2022年5月4日水曜日

ロシア、9日に「戦争宣言」か 大規模動員の可能性も―【私の論評】ロシアの宣戦布告でまたプーチンの誤算が始まる(゚д゚)!

ロシア、9日に「戦争宣言」か 大規模動員の可能性も

プーチン大統領

 米CNNテレビは3日までに、米欧の政府関係者の見方として、ロシアが早ければ今月9日にもウクライナに「宣戦布告」する可能性があると報じた。同日はロシアにとって第二次大戦の対ナチス・ドイツ戦勝記念日にあたる。これまで「特別軍事作戦」と称してきたウクライナでの軍事行動を「戦争」に格上げし、予備兵投入などの総動員をかける恐れがあるという。

 報道によると、ロシアのプーチン大統領が正式にウクライナ侵攻を戦争と宣言することのより、国内で予備兵を投入したり徴兵したりし、総力戦に乗り出すことが可能になるという。

 2月下旬の侵攻開始から露軍では人員や軍備に甚大な損失が出ており、兵力などの動員強化が「是が非でも必要」になっていると米欧関係者は分析している。

 これまで米欧の軍事・情報筋では、ロシアが5月9日の節目に何らかの「勝利」を示そうとしているとの分析があった。緒戦でウクライナの首都キーウ(キエフ)の攻略に失敗した露軍は、東部や南部に軍事行動の軸足を移している。

 ただCNNは、プーチン政権が9日に、東部ドネツク、ルガンスク両州の占領地域の併合や、東部の激戦地マリウポリの完全掌握を宣言する選択肢も残されているとしている。

ロシアの戦勝記念日をめぐっては、英国のウォレス国防相が先週、英ラジオ局の番組で、宣戦布告して総動員をかける可能性があるとの見方を示した。

【私の論評】ロシアの宣戦布告でまたプーチンの誤算が始まる(゚д゚)!

ロシアの相次ぐ方針転換は、対ウクライナ戦争が計画通り進んでいないことの裏返しといえます。早期にウクライナのゼレンスキー政権を屈服させることはできず、首都キエフを陥落させることもできず、南部からの大規模な部隊上陸もできず、ドンバス地方での戦車部隊による大規模攻勢も計画通りには進んでいません。


ウクライナに対する米欧からの重火器を含む武器支援と情報提供、ウクライナ軍の士気の高さが背景にあるのでしょう。しかし、プーチン大統領が「負け」を認めることはできません。国内で政治的求心力が低下し、独裁権力を維持できなくなる恐れがあるためです。5月9日に「戦争宣言」をして総動員をかける場合、背水の陣を敷くつもりでしょう。
国際社会で使われている戦争の始まりは宣戦布告。戦争の終わりは講和条約です。

 宣戦布告:戦争の開始
      戦争=戦闘+占領
 講和条約:戦争の終了

戦争は宣戦布告で正式に戦争が開始されます。戦争の中身は戦闘だけではなく占領も含まれています。

宣戦布告に関して、倉山満氏は現在ではそれが禁止されているがために、紛争と戦争の区別がつきにくくなったことを説明しています。そのた「戦争」は根絶されたとも言えるそうです。その代わり、すべて事変になったのですが、事変は現代ではほとんど使われず、「紛争」と言い換えられているそうです。これについては以下のリンクをご覧になってください。
宣戦布告がないのに、軍事衝突はある。これは紛争か、戦争か/倉山満
倉山氏は、’45年国連憲章で、宣戦布告は違法とされたので、以後は現在まで宣戦布告を行った国は存在しないとしています。「戦争」は根絶されたとも言えるとも語っています。その代わり、すべて事変になったが、ただし、事変は現代ではほとんど使われず、「紛争」と言い換えられているとしています。

また、"外交戦で及び腰なのがドイツとフランスだ。経済制裁にも、仏独は米英と比べ慎重だった。だからゼレンスキーは米英には満腔の感謝を示し、仏独では嫌みを交えつつ激烈な要求を繰り返した。日本でのオンライン演説は中間よりも米英寄りで、ご丁寧に「アジアのリーダーとしてロシアを制裁してくれてありがとう」とまで言って感謝してくれた。  

さて、これをプーチンが聞いたら、どう思う? 日本は、形式上は中立だが、既にウクライナの味方をしているのだ。覚悟すべし"とも語っています。まったくそのとおりだと思います。

確かに、先進国などは戦後宣戦布告をして戦争はしていないようですが、第二次世界大戦後に宣戦布告による戦争している国はあります。

ロシアは、南オセチア紛争 (2008年)において、 2008年8月9日 宣戦布告(戦争状態を宣言) を ジョージア に対してしています。ロシアが宣戦布告して、戦争したのは戦後これだけです。

ただ、先進国等はしていないことや、ロシアが現在も国連常任理事国であることから、この宣戦布告は対外向けという寄りは、ロシア国内向けという性格が大きいのではないかと思います。

ロシアがウクライナに宣戦布告をするということにより、国内を戦争体制に持っていけば、ロシア国内での予備役の動員が可能になり、軍事への優先的な物資の振り分けも可能になります。あるいは、もう既にやっていますが、情報統制なども含めて本格的に戦時体制に持っていくことが大きな目的としてあると考えられます。。

現状のロシアは、ウクライナで戦争をするための物資や人員が全く足りていません。 ウクライナと国境を接する旧来からのロシア領の方にも攻撃が始まっているという状況もあり、本格的に兵員を大量増員しないと押し返される可能性も出てきています。

そうでなくても西側諸国から、ウクライナに対して攻撃型の兵器が大量に提供されるような状況になり、ロシアとしても本腰を入れなければならなくなってきました。

ドイツがウクライナに対して、対空戦車「ゲパルト」という、自走高射機関砲の引き渡しを発表しました。またポーランドも200両ほどの戦車を提供するそうです。 

ゲバルト対空自走砲

これまではどちらかというと防御型の兵器で、向こうが攻めてきたときに撃破するための対空砲などが主体だったのですが、戦線を押し返すような武器が提供されるようになってきたのです。

開戦当初は「3日で落ちる」と言われていたキーウですが、結局落とすことができず、その兵力を東部戦線に送ったとされいますが、この東部戦線も膠着状態になる可能性が高かくなってきました。それに加えて、これまで中立的な立場を取ってきたスイスが、ロシアに対する経済制裁に向けて動いたということ、スウェーデンやフィンランドなども、NATO加盟を具体的に検討しているということで、ロシアにとっては誤算続きなのだろうと思います。

怖いのは、ロシアが、戦争状態を宣言することで、場合によってはウクライナ以外の国々への侵攻も可能になるということです。特別軍事作戦であれば、「ドンバス地方のロシア系住民の保護」という名目だったのですが、ウクライナ一国を対象にするという状況になります。 これに与する国も攻撃できるという理屈になります。

ウクライナ以外の国という意味で言うと、既にウクライナ西側のルーマニアとの間にあるモルドバ、特にウクライナとの国境にある「沿ドニエストル共和国」の辺りに向かって進軍し、「モルドバも獲る」というような話も出てきています。

当面のポイントになるのが、重要な港であるオデッサに対する攻略戦だと思います。すぐ北側はモルドバですので、そこを攻略するためには、モルドバも含めて攻撃することになると思います。 

黒海を大きく開いた口として、口蓋垂の部分をクリミア半島として見ると、その左奥にオデッサがあります。その先にモルドバがあるので、クリミア半島辺りから西に攻めていくと、全部獲ることができます。 そうするとウクライナの海岸線が全部ふさがってしまいますから、船舶による物資の供給ができなくなります。ウクライナに対しての供給を遮断することにもなります。

ウクライナはもともと穀物の輸出が盛んなところでした。輸出経路として、南側にある港から黒海を通り、ボスポラス海峡を渡って地中海に出て、そこから全世界に輸出しています。この交易ルートも遮断しようというのです。これは、「経済的な打撃を与える」ということも大きな狙いとしてあると思います。 

アゾフ海をロシアの配下にすれば、黒海がロシアの影響力下に置かれることになります。 そうすると黒海艦隊も含めて安泰になります。 加えて不凍港の確保にもなります。 これはロシア帝国の時代からのロシアの悲願でもあります。

ただ、プーチンは今までも多くの誤算をしています。この目論見どおり事が運ぶかどうかは未知数です。ロシアがウクライナに宣戦布告すると、これはロシア対ウクライナの戦争になります。

そうするとどうなるかといえば、今までウクライナはあくまで、ウクライナ国内でロシア軍と戦闘をしていたのですが、今度はウクライナがロシアに対して攻撃できるということになります。

かといって、ウクライナが戦線を拡大して、モスクワまで侵攻するということはないでしょうが、ウクライナがロシア国内の物資貯蔵所などを攻撃することは十分に考えられるわけで、現在のウクライナ軍は、NATO諸国の情報を活用できる状況にあり、そうした場所をピンポイントで正確に攻撃できます。

さらに悪いことには、ロシアには制裁により、様々な兵器の部品が入手できにくい状況になっています。なにしろ、ロシアは半導体はもとより、ボールベアリングですら精巧なものは自前で製造できません。工作機械は日本、ドイツが独壇場です。戦車や戦闘機の製造はおろか修理も、徐々にできにくい状況になりつつあります。

RPG-7(奥) とAK47(手前)

これが、またプーチンの誤算になりかねません。そうなると、いくら戦時体制で多くの人員をウクライナに派遣できるようになっても、ロシア軍の大部分は、カラシニコフ自動小銃(AK-47)と手榴弾と、せいぜいRPGミサイルで戦わざるを得ないことになるかもしれません。これでは、中東の民兵と同程度での戦力であり、とても戦争に勝てません。

それに現代の戦争は、様々な知識を必要とします。現在の戦争は、一昔前のスコップで汗まみれで塹壕をほって、小銃を構えるというのとは随分異なります。ロシアが国内で戦時体制を構築して、多くの人を戦争に参加させたにしても、その多くはあまり訓練も受けていない予備役か、素人です。あまり意味はありません。かえって、足手まといになるどころか、徒に大きな犠牲をだすことになりかねません。

ただ、そうなると戦術核や、化学兵器も使うかもしれません。その時は、ブーチンもロシアの現体制も崩壊することになるでしょう。

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