2021年10月12日火曜日

米仏関係修復がAUKUSとインド・太平洋の安定に寄与する―【私の論評】日本こそが、米豪と仏の関係修復に積極的に動ける!安倍晋三氏を日仏関係担当特使に(゚д゚)!

米仏関係修復がAUKUSとインド・太平洋の安定に寄与する

岡崎研究所

 9月15日に米豪英3か国が発表した新たな安全保障連携(AUKUS)に対するフランスや EUの反発が今後の国際情勢にどう影響るのかが注目されるところである。

 9月23日付の仏Le Monde紙の社説は、9月22日のバイデン・マクロン電話会談により、とりあえず米仏間の関係修復の道筋ができたことは評価するが、今後の実行が大事であると論じている。



 フランスとEUが米国との同盟関係の現実について認識したことは確かであるが、これによりインド・太平洋戦略やNATOについて大きな影響が生ずるわけではなく、むしろ雨降って地固まる効果も期待できるのではないかとも思われる。他方、Le Mondeの社説は、仏豪関係はそうはいかないし、仏英関係もぎくしゃくすることを示唆している。

 そもそも豪州の潜水艦調達契約は、2015年に、当初は日本からの調達がほぼ確実であったのが、親日的なアボット首相の退陣等もあって、フランスに巻き返されたもので、その立役者が仏国防大臣で、現外務大臣のル・ドリアンであった。当時は、この契約の地政学的重要性よりも単に日仏独が競う大型商談として注目されていたもので、豪政府がフランスからの調達に決めたのも、国内の雇用や産業振興に最も有利であることが決め手であって、安全保障上の考慮からすれば日本製に決めるべきものであった。

 しかし、フランスの提案は、仏製原潜の原子炉部分をディーゼルに置き換えるという前例のない構想であり、コミットした現地での調達・生産比率も実際には満たせる見込みは無く、加えてコストが当初の予定から大幅に膨らみ、莫大な維持費もかかることが明らかとなった。

 計画の進捗も既に9カ月遅れ、更に納入時期が遅れれば豪州の現有潜水艦がすべて耐用年数を過ぎてしまうという状況であった。今年初め頃には、日本サイドでは、契約が破棄されて再び日本にチャンスが来るかもしれないとの期待も生まれていたほどである。

 この間、中国の海洋進出や豪中関係の悪化により、広大なEEZを保有する豪州としては12隻の原潜を有する中国に対抗する上で、AUKUSによる原潜の導入が不可欠の選択となっていた。豪州の対応は仏側に不満を伝えていただけという不器用なものではあったが、予めフランスと事前協議を行えば AUKUS 交渉も表沙汰となり、このタイミングで仏側の納得を得ることはできなかったであろう。

AUKUSはクアッドとともに必然的な選択

 いずれにせよ、契約破棄はフランスにとって寝耳に水の話ではないはずであるが、仏太平洋戦略の柱としての意味を持ち始めていたこの契約が反故にされ、メンツを重んずるフランス人にとって収まらないのは事実であろう。特にル・ドリアン外相が契約獲得の立役者であったこと、マクロンが大統領選挙を来年に控えていること、EUがそのインド・太平洋戦略を公表しその果たす役割を強調しようとした矢先であったことなどが、予想以上の反発を招いている背景にある。

 しかし、冷静に考えれば、AUKUSは豪州の安全保障にとり必然的な選択であり、フランスやEUがその役割を代替できる立場でもなく、米国との関係を決定的に悪化させるわけにもいかない現実を受け入れざるを得ない。従って、フランスの強い反発は、豪州からできる限りの違約金を要求し或いは、米国から信頼回復の対価としての何らかの譲歩を得ることを期待しているのだと見る向きもあろう。

 AUKUSも「クアッド」(日米豪印)も米国のインド・太平洋へのコミットを示すものとして歓迎されるものである。バイデンがフランスとの関係を修復し、NATOに関連するEU諸国への配慮を従来以上に行うのであればそれはそれで結構なことではないかと思う。仮にマクロンが大統領に来年再選されれば、メルケル無きEUにおいてその存在感を増すという意味でもマクロンとの関係を修復しておくことは米国にとり好ましいだろう。

 太平洋に海外領土を持つフランスは、インド・太平洋でのプレゼンスを維持する必要もあり、当面豪州との関係回復は難しいので、例えばインドや日本など他のパートナーとの連携の模索を行うか、いずれはAUKUSとの連携も必要となってくるであろう。

 日本としても、フランスやEUが中国の力による現状変更を認めないとの立場を共有している以上、関係国に対し早期の関係修復を強く期待しているといった関心を伝えておくことが望ましいだろう。

【私の論評】日本こそが、米豪と仏の関係修復に積極的に動ける!安倍晋三氏を日仏関係担当特使に(゚д゚)!

仏米関係は、これまで単純であった試しは一度もありません。常に複雑なものでした。イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、また日本も、歴史上一度は、米国と戦争を戦った経験をがあります。

しかし、仏は米国と一度として戦争を行ったことはないです。にも拘わらず、仏は「反米主義」の最も激しい国とされます。仏米関係は、友情、ライバル心、連帯、嫌悪など複雑な感情が混じりあったものです。ド・ゴールが1966年に米国と対峙し、NATOの軍事機構から脱退して以来、仏は世界において反米国家のレッテルを貼られました。

フランスは北大西洋条約機構(NATO)結成(1948年)時の加盟国で本部もパリに置かれていたのですが、1958年大統領に就任したド=ゴールは、米英の核独占を批判し、対等な立場を確保しようとしてフランスの核実験を進めました。

ド・ゴール

米英がそれに対して批判的な態度を取ると、ド=ゴールはNATOの運営が米国主導であることに反発し、59年の地中海艦隊の撤収に始まり、次第にNATOと一線を画するようになりました。

ついにド=ゴールは1966年5月、NATOの軍事部門からの脱退を表明し、フランス軍すべてを撤退させ、フランス領土内のNATO基地すべてを解体しました。ただし、NATOの理事会、政治委員会、経済委員会、防空警戒管制システムなどには残りました。

ド=ゴールの意図は、NATOを政治同盟として位置づけ、共同行動については主体的に判断するという自主外交の姿勢を示すところにあったようです。

つまりド=ゴールはフランスのNATO脱退に踏み切ったが、北大西洋条約からは離脱しなかった。「政治的には同盟、軍事的には独立」という姿勢をとった、ということができる。

2009年3月、サルコジ大統領は、フランスを43年ぶりにNATO軍事機構に完全復帰させることを決定しました。この決定にNATO各国は歓迎の意志を表明したのですが、国内ではフランス外交の独自性が失われるのではないか、という反対論が根強かったのです。

サルコジ

事前の世論調査では賛成58%で反対38%を上回っており、現実にはボスニア、コソボ、アフガニスタンではフランス軍はNATOの軍事行動に参加しており、実態はNATO復帰の実態と変わりがありませんでした。

結局、国民議会では「政府信任」投票が行われ与党の賛成によって4月4日に正式に完全復帰しました。2009年のこの日はNATO創設60周年の記念日でした。フランスはNATOに復帰したのですが、肝心のアメリカが2017年にトランプ政権が登場、自国第一主義を掲げNATOから距離を置く姿勢を示しフランスのマクロン大統領はイライラを隠せませんでした。

マクロンは国立行政学院卒業のエリートとして財務省に入り、その後ロスチャイルド銀行に入って投資家として成功しました。その若さと行動力を期待され、オランド大統領のもとでヴァルス内閣の経済・産業・デジタル大臣に就任した。一時は社会党に属したが、それに縛られない規制緩和や財政拡大路線をとったので閣内でも批判されるようになり、独自の政党「前進!」を結成し、中道改革路線を明確にしました。

大統領就任後、党名を「共和国前進」に改称し、与党として総選挙でも勝利し、若さも相俟って人気も高まりました。

しかしマクロン政権の「改革路線」は既存の労働組合や貧困層からは強く反発されました。2018年11月からガソリン燃料税引き上げを図ったところ、トラック運転手による抗議活動から「黄色いベスト運動」といわれた激しいデモが起こり、一時は暴動に発展しました。

それに対してマクロンは柔軟な姿勢を見せ、燃料税引き上げを断念、広範な国民との対話を重ね、2019年4月には低所得者などへの所得税削減と年金の増額を約束しました。一時は退陣も近いかと思われたが、反マクロン運動はその後沈静化しました。

外交ではEU維持を掲げイギリスのEU離脱やトランプの「アメリカ第一」主義には抵抗する姿勢を明らかにし、トランプのイラン核合意離脱には強く反対しました。一方では移民制限や徴兵制の復活案など、保守派ウケする対策も打ち出しています。右派、EU懐疑派も依然として根強く、若い大統領がフランスの舵取りをどのように行うのか、注目されています。

マクロン大統領は昨年11月7日、米国メディアが大統領選挙でのジョー・バイデン氏の勝利確実を伝えるとすぐに、「米国民は自国の大統領を選出した。ジョー・バイデンとカマラ・ハリスよ、おめでとう。今日の課題を乗り越えていくためにわれわれがやるべきことはたくさんある。共にがんばろう」とツイートし、バイデン氏に祝意を表明しました。

フランスのメディア報道では、バイデン氏の勝利確実は主に好意的に伝えられていましたが、トランプ政権下で傷ついた米欧・米仏関係の修復には懐疑的な見方も多いです。ジャン=イブ・ル・ドリアン欧州・外務相は11月7日、国営テレビ局フランス2のインタビューで、この4年間の世界的な変化に応じた、米欧・米仏間の新たな関係構築の必要性を訴えました。ル・ドリアン外相は「欧州は米欧関係の補佐役ではない。欧州は米国との関係で主権を主張すべきだ」としました。

ル・ドリアン外相は11月5日、ラジオ局ヨーロッパ1のインタビューでも、「この4年間で変わったことは、欧州が安全保障、防衛、戦略的自治の面で主権を確立し、世界の強国としての自覚を持ち始めたことだ」と述べ、もはやトランプ政権以前の欧州ではないことを強調していました。

米国との通商関係でも、フランスは欧州主権を基盤にした関係構築を目指していくものとみられる。ブリュノ・ル・メール経済・財務・復興相は昨年11月4日、ラジオ・クラシックのインタビューで「もう長いこと、米国は欧州の友好的なパートナーではない。米国と欧州の関係は、米国による制裁措置が示すように対決型に移行した。米国にとっては、中国との関係が最優先だ。EUは米国と中国に対抗するため、経済、政治、技術上の主権を強化することを続けるべきだ。それは、われわれが2017年からマクロン大統領とともに主張してきたことだ」と述べました。

他方、11月8日付の「ル・フィガロ」紙などが報じたように、当地メディアでは、多国間主義を掲げるバイデン氏の大統領就任による、米国の国際場裏への復帰が、トランプ大統領に対抗して強まったEU加盟国間の結束を緩め、マクロン大統領が主張する欧州主権の実現を困難にする可能性がある、と指摘する声も出ていました。

マクロン

こうした状況にあった米仏関係でしたが、豪州の潜水艦調達契約ならびにAUKUSの設置が公表されたのです。フランスにとっては、まさに不意打ちでした。

しかし、この問題については「米仏対立」ばかりに目を奪われると本質を見失うかもしれません。見落としてはならないのは「核大国」米国の現状です。 米国は原子力発電所の国内での新設はもちろん、輸出もできない手詰まり状態に直面しています。

今回の原潜技術供与により、オーストラリア原潜向けに発電所用の小型原子炉を「輸出」できる展望が開け、手詰まり状態から脱出する道筋が見えてきました。それは原子力関連の技術維持にも役立ちます。

米国の国益にとって決定的な突破口であり、原子力産業と軍産複合体にとっては「光明」とも言えます。 原潜向けの小型原子炉は、発電所に使われる「加圧水型原子炉(PWR)」とほぼ同じもので技術的な差はありません。

米国は部品を現地に運んで組み立てる「小型モジュール炉(SMR)」を開発中で、オーストラリア南部アデレードで組み立てるとみられます。 ルドリアン仏外相が「予測もつかない決定はトランプと同じ」と非難したように、トランプ前大統領の同盟軽視路線を批判し、再構築を進める方針を強調してきたバイデン大統領も、結局は国益優先の内向き外交から脱していないということになります。

バイデン大統領が今回切った新たなカードを台湾は、大歓迎しています。 李喜明・元台湾軍参謀総長は英紙フィナンシャル・タイムズ(9月16日付)に、「原子力潜水艦によってオーストラリアは初めて戦略的な抑止力と攻撃能力を持つ」と述べ、潜水艦の展開先として「台湾に近い西太平洋の深海」をあげつつ、「トマホークミサイルが加わると、オーストラリアのこぶしは中国本土まで届く」と指摘しています。

中国にとってはまさに「脅威」です。 中国共産党は抗日戦争の際など大局のために敵と手を結ぶ「統一戦線」に長けているのですが、今度はバイデン大統領が中国の株を奪い、反中「統一戦線」を重層的に築こうとしているのです。

その文脈で言えば、インド太平洋戦略の核となる枠組みであるクアッドは、米国にとって引き続き重要な意味を持ちます。9月24日には首都ワシントンで初の対面首脳会議が開催されました。

ただし、友好国インドは伝統的に非同盟政策をとっており、経済安全保障や新型コロナ対策では協力できても、反中色の強い軍事的協力を進めるのはきわめて難しいです。 だからこそ、軍事協力が可能な安全保障枠組みとして、AKUSの創設が大きな意味を持ってくるのです。

2030年代初頭に仏製のディーゼル潜水艦12隻を配備できたとしても、通商関係を武器に攻めてくる中国の脅威を抑制できないという不安をオーストラリアは払拭できませんでした。「われわれの戦略的利益を満たすものではない」とモリソン首相は言い切りました。

今回のコロナ危機で、ウイルスの起源を明らかにしようとしない中国への不信はピークに達していました。インド太平洋の安全保障を考えると、米英豪の海洋民主主義3カ国の政治判断は絶対的に正しいです。

来年4月に仏大統領選を控えるマクロン大統領は右翼政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首と世論調査で一進一退の攻防を繰り広げています。コロナ対策を巡る反ロックダウン(都市封鎖)、反ワクチン・ポピュリズムの台頭で足元が揺らいでいます。そこに雇用を生む潜水艦建造契約が一方的に白紙撤回されるかたちとなり、政治的に大きな打撃を受けました。

インド太平洋に重要な軍事拠点を持つフランスはこの地域に7千人の部隊を常駐させ、南シナ海にも原潜と支援艦を展開、フリゲート艦をベトナムに接岸させるなど、米国の「航行の自由」作戦を支援してきました。EUのインド太平洋戦略を牽引してきたという自負もある。米国に対す無念さがフランスにはあるでしょう。

欧州は地理的に中国から離れています。対中外交で「経済」と「人権」を天秤にかけることはあっても、米国やオーストラリアのように「経済」より「安全保障」を優先させる地政学上の必然性はありません。中国との経済関係が強いドイツがインド太平洋で対中強硬に転換するとは考えにくいです。だからこそイギリスなき後のEUでフランスは重要なのです。

台湾有事になれば日米安保に基づき必然的に巻き込まれる日本にとってAUKUSは対中抑止力を増強することになり、大きなプラスになります。日本はインド太平洋の要として日米豪印4カ国(クアッド)とAUKUSを結ぶとともに、米豪とフランスの関係修復に積極的に動くべきです。

エマニュエル・マクロン・フランス共和国大統領は、安倍晋三日本国内閣総理大臣の招待 により、2019年6月26日から27日にかけて日本を公式訪問しました。 この機会に、両国は、自由、民主主義、法の支配、人権の尊重、ルールに基づく国際秩序 といった共通の価値を強固に共有していることを改めて確認し、「特別なパートナーシップ」 に新たなダイナミズムを与える決意を表明し合意文書が作成されました。

それは「『特別なパートナーシップ』の下で両国間に新たな地平を開く日仏協力のロードマップ(2019~2023年)」と呼ばれるものです。これは、今後5年間の日仏関係の指針をまとめたもので、全7頁、35項目あります。

詳細は、ここで述べると長くなってしまうので、これを知りたい方は以下にリンクを掲載しますので、是非ご覧になってください。
「特別なパートナーシップ」の下で両国間に新たな地平を開く日仏協力のロードマップ(2019-2023年)
このような5年後まで見据えた2国間のロード・マップを作成できる国家関係は、なかなかないでしょう。美食や匠の文化を有し、長い交流の歴史があり、地方の多様性豊かな国同士で、日仏両国は数々の価値を共有しています。今後の日仏関係の強化は期待できますし。日本こそが、米豪とフランスの関係修復に積極的に動くことができるはずです。 

これは、私の独り言ですが、これを積極的に進めることができるのは、安倍晋三氏ではないかと思います。岸田氏にも、茂木外務大臣にも荷が重すぎるのではないかと思います。

平成31年4月22日(現地時間)、安倍総理は、フランス共和国のパリを訪問マクロン氏と会談

米国バイデン政権では、ジョン・ケリー氏が、気候変動問題担当特使を担っています。日本でも、安倍晋三氏を日仏関係担当特使に任命して、日仏関係の強化ならびに、米豪とフランスの関係修復を推進していただくようにしてはいかがでしょうか。

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