2020年9月4日金曜日

米中の経済分離・政治対立は未だ序章か―【私の論評】米中はいずれ途絶する!現在米国がそれをしないのは現状では、米国側にも被害が及ぶからに過ぎない(゚д゚)!

米中の経済分離・政治対立は未だ序章か

岡崎研究所

 8月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙の外交問題主任コメンテーター、ギデオン・ラックマンが、米中の分離(デカップリング)は始まったばかりであり、貿易から技術、金融分野に分離が進む中、大企業は米中の冷戦でも中立を保ちたいと思っているだろうが、それはおそらく不可能であろうとの論説を書いている。


 これまで米国は中国による米国の技術窃取などを非難してきたが、ここにきてイデオロギー面での非難を強めている。米上院は、7月21日、中国についての報告書を公表し、中国は「デジタル独裁主義」で民主主義的な価値観の弱体化を狙っていると非難した。ポンぺオ国務長官は、7月23日の演説で、習近平は破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ、中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴づけているのは、このイデオロギーだ、と中国の共産主義自体を非難した。

 米国の対中制裁手段として、金融制裁がクローズアップされてきている。金融制裁は世界経済で中心的な役割を果たしているドルへのアクセスを封じようとするもので、すでに北朝鮮、イラン、ベネズエラなどに適用されており、特にイラン経済の締め上げに極めて有効と見られている。

 中国に対しては、当面香港と新疆の政府関係者が金融制裁の対象とされているにとどまっているが、もし中国の主要企業に課せられることになれば、その影響は計り知れない。

 過去40年間、米中の経済関係は急速に発展し、2019年には米中貿易は総額5,410億ドルに達した。何千という米国企業が中国に進出し、中国の対米投資も2016年に450億ドルに達した。これは中国が鄧小平の「改革開放」戦略に従って中国の経済発展を最優先させてきたためである。

 その間、米国をはじめとする西側諸国は、中国が経済発展をすれば市場経済化が進み、民主化すると期待した。中国が世界経済の責任ある当事者(a responsible stakeholder)になるとの期待も表明された。しかし、経済発展を遂げた中国は、習近平体制の下、共産党の指導を強化し、国内では人権と言論の弾圧、海外では南シナ海や東シナ海で見られるような一方的行動、覇権をめぐっては米国に挑戦するようになった。

 ただ、米中の経済関係は分離(デカップリング)一色ではない。米国の電気自動車メーカーのテスラが上海に工場を建設して中国に進出し、GMも合弁の拡大を図っている。4月に行われた在中米国商工会議所の調査では、在中国の米国企業の多くが中国での生産とサプライチェーンの維持を続ける意向であるとのことである。

 しかし、全体としてみれば、米中が過去40年間の和解の状態から急速に分離の方向に進んでいることは間違いない。ラックマンの論説は、グローバル化と米中の和解の上に築かれてきた過去40年の世界が急速に消えつつあると言っているが、過剰な表現とは思えない。

【私の論評】米中はいずれ途絶する!現在米国がそれをしないのは現状では、米国側にも被害が及ぶからに過ぎない(゚д゚)!

2020年9月2日、米華字メディア・多維新聞は、米中関係の悪化で中国企業3つのことを最も恐れているとする記事を掲載しました。

米華字メディア・多維新聞のサイト


記事は、11月3日に行われる米国の大統領選で、トランプ氏とバイデン氏のどちらが勝ったとしても米中関係に大きな変化はないと分析。英BBCの報道を引用して「中国の企業家たちはバイデン氏の方が良いと考えているが、いずれにしても米国の対中強硬姿勢が変わることを期待してはおらず、3つの心配事がある」としました。

その一つは、「米中デカップリング」。「トランプ大統領は『中国とビジネスをしなくてもよい、米中貿易協定に意味はない』と何度も述べている。実際、トランプ大統領がTikTokを米国企業へ売却するよう求めていることは、その一例だ。サプライチェーンから中国企業を外す試みから米国の中国企業を上場廃止させることまで、さまざまな方法で中国を攻撃している」と指摘した。

二つ目は、「米国市場からの撤退」。記事は「トランプ米政権は米中金融戦を始めており、米国で上場する中国企業の監査基準を厳格化し、2022年1月までに基準を満たせなければ上場廃止とする方針を示した」と説明した上で、「この影響はすでに米国で上場を予定していた中国企業に出ており、アリババ傘下の金融会社アントが、米国ではなく香港と上海で上場したのはその一例。他の中国企業もこの流れに続く可能性がある」と予想した。

三つ目は、「脱グローバル化」。記事は「グローバル化の最大の受益者は中国だった。しかし、トランプ大統領はグローバル化で中国に食いぶちを奪われたと非難している。トランプ政権の誕生以降、脱グローバル化がトレンドとなっているようで、これは大統領選終了後も続くだろう」とした。

記事は「グローバル化によって世界は安全になった。ビジネスをするにあたり、相手とけんかをしたいとは思わず、少なくとも公には衝突しないからだ」とする一方、「脱グローバル化の流れにより、特にアジア企業の多くが米中の軍事衝突を懸念している。米中両国の関係リセットは、米中関係にとっても他の人々にとっても危険なことだ」と論じた。

米中経済のデカップリングというと、多くの人は上の3つのうち、最初のものだけを思い浮かべがちですが、米中デカップリグとは、この3つと、それ以上を含むと認識すべきでしょう。

最終的には科学技術の交流も、文化交流も、人の行き来も、情報の交換もほとんどなくなるでしょう。

米国は1979年の中国との国交樹立以来、懸命に経済協力を行い、民主化を促してきましたが、そうした対中関与政策は中国自身によって否定されました。

特に2001年に中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した際、加盟国は、中国が経済改革の道を歩み、市場志向の経済・貿易体制へと変貌していくことを期待していたのですが、こうした期待は実現されませんでした。

現在、中国はWTOに加盟して自由貿易の恩恵を最大限に受けているのにもかかわらず、国営企業を優遇し、海外のSNSをシャットダウンして国内の言論だけではなく、社会活動や経済活動にも多大な制限を加えています。

また、知財を盗むコピペ経済でもあります。さらには、中国大陸に進出する外資系企業に、厳しい規制を加えるだけではなく、その優越的地位を乱用して「最先端技術を渡せ」などという無理難題を吹っ掛けています。

たまりかねた米国企業の直訴が、トランプ政権に影響を与えた可能性は高いし、他の国の企業の「積年の恨み」も無視できないです。

それでも彼らが儲かっているうちはまだいいですが、利益が薄くなったり、赤字が出るようになれば、これらの企業も共産主義中国の手ごわい敵になります。

そもそも、中国のWTO加盟交渉は、極めて特殊でした。


実は、第2次世界大戦の戦勝国である民主主義中国(中華民国、台湾)が、WTOの前身であった関税貿易一般協定(GATT)の原締約国でした。しかし、1949年の共産主義中国の建国とともに中華民国が中国大陸から追放され台湾に移ったことから、1950年にGATTからの脱退を通告しています。

共産主義中国は、「台湾の1950年の脱退は無効である」との立場をとり続けていましたが、1986年、「GATT締約国としての地位の回復」を申請しました。

その後、1989年の天安門事件の影響などにより、加盟交渉は難航し、結局GATTには参加できませんでした。

やっと、2001年に、中東・カタールのドーハで開かれたWTO(GATTの流れを継承)第4回閣僚会議において中国の加盟が認められることになったのですから、15年間も交渉したことになります。

この交渉では、「いつかは共産主義中国も民主主義国家になる」という甘い期待を持っていた米国の後押しも受けました。

ところが、その後の中国共産党の後押しを受けた国営企業などによる不公正貿易の拡大や、知財だけでなく大量の軍事機密を盗み取る行為に米国民の堪忍袋の尾が切れたことを敏感に察知して、誕生したのがトランプ政権です。

米国の識者たちの多くは、共産主義中国に対して「恩をあだで返された」と感じています。

したがって、貿易戦争・第2次冷戦など「共産主義中国にやさしくない」政策は、トランプ氏の政治信条というよりも「米国の民意」であり、トランプ氏は民意を先読みし、素早くかつ大胆に行動しているだけに過ぎないのです。したがって、ビジネスマンのトランプ大統領は、利害関係さえ一致すれば、共産主義中国とも「ディ―ル」を行うことができます。

ところが、現状の米国議会は上下院とも超党派で「反中国」が政治信条という次元にまで高まりました。したがって、米国はトランプの意思とは関係なく、中国が全面降伏するまで徹底的に戦うことになるでしょう。

さらに、2013年、「資本主義は必ず滅び、社会主義は必ず勝利する」と述べた習近平総書記(国家主席)のもと中国は「一帯一路」を掲げてアジア太平洋諸国を影響下に置こうとする一方で、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海、台湾海峡、中印国境地域で挑発的で強圧的な軍事・準軍事活動を繰り広げています。

習近平

よって「過去20年間の米国による対中関与政策は『誤り(false)』」だったと、トランプ政権は総括しています。

その歴史的な総括を踏まえて、トランプ政権は、米国を含む自由主義陣営の体制を強化し、同盟国を中国から守るため、今後、「米国は、自由で開かれたルールに基づく国際秩序を弱める北京の行動には応じないし、応じるつもりもない」と明言しています。

この米中のデカップリングですが、悪いほうに考える人も多いのですが、良いこともあります。いや、世界経済にとって良いことになる可能性のほうが高いです。

FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提「世界的貯蓄過剰2.0」を提起した。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘しました。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのだというのです。 

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのです。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しません。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

ベン・バーナンキ


中国が国際市場から消えるか、あるいはWTOの規則を遵守するようになれば、世界はデフレ傾向から脱却できます。

中国においては、国営企業の多くはゾンビ企業といわれています。そのほとんどが、国営木木用であるがゆえに、国際市場経済の中で本来はとうに倒産しているはずが、政府の補助金などによってゾンビとして生きながらえ、過剰生産を繰り返しています。中国政府は、これを温存し続け、世界にデフレを撒き散らしているのです。

これが、なくなれば、世界経済はまた力強く、發展することになります。米中のデカップリングはこれを促すことになります。

デカップリングでも、中国の人口は14億人いますから、内需を拡大すれば、ある程度はやっていけます。というより、もともと内需拡大政策をとっていればよかったのです。しかし、そのためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現する必要があります。

これを実行すれば、多数の中間層が出来上がり、この中間層が自由に社会・経済活動を行い、国が栄えることになります。

しかし、中国はこれをせずに、個人あたりのGDPは低い状態のまま、共産党幹部とそれに連なる富裕層だけを豊かにする道を選びました。というより、多数の中間層ができあがることになれば、中国共産党は統治の正当性を失い、新たな体制にせざるを得なくなります。

それが怖くて、中国共産党は中国をまともな体制にしてこなかったのです。しかし、それは中国共産党の自分たちの都合です。世界中の国々は、中国の都合にあわせる必要はありません。

米国はこうした見方を変えないでしょうし、中国共産党も自分たちが滅びる道を選んでまで、中国の体制を変えることしません。そうなると、米中のデカップリングがあらゆる方面で進むことになります。

米国は、中国に対する金融制裁を強めつつありますが、未だ本格的なものにはなっていません。それは、なぜかといえば、現在の段階では米中のむすびつきが強くて、本格的な制裁をすれば、米国も損害を被るからです。

しかし、デカップリングがある程度進み、米中関係が希薄になれば、制裁を強くしても、中国に害が及んでも、米国には関係なくなります。

米国は、その時期をみはからって、本格的な金融制裁に踏み切ります。その他の制裁も同じです。米国に対する損害が少なくなった頃を見計らい、実行するでしょう。そうして、米中のデカップリングはすすみ、最終段階では、人的交流、文化的交流もなくなります。要するに、米国から完全に無視されることになります。

そうして、いずれ中共は、弱体化していき、国内で統治の正当性を失い、この世から消えることになります。そこまで、米国は制裁を継続するでしょう。

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