2020年9月18日金曜日

米中軍事衝突の危機迫る中での中国の歪な世界観―【私の論評】米国はASEAN諸国に、地政学的状況の変化の恐ろしさと、米海軍の圧倒的な優位性を伝えるべき(゚д゚)!

米中軍事衝突の危機迫る中での中国の歪な世界観

岡崎研究所

 Zhou Bo(清華大学国際安全保障・戦略センター上級フェロー)が、8月25日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に「中米軍事紛争のリスクは憂慮すべきほど高い。米国と中国は南シナ海でその面子を保つ軍事行動のパターンに落ちいっている」との論説を寄せ、中米軍事衝突のリスクを警告している。


 筆者のZhou Boは、中国国防部の国際安全保障協力部長、中国軍事科学院の米中防衛関係室の名誉フェロー等もしている人民解放軍の高官である。英語圏での滞在歴もあり、英語に堪能で、国際会議等にもよく出席する。彼の論説は中国の考え方を説明したものであり、参考になる。ただ、中国が国際法を無視して、南シナ海を自己の領域のように考え、好き勝手に行動しようとしていることを明らかにしたものであり、読んでの感想は、米中の軍事衝突の可能性は論説の筆者が言うようにかなり高いと思われるということである。

 南シナ海の人工島について、ボウは次のように主張する。「これら(人工島)は中国が拡大することを選択した自然な中国の領土であり、埋め立て前に名前があったことはそれが人工的ではない証拠である。中国の法律の下で、外国の軍事船の領海への進入には政府の許可が必要である。」これについて、国際法の観点からいくつかコメントする。まず、名前を付けたから人工島が領土になるわけではない。満潮時に海上に陸上部分が出ていること、それが人間が居住しうる大きさを持つことが島になる要件である。名前をつけるか否かではない。

 次に、領海については、国際法上無害通航権がある。それを、中国の国内法で一方的に中国政府の許可に掛からしめるのは国際法違反である。海洋法条約第58条の解釈も間違っている。中国が米軍の自由航行作戦を挑発であると言っているが、正当な国際法上の権利の行使を挑発などと言う国とは話し合う意味もないかもしれない。

 国際政治上の情勢判断については、これも間違っているように思う。中国の近くの米国の同盟諸国は、米中対決の中で、中国の核や中国との貿易に鑑みて米国の味方はしないだろうとボウは主張する。が、多分そうはならないだろう。それに、核兵器で非核兵器国を脅すなど、とんでもない発想をしている。日本に関しては、米国の側に立つことは明らかであるし、豪州についてもそうであろう。ASEAN諸国は割れるだろうが、ベトナムやインドネシアが米国側につく可能性は高い。

 中国がこういう国際法違反行為をしていることには、多くの関係国を糾合し、中国の9段線による囲い込み主張は国際法上違法であると言うことを明確に言い、中国を孤立化させることが重要であると考える。日本は率先してそういう働きかけをすべきであり、それが南シナ海での平和を守ることになるだろう。グアムでの河野=エスパー日米防衛相会談はそういう方向に向けての一歩になったのではないかと思われる。

 8月26日、中国はグアムを射程に収める「DF26」ミサイル、空母キラーと言われる「DF21D」を南シナ海に発射したが、自己の力を過信しているきらいがある。危険な状況をさらに危険にしている。自ら米中軍事衝突のリスクを高めているように見える。

【私の論評】米国はASEAN諸国に、地政学的状況の変化の恐ろしさと、米海軍の圧倒的な優位性を伝えるべき(゚д゚)!

多くの国・地域に囲まれた南シナ海に、中国は「九段線」と呼ぶ独自の境界線を設定し、広大な海域の大半が自らの主権の範囲内にあると主張してきました。こうした動きに対しベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾がそれぞれ自らの領有権を訴え論争になっています。

 中国が九段線を言い始めたのは1950年ごろからです。軍事力を使い、徐々に実効支配の範囲を南へと広げてきました。ベトナムとは1974年と88年の2度、軍事衝突を起こしています。近年は埋め立てや軍事施設の建設、示威活動を続けています。 

南シナ海は、世界の貨物の3分の1が行き交うという海上輸送の大動脈です。漁獲量は1割超を占め、石油・天然ガスを含めた天然資源も豊富です。中国は力ずくで自国の支配下に置こうとしています。

中国は「南シナ海の島々は歴史的に中国固有の領土である」と主張してきました。ところがフィリピンからの提訴を受けたオランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、九段線には国際法上の根拠がないと断定しました。

 仲裁裁が論拠としたのは、1994年に発効した国連海洋法条約です。中国も締結国のひとつで、判決に従う義務があります。ところが中国は判決を「紙くず」と呼んで無視を決め込み、むしろ実効支配を加速しました力によって国際法の秩序に挑戦する行動が、周辺諸国の強い警戒を引き起こしてきたのです。

この南シナ海でなぜいま、さらに緊張が高まったかといえば、7月半ば、米国が中国の言い分を「完全に違法」と断じたからです。中国の強引な進出をけん制しつつも、中立的な立場から当事者に平和的な解決を促してきた姿勢を、完璧に転換したのです。

背景には中国が4月以降、南シナ海での示威行為をエスカレートさせたことがあります。巡視船がベトナム漁船に体当たりして沈没させたり、マレーシアの国営石油会社が資源開発する海域に調査船を派遣し、探査の動きをみせたりしました。 

世界が新型コロナウイルスへの対応に追われるなか、支配を既成事実化しようとする中国の手法に、米国は危機感を強めました。貿易戦争から始まった米中対立が南シナ海にも波及したといえます。 

東南アジア各国は米国の肩入れを無条件には歓迎していません。中国に経済面で依存している国が多く「米中どちらか」の選択は避けたいのが本音です。米国の同盟国であり、仲裁裁への提訴の原告だったフィリピンが、米中両国と一定の距離をとる構えをみせているのが象徴的です。

米国は中国の主張を完全否定した後、原子力空母2隻を南シナ海へ派遣して軍事演習を重ね、中国をけん制しています。負けじと中国も、同じ海域で実弾演習を実施しました。互いが対抗措置を競うなかで、偶発的な衝突が起きる可能性は否定できません。

 一方で中国は東南アジア各国と、南シナ海での各国の活動を法的に規制する「行動規範(COC)」の策定作業を急いでいます。外交筋によれば、中国はCOCについて

(1)海洋法条約の適用外とする
(2)域外国との合同軍事演習に関係国の事前同意を義務付ける
(3)資源開発を域外国とは行わない。

といった条項を盛り込むよう迫っています。 日本にとっても南シナ海は中東からの原油輸入の通り道であり、中国が沖縄県・尖閣諸島の領有権を主張するなか、人ごとではありません。各国と連携し、中国に強く自制を求めていく必要性がますます高まっています。

南シナ海を巡る米中のけん制合戦は一段とエスカレートしています。8月26日、中国が同海域へ弾道ミサイルを発射したのに対し、米国は軍事施設の建設に関わった中国企業に禁輸措置を発動しました。

片や軍事的な示威、片や経済制裁の応酬の先に、軍事衝突の懸念は高まりつつあるようにみえます。 フィリピンなどが最も恐れるのは、自国の「庭先」で米中が戦争を始める事態です。それを防ごうと、中国とのCOC交渉で妥協し、締結を優先する展開もあり得ます。米国は対中圧力を強めるだけでなく、東南アジア各国をどう味方につけるかが肝要です。

そのためには、米国はASEAN諸国に以下の二つのことを納得させるべきです。

まず第一に、タイの運河ができれば、この地域の地政学的状況が一変し、タイがこれに苦しむことになるのは、目に見えています。中国による東シナ海の領有を認めるようなことをした場合、この地域の地政学的な状況が一変し、そのことがASEAN諸国を長年にわたって苦しめることになることを認識してもらうべきです。

タイ運河については、最近もこのブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の海洋進出を容易にするタイ運河建設計画―【私の論評】運河ができれば、地政学的な状況が変わりタイは中国によって苦しめられることになる(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
タイ運河の位置については複数の候補があります。現在有力なのは9Aルートと呼ばれ、東はタイ南部ソンクラー県から、西はアンダマン海のクラビまで約120キロにわたり、深さ30メートル、幅180メートルの水路を掘るというものです。

ところが、タイにとってこのルートは、自国を二分する危険があります。9Aルートはタイ最南部の3つの県を、北側の「本土」と切り離すことになります。それはマレー系イスラム教徒が住民の大多数を占めるこの地域の住民がまさに望んできたことです。

近年、この地域では分離独立を求める反体制運動が活発化しており、しばしば国軍(タイ政治で極めて大きな力を持つ)と激しい衝突が起きています。そこに運河が建設されれば、二度と埋めることのできない溝となり、タイは今後何世紀にもわたり分断されることになるでしょう。

パナマ運河が良い例です。かつてコロンビア領だったパナマ地峡では、1903年に分離独立を求める運動が起こり、運河建設を望んだ米国の介入を招きました。結果的にパナマは独立を果たし、1914年にはパナマ運河が開通したのですが、以来パナマは事実上アメリカの保護領となっています。
今のところ、タイの領土的一体性は保たれています。ところが、タイ運河が実現すれば、東南アジアの地政学は大きく変わるでしょう。必然的にこの地域の安全保障パートナーとして、中国の介入を招くことになります。一度そうなれば、容易に追い出すことはできなくなります。パナマの事例からもこれは明らかです。

タイ運河はアメリカとその同盟国、あるいは戦略的要衝を軍備増強して中国の拡張主義に対抗し得るインドには大きな脅威にはならないかもしれないです。しかし一方で、ミャンマーやカンボジアなど、近隣の貧困国の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は市民社会が比較的弱く、中国に介入されやすいからです。それこそがタイにとっての絶対的な危険です。
ASEANが中国による南シナ海の支配を認めてしまえば、タイの運河どころの話ではなく、南シナ海の地政学的な状況は一変します。

中国は、自国に対して親和的な国々に対しては、この地域、特にマラッカ海峡などの通行を認めるものの、そうではない国に対しては認めなくなる可能性もあります。そうなれば、日本も多いに影響を受けます。

さらに、中国は本格的にASEAN諸国に介入をするでしょう。貧困国からはじまり、比較的裕福なシンガポールにまで介入して、南シナ海全体とその近隣諸国を自国の覇権が及ぶ地域としてしまうことでしょう。

こうなると、ASEAN諸国は完璧に中国の傘下に入り、現在のように中国との交渉の余地などなくなり、中国は我が者顔で、この地域の富を簒奪したり、中国が儲かる形で様様な開発をするでしょう。ASEAN諸国は苦しむことになります。

端的にいえば、それこそ現在の香港や、ウイグル、内蒙古のようにされ、これらの地域に中国の工場をたてて、地元民を安い賃金でこき使い、南シナ海の近隣諸国に輸出を始めるかもしれません。抵抗すれば、徹底的に弾圧され、この地域の政権はすべて中国の傀儡政権になり、注語に都合の良い政策ばかりを打ち出すようになるかもしれません。

第二に、このブログでも何度か強調してきたように海軍力においては米中を比較すると、海洋国国家の米軍のほうが圧倒的に優れていて陸上国家の中国には全く歯がたたないことを、米国はASEAN諸国に理解させるべきです。

これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍機が台湾侵入!防空識別圏内に 米中対立激化のなか、露骨な挑発続ける中国 日米の“政治空白”も懸念―【私の論評】すでに米軍は、台湾海峡と南シナ海、東シナ海での中国軍との対峙には準備万端(゚д゚)!

1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級

海中の領域、つまり潜水艦による水中の戦いは今でも米軍が絶対優位を維持している分野です。私は米軍は、まだ公にしていないものの、根本的に戦略を変えていると思います。緒戦において米軍は、潜水艦を多様するものと思います。

軍事評論家の中には、このことを無視して、米軍は南シナ海で負けるとする人もいますが、そのようなことはないと思います。かつて米軍は、日本が空母を建造して、優位性を発揮し、真珠湾で大敗を喫した後にすぐに海軍の戦術を変えて、空母を用いるようにしました。

日本軍が、多数の南太平洋の島々に迅速に上陸した有様を研究して、海兵隊の戦法をすぐにかえました。現在では米中は戦争に突入してはいないものの、中国海軍の様子をみて、戦略を変える時間はいままでも十分にありました。おそらく戦術上も戦略上も有利なほうに迅速にシフトするのは今でも変わりないでしょう。

かつて、朝鮮有事が懸念された2017年に、トランプ大統はFOXビジネスネットワークの番組、「モーニングス・ウィズ・マリア」で朝鮮半島付近への、自ら空母派遣について言及しました。

トランプ大統領は、この番組の中で対北朝鮮問題にふれ「我々は無敵艦隊(カール・ヴィンソン打撃群)を送りつつある。とても強力だ。我々は潜水艦も保有している。大変強力で空母よりももっと強力なものだ。それが私の言えることだ」と発言しています。これこそが、私は米国の戦略の転換を示していたと考えています。

しかし、米軍は未だに潜水艦を多様する戦術・戦略を発表していません。それは、もちろん極秘中の極秘だからでしょう。

トランプ大統領が具体的に何を言っていたのか断定はできませんが、たとえばアメリカ海軍は4隻、太平洋側と大西洋側に2隻ずつ改良型オハイオ級巡航ミサイル潜水艦を持っています。他の潜水かもあわせると70隻の潜水艦を所有しています。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、何をいいたかったかというと、 米中の原潜と他対潜哨戒能力を比較すると、米君は潜水艦の静寂性や攻撃力にはるかに優れ、対潜哨戒能力では米軍は世界一であるのに比較して、中国の能力現在でもかなり低く、米軍のほうが圧倒的に勝っているといるということです。

具体的にどうなるかといえば、この海域で中国海軍は、米国の原潜を探そうとオタオタしているうちに、ほとんどが米国の原潜の魚雷などによって撃沈されてしまうということです。

上の記事にもある通り、8月26日、中国はグアムを射程に収める「DF26」ミサイル、空母キラーと言われる「DF21D」を南シナ海に発射しましたが、自己の力を過信しているきらいがあります。危険な状況をさらに危険にしています。自ら米中軍事衝突のリスクを高めているように見えます。

確かに、空母キラーと言われる「DF21D」は米国の空母を撃沈できるかもしれません。しかし、海中に潜む米軍の原潜に対しては、そもそも中国はそれを発見する能力がかなり低いので、手を下すことはできません。

米原潜は中国に発見される可能性が低いので、中国の港の近くどころか、港の中を航行している可能性すらあります。第二次世界大戦中の米軍の潜水艦は、日本の潜水艦と比較すると小さく、技術的にも劣る面がありましたが、米軍は活用方法には秀でていて東京湾の中にまで侵入して偵察行動をしていたといわれてます。米軍が中国と南シナ海で戦争をしようと決意した場合、最初は中国のミサイル発射基地を原潜で破壊するということも十分に考えられます。

そうでなくても、米軍は緒戦で、空母や強襲揚陸艦を南シナ海に派遣し、最初にこれらを中国側に叩かせるなどという馬鹿真似はしないでしょう。最初に原潜で脅威となる中国のミサイル基地をたたくか、ミサイル発射の兆候があればすぐに破壊できるようにしておき、その上で南シナ海の中国軍基地に補給をしようと艦艇や航空機が近づけば、それを排除するなどのことをするでしょう。

これは、兵糧攻めであり、南シナ海の中国軍基地の要因は、戦うことなく手をあげるしかしかたなくなるような状況に追い込まれます。この戦法なら犠牲者もあまり出ず、米軍もかなり実行しやすいです。

この圧倒的な優位性があるうちには、中国がいくら優れた対艦ミサイルを開発しようが、宇宙の軍事利用をすすめようが、サイバー攻撃をしようが、米国の原潜を発見できないので海の戦いで勝つことはできません。

この圧倒的優位性を背景としてでしょうか、米国の有名な戦略化ルトワック氏は「南シナ海の中国軍基地は象徴的なものに過ぎず、米軍なら5分で吹き飛ばせる」と語っています。

潜水艦の行動に関しては、隠密を旨とするため、いずれの国も第二次世界大戦から公表することはほとんどありませんでした。そのため、ASEAN諸国は無論のこと、世界中の国々に、米軍の空母の恐ろしさは伝わっていないところがあります。

日本の河野前防衛大臣は、今年の6月中国の潜水艦が奄美大島接続水域を航行した事実を公表しました。これは、通常はありえないことですが、河野前大臣としては、日本も中国よりもはるかに対潜哨戒能力が段違いですぐれていることから、中国側に警告を発したものと思われます。

おそらく、中国側は、中国としては静寂性に優れた潜水艦が日本に発見されるかどうか試してみたのでしょうが、すぐに発見されてしまったわけです。この状況では、未だ尖閣を奪取するのは、かなり困難であると中国側も再認識したことでしょう。

何しろ、現在の最新鋭の日本の潜水艦は、リチュウム電池で駆動し、ほとんど無音で航行できます。このような日本の潜水艦は、対潜哨戒能力の低い中国には探知できませんし、対潜哨戒能力に優れた米軍でもほとんど不可能です。

そうなると、当然のことながら、東シナ海に潜んでいる日本の潜水艦を中国は発見できず、仮に中国が尖閣を奪取したとしても、日本の潜水艦に包囲されてしまえば、中国は艦艇や航空機で、補給しようとしても、それを絶たれる可能性が大です。それでは、全く無意味どころか、大恥をかくだけです。

米国も、このような中国に対する優位性を公表するまでのことをする必要はないとは思いますが、少なくともASEAN諸国のリーダーたちには理解してもらうことなどが、かなり有効な手段となると考えられます。

軍事機密というもの特に優位性に関するものは、完璧に隠していれば、抑止力にはなりません。さしつかえない範囲で、ある程度公開してはじめて抑止力になります。

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