2020年9月5日土曜日

【日本の解き方】「アベノミクス」いまだ理解せず、的外れな批判をするマスコミ 雇用やコロナ予算に威力発揮―【私の論評】菅政権が緊縮財政の転換の実現に成功すれば、安倍政権に次ぐ長期政権になり得る(゚д゚)!

 【日本の解き方】「アベノミクス」いまだ理解せず、的外れな批判をするマスコミ 雇用やコロナ予算に威力発揮

安倍首相

 安倍晋三政権で日銀のインフレ目標と金融緩和が実施されて7年以上が経過したが、「2%目標」の意味やその効果について、いまだに多くのメディアが正しく評価できない状況だ。

 日本のメディアは、アベノミクスのインフレ目標2%について、「実際に達成していないからダメだ」と論評する。しかし、これはインフレ目標の意味をキチンと理解していない薄っぺらなものだ。

 インフレ目標は、雇用(失業率)とインフレ(率)の関係を分かっていないと正しく理解できない。短期的にインフレ率が高い状況では失業率が低下し、逆に失業率が高いときはインフレ率が低下するというトレードオフ関係がある。これは、マクロ経済学の基本中の基本だ。

 いずれにしても物価と雇用は裏腹なのだが、失業率はゼロにはならず、一定以下には下がらない。一方、インフレ率はいくらでも上がる。

 こうした状況において、最低の失業率を目指すときに、金融緩和しすぎてインフレ率が高くならないように、ギリギリ許容できる水準としてインフレ目標があるのだ。

 要するに、完全雇用が達成できていれば、インフレ率が2%に達していなくても問題ではなく、それはむしろ喜ばしいことだ。政権ができるマクロ経済対策は、極論を言えば雇用の確保しかない。それができれば及第点だ。

 安倍首相は雇用政策としての金融政策を完全に理解した日本で初めての首相だ。その結果、安倍政権は失業率を引き下げ、就業者数を増やした。失業率統計は1953年から始まったが、それ以降の29の政権のうち、在任期間中に失業率を下げ、かつ就業者数を増やしたのは10政権しかない。

 その中で安倍首相は失業率を1番下げて、就業者数は佐藤栄作政権に次いで2番目に増やした。これは他の誰も実現できなかった断トツの実績だ。しかも、失業率2%前半という「完全雇用」の状態も達成できた。

 インフレ目標の導入は安倍首相の功績だが、その効果として雇用を作るとともに、財政政策と金融政策の一体化を進めることができるようになった。この点でも、安倍首相はこれを理解した初めての首相だった。

 インフレ目標の達成まで日銀で紙幣を刷って財源を作っても全く問題ないことを安倍首相は理解していたのだ。

 しかし、日本のマスコミは、「現下のコロナ対策により、借金が増え、将来世代にツケが回るのでアベノミクスの負の遺産になっている」という間違った解説をしている。インフレ目標2%に達しないからこそ、将来世代に負担をかけずに、日銀がカネを刷って、コロナ対策が可能になっているのだ。

 アベノミクス、とりわけインフレ目標の意味について、完全雇用達成を目指しつつも金融政策をふかしすぎないための歯止めであること、そしてその範囲内なら財政再建を意識する必要はないことを、いまだに日本のマスメディアが理解していない。このため、きちんとアベノミクスを評価できていないのは情けない。(元内閣参事官・嘉悦大教授)

【私の論評】菅政権が緊縮財政の転換の実現に成功すれば、安倍政権に次ぐ長期政権になり得る(゚д゚)!

第2次安倍政権は、約8年の憲政史上最長の政権となりましたが、6回の国政選挙において安倍首相率いる連立与党は国民の信任を得ることに成功しました。特に平成以降の日本の首相の在任期間が短かったことを踏まえると、日本の選挙制度では長期にわたり政権を保つことは、かなり困難と言えにもかかわらず、この偉業を達成したのです。

安倍政権に対する評価は様々でしょうが、批判はするのですが健全な政策論争を行わないように見える野党に対する国民の信頼が高まらない一方で、安倍政権が相応の実績を残して国民の期待に一定程度応え続けました。だからこそ、史上最長の政権となり得たのです。

外交面では、米国を中心とした民主主義体制の親密国との関係強化、TPP協定を実現して自由貿易推進の旗振り役になったこと等が主な成果です。それ以上に国民の支持を高めたのは、発動した経済政策によって2013年から経済状況が大きく改善したことです。

2000年代半ばの小泉政権は平成以降では数少ない長期政権でしたが、この時期も総じて経済状況改善が続きました。公務員などを除く多くの国民が市場経済のルールに直面している日本では、頻繁に選挙民によるチェックが行われるので、その政治基盤は経済政策の出来と経済状況が大きく左右しています。

第一次小泉内閣


2013年以降の経済正常化を端的に示すのは、上の高橋洋一氏の記事にもあるように、労働市場の環境改善です。コロナ禍前の2019年12月には失業率は2.2%まで低下しました。これは、1992年以来約30年ぶりの水準です。

1992年当時は、1980年代後半のバブルが崩壊してから2年が経過して経済悪化が始まっていたのですが、それでも労働市場の需給バランスがなんとか保たれ、ほぼ正常と呼べる経済状況でした。

安倍政権が始まってほどなく2014年頃から、メディアでは「人手不足」の問題が報じられていました。ただし、一部の企業が人手不足に直面している段階では、経済全体や労働市場の需要と供給のバランスが正常化しつつあるだけに過ぎません。

そして、2014年以降も失業率の低下という正常化が続き、上の高橋洋一氏の記事もあるように、2.2%と1992年以来の水準まで労働市場は改善しまはた。特に就職活動に直面する若年世代の就業環境を大きく変えまはた。

約10年前まで世間を賑わせていたブラック企業の悪評が少なくなり、転職機会が多い若年世代労働者の生活はかなり改善したことでしょう。

さらに、安倍政権になってから、自殺者数が大きく減ったことにも、労働市場の改善が大きく貢献しました。これは、このブログにも何度か掲載してきました。

安倍政権に対しては将来があまり見込めない中高年世代からの厳しい声が一定程度存在しています。ところがその一方で、将来がある若者世代の安倍政権への支持率が総じて高いのは、ある意味当然のことです。

経済環境を正常な状況に戻して国民の生活向上を実現するのが、1990年代後半からの日本の政治基盤を盤石にする最重要課題だったはずです。安倍政権において、長年実現しなかった失業率の大幅な改善がなぜ実現したのでしょうか。

経済再生の方針が掲げられても、従前の多くの政権において、政策手段の実行については経済官僚などにほとんど依存していたのが実情だったとみられます。

具体的に、基本的な経済理論が教える通り、失業率問題を改善するための手段は、上の高橋洋一氏の記事にもあるように、金融財政政策(マクロ安定化政策)をセオリー通りに実行することですが、それが不十分だったのです。この問題の本質を、安倍首相らは深く理解していたのです。

例えば、安倍政権以前の日本の金融政策は、日本銀行の内輪の理論によって、経済官僚が事実上決めていたとしか考えられません。ただ、第1次安倍政権下の2007年に行われた日本銀行による2回目の利上げに対して、安倍氏は強い疑念を抱いたとされています。

そうして、安倍氏は、デフレと経済の長期停滞が様々な経済問題をもたらし、そしてその根本原因は金融財政政策が不十分であると認識しのです。これが、いわゆるアベノミクスが大きな成果を挙げた経緯です。

安倍政権が始まって早々、それまで日本銀行が採用しなかった2%インフレを「共同目標」としてコミットさせ、その上で、日本銀行の執行部(総裁、副総裁)の人事には、従前の慣行にとらわれず、それまで日本銀行の金融政策を批判してきた人物を採用しました。

この日本銀行の政策転換は、米FRB(連邦準備理事会)をはじめとした各国の中央銀行と同様に、目標と責任を明確にするというだけのことです。

それでもこの政策転換の経済的な効果は大きいものでした。その後、2012年までの行き過ぎた円高が大きく修正され、停滞していた株式市場が上昇しました。そうして、金融緩和の効果が実態経済に浸透してデフレが和らぎました。

金融政策が一貫して緩和方向に作用して労働市場の需給バランス改善(正常化)が続き、雇用機会が増えて、多くの人の生活苦を緩和したのです。

安倍政権の最大の功績は、安倍総理が責任回避を優先し、自らの無誤謬を主張しつつ内輪の理屈で行動する官僚組織の弊害を見抜き、それを正して国民生活を改善させる責務を果たしことです。

今後、菅政権誕生となれば、安倍政権の経済政策を継承するでしょうが、妥当な政策対応が何であるのかを、安倍政権を支えてきた菅氏は深く理解しているでしょう。

これまで2%インフレ目標は実現しておらず道半ばですが、このことは、コロナ禍前においても、日本の労働市場には一段の改善余地が依然あったことを意味します。

2020年のコロナ対応のために金融財政政策の役割が一段と高まっていますが、これを徹底的に使えば、安倍政権同様に次期政権が国民の支持を得る可能性は格段に高まるでしょう。そして、安倍政権が実行しなかった緊縮財政政策の転換という、有用な政策手段が次期政権に残っていることは明白です。

菅官房長官(左)とポンペオ国務長官


安倍氏が、金融政策をセオリー通りに実行できるようにし、菅氏が次の段階で、財政政策をセオリー通りにできるようにすれば、日本は安泰です。日本経済は最近安定傾向ですが、それにしても未だに韓国よりも経済成長率が低いとか、一人あたりのGDPが韓国並というような、ありえない状況(2019年、韓国は2%成長、日本は1%以下になる見込み)を改善できると思います。

この緊縮財政の転換を実現すれば、菅政権は長期政権になるでしょう。ただし、菅氏の年齢は71歳であり、安倍総理の年齢は65歳ということもあり、安倍政権のような長期政権にはならないでしょうが、それにしても一期で終わりということではなく、それ以上の長期になる可能性が大です。

もし、菅政権が緊縮財政の転換に失敗し、さらに増税するなどのことをしてしまえば、短期の繋政権になる可能性が大きくなり、その後も緊縮財政の転換がなされなければ、自民党政権であろうと、他の政権であろと、短期政権になるのは確実です。

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