2021年10月15日金曜日

台湾のTPP加盟後押しは日本の「喫緊の課題」―【私の論評】1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOが採用すれば、中国は香港をWTOに加入させるか、世界から孤立するしかなくなる(゚д゚)!

台湾のTPP加盟後押しは日本の「喫緊の課題」

岡崎研究所

 9月16日の中国に続き、台湾は9月22日にTPP(環太平洋経済連携協定)への加盟申請を行った。中国は、台湾が加盟申請したことに対し、ただちに、「台湾は中国の不可分の一部であり、もし台湾が中国との『統一』を拒否し続けるならば、中国は台湾に侵攻する」と威嚇した。この言い方は台湾についての中国の最近の常套句そのものである。

 TPPへの加盟資格は、11の現メンバー国が賛成することであり、現段階では、11カ国が中台双方の申請に対し、如何なる対応を取ることになるのか明白ではない。中国がいずれかの加盟国に対し台湾の加盟に反対するよう呼び掛けたり圧力をかけることは、いかにもありそうなことである。

 TPPの加盟申請について議論をする時には、約20年前の世界貿易機関(WTO)加盟のことが想い起こされる。WTOへは中国、台湾がほぼ同時期に加盟することが認められた(中国は2001年12月、台湾は2002年1月)。

 中国としては、今日の中国の経済力、軍事力から見て、20年前のケースは今回のTPPのケースには当てはまらない、と言いたいところなのだろう。台湾に対する、中国からの威圧は最近特に強まっており、中国は「報復」と称して、輸入を禁止したり、軍事力を見せつけるために、台湾周辺海域を軍機が威嚇飛行を行ったりしている。

 台湾外交部(外務省)は、中国からの非難に対し、台湾は台湾であり、中華人民共和国の一部ではないと述べ、中華人民共和国は一日たりとも台湾を統治したことはない、と反論した。そして、台湾の人民が選んだ政府だけが、台湾を代表して国際機関や地域経済連携協定に参加できると牽制した。

 それに加え、台湾としては、今日の中国の貿易体制がはたしてTPPの要求する高いレベルの条件を満たすことが出来るのか、強い疑念を抱かざるを得ないとして、中国に反撃した。なお、蔡英文総統は台湾としてはTPPの「すべてのルールを受け入れる用意がある」と述べている。

 日本は、これまで高度の経済力、技術力をもち、民主主義の価値観を共有する台湾を、日本にとっての「重要なパートナー」として位置づけ、台湾がTPPに加盟することを支持するとの立場を維持してきた。茂木敏充外相は台湾の加盟申請の発表に対し、直ちに「歓迎」の意を表明したが、その際、「中国の加盟にとっては、高いレベルの条件を満たすだけの用意が出来ているかどうかしっかり見極める必要がある」旨発言している。

 今年は日本がTPPの議長国の年にあたっており、日本としてアジア太平洋における台湾の占める位置を考えた際、台湾のTPP加盟を支持・歓迎するのは当然であろう。日本が台湾のTPP加盟を実現するよう主導することは日本にとっての「喫緊の課題」である。

中台ともに短期間で結論は出ない

 トランプ政権下でTPPを離脱した米国がTPPに復帰することは、日本を含め、メンバー国の等しく期待するところである。バイデン政権は、中国、台湾の加盟申請については、民主主義の価値を共有する台湾の加盟を支持する、と述べた。他方、中国の加盟については、「非市場的な貿易慣行」を持つ、として、中国が加盟のハードルを簡単に超えられないのではないか、との疑いをもっているようである。

 最近、米国の主導する「クアッド(QUAD)」や「AUKUS」というアジア・太平洋地域の新しい安全保障の枠組みがその活動を開始した。このような環境下で、アジア太平洋全体の経済、安全保障を考えるとき、米国がTPPに出来るだけ早期に復帰することが望まれることはいうまでもない。しかし、バイデン政権としては、これまでのところ、米国のTPPへの復帰については、沈黙を守っている。

 中国の貿易慣行、国営企業に対する優遇措置、知的財産権の処理などを勘案すれば、TPPの高いレベルの条件を満たすことは極めて難しく、中国の加盟申請が簡単に認められることは想定しがたい。今回の中台双方の申請には、多くの難問があり、今後行われるであろう各メンバー国による具体的交渉のことを考えれば、短時間に結論の出るようなものではないかもしれない。

 しかし、TPP加入を長年の課題としてきた蔡英文政権にとっては、中国と対比される形で、基本的価値を守り、ルールや秩序を維持する台湾の役割が世界に再認識される上で、一つの好機到来と考えているかもしれない。

【私の論評】1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOが採用すれば、中国は香港をWTOに加入させるか、世界から孤立するしかなくなる(゚д゚)!

上の記事では「中国がいずれかの加盟国に対し台湾の加盟に反対するよう呼び掛けたり圧力をかけることは、いかにもありそうなことである」としていますが、それは現実に起こっています。

それは、チリです。茂木敏充外相は15日の記者会見で中国の環太平洋経済連携協定(TPP)加盟を支持したチリに不快感を示しました。「他人のことよりも自分の国内手続きをしっかり進めてほしい。非常に遅れている」と語りました。チリは国内手続きが進んでおらず、まだTPPを批准していません。

茂木敏充外相

中国外務省はチリの支持を取り付けたと発表していました。TPP加盟には全ての参加国の同意が必要となります。チリのほかにマレーシアなどが中国を歓迎するとし、オーストラリアやカナダなどは慎重な姿勢です。

自民党は衆院選の公約に台湾のTPP加盟申請を「歓迎する」と盛り込みました。中国については触れていません。

中国は現在のままであれば、上の記事にもあるように、到底TPPに加入することなどできません。にもかかわらず、加入の意思を示すのは、まずは台湾に圧力をかけることです。そうして、二番目には、あわよくばTPPに加入して、TPPを自分の都合の良いようにつくりかえてしまうという魂胆でしょう。

WTOの規則も守らない中国を、TPPに加入させるなどもってのほかです。それについては、以前のこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国がTPP正式申請も…加入できないこれだけの理由 貿易摩擦、領有権問題などなど門前払いの可能性―【私の論評】英国は加入でき、中国はできないTPPは、世界に中国の異質性をさらに印象づけることに(゚д゚)!

習近平

詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に一部を引用します。
"
2018年、米国通商代表部(USTR)は「中国のWTO加盟支持は誤りだった」と する年次報告書を出しています。その趣旨を以下に掲載します。
中国は、2001年にWTOに加盟後、加盟議定 書に定められた条項で要求されるように、 WTOの義務に従うために何百もの法律や規制 などを改正する予定であった。 
米国の政策立案 者は、中国の加盟議定書に定められた条項が、 開放的で市場主義的な政策に基づいており、無 差別、市場アクセス、相互性、公平性、透明性 の原則に立脚した国際貿易体制と両立しない既 存の国家主導の政策と慣行を解体することを望 んだ。 
しかし、その希望は失われた。中国は現在、 国家主導経済のままであり、米国や他の貿易相 手国は、中国の貿易体制に深刻な問題に直面し 続けている。一方、中国はWTO加盟国として の承認を、国際貿易の支配的プレーヤーにするために利用してきた。これらの事実を踏まえ て、中国の開放的な市場指向の貿易体制が確保 されないことが証明された以上、米国が中国の WTOへの加盟を支持したことが誤りだったこ とは明らかである。
中国はWTO加盟国として の承認を、国際貿易の支配的プレーヤーにするために利用してきました。もし、仮にTPPに入れたとしても、TPPを同じように利用するだけです。
"
TPP加入国は、WTOの愚を繰り返すべきではないです。上の記事では、TPP加入に関しては「中台ともに短期間で結論は出ない」などとしていますが、もう結論はでています。

中国は入れないし、台湾はTPPの約束事を守れるように国内の法律等を変える努力をすれば加入できます。

日本としては、このブログにも書いたようにTPPを大いに発展させ、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けることができます。これには、EUも賛成するでしょう。 

TPPのルールを世界のルールにするのです。単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定をWTOに持ち込むことには中国も反対できないでしょう。

TPPのルールがWTOのルールとなれば、中国は中共を解体してもTPPルールを含む新WTOに入るか、新WTOには入らず、内にこもることになります。内にこもった場合は、中国を待つ将来は、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。その時には他国に対する影響力はほとんどなくなっているでしょう。


いずれにせよ、TPPは加盟国だけではなく世界にとって、有用な協定になる可能性が高まってきたのは事実です。日本は、TPPのルールを世界の自由貿易のルールとするべくこれからも努力すべきです。

そうして、TPPの加盟諸国ができることがあります。それは、中国にTPP加入できるチャンスを与えることです。中国が間接的にでも、TPPに加入できるとすれば、すれば、香港の一国二制度を復活して、香港を元の状態に戻し、その上で香港をTPPに加入させることです。

中国が間接的にでも、TPPに加盟したいなら、このくらいしか方法はないでしょう。そうして、香港がTPPに加入できたとしても、その後中国がまた香港の「一国二制度」を廃止する動きにでれば、すぐにでも加入を取り消すようにすべきです。

しかし、そもそも中国はこの条件を飲んで香港を加盟させるようなことはしないでしょう。

1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用することができれば、中国をWTOから脱退させることも視野に入ります。

そうなれば、中国の選択肢は香港の「一国二制度」を復活させ、香港をWTOに加入させるか、世界から孤立するか、二つに一つしかなくなります。日本は、台湾、英国、カナダ、オーストラリア等の国々とともに、強力に推進すべきです。

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