2022年5月25日水曜日

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段―【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段

岡崎研究所

 ロシアのウクライナ侵略を受け、中国による台湾侵攻の可能性について種々の論議が戦わされるようになっている。4月23日付の英Economist誌の社説は、ウクライナ情勢から得られる最も重要な「教訓」は、中国の台湾への「脅威は現実のもの」であり、今すぐにこれに対応するための準備が必要であるとし、台湾がより良い準備をすればするほど、中国が台湾へ侵攻するという危険を冒す可能性は低くなる、と述べている。


 ロシア軍のウクライナ侵略は目下進行中であり、それが如何なる終結を迎えるのか、いまだ予断を許さない状況にある。ただ、はっきりしてきたことは、プーチンの当初の思惑通り事態は進行していない、ということだろう。そのような状況下で、エコノミスト誌の社説も、中国の将来考え得る台湾への侵攻がそれほど容易であるとは見ていないようであり、特に中国が「台湾統一」への行動をとることには、二つの大きな障害がある、と述べている。

 一つは、幅180キロメートルに及ぶ台湾海峡の存在であり、ロシアと地続きであるウクライナの場合と大きく異なっていることである。二つ目は、「台湾関係法」という国内法を持ち、台湾に防禦用の武器を供与し、台湾の安全にコミットしている米国が有する軍事力である。

 なお、ウクライナの場合には、バイデン政権はロシアが核兵器を使用し、「第三次世界大戦になる可能性がある」として、ウクライナへの武器支援を限定したことがある。将来、台湾海峡をめぐって、中国が台湾に対し、いかなる恫喝を行うか、それに対し、米国が如何に対応するかいまだ予想することが困難な点はある。

 現在までのところ、習近平指導部はウクライナ情勢から「教訓」を得るために状況を子細に観察しているものと見られ、ロシア側の度重なる誤算、ウクライナ国民の強固な抵抗力や欧米諸国の反応などに衝撃を受けているものと見られる。そして、将来有りうべき中国の台湾侵攻のハードルは、これまで一般に考えられていたよりもはるかに高くなった、と見てよいのではなかろうか。

やはりいつ来てもおかしくない台湾侵攻

 中国の台湾侵攻がいつ頃になるのか、予断を許さないが、エコノミスト誌の社説の主張するとおり、台湾側としては、いざという時のために警戒心を緩めることなく準備を進め、中国の侵攻を思いとどまらせる方策を講じることは、理にかなっているといえよう。

 エコノミスト誌の述べる台湾防衛の手段には、次のようなものがある。

(1)徴兵制に頼らず、より専門的な部隊を創設する。

(2)防衛費を現在の国民総生産(GNP)比2%は低すぎるので、増額する。

(3)台湾にはいたるところに「ハリネズミ戦法」が必要である。特に、敵の戦艦、軍用機に対する精度の高いミサイル攻撃が出来る武器が必要になる。

(4)台湾は、米国や日本を含むパートナー国との間で合同軍事演習を行う必要がある。中国による台湾海峡封鎖や有りうべき侵攻に対抗できるように準備を整える。

 ロシアのウクライナ侵略前には、数年以内にも中国が台湾に限定的な軍事侵攻をする可能性があるのではないか、との見方が米国の専門家の間で強まったことがある。しかし、ウクライナ危機以降は、中国としても、そう簡単に台湾に対し、軍事行動をとりにくくなったように思われる。しかしながら、習近平指導部にとって、台湾問題の重要性が基本的に変わらない以上、台湾としては警戒心を弱めることなく、準備できるものから準備するという覚悟が必要であろう。

【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

台湾情勢となると、多くの人が思考停止したように、潜水艦の話題はたくみに避けることか多いです。上の記事もその例外ではありません。潜水艦の行動は昔からどこの国でも隠密にするが普通であり、それ故になかなか公開されることもないので、このようになってしまう傾向は否めないのですが、それにしてもバランスを欠いていると思います。

エコノミスト誌の述べる台湾防衛の手段には、上記の4つですが、その中には潜水艦という言葉が一つでできません。(1)〜(4)の台湾防衛手段は、悪くはないですし、そうすべきとは思いますが、もっと具体性を増すなら、特に(3)は以下のようにすべきです。

(3)台湾にはいたるところに「ハリネズミ戦法」が必要である。特に、敵の戦艦、軍用機に対する精度の高いミサイル攻撃が出来る武器として潜水艦が必要になる。

潜水艦は、海の下に潜り、なかなか発見できない「ハリネズミ」になりえます。

なぜこのようなことをいうかといえば、中国海軍には明らかな弱みがあるからです。中国海軍のASW(対潜水艦戦闘)能力は、日米に比較するとかなり弱いです。まずは、対潜哨戒能力がかなり弱いです。そうして、潜水艦の能力でも、ステルス性(静寂性)では日本にはかなり劣ります。

攻撃能力は米国の原潜と比較すると弱いです。その結果どうなるかといえば、中国の潜水艦は日米にとってはかなり発見しやすく、中国はそうではないので、中国の潜水艦は日米の潜水艦には歯が立ちません。

現代海戦についてルトワックも語っていた、昔から言われていることがあります。それは艦艇には2種類しかないということです。一つは空母やイージス艦のような、水上艦です。もう一つは、海の中に潜む、潜水艦です。

現代海戦においては、水上艦は空母でなんであれ、大きな目標でしかありません。これらは、すぐにミサイルや魚雷で撃沈されてしまいます。実際ロシアのバルチック艦隊の旗艦でもあってミサイル巡洋艦「モスクワ」は脆弱な海軍しか持たないウクライナ軍のミサイルによつて撃沈されてしまいました。

一方潜水艦は、水中に潜み、敵を攻撃することができます。すぐにミサイルや魚雷で撃沈されることはありません。だからこそ現代の海戦における本当の戦力は潜水艦なのです。ただ、これも対潜哨戒能力などによるASWが物を言う時代になっています。これが弱ければ、いくら潜水艦を多く持っていても、海戦において勝利することはできません。

これは、すでにフォークランド紛争(1982年)で実証されていたことです。この紛争では、ASWに長けていた英軍が結局勝利しています。

現代海戦においては、日米のほうがはるかにASWでは中国に勝っているため、中国が多数の水上艦艇を持っていたにしても、それは日米にとっては「政治的メッセージ」に過ぎず、海戦では日米の敵ではありません。

だからこそ、台湾は最新型の潜水艦をもつことにしたのです。これについては、以前このブログでも紹介しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾が建造開始の潜水艦隊、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性―【私の論評】中国の侵攻を数十年阻止できる国が台湾の直ぐ傍にある!それは我が国日本(゚д゚)!

自前の潜水艦の着工式に出席した蔡英文総統=2021年11月24日、高雄市

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、専門家は、台湾がもし高性能潜水艦の製造に成功すれば、台湾は中国の侵攻を今後数十年にわたって防ぐことができるとしています。

実際そうなのだと思います。先にあげたルトワック氏は、台湾有事になりそうになったら、米国は台湾に大型攻撃型原潜を2〜3隻派遣すれば良いとしています。なにしろ米国の攻撃型原潜の攻撃力は凄まじいですから、トマホークを数百発も発射できますし、対空・対艦ミサイルもかなり搭載できますから、2〜3隻のこれらの潜水艦で台湾を包囲してしまえば、そもそ中国海軍は台湾に近づくこともできません。

それでも無理やり近づき、仮に人民解放軍を台湾に上陸させたとしても、補給ができず、上陸部隊はお手上げになります。

日本の潜水艦も貢献できるでしょう。何しろステルス性に優れていますから、中国海軍に発見することなく、台湾の近海を自由に航行して、情報収集にあたり、その情報を米台と共有することができます。

台湾が最新鋭の潜水艦8隻を就航させることができれば、自前でこれができることになります。これに、日米が加勢すれば、中国海軍が台湾向けて事を起こせば、壊滅することになります。

2021年11月29日、ロイターは「As China menaces Taiwan, island’s friends aid its secretive submarine project」という記事を配信しました。その内容は、2017年から開始された台湾の潜水艦建造に、米国、英国が主たる役割を果たしていることに加え、オーストラリア、韓国、インド、スペイン及びカナダが関わっているとするものです。

米国は、戦闘システムやソーナー等の核心技術を、イギリスは潜水艦用の部品や関連するソフトウェアを提供し、その他の5カ国は技術者募集に応じたものであると伝えています。

それぞれは、台湾海軍及び潜水艦建造を請け負っている台湾国営企業「台湾国際造船」に、政府の許可を得て技術的支援を行っているとしています。韓国大統領府は、この記事に関し政府の関与を否定した上で、個人のレベルで情報を提供しているかどうかは調査中であると述べていました

記事では、米国の同盟国であり最も進んだ通常型潜水艦を保有する日本の関与について、防衛省関係者の発言として、非公式に検討したものの中国との関係悪化を懸念し、検討を中止したと伝えていました。また、日本企業は中国との取引を失うことを懸念し、台湾への関与は消極的であるとの海上自衛隊退職将官の発言を紹介していました。

台湾海軍は現在4隻の潜水艦を保有しています。2隻は第2次世界大戦中に米海軍が建造したグッピー級であり、もう2隻はオランダのスバールトフィス級潜水艦を元に1980年代に建造され、海龍級と呼称されています。

当初、海龍級は6隻取得する計画であったのですが、中国がオランダに圧力をかけ、残り4隻の建造は取りやめられました。グッピー級は言うに及ばず、海龍級も旧式化しており、台湾海軍はその更新を希望していました。

しかしながら、潜水艦建造能力を持つ各国は、中国の反発を恐れ台湾の潜水艦取得に協力することには消極的でした。米国は、2001年にブッシュ政権が、台湾関係法に基づき通常型潜水艦の提供を決定したのですが、米国国内には通常型潜水艦建造のノウハウが無く、宙に浮いた形となっていました。

これらの状況から、台湾の蔡政権は潜水艦国産化の方針を決定、2017年から建造が開始されました。1番艦の就役は2025年に予定されており、8隻が建造される計画です。

国産化にあたっては、米国を始めとした潜水艦保有国の技術協力が不可欠と見なされていましたが、それまで具体的な名前は明らかにされていませんでした。現時点で、韓国政府以外の反応は報道されていないですが、各国の協力を得て台湾潜水艦建造が進みつつあることが確認できたと言えます。

台湾の潜水艦勢力が充実することは、日本周辺の安全保障環境にも大きな影響を与えますが、軍事的観点から見ると、それにはプラスの側面とマイナスの側面があります。

プラスの側面としては、中国の台湾軍事侵攻に対する大きな抑止力となることです。当時、中国は台湾周辺における活動を活発化しつつありました。爆撃機がバシー海峡を経由し台湾南東部を飛行することに加え、同年11月中旬には中国海軍揚陸艦2隻が台湾と与那国島の間を南下し、台湾東部沖で活動したことが確認されています。

台湾は南北にわたって3,000m級の山脈が連なっていることから、その攻略には台湾海峡正面からの攻撃では不十分との指摘があります。当時からの中国艦艇及び航空機の活動は、台湾海峡方面からの侵攻に加え、太平洋方面からの侵攻能力を検証しているものと推定できます。

3,000m級の山脈が連なっている台湾

台湾潜水艦がバシー海峡周辺及び台湾東部海域で行動することにより、これら中国艦艇の台湾東部への進出を抑制することができます。潜水艦が行動しているという情報だけで、その脅威を排除するために行わなければならない作戦の負担や艦艇へのリスクを意識させ、最終的に中国が台湾への軍事侵攻というオプションを選択する可能性を低下させることが期待できます。

一方、マイナス面、懸念事項としては次の2点があげられます。

潜水艦の最大の特徴は、隠密裏に海中を行動することである。これを捜索するためのセンサーとして、現時点では音波が主流です。音波による捜索は、自ら音を出すアクティブ、相手の音を聞くパッシブともに、潜水艦であるかどうかの類別、そしてそれが潜水艦であった場合の識別(どこの国の潜水艦か)に多大の労力が必要です。

バシー海峡から西太平洋にわたる海域では、日米、状況によっては韓国、そして将来的にはオーストラリア潜水艦が活動し、これに台湾海軍潜水艦が加わった場合、潜水艦らしい目標を探知した場合の識別は非常に困難なものとなります。台湾を巡る紛争が生起した場合、台湾海軍潜水艦の存在は、日米艦艇の作戦を阻害する可能性があります。

次に、台湾の潜水艦の事故に対する備えが不十分であることが指摘できます。2021年4月、インドネシア海軍潜水艦がロンボク海峡付近で沈没しました。更には同年10月、米海軍原子力潜水艦が南シナ海において、海山と推定される海中物体と衝突し損傷しています。

潜水艦を運用する国が増加するにつれ、このような潜水艦の事故が増加すると考えられ、潜水艦を運用する国には捜索救難体制の整備が必須と言えます。他国との訓練が実施できない台湾は、潜水艦救難のノウハウが十分とは言えない状況にあります。

インドネシア潜水艦が消息を絶ってから発見されるまで4日間を要したことから分かるように、沈没潜水艦の位置特定には時間を要します。沈没潜水艦の救難は時間との勝負であり、距離的に近い日本はこれに積極的に協力すべきでしょう。

懸念事項を解消するためには、台湾潜水艦の運用状況に関する日台間の情報共有が不可欠です。潜水艦運用に係る情報の全てを共有する必要はないですが、少なくとも、事故の発生の通知や、探知した潜水艦が台湾所属である可能性があるかないかという判断を速やかに下せる程度の情報交換は必要です。これは、台湾の対潜戦兵力が日本の潜水艦を探知した場合も同様です。

日本の各企業が中国との取引を重視し、台湾の潜水艦建造に消極的であることは、民間企業として当然のリスク管理です。しかしながら、実際に台湾潜水艦の絶対数が増加し、活動海域が重複した場合のリスク管理は国の責任です。台湾の国産潜水艦が就役する2025年までに、日本政府としてリスク管理の体制を整えておく必要があります。関係国との調整を考慮すれば、残された期間は長いとは言えないです。

ただ、日米ともに以上のようなことを実施すべきです。台湾が自前で潜水艦を8隻持ち、シフトを組んで、24時間、台湾を包囲する体制を築いた場合、中国は台湾侵攻を断念せざるを得ないでしょう。

だから、2025年より前に、中国が台湾を武力侵攻する可能性は捨てきれません。そもそも、このブログでは、中国軍の兵員海上輸送能力は現在でも低く、台湾に一度に数万の陸上部隊しか送れないこと解説しました。そうなると、台湾に上陸した中国は侵攻部隊は、何度かに分けて輸送せざるを得ないことになります。そうなると、その度に台湾軍に個別撃破されることになります。

これを考えると、中国が台湾を武力侵攻することはあり得ないと考えるのが普通だと思います。もし、中国が台湾に侵攻した場合、台湾は当然戦うでしょうが、ロシアがウクライナに攻め入るのとは違い、圧倒的台湾のほうが有利であり、侵攻する中国はウクライナのロシア軍よりも、さらに破滅的な損害を被ることになります。

しかし、ロシア軍もウクライナに侵攻すれば、破滅的な損害を被るのは目にみえていました。しかも、侵入軍が当初19万人ともいわれ、これではとてもウクライナを制圧できないのは明らかでした。それでも、プーチンは明らかに勘違いをしてすぐに制圧できると高を括って侵攻したわけですから、中国が台湾に侵攻しないという保証はありません。

台湾を第二のウクライナにしてはならない

ただ、そうすれば、中国軍は破滅的な被害を受け、いずれ退却しなければならくなるでしょう。習近平はプーチンのように大赤恥をかくことになります。いや、それ以上かもしれません。しかし、それでも台湾は大きな被害を被る可能性があります。それだけは絶対に避けなければなりません。

そうならないためにも、台湾は潜水艦の建造を急ぐべきですし、日米としては、台湾有事は日米有事であることを中国に知らしめるべきでしょう。

その意味では、23日の日米首脳会談後の共同記者会見で、バイデン大統領が「台湾防衛への軍事的関与」を明言したのは時宜にかなった適切な措置だったと思います。

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