2022年5月8日日曜日

プーチン氏「がん手術」で権力一時移譲か 米英メディア指摘 「宮廷クーデター」に発展の恐れも 「今回の情報は信憑性が高い」と識者―【私の論評】プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、実はそれを知る者は誰もいない(゚д゚)!

プーチン氏「がん手術」で権力一時移譲か 米英メディア指摘 「宮廷クーデター」に発展の恐れも 「今回の情報は信憑性が高い」と識者


 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、がんなどの病気を抱え、手術を控えている可能性があるとした米英メディアの報道が波紋を広げている。手術中には短期的に側近に権力移譲するとの見方もある。9日には対独戦勝記念日を迎えるロシアだが、ウクライナ侵攻は泥沼化し、内政にも混乱の兆しがみえる。トップシークレットとされる最高権力者の体調問題が命運を分けるのか。

 プーチン氏の病状については、ロシアのSNS「テレグラム・チャンネル」で明らかにされた。英大衆紙デーリー・メール(電子版)によると、クレムリン(大統領府)の有力者が情報源だという。

 報道では、プーチン氏は1年半前から腹部のがんとパーキンソン病に罹患(りかん)していると報告されたほか、幻覚や躁(そう)病、統合失調症の症状を伴う障害もあると伝えた。医師が4月下旬にがんの手術を受けるように勧めていたが延期されたという。今月9日の「独ソ戦・戦勝記念日」まで手術を避けたとの見方もある。

 「今回の情報は信憑(しんぴょう)性が高い」と語るのは、ロシア政治に詳しい筑波学院大の中村逸郎教授。

 プーチン氏について「かつては民衆と家庭料理を楽しむ様子などもよく伝えられたが、最近は水や紅茶、食事をとる様子も見られなくなり、食事制限を受けているとの見方もできる。2019年のG20(20カ国・地域)大阪サミットでも各国首脳が赤ワインを飲む中でマイボトルを持参したことがさまざまな憶測を呼んだ」と語る。

 今年2月にベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した際、プーチン氏がつま先を激しく動かす動画が一時流れた。4月21日にショイグ国防相と会談した際には、机の端を強くつかんでいた。「表情は消え、ユーモアを交える発言も近年は見えない」と中村氏は分析する。

 露独立系メディア「プロエクト」は4月、高齢となったプーチン氏が医師の巨大なチームを有しているとするリポートを公表した。腫瘍外科医が4年間で35回、計166日間もプーチン氏と過ごしたとされている。

 前出のデーリー・メール紙や米紙ニューヨーク・ポストは、プーチン氏が手術を受けた場合、側近の1人、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記が短期的にウクライナ侵攻の主導権を握る可能性があると報じた。

 パトルシェフ氏は、プーチン氏と同様、ソ連国家保安委員会(KGB)出身で、ロシア連邦保安局(FSB)長官もプーチン氏の後継として1999年から2008年まで務めた。BBC(日本語電子版)の人物評では、「大統領に対してパトルシェフ氏ほどの影響力を持つ人はわずかだ」としている。

 プーチン氏の本当の体調については分からない部分も多い。ただ、中村氏は「病状の事実関係とは別に、こうした情報が表面化すること自体がクレムリン内部の様子を示しているといえる。戦況が泥沼化するにつれて、侵攻支持派にも反発が増えているのではないか」と語る。

 3日付の英紙ザ・サン(電子版)は「ウラジーミル最後の日」と題した記事で、「ロシア軍と保安機関の幹部が、脆弱(ぜいじゃく)で病弱な専制君主の致命的な戦争への対応にますます不満を募らせている」という元米軍将官の発言を紹介した。

 また、ロシア軍が首都キーウ(キエフ)を撤退し、東部ドンバスなどに転じた作戦について、シロビキ(軍・治安機関出身者の派閥)が「重大な誤り」だと非難したとし、2年以内に取り巻きによる「宮廷クーデター」でプーチン氏が失脚する可能性もあるとする情報分析を伝えた。

 国内の混乱はウクライナ侵攻にどのような影響を与えるのか。前出の中村氏は「プーチン氏は自身の『北大西洋条約機構(NATO)を崩壊させる』という野望の達成に向けて、精神的に追い詰められている可能性がある。さらに戦況が悪化すれば、権力闘争の中で巻き返しを図ろうとする強硬派の発言力が増し、プーチン氏が権力の座から退場せざるをえない状況が生まれてくるのではないか。自身が始めた侵攻で自爆する形だ」との見解を示した。

【私の論評】プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、実はそれを知る者は誰もいない(゚д゚)!

上の記事にも出てくる中村氏は別のメディアで以下のように語っています。

「最近の演説を聞くと、言葉がうまく出てこなかったり、文法を間違えてロシア語として成立しない言葉を発するなど、以前はなかった場面が見受けられる。こうしたことから、パーキンソン病に認知症を併発したとの推測も出ています」

プーチン氏は現在69歳。ロシア人男性の平均寿命は68歳で、すでにそれを超えています。平均寿命81歳の日本人男性の基準からすると、年齢以上に老化現象が進んでいてもおかしくはないです。


ロシアの平均寿命は、ソ連崩壊後に60歳を切り57.6歳になったこともあります。これは、このブログでも以前紹介したことがあります。その原因は当時の政府の経済政策の悪さも起因しています。

平均寿命の男女差が世界一大きいロシアですが、男性の短命な理由としては、ソ連崩壊からの環境の悪化やアルコール中毒での短命、自殺・インフラの老朽化による犯罪の増加と社会問題が大きく影響を及ぼしています。そのため、従来は介護の必要がそこまで大きな問題にならなかったのです。

以前このブログでも紹介したように、不況下で危険な「緊縮政策」を選択した影響で増加する死亡数は、まさに驚くべきものです。最も悲惨なのは、ソ連崩壊後のロシアで、1990年代に経済政策の失敗により数百万人の男性が死んだ(主に自殺とアルコール関連の死亡)と考えられるといいます。

しかし現在では、アルコール過剰摂取により病気や犯罪が増えないよう、大規模な「反飲酒キャンペーン」を行い、アルコール消費量が大幅に下がり、死亡率も減少しました。それにより、寿命が延び高齢者が増えたため、介護問題が視野に入ってきました。

ロシア人はウォッカを飲むせいで早死にしている!?

経済的に恵まれたプーチンはこれとは関係ないようにもみえますが、大国ロシアの独裁者として20年以上を過ごしたことが、プーチン氏の健康状態に少なからぬ影響を与えた可能性があるでしょう。

圧倒的な権力を掌握している独裁者は、いつ側近に謀反を起こされるか、いつ反対派に暗殺されるかとの不安から、孤独感や強迫観念に駆られ、緊張を強いられる生活が続きます。それを20年も続ければ、尋常ならざるストレスが溜まって強迫性神経症になるなど、精神面や身体面に不調をきたしても不思議ではなです。

一般的に70歳前後になると認知症になる人も少なくないため、判断力が鈍くなる時期に重なると言えるかもしれません。 

NATOに対する個人的な怨念と「栄光の“ソ連帝国”の復活」を夢想するプーチン氏が強行した今回の全面侵攻作戦の失敗に対し、政権内部からも「大統領の暴走が国家を危険に晒した」「我々の資産が散逸した」との不平不満が巻き起こり、やがてプーチン政権が崩壊するというシナリオは、ありそうですし、それにプーチン氏の健康不安が重なれば、ますます可能性は高そうです。

すでに「作戦失敗の張本人」とプーチン氏から追及されていると言われるFSBや、無謀な作戦で一説には将軍クラスが10人近く戦死という不名誉を受け続けている軍部、さらには欧米から貿易停止や資産凍結の制裁により深刻な経済的ダメージを受けているオリガリヒ(新興財閥)の一部などが反旗を翻すことも容易に想像できます。

ただし、これらが数カ月以内に起こるとは考えにくいです。プーチン氏の政権基盤は盤石で、しかも彼自身が旧KGB(国家保安委員会)出身でいわば元スパイ。諜報活動や裏工作、監視活動は得意中の得意で、政権内部どころか国民全体に密告制度も張りめぐらせており、個々人が疑心暗鬼の状況下で政権転覆や軍部クーデターなどは至難の業です。

それでもウクライナでの戦闘が長期化し、将兵の死者が数万人に達したり(すでに戦死者2万人以上との説も)、欧米の制裁で国民の生活がさらに困窮したりすれば「プーチン失脚」は現実のものになるかもしれないです。

いずれもにせよ、ウクライナとの戦闘が終結するか否かはプーチン氏次第ですが、当初はモスクワの赤の広場で第2次大戦の対ドイツ戦戦勝記念日を祝して毎年華々しく軍事パレードを挙行する5月9日までに、「ウクライナに対する“特別軍事作戦”大勝利」とアピールできる戦利品、つまりは“落としどころ”をプーチン氏が探しているのでは、と見られていましたが、最近では「戦勝記念日にはとらわれない」という、戦争長期化を覚悟したような意見をプーチン政権は表明するなど、ますます混迷を深めています。

そうして、なぜかメディアはポスト・プーチンを報道しません。プーチン氏の体調不調説が報道されるなら、最悪死去ということも考えられますが、その可能性について語るメディアはなぜかありません。これはどうしてなのでしょうか。

プーチン氏はかつて、エリツィン氏に代わる若く現代的な指導者のように見えました。西欧では、民主的なロシアへの期待も高まりました。しかし実際には、プーチンは、その後の20年間でロシアを中世に引き戻しました。国家と教会を1つの迫害機構の中に統合し、国民を「伝統的価値」に押し込めただけでなく、国家権力という何世紀も前の概念を復活させました。

プーチン(左)とエリツィン(右)

プーチンは昔の専制君主のように、自身は不滅だと信じているようです。ロシアに後継者育成計画や緊急時対応計画、もしくは現実には何の計画もないのはこのためです。メディアが「プーチン後」について口を閉ざす理由もここにあります。

ロシアがこれと似たような状況にあったのは、100年も昔のことではありません。スターリンが死去した後には、ロシアのニュースはしばらく途絶えました。米国の識者たちは当時、スターリンには自ら選んだ後継者がいるのか考えを巡らせていました。

しかし、スターリンの没後数年のうちに、後継者育成の計画や手続きがなかったことは明白になりました。ロシアには混乱が生じ、権力闘争が繰り返し繰り返し行われました。この限られた観点で言えば、歴史は悪くない教科書でしょう。プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、それを知る者は誰もいないと考えて差し支えないでしょう。

パトルシェフ氏が一時権力を移譲されるからといって、彼がポストプーチンを担うと考えるのは、早計です。やはり、激しい権力闘争が行われるでしょう。映画『スターリンの葬送狂騒曲のような状況になることでしょう。

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