2022年5月14日土曜日

「キシダに投資」呼びかけも…くすぶる金融所得課税強化 経済成長導く政策も力不足―【私の論評】日本では批判されない岸田首相が海外リベラルメディアには、なぜ厳しく批判されるのか(゚д゚)!

日本の解き方

 岸田文雄首相は英ロンドンの金融街シティーで「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と述べ、日本への投資を呼びかけた。


 この講演で、岸田首相は「資産所得倍増プラン」と言っている。昨年9月の自民党総裁選において、岸田氏は「令和版所得倍増」を掲げていたが、その後、政府答弁において「平均所得や所得総額の単なる倍増を企図したものではない」と説明し、事実上取り下げた。

 今後は、全体の所得ではなく、「資産所得」という資産に由来した所得を倍増させると述べている。講演の和文では「資産所得」と書かれており、これが「資産と所得」なのか、「資産に由来した所得」なのか判別できなかったが、英文をみると後者であった。

 岸田氏は、講演ではもちろん金融所得課税の話をしなかった。昨年の首相就任時に発言したところ株価が急落し、「岸田ショック」と批判されたからだろう。

 しかし、松野博一官房長官は、9日の記者会見で、金融所得課税の強化については一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう十分に配慮して検討していくとの方針を示している。

 率直に言って、検討することは投資しやすい環境を損なうと思うが、官房長官の発言は事務方の原稿通りとみられ、課税強化の本音も透けてみえる。

 岸田氏の講演では、①人②科学技術・イノベーション③スタートアップ④グリーン、デジタルへの投資を掲げている。ただし、その投資を支える政策手段が、岸田政権では弱い。

 世界が投資を自国に呼び込むための常套(じょうとう)手段は、優遇策と規制緩和だ。しかし、岸田政権発足直後の所信表明演説では「規制改革」への言及がなかった。これまでの政権では何らかの表現で「規制改革」が盛り込まれてきたが、なかったのはほぼ40年ぶりのことだ。

 経済成長をどのように確保するのかもポイントだが、適切なマクロ経済政策とともに、規制改革がその原動力になる。

 「名目経済成長率」は、「実質経済成長率」と「インフレ率」に分けられるが、後者のインフレ率はマクロ経済政策の分野で、前者の実質経済成長率に大きく寄与するのは規制改革だ。

 要するに、積極財政と金融緩和、規制改革がキモになるが、現在の岸田政権ではいずれも力不足だ。

 とりわけ規制改革を打ち出さないで、どのように成長を達成し、日本への投資を呼び込むのだろうか。

 一部で話題になったのが、岸田首相は、昨年の政権発足時の資産公開で、家族分を含め東京都渋谷区や広島市の住宅、預貯金など2億868万円の資産を保有する一方、株式を所有していないということだ。

 これでは「岸田政権に投資してくれ」と呼びかけても、説得力がないと言われかねない。約2億円の資産で株式投資ゼロという人はかなり珍しいのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本では批判されない岸田首相が海外リベラルメディアには、なぜ厳しく批判されるのか(゚д゚)!

岸田首相が、投資を呼びかけても、無駄なことは従来からわかっていました。岸田政権の政策は面白くもなんともなさすぎるからです。

上の記事にもあるように、確かに岸田首相の所信表明演説に「規制改革」という言葉がありませんでした。「規制改革」という言葉は、1979年の大平政権で出た言葉で、それ以降の首相の所信表明演説には必ずといって良いほど入っていた言葉です。もちろん菅政権までずっとありましたが、岸田首相の演説には入っていませんでした。

過去40年間入っていたものを、なぜ抜いてしまったのかと訝しく思いましたが、それが岸田首相のいう「新しい資本主義」なのかもしれないと思いました。

規制改革は、はっきり言って「官僚に対する圧力」でもあるともいえます。官僚はいろいろな規制を見直せという話があっても、放っておくと何もしません、首相が「規制緩和」というと、それが官僚に対しての圧力となるのは確かです。

岸田首相が「規制改革」といわなかったことで、霞が関の官僚は皆ぬか喜びしたでしょう。内心ほっとしたと思います。財務省は沸き立ったと思います。

規制があると、規制に引っ掛かるかどうかの線引きのようなところに、当然ながらいろいろな既得権も生まれて来ます。だからいつも見直せというのが普通なのですが、岸田首相の所信表明演説にはなかったということで、官僚たちが安堵し、それが例の財務省の矢野論文にもなり、官僚の方が悪ノリをし始めたということになったのでしょう。

所信表明演説する岸田首相

かつて「官僚支配」などという言葉もありましたが、規制改革がないということは、「官僚支配」に戻るということを意味します。

そもそも、規制改革をなぜやるかと言うと、実質経済成長率を高めるためです。規制改革がなければ、なかなか新しい産業の芽が出て来ないので、実質経済成長率が高まらないのです。

岸田内閣の主要政策のサイトをご覧いたたければ、岸田内閣は分配に力を入れることを表明しています。ただ、単に分配をするということでは成長率が下がってしまいます。実際韓国の文在寅政策では、分配に力を入れ、最低賃金を上げる政策をとりましたが、それによって得られたのは、雇用の激減と成長の鈍化でした。

自民党の公約集では、さすがに規制改革という言葉は入ってはいましたが、「規制改革会議」をやめ、「デジタル臨時行政調査会」に名前を変え、「成長力会議」もやめて「新しい資本主義実現会議」になりました。この辺りに政権の性格が出ているように思います。

実は規制改革がないと株価が上がりにくいです。規制改革をなぜやるかと言うと、将来の成長を見込む面白い種をいくつか出し、経済の先行指標でもある株価を上げるというところもあって、それとともに「官僚の圧力」にもなります。

規制改革があれば、「このような産業が伸びそうだ」ということになり、それによって新たなチャンスが生まれると踏んで市場はそれを歓迎して株価が上がりますが、規制改革がないとそのようなチャンスは生まれようもなく、面白みもなく株価は上がりません。

ただ、規制改革をすぐ行っても、すぐに変わるというわけではありません。何かが変わるまでには、すくなくても数年はかかります。

ただ規制改革をしないと、あとが大変になるのです。需要サイドだけで物事を考える人は、規制改革をして供給が増えすぎたらどうなるなどと言いますが、供給サイドで何かが変われば、それにともない需要がついてくるということもあります。

たとえば、日本では規制されていてできない分野の一つ「電波オークション」があります。これがないから日本では通信産業が伸びなかったのです。電波オークションをやると新規参入が増えて面白くなるのですが、これをやっていないので、既存のテレビなどは面白くはならないのです。

もっとも「電波オークション」自体は技術革新が進んで実施してもほとんど意味がなくなってましまいました。なぜなら、今ではネットがありますから、誰もが自由に放送ができます。今から十数年前に「電波オークション」を解禁すれば、テレビ局なども大儲けできたと思いますし、新規参入が多く出てきて、競争によってテレビはもっと面白いメディアになっていたと思います。

「新しい資本主義」がどういうものになるのか、まだ見えない部分が多いですが、12日はこれについての報道がありました。以下にそれを引用します。
自民 「新しい資本主義」実現に向け 政府へ提言の骨子案
岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の実現に向け、自民党の実行本部は、デジタルとグリーン、それに人への投資の3つの分野に、官民を挙げて重点的に投資するよう求めることなどを盛り込んだ、提言の骨子案をまとめました。

「新しい資本主義」の実現に向けて、自民党は、実行本部で具体策を議論していて、政府に対する提言の骨子案が明らかになりました。

それによりますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などを受けて、自由・民主主義と、権威主義の対立軸が鮮明になっており、市場や競争に任せればすべてうまくいくという、これまでの資本主義の考え方を見直す必要があると指摘しています。

そのうえで、
▼量子技術やAI=人工知能などのデジタルの分野、
▼カーボンニュートラルなどのグリーンの分野、
▼新たな奨学金制度の導入をはじめとする人への投資の、
3つの分野に、官民を挙げて重点的に投資するよう求めています。

このほか、スタートアップ企業を支援するため、5か年計画を策定して、大学の周辺に企業の集積地をつくるなどの取り組みを進めるべきだとしています。

実行本部は、近く開かれる会合で骨子案を示し、提言の取りまとめに向けて詰めの議論を進めることにしています。
この何が「新しい資本主義」なのか全くわかりません。 ただ、この報道にも「規制改革」という言葉は一つもなく、いまのところ「規制改革をやらないのが新しい」としか見えません。


新しい技術に関してはそれ自体が「新しい資本主義」とはいえないですし、「人への投資」ということが言われていますが、これは経済が成長すれば、自ずと賃上げということになります。

経済が成長すれば、人手不足となり、賃金を上げないと人が集まらないということになります。

人への投資は、税制で支援しても多少はできなくはないのですが、根本方で経済成長の種がないと実現しにくいです。経済成長なしで、分配だけ考える人は多いのですが、それは無理です。逆に、経済成長すれば分配が簡単なので、まずは経済成長を考えるべきです。そのような考え方をしないから、岸田首相は出身派閥が掲げたせっかくの「所得倍増計画」の看板を降ろさざるを得なくなったのでしょう。

所得倍増計画には、実質経済成長率を高めるような政策は、規制改革がないと実施しにくいです。それとともに、需要を増やすためには、マクロ経済政策でインフレ目標を高めるべきです。無理です。

「インフレ目標2%」にこだわり、2%を超えたらすぐに金融引締に転ずるようなことをすれば、仮に年間で1%くらいしか伸びないと、倍増するのに75年程度かかることになります。

これは、「72の法則」として良く知られています。ちなみに、お金が2倍になる期間が簡単にわかる便利な算式。 「72÷金利≒お金が2倍になる期間」となる。 たとえば、金利18%でお金を借りた場合、「72÷18=4」となるので、約4年で借りたお金が2倍になることがわかります。

インフレ目標を4%くらいに引き上げて、需要を少し強くすれば、簡単に名目5%くらいにできるのできます。目標を5%にすると倍増が13年~14年になるので、良い目標になります。ちなみに、この手法を高圧経済と呼びます。

まさに米国はその高圧経済によって、超インフレになったため、利上げをしたのです。

日本であれば「インフレ目標2%が達成できないから引き下げろ」と言う人が多いですが、それは、逆です。4%に上げてしまえば良いのです。そうすれば、2%くらい簡単にクリアできます。4%を目標にすれば、達成率が半分でも2%になるでしょう。

ただ、「規制改革」という岸田首相にはそのような考えは到底できないでしょう。


日本のメディアでは厳しく批判されることのない岸田首相ですが、海外のメディアは手厳しいです。

たとえば、昨年の衆院選について書かれている米有力紙ニューヨーク・タイムズの記事を読み、思わず笑ってしまいました。

記事には、岸田氏について「何人かの外務省の公務員は、陰で、彼を“お行儀の良いタイプの犬”と呼んで、チワワというニックネームをつけた」という、岸田氏を30年前から知っている元防衛大臣中谷元氏の発言が紹介されています。

リベラル系のニューヨーク・タイムズが、保守系の安倍氏な菅氏を批判するというならわかります。実際結構批判していました。典型的なリベラル系ともいえる岸田首相をここまて酷評とするとは、思いも寄りませんでした。

海外のリベラルメディアも、さすがに中身のない岸田氏の話には反発したのでしょう。全く中身のない日本メディアは、同類の岸田首相に対して批判できないのでしょう。両方とも今の日本にはいてもいなくても良い存在かもしれません。

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