2020年9月25日金曜日

TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か―【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

 TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か

岡崎研究所

 9月6日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハーは、中国がTikTokの技術を輸出規制の対象とする決定をしたことを捉え、中国も技術のデカップリングに動いていること、差し当たり技術の競争の面で中国の方が少々有利と見られることを論じている。


 8月3日、トランプ大統領は、中国製アプリTikTokの9月中旬以降における米国での使用を禁止するとともに、TikTokの米国事業の米国企業への売却を求める方針を打ち出した。TikTokは、Huaweiとは異なり、戦略的な資産ではなく、TikTokの一件のみをもって一戦を交える用意は中国にはないであろうと思っていたが、案に相違して中国は反撃に出た。

 8月28日、中国商務省は、その輸出規制を改定して複数の技術を規制対象に追加した。これには TikTokの「personalized recommendation engine」を指すと思われる技術が含まれている。これこそが利用者の好みに合わせて動画を配信出来るTikTok独自のアルゴリズムだという。8月29日、新華社はこの新規則により、TikTokを運営する ByteDanceは、中国政府の許可を得ないとTikTokを売却出来なくなるであろうと報道した。ByteDance は新規則に従うと早速表明している。

 TikTokの米国事業の売却は、MicrosoftおよびOracleとそれぞれ交渉中であるが、中国がこの輸出規制の権限を使って売却を阻止出来るのか、あるいは阻止する積りがあるのかは良く分からない。阻止してみたところで、米国でのビジネスが出来ないのであれば、意味はないが、トランプが閉店安売りを強いることを阻止する代償として中国(および ByteDance)が受け容れる用意があるのかは不明である。

 中国として、トランプ政権がTikTokだけでなくTencentのWeChatなど今後も標的を増やすことを睨んで牽制の意味も込めて打った一手であろう。

 フォルーハーの論説は、中国が技術の輸出規制に動いたことは、中国も技術のデカップリング(米国との切り離し)に動いていることの証と捉えている。それは、米国の動きに触発された最初の一手ということであろうが、中国は受けて立つ積りである。デカップリングが進行する世界での両国の技術に係わる力関係は、国内の製造業の基盤および輸出市場の観点からも中国に有利に展開すると、フォルーハーは見ているようである。

 換言すれば、米国が中国にデカップリングを強いるには時期を失している。中国は既に強くなり過ぎていて中国もデカップリングを強い得る立場に立とうとしている、ということではないかと思われる。もしそうであるならば、米国市場から中国企業を手当たり次第排除するだけでは中国に勝てないであろう。

 中国が市場、人口、面積のみならず、技術的優位を獲得し、それを武器に世界戦略に出てきた現実は、大国米国でも、なかなか手に負えない状況になってきたようである。IT技術、宇宙開発、海洋進出、核開発等、いずれの分野でも中国は一国主義を取っている。米ソ冷戦時代でさえ、宇宙協力や核軍縮協定等が存在したが、中国と世界との貿易上の相互依存は深まっても、重要な戦略分野での協力が難しい。協力どころか、もはや切り離しや対立傾向がみられる。

 米国が中国を警戒するのは、中国は、IT技術等を、純粋に経済利用するのではなく、中国の独裁共産主義体制や人権弾圧等、米国が最も重視している民主主義、個人の尊厳と反対の目的のために利用しているからである。これが続く限り、経済とイデオロギーが相まって、米中対立は長期化するのだろう。

【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

上の記事は、英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハー氏の論説に基づいて、中国に有利としているようですが、その根拠は薄弱です。これに似たような論調で、軍事的にも中国が有利とする説があります。

その根拠となっているのは、DF-17ミサイルの弾頭部のHGV(極超音速滑空兵器)です。極超音速のミサイルであり、米国はこれを撃ち落とせず、よって空母もすぐに撃沈されるので、米軍は負けるというものです。

超音速ミサイルなどについては、ここでは詳細は述べません。それについて知りたい方は、以下の記事などにあたってください。
迫り来る極超音速ミサイルの脅威  現状では迎撃不可能?
これに関しては、脅威であることには違いないですが、だからといって米軍が負けると結論を出すのははやすぎです。

なぜ、そうなのかといえば、このブログの読者なら、もうご存知でしょう。それは、中国の軍事技術が発展していることは事実ですが、その発展の仕方があまりに歪だからです。

決定的なのは、中国の対潜哨戒能力が米国に比較すると極度に劣っていることです。さらに、原潜の攻撃能力などもかなり劣っているところがあるということです。

日米に比較するとかなり能力が劣る中国のY8型哨戒機

そのため、米軍の原潜(米国は原潜しかない)は中国側に発見されることなく、自由に航行できるのに対して、中国の原潜および通常型の潜水艦は米国に簡単に探知されてしまいます。そうして、魚雷などで撃沈されてしまいます。

そうなると、他の中国の空母などの艦艇や航空機などもすぐに撃沈、撃破されてしまいます。仮に超音速ミサイルで攻撃しようにも、中国は原潜を探知できないのですから、攻撃のしようがありません。

これは、最初からわかりきっていることなので、もし米軍がたとえば、南シナ海で中国と本気で事を構えようとした場合、南シナ海にすぐに超音速ミサイルルで撃破されることが予め予期される、空母打撃群や強襲揚陸艦を最初に派遣し戦端を開くことなど考えられません。

米軍が艦艇や空母打撃群を南シナ海に派遣しているうちは、本気で戦争する気はないとみるべきでしょう。本当に戦争になる場合は、まずは空母、艦艇を引きあげさせるでしょう。

そうして、まずは原潜を派遣(軍事機密なので公表されていませんが、私はもうすでに派遣していると思いますます、実行するしないは別の話)して、南シナ海の中国軍基地を取り囲み、南シナ海に中国の潜水艦や艦艇、航空機が近づけないようにするでしょう。また、中国の沿岸などに、原潜を派遣して、中国の超音速ミサイルの基地を叩くでしょう。

後は、原潜で南シナ海の中国の基地を包囲すれば、補給がたたれ、中国側はお手上げになるはずです。その後必要があれば、米軍は空母打撃群や強襲揚陸艦を派遣して、中国の残存兵力を無効化し、占領するかもしれませんが、私自身は、南シナ海の中国軍基地など、米国にとってはあまり意味のないものなので、そこまではしないだろうと思います。ただ、破壊するか、元の環礁にできるだけ近いかたちで原状復帰をすることになるかもしれません。

米海軍のCVN-73ジョージ・ワシントンとCVN-74ジョン・C・ステニス空母打撃群

中国の技術水準はかなり歪です。次世代通信システム機器5G 通信機器では既に中国は世界のトップの水準になっています。かなり技術を盗んでいるとはいえ、量子コンピュータ、AI技術、宇宙機器のレーダー、電磁波技術、AI技術、クラウド・ビッグデータ、自動運転技術、サイバー技術などで、米国に肉薄するか、米国より優勢になってきているものもあります。

ところが、航空機や高速鉄道などのボルトを製造できません。先日もこのブログに掲載したように、航空機のエンジンもまともに製造できません。

なぜこのようになるかといえば、自由主義諸国に比較して、技術の裾のが広くないからでしょう。中国の場合は、ロシアから導入された技術と、他国から盗んだ技術を基盤にしています。

ロシアというか、ソ連の技術は第二次世界大戦終了後にドイツの科学技術者を大勢連れてきて、様々な技術を発展させ、その後は他国から盗んだものを基盤にしています。ロシアは、ソ連の頃から対潜哨戒能力はかなり劣り、現在も劣っています。

だから、中国のそれも未だに劣っているのでしょう。それに、これは最高機密に属するので、他国から盗むのも困難です。だから、今でもロシア・中国ともにかなり劣っているのでしょう。

これは、軍事技術のほんの一部であり、他にも劣るところは、かなりあります。

これと同じようなことが、ITについてもいえるでしょう。

中国のAI技術が急速に伸びてきていると言われますが、果たして今現在どこまで伸びてきているのでしょうか。米著名シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が昨年10月に開いたパネル討論会で、中国のAI技術の現状に関する一般的な誤解が幾つか明らかになりました。

登壇した専門家によると、中国はAI技術で世界一になるために政府主導のもと官民が足並みをそろえて邁進しているわけではなく、また膨大なデータ量で米国を凌駕しているわけでもないといいます。

これについては、以下の記事が参考になります。
「AI大国、中国脅威論」の5つの誤解 米戦略国際問題研究所のパネル討論会から
この内容は、中国のAIの問題点をあまり突いてはいないと思います。しかし、技術競争では中国有利などとは単純にはいえないことが、何となく理解できます。

一方、アルゴリズムの研究の停滞は、中国のAIのボトルネックとなるかもしれません。

昨年上海市で開催された院士サロンにおいて、中国工程院院士の徐匡迪氏ら複数の院士からの「AIの基礎的アルゴリズムの研究を行っている数学者は、中国にどれほどいるのだろうか」という問いかけが業界の共鳴を呼び、「徐匡迪の問いかけ」と呼ばれるようになっています。

昨年4月28日に開かれた「超音波ビッグデータ・AI応用・普及大会」において、東南大学生物科学・医療工学学院の万遂人教授は、「中国のAI分野でアルゴリズムの研究に取り組んでいる科学者は極めて稀だ」とし、「徐匡迪の問いかけ」は中国のAI発展の重要問題を突いていると述べ、「この状況に変化がなければ、中国のAI応用は掘り下げが困難で、重大な成果も得難い」としました。


「アルゴリズム」とは、簡単に言うと「手順や計算方法」のことです。さらにざっくりとした言い方をすれば「やり方」とも言えるでしょう。

そもそもコンピュータは日本語に訳すと「電子計算機」となります。つまりコンピュータは、人の手では時間がかかりすぎたり、面倒だったりする計算を代わりにやってもらうためにあるのです。

そのときコンピュータにさせる「計算の手順、やり方」こそが「アルゴリズム」である、というわけです。

重要なのは、ある結果にたどり着くためのやり方(アルゴリズム)はたくさんあることです。

いくつかのアルゴリズムがある場合、より効率よく計算できるアルゴリズムのほうが優れていることになります。


さて、中国のアルゴリズム研究はどの程度なのかといえば、その尺度としては、数学のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞が一応の目安となりそうです。

フィールズ賞(フィールズしょう)は、若い数学者のすぐれた業績を顕彰し、その後の研究を励ますことを目的に、カナダ人数学者ジョン・チャールズ・フィールズ (John Charles Fields, 1863–1932) の提唱によって1936年に作られた賞のことです。以下に国別の受賞者数の表を掲載します。

この表を見ると、米国は13人受賞、中国は0人です。日本は3人です。ロシア(ソ連時代含む)は9人です。

AIを発展させるためには、アルゴリズムも発展させる必要があります。

現状では、中国は確立されたアルゴリズムのもとで様々な開発を行っているものと思われます。

既存の方法でも、新たな方法でも、アルゴリズムが効率的なければ、システムも効率の良いものにはならないです。

そうして、アルゴリズムの研究は、やりはじめて、すぐに成果があがるものではありません。長い時間がかかります。金を投資して、掛け声をかければ、すぐにできるようなものではありません。

奥行きも、間口の広さでも、現在中国は米国に遠く及ばないと言って良いでしょう。

上の記事にもあるように、AIに関しては、小手先の目先の技術については、中国が進んでいるところがあるのかもしれませんが、アルゴリズムに関しては、米国が圧倒的にすすんでいます。

やはり、軍事でみてきたように、AIでも中国の発展は歪です。

現在はまだ目立ちませんが、米中のデカップリングがすすめば、AIでも軍事技術にみられるような、中国の歪さが目立つようになると思います。

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