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岡崎研究所
中国はインドとの対立やアフリカ、中東、地中海などに対する戦略的野心を抱えながらインド洋への進出を強めている。その際の最大の弱みはマラッカ海峡である。海峡は中国の海上貿易の生命線であり、中国海軍の東南アジアそしてさらに西への進出の通路であるが、「マラッカのジレンマ」という言葉がある通り、中国としては、一つの狭い難所への依存を減らすことが重要である。こうした文脈において、一帯一路の野心的なプロジェクトとして出ているのが、マレー半島で最も狭いタイ南部のクラ地峡に運河を建設し、中国からインド洋への第二の海路を開く計画である。この運河ができれば、インド洋、アフリカ、中東などねへの中国の軍事的進出を容易にし、中国にとって戦略的に重要な資産になる。
タイではアンダマン海とシャム湾を結ぶ運河の計画は昔からしばしば議論されており、1677年に初めて運河建設が言及されて以降、1793年にはラーマ1世の弟が一時アンダマン海側のタイの防衛強化の観点から計画し、1882年にはスエズ運河の建設者レセップスが地域を訪問している。1973年には米国、フランス、日本、タイの4か国が合同で平和的核爆発を用いた運河建設を提案したが実現しなかった。
最近のタイ国内の動きを見ると、タイの政治指導者の間で運河計画への支持が広まっているようである。プラユット首相は、建設の是非は次期政権にゆだねると述べていたが、国家安全保障会議などに内々に事業可能性に関する調査を指示したと報じられている。政治的関心の有無にかかわらず実際に建設計画を推し進めてきたのは「タイ運河協会」で、協会は主に退役軍人を中心に組織され、南部の住民に対して啓発活動をするとともに、政府にロビー活動をしているとのことである。
タイで運河計画が現実味を帯びてきたのは、マラッカ海峡が扱える船舶量が限界に近づきつつあるからである。それに、タイ運河ができれば、航行距離が1000キロ以上短くなり、航行運賃がそれだけ安くなる。これはマラッカ海峡に頼らざるを得ない日本などにとっても朗報である。タイとしては、運河が建設されれば、通行料が入るほかに経済的効果が期待できると考えている。具体的には運河の両端に工業団地や物流の拠点を建設する計画がある。タイ経済の新しい起爆剤にしようとの思惑があるようである。
タイではアンダマン海とシャム湾を結ぶ運河の計画は昔からしばしば議論されており、1677年に初めて運河建設が言及されて以降、1793年にはラーマ1世の弟が一時アンダマン海側のタイの防衛強化の観点から計画し、1882年にはスエズ運河の建設者レセップスが地域を訪問している。1973年には米国、フランス、日本、タイの4か国が合同で平和的核爆発を用いた運河建設を提案したが実現しなかった。
最近のタイ国内の動きを見ると、タイの政治指導者の間で運河計画への支持が広まっているようである。プラユット首相は、建設の是非は次期政権にゆだねると述べていたが、国家安全保障会議などに内々に事業可能性に関する調査を指示したと報じられている。政治的関心の有無にかかわらず実際に建設計画を推し進めてきたのは「タイ運河協会」で、協会は主に退役軍人を中心に組織され、南部の住民に対して啓発活動をするとともに、政府にロビー活動をしているとのことである。
タイで運河計画が現実味を帯びてきたのは、マラッカ海峡が扱える船舶量が限界に近づきつつあるからである。それに、タイ運河ができれば、航行距離が1000キロ以上短くなり、航行運賃がそれだけ安くなる。これはマラッカ海峡に頼らざるを得ない日本などにとっても朗報である。タイとしては、運河が建設されれば、通行料が入るほかに経済的効果が期待できると考えている。具体的には運河の両端に工業団地や物流の拠点を建設する計画がある。タイ経済の新しい起爆剤にしようとの思惑があるようである。
中国にとっては航路が短くなる経済上のメリットの他に、上述の通り、戦略上のメリットが大きい。タイ運河が完成すれば、中国海軍がインド洋、アフリカ、中東などへ進出しやすくなり、インドとの対決で有利になると同時に、中国の軍事的存在感を高めることになる。
タイが中国によるタイ運河建設に前向きなのは建設費を負担してもらえることが期待できるからである。運河の建設費は一応300億ドル前後と見積もられているようであるが、実際はもっとかかるだろう。それを中国が出してくれればタイは財政的に大いに助かる。しかし、中国が建設費を負担すれば、当然のことながら中国のタイに対する発言権は強まる。最近、タイの中国傾斜は高まっている。やはり、中国のすぐ近くに位置するタイとしては、中国傾斜はやむを得ない面があるのだろう。
タイの運河が建設され、中国のインド洋などへの進出が強まってもインドはアンダマン・ニコバル諸島の基地を強化することで対抗できるのではないかとの指摘もある。しかし、運河が完成すれば、中国の「真珠の首飾り」によるインド包囲網は強化されるわけであり、中国によるタイ運河の建設はインドにとって戦略的に受け身に立たされるのは間違いない。
【私の論評】運河ができれば、地政学的な状況が変わりタイは中国によって苦しめられることになる(゚д゚)!
マラッカ海峡は、昔からグローバルな通商の重要な回廊でした。イタリアの冒険家マルコ・ポーロは、1292年に中国(元朝)から海路帰郷するときここを通りました。1400年代には、中国(明朝)の武将・鄭和がここを通って南海遠征を進めました。
このジレンマとは、中国が経済的に発展して国力が高まると、米国(とシンガポール)に対する脆弱性が高まってしまうというものです。経済発展するとエネルギーの需要が高まり、中東からの石油の輸入に頼らざるを得なくなります。
その際の海上交通路のチョークポイントは、マラッカ海峡(中国が輸入する原油の80%がここを通過)です。したがって同海峡を管理する米国(とシンガポール)との関係が重要になります。
当然ながら中国には、このジレンマを解消しようという動機が働きます。その解決策として北京は現在、3つの計画を進めていると言われています。
第1がパキスタンのグワダル港と新疆ウイグル自治区のウルムチまで、パイプラインを結ぶ計画です。グワダル港はイランとの国境のすぐ東にある。インド洋に向かって開けている砂漠の南端にある良港です。
当然ながら中国には、このジレンマを解消しようという動機が働きます。その解決策として北京は現在、3つの計画を進めていると言われています。
第1がパキスタンのグワダル港と新疆ウイグル自治区のウルムチまで、パイプラインを結ぶ計画です。グワダル港はイランとの国境のすぐ東にある。インド洋に向かって開けている砂漠の南端にある良港です。
最近の「一帯一路」につながる「中パ経済回廊」というスローガンの下で、中国政府がすでに大規模な投資を行っています。今後さらに深海港化――大型の船を着岸できるようにするため浚渫(しゅんせつ)工事を行ったり港湾施設の拡充を行う方針をパキスタン政府と決定しています。
ただし、プロジェクト全体の実現性が疑問視されている面もあります。グワダル港周辺に住む民族(バルチ人)は、パキスタンの首都イスラマバード周辺に住む民族(パンジャブ人)と対立関係にあって、分離独立の機運もあります。
ただし、プロジェクト全体の実現性が疑問視されている面もあります。グワダル港周辺に住む民族(バルチ人)は、パキスタンの首都イスラマバード周辺に住む民族(パンジャブ人)と対立関係にあって、分離独立の機運もあります。
もし中国のパイプラインがグワダルまで延長されれば、イスラマバードに対抗するために「パイプラインを破壊し、中国人労働者を殺害する」と明言する独立運動側のリーダーもいます。また、北から吹く風が砂漠から運んでくる大量の砂によって港が埋まってしまう問題も抱えています。
第2がミャンマーへのパイプラインです。これは中国南部の昆明からチャウッピュー港まですでに伸びていて、2018の2月の時点で完成したと言われています。
これはまさに戦前の「援蒋ルート」の再現です。連合軍側が戦時中に、中国内の日本軍に対抗すべく整えた物資補給路が、現代において、マラッカ海峡をバイパスするための中国自身のための原油ルートとして復活したことになります。ところが、北京政府が同時に敷設する予定だった鉄道のほうは、地元住民の反対などもあって中止している模様です。
第3が冒頭の記事にもある「クラ運河」です。マラッカ海峡をバイパスする形で、マレー半島を横断して太平洋 (タイ湾)とインド洋(アンダマン海)の間の44キロを結ぶ運河の建設です。2018年、中国とタイの企業が計画を発表したのですが、こちらも、その実現性に疑問符がついています。報道が錯綜しており、タイ政府側はこの計画の存在自体を否定したという情報もあります。
いずれにせよ、中国側はマラッカ海峡という自らが権限をもたないチョークポイントを回避するため、新たな陸上ルートを開発する計画を次々に打ち出そうとしています。
マハンの頃から、まるで「太平洋を握るものは世界を制する」とでも言うべき現象が国際政治の場に現れています。第二次世界大戦では、この海域の覇権を巡って日米が激突しました。日本の敗戦後は、米国がここの覇権を握った状態が続いています。言い換えれば、1945年以降、米国は太平洋を「内海化」しているのです。
ところが2000年代に入ってから、中国がこの覇権に異を唱え始めました。2006年にキーティング米太平洋艦隊司令官(当時)に対して中国海軍の司令官が「太平洋を2分割しよう」と提案したという逸話があります。
習近平国家主席が2013年夏の米中首脳会談以来、「新型の大国関係」を唱え始めました。「G2論」の派生版です。この頃から「広い太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」というフレーズを使い始めました。2018年にも北京で米国の当時のケリー国務長官に対して同様の言葉を発しています。
つまり中国は、太平洋において米国が覇権を握っている状態をよしとしていないのです。そこに国力に見合った自分たちの影響圏を確保し、覇権とは言わないまでも、米国と太平洋を分割し、できれば共存したいという意図を持っていると解釈できます。
かつては、「米中は太平洋において共存できる」という楽観論も持ち上がりました。米ボストン・カレッジ大学のロバート・ロス教授は、1999年に書いた論文の中で、このように主張しました(ロス教授は後に考えを修正)。
しかし、南シナ海の状況と現在の米中冷戦が激化するにおよんで、米中が共存関係に向かっていると楽観的に判断する人々はすっかり姿を消しました。現状変更を積極的に進めようという中国の意図があまりにも明々白々だからです。
米国は本気で中国が体制を変えるか、中国共産党が崩壊するまで制裁を強化します。米国は、基軸通貨ドルを背景に、世界中のドルの取引を把握しています。この情報に加え、世界金融市場を支配しています。強大な軍事力の他にこのような強力なパワーを持っているわけですから、中国には全く勝ち目はありません。
米国は本気で中国が体制を変えるか、中国共産党が崩壊するまで制裁を強化します。米国は、基軸通貨ドルを背景に、世界中のドルの取引を把握しています。この情報に加え、世界金融市場を支配しています。強大な軍事力の他にこのような強力なパワーを持っているわけですから、中国には全く勝ち目はありません。
このような中で、日本が考えるべきは、米国の同盟国として、中国への冷戦に参戦し、いかに相対的に存在感を向上させるかです。選択の余地はないでしょう。もし、そうしなければ、日本も中国と同じように制裁の対象となり、とんでもないことになります。
中国共産党はいずれ崩壊するか、崩壊しなければ、中国経済は確実に崩壊し、日本は第二の経済大国に返り咲くことになります。香港で一国二制度が消え、ロンドンはブレグジットで金融都市としての地位を低下させています。シンガポールも世界的な貿易摩擦の打撃を受けて地位を低下させています。昨年の第2・四半期の成長率は、前年同期比わずかプラス0.5%だった香港をも下回りました。
日本はコロナ禍もうまくかわし、1億人以上の人口を抱える国の中では、一番感染の蔓延を封じ込めることに成功しています。
日本が米国の同盟国として、中国との対峙を強化すれば、いずれ日本は世界で第二パワーとして、存在感を増します。そうして、中国共産党が崩壊もしくは、中国が経済的に意味を持たない国になった後には、大東亜戦争後の敗戦国の地位から開放され、名実ともに完璧な独立国になる機会が訪れます。
中国共産党はいずれ崩壊するか、崩壊しなければ、中国経済は確実に崩壊し、日本は第二の経済大国に返り咲くことになります。香港で一国二制度が消え、ロンドンはブレグジットで金融都市としての地位を低下させています。シンガポールも世界的な貿易摩擦の打撃を受けて地位を低下させています。昨年の第2・四半期の成長率は、前年同期比わずかプラス0.5%だった香港をも下回りました。
日本はコロナ禍もうまくかわし、1億人以上の人口を抱える国の中では、一番感染の蔓延を封じ込めることに成功しています。
日本が米国の同盟国として、中国との対峙を強化すれば、いずれ日本は世界で第二パワーとして、存在感を増します。そうして、中国共産党が崩壊もしくは、中国が経済的に意味を持たない国になった後には、大東亜戦争後の敗戦国の地位から開放され、名実ともに完璧な独立国になる機会が訪れます。
金融でも経済でも、過去のようにこれから政策を間違えさえしなければ、過去数十年も間違い続けてきただけに、どの国よりもこれから伸びる伸びしろが大きいです。今世界の中で、コロナ後に伸びる伸びしろの大きい国は日本をおいて他にありません。
それをものにするか否かは、無論多くの日本国民の考え一つです。いつまでも、まともな財政政策、金融政策ができない状況を継続するのか、それとも第二次補正予算のときのように、政府と日銀の連合軍で、財務省の圧力をはねかえすのか?
いつまでも、米国などに依存して生き続けるのか、米国等との同盟関係を続けながらも、少なくとも自国の防衛は自国で行うようにして、真の独立国の地位を勝ち得るか、まさに日本の分水嶺が訪れることになります。
マラッカ海峡 狭いところは海峡というより巨大な川のよう |
現在のマラッカ海峡は、中東の石油を東アジアにもたらし、アジアの工業製品をヨーロッパや中東にもたらす船が年間8万隻以上通過します。現在のシンガポールの繁栄は、この海峡の南端に位置することによって得られたものです。
タイ運河があれば、タイもその繁栄の一部にあずかることができます。タイ運河協会はそう主張しています。運河の東西の玄関には工業団地やロジスティクスのハブを建設して、アジア最大の海運の大動脈をつくるのです。
その主張には一定の合理性があります。現在の海運業界の運賃や燃費を考えると、タイ運河の建設は経済的に割に合わないと指摘する声もありますが、安全面から考えて、マラッカ海峡の通航量が限界に達しつつあるのは事実です。
タイ運河の位置については複数の候補があります。現在有力なのは9Aルートと呼ばれ、東はタイ南部ソンクラー県から、西はアンダマン海のクラビまで約120キロにわたり、深さ30メートル、幅180メートルの水路を掘るというものです。
ところが、タイにとってこのルートは、自国を二分する危険があります。9Aルートはタイ最南部の3つの県を、北側の「本土」と切り離すことになります。それはマレー系イスラム教徒が住民の大多数を占めるこの地域の住民がまさに望んできたことです。
近年、この地域では分離独立を求める反体制運動が活発化しており、しばしば国軍(タイ政治で極めて大きな力を持つ)と激しい衝突が起きています。そこに運河が建設されれば、二度と埋めることのできない溝となり、タイは今後何世紀にもわたり分断されることになるでしょう。
パナマ運河が良い例です。かつてコロンビア領だったパナマ地峡では、1903年に分離独立を求める運動が起こり、運河建設を望んだ米国の介入を招きました。結果的にパナマは独立を果たし、1914年にはパナマ運河が開通したのですが、以来パナマは事実上アメリカの保護領となっています。
1869年に開通したスエズ運河も、1956年にエジプトが国有化を断行するまで、イギリスとフランスの利権をめぐる軍事介入が絶えませんでした。そうしてエジプト政府は今、運河の向こう側に広がるシナイ半島で、イスラム反体制派の活動に苦慮しています。
今のところ、タイの領土的一体性は保たれています。ところが、タイ運河が実現すれば、東南アジアの地政学は大きく変わるでしょう。必然的にこの地域の安全保障パートナーとして、中国の介入を招くことになります。一度そうなれば、容易に追い出すことはできなくなります。パナマの事例からもこれは明らかです。
中国は、カンボジア南西部のシアヌークビルと、ミャンマーのチャウピューの港湾整備計画と合わせて、タイ運河を「真珠の首飾り」の一部をなす戦略的水路と見なすでしょう。もしタイに反中政権が誕生して、首飾りを壊すようなことがあれば、中国が最南部の分離独立運動を支援して、軍事介入に踏み切り、運河の支配権を握る可能性も排除できないです。ここでもパナマが参考になります。
こうしたリスクに気付いたのか、タイのサクサヤム・チドチョブ運輸相は最近、運河ではなく鉄道や高速道路を建設するほうが望ましいと語りました、地峡の両端に港を建設する計画と、陸橋を建設する計画の調査予算を確保したことも明らかにしました。
タイ運河はアメリカとその同盟国、あるいは戦略的要衝を軍備増強して中国の拡張主義に対抗し得るインドには大きな脅威にはならないかもしれないです。しかし一方で、ミャンマーやカンボジアなど、近隣の貧困国の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は市民社会が比較的弱く、中国に介入されやすいからです。それこそがタイにとっての絶対的な危険です。
マラッカ海峡がシンガポールを豊かにしたのは、シンガポールが外国の影響を比較的受けないオープンな経済を持っているからです。タイは、中国に危険な賭けを始める前に、その教訓を慎重に検討する必要があります。
タイ運河があれば、タイもその繁栄の一部にあずかることができます。タイ運河協会はそう主張しています。運河の東西の玄関には工業団地やロジスティクスのハブを建設して、アジア最大の海運の大動脈をつくるのです。
その主張には一定の合理性があります。現在の海運業界の運賃や燃費を考えると、タイ運河の建設は経済的に割に合わないと指摘する声もありますが、安全面から考えて、マラッカ海峡の通航量が限界に達しつつあるのは事実です。
タイ運河の位置については複数の候補があります。現在有力なのは9Aルートと呼ばれ、東はタイ南部ソンクラー県から、西はアンダマン海のクラビまで約120キロにわたり、深さ30メートル、幅180メートルの水路を掘るというものです。
ところが、タイにとってこのルートは、自国を二分する危険があります。9Aルートはタイ最南部の3つの県を、北側の「本土」と切り離すことになります。それはマレー系イスラム教徒が住民の大多数を占めるこの地域の住民がまさに望んできたことです。
近年、この地域では分離独立を求める反体制運動が活発化しており、しばしば国軍(タイ政治で極めて大きな力を持つ)と激しい衝突が起きています。そこに運河が建設されれば、二度と埋めることのできない溝となり、タイは今後何世紀にもわたり分断されることになるでしょう。
パナマ運河が良い例です。かつてコロンビア領だったパナマ地峡では、1903年に分離独立を求める運動が起こり、運河建設を望んだ米国の介入を招きました。結果的にパナマは独立を果たし、1914年にはパナマ運河が開通したのですが、以来パナマは事実上アメリカの保護領となっています。
1869年に開通したスエズ運河も、1956年にエジプトが国有化を断行するまで、イギリスとフランスの利権をめぐる軍事介入が絶えませんでした。そうしてエジプト政府は今、運河の向こう側に広がるシナイ半島で、イスラム反体制派の活動に苦慮しています。
今のところ、タイの領土的一体性は保たれています。ところが、タイ運河が実現すれば、東南アジアの地政学は大きく変わるでしょう。必然的にこの地域の安全保障パートナーとして、中国の介入を招くことになります。一度そうなれば、容易に追い出すことはできなくなります。パナマの事例からもこれは明らかです。
中国は、カンボジア南西部のシアヌークビルと、ミャンマーのチャウピューの港湾整備計画と合わせて、タイ運河を「真珠の首飾り」の一部をなす戦略的水路と見なすでしょう。もしタイに反中政権が誕生して、首飾りを壊すようなことがあれば、中国が最南部の分離独立運動を支援して、軍事介入に踏み切り、運河の支配権を握る可能性も排除できないです。ここでもパナマが参考になります。
こうしたリスクに気付いたのか、タイのサクサヤム・チドチョブ運輸相は最近、運河ではなく鉄道や高速道路を建設するほうが望ましいと語りました、地峡の両端に港を建設する計画と、陸橋を建設する計画の調査予算を確保したことも明らかにしました。
タイ運河はアメリカとその同盟国、あるいは戦略的要衝を軍備増強して中国の拡張主義に対抗し得るインドには大きな脅威にはならないかもしれないです。しかし一方で、ミャンマーやカンボジアなど、近隣の貧困国の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は市民社会が比較的弱く、中国に介入されやすいからです。それこそがタイにとっての絶対的な危険です。
マラッカ海峡がシンガポールを豊かにしたのは、シンガポールが外国の影響を比較的受けないオープンな経済を持っているからです。タイは、中国に危険な賭けを始める前に、その教訓を慎重に検討する必要があります。
マラッカ海峡は、日本にとっても重要な拠点です。ここの平和が脅かされれば、日本も直接悪影響を受けます。この地域の安全保障について、日本も真剣に考えるべき時がきたようです。
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