氏は、日銀の金融緩和については、はっきりとは述べていませんが、当然これも視野に入っていると思います。日銀法の改正も視野に入れていただきたいものです。

日本では、中央銀行(日本では日銀)の独立性とは、日銀が独自で日本国の金融政策を定めて実行することだと理解されているようですが、世界水準では、中央銀行の独立性とは政府の定めた目標に従い、自由に方法を選択できるというのが中央銀行の独立性であると理解されています。

日銀法を改正して、日本でも世界水準の中央銀行の独立性を確保するとともに、政府が日本国の金融政策の目標を定められるようにすべきです。ただし、そうなっても、マクロ経済がわかっていない人が政治家の多数を占めていれば、同じことです。

やはり、政治家自身がマクロ経済をある程度理解すべきでしょう。とはいえ、政治家自身は、細かなことまで知る必要はないです。このブログにも過去に何度も掲載してきた以下のグラフの意味が本当に理解しているだけで十分です。


このフィリップス曲線、世界中のどこの国でも、だいたい似たような曲線になります。ただし、NAIRUとインフレ目標は、それぞれの国や、時期になどによって若干変わります。

NAIRUとは、インフレ率を上昇させない失業率(non-increasing inflation rate of unemployment)のことです。

現在の日本では、NAIRUは2%の半ば程度であるとみられています。インフレ目標は物価目標と同じで2%です。

このグラフをみて、何のことだかわからない人は、マクロ経済を全く理解できていません。経済のことを知りたいとか、語りたいと思うなら、最初にこのグラフの意味を理解すべきです。そうでないと、無意味な議論しかできませんし、経済に関して知識を積み上げようとしてもできません。安倍元総理や、高市早苗氏はこれを十分理解していることでしょう。

高市氏は、これを理解しているだけではなく、まともな経済対策を打つことを邪魔する財務省の取り扱い方についても、理解していることでしょう。

いずれにしても、日本の総裁候補の中に、緊縮とは無縁の人がでてきたのは喜ばしいことです。高市氏が総裁になれば、日本経済もかなり良くなると思われますが、そうならなくても、総裁選で大善戦して、新総裁に経済対策の面で大きな影響力を行使できるようになっていただきたいものです。

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2021年8月9日月曜日

絵に描いた餅となる米による対中としての露取り込み―【私の論評】現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけ(゚д゚)!

絵に描いた餅となる米による対中としての露取り込み

岡崎研究所


 バイデン大統領は、中国との競争を米外交の第一優先事項に正しく位置づけている。最初の政策文書では、中国につき「経済、外交、軍事、技術力を組み合わせて安定し開放的な国際システムに挑戦しうる唯一の競合国」と言明し、バイデンも出席した6月のNATO首脳会議の共同声明は初めて「中国の台頭は全ての同盟国にとり安全保障上の意味を持っている」としている。中国は、冷戦時代のソ連と類似した役割を果たす面も出てくる。そうすると、ニクソンが冷戦時代にソ連に対抗すべく共産党の中国を取り込んだこととの類推から、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきであるとの意見が出てくる。

 これに対し、マクフォール元駐ロ米大使は、7月21日付けワシントン・ポストに、WPに‘Trying to pry Russia away from China is a fool’s errand’(中国からロシアを切り離そうとするのは愚か者の使い走りである)という辛辣なタイトルの論説を書いて反対している。論説の骨子は次の通りである。

・中国とのバランスをとるためにロシアを米側に引き付ける考えは魅力的に聞こえるが、今はこの考えは機能しないし、もし機能したとしても、ニクソンの時のような便益をもたらさないだろう。

・ニクソン訪中時には、成功のための不可欠な前提条件、すなわち中ソの対立が既にあった。しかし、逆に、今日の中ロの経済、安保、イデオロギーの結びつきは今までなかったように緊密である。プーチンが専制主義的な魂の友である習を捨て、民主主義の指導者バイデンとなれなれしくするだろうか。

・仮に方針変更により中ロ引き離しが成功しても、プーチンのロシアとの接近は、便益が少なく不利益が多い。米国はロシアのエネルギーを必要としていない。一方、プーチンは、アジアで中国を封じ込めるために追加的にロシアの兵士、ミサイル、船舶を配備することはないだろうし、方針変更の見返りにウクライナとジョージアに関連して好ましくない譲歩を求めるだろう。

・最もよくないのは、中国の専制主義者を封じ込めるためにロシアの専制主義者と接近することは、自由世界を統一させるとして、バイデンがこの6か月情熱をもって語ってきたことを掘り崩すことだろう。

・将来、米国は、中国を封じ込め、中国と競争する上で、ロシアとより深いパートナーシップを追求すべきであるが、それは専制的プーチンとではなく、民主ロシアとの間で始められるべきあろう。

 このマクフォールの論説には賛成できる。中国と今後対抗していく上で、ロシアを民主主義国の側につけることを考えるというのは、一見良い考えのように思えるが、全くそうではない。ロシアは腐敗した専制主義の国であり、民主主義国とは言えない。

 バイデンが中国との競争を「専制主義と民主主義の戦い」としていることには議論の余地があるが、そう言っている以上、対中関係を進める都合上、専制的なロシアと組むという選択肢はないはずである。さらに、マクフォールも指摘する通り、ロシアがウクライナとジョージアに対する違法行為を認めるような要求を米ロ接近の見返りとしてすることは十分に考えられる。

 ロシアは多くの核兵器を持っているが、経済的には、IMF統計によればロシアは韓国以下の国内総生産(GDP)しか持っていない。今後の石油価格の動向によるが、脱炭素化が言われる中、経済的にはさらに疲弊していくだろう。プーチンは、ロシアは中国のジュニア・パートナーとして生きるしかないと思っているのではないか。

 ロシアはそろそろ変わる時期に来ているのではないかと思われる。プーチンは2036年まで大統領に留まれるように憲法改正をしたが、そのかなり前に引退することになる可能性があるように思われる。プーチン後の指導者がどうなるかわからないが、西側との関係を重視する人になる可能性は低くないのではないか。その時になって初めて、民主ロシアとのパートナーシップが考慮に値する選択肢になるということだろう。

【私の論評】現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけ(゚д゚)!

このブログでも何度か述べてきたように、現在のロシアは旧ソ連の軍事技術や核兵器を継承している国であり、その点では侮ることはできませんが、GDPは韓国なみであり、もはやかつてのソ連のような超大国でないのは確かであり、大国とすら呼べない国になっています。

現在のロシアは、米国なしのNATOと戦争したとしても、勝つことはできないでしよう。持ち前の軍事技術を活用して、初戦には勝つこともあるかもしれませんが、その後は経済力に優れるNATOがロシアを圧倒するでしょう。

ロシアはもう大掛かりな戦争はできません。ウクライナなどの先進国以外の国とであれば、勝つみこみもありますが、先進国に勝つことはできないでしょうし、ましてやNATOと現在のロシアとでは、勝負は最初からついています。

そもそも、ロシアは大戦争を開始してしまえば、その経済力からみて、兵站を維持できません。今年の5月にそれを如実に示すような事態が発生しました。

それについてはこのブログでも解説したことがあります。その記事のリンク以下に掲載します。
ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い―【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

4月22日、ロシアが2014年に一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島で、
軍用ヘリコプターから軍事演習を視察するショイグ国防相

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。

 ロシア軍がウクライナとの国境地帯に集結し、ウクライナとロシアとの緊張が高まっていた。戦車、軍用機、海軍艦艇とともにロシア軍兵士約10万人が展開し、米国とNATOはこれを厳しく非難していた。

 この展開についてロシア側は、部隊は演習をしているのであり、誰に対する脅威でもない、と言ってきた。4月23日、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じた。ただし、ショイグは、NATOの年次欧州防衛演習(東欧諸国で6月まで行われている演習)で不利な状況が出て来た場合にすぐ対応できるようにロシアの全部隊は即応体制にとどまるべきである、とも述べている。

旧ソ連のまだ衰退する前のソ連であり、GDPが米国に次ぐ世界第二位であった頃のソ連であれば、似たような事態(当時はウクライナはソ連邦に属していた)があれば、半年でも1年でも、他国の国境付近に軍隊を駐留させて、軍事演習をしていたかもしれません。

現在のロシアにはそれはできません。経済力がないので、兵站を維持できないからです。現代の陸軍2万人規模の一個師団であれば、1日で2000トンの水・食糧・その他を消費します。空軍が陸軍の一個師団を火力支援するなら、一日で弾薬も含めて4000トン消費するのです。つまり、セットで6000トン消費するのです。

作戦規模が大きくなれば、5倍や10倍の消費になるのは当たり前です。この消費に耐えるように、各国は常に生産・輸送・備蓄・補給を行います。消費と同時に備蓄も進めるので、生産ができなければ対応困難となります。

このようなことは、現在ロシアには到底できません。軍事演習は実際に他国の軍隊に対して、武力攻撃しないだけであり、後は実戦と同じです。

ロシア海軍ミサイル巡洋艦ヴァリャーグ

上で述べたようにロシアがウクライナ国境にロシア軍約10万人を配置して軍事演習を行うと、1日で1万トンもの水・食糧・その他を消費することになります。これを長く続ければ、どうなるか考えてみてください。

だからこそ、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じたのです。

 現代のロシアが、いまのままで対中のために、米国がロシアを取り込んだとしても、中国にとってロシアはもはや大きな脅威ではないということです。

それに、経済力に劣るロシアを米国が取り込めば、今度は米国がロシアの面倒をみなければならなくなります。米国は、ロシアに対して様々な面で経済や軍事的援助を行わなければならなくなるでしょう。

そもそも、ロシアは中国と長い国境を接しており、中国の人口が14億人、ロシアのそれは1億4千万人に過ぎません。特に中国と国境を接する極東地域の人口密度はかなり低いです。中国と対峙することは、ロシアにとって大きな脅威となることでしょう。

このようなことをロシアが自ら、招くようなことはしないでしょう。ただし、米国の戦略家ルトワック氏は、ウクライナ危機で中国とロシアの接近は氷の微笑だと分析しています。

米国の戦略家 エドワード・ルトワック氏

本質的には、ロシアと中国は同盟関係になることはなく、互いに敵対関係にあるとみるべきです。だからこそ、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきという考えもでてくるのです。

しかし、現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけです。仲間に引き入れるとすれば、今後ロシアが経済成長をするとともに、中国が経済的に疲弊し、中露の経済が拮抗するようになった場合でしょう。

その時は今ではないことは確かです。プーチンがロシアを支配している限りは、その時はきません。ロシアでも、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進して、中間層が多数排出され、それらが自由に社会・経済活動を行えるような素地ができあがれば、話は変わってきますが、現状では全く無理です。

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2021年8月8日日曜日

五輪後の「対中包囲網」強化へ 米国務長官「中国による人権侵害に『深刻な懸念』」 北京五輪の是非にも注目 日米外相会談―【私の論評】コロナウイルスの「研究所流出説」が明らかになれば、中国は五輪開催どころではなくなる(゚д゚)!

五輪後の「対中包囲網」強化へ 米国務長官「中国による人権侵害に『深刻な懸念』」 北京五輪の是非にも注目 日米外相会談

アントニー・ブリンケン米国務長官

 アントニー・ブリンケン米国務長官が、東京五輪閉会後の「対中包囲網」強化に向けて動き出した。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議で、中国の人権弾圧や軍事的覇権拡大を厳しく批判したうえ、日米外相電話会談で、日米同盟の強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携を再確認したという。

 「中国によるチベット自治区や香港、新疆ウイグル自治区での人権侵害に『深刻な懸念』を表明し、南シナ海での挑発行為の停止も求めた」

 米国務省は6日、日米中韓やASEAN、欧州連合(EU)など計27カ国・機構が同日、オンライン形式で開催したARF閣僚会議で、ブリンケン氏が発言した内容をこう発表した。

 「平和の祭典」である東京五輪が終わると、国際社会では、半年後に迫った「北京冬季五輪」の是非が注目される。

 欧米の議会では、中国当局によるウイグルでの人権弾圧を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定する決議が相次いで出ており、「外交的ボイコット」や「開催地変更」を求める意見も続出している。

 ASEAN諸国では、ベトナムが中国に厳しい立場であるのに対し、カンボジアなどは親中姿勢が目立つなど、中国への態度は一枚岩ではない。

 ブリンケン氏の発言は、欧米と東南アジア諸国の状況を踏まえて、「対中包囲網」強化を狙ったものとみられる。

 ARF閣僚会議の途中、茂木敏充外相とブリンケン氏による日米外相電話会談が約30分間行われた。日米同盟の強化や、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携が再確認された。

 この中で、ブリンケン氏は、日本が「安全で安心な東京五輪・パラリンピックの開催」に取り組んでいるとして「感謝の意」を表明した。

【私の論評】コロナウイルスの「研究所流出説」が明らかになれば、中国は五輪開催どころではなくなる(゚д゚)!

上の記事では、触れられていませんが、「対中包囲」の有力な根拠となるのが、いうまでもなく、コロナです。武漢でコロナ感染の危機を李医師が報告したにもかかわらず、中国共産党はこれを隠蔽しました。

李文亮氏

中国共産党がこれを隠蔽せずに、早い時期に対処していれば、世界はコロナ感染症によるパンデミックには見舞われなかったかもしれません。うまく対処していれば、武漢市内だけの感染ですんだかもしれません。

最悪でも、中国国内の一部の感染で終わったかもしれません。しかし、中国共産党はこれを隠蔽、それがパンデミックのきっかけとなりました。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、新型コロナウイルスの世界の累計感染者数が4日午後(日本時間5日朝)、億人を突破しました。1月下旬に1億人を超えてから半年余りで倍増しました。死者数は約425万人に上ります。

その後各地で変異株がみられていますが、コロナウイルスに限らず、ウイルスそのものが、時とともに変異するものであり、コロナウイルスもその例外ではありません。すべては最初は武漢から伝播したものであることには違いありません。

さらに、最近ではコロナウイルスの「研究所流出説」が有力になりつつあります。これは、昨年は非科学的であるとの批判があり、多くの科学者が口をつぐんでいたのですが、このブログでも掲載したように、「ドラステイック」という素人集団が、「研究所流失説」を否定できない証拠を見出し、これを発表したことがきっかけとなり、各方面で追求が進んでいます。

武漢ウイルス研究所

2日には、米下院外交委員会ナンバー2で共和党のマイケル・マコール議員が報告書を公表した。2019年9月と10月の衛星写真で武漢ウイルス研究所周辺の病院に集まる人が急増している様子や、同年9月12日深夜に研究所のウイルスデータベースが突然削除されたことなどを指摘しており、初症例を「19年12月」とする中国の見解と食い違っています。

この報告書の詳細については、以下のリンクをご覧になってください。
「コロナは武漢研究所から流出」米共和党が衝撃の報告書 ロイター報道 識者「バイデン政権と中国側の“談合”を強く牽制」―【私の論評】Intelligence(諜報活動)はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった。変化を起こすチャンスは誰でもある(゚д゚)!
これとは別に、中国の武漢ウイルス研究所が扱っていた膨大なデータを米情報機関が入手、解析を進めているとCNNが報じています。

情報機関は、武漢のウイルス研究所が扱っていたウイルスのサンプルの遺伝子情報を含むデータを入手したとみられます。入手方法や時期は明らかになっていませんが、CNNテレビは、ウイルスの遺伝子情報を解析する機器は通常、外部サーバーとつながっていることが多いことなどから、ハッキングで得た可能性があるとしました。

ウイルスの遺伝情報、特に変異の解析をすれば、かなりのことがわかります。昨年このブログにも掲載したように、遺伝子の変異情報から、各国のコロナ対策の可否までわかる可能性が高いです。「研究所流出」に関しても解析できる可能性が高いです。

武漢ウイルス研究所をめぐっては、世界保健機関(WHO)の調査団が今年になって入ったのですが、まともな成果は得られませんでした。

中国がデータの提供を拒否する中、バイデン政権は5月下旬、新型コロナウイルスについて研究所からの流出説と動物を介した感染説があるとして、追加調査の上で「90日以内」に結果を報告するよう情報機関に指示しました。結果の公表期限が今月24日です。

どのような報告書になるのかはわかりませんが、いずれにしても「研究所流出」を覆すものにはならないでしよう。

トランプ氏は6月5日、東部ノースカロライナ州で開かれた共和党集会で演説し、武漢の研究所流出説が再び真実味を帯びてきていると指摘しました。「中国は彼らがもたらした死と破壊の代償として10兆ドルを、アメリカ、そして世界に対して支払うべきだ」と述べたほか、制裁として中国製品に100%の関税を適用すべきだとの考えを明らかにしました。

トランプ氏

ウイルスの流出は意図的ではなくとも、公表遅れやデータ隠蔽が確認されれば、賠償請求や制裁につながりかねず、五輪ボイコット論もさらに補強されることになるでしょう。米中対立のレベルを超え、『世界vs中国』の構図になってもおかしくないです。

中国は冬季五輪開催どころではなくなるかもしれません。日本では相対的にかなり死者が少なかったため、なかなか想像しにくいことかもしれませんが、死者の多かった国々では、中国に対する恨みつらみは相当なものだと思います。世界中から憤怒のマグマが湧き上がり、中国共産党は、そのマグマをそらすこともできず、まともに浴びることになるかもしれません。

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2021年8月7日土曜日

対中政策として日本はバイデンに脱保護主義求めよ―【私の論評】米国が経済安全保障という観点から、中国に制裁を行うのは同盟国には異論はないが、保護主義に走るのは筋違い(゚д゚)!

対中政策として日本はバイデンに脱保護主義求めよ

岡崎研究所



 7月17日付の英Economist 誌は、「バイデンの新しい中国ドクトリン。その保護主義と、米国か中国かの選択をせまるレトリックは、米国を害し同盟国を遠ざける」との社説を掲載している。

 長い間、米国の楽観主義者たちは、世界経済に中国を歓迎することは、中国を「責任ある利害関係者」にし、中国に民主化をもたらすと考えてきた。しかし、現実は、その期待を裏切った。トランプ政権において、既に米中対立は、貿易や技術を通じて始まっていたが、バイデン政権は、米中対立を、民主主義対独裁主義という政治システムないしイデオロギーの闘争にしている。これを、エコノミスト誌は、「トランプとバイデンはニクソン訪中後の50年で最も劇的な対中外交の転換をもたらしている」と位置付ける。そして、その基本方針を是認しながらも、詳細には幾つか問題があると指摘する。

 エコノミスト誌の社説は、バイデン政権の対中政策に関連して、主として労働組合に配慮するバイデン政権の貿易に関する保護主義を批判したものであり、適切な論を展開している。貿易面で保護主義を実施しながら、米中対立で米国の側に立つように同盟国や新興アジア諸国を説得していくのは難しいのではないかとのこの社説の論旨をバイデン政権はよく考えてみるべきであろう。

 オバマ政権が締結し、アジアにおける貿易の自由化その他に大きな影響を与えるはずであったTPP(環太平洋パートナーシップ) をトランプは拒絶してしまったが、日本が努力して部分的に環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)として復活させた。今やこれに英国も加入の道を探っている。これには台湾も経済地域として条文上参加できることになっており、それが実現すれば、台湾の国際的地位の向上や経済面での良い効果が見込まれる。米中対立の中で、台湾は米ソ冷戦時代のベルリンに似たような重要性を持っているのであるから、バイデン政権はこの問題をもっと真剣に検討すべきであると思われる。

 バイデン政権の対中政策には中国の国際法を無視した行動を看過すべきではないと考えるので、全体として賛成であるが、エコノミスト誌の社説が言うように詳細なところで効果的ではないところがある。信頼されている同盟国として、日本も、米国には率直な意見を述べていくことが望ましいと思われる。

 中国の台頭は、少子化、高齢化の人口上の問題、水の枯渇や大気の汚染などの環境問題があり、これまでのように順調にいくとは思えない。対外的には習近平は早々と鄧小平の「能ある鷹は爪を隠す」政策を放棄し、国際的に対外強硬路線を打ち出しているが、結局のところ、自ら中国を取り巻く国際環境を悪くしているようである。

【私の論評】米国が経済安全保障という観点から、中国に制裁を行うのは同盟国には異論はないが、保護主義に走るのは筋違い(゚д゚)!

保護主義とは、外国から輸入する商品に関税をかけたり、商品の輸入の量を制限したり、輸入時の手続きや検査を厳しくして、実際に輸入する量を制限したりして(非関税障壁といわれる)、自由な貿易を制限をすることです。 自国の産業・企業の保護や、貿易赤字を解消する目的で行われます。



保護主義のメリットとデメリットを以下にあげます。

〈保護主義のメリット〉

・国内産業の保護・育成
安い外国製品との競争から守られるので、その産業が成長します。また、高い品質の製品を外国から買うだけでは、いつまでも国内産業は技術発展しません。
・雇用の増加
保護された産業が成長すると、人を雇います。働く人が増えれば、税金を収め国も豊かになります。
・貿易赤字の減少
貿易で、輸入額>輸出額だと貿易赤字となります。保護貿易で輸入が減れば、貿易赤字の減少につながります。
〈保護主義のデメリット〉

・他国から非難される
関税を上げると、その商品を多く輸出していた国は儲からなくなるので、非難されます。
・制裁や報復を受ける
保護貿易の理由を説明しても納得してもらえない場合、他国からもお返しで関税アップなどの報復を受けます。
・貿易摩擦の発生
お互いに関税をアップし続け、それがエスカレートしてしまい、他の分野にも悪影響を及ぼしてしまう貿易摩擦・貿易戦争につながる可能性があります。
・外国の良い商品が買えない
国民は、安くて品質の良い海外製品を購入することができません。
・外国へ商品を売りにくくなる
外国からの報復で、海外へ売る時に高い関税をかけられますので、商品を売りにくくなります。
以上からみて明らかなように、発展途上国などの場合は、保護主義にはメリットがあり、さらに保護主義に走っても他国から一定の理解を得やすいといえます。

先進国の場合は、保護主義にはデメリットのほうが多く、さらに保護主義に走れば、他国からの反発をくらいやすいといえます。

米国のように自由主義を標榜する国が、保護主義に走れば、他国、特に先進国からは、反発をくらうのは必至です。

バイデン米大統領は4月28日の施政方針演説で「米国人の雇用を生み、米国でつくられた米国製品を買うのに米国人の税金を使う」と述べ、保護主義的な姿勢を鮮明にしました。中国の通商問題に対処するとしつつも、具体的な政策に踏み込みませんでした。

施政方針演説におけるバイデン大統領

バイデン氏は「『米国雇用計画』の投資は1つの原則が指針となる。バイ・アメリカンだ」と力を込めました。トランプ前大統領が施政方針演説で「米国製品を買い、米国人を雇う原則が指針となる」と語ったのとほぼ同じです。内向きの姿勢は変わらりません。

バイデン氏はインフラ投資で外国製品を使う例外を限定すると強調しました。米国は公正な調達ルールを定めた世界貿易機関(WTO)の政府調達協定に加わるのですが「どんな貿易協定にも違反しない」と正当性を主張しました。

通商政策では対中国を取り上げました。国有企業への補助金や、技術や知的財産権の窃取を挙げて「米国は不公正な貿易慣行に立ち向かう」と語気を強めました。中国に構造問題の是正を迫る方法は明示し

トランプ氏は演説で、関税を使って圧力をかけると表明しました。バイデン政権はこれから具体策を問われることになる。

米政府の年間予算規模は4.7兆ドルに達するが、物品などを購入する政府調達は約6000億ドル程度といわれる。

"バイ・アメリカン"という言葉は、バイデン氏の専売特許ではなく以前からあるものです。そもそも、バイ・アメリカン政策は、政府調達や政府が財政支援するプロジェクトにおいてアメリカ製品の購入を優先するもので、1933年に成立したバイ・アメリカン法(ハーバート・フーバー大統領の任期最終日に署名された)や、バラク・オバマ政権下の2009年に成立した景気対策法におけるバイ・アメリカン条項などを根拠とします。

連邦政府の調達規則では、バイ・アメリカン政策に従う場合、価格ベースで自国製品や自国資材を50%以上にすることを求めていますが、バイデン政権は、この比率を上げて米国製品の調達を増やします。また例外適用についての判断基準も厳格化するといいます。

民主党はもともと労働組合が支持母体であり、時に保護主義的な政策によって雇用維持を図ることがあるので、これはある程度、予想された事態と言ってよいです。バイデン氏自身は自由貿易論者といわれ、本来なら過度な保護主義には走らないはずですが、今回は少し様子が違うようです。バイデン氏は脱炭素シフトを重要な政策に掲げており、国境炭素税の導入まで検討しているからです。

国境炭素税とは、脱炭素を促すため環境規制が緩い国からの輸入品に税金を課すもので、EUが既に導入を表明しています。ところが、この税金は事実上、特定の国を対象とした関税そのものであり、本来ならWTO(世界貿易機関)の協定違反となりかねないものです。

ところが、脱炭素シフトの必要性から、これを例外適用すべきとの議論が盛り上がっています。もしバイデン政権が国境炭素税を導入すれば、トランプ政権が実施した中国に対する高関税の対象や製品が替わるだけで、事実上、保護貿易が継続される可能性が高まってきます。

菅政権は2050年までの温暖化ガス排出量実質ゼロ宣言を行い、日本も脱炭素シフトに舵を切り始めました。

ところが日本の環境規制は欧州などと比較すると甘く、米国が本格的に脱炭素シフトを進めた場合、中国からの輸入品に加え、日本からの輸入品についても高関税が課される可能性が否定できないです。政府調達における外国製品の採用比率も下がってしまえば、まさに日本の輸出産業にとってはダブルパンチです。

日本では、「アメリカ・ファースト」などの言葉尻を捉えて、トランプ前大統領が保護主義的傾向を強めたと見る向きも多いですが、米国の保護主義的傾向は今に始まったことではなく、トランプ政権以前のオバマ政権時代あたりからかなり顕著となっていました。在日米軍や在韓米軍の撤退論もこの頃から本格化しているという現実を考え合わせると、これは長期的な動きであり、今だけの現象とは考えないほうがよいです。

トランプ前大統領が最初に保護主義的政策を打ち出したという認識は間違い

ただし、自由主義を標榜する米国が、保護主義に走れば、先進国、特に同盟国からの反発は免れないでしょう。

現在の戦争は、武力を用いれば、抜き差しならない状況になるのが目に見えており、経済などで行う、経済安全保障で行うのが通例になりつつあります。

米国が経済安全保障という観点から、中国共産党が産業を保護するために、輸出企業に対して補助金を出したり、低賃金や強制労働や、先進国からの技術の剽窃で、コストを低減しているという事実があるので、中国に制裁を行うのは日本を含む同盟国には異論はないでしょう。

しかし、中国だけではなく、同盟国に対しても保護主義的な政策を打ち出せば、同盟にひびが入るのは必至です。これは、米国にとっても、同盟国にとっても得策ではありません。そのことを日本は、バイデン政権に強く訴えるべきです。

ただし、自由貿易を阻害しないための、国際ルールの再徹底はすべきとは思います。たとえば、TPPのルールをWTOのルールに盛り込むなどもその一つの方法だと思います。これは、以前もこのブログに掲載したとことがあります。国際ルールを破り続けてきた中国が制裁を受けるのは、自業自得です。

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2021年8月6日金曜日

感染拡大の原因は五輪ではない 1年以上遅れの法改正議論より医療体制の供給拡大をなぜ言わない ―【私の論評】医師会の医療体制の供給拡大反対は、「加計問題」と本質は同じ(゚д゚)!

感染拡大の原因は五輪ではない 1年以上遅れの法改正議論より医療体制の供給拡大をなぜ言わない 
高橋洋一 日本の解き方

札幌大通り公園の五輪モニュメントの前で記念撮影する女性たち

 東京五輪が開催されているが、東京都をはじめ各地で新型コロナウイルスの感染者が増えている。「五輪の開催で気が緩んだ」「五輪関係者の入国で水際対策が甘かった」などの指摘もあるが、現状の感染拡大と五輪は関係があるのか。

 「気が緩んだ」というのは、客観的に計測しようがないので検証不能だが、「五輪関係者の入国のため」というのは、五輪関係者に明確なクラスター(感染者集団)が発生しておらず、関係はないといえるだろう。

 現在の感染拡大は日本だけでなく、世界でも起きているので、感染力の強い変異株によるものと考えられる。ちなみに、昨年1月からこれまで人口当たり新規感染者数について、日本と先進7カ国(G7)の相関係数(1が最大)をとると、0・35~0・68となっており、日本の新規感染者数は世界とかなりの程度連動している。

 五輪期間といっても、感染傾向は従来通りであり、特に五輪の影響とは思えない。なお、G7では、日本はカナダ、ドイツとともに人口当たり新規感染者数、死亡者数は低位である。

 世界で新規感染者数を増やしているのはデルタ株である。実際、東京の新規感染者も大半はデルタ株となっている。感染力が従来のものに比べて高いのは事実であるが、感染症ウイルスの経験則によれば、感染力の高いものは致死力は反比例するようにそれほど高くない。

 デルタ株の致死率はまだデータではっきりと検証されていないが、従来のワクチンはほとんど同様に効果があることなどを基礎知識として理解しておいたほうがいいだろう。

 そうした中、政府は8月2日から31日まで、埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県に新たに緊急事態宣言を発令した。対象はすでに発令中の東京都と沖縄県を合わせ6都府県に拡大された。さらに、北海道、京都、兵庫、石川、福岡の5道府県は蔓延(まんえん)防止等重点措置を新たに適用した。

 期限を8月31日としたのは、同月末までに全人口のうちワクチンを2回打った人の割合が4~5割に達すると見込まれているためで、現役世代のワクチン接種を見極めたいとしている。

 7月30日の政府分科会において、欧米のロックダウン(都市封鎖)のような強い措置を実施するための法改正も必要との意見が出たという。今後の検討課題だというが、こうした意見は1年以上前に言うべきだった。

 ちなみに、こうした議論は、過去のインフルエンザ等特別措置法の制定時にも議論された。私権は憲法上認められているので、それを制限するには憲法に緊急事態宣言の根拠規定がないとできないということだった。こうした過去の経緯も無視して、再び議論するつもりなのだろうか。

 そんな議論より、医療機関がコロナ患者を受け入れる病床の確保に必要な費用などに充てる「緊急包括支援交付金」約1兆5000億円の予算措置の未消化などを議論すべきではないか。分科会は、医療体制の供給拡大について何も言わずに、社会経済活動を抑制することしか言わないのか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】医師会の医療体制の供給拡大反対は、「加計問題」と本質は同じ(゚д゚)!

医師会は医療体制の供給拡大に反対です。なぜなら、そのようなことをすれば、既得権益が脅かされるからです。その意味では、本質は数年前に取り沙汰された「加計問題」とその本質は同じです。

ただし、「加計問題」とはいっても、マスコミが報道したり、一部野党による倒閣のための問題指摘などとは全く異なります。

前川喜平・前文科省事務次官(右)の主張と真っ向から対立する証言をした、加戸守行・前愛媛県知事(左)。

学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題で、柳瀬唯夫元首相秘書官が学園関係者と首相官邸で計3回会っていたという平成27(西暦2015)年4月前後には、新設に反対する日本獣医師会が閣僚らに猛烈なロビー活動を展開していた時期と重なっています。学園側による柳瀬氏らへの面会要請は、活発化した獣医師会の動きへの対抗策だったとみるのが自然でした。

問題の本質は、獣医学部新設を目指す「愛媛県、今治市、加計学園、内閣府」と、新規参入を阻む「日本獣医師会、文部科学省」による権力闘争です。

何しろ獣医師会の会議録に、関連政治団体「日本獣医師政治連盟」の北村直人委員長が、衆院議員当選同期の石破茂地方創生担当相(当時)に複数回面会し、働きかけていた様子が詳細に記されていたのです。

会議録によると26(2014)年10月3日、国家戦略特区での獣医学部新設を目指していた新潟市について、北村氏は「石破大臣にお会いし」「本件が特区になじまないことを申し上げた」とされていました。27(2015)年6月22日には、北村氏はこう述べていました。 

「蔵内(勇夫獣医師会)会長は麻生(太郎)財務大臣、下村(博文)文部科学大臣へ、担当大臣である石破大臣へは私が折衝を続けている」「(獣医学部新設に)一つ大きな壁を作っていただいている状況である」

その後、27(2015)年6月30日に安倍晋三内閣は獣医学部新設に関わる厳しい4条件、いわゆる「石破4条件」を閣議決定しました。9月10日の獣医師会会議で北村氏は、石破氏が「誰がどのような形でも現実的に参入は困難という文言にした」と述べたと紹介していました。


そうして当時柳瀬氏の「首相に面会を報告しなかった」との証言が疑問視されていましたが、ならば安倍内閣の閣僚で、獣医師会から100万円の政治献金を受けたことがある石破氏は、北村氏との面会をいちいち首相に報告していたのでしょうか。なぜ加計学園よりはるかに大々的な獣医師会による働きかけは、一切問われなかったのでしょうか。

同じく獣医師会から100万円の政治献金を受けた国民民主党の玉木雄一郎共同代表は2018年8月14日の衆院予算委員会で、官僚が首相を守るために仕事をしていると決めつけてこう主張しました。

「優秀な秘書官をはじめとした官僚が、悪知恵をめぐらせているのではないか。本来もっと天下国家のことに使うべき頭を、そんなことに使っている」


野党議員こそ、倒閣ばかりでなく、もっと日本のためになる違う頭の使い方があるのではないかと痛感させられたものです。

今回のコロナ禍に対応するための病床の増床なども似たようなところがあります。結局病床拡大を医師会側が、自分たちへの既得権益の脅威とみなし、政治家、官僚などに対する働きかけがあったものとみるのが、自然でしょう。

結局1年以上たっても、病床の大幅な増床はみられず、その範囲の中で医療体制を考えるといったことがなされ続けているようです。

記者会見する日本医師会の中川俊男会長=昨年12月23日午後、東京都内

公益社団法人日本医師会(にほんいしかい、英: Japan Medical Association、英略称: JMA)は、日本の医師であることを入会の要件とする職能団体です。入会は任意であり、組織率は、2019年12月1日時点で172,763人(有資格者の約5割強)です。

法人の種類としては公益社団法人ですが、開業医らが運営する利益団体としての性格をもちます。世界医師会に加盟し、本部は東京都文京区本駒込2-28-16に所在します(日本医師会館)。略称は日医(にちい)。都道府県医師会、全国に約890存在する郡市区医師会は、いずれも独立した公益法人ですが、日本医師会の下部組織です。本会・日本歯科医師会・日本薬剤師会を合わせて「三師会」と称します。

医師会は、開業医のための団体と考えて良いでしょう。公立病院の勤務医などの利益を代表するものではないといえるでしょう。

この医師会は、開業医の利益を守るため、政治家、官僚などに働きかけを行っているのは間違いないでしょう。今回も結局、他の国にみられるような、バラックのコロナ病棟を建てる、公立病院などで、コロナ病棟を設けるなど、あまり目立った形で、大掛かりになされず、「緊急包括支援交付金」約1兆5000億円の予算措置の未消化などの問題に発展しているのは、こうした経緯があるからでしょう。

そもそも、医師会には既得権益を守るため、従来から医療体制の供給拡大に反対する傾向がありました。

そのため、公正取引委員会は、「医師会の活動に関する独占禁止法上の指針」を定めています。これは、昭和56年に定められ、平成22年に改正しています。

詳細は、以下のサイトをご覧になってください。
医師会の活動に関する独占禁止法上の指針
詳細は、この記事をごらんいただくものとして、以下にその趣旨だけをこの記事から引用します。
 医師会、特に地区医師会の活動については、いわゆる医療機関の適正配置に関する活動等に関し、独占禁止法違反とされた事例もあり、当委員会は、医師会の活動に関してアンケート調査を実施し、その実態の把握に努めたのを機に、今般、医師会の活動と独占禁止法との関係についての考え方を、活動指針として取りまとめた。この活動指針は、医師会の諸活動に対する独占禁止法の適用について当委員会の考え方を参考例を挙げつつ、具体的に明らかにすることにより、同法に抵触することとなる活動を未然に防止しようとするものである。
 なお、医師会の具体的な活動が、独占禁止法に抵触するおそれがあるか否かについては個々の事案ごとに判断を要する場合も多いと考えられるので、かかる場合には、当委員会に設けられた一般相談、あるいは、事前相談制度により個別の相談に応じることとした。
高橋洋一氏は、上の記事の最後で「分科会は、医療体制の供給拡大について何も言わずに、社会経済活動を抑制することしか言わないのか」と述べていますが、まさにそのとおりであると思います。 それどころか、オリンピック中止まで提言するというありさまです。

医療体制の拡大には、触れずに、社会経済活動を抑制することしか言わないことには、問題がありすぎます。感染者数だけが減れば良いという考え方には、賛同できません。インフルエンザでいちいち社会が麻痺したとしたらとんでないことになります。

コロナに関しても、昨年コロナ感染がはじまったばかりのときなら、正体がわからず、とにかく感染者数を低減することに注力することは理解できますし、それは正しかったと思います。あの時点で、コロナは風邪やインフルエンザと同じと、言い切ることには問題があったと思います。

ただし、現在では、コロナ感染症について知見がかなり深まり、何よりもワクチンの接種が進んでいます。現在では、コロナ感染症に対する昨年までの考え方は捨て去り、新たな取組をすべきです。

今後、わたしたちは、コロナウイルスが今後長い間にわたって撲滅することはできないと見るべきです。そうなると、多少感染者が増えたくらいでは、社会・経済が機能しなくなるようでは、強い社会とはいえません。

やはり、感染者が増えたにしても、社会・経済が簡単には機能しなくなることのない強靭な社会を目指すべきです。そのためには、「医療体制の供給拡大」に関しての論議は避けて通れません。

医師会がどこまでも、反対するというなら、公取委が動いても良いのではないかと思います。今後も長きにわたって、コロナに社会・経済が翻弄され続けることがあってはならないです。

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2021年8月5日木曜日

「一国二制度」崩壊で進む香港でのビジネスリスク―【私の論評】中国を放置しておけば、世界は中国製品で埋め尽くされ闇となる(゚д゚)!

「一国二制度」崩壊で進む香港でのビジネスリスク

岡崎研究所


 7月16日、バイデン政権は香港について「ビジネス注意情報」を発出した。これは9ページの長文で、香港についてこの種の注意情報が出されるのは初めてだという。国家安全法を含む香港の法制の変化に伴い、香港でビジネスを行う米国企業は「世評や財務上の、また或る場合には法的なリスク」に警戒すべきことを警告する趣旨のものである。

 この注意情報が指摘するリスクは、概括的には次の4つである。

(1)国家安全法に直接巻き込まれるリスク。同法の下で一人の米国人を含む外国国民も逮捕されている。法人格の有無にかかわらず、同法に違反する企業や組織は、そのライセンスやビジネス申請が取り消され得る。

(2)データの秘匿性が保全されないリスク。これは国家安全法によって当局に「国家安全保障」を理由にデータの開示を要求する権限が与えられていることなどを指している。

(3)自由な報道・情報へのアクセスが制限されるリスク。これも国家安全法の制定以来顕著な現象で、蘋果日報の弾圧がその一例。

(4)米国の制裁に従うことにより、反外国制裁法の発動を含め、中国の報復に遭遇するリスク(反外国制裁法は本土、香港、マカオを区別していない)。報復措置にはビザ発給拒否、入国拒否、資産凍結、取引き禁止などが含まれる。

 以上に加えて、米国の制裁の対象とされている個人と企業と不用意に関係を持つことにより民事および刑事の処罰が及び得るリスクを指摘している。

 7月16日付のウォールストリート・ジャーナル紙社説‘Biden’s Warning on Hong Kong’は、バイデン政権がこの注意情報を発出したことを適切な行動と評価している。同社説は、明言しているわけではないが、香港はもはやビジネスを安心して行える環境にはなく、米国企業がそれを悟って香港を脱出すれば、香港は金融の国際センターの地位を失うかも知れない、そういう形で中国は香港の自治を破壊した代償を払うことになるかも知れない、と言っているように読める。

 しかし、香港の米国商業会議所は、ビジネス環境はより複雑で厳しくなっているが、その間を縫ってビジネスの機会を捉えることについて会員企業を支援して行きたいと述べている。実際、民主派活動家の弾圧や選挙制度形骸化の抑圧にもかかわらず、香港の地位は揺らぐどころか、香港は活気を帯びているとされている。香港の株式市場はIPOの数で4位である。香港の外国銀行は人員増強に乗り出しており中国本土での新たな投資の機会を狙っている。香港には中国本土と諸外国から資金が流入しているという。

 そうなのかも知れない。しかし、だからと言って、「一国二制度」を一方的に破壊され、植民地化された状況を放置して良いことにはならない。今回、制裁対象に新たに7人の中国当局者が追加されたが、ビジネス注意情報は、今後も制裁の拡大があり得ること、それに伴い香港情勢が更に悪化し得ることの警告かも知れない。そもそも、ここまでくれば、香港を中国と別個に扱い、香港が金融センターとしての地位を維持することに手を貸す理由はないと言うべきであろう。

 縮小されたとは言え、米国など諸外国は未だ香港に対する優遇措置を残しているのではないかと思われるが、その撤廃を考えざるを得ないこととなろう。

 そういう状況になるとすれば、大切なことは、香港を脱出することを希望する人達の移住を受け入れることである。英国では1月31日に香港の英国海外市民旅券(BNO passport)を持つ人達に対する特別ビザの制度が導入されたが、3月までに3万4300件の申請があり、うち5600件のビザが付与された由である。去る4月28日、香港の立法会で入境条例が改正され(8月1日に効力を生ずる)、潜在的には当局が出国を禁ずることが出来るようになったというから、懸念されるところではある。

【私の論評】中国を放置しておけば、世界は中国製品で埋め尽くされ闇となる(゚д゚)!

バイデン政権は香港について「ビジネス注意情報」を発出とともに、中国が香港の民主主義弾圧しているとして、同国政府の香港出先機関に勤務する政府高官7人を新たに制裁対象に追加すると発表しています。

財務省によると、7人は中国の駐香港連絡弁公室の幹部。ブリンケン国務長官は声明で、中国当局は過去1年間にわたり香港の民主機関を「組織的に阻害」し、選挙を延期し、選挙で選ばれた議員の資格を奪い、政府の政策に反対する数千人の人々を逮捕したと指摘。「香港市民に対する断固とした支持を示すために、米国はきょう、明白なメッセージを送る」としました。

ブリケン国務長官

リスク警告の文書は国務省、財務省、商務省、国土安全保障省が共同で作成。香港で操業する企業に対し、「香港国家安全維持法」などの法律が適用される可能性があると警告しました。同法律の下、米国人一人がすでに逮捕されています。

一国二制度がなくなってから、香港には自由はなく、自由がないということはビジネスもまとにできないということはわかっていたことです。

一国二制度とは、「中国政府は関与しない」ということが前提になっていたわけですから、それがなくなり、中国政府が関与することがわかった以上は、ビジネスは無論のこと多くの人々にとって危険になったことは確かです。 

従来は、香港には立法会(議会)があって、そこで別途、立法化しないと中国は香港で様々な取締や、弾圧ができなかったのですが、国安法ができてからはそうではなくなってしまったのです。

 国安法により一国二制度はなくなり、中国の体制に従わなくてはならなくなっので、当然、中国に輸出している企業にはリスクが出てきます。従来のように一国二制度で守られているのとは違うという意味で、バイデン政権の「リスクがある」という主張は正しいです。

ただ、まともな企業の経営者であれば、割り切って「もう香港でビジネスできない」と香港から出るか、もしくは「中国政府に従う」という選択はもうしているとでしょう。

上の記事によれば、「米国の制裁の対象とされている個人と企業と不用意に関係を持つことにより民事および刑事の処罰が及び得る」ともされていますから、場合によって米国の連邦法に今抵触する可能性もあるのです。

米中には域外適用の法律がかなりあります。米国と中国はそれぞれに域外適用がある。 国安法が成立した現在では、中国から見れば、「香港は域内」ということになります。

米中双方が「俺たちのルールは正しい」と言っているわけです。明らかなのは、「香港においては従来のルールと違っている」ということです。それは大きなリスクです。

日本企業も他人事ではありません。 日本企業も香港で自由なビジネスをするか、もしくは中国政府に従うかの選択を迫られているわけです。かなりの企業が「香港は無理だな」と感が手いることでしょう。

例のアップルデイリー、蘋果日報が完全に中国側の圧力で潰されたようなものですから、マスコミも香港に支社を置いているところが少なくなりつつあります。自由のないところでは、まともに報道活動ができません。 一部をソウルや台北などに移すというようなところが出て来ています。


もはや中国では法律上、欧米の企業だけを優先することはできません。普通の国では外資企業も「内国民待遇」と言って、同じ扱いですが、香港でもそうではなくなりました。

新疆ウイグル自治区の人権の問題や、日本企業の中国ビジネス全般に対しても、「米中のどちらに付くのか」ということは、以前に増して強烈に、両国から突きつけられるようになるはずです。

従来は、日本では「経済と政治は別」という考え方だったのですが、最近は本当の戦争は難しいから、「経済安全保障」という考え方で、経済も武器なのだという考えかたに変わってきました。

新疆綿を用いている製品に関して、米国では通関を止められたり、フランスでは行政捜査がありましたが、経済産業省と繊維の業界団体は、統一されたガイドラインをつくろうという動きがでいます。

新疆綿を使用した製品は日本でも多くの企業で販売されている

経済産業省は先月12日、アパレルなど繊維産業の持続可能性に関する報告書をまとめした。製造・流通などのサプライチェーン(供給網)で強制労働や不当な低賃金などの人権侵害がないか、繊維企業が確認するガイドライン(指針)を業界団体に策定するよう提言。中国・新疆ウイグル自治区産の「新疆綿」をめぐる人権問題など、労働環境への関心が高まっていることを念頭に置きました。

経産省は「個別の事案を踏まえたものではない」と説明していますが、業界団体の日本繊維産業連盟は、国際労働機関(ILO)と連携し、1年後をめどに指針を取りまとめる方針です。

これは繊維業界だけの話ではないです。香港に拠点をおいている企業は、すべからく自分の属している業界が特にガイドラインを設けようとする動きがなかったにしても、リスク管理を徹底すべきです。

それに今一度経営者は考えるべきです。新疆綿の場合、日本ではすでに綿を収穫する作業をする労働者は日本には存在しません。しかし、開発途上国においては、それを生業とする人も多いです。

新疆綿を用いるということは、こういう人たちの生活を奪っていることになります。さらに、綿を加工する事業も新疆で強制労働で行われるようになれば、日本でもそれを生業とする人がいるので、その人たちの雇用を奪うことになります。

さらに、他の産業でも同じです。中国は様々な製品を低賃金もしくは、強制労働で、製造しそれを輸出していますし、さらにその輸出量を増やすようにすれば、先進国の雇用も奪われることになります。それが、ローテク産業だけではなく、中国による技術の剽窃により、ハイテク産業にも及ぶようになったらどうなるでしょう。

現在の製造業では、賃金が占める割合はかなり減っています。しかし、ハイテク産業の技術者をも強制労働させて、様々な製品を研究開発させたらどうなるでしょうか。まともな賃金を支払う企業が中国と、競争することなどできません。すべての産業は中国の一人勝ちになり、世界は中国製品で埋め尽くされ、世界中の産業が崩壊し、中国の富裕層と、中国共産党だけが潤うことになりかねません。

そのような世界は暗黒です。そのような世の中で、まともなビジネスができるはずはありません。世の中が一昔前の中世以前に戻ってしまうようなものです。そのようなことはできるはずがありません。できるはずのないことを中国は本気で推進しているのです。このことを日本の企業経営者も良く考えるべきです。

それを目指しているからこそ、中国は最大の商売の相手である米国を本気で怒らせることをしても、突っ走っているのです。いや、中国共産党の幹部はそのようなことを考えていないかもしれません。彼らからすれば、当然と考えることを実行しているだけなのかもしれません。しかし、その結果として世界は闇になるのです。

そのことに気づいたからこそ、前トランプ政権は中国と対峙し始めたのです。そうして、バイデン政権もそれを継承しているのです。

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2021年8月4日水曜日

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サモアの女性新首相就任、中国支援の港湾開発中止を表明

サモアのフィアメ・ナオミ・マタアファ氏

南太平洋の島嶼(とうしょ)国、サモアで4月の議会選挙の結果が確定し、フィアメ・ナオミ・マタアファ氏を同国初の女性首相とする新政権が始動した。フィアメ氏は就任後、中国が支援する港湾開発事業を中止する意向を表明。米国と中国が影響力拡大を競い、「陣取り合戦」の様相を呈する地域情勢に影響を与える可能性がある。

サモアでは4月に議会(定数51)選挙が行われ、ツイラエパ前首相の人権擁護党と、フィアメ氏のFAST党がともに25議席を獲得。その後、無所属の当選者1人を加えたFAST党が多数派を形成した。

フィアメ氏は5月に独自に首相就任の宣誓を行ったが、敗北を認めないツイラエパ氏は「私は神に任命された」などと主張し、政権を明け渡さない姿勢を示していた。裁判所が7月23日、就任宣誓は「有効」との判断を示し、27日にフィアメ氏を首相とする内閣が発足した。

サモアは23年間続いたツイラエパ政権が中国接近を進め、対中債務の膨張が課題となっている。そのうえ、中国が支援する1億ドル(約110億円)の大規模港湾開発計画も進んでおり、フィアメ氏は選挙戦で見直しを訴えていた。

フィアメ氏は首相就任後、ロイター通信に港湾開発事業について「現時点で優先順位が低い。自国に明確な利益がある投資のみを承認する」と表明。対中関係は「他の二国間関係と同じように評価する」と述べ、前政権の中国傾斜を修正する意向を示した。

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サモアは人口約20万人の小国。観光業が頼りで、慢性的な貿易赤字に悩まされています。

サモアの絶景スポット トスア・オーシャン・トレンチ

トゥイラエパ氏は1998年11月、首相に就任し、長期政権を維持してきました。空港や病院、政府庁舎などのインフラ整備を中国に頼り、中国からの借款は約1億6000万ドル(約175億円)に達し、サモアの対外債務の約40%を占めます。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」にも組み込まれていました。

サモアでは、上の記事にもある通り、中国が資金提供するバイウス湾の埠頭建設プロジェクト(2021~26年)が進められていました。トゥイラエパ氏は今年1月、地元紙の取材に、プロジェクトは交渉の最終段階にあり、新型コロナウイルス感染症が収まれば作業が始まるとの見通しを伝えていました。

トゥイラエパ氏

旧政権は雇用創出や貿易・観光促進という効果を全面に押し出していましたが、埠頭の設計や資金調達の方法は公開していませんでした。米国やオーストラリアなどの専門家の間では「埠頭が軍事利用されるのでは」という懸念が持ち上がり、中国の駐サモア大使館が「根拠のない主張」と反論してきた経緯がありました。

FAST党は、中国と良好な関係を維持しつつも、プロジェクトについて「サモアの輸出入産業の規模に見合わない」「軍事基地でなければ、規模の大きさを説明できない」などとして中止を公約に掲げてきました。

地元紙によると、無所属当選者もFAST党との連携を発表した際、こう語っていました。

「わが国に中国系企業が増え、非常に多くの中国人がいる。われわれが知らないこと、気づいていないことの背後に、何か大きなものがある。中国人はわれわれのビジネスを支配し、地元企業がそれに対抗するのは難しい。そして彼ら(中国人)が稼いだカネは彼らの祖国に行くだろう」

サモア総選挙後の混乱について、中国外務省の趙立堅(Zhao Lijian)副報道局長は5月25日の定例記者会見で「中国とサモアは良い関係にある。中国は一貫して内政不干渉の原則を堅持している。サモア側には内政をうまく処理する能力と知恵があると信じている」と述べるにとどめました。

フィアメ氏は首相就任後、ロイター通信に港湾開発事業について「現時点で優先順位が低い。自国に明確な利益がある投資のみを承認する」と表明。対中関係は「他の二国間関係と同じように評価する」と述べ、前政権の中国傾斜を修正する意向を示した。 

南太平洋諸国には中国が影響力拡大を狙っており、2019年にはキリバスとソロモン諸島が台湾と断交して中国と国交を樹立しました。一方、米国は国防権限を米国に委ねる「自由連合盟約」を結ぶパラオなどと連携を深めています。

オーストラリアの調査機関によると、中国は2006年からの10年間で、南太平洋の国々に17億8000万ドル(約1920億円)を援助しました。今や豪米両国に次ぐ主要な援助国となりました。

この地域の秩序を主導する米豪に対抗する戦略でしょう。

懸念されるのは、中国の南太平洋への進出によって、地域の緊張が高まる事態です。



「海洋強国」を国家目標とする中国は、太平洋やインド洋など遠海へと活動範囲を広げています。国際ルールに反した一方的な海洋進出や、相手国の財政状況を無視した融資が批判されてきました。

中国の習近平国家主席は南シナ海について「軍事拠点化しない」と約束しました。にもかかわらず、岩礁を埋め立てた人工島にレーダーやミサイルを設置し、「航行の自由」を脅かしています。

インド洋の島国スリランカは中国への債務返済が出来なくなり、南アジア最大級のハンバントタ港の権益を事実上、譲渡しました。

南太平洋で同様の問題が起きないとは言い切れません。島嶼国の多くが中国への経済的な依存度を高めています。バヌアツでは中国が港湾整備を進め、軍事利用するとの見方が出ています。

南太平洋はアジアと米大陸をつなぐシーレーン(海上交通路)にあたります。米軍がアジア太平洋の戦略拠点として基地を置くハワイやグアムに近いです。日米豪などが共有する「自由で開かれたインド太平洋」構想でも大切な地域です。

中国が島嶼国を拠点に軍事活動を強化し、地域の安定を揺るがす事態を防ぐため、米豪や日本が南太平洋諸国への関与を強めることが求められます。

経済援助に加え、安全保障協力が重要です。米豪はパプアニューギニア・マヌス島の海軍基地を拡充し、周辺での軍事演習も強化しています。島嶼国の防衛力向上に資する支援を積み重ねねるべきです。

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2021年8月3日火曜日

「コロナは武漢研究所から流出」米共和党が衝撃の報告書 ロイター報道 識者「バイデン政権と中国側の“談合”を強く牽制」―【私の論評】Intelligence(諜報活動)はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった。変化を起こすチャンスは誰でもある(゚д゚)!


中国科学院武漢ウイルス研究所=1月、中国・武漢

 東京五輪の大半を「無観客」開催にした、新型コロナウイルスの「起源」が注目されている。ジョー・バイデン米大統領は5月末、情報機関に「90日以内」の追加調査を指示したが、タイムリミットが今月末に迫っているのだ。こうしたなか、米議会共和党が、中国・武漢の中国科学院武漢ウイルス研究所から漏洩(ろうえい)した大量の証拠があるとの衝撃の報告書を出したという。

 ロイター通信(2日)によると、報告書は、米下院外交委員会の共和党トップ、マイク・マッコール議員が公表した。

 「武漢ウイルス研究所の研究員がコロナウイルスを秘密裏に操作し、2019年9月12日以前にウイルスが流出し、人に感染させた多くの証拠がある」などと記されているという。

 新型コロナの「起源」をめぐっては、米紙ウォールストリート・ジャーナルが5月23日、米情報機関の報告書を引用し、感染拡大が発表される前の一昨年11月、武漢ウイルス研究所の研究者3人が深刻な体調不良に陥っていたとスクープした。

 バイデン氏はこの直後、追加調査を指示したが、その後も、英紙デーリー・メールが5月末、「新型コロナウイルスは中国・武漢の研究所の実験室で作成された」と主張する、英国とノルウェーの研究者による論文について報じた。

 世界保健機関(WHO)は1月から調査団を中国に派遣し、3月に「武漢の研究所から漏洩した可能性は低い」とする報告書を出したが、不満足な代物だった。

 英コーンウォールで6月に開かれた先進7カ国(G7)首脳会議では、中国を「巨大な脅威」と位置付け、コロナの「起源」について再調査を求める声が上がった。

 自由主義陣営の強い怒りを受け、WHOのテドロス・アダノム事務局長は7月、WHO会合で武漢の研究所などへの追加調査を提案した。

 米共和党が、このタイミングで報告書を公表した意味をどう見るか。

 福井県立大学の島田洋一教授(国際政治)は「米議会共和党は、これまでも中国語に堪能なマット・ポティンジャー前大統領安保副補佐官らが、中国側から得た秘密文書を精査し、『武漢研究所漏洩説』に自信を持っているようだ。『親中派』とされるバイデン民主党政権と中国側が“談合”して、中身の緩い報告書を発表しないよう、民主党政権と中国を強く牽制(けんせい)した動きだ」と語っている。

【私の論評】Intelligence(諜報活動)はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった。変化を起こすチャンスは誰でもある(゚д゚)!

上の記事にもあるように、多くの筋から、コロナは武漢研究所から流出したとする説が噴出しています。その中で、なぜか日本ではあまり注目されないものがあります。それについては、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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なお、この記事の元記事となっている、ニューヨーク・タイムズの記事には、続編があります。その続編のリンクを以下に掲載します。

武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得実験を行っていた

これらのニュースは、日本でももっと注目されても良いと思うのですが、なぜか日本ではあまり報道されません。

これらの記事の急所は、パンデミック発生後早い段階で「反中の陰謀説」とされてきた新型コロナウイルスの「研究所流出説」が6月あたりから、急に見直されたのは、中国の説明がおかしいと感じた世界各地のアマチュアネットユーザーがチームを組んで否定しがたい新事実を科学界と大メディアに突きつけたということです。

このアマチュアネットユーザーの名称は、言ってみれば「オープンソースの自由参加型ブレインストーミング」であり、ネット調査と市民ジャーナリズムの要素が合体した、全く新しい調査方法といえます。彼らは自分たちをDRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team Investing COVID-19=新型コロナウイルス感染症に関する分散型の急進的な匿名の調査チームの頭文字を取った略称だ)と名乗っています。

そうして、彼らの調査方法は、諜報機関でいうところのOSINTに近いものです。OSINTとは、オープン・ソース・インテリジェンス(open source intelligence)の略称です。これは諜報活動の一種で、一般に公開され利用可能な情報を情報源に、機密情報等を収集する手法を指します。

一般に公開され利用可能な情報とは、合法的に入手できる情報で、トップに対するインタビュー記事や企業のプレスリリース、書籍、インターネット情報等が挙げられます。これらを合法的に調べて分析することにより、一見、断片的なデータから、意味を持った情報が得られる場合があります。

身近な例から考えると、例えば自社の戦略を考えるために、他社を分析することが挙げられるでしょう。ライバル企業の資料やウェブページ、IR情報等を分析して、ライバル企業が次にどのような戦略を取りうるかを予測するのです。OSINTはこのようにビジネスで有効に活用することもできますが、攻撃者がターゲットの情報をつかむ目的で用いる場合もあるため、注意が必要です。

近年、情報収集の手法として「OSINT(オシント)」が注目されています。OSINTとは本来、国家保障等の専門領域で使われる言葉ですが、OSINTの考え方や手法がサイバー攻撃でも用いられていることから、最近ではサイバーセキュリティ分野でも耳にする言葉となりました。

最近では、「OSINT」に用いることができる、様々なツールがオープンソースとして提供され誰でも使用できるようになっています。そのため、様々な使い方がされるようになりましたがDRASTICの情報の収拾・集約もこのような手法も用いているのは確実だと思います。

オープンソースのオシントツールの一つMaltego

ただし、本来のOSINTは軍事目的であり、軍関係者ならびにその協力者などが用いるということで、オープンなものとは言えなかったと思いますが、このOSINTの手法がDRASTCなどにも用いられているのは確実であり、これは、今後新たな動きを作り出すことになるでしょう。

従来だと不可能だった、情報の収拾と集約ができるようになりつつあるといえます。誰かが何かの目的で、何かを実施して、それが好ましくない影響を及ぼした場合、あるいは及ぼしそうな場合、それを隠蔽することは、おうおうにしてあることです。

しかし、情報社会においては、そのようなことをしても、必ず何らかの痕跡が残ります。その痕跡を丹念に調べて、つなぎ合わせていけば、何かを隠蔽しているかを突き止めることができます。

インターネットが発達していない時代においては、新聞記事、雑誌記事、書籍、論文などがOSINTの対象であり、それらを集めるにも膨大な時間と、労力と、資金が必要でしたが、最近ではそれ以外にも、様々なネット上の情報が加わわったために、従来と比較すれば、比較的短時間にしかもあまりお金をかけなくても、情報が集められようになりました。

今でも膨大な労力が必要なのは変わりはないですが、現在ではインターネットが普及したため、大勢の人が、それも世界中の人々が関わり情報を交換したり、分析する事により、その労力は従来と比較すれば、かなり低減できるようになりました。

だかこそ、DRASTICのようなグループができあがり「コロナは武漢研究所から流出」した可能性を否定することはできないということを、様々な根拠によって、提示することができたのです。

先にあげた、ニュースウィークの続編の記事の結論部分には、以下のようなことが掲載されています。
新たな情報が暴露され、サイエンス誌に公開書簡が発表されてから数日以内に、さらに多くの学者や政治家、主流メディアまでもが研究所流出説を真剣に受け止め始めた。そして5月26日、ジョー・バイデン米大統領が情報機関に対して、「我々を明確な結論に近づけるような情報の収集・分析に改めて励む」よう命じた。

「アメリカは同じような考え方を持つ世界のパートナーたちと協力して、中国に対して全面的で透明性のある、証拠に基づく国際調査に協力するよう圧力をかけ、また全ての関連データや証拠へのアクセスを提供するよう強く求めていく」と語った。

中国はもちろん強く反発している。彼らが調査に協力することはないかもしれない。だが確かなことは、武漢の研究所がパンデミックの元凶だったのかどうか(そして次のパンデミックを引き起こしかねないのかどうか)について、調査研究が行なわれるだろうということだ。それも、DRASTICのようなアウトサイダーたちが援軍として加わった形で。

「科学はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった」と、シーカーは本誌に述べた。「変化を起こすチャンスは誰にでもある」

最後の文章の「科学」という言葉は、今回の事例にはあてはまることだと思います。DRASTICが、暴いたのはコロナ感染症に関することであり、テーマが生物学的なものだからです。

しかし、今回はたまたまそうだったのであり、今後は「科学」に限られることなく、ありとあらゆる分野でDRASTICのようなグループが発生する可能性があります。いや、もうすでにあります。

ただ、今回のDRASTICのようなドラスティックな、公表をしていないので、わからないだけだと思います。また、怪しげな陰謀論に終始するグループも多数あることも事実です。

OSINTトレーニングの様子

シーカー(DRASTICの1人、「シーカー(探索者)」と名乗る20代後半のインド人男性)がニューヨーク誌に語った、「科学はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった」「変化を起こすチャンスは誰にでもある」という言葉は、もっと大きな括りでは、「Inteligence(諜報活動)はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった」「変化を起こすチャンスは誰でもある」とすべきだと思います。 

これは、本当だと思います。実際私自身も、政治家や官僚、識者といわれる人々の言動の内容の真偽が判断しかねる場合、ネットで検索すると、その言動の内容の真偽がはっきりすることがあります。歴史的な経緯や、統計資料からはっきりすることが良くあります。

現在のところは、調べるだけなのですが、いずれOSINT的なことも実行してみようと考えています。そのためには、現在の世界の共通語にもなっている英語の能力をもっと磨くべきであると考えています。翻訳という手もありますが、基本的な情報のやりとりまで、いちいち翻訳に頼っているようでは、不可能だと思います。

今後、政治家や企業経営者らもOSINT的な考え方をすべきです。無論、彼らが直接キーボードを叩いて、情報を収拾する必要はないですが、得るべき情報の方向性や、得られた情報を統合する能力が求められることになるでしょう。特に統合力がなければ、せっかく良い情報が得られても、それが何を意味するのか理解できません。こういう分野では、分析力が重視されるようにみえますが、それだけでは無意味です。

分析した結果が、全体のどの部分に相当するものなのか、全体にどのような影響を与えるのか、あるいは何をすれば大きな影響を与えられるのかを認識するには、統合力は欠かせません。

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