2024年2月24日土曜日

「積極財政派」は力を持てるのか 大きすぎる安倍元首相の不在 財務省が音頭とる緊縮派との議論、衆院選の公約に影響も―【私の論評】経済は生き物、社会的割引率等を柔軟に見直さないととんでもないことに

高橋洋一「日本の解き方」
「積極財政派」は力を持てるのか 大きすぎる安倍元首相の不在 財務省が音頭とる緊縮派との議論、衆院選の公約に影響も

まとめ
  • 安倍晋三元首相の積極的な財政出動を主張する立場が自民党内で影響力を失いつつある。
  • 財務省は長年にわたり、公共投資の無駄性を印象付け、社会的割引率の高止まりを許してきた。これにより積極財政の芽を摘んできた。
  • 財務省は「クラウディングアウト論」「マンデル・フレミング効果」といった理論を根拠に、公共投資に反対してきた。
  • しかし、十分な金融緩和があれば、これらの理論は当てはまらず、公共投資はGDPを増加させる可能性がある。
  • 財務省の主張に対して適切に反論するには、金融政策の知識が不可欠である。緊縮財政と金融引き締めの結果、日本のGDP伸び率は主要国に大きく遅れを取った。
安倍晋三元首相

 「政治とカネ」の問題において、自民党安倍派(清和政策研究会)が解散し、「積極財政派」の存在感が薄れていることが懸念されている。安倍晋三元首相は、積極財政を主張する人々が多い中で、金融政策も理解してバランス良く発言する偉大な存在だった。

 財務省は積極財政に対する反論を準備してきた。その一つは、公共投資が「無駄な投資」という印象を与えることだ。この印象操作により、民主党政権時代には「コンクリートから人へ」というスローガンが生まれた。

 学会では、この動きに反発する者もいたが、公共投資を正当化するために合理的で定量的なコスト・ベネフィット論を否定しつつ、筋違いの動きとなった。その結果、本来であれば定期的に見直されるべき「社会的割引率」が見直されなかった。

 財務省は社会的割引率を「4%」と暗に支持し、低金利にもかかわらず長期にわたって高い社会的割引率を維持し、積極財政の芽を摘んだ。

 もう一つの柱は、「公共投資が出ると民間投資が引っ込む」というロジックです。この「クラウディングアウト論」によれば、公共投資が増えると資金需要が逼迫して金利が上昇し、民間投資が減少するとされている。

 金融政策を一定とした場合、公共投資増は為替高となり、輸出減をもたらすという「マンデル・フレミング効果」もあるが、十分な金融緩和があれば、公共投資は国内総生産(GDP)を増大させることができる。

 緊縮財政と金融引き締めの結果、デフレと政府の過少投資が響いて、日本の名目GDPはこの30年間伸び悩んでいる。もしデフレにならず、政府投資が適切だったなら、日本の伸びは2・8となり、先進7カ国(G7)中5位だったはずだ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】経済は生き物、社会的割引率等を柔軟に見直さないととんでもないことに

まとめ

  • 社会的割引率は将来の費用と便益を現在の価値に割り引く際の割合である。高すぎると将来の影響を過小評価し、環境保護や世代間の公平性を損なう。
  • 日本では1990年代半ば頃からデフレが続いているにもかかわらず、社会的割引率が4%前後で据え置かれているのは異常である。現状に合わせてもっと低い率が適切である。
  • 経済は常に変化しており、一度決めた政策を長期間維持すると悪影響が出る可能性がある。1990年代のデフレは金融引き締め政策の継続が一因とされる。
  • 経済状況に応じて柔軟に政策を変更する必要がある。景気拡大期には引き締め、後退期には緩和を行うなど、様々な政策を組み合わせることが重要である。
  • 政策の効果にはタイムラグもあるため、過去の反省を踏まえ、現状に合った適切な政策運営が求められる。経済は生き物のように柔軟に対応すべきである。
上の記事にでてくる、社会的割引率とは、将来の費用と便益を現在の価値に割り引く際に使用される割引率のことをいいます。公共事業の費用対効果分析などで活用されます。

身近なものに例えると、たとえば利子率があげられます。お金を借りるときに発生する利子は、将来返済するお金の価値を現在価値に換算するための割引率と考えることができます。利子率が高いほど、将来のお金は現在価値が低くなります。

社会的利子率が低いことで引き起こされる将来の惨禍

一般に、私たち人間は、現在の1円の価値は将来の1円より高いと判断する傾向があります。これを時間選好と呼びます。時間選好が存在するため、将来の費用や便益をそのまま現在の価値とみなすことはできません。

社会的割引率は、この時間選好を反映して、将来の費用や便益を現在の価値に割り引く際の割合を示します。

現在価値 = 将来価値 / (1 + 割引率)^年数

例えば、社会的割引率が5%だとすると、10年後の100円の便益は、現在の価値で約62円(100÷(1.05)^10)と評価されます。

社会的割引率の設定は重要な政策判断であり、環境保護や将来世代への影響など、様々な要素を考慮する必要があります。先進国では一般に3~7%程度の値が使われていますが、国や目的によって異なります。適切な社会的割引率の設定は、公平性や持続可能性の観点から議論が重ねられています。

社会的割引率を高く設定しすぎると、以下のような弊害が生じる可能性があります。

1.将来の費用や便益を過小評価してしまう 
高い割引率を使うと、将来の費用や便益の現在価値が小さく見積もられてしまいます。その結果、長期的な影響を過小評価し、短期的な利益を過度に重視してしまう恐れがあります。
2.環境保護や将来世代への配慮が不十分になる
 割引率が高すぎると、遠い将来の費用や便益がほとんど現在価値がないと判断されてしまいます。そのため、長期的な環境問題への対応や、将来世代への影響を軽視する恐れがあります。
3.公平性が損なわれる 
高い割引率は現在の世代を将来の世代より優遇することになり、世代間の公平性を損なう可能性があります。
4.持続可能な投資が不利になる 
高い割引率のもとでは、短期的なリターンが高い投資が有利になります。一方、長期的なリターンが期待できる持続可能なインフラ整備などの投資が不利になりがちです。
このように、社会的割引率が極端に高すぎると、短期的な利益重視につながり、将来の世代や環境への配慮が不十分になる恐れがあります。現在の日本は、まさしくこのような状況にあります。適切な水準を設定することが重要です。

日本で社会的割引率を4%とした具体的な時期は明確ではありませんが、おおよその経緯は以下の通りです。

1960年代後半頃から、公共事業の事業評価の手法として費用便益分析が本格的に導入されるようになりました。当初は各省庁が独自の社会的割引率を設定していましたが、1970年代半ばから8%前後の高い水準が一般的でした。
  • 1990年代に入ると、環境問題への意識の高まりなどから、従来の8%程度の割引率が高すぎるのではないかという議論が高まりました。
  • 1998年、内閣府が「経済財政計画の基本方針」の中で、社会的割引率について「4%程度が適当」という見解を示しました。
  • これを受けて、公共事業の費用便益分析において、4%が標準的な社会的割引率として広く用いられるようになりました。
ただし、費用便益分析の手法自体は各省庁で多様であり、社会的割引率についても省庁間で若干の差異があると言われています。完全に4%に統一されているわけではありません。

日本は、1990年代半ばよりデフレの状態が続いています。

企業物価指数では1991年11月以降、GDPデフレーターでは1994年第4半期以降、消費者物価指数では1998年9月以降デフレとなりました。

1997年に消費税が3%から5%に引き上げられたことにより、日本の消費者物価指数がマイナスとなり、デフレの様相を呈するようになりました。

消費者物価指数(CPI)を見ると、下落率は毎年1%前後で、最も下落率の激しい時期でも2%程度にとどまっています。

日本経済は、1990年代初以降、20年にもおよぶ経済の低成長を経験してきました。その背景には、バブル崩壊以降の需要の弱さ、また生産年齢人口の減少や生産性の伸び悩みといった供給力の低下が挙げられます。

日本では1998年以降さらにデフレが進行しました。にもかかわらず、現在に至るまで社会的割引率が変わらなかったというのは異常なことであるといえます。社会的割引率を説明する際に、利子率を例としてだしましたが、現状で銀行の利子率は0%に近いです。社会的利子率が4%台であることは、異常だといわざるをえません。もっと低くてしかるべきです。

クラウディングアウト論は、政府の財政政策が民間経済活動に与える影響について説明する経済理論です。具体的には、政府が財政出動を行うと、資金需要が増加し、金利が上昇します。金利上昇は、民間企業の投資活動を抑制し、経済全体の成長を阻害する可能性があります。

マンデル・フレミング効果は、財政政策と金融政策が為替レートと経済成長に与える影響について説明する経済理論です。固定為替レート制度下では、財政出動による資金需要増加は、金利上昇と通貨高を招きます。通貨高は、輸出企業の競争力を低下させ、経済成長を抑制する可能性があります。

ただ日本では、現状では、日本は金融緩和を実行している状況であり、需給ギャップがある現場では、それを埋めるためにも、金融緩和を継続しなければならない状況にあります。であれば、政府が財政出動を大規模に行ったとしても、さほど問題はないどころか、現状ではこれを行うべきです。

経済は生き物のように常に変化しており、景気拡大、景気後退、デフレ、インフレなど、様々な状況を経験します。それぞれの状況に合わせて、適切な政策を実施することが重要です。

バブル景気で沸く東京都心部 AI生成画像

過去の例を見ても、一度決めた政策を長期間にわたって維持し、経済に悪影響を与えた例があります。例えば、1990年代の日本のバブル経済崩壊後の長期的なデフレ経済は、金融引き締め政策の継続が原因の一つとされています。

経済状況は常に変化するため、政策も柔軟に変化させる必要があります。状況に合わせて、財政政策、金融政策、構造改革など、様々な政策を組み合わせることが重要です。

景気拡大期には、財政引き締めや金融引き締めを行い、インフレ抑制に努める必要があります。一方、景気後退期には、財政出動や金融緩和を行い、景気回復を促進する必要があります。

ただし、好況、不況という景気変動は正常であり、これを人為的に無理にいつも好況にしようなどの試みすべきではありません。これをやり続けたのが中国であり、その結果どうなったか、結果そのものは、多くの人が認識できる状況になっています。しかし急激なインフレ、デフレこれはどんな場合でも、すぐに対処すべきです。

急激なインフは誰の目からみてもあきらかになるので、これを放置することはありえませんが、デフレは、徐々に一般物価が下がり年単位では誤差くらいにしかみえない場合が多いので、この弊害に気づく人は少ないです。

デフレで困窮する人々 AI生成画像

だからこそ、デフレが長い間放置されてきた面があることは否めません。しかしデフレは、明らかに異常であり、これは必ず対処しなければならない、重要な経済の病気です。経済政策の効果は、経済状況や政策の内容などによって異なります。また、政策の実施には時間がかかる場合もあるため、すぐに効果が出るわけではありません。特に金融政策や雇用はそうです。すぐに効果がでないからといってやめては、意味がありません。また、十分効果がでたから、やめてしまうことも危険な場合があります。

また、雇用政策≒金融政策であることを知らない人が日本では多いようです。これは、経験則で昔から知られていることですが、日本だ金融緩和をしてインフレ率が2%もあがれば、その他何をしなくても、百万単位で雇用が創造されます。これは、マクロ経済上の常識です。

過去の政策の反省を踏まえ、状況に合わせて様々な政策を組み合わせることが重要です。経済は生き物であり、柔軟な政策運営が求められます。そのことを多くの政治家が理解すべきです。そうでないと、財務管官僚が日本経済を無視して、緊縮に、日銀が金融引き締めに走ったとしても、それを認識することすらできないことになります。

実際平成年間のほとんどは、そうだったので、日本はデフレに陥り、その結果政権は安定しなかったのです。経済的に安定は、政権の安定にとっても重要なのです。


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