2021年12月19日日曜日

台湾の国民投票、全て不成立 蔡総統「民主主義は最も強力な後ろ盾」―【私の論評】中国の侵入を防いだ台湾は、将来東洋のスイスになるか(゚д゚)!

台湾の国民投票、全て不成立 蔡総統「民主主義は最も強力な後ろ盾」

記者会見に臨む蔡総統

台湾で18日に行われた国民投票で、4件全てが不成立となった。蔡英文(さいえいぶん)総統は同日夜、総統府で記者会見を行い「台湾が課題に直面する際、民主主義はわれわれの最も強力な後ろ盾になると信じている」と語った。

国民投票にかけられたのは、成長促進剤「ラクトパミン」使用の豚肉などの輸入全面禁止▽第4原子力発電所(新北市貢寮区)の稼働▽液化天然ガス(LNG)受け入れ基地の建設地の移転▽全国を対象とした選挙と国民投票(住民投票)の同日実施―についてそれぞれの賛否を問う4件。

最大野党・国民党が4件全ての賛成を求める一方で、蔡氏が率いる与党・民進党は反対を呼び掛けていた。いずれも成立条件となる賛成票が有権者数の4分の1に達しなかったほか、反対票を下回り、不成立となった。

蔡氏は、今回の投票結果が示した国民のメッセージとして、国際社会への積極的な参加▽エネルギー転換と電力の安定供給および経済成長の維持▽経済と環境保護両立の重視▽公共政策に関する情報の透明化と理性的な議論―を求めているとした。


一方、朱立倫(しゅりつりん)国民党主席(党首)は同日、党全体に向け謝罪。責任を負うと述べた。

また、われわれの前には多くの課題に向き合わなければならないと強調。引き続き努力して台湾人の期待に応えたいと意気込んだ。

【私の論評】中国の侵入を防いだ台湾は、将来東洋のスイスになるか(゚д゚)!

台湾で直接参政権が強化された背景にはスイスとの関わりがあります。立法院で2003年に初の「公民投票法」が可決されてからというもの、スイスと台湾の間で活発な意見交換が行われました。

スイスが持つ民主主義に関する豊富な知識が台湾へと伝わった結果、台湾では住民投票の実施基準が緩和されました。こうして03年以降、台湾では有権者1900万人の1.5%に相当する28万人の署名を集めれば住民投票が請求できるようになりました。

ちなみにスイスでは提案を国民投票にかけるには有権者の約2%に当たる10万人の署名が必要だ。台湾の人口は、2357万 (2020年)です。一方スイスの人口は、2020年末のスイス人口は866万7100人で、前年比6万1100人(0.7%)増となりました。

スイスの直接民主制には長い歴史があります。スイス中部の山岳地帯の自治体では、中世の時代から「ランツゲマインデ」という直接投票による青空議会で自治体が運営されてきました。こうした山岳の自治体に、チューリヒやルツェルンなどの都市の自治体が加わってできたのが中世のスイスでした。

当時、ハプスブルク家とサヴォイア家という2大勢力がスイスの支配を狙っていました。この2大勢力と対抗するために、スイスでは13世紀頃から、自主独立を守るための「話し合い」の手法が編み出さたのです。

同盟を組んだスイス諸邦の間で戦争が皆無だったわけではありませんが、妥協を通してお互いの違いを乗り越えてきました。たとえ自分たちが弱くても、外国勢力の言いなりにならないためです。

近代的な直接民主制が考案されたのは、ナポレオンが没落した後の復古王政期でした。この時期にスイスでは自由主義者の運動が盛り上がりました。当時、主権在民の原則は認められていましたが、人民が主権を行使する方法はまだ定まっていませんでした。

自由主義派の左翼が1848年に近代スイスを誕生させた後、1860年代から、前述の「ランツゲマインデ」を理想としながら、それを社会の変化に合わせながら直接民主制の制度を作り出していったのです。

スイスでは議会不要論が盛り上がったことは一度もありません。ただ、1874年に、議会が通した法律を国民投票でひっくり返せる仕組みが採択されました。また、1891年には、国民の発議で連邦憲法を部分改正できる仕組みも加わりました。

スイスにはもう一つ台湾にとって、参考になる考え方があります。まず、スイスの憲法は、民兵によって構成される軍隊を持つこと(第58条)、すべてのスイス人は兵役の義務を負うこと(つまり徴兵制、第59条)などを定めています。

これは、もともとスイスの人口が少ないことにも要因があるでしょう。何しろ、国全体でも、日本でいえば地方自治体なみの人口しかありません。だからこそ、現在でも徴兵制を維持せざるをえないのでしょう。

一方台湾は2018年12月26日、軍の徴兵制から志願制へ全面移行が完了し、60年以上続けてきた徴兵制を事実上終えました。台湾は2012年に志願制への移行方針を決め、当初は3年後に徴兵制を廃止する計画でしたが、少子化などで十分な兵員数を確保できずに延期されていました。4カ月間の軍事訓練の義務は今も残っています。
スイスと日本はともに平和に徹することを国是としており、スイスの「永世中立」は、日本国憲法が第9条で日本が「国際紛争」に巻き込まれることを厳禁していることと対比できます。 

実は、スイス憲法には「中立」とはどこにも書いてありません。古い話ですが、1815年、ナポレオン戦争後のヨーロッパの新秩序を決定したウィーン体制においてスイスの中立が周辺の諸国との条約において規定されたのです。 

そうなったのは、スイスが当時軍事強国であり、スイスと同盟した国が軍事的に優位に立ち、そうなるとヨーロッパが不安定になるので、スイスを中立にしておくのがよいと考えられたのです。また、スイスとしても中立は望むところだったので各国の考えを受け入れたのです。

スイスは第二次世界大戦中においてもドイツと国境を接していながら、多くの国々が侵攻されたにも関わらず、スイスはドイツ軍に侵攻されることはありませんでした。


ドイツにはタンネンバウム作戦というスイス侵攻計画があったのですが、結局これは発動されませんでした。

ドイツはフランス侵攻作戦が長引いた場合、スイスからフランスに侵攻することも考えていたのでスイス侵攻作戦はいずれ必要と考えていたのですが、フランスが早期に降伏したのでその必要性がなくなったということも幸いしました。

ただ、当時スイスはドイツが侵攻して来た場合徹底抗戦をすると宣言しており、それは単なる張ったりではありませんでした。平坦なオランダやベルギーと比べるとスイスは狭小ですが山岳地帯にあり、小規模ながらも軍事力もあり、地の利を最大限に活かして防衛できると考えたのでしょう。強力なドイツ軍も気楽には手を出すことは出来なかったのです。

そうして他にもスイスがドイツの侵攻を免れた要因がありました。第二次世界大戦中、日本やイタリア、その他の少数の国々を除いてドイツは世界中を敵にまわしました。そのスイスはドイツにとって価値のある存在でした。

スイスは現在にいたる国際銀行決済システムBISの本部のある場所です。ナチスドイツの金はスイスを窓口として貿易決済に使われ、ドイツの戦争継続を助けました。

さらに、スイスはナチスの財産を秘匿することにも役立ちました。スイスの銀行の秘密主義は戦後もナチスの戦争犯罪者たちの財産を守ったのです。ただし、スイスはユダヤ人の財産の秘密も守りました。

小国なりに軍事力を持ち、様々な知恵も工夫も用いて、結局スイスはドイツから侵攻されることはなかったのです。そうして、そのようなDNAは今もスイスに引き継がれています。

スイスは山岳地帯にあり、台湾は島嶼国という違いはありますが、現在中国からの脅威が増している台湾にとっては、その考え方は参考になるでしょう。

民主主義敵な直接民主主義や、安全保障の点で、台湾はスイスから学び取れることが多々あります。

その台湾は、他の面でもさらに民主化が進む可能性もででききました。それは、以前もこのブログで指摘したよう、台湾においてまともな二大政党制が根付く可能性です。それについては、以前この記事でも述べたことがあります。その記事の
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晩年の李登輝元総統

詳細は、この記事をご覧いただものとして、以下に結論部分のみを引用します。

見方を変えれば、国民党は、目先の利益よりも長期的利益に着目し、より大きなビジョンを掲げることができます。台湾民主主義の父である李登輝元総統は、「反攻大陸」のスローガンを下ろしたものの、台湾の民主化を推進した国民党の政治家であり、蒋介石を補佐していたことを思い起こすべきです。
そうして、蔡英文率いる民主進歩党も、紛れもなく、民主化の産物なのです。国民党がまともになれば、台湾にまともな二大政党制が根付くことになるかもしれません。そうなれば、米国の二大政党制よりまともなそれが、台湾に出来あがることになるかもしれません。

現在、国民党が元々は、反中的どころか、「反攻大陸」といって、中国大陸に侵攻して、中国をとりもどそう考えていたような政党なのです。その国民党は長い間に、腐敗していつの間にか親中色を強めていきました。

しかし、国民党が原点回帰して、「反攻大陸」は放棄するものの、親中国路線を脱却すれば、二大政党の条件は整います。そうして、その機運は高まりつつあります。国民党は最近では、親中国路線を強く打ち出せば、国民の支持が受けられず、選挙で負けてしまうという現実に気が付きつつあるからです。

スイスの政党政治は非常に安定しています。国家政治を支配しているのは4つの政党で、これらの成立は19世紀までさかのぼります。一方台湾は、建国当初は国民党の独裁政治でしたが、民主化の産物として、民主進歩党が生まれました。

ただ、台湾ではまとな二大政党制が根付き、政党政治が安定し、さらに中国からの脅威を跳ね返し、独立を維持し続ければ、いずれスイスが世界で占めるような地位を世界で占めることになるかもしれません。

スイスはEU加盟国ではないですが、1972年に自由貿易協定を結んで以来、移動の自由など数々のEUの政策に参加している。両者の関係は120以上の協定で成り立っており、これを1つの条約にまとめる努力が長年続けられてきたが、スイスは5月26日これを打ち切りました。

台湾が今後どのような道を選ぶかわかりませんが、多くの国々と、様々な協定などをしつつあるのは事実です。これを積み木のように多数積み重ねることにより、我が国日本などの国交がない国々と様々な協定を結んだと同じようにするという道はあります。これが、まさしくスイスがつい最近まで選んできた道です。

このブログでは、何度か中国が台湾武力侵攻するのは不可能であることをその背景となるデータも含めて掲載してきました。ただ、軍事力では不可能でも、中国が軍事力以外の手を用いて台湾併合しようとしているのは間違いありません。

台湾が、それを防ぎ、スイスのように独立を維持し、安定した政党政治を実現し、さらに直接民主主義などをさらに民主主義充実させ、社会や経済を繁栄させた場合、現在スイスが世界で占めるような特異な地位(たとえばスイスの一人あたりGDPは世界第二位、87,367ドル)を台湾も占めることになるでしょう。

もし台湾がそのようなことになれば、その頃には民主化の遅れた大陸中国は、図体が大きいだけの、他国に対する影響力はまるでない、凡庸なアジアの独裁国家に成り果てていることでしょう。

日本もこうした台湾の姿勢を学ぶべきです。特に、最近では、東京都武蔵野市の松下玲子市長が提出した「外国人住民投票条例案」が、市議会最終日の21日の本会議で採決されるという危機的状況にあります。

日本は、スイスや台湾よりもはるかに人口が多い(1億2千万人)ですから、国政レベルで直接民主政を実施するのは難しいところがありまずか、地方自治レベルではできるはずです。

「外国人住民投票」などの重要な案件は、市議会だけで採決するというのではなく、住民投票などで決めるべきと思います。ちなみに、スイスはもとより台湾でも、いやほとんどの国で「外国人住民投票」などありません。認めている国も例外的にありますが、それでもその根拠は、はっきりしており、無制限に認めているわけではありません。

それは、国民国家とは、元々国籍を有す国民のための国家であり、「外国人住民投票」や「外国人参政権」を認めてしまえば、外国からの干渉を受けやすくなるからです。

そもそも、国民が属する国家から、外国人よりも恩恵を受けられたり権利を保証されるのは当然であり、国民ではない人が、国民が受けられる恩恵や権利等に制限がつけられるのは致し方ないことです。

外国人が他の国の国民と同じ恩恵を受けたり、権利を保証されたければ、その国の国民となるしかないのです。それは、いずれの国民国家でも同じことです。その原則を崩せば、国民国家は成り立たなくなります。

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