2023年6月14日水曜日

ウクライナ、反攻で「破滅的」損失 プーチン氏―【私の論評】今回の反転攻勢が成功すると、2~3年以内に占領された土地を奪還できるかも!戦争はまだ続く(゚д゚)!

 ウクライナ、反攻で「破滅的」損失 プーチン氏


 ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は13日、同国の侵攻を受けるウクライナが開始した反転攻勢について、ウクライナ側は多大な損失を強いられており、死傷者数はロシア側の10倍に上るとの見方を示した。 

 首都モスクワの大統領府で、ウクライナ侵攻について報じている記者やブロガーと懇談したプーチン氏は、「彼ら(ウクライナ)の損耗人員は破滅的と形容できる水準に近づいている」と主張。「われわれの損耗はウクライナ軍の10分の1だ」と述べた。 

 プーチン氏の発言が事実かどうかは検証できていない。

【私の論評】今回の反転攻勢が成功すると、2~3年以内に占領された土地を奪還できるかも!戦争はまだ続く(゚д゚)!

ウクライナでは、ダム決壊から1週間が経過しました 。 「 反転攻勢が本格化か 」 などと言われていますし 、 ありとあらゆる情報が 、 「 始まっている 」 ことを指し示しています 。 相当激しい戦いが展開している模様です 。

ダムの破壊は 、 第二次世界大戦のときも似たような出来事があり 、 旧ソ連がダム破壊を実行しました 。 このようなことは、戦争の際にはよく起きることですが、 無論明確な国際法違反です。

当時もソ連は 「 ナチスの進軍を止めるため 」 に行いました 。 今ロシアはウクライナをナチスに見立てています 。 さもありなんという感じがします 。

いまのところ 、 どちらが実行したのか明確な証拠はありませんが 、 ノルウェーの地震計でも大規模な爆発が検出されていますし 、 米軍の早期警戒衛星も赤外線で爆発を捉えています 。

状況証拠を見て 「 どちらが得したか 」 を考えると 、 「 ロシアなのでは ? 」 とは考えるほうが妥当であると考えられます 。

ダムなどの大きな構造物を破壊するためには、かなり大きな爆発を起こす必要があり 、 多数の爆薬を仕掛ける必要があります 。 多数の爆薬を仕掛けられるのはダムを管理している方ですから 、 いまとなっては 、 やはりロシアが仕掛けたと考えるのが妥当です 。

ダム決壊で発生した水害

ドニエプル川の下流では浸水被害が広がっています 。 ダム破壊による反転攻勢への影響はどの程度のものなのでしょうか 。 まず 、 ウクライナ軍がドニエプル川を渡れなくなったことがポイントです 。 ウクライナ軍が川を渡る作戦を準備したとすれば 、 それができなくなっているので 、 大きな影響があるかもしれません 。

ただし 、 準備をしていなければ 、 実はウクライナ側にとってはさほど大きな変化はないでしょう 。

ロシア側からすれば 、 ウクライナ軍が川を渡る可能性を考えないわけにはいかないです 。 この洪水によって可能性がなくなれば 、 「 洪水の間は攻めてこられない 」 と考えられ 、 ロシア側の作戦が単純になるというメリットがあります 。

しかし 、 洪水はもう引き始めています 。 決壊から約2週間後の6月21日ぐらいになれば 、 川は渡れるようになります 。 もしウクライナ軍が川を渡る作戦をあらかじめ準備していたのであれば 、 その時期には作戦を実行できるでしょう 。 そのためダムの決壊による戦況に及ぼす影響は 、 いずれにせよ一時的なものにすぎません 。

日本の新聞各社は 、 ウクライナ軍が 「 上流域を渡る形で攻めていこうとしている 」 という報道しています 。 現在の戦いは 、 お互いがお互いを攻め合っているのではなく 、 ロシア側は陣地をつくって待ち受け 、 ウクライナ側がそこに向かって攻め込んでいるような形式になっています 。最前線の陣地では 、 激しい戦いになっていることでしょう 。

無論いまのところ 、 最初の陣地だけですが 、 一部ではウクライナが突破しつつあり 、 一部ではロシア側が意図的に撤退したという形なので 、 まだ今後の戦況がどうなるかはわかりません。

地図によれは、 東部ドンバスから南部クリミアまで 、 三日月状にロシアが支配している状況です 。 ウクライナ軍としては、その真ん中ぐらいで支配地域を断ち切ってしまいたいのです 。 ある程度の幅を持って断ち切ることで 、 ロシアを東部と南部に分断するのがウクライナ軍の狙いであると考えられます 。

ウクライナには 、 ここまで半年ぐらい 、 西側から戦車などさまざまな兵器の支援がありました 。 ウクライナ軍は 、ロシア軍が待ち受けている陣地から、攻撃を受けながら戦車で突破しようと試みているとみられます。

おそらくロシア軍の陣地の前には地雷があるので 、地雷を避けて通れる道を確保しようとしているのでしょう。 そうなると 、 道は当然細くなります 。 その細い道を突破しようとして 、 何両かの戦車が撃破されているのがテレビ映像に映し出されていました( 写真下) 。


損害としては大きいと思いますが 、 戦えば損害は出るものです 。 通常 、 日本海海戦のような完璧一方的な大勝利はありません 。 損害が出るのはやむを得ないところがあります。 

ウクライナの反転攻勢は最低で1ヵ月 、夏まで続く可能性もあります 。 フランスの 「 マクロン大統領が長期化を示唆 」 していますが、おそらくその通りになるでしょう。

陸上戦闘においては 、 最後は人間である歩兵が地面を歩くので 、 例えば戦場の奥行きが100キロあると 、 2日 ~ 3日で終わることはありません 。 目安としては最低1ヵ月です 。 もしかすると夏ぐらいまでは続く可能性があります 。

ウクライナ経済に関しては 、 洪水が起きたことで穀倉地帯に影響があり 、 灌漑施設が破壊されたといううわさもあり、 穀物価格にも影響がでそうです 。

そもそも 、 水がなければ 、灌漑ができないです 。 ダムがあったから灌漑できるわけで 、 ダムがなくなってしまったのですから 、水が全部流れてしまい灌漑ができません 。

小麦価格の先物は既に上がっています 。 戦争開始の直後は急激に上がりましたが 、その後ウクラライナが輸出できるように取り決めができて 、 徐々に下がってきたのですが 、「 また前の状態に戻ってしまった 」 という見方により、値上がりしています 。

これには 、 トルコの仲介で 、黒海を通してウクライナ産の穀物輸出が一部できるように 「 なる 、ならない 」 という話もありました 。 こういうことに小麦相場は 、 過敏に反応します 。

市場が 「 灌漑用水がうまくいかない 」 と判断してしまうと 、 先物相場などはすぐに上がってしまいます 。

さて 、 ダム破壊の戦争犯罪に関して言うと 、 国際刑事裁判所の代表者らが水浸しになった地域に入りました 。 ロシアは 「 安全を保証しない 」 と言っていますが 、 こうした捜査の積み重ねは重要です。

これまでもロシア軍の100件以上 の 戦争犯罪が立件されていますが 、誰を訴追するのかというと 、国際刑事裁判所は 、 国ではなく個々人を訴追します 。 プーチン大統領は、子どもの連れ去りで訴追されていますが 、今回のダム破壊に関して、個人レベルまで落とせる証拠が集まるかどうかは別の問題です 。

誰が命令したかなどが重要になります 。 ただ 、 ダム結界被害については 、まず事実を確認するという方向なのでしょう 。 別の証拠により 、誰が命令の責任者なのかがわかれば訴追できるでしょう 。

ウクライナ戦争では 、 様々な情報が乱れ飛んでおり 、「 ロシア国内で仲間割れが起こっているのではないか 」 というようなニュースが流れ 、 フェイクではないかと言う専門家もいます。 「 ワグネルの要員を殺す命令を出した 」 というような情報も出ていますが 、 これはフェイクニュースだと思います 。

たとえば 、5月上旬にワグネルのプリゴジン氏がバフムトから撤退すると言いましたが 、 結局、 そのときは撤退していませんでした 。

今回のケースで言うと 、ロシアとしては 、 ワグネルを強制的に連邦軍に編入させたいのでしょうが 、これはプリゴジン氏が反対しています 。 そんなことから  「 そんなことをしたら射殺するぞ 」 というようなフェイクニュースにつながったのだと思います 。

全般的にワグネルと軍の勢力争いのような状況なので 、 それはそれとして織り込み済みではありませんが 、 以前からずっと起こっていることではあります 。

一方 、 先月 ( 5月 ) にあったモスクワへのドローン攻撃の影響が出ています 。 実はドローンがエリート層のマンションに着弾しているのです 。

ドローンを飛ばすウクライナ兵

それによって 、 これまで漠然とプーチン氏を支持し 、 戦争など他人事だと思っていた層のなかに 、「 この戦争は本当に大丈夫なのか ? 」 という考えが広がってきたという報道が出ています 。

報道などを見ると 、 ロシア国民は戦争そのものよりも 、「 自分も動員されるのではないか 」 ということを恐れているということもあるようです 。

自分が動員されない限り 、 基本的には戦争は他人事なのです 。 それが自分ごとになりそうになったのが 、 去年 ( 2022年 ) 9月の動員令がだされたときです 。 このとき多くの国民が動揺したのと 、 動員したとしても武器弾薬が不足しているとみられ 、 プーチン大統領としては 、 少なくとも来年 ( 2024年 ) の選挙までは追加動員できないと考えられます 。

多くのロシア国民も 、 当事者意識 、「 戦争の近さ 」 を感じるようになると 、 動揺するのではないでしょうか 。

他方 、 国際社会は経済制裁を行っているわけですが 、 制裁逃れ 、 あるいは裏で原油の取引を行っているという話も出ています 。

ロシアへの制裁は 、 何もしないよりは効いているのは確かです 。 どのような制裁も 、 そうですが 、 100%完璧に効く制裁はありません 。 さらに 、 制裁に参加している国は 、 主に西側の先進国です 。 制裁に参加しない国もあります 。

だから 、 ロシアが西側諸国の制裁を迂回することは可能です 。 ただし 、「 普通とは違う 」 という意味で 、 制裁は効いているのです 。 実際に西側先進国とロシアの取引は完全に遮断されています 。

実際 、ルーブルの取引はほとんどできないわけです 。 そういう意味では 、 誰も宣言しないから破綻には見えませんが 、 相当ダメージがあり 、 実際には破綻していると言っても良い状況です 。

今後の見通しとしては 、 今回の反転攻勢によりロシアの占領地の分断に成功すれば 、かなり有利になります 。

ただ 、分断すると 、今度は突破した部分が挟み撃ちに遭うので 、逆にウクライナ側は挟み撃ちから守りきる陣地をつくらなければなりません 。

これを秋冬の地面がぬかるむ時期にまでに できれば 、 分断されたロシア軍の弱い方を来年 ( 2024年 ) 攻めることになるでしょう 。 つまり 、 ドンバス地方かクリミアのどちらか弱い方を攻めて 、 再来年にもう片方残った方を攻める形になるでしょう 。

今回の反転攻勢が成功すると 、 2 ~ 3年以内には占領された土地を奪還できるかも知れないです 。 無論奪還しても戦争が終わるとは限りませんが 、 少なくとも見通しは立ちます 。

一方で反転攻勢に失敗し 、 投入された12旅団が磨り潰されるようなことになると 、 組織的な反転攻勢は今後 、 難しくなります 。 そうなると5年以上 、 下手をすると10年ぐらい膠着状態が続くかもしれません。いずれにせよ、現在の反転攻勢が成功したとしても、すぐに戦争が終わるとはみるべきではないです。

ウクライナ軍は、これまでは主に防衛行動をしてきたわけですが、今回からははじめの大反攻であり、攻撃を仕掛ける側に回ったので、当初は失敗することともあるでしょう。それでもロシア軍よりは、その失敗を糧に、スムーズに攻撃できるようになるでしょう。

なぜなら、ロシア軍と、ウクライナ軍には根本的な違いがあるからです。ロシア軍は政治的目的や目標を達成するために動員されたが、ウクライナ軍は純粋に軍事目的を達成するために動員されています。

軍事行動において、軍事目標よりも政治目標が優先されると、軍事的には不利なことや不可解なことが、頻繁に起こってしまいます。

そもそも、プーチンのウクライナ侵攻は、ゼレンスキーを追い出し、ロシアに傀儡政権をつくだすことが目標であったとみられます。

この政治目標を実行するために、ウクライナの東では陽動作戦を行い、キーウに侵攻してこれを攻め落とす構えを見せれば、ゼレンスキーは海外逃亡をするだろうから、ゼレンスキーが逃亡した後に、ロシア軍はキーウに入り、無血占領できるとプーチンは目論んでいたのでしょう。

この政治目標を達成するには、数週間ですむとプーチンは考えたのでしょう。

しかし、軍事的に判断すれば、戦争には常に予想できないことが起きるのが普通であるどころか、それが常態であるので、このべストシナリオがうまくいかない場合にも備えて、A案だけではなく、B案、C案も備えるのが普通です。

しかし、プーチンはそれを用意していないようでした。ロシア軍は、それに備えたかったのだとは思いますが、プーチンの政治目標は絶対だったので、従うしかなかったのでしょう。

B案、C案まで備える(形はどうであれ、もっと長期戦になるという複数案)ということになれば、弾薬などをはじめとする兵站が続かなくなるのは、目に見えていたでしょう。結論は、はっきりしていたのです。政治目標を達成するか、否かしかなかったのでしょう。

妥当な案としては、ロシアがウクライナに侵攻するのではなく、侵攻の構えをみせつつ、貿易や投資を遮断したり、エネルギー輸出の価格を引き上げたり、偽情報やプロパガンダを用いて、ウクライナの住民の間に不和や不信感を植え付ける等の措置を取るなどのことが考えられます。

これに加えて、ロシアのメディア、教育、スポーツを利用を利用して文化的影響力を行使することもできます。

これらの手段を手を変え品を変え、実行し、軍事的には東側だけに限定し、それもロシアに親和的な勢力を利用しつつ、ゆっくりと支配地域を増やすなどを実行し、ゼレンスキーを弱体化させて、ウクライナに親露派を増やしていき、最後の詰めの段階で、たとえばゼレンスキーを捉える等のときに軍事力を限定的に行使するなどのやりかたが、ロシアが本来実施すべきことだったと思います。

実際、ロシアはこれに近いことをウクライナ対して長年行ってきました。これをさらに継続し、さらに精緻化させるべきでした。

このようなことは、あと付けてでは何とでもいえると思われるかもしれませんが、ロシアの経済力(開戦前でもインドや人口がロシアの1/3の韓国より下)を考えれば、軍事力を行使しウクライナに侵攻したのは、身の丈知らずの無謀な試みであったと言わざるを得ません。

ウクライナ軍は、ロシア軍のように政治的目的を実行する責務を負っているわけではないので、軍事的に正しい行動を取れます。反攻においても、軍事的に妥当な行動がとれるので、当初はある程度犠牲を出しつつも有利に戦いをすすめやすいのは間違いないです。

無論ウクライナにも政治目標はあるでしょう。しかし、軍事作戦においては、政治目標より軍事目標が優先されているようです。すくなくとも、ロシアよりは、軍事目標が優先されているとはいえるると思います。

ただ、先に述べたように、今回の反転攻勢が成功したとしても、すぐに戦争が終わるわけではありません。 2 ~ 3年以内には占領された土地を奪還できるかも知れないくらいのことはいえますか、 無論奪還しても戦争が終わるとは限りません。

気の短い人は、この現状にいらつくかもしれませんが、しかし、そんなことでは何も成就できません。目の前に、それで大失敗した人がいるではありませんか。それが、他ならぬプーチンその人です。

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