2023年6月28日水曜日

中国核軍拡で危惧される中印パ3国の核軍拡スパイラル―【私の論評】核に関する論議は、日本を本気で守ろうとした場合避けて通ることはできない(゚д゚)!

中国核軍拡で危惧される中印パ3国の核軍拡スパイラル

岡崎研究所

大型ミサイルの発射実験の光景 AI生成画像

 5月26日付の米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」は「南アジアでの核兵器を巡る衝突」との米ハドソン研究所シニアフェローのアンドリュー・クレピネビッチによる論説を掲げ、米カーネギー国際平和基金のアシュリー・テリスが新著で論じた、中国の核軍拡がインドとパキスタンの核軍拡と地域の緊張増大を誘発する可能性につき解説している。

 中国の核軍拡は、インドとパキスタンの核軍拡と地域の緊張増大を誘発する可能性がある。中国は、米国との世界的競争に関心を移し、その結果大規模な核軍拡に踏み切った。インドに対し通常戦力で大幅に劣るパキスタンは、中国の支援を得て、最小限の抑止から段階的な抑止に舵を切ろうとしている。

 この2つの核軍拡に挟まれ、中国との対抗を主な関心事項とするインドは、コストも念頭に最小限の抑止を維持する可能性が高いが、中国の核兵器が大幅に拡充し、早期反撃のために警戒レベルが上がることや、精密攻撃能力の改善も相まったインドの残存核能力への脅威が増大し、更には防空・ミサイル防衛能力が強化されインドの核反撃の防止などが進めば、そのままではいかなくなるかもしれない。

 現状でも、中国とパキスタンの双方の核威嚇に対抗するためには、インドは一定の核軍拡が必要と言うのがテリスの見立てだ。が、そうなると当然パキスタンも核軍拡に走るので、中国の核軍拡が3カ国全てに核軍拡のスパイラルを起こすということになる。あまり見たくない世界である。

 そして、この状況へのインドの対応策として、米国によるインドへの戦略的協力の可能性を示唆していることが、正にテリスの慧眼の素晴らしいところだと思う。核実験数が十分でないことからインドの水爆の信頼性には限界がある。水爆の実証のためにインドが核実験を再開すれば、各国からの制裁は免れないし、日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の崩壊にまで繋がりかねない。

 逆に、中国のパキスタンへの各種核兵器関連技術の協力に対応する意味からも、米国が、水爆の設計情報や、インドの核兵器の残存能力を高めるために必要な核搭載原潜建造に不可欠な海軍原子炉設計情報をインドに提供する可能性をテリスは示唆している。正に、AUKUSのインド版だ。

 インドがAUKUSに入るというのはあまりありそうにないが、インド用に新たな米国他との協力の枠組みを作るという可能性は排除されないだろう。この論説が指摘するように、そのためにインドが戦略的自律性を放棄する必要があるかどうかは、その枠組みの内容次第かもしれない。ともかく、極めて大胆で貴重な問題提起であることは間違いない。そして、米国が自身の戦略的優先度を真剣に考え抜くことができれば、これは、一つのあり得る選択ではないかと思う。

【私の論評】核に関する論議は、日本を本気で守ろうとした場合避けて通ることはできない(゚д゚)!

中国、インド、パキスタンの核軍拡は「核のトリレンマ」ともいうべき状況を生み出しています。

「核のトリレンマ」という言葉は、アシュリー・J・テリスが2013年に出版した著書『インドの核政策』で初めて使用した。テリスは、南アジアの3つの核保有国(中国、インド、パキスタン)が、それぞれの核政策において「トリレンマ」と呼ばれる課題に直面していると主張しました。

インド、パキスタン、中国は互いに国境を接しており国境紛争もある

 核抑止力:これらの国は、互いに、あるいは他国からの攻撃を抑止するために、信頼できる核抑止力を維持する必要がある。

核の安全性: 事故や不正使用を防ぐため、核兵器や核物質の安全性とセキュリティを確保する必要がある。

核不拡散: これらの国々は、核兵器が地域の他の国々に拡散するのを防ぐ必要がある。

テリス氏は、これら3つの課題はしばしば相反すると主張しています。例えば、信頼できる核抑止力を維持するためには、その国の核兵器の規模を拡大し、高度化する必要があるかもしれないです。同様に、域内の他国への核兵器の拡散を防ぐ努力は、これらの国々が自国の核戦力を制限することを必要とするかもしれないです。

核のトリレンマは、これらの国々が自国の安全保障と地域の安全保障を確保するために慎重に管理しなければならない複雑な課題です。

核のトリレンマは、これらの国が協力して取り組むべき深刻な課題です。協力することによって、これらの国々は軍拡競争や事故、核兵器拡散のリスクを軽減することができます。また、この地域により安定した安全な核環境を発展させるために協力することもできます。

テリスのほかにも、南アジアにおける核のトリレンマについて執筆した学者がいます。
  • ヴィピン・ナラン『印パ紛争における核戦略』(2014年)
  • マイケル・クレポン『安定性と不安定性のパラドックス:南アジアにおける核兵器と抑止力』(2003年)
  • スコット・セーガン『動く標的 変化する世界における核の安全と核セキュリティ (2009)
核のトリレンマは複雑で困難な問題ですが、南アジアの安全保障を確保したいのであれば、理解することが不可欠です。

以下に、核のトリレンマも踏まえた上で、上記の様な米国の動きがなかったとすれば、インド・パキスタンは中国の核軍拡に対してどのように考えどのような動きをするかについて考察した内容を掲載します。


中国の核軍備増強がインドやパキスタンの核軍備増強の引き金となり、地域の緊張が高まる可能性は確かにあります。中国の最近の核兵器増強は著しく、インドとパキスタンが自国の安全保障への影響を懸念するのは理解できます。

もしインドとパキスタンが、自国の核兵器が中国を抑止するには不十分だと感じれば、自国の核戦力を増強したくなるかもしれないです。そうなれば、この地域での軍拡競争につながりかねず、緊張を高めるだけです。

重要なのは、これはひとつの可能性にすぎないということです。インドとパキスタンが、中国の核兵器増強がもたらす課題に対処するために、互いに協力する方法を見つけることができる可能性もあります。しかし、軍拡競争のリスクは無視できず、国際社会が認識しておく必要があります。

以下は、軍拡競争の可能性を高めるいくつかの要因です。
中国が急速なペースで核兵器を増やし続ける場合。

インドとパキスタンが、安全保障を米国やその他の国に頼ることができないと感じた場合。インドとパキスタン、あるいは中国との間で大きな紛争が発生した場合。
以下は、軍拡競争の可能性を低くするいくつかの要因です。
インドとパキスタンが核安全保障に関して互恵的な合意に達することができた場合。

米国やその他の国が、インドとパキスタンに安全保障を提供できる場合。

インド、パキスタン、中国の関係が全般的に改善すれば。
南アジアで軍拡競争が起こるかどうかを断言するのは時期尚早です。しかし、軍拡競争のリスクは国際社会が認識すべきものであり、その防止に積極的に取り組むべきものです。

確かに、軍拡競争の可能性を高める要因のなかに、インドとパキスタンが安全保障を米国やその他の国に頼ることができない場合や、中国のとの間で大きな紛争が発生した場合、軍拡競争の可能性を高めることになります。

上の記事では、インドの安全保障に対して、米国が何らかの形で関与することを示唆しています。その一つの方法が、インドがAUKUSに入るというものですが、これあまりありそうにないですが、インド用に新たな米国他との協力の枠組みを作るという可能性はあり得るとしています。そうすることにより、南アジアにおける軍拡競争を制限できる可能性は十分にあると思われます。

結局重要なのは、そのような可能性を検討しておくことです。検討しつつ、実際に軍拡競争が起こり、地域のバランスが崩れそうになれば、その検討事項を実際に試してみることができます。しかし、検討しておかなければ、軍拡競争が激しくなっても、おろおろするしかありません。その場しのぎで何かをしたとしても、あまりうまくいくとは考えられません。

そこで、不安なのが日本です。上の記事でも、中国の急速な核軍拡が日米同盟の抑止力に対して持つ意味についての議論は多々されてきたとされていますが、実際にどのような議論がされてきたのか、以下に掲載します。

第一に、中国の核兵器保有量は、ほんの数年前よりもはるかに増大しています。これは、中国が米国やその同盟国からの攻撃を抑止する能力をはるかに高めていることを意味します。

第二に、中国は極超音速ミサイルや原子力潜水艦など、新しいタイプの核兵器を開発しています。これらの新型兵器は、中国の攻撃を抑止する日米同盟の能力にとって大きな挑戦となる可能性があります。

第三に、中国は核兵器運搬能力を拡大しています。これは、中国が米国と日本のより多くの標的に核兵器を運搬できるようになったことを意味します。

中国の急速な核軍拡が日米同盟の抑止力にとってどのような意味を持つのかについては、まだ議論が続いています。しかし、中国の核兵器が日米同盟にとって、ほんの数年前よりもはるかに大きな脅威となっていることは間違いないです。

中国の核拡大の脅威を日本ではタブー視すべきではありません。リスクを理解し、効果的な対応策を練るためには、この問題についてオープンで率直な議論をすることが重要です。

日本が中国の核拡大の脅威について議論することに消極的な理由はいくつかあります。そのひとつは、日本には長い平和主義の歴史があり、多くの日本人が核兵器について議論することに抵抗を感じていることです。もうひとつの理由は、日本は貿易面で中国に大きく依存しており、日本企業のなかには、その関係を危うくするようなことをしたがらないところもあるだろうということです。

しかし私は、中国の核兵器拡大のリスクは無視できないほど大きいと考えています。日本は、この脅威に対処するための包括的な戦略を策定するために、この問題について率直でオープンな議論を行う必要がります。

以下は、中国の核拡大の脅威に対処するために日本ができることです。

日本は米国との同盟関係を強化することができます。米国は世界で最も強力な核兵器保有国であり、日本は米国との同盟関係によって、中国の攻撃に対する強力な抑止力を得ることができるはずです。この議論の中で、安倍元総理が主張していた、日米の核共有に関しては、有効な手立てとして、十分議論すべきと思います。

首相の時の安倍晋三氏

安倍元首相は、旧ソ連崩壊後にウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの旧ソ連諸国3カ国が核兵器保有を放棄する代わりに米英露の核保有3カ国が主権と安全保障を約束した1994年の「ブダペスト覚書」に言及し、ウクライナが「もしあの時、戦術核を一部残し、活用できるようになっていればどうだったかという議論も行われている」ことを紹介していました。

ウクライナが核を全部放棄していなければ、今日ウクライナ戦争はなかったかもしれません。そのウクライナは今日、ロシアによる核攻撃の脅威にさらされています。

「被爆国として核廃絶という目標は掲げなければいけないし、それに向かって進んでいくことが大切だ。日本は核拡散防止条約(NPT)の加盟国で非核3原則があるが、世界ではどのように安全が守られているかという現実について議論していくことをタブー視してはならない。現実に国民の命、国をどうすれば守れるか、様々な選択肢を視野に議論すべきだ」と述べました。

日本は独自の核兵器を開発することもできます。これは賛否両論あるでしょうが、日本が自国の安全保障をより高度に管理できるようになります。

日本は、中国の核の脅威に対抗するために、インドやオーストラリアのような国々と協力して、地域の核安全保障の枠組みを構築することができます。

重要なことは、中国の核の脅威に対する簡単な解決策はないということです。しかし、この問題についてオープンで誠実な議論を行うことで、日本はこの脅威に対処するための包括的な戦略を策定することができます。

核に関する論議は、日本を本気で守ろうとした場合避けて通ることはできません。

【関連記事】

「総理、逃げるのですか?」 首相、終了後も追加質問応じる―【私の論評】ウクライナの現実も反映し核廃絶に向けて動いた「広島ビジョン」は日本外交の大成果(゚д゚)!

0 件のコメント:

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣―【私の論評】岩屋外務大臣の賄賂疑惑が日本に与える影響と重要性が増した企業の自立したリスク管理

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣 渡邉哲也(作家・経済評論家) まとめ 米国司法省は500ドットコムと元CEOを起訴し、両者が有罪答弁を行い司法取引を結んだ。 日本側では5名が資金を受け取ったが、立件されたのは秋本司被告のみで、他...