2024年8月3日土曜日

経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか―【私の論評】日米の経済安全保障政策:戦争経済への移行と国際的協力の重要性

経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか

ミレヤ・ソリ-ス  ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター(CEAP)所長

まとめ

  • 経済安全保障政策が台頭しており、技術力向上や過度な依存、サプライチェーン崩壊リスクに備えるため、米国と日本が新たな対外経済政策ツールを開発している。
  • 米国の外交政策は「経済安全保障は国家安全保障」という原則に基づき、中国との戦略的競争が深化していることが背景にある。
  • 米中間の競争は多次元的で、特に技術分野においてどちらが優位に立つかが焦点となっており、経済的手段が重要な役割を果たしている。
  • 米国は、外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上を図るための新たな取り組みを進めている。
  • バイデン政権は、同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進している。

経済安全保障

経済安全保障政策は、技術力を向上させることや過度な依存、サプライチェーンの崩壊リスクに備えるために重要な役割を果たしている。特に、アジアや欧州の各国政府は、地政学的対立が続く中で経済的相互依存の利点を最大限に活用し、デメリットを最小限に抑えるための新しい対外経済政策ツールを開発している。米国と日本は、この経済安全保障の枠組みを導入しつつあり、その背景には中国との戦略的競争の深化がある。両国は、技術革新を活用し、貿易や技術に関するルールを整備することで、中国がもたらす課題に対処する目的を共有している。

米国の外交政策は、経済と安全保障の融合が進んでいる。これは、トランプ政権とバイデン政権の両方で「経済安全保障は国家安全保障」という考えが中心に据えられていることに起因している。特に、米中関係の悪化や中国の軍民融合政策への懸念が、米国の経済安全保障政策を強化する要因となっている。米国は、経済的相互依存の中でライバル関係を管理する難しさを認識しつつ、同盟国との協力を強化している。

具体的な政策としては、外国直接投資(FDI)の審査強化や輸出管理の改革が進められている。2018年に制定された外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)により、重要技術やインフラに関わる外国投資の審査が強化され、バイデン政権下では国家安全保障上のリスク評価に関する具体的な指針が示された。また、輸出管理改革法により、デュアルユース製品のライセンス要件が見直され、中国企業に対する規制が強化されている。

さらに、バイデン政権は半導体や重要鉱物のサプライチェーンの見直しを行い、国内投資を促進するための施策を講じている。特に、2022年に成立した「CHIPSおよび科学法」では、米国でのチップ製造を促進するための資金が割り当てられ、同時に中国などの懸念国での事業拡大が制限されることとなった。

このように、米国と日本は経済安全保障政策を通じて、中国との競争に立ち向かうための協力を深めており、経済的関与とヘッジのバランスを取ることが求められている。新たに設置された日米の経済版「2+2」は、これらの分野での協調を優先し、今後の国際的な経済安全保障の枠組みを形成する上で重要な役割を果たすことが期待されている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日米の経済安全保障政策:戦争経済への移行と国際的協力の重要性

まとめ
  • 経済安全保障政策の強化:米国と日本は、技術力向上や過度な依存、サプライチェーン崩壊リスクに備えるため、経済安全保障政策を強化している。
  • 米中戦略競争:米国は、中国との戦略的競争が深化している背景から、外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上に向けた新たな取り組みを進めている。
  • 同盟国との協調:バイデン政権は同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進している。
  • 日米経済安全保障協力の深化:トランプ政権下でも日米の経済安全保障協力が促進されることになる。特に造船技術や半導体産業、エネルギー技術分野での協力がさらに進展するだろう。
  • 戦争経済への移行:世界情勢の変化により、多くの国々が戦争経済に近い経済体制に移行しつつあり、これが国益を守るための必要不可欠な選択肢となっている。
上のミレヤ・ソリ-ス氏の論文にもある通り、米国と日本は、技術力向上や過度な依存、サプライチェーンの崩壊リスクに備えるために経済安全保障政策を強化している。特に、中国との戦略的競争が深化している背景から、米国は外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上に向けた新たな取り組みを進めている。

同時に、バイデン政権は同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進しています。

トランプ政権になれば、さらに日米の経済安保で協力関係は促進されることになるでしょう。これは、世界情勢の変化と米国の戦略的目標を反映しており、日米関係の新たな段階を示唆しています。特に注目すべきは、トランプ氏の「大海軍主義」的姿勢と、それに伴う日本の造船技術と能力への期待です。

米戦艦上で演説するトランプ大統領

さらに、F35戦闘機の部品に中国製部品があることが発見され、一時製造停止になっている問題に象徴されるように、半導体産業における日米協力の深化、エネルギー技術分野での協力強化など、様々な分野で日米の経済安全保障協力が進展しています。これらの動きは、従来の平和時経済から「戦争経済」に近づく傾向を示しています。

戦争経済とは、戦争中または戦争準備中の国家が、軍事目的のために経済資源を動員し、経済活動を戦争遂行に適応させることを指します。戦争経済の特徴としては、資源の動員、政府の介入、産業の再編、財政政策の変更、そして国民生活への影響が挙げられます。

具体的には、人材や資材、資金が軍事活動に集中され、政府が経済活動を直接管理し、民需産業が軍需産業に転換されます。また、戦争資金を調達するために増税や国債の発行が行われ、消費財の不足や生活必需品の配給制が敷かれることもあります。

戦争経済は、国家の全体的な経済活動を戦争目的に適応させるための包括的な取り組みを意味し、その結果、平時とは異なる経済構造と政策が展開されます。ウクライナ戦争の継続や、ガザ地区の戦闘の継続、さらには紅海でのフーシ派の活動、中国の海洋進出、台湾の危機など世界は平時とは異なる状況にあり、多くの国々で戦争経済への移行が促される状況にあります。

ただ、ロシアやウクライナなどを例外として、実際には多くの国々が戦争をしているわけではないので、完璧に戦争経済に移行することはないですが、それでも平時とは異なる戦争経済に近い経済体制に移行しつつあります。

米ペンシルベニア州スクラントンの工場で、155ミリ砲弾の筒を機械で加工する作業員ら

「戦争経済」への移行は、単にネガティブな側面だけでなく、現代の国際情勢において国益を守るための必要不可欠な選択肢となりつつあります。以下の要因がこの傾向を加速させています。
1. 地政学的リスクの増大:中国の台頭やロシアの行動など、国際秩序の不安定化が進んでおり、各国は自国の安全保障を最優先せざるを得ない状況にあります。

2. 技術覇権競争の激化:AI、量子コンピューティング、宇宙開発など、先端技術の分野で国家間の競争が激化しており、これらの技術は経済的利益だけでなく、国家安全保障にも直結しています。

3. サプライチェーンの脆弱性:COVID-19パンデミックや半導体不足など、グローバルサプライチェーンの脆弱性が露呈し、重要物資の国内生産や同盟国との協力の重要性が再認識されています。

4. 経済的相互依存の武器化:経済制裁や貿易規制が外交・安全保障政策の手段として頻繁に使用されるようになり、経済と安全保障の境界が曖昧になっています。

5. 非伝統的脅威の増大:サイバー攻撃、気候変動、パンデミックなど、従来の軍事的脅威とは異なる新たな脅威が増大しており、これらに対処するためには経済と安全保障を一体的に考える必要があります。
このような状況下で、日本が国益を守りつつ国際社会で影響力を維持・拡大するためには、経済安全保障の観点から戦略的に行動することが不可欠となっています。日米の経済安全保障協力の深化は、このような文脈で理解する必要があります。

この協力関係は、日本にとって多くの利点をもたらす可能性があります。高度な技術力や製造能力の再評価、新たな市場や事業機会の創出、安全保障の強化、グローバルな課題に対する影響力の増大などが期待されます。

一方で、特定の国との関係悪化や国際的な緊張の高まり、平和主義的立場への影響など、潜在的なリスクも存在します。しかし、これらのリスクを慎重に管理しつつ、変化する国際情勢に適応することが、日本の国益を守る上で重要となっています。

海自の観艦式

結論として、日米の経済安全保障協力と「戦争経済」への移行は、現代の国際情勢において日本が自国の利益を守りつつ、国際社会に貢献するための重要な手段となっています。この変化は、単に軍事的な観点だけでなく、技術革新、経済成長、国際的影響力の強化など、多面的な効果をもたらす可能性があります。

日本は、この新たな国際環境において、自国の価値観や原則を堅持しつつ、柔軟かつ戦略的に行動することが求められています。経済と安全保障を一体的に捉え、同盟国との協力を深めつつ、グローバルな課題解決にも貢献していくことで、日本は国際社会における自国の地位を向上させ、国益を最大化する機会を得ることができるでしょう。

このアプローチは、従来の平和主義的立場と完全に矛盾するものではなく、むしろ変化する世界において平和を維持し、日本の安全と繁栄を確保するための現実的な選択肢として捉えるべきです。日本が直面する課題と機会を冷静に分析し、バランスの取れた政策を追求することが、今後の日本の国際的地位と国内の発展にとって極めて重要となるでしょう。

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