2021年12月31日金曜日

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…―【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…

12月30日、米デラウェア州の自宅で、ロシアのプーチン大統領と電話会談するバイデン米大統

 外交努力による緊張緩和か、重い代償を払う制裁か。12月30日の米露首脳会談で、バイデン米大統領はプーチン露大統領に〝二者択一〟を迫った。中国が威圧を強める台湾海峡と二正面の抑止作戦を強いられた超大国の苦悩は、2022年の不穏な世界の幕開けを印象付けた。

 「バイデン氏は2つの方向をプーチン氏に明示した」と米政府高官は語る。

 ウクライナ情勢の緊張緩和に導く外交の道筋。もうひとつは、ウクライナに軍を進めることでプーチン氏自らが選択する「深刻な代償と結果」を伴う制裁だ。いずれも「この先のロシアの行動次第」と高官は語るが、バイデン氏にも賭けであるのは間違いない。

 制裁は国際金融決済システムからロシアを締め出すもので、石油・天然ガス輸出に頼る露経済への打撃は甚大だ。「両国関係を完全な決裂に導く」と露側が反発したのは制裁を脅威と受け止めた証左とする見方も米側にはある。

 だが、現実にウクライナ侵攻を抑止できなければ、プーチン氏との神経戦は敗北に等しい。

 もうひとつの〝最前線〟で、中国の習近平政権はロシアの後を追うように、サイバー攻撃や世論工作などを駆使した〝ハイブリッド戦争〟と軍事侵攻の二段構えで台湾統一の機会を狙っている。ウクライナ情勢をめぐり1月に持ち越された米露高官協議の行方は、2月の北京冬季五輪以降の中国の出方にも影響を与える。昨年のアフガニスタンの混乱で傷ついたままの米国の威信が、決定的に試されるときが近づいている。

【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

このブログでは、何度か述べてきたように、中国が台湾に武力進行するおそれはないでしょう。その理由の一つは、冷戦中にソ連が北海道に侵攻するなどと言われていましたが、それはありえないかったのと同じ理由です。

自衛隊は冷戦時代、音威子府(おといねっぷ)がソ連軍との決戦場になると思い定めていた

ソ連が崩壊してから今年で30年です。ソ連軍の戦略は以下のようものでした。
・戦略核兵器により、アメリカ、イギリスなどと対峙し、
・ソ連軍は、ワルシャワ条約機構軍を頼みとして、NATOと対峙する。
・太平洋と大西洋では、潜水艦隊が、アメリカの空母を狙い、アメリカの対潜部隊を、ソ連の対艦ミサイルが狙うというものでした。
そんな中、極東地域では、ソ連軍の、日本侵攻も噂されていました。というより、マスコミが煽りまくっていました。

さてソ連が北海道に侵攻するとなると、揚陸艦艇が必要になります。

当時のソ連海軍において、揚陸艦は、約90隻、192000トンでした。海上自衛隊の6隻、約10000トンの輸送艦で、陸自1個師団の半数の輸送能力しかないですから、これをもとに掲載んしてみるとどう見ても当時のソ連では、10万人の輸送能力しかなかったのです。

しかも、それが海軍の全力であるから、極東地域は、4万人が限度だったことでしょう。また、陸自の場合は、部隊の移動だけが輸送艦定数の計算対象で、その後の補給は別です。

しかしながら、敵地に侵攻する部隊は、補給線の確保は、必須課題です。そうして、敵前上陸に際しては、激しい抵抗線があります。

ミサイル艇や対艦ミサイル、空対艦ミサイルによる、反撃により、2割程度の犠牲は覚悟せねばなるないでしょう。また、冷戦時代から日本は米国の依頼もあって、オホーツク海において、対潜哨戒活動を行い、日米の潜水艦はソ連の潜水艦などの情報をつかみ、この封じ込めに成功していました。

そうなると、ソ連が日本に侵攻ということになれば、ソ連の艦艇は日米の攻撃を受けて、2割の程度の犠牲どころか、半分以上が撃沈されるおそれもありました。

ただ、当時のソ連軍には、空挺師団があり、戦車をも空挺できる事は考慮する必要が有るかもしれませんが、それでも海上輸送と比較すれば、さほど多くの兵員を送れるわけではありません。

空挺師団の役割は、後続の陸上部隊が到着することを前提として、ピンポイントで、橋頭堡を構築することなどが主任務です。後続部隊が来なければ、限られた戦力では持ちこたえられません。

当時一部でいわれた、カーフェリー揚陸艦論ですが、カーフェリーは、甲板強度を確保してあれば、戦車などの重量物の運搬は可能です。しかしながら、敵前揚陸は、本船から直接揚陸させる事が必要で、一般船舶のような船首では、上陸地点への進出は「座礁」であり、とても、貨物を戦力投入しうる物ではありません。

ただ、既に接岸揚陸中の艦艇に、ポンツーン(浮橋架設用の船)などを介して接舷するのであれば、不可能ではありません。但し、この作戦は、橋頭堡確保以降の後詰めであり、交戦中にその様な事をしていれば、直ちに敵に攻撃されることになります。

さて、このようにして、上陸を達成しうる部隊は、およそ5万人です。対する陸自は、北海道、北部方面隊と4個師団をあわせて、4万人。また、有事には、本土から1個師団が北方機動するので、更に増強が可能でした。

但し、この場合は、十分な準備期間が必要で、約2週間前に、察知している事が必要でしょうが、無論ソ連が北海道侵攻を目指すような大戦争を行うということになれば、それは、事前に必ず日本や米国に知られることになります。当時から監視衛星や、偵察機がありましたから、大きな動きはすぐに日米に察知されます。

当時のソ連軍が北海道に侵攻となると、日米が十分に準備を整えているところに侵攻することになります。第二次大戦中のような奇襲は不可能です。

地上軍の攻撃には、「攻者3倍の法側」と言うものがあります。これは、2対1で、完全相殺し、残る1で占領維持するということを意味します、

5万の攻撃部隊と、4万の守備隊。この辺でお分かり頂けると思いますが、国土の損害や、犠牲を別にしても、攻撃に踏み切るだけの兵力投入が、ソ連軍には出来なかったのです。

と言う図式から、北海道侵攻の脅威は、幻に過ぎなかったのです。そのようなことは当時からわかっていましたが、無論それでも当時は北海道にソ連の脅威にそなえて陸自、海自、空自ともに駐屯していました。これは、無論正規の軍隊が攻めてこれないにしても、決死覚悟のゲリラ部隊などが侵入してきた場合に備えるという意味合いもありました。

これと同じようなことが、現在の中国による台湾侵攻にもいえます。このあたりは、以前もこのブログに掲載したことがあるので、その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告―【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

それに、昨日も述べたように、日米の潜水艦隊が台湾に加勢すると、上陸部隊のさらに半分が海の藻屑となります。これでは、台湾に到達する前に、全部隊が撃破されることになります。

日米が加勢しないとしても、100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。
旧ソ連軍の演習
船舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

それだけではありません。軍事力が近代化するほど、それを支える軍事インフラが不可欠です、中国側にはデータ中継用の衛星や偵察衛星が決定的に不足しています。
中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。

こうした現実があることと、さらに米軍の強力な攻撃型原潜が台湾を包囲してしまえば、対潜戦闘能力(ASW)が劣る中国には、この包囲を突破できなくなります。仮に突破して、陸上部隊を上陸させたにしても、補給船や、航空機が攻撃型原潜に破壊され、補給ができなくなり、陸上部隊はお手上げになってしまいます。

このようなことを考えると、中国が台湾に侵攻することはないでしょう。侵攻すれば、侵攻部隊は大被害を受けて、しりぞかざるを得なくなり、人民解放軍の能力がどの程度のものなのか、世界中に知られてしまい、習近平は物笑いの種になり、当地の正当性を失うだけです。 

一方、現在のロシアにも、兵站に問題があり、ウクライナに侵攻するのは、かなり難しいです。現在も、それに将来もロシア人の多いウクライナのいくつかの州に侵攻できるだけです。ウクライナに侵攻して、ウクライナを併合するようなことはできません。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境―【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!
7日、ウクライナ東部ドネツク州で、親ロシア派武装勢力との境界線付近を歩くウクライナ軍兵士


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、結局一人あたりGDPでは、韓国を大幅に下回る現在のロシアでは、そもそもウクライナ全土を併合するような大戦争はできません。それに、ロシア軍の兵站は鉄道に頼っているため、鉄道網が破壊されると、補給ができなくなるという致命的な欠陥があります。

それに、現在のロシアは、インフレの加速したため、中銀は金融引き締めの度合いを強めているほか、感染再拡大による影響も顕在化するなど、足下では幅広く企業マインドが下押しされるなど景気の悪化が懸念されています。

ロシアはワクチン開発国ながら国民の間に疑念がくすぶるなかでワクチン接種が進んでいません。プーチン大統領は国民にワクチン接種を呼び掛けるほか、事実上の接種義務化などの動きもみられますが、政府の旗振りにも国民は踊らされることはありませんでした。総選挙で与党は政権基盤を維持出来ましたが、国民の間には着実に政府に対する不満のマグマは溜まっているのは間違いないです。

この状況で、ウクライナに攻め込んでも、さらに経済が悪化するだけですし、クリミアのときのように国民からの支持が大きく伸びるということもないでしょう。私としては、プーチンは、米国の厳しい制裁を逃れたいので、その取引材料として、ウクライナを利用しているのではないかと思います。

実際プーチンは、バイデンと電話会談する機会を得ることができました。ウクライナ問題がなけば、このようなことはなかったでしょう。

以上中国の台湾への侵攻は、来年もないでしょう。現状に大きな変化がない限り、来年以降もないでしょう。

ロシアによるウクライナ侵攻もかなり確率が低いと思います。ただ、状況が悪化した場合、来年はドネツク州への侵攻はあるかもしれませんが、年明けすぐということはないでしょう。ただ、確率は低いです。

来年は、平和な年になっていただきたいものです。皆様本年中は、お世話になりました。良いお年をお迎えくださいませ。

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