2021年10月19日火曜日

「分配公約」だらけの衆院選、より切実なのは成長戦略だ 規制改革や公務員改革が不十分…第三極に活躍の余地も― 【私の論評】本気で分配や所得倍増をしたいなら、その前に大規模な金融緩和をすべき(゚д゚)!

「分配公約」だらけの衆院選、より切実なのは成長戦略だ 規制改革や公務員改革が不十分…第三極に活躍の余地も 
高橋洋一 日本の解き方

 19日公示の衆院選で、主な争点や勝敗ライン、野党共闘について考えてみたい。

 自民党と立憲民主党の選挙公約をみると、ともに「分配」を打ち出している。自民党は「成長と分配の好循環」、立憲民主党は「分配なくして成長なし」と似通った表現だ。


 分配政策をどのようにやるかといえば、自民は非正規雇用の人や学生などへの経済的支援や、賃上げに積極的な企業への税制支援を挙げている。立民は年収1000万円程度以下の所得税を一時的に実質免除、消費税を5%に時限減税、低所得者への12万円給付としている。

 財源について自民では特に言及せず、立民では所得税の最高税率引き上げ、金融所得課税強化、法人税に累進税率導入としている。

 岸田文雄首相は「成長なくして分配はない」と指摘し、金融所得課税を当面見直さないことも発言した。こうしてみると、同じ分配政策でも、その程度は自民の方が少なそうだ。

 そもそもなぜ分配政策なのか、筆者には疑問だ。というのは、3年ごとに調査されている再分配後のジニ係数(所得格差を示す指標)でみると、ここ30年間では2005年が最も高く、それ以降低下している。つまり、近年分配は、なされているのだ。日本の再分配後のジニ係数は経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも標準的だ。

 世界でみると、富の偏在は1990年代以降拡大傾向であったが、2010年代にはおおむね横ばいになっている。

 こうした状況を考えると、今の日本で分配政策の優先順位はそれほど高くない。むしろ、岸田首相が「成長なくして分配はない」と言うように、成長の方がより切実だ。

 成長戦略をみてみよう。自民は、大胆な危機管理投資と成長投資、金融緩和、積極財政、成長戦略を総動員といい、立民は中長期的な研究・開発力の強化、グリーンや医療などで新たな地場産業創出を盛り込んだ。ともに投資を強調しているが、自民はマクロ経済政策も動員するとしているのに対し、立民はマクロ経済政策の発想がうかがえない。

 自民も立民も規制改革の視点が欠けており、成長戦略からはやや遠くなっている。

 「分配」を自民まで言い出したので、立民は、左派としての立ち位置の確保に苦慮しているようだ。規制改革や公務員改革が言えないので、生産性向上の施策が欠けて、政策論争としては苦しいだろう。一方、自民も左に寄ったので、規制改革や公務員改革が不十分になっている。そのあたりに、第三極の活躍の余地が出ている。

 岸田政権の勝敗ラインは、自民と公明党合わせて過半数の233議席だ。

 野党共闘は、9月30日に立民の枝野幸男代表と共産党の志位和夫委員長が限定的な閣外協力で一致した。立民の支持団体である連合は閣外協力に反対しているが、両党は衆院220選挙区で一本化や候補者調整を行った。これは自公にかなりの脅威だろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】本気で分配や所得倍増をしたいなら、その前に大規模な金融緩和をすべき(゚д゚)!

岸田総理、分配を重視するとか、所得倍増計画を実施する、さらには新しい資本主義ということも語っていますが、一体何をしたいのかわかりません。

分配に関しては、総裁選の最中には「分配なくして成長なし」ということも言っていました。これは、ありえないないことです。「成長なくして分配なし」というのではあれば、筋は通ります。

しかしそもそも、「分配から成長へ」というのは無理です。これは、民主党政権のときに非難を受けて、わかりきった話です。岸田総理は民主党政権のときの政策に戻ると言っているようなものです。

そのせいでしょうか最近では、「成長なくして分配なし」と語っています。

また、「新しい資本主義」ということも語っていますが、これに関しては何をしたいのか皆目検討もつきません。

個別具体的なところでは、「賃上げに積極的な企業への税制支援」や「看護師・介護士・保育士などの所得向上のため、報酬や賃金の在り方を抜本的に見直す」ということなどを掲げているようですが、これの何が正しいのか理解に苦しみます。

岸田総理の所信表明演説では、「規制改革」という言葉が一つもありませんでした。「規制改革」という言葉、最初に所信表明演説にでたのは、1979年の大平政権で出た言葉でした。その後の政権においても、この言葉は必ずありました。もちろん菅政権までずっとあり続けました。

今回は入っていなかったのでかなりの衝撃でした。いういまのところ「規制改革をやらない」ことを「新しい資本主義」と呼んでいるにしか考えられません。

さすがに、自民党の公約集には少し出ていますが、それでも従来から比較するとウェイトはかなり減っています。官僚は大喜びでしょうが、今後特に伸びることが期待できる産業が「規制改革」よっては起こりそうもないといことで、市場関係者はがっかりしたことでしょう。

これでは、令和版の所得倍増計画も実行できないでしょう。実質経済成長率を高めるような、規制改革がないと賃金を上げるのは難しいです。それとともに、需要の話では、マクロ経済政策でインフレ目標を高めたりしないと無理です。しかし、それはせずに「インフレ目標2%を厳守」などと言い出し、2%近傍になったとたんに、緊縮財政・増税、金融引締すべきなどと言い出しかねません。

過去においては、実質賃金ベースでは30年間ほどで1%くらいしか伸びなかったのですが、これを繰り返すことになりかねません。1%くらいしか伸びないと、倍増するのに75年程度かかります。

インフレ目標2%に固執することなく、いっとき4%くらいに上げて、需要の方でも高圧経済気味にすれば、簡単に名目賃金上昇率を5%くらいにできます。名目賃金上昇率の目標を5%にすると所得倍増が13年~14年間で達成できます。これは、過去賃金がほとんど上がらなかった日本にとっては良い目標になります。

まさに米国はその局面に来ていて、月次ですが物価が4%~5%上昇しています。 

ここで当面4%〜5%であっても良いと割り切ってしまうべきなのです。日本にあてはめれば「インフレ目標2%が達成できないから引き下げろ」と言わずに、逆に4%に上げてしまえば良いのですよ。

もっと言えば、2%くらい簡単にクリアできるから、4%にすれば、達成率が半分でも2%になるでしょうということです。 

「4%まで踏んでいいのだ」ということになると、思いきり踏めますから、そうなると所得倍増計画も達成できる可能性が出てくるのです。

しかし、インフレ目標4%などというと、「ハイパーインフレ」になると目をむく人もいますが、それは最近このブログでも解説したように、現在の世界は過去のようにインフレになりにくい状態になっているので、4%を5年、10年と継続するのではなく、数年であればハイパーインフレになる心配はありません。

それに、これに関しては世界中で様々な実例があります。このブログだと、英国の事例を随分前にあげたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【五輪閉会式】景気後退、将来への懸念は消えず 政争の予感も―【私の論評】イギリスの今日の姿は、明日の日本の姿である!!
この記事の「五輪」とは今年、「東京五輪」のことではありません。2012年のロンドン五輪のことです。ちなみに、この時は現在の英国首相のボリス・ジョンソン氏は、ロンドン市長であり、直接ロンドン五輪に関わっていました。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部引用します。 

大失敗した、英国の増税策の概要をみ。2010年5月に発足したキャメロン保守党・自由民主党連立政権はさっそく付加価値税率17・5%を11年1月から20%に引き上げる緊縮財政政策を決定しました。他にも銀行税を導入するほか、株式などの売却利益税の引き上げ、子供手当など社会福祉関連の予算削減にも踏み切りました。

他方で法人税率を引き下げ、経済成長にも一応配慮しましたた。こうして国内総生産(GDP)の10%まで膨らんだ財政赤字を15年度までに1%台まで圧縮する計画でしたが、このまま低成長と高失業が続けば達成は全く困難な情勢です。

窮余の一策が、中央銀行であるイングランド銀行(BOE)による継続的かつ大量の紙幣の増刷(量的緩和)政策に踏み切りました。BOEといえば、世界で初めて金(きん)の裏付けのない紙幣を発行した中央銀行だ。
上のグラフを良く見てほしいです。BOEは11年秋から英国債を大量に買い上げ、ポンド札を金融市場に流し込みました。マネタリーベース(MB)とは中央銀行が発行した資金の残高のことです。BOEは08年9月の「リーマン・ショック」後、米連邦準備制度理事会(FRB)に呼応して量的緩和第1弾に踏み切りましたが、インフレ率が上昇したのでいったんは中断していました。
インフレ率は5%前後まで上昇しましたが、そんなことにかまっておられず、今年5月にはリーマン前の3・7倍までMB(マネタリー・ベース)を増やしました。そうして、この事実は、このブログでも以前紹介したように、反リフレ派がいう、「不況だかといって大量に増刷すれば、ハイパーインフレになる」というおかしげな理論が間違いであることを裏付ける格好のケーススタディーとなっていました。
幸いというか、全く当たり前のことですが、インフレ率は需要減退とともにこの5月には2・8%まで下がりました。国債の大量購入政策により、国債利回りも急速に下がっています。

しかもポンド札を大量に刷って市場に供給するので、ポンドの対米ドル、ユーロ相場も高くならずに推移し、ユーロ危機に伴う輸出産業の競争力低下を防いでいます。それでも、イギリス経済は、未だ不況のままで、先日もこのブログで述べたように、EUの不況もあり、結局ロンドンは地元観光客も、EUの観光客も例年に比較しても少なく、閑古鳥が鳴いていたという状況で、経済波及効果はほとんどありませんでした。 
ただし、この時イギリスが金融緩和に踏み切っていなければ、イギリス経済ははるかにひどい状態になっていたでしょう。そうして、これによって金融緩和政策の実施により一時的にインフレ率が4%〜5%になっても、その後すぐにハイパーインフレになることはないということが実証されました。

ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏が、以下のようなことを語っています。

ポール・クルーグマン氏
インフレ懸念論は大間違いだときっぱり言い切るぼくらに対して,イギリスが反例に出されることがあった――「イギリスは高失業率な上にあちこちで経済停滞がみられるけれど、インフレ率は上がりっぱなしじゃないか!」なんてね。これはたんに一度っきりの特別な出来事(ポンドの下落、付加価値税の引き上げ、一次産品の値上がり)が続いただけで、インフレはやがて低くなっていくよ、と反論しても、バカにされたっけ。
これは、不況時であっては、増刷するべしというクルーグマンらの主張に対して、そんなことをすれば、ハイパーインフレになるだけで、不況から脱することはできないとする人々から、良くイギリスが引き合いに出されていたことに対するクルーグマンの反証です。

その後、イギリスの事例のようなことが世界中で何度もあっても、ハイパーインフレになることはありませんでした。そのため、インフレ懸念論は世界中から姿を消しました。

ただし、例外もありました。それは日本です。日本では、リーマンショック後もイギリスも含めたほとんどの諸国が大規模な金融緩和を下にも関わらず、日銀はそうしませんでした。そのため、日本はリーマンショックが長引き、震源地の米国や、その影響をもろに被った英国が回復した後も、長い間深刻なデフレと円高に悩まされました。無論賃金もあがりませんでした。

岸田首相をはじめ、日本の政治家は財務省のレクチャーなどは受けずに、以上のようなことを自分で勉強すべきです。他の人からレクチャーを受ければ良いという人もいるかもしれませんが、それだけでは不十分です。やはり、特に雇用や賃金に関しては、自分が納得するまで理解すべきです。これをするには、難しい数学や、経済理論を学ばなくてもできます。

それが、できているのは、安倍元首相、高市早苗政調会長とその他若干の例外的な人たちだけです。残念なことです。

分配や賃上げの前に、金融緩和を考えるべきです。金融緩和なしに、分配、賃上げはできません。

過去30年間、日本人の賃金があがらなかったのは、日銀の金融政策の間違いによるものです。日銀が過去のほとんどの期間を金融引締に走ったがために、日本人の賃金は上がらなかったのです。それは、過去に日本の日銀のように金融引締を継続しなかった中央銀行が存在している他国では、賃金が倍増しているという事実からも明らかです。

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