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2019年3月25日月曜日

安倍首相、中国の一帯一路協力に4つの条件 「全面賛成ではない」―【私の論評】日本には中国および習近平政権の今後の行方を左右するほどの潜在能力がある(゚д゚)!

安倍首相、中国の一帯一路協力に4つの条件 「全面賛成ではない」

参院予算委員会で答弁を行う安倍晋三首相。右は麻生太郎副総理兼財務相、
左奥は根本匠厚生労働相=25日午後

 安倍晋三首相は25日の参院予算委員会で、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に日本が協力するには、適正融資による対象国の財政健全性やプロジェクトの開放性、透明性、経済性の4条件を満たす必要があるとの認識を示した。「(4条件を)取り入れているのであれば、協力していこうということだ。全面的に賛成ではない」と述べた。

 一帯一路では、対象国に対する中国の過剰融資が国際的に問題視されている。首相は「(対象国に)経済力以上に貸し込むと、その国の経済の健全性が失われてしまう」と指摘。

 首相は「アジアのインフラ需要に日本と中国が協力して応えていくことは両国の経済発展にとどまらず、アジアの人々の反映に大きく貢献をしていくことになる。(4条件)をやっていくことで、お互いより良い地域を作っていこうということだ」と語った。

【私の論評】日本には中国および習近平政権の今後の行方を左右するほどの潜在能力がある(゚д゚)!

安倍総理が、条件づきで一帯一路への協力の可能性を述べたのは、何も今に始まったことではありません。以前から何度か述べています。

たとえば2017年都内で行われた国際交流会議の席上、安倍総理は中国の経済構想「一帯一路」に初めて協力の意向を表明しています。これを受け一部メディアはあたかも日本が中国に屈したかのように報じるなど、「中国の優位性」が強調され始めました。

安倍首相は同年6月5日に国際交流会議「アジアの未来」の夕食会で講演し、中国の経済圏構想「一帯一路」について、「(同構想が)国際社会の共通の考え方を十分に取り入れることで、環太平洋の自由で公正な経済圏に良質な形で融合し、地域と世界の平和と繁栄に貢献していくことを期待する。日本は、こうした観点からの協力をしたい」と述べました。

新聞各紙は、初めて安倍首相が「一帯一路」への協力を口にしたということをポイントとして強調しています。これだけ見ると、いよいよ日本も「一帯一路」に参加するかのような印象を与えました。

当時は、米国のTPP離脱で窮した安倍政権が、「一帯一路」に尻尾を振り始めたと見る向きもありました。しかし、その後日本は自らTPPの旗振り役となり、米国を除いた11カ国で昨年末に発効しています。

ただし、産経新聞は「安倍晋三首相、中国の『一帯一路』協力に透明性、公正性などが『条件』」という見出しで、中国が支援する国の返済能力を度外視して、インフラ整備のために巨費を投じることが問題化しつつあることを踏まえた発言だという内容となっています。むしろ中国を牽制する狙いがあるという論調です。私もそう思います。

本日の安倍総理による4条件①対象国の財政健全性、②プロジェクトの開放性、③透明性、④経済性も同じことであり、これは中国を牽制する狙いをより明確にしたものです。

中国が対外インフラ投資を利用して他国の土地を支配していることについては、このブログにも掲載したことがあります。


スリランカのコロンボにあるハンバントタ港は、中国からの融資でインフラ開発されましたが、6%を超える高利であるためスリランカ側の返済の目処がたたず、このハンバントタ港を中国企業に99年間貸与するという、「事実上の売却」に迫られました。

中国が主導するAIIBについては、これまでも麻生副総理をはじめとして、日本は透明性と公正性が重要だということを強調してきました。本日の安倍首相の発言も、「一帯一路」について、従来の政府の立場を踏襲したにすぎません。

よく語られるように、「一帯一路」と「AIIB」は中国が日米経済連携に対抗し、覇権を確立するための世界戦略です。しかし、中国中心の発想であり、自国のゾンビ企業の過剰生産と軍事拠点づくり、発展途上国の財政圧迫、そして資金不足で頓挫するプロジェクトが絶えないなど、さまざまな問題点が指摘されています。

最終的には日米主導の世界銀行やアジア開発銀行からの資金的協力が不可欠であり、外資頼りだった「改革開放」路線の延長としての「他力本願」であることは一目瞭然です。

同年5月14、15日に北京で開催された「一帯一路」国際会議では、米国が代表団を送り、安倍首相も二階俊博幹事長を特使として派遣して習近平主席に親書を渡しました。これに対して、人民日報は同年6月4日、「中日改善改善に日本は具体的行動を」という記事を掲載し、日中関係を改善したいなら、具体的な政策と行動を示せと、かなり上から目線で「命じて」いました。

記事では、文部科学省が「銃剣道」を中学「学習指導要領」に入れたことや、台湾と日本の交流窓口の名称を「亜東関係協会」から「台湾日本関係協会」に変更したことなどを挙げて、「日本は歴史問題で小細工を繰り返している」などと批判していました。

さらに、「日本は東中国海で緊張をつくり、南中国海問題に干渉し、朝鮮半島情勢を刺激してエスカレートさせている。こうした行動の背後には中国と主権・権益を争う私利があり、改憲・軍拡につなげる魂胆もある。中国は、地域の安全における消極的要素になってはならないと日本に警告する」とまで論じていました。東シナ海も南シナ海も、日本が緊張をもたらしているのだから、挑発をやめろと言ったわけです。

要するに、「一帯一路」に入りたいなら中国の言うことを聞け、ということをかなりあからさまに要求してきていたのです。これだけでも「一帯一路」に参加することは、日本の国益を犠牲にしなくてはならないことだということがわかりました。

ほとんど実績のない習近平

しかし、よく観察してみると、総書記になってから現在に至るまで、習近平にたいした実績はありません。経済成長率は年々減少していますし、南シナ海問題では米国に「航行の自由」作戦を行われてしまいました。ハーグの常設仲裁裁判所には中国が主張する南シナ海の領有権について「根拠なし」と言われてしまいました。

台湾では蔡英文政権が誕生してしまうし、北朝鮮も言うことを聞かないし、AIIBの起債も単独起債は未だ数件しかありません。

腐敗追及運動だけは、周永康を逮捕するなど進展がありましたが、中国官僚は誰もが腐敗していますから、逆に習近平への憎しみが増加しただけです。経済成長の衰退から人民解放軍を再編して兵力削減を目指していますが、同年2月には、退役軍人が反腐敗運動の拠点である北京の党中央規律検査委員会の前で、待遇改善を求めて大規模デモを起こしました。

しかも肝煎りの「一帯一路」にしてもインドは自国に敵対的と見ており、モディ首相は中国からの「一帯一路」国際会議への招待を拒否しました。おまけに代表団を送った北朝鮮は開幕日に弾道ミサイルを発射して、習近平の面子を潰しました。

ロシアは一帯一路で中国から欧州までを結ぶインフラ建設のルートがほとんどロシアを通っていないことに不満を高めています。

要するに、習近平の実績はゼロなのです。

当時、安倍首相から条件付きでも一帯一路についての「協力」の言葉がもらえたとなれば、習近平にとっては国内にアピールする良いチャンスだったはずです。もちろん中国は内外に向けて、「東夷が天朝の恵みを求めてきた」という尊大なポーズを取っていますが、習近平にとってはありがたかったでしょう。少なくとも北戴河、そして共産党大会までは、日本と対立して余計な波風を立たずにすみました。

しかも、習近平は次の2018年の共産党大会で、中国憲法を変更したうえで、終身主席となったのです。

もちろん、中国の権力闘争は複雑怪奇ですから、日本の反発心を高めて習近平の実績をゼロにしようと動く勢力もいます。最初からゼロならば問題にならないことでも、いちどプラスに持ち上げておいて、そこからゼロに転じれば、それは汚点となります。

そういう意味で、習近平は安倍首相の対中発言や動向に神経を尖らせているはずです。日中関係は、これまでも胡耀邦総書記が失脚する原因の一つとなったり、あるいは天安門事件に対する国際的制裁解除のキーポイントとなってきました。

日本人が考える以上に、中国にとって日本の存在は大きく、他国との関係以上の特別なものがあります。

最近は中国政府の規制で全く行われなくなった反日デモ

中国人はよく「小日本」などといって、ことさら日本の存在の小ささをアピールしますが、そのわりには無視するのではなく、わざわざ「5・4運動記念日」「7・7抗日戦争記念日」「抗日戦勝記念日」「柳条湖事件記念日」「南京大虐殺追悼日」など、かつての日本と関連する記念日を数多く作っています。

26ある記念日の約5分の1が日本関連であり、「マルクス」「レーニン」に関する記念日より多く、中国が意識する外国としては、他の追随を許しません。それほど日本を意識しているということなのです。

つまり、中国および習近平政権の今後の行方を左右するほどのポテンシャルが日本にあるわけです。安倍総理が「一帯一路に協力する気は全くない」と表明すれば、習近平は窮地に追い込まれるでしょう。一方、安倍総理が「一帯一路に積極的に関与していく」と表明し、本当に実行すれば、これは習近平大きな実績となり、習近平の立場は盤石となります。

ただし、習近平が失脚したとしても、現状の中国は何も変わらず、日本にとって良いこともないでしょう。だから、安倍総理は様子見で、従来の主張を繰り返してみせただけなのです。しかし、これは無論、ここぞというときに外交カードとして使えます。

【関連記事】


2019年2月13日水曜日

中国によるアジア植民地構想、ほぼ頓挫へ―【私の論評】一帯一路は巨大な不良資産の山を積み上げて終わるだけ(゚д゚)!


1MDB事件への中国の関与が濃厚になり、反発強めるアジア各国


世界約70か国で進む中国の一帯一路プロジェクト。空港など各国の国の要所に、大きく
プロパガンダを張る中国政府(マレーシアのクアラルンプール国際空港、2019年2月)

 「(私の右肩が)いつでも風や雨からあなたを守り、(私の左肩も)あなたの支えになり続けるから、困難な山々を手を携えて乗り越えましょう!」

 2月5日の春節を目前に、中国政府がこう歌った友好国ソングを公表した。

 その友好相手国とはマレーシア。

 この歌は、今年が両国の国交45周年記念にあたり、中国政府が永遠の友好関係を切望して作ったという。

 言い換えれば、こんな陳腐なラブソングを作らざる得ないほど、両国関係において中国は切羽詰まった状況に置かれているといえるだろう。

 5年前の5月31日、中国・北京の天安門広場に面した人民大会堂では、「マレーシア・中国国交樹立40周年記念式典」が行われた。両国を代表して、マレーシアは親中のナジブ首相(当時)、中国は李克強首相が出席、両国は蜜月だった。

 それを象徴するかのように、式典にはマレーシア華人商工会などの経済団体代表約300人の大経済ミッションがナジブ首相に随行。

 さらに、生ドリアン輸入は禁止されているが、ナジブ首相からの大量のドリアン土産を中国政府はあっさりと「特例許可」、ドリアン外交が炸裂した。

(参考記事:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52186「中国がドリアン爆買い マレーシア属国化への序章」)

 しかし、あれから5年。事態は急変した。

 不正や腐敗政治の一掃とその関連で中国主導の一帯一路の大型プロジェクト見直しを掲げたマハティール政権が昨年5月に誕生。「新植民地主義は受け入れない」と習近平国家主席や李首相に大型プロジェクトの延期や中止を次々に表明してきた。

 これまで小国から屈辱的な扱いを受けたことのない中国は、動揺を隠し、静観を標ぼうしてきた一方で、「内心は怒り心頭だった」(中国政治学者)らしい。

 しかし、マハティール・ショックは止まることはなかった。
マレーシアのマハティール首相

 ナジブ政権の汚職体質にもメスを入れ、昨年、米国やシンガポール、スイスなどでも捜査が続くマレーシアの政府系投資会社「1MDB」の巨額不正横領事件に関連し、ロスマ夫人ら家族や関係者ともども、ナジブ氏をマネーロンダリングや背任罪など、実に42の罪で起訴したのだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53479「アジアを腐敗まみれにして属国化する中国の罠」)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54307「天国から地獄へ マレーシア・ロスマ前首相夫人に司直の手」)

 同事件では、ナジブ氏が首相在任中に同投資会社から約7億ドルを不正に受領していた疑惑だけでなく、家族や関係者を含め約45億ドルにも上る公的資金を横領したと見られてきた。

 本コラムでは、2015年3月、日本のメディアとして第1報を報じて以来、同事件の真相や背景について追及してきたが、ようやく、ナジブ氏の初公判が近く開かれることになっている(当初は、2月12日だったが、延期となった)。

 この時期に中国政府が面子そっちのけでマレーシアにラブソングを捧げるもう一つの理由が、実はこの裁判にある。

 公判での証拠、証言(約50人が証言台に立つ予定)いかんでは、ナジブ政権を支え、1MDBに深く関わってきたと疑惑のある中国にとって国際的に大きな信用を失墜させる事態に陥るからだ。

 「米国史上最大の泥棒政治による横領事件」(セッション米前司法長官)と称された世界を舞台に大胆に、かつ、複雑な手法で実行された国際的公金不正横領事件。
今年の春節の中国人の海外渡航先一番人気のタイのプーケットには、相変わらず、
お騒がせ中国人観光客が大挙して、地元の不評を買っている(タイのプーケット島、2019年2月)

 習国家主席肝いりの一帯一路の目玉プロジェクトであるECRLは、総工費550億リンギをかけ、南シナ海側のタイ国境近くからマラッカ海峡まで、マレー半島を東西横断する、すなわち「南シナ海とマラッカ海峡を結ぶ鉄道」だ。

 クアラルンプール近郊と東西の重要港を結ぶ総距離約700キロになる一大プロジェクトで、2024年7月の完成を目指していた。

 しかし、マレーシアの与党関係者によると「工事は約20%ほどでとん挫している状態だ」という。
 しかし、中国は、自国の輸入原油の80%が通過するマラッカ海峡の安全保障を、米国が管理するという「マラッカ・ジレンマ」を抱えている。

 南シナ海のシーレーンが脅かされた場合のバックアップとして、マレーシアとの協力関係を築き、マラッカ海峡のルートを確保したい考えだ。

 ECRLは、(米海軍の環太平洋の拠点がある)シンガポールを封鎖された場合、中東、アフリカ地域からマレー半島東海岸側に抜ける戦略的な鉄道網で、地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込む中国の「一帯一路」の生命線である。

 しかし、マハティール首相は筆者との単独インタビューでも「ECRLは、マレーシアにとって国益にならない。凍結するのが望ましい」と発言している。

(参考記事: http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53065「マハティールの野党勝利 61年ぶりマレーシア政権交代」)

 一方、1月末の計画廃止の発表後、「中国政府は、融資の利子や工事費などを半額にするなど、計画の廃止を再考させるようあの手この手でマレーシア政府と交渉している」(マレーシア政府関係者)とされる。

 このこと自体、中国の劣勢状況を反映しているといえる。
また先月には、米メディアなどが、中国がこの件に深く関与していたとされる2016年の会議の議事録を暴露している。

 それによると、中国が1MDB関連の巨額流用汚職疑惑の渦中にあったナジブ政権に対し、一帯一路への協力と引き換えに1MDBの救済を申し出たとされる。

 さらに、不正事件の捜査を中止させるよう、中国政府が米国政府に対して影響力を行使できると提案していたことも明らかにした。

 これに対しナジブ氏は、数カ月以内に中国の銀行がその資金を融資し中国人労働者が建設作業に従事することを条件に、中国国有企業との約350億ドルの鉄道・パイプライン建設契約に署名したという。

 そのプロジェクトには、マハティール政権が廃止を先月いったん決定したとされる「東海岸鉄道計画」や、ボルネオ島・サバ州に建設予定のパイプライン事業が含まれていたという。

 また、同会議では中国の軍艦をマレーシアの2つの港に停泊させるための極秘協議もされたと議事録に記されているという。

 中国が一帯一路を通じ、過剰債務に陥っている新興国や発展途上諸国への影響力や支配を強め、融資の罠をはびこらせ、軍事的目的を果たそうとする思惑が浮き彫りになった。

 折しも、マレーシアと中国の国交樹立は、今から45年前の5月31日。

 ナジブ首相の父親、ラザク首相(マレーシア第2代首相)と周恩来首相(当時)の間で、同じく中国の人民大会堂で調印されたものだ。

 実は、ASEAN(東南アジア諸国連合)と中国との国交樹立は、マレーシアが先陣を切る形で始まり、その後、各国が続く形となった。

 しかし、マレーシアのマハティール首相が中国へ反旗を翻したいま、ほかのアジア諸国も追随する勢いを見せている。

 中国は“新植民地時代”を友好国ラブソングに期待を込めたのかもしれないが、あまりに前途は多難である。

【私の論評】一帯一路は巨大な不良資産の山を積み上げて終わるだけ(゚д゚)!

中国主導の現代版シルクロード構想「一帯一路」は、関係国のインフラ建設で、返済能力を度外視する融資を結ばせているとして、英語圏有力紙は酷評しています。

中国官製紙は最近、この「債務トラップ外交」と呼ばれる批判をかわすため、発展途上国に借款を結ぶ日本を例にあげ「なぜ西側諸国は日本を責めないのか?」と矛先を日本に向けました。専門家は、「日本と中国の手法は違う」と反論しました。

ブログ冒頭の記事では、マレーシアを事例にしていましたが、スリランカでも、マレーシアに先駆けて一帯一路構想に基づくインフラ整備を受け入れ、巨額融資を受けて同国第3の国際港コロンボ港を建設しました。

しかし、国の経済規模にふさわしくない巨大港の未熟な運営計画により、返済目途が立てられないでいます。このため政府は2017年7月、同国主要の国際港であるハンバントタ港を、中国側に99年契約で運営権を貸し出したのです。

共産党機関紙・環球時報は昨年7月15日、中国国内シンクタンクの中国現代国際関係研究所のワン・シー準研究員のオピニオン記事で、このスリランカの債務過多問題について「西側メディアは誤解を招いている」と反論しました。

ワン氏は、インドの戦略研究家ブレーマ・チェラニー氏が、一帯一路は債務トラップ外交だと批判していることを例にあげて、「中国陰謀論は、欧米メディアの根拠のない誇大広告だ」と主張しました。

ブレーマ・チェラニー氏

負債過多はスリランカの政治的不安定さと低収入、福祉政策などによるもので、「中国はその責任を負えない」としました。

さらに、2017年の同国統計を引用して、スリランカの借款(国家間の融資契約)は日本が12%、中国が10%だが、「日本を批判しない西側メディアはダブルスタンダード(二重基準)だ」と述べました。

2017年1月、スリランカのハンバントタ港近くに建設される中国資本の工業区域の設置に反対する、仏僧ら抗議者たち (AP Photo/Eranga Jayawardena)

中国側の主張には共感が得られていません。ブレーマ・チェラニー氏は、同日中にSNSで返答しました。「環球時報さん、私の名前が挙がった以上、答えますね。あなたはスリランカが中国により背負わされた負担を過小評価しています。日本によるプロジェクトの金利は0.5%に過ぎないのに、中国は6.3%です」。

ほかにも、ワシントン拠点のシンクタンク南アジア遺産基金の研究員ジェフ・スミス氏は、中国の一帯一路に関する問題を列挙しました。

ジェフ・スミス氏

「日本は(外国における)インフラ計画の取引で、機密を犯したり、主権を侵害したりするような内容を盛り込まない。腐敗を促す違法な政治献金や、債務をほかの港の見返りに差し出させるようなことはしていない。コロンボ港のような高額計画にも、(政治)宣伝に利用したりしない」。

環球時報の記事のコメントには、中国側の意見に反論がほとんどを占めました。「日本は友好を築こうとしている、中国は支配しようとしている」「日本は、植民地主義に基づいて海洋戦略上重要な位置にある地域を借金漬けにし、港を99年契約で貸し出させるよう迫ってない」「普通の融資国なら、情報提供や共有を要求したり、返済できないことが明らかな、腐敗しきった国のリーダーと融資を結んだりしない」。

あるユーザは「中国は、一帯一路の評判が悪くなっていることに焦っているのではないか」と指摘しました。

インドのメディア、ポストカードは2017年7月、スリランカの国の債務は6兆4000億円にも上り、全政府収入の95%が、借金の返済にあてられていると伝えました。そのうち中国からの借入は8000億円。同国財務相は「完済に400年かかる、非現実的だ」と同紙に答えました。

そもそも、一帯一路構想とはかつて日本がやっていた「円圏構想」のパクリです。「円圏構想」とは、「東アジア共同体構想の目的として、アジア共通通貨単位の導入による為替レート安定」を目指すものでした。

主に大蔵省を中心として1980年代の後半に本気で検討されていたようです。しかし、この構想には大きな問題があります。早稲田大学教授の若田部昌純氏は次のように指摘している。
これが経済学的にいかに問題かは、通貨バスケット制やドルペッグ制のような広い意味での固定相場制の問題点を考えてみればよい。国際経済学には、安定的な為替相場、国際間の資本移動の自由、および金融政策の自立的な運営の三つが確立しないという「不整合な三角形」と呼ばれる関係がある。この関係のもつ政策的な意味はきわめて大きい。すなわち、固定相場制(安定的な為替相場)を維持しようとすれば、資本移動を規制するか、金融政策の自立性を放棄するしかない。そして、固定相場制というのは投機攻撃にさらされやすいのである。(若田部昌澄『経済学者たちの闘い』東洋経済新報社)
産経新聞の北京支局に9年勤務し、2016年末に帰国した矢板明夫記者によると、中国共産党幹部は総じて元高を歓迎しているといいます。なぜなら人民元の価値が高い方が外国企業を買収するのに都合が良いと考えているからだそうです。まさに円圏構想的な発想にとらわれていると言っていいでしょう。

彼らは基軸通貨というものの本質が全く分かっていないようです。為替レートを高く維持することと、その通貨の利便性が高いことは必ずしも一致しないからです。実際に、彼らが頭でっかちに考えているほど、プロジェクトは進んでいないです。フィナンシャル・タイムズは次のように報じていました。
中国商務省のデータによると、一帯一路の沿線国家に対する中国からの直接投資は昨年、前年比で2%減少し、今年は現時点で18%減となっている。沿線53カ国に対する昨年の金融を除く直接投資は総額145億ドルで、対外投資全体のわずか9%だった。しかもこの投資の減少は、中国の対外直接投資が前年と比べて40%も増え、過去最高を更新する状況の中で起きた。中国当局が資本流出を止めるために対外取引の制限に動いたほどだ。(日本経済新聞 2017.5.12)
それともう一つ、海外直接投資の常識として、自国よりも経済成長が相当高い国に対して投資すれば利益が多くなるというものがあります。1〜数%の成長率の先進国等が、10%以上も成長をしている発展途上国に投資すると利率もかなり高いということです。日本の高度成長期やかつての中国がそうでした。

現在の中国のGDPの伸び率は6%台などとされていますが、実際はかなり低いようです。最近、唯一信じられる貿易統計をもとに高橋洋一氏が計算した中国のGDP成長率は1.5%としています。

最新の統計数値だと、各国のGDPの伸び率は、スリランカ3.1%、マレーシア5.9%、インドネシア5.1%、シンガポール3.6%ですから、もし中国のGDPの統計が正しかった場合は、全く儲からないということになりますし、仮に高橋洋一氏の計算が正しいとすれば、利益はあるはずですが、それにしてもかつての中国ようなわけにはいかないです。

このようなことを考えると、やはり一対一路は最初から収益率が少ないことがいえそうです。元々儲けがすくないところに、たとえ中国人労働者を働かせたりして、利益を根こそぎ奪おうとしても、あまり儲けにはならないということです。一帯一路がかつての中国のように、大成長するための起爆剤となることはないということです。

やはり、一帯一路は巨大な不良資産の山を積み上げて終わるだけになるのは目に見えています。かつて、日本が円圏構想でバブル崩壊を迎え、その後長期停滞に陥った歴史が被って見えてきます。

【関連記事】

2018年8月1日水曜日

米中貿易戦争、中国に“勝ち目”なし…国際社会「一帯一路、既に失敗」 習近平体制、いよいよ黄信号 ―【私の論評】貿易戦争の過程で、台湾問題で中国に揺さぶりをかける米国(゚д゚)!

米中貿易戦争、中国に“勝ち目”なし…国際社会「一帯一路、既に失敗」 習近平体制、いよいよ黄信号 

高橋洋一 日本の解き方

7月25日新興5カ国(BRICS)首脳会議に
おいて「貿易戦争に勝者なし」と演説した習近平

 米トランプ政権が中国に仕掛けている貿易戦争が習近平政権に打撃を与えている。習政権の肝いりの政策である「一帯一路」や、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、「中国製造2025」などはもくろみ通りに進むのか。

 本コラムでも指摘したが、この争いは中国に勝ち目がない。関税引き上げは、自由な資本主義国間では百害あって一利なしだが、対社会主義国では政治的には意味があるためだ。

 そもそもモノの取引の自由化は互いの利益になるが、その前提としてヒトやカネの自由化が必要だ。ところが、社会主義国ではその体制維持のためにヒトとモノの自由化は制限される。となると、モノの自由化は社会主義国のいいとこ取りになることもありうる。中国は実際、自国への投資を制限しつつ、資本主義国への投資を自由に行い、その結果、投資とともに見返りに技術を導入していた。技術面での内外非対称的な対応が経済成長を後押ししてきた。

 ところが、トランプ政権が関税引き上げという思わぬ手を使ったことで、習政権が対応に苦慮しているのが実情だ。

 最近、中国国内でも、習批判が出ているようだ。これは今後の経済成長を疑問視することと同じで、トランプ政権の対中貿易戦争のこれまでの成果と関係なしとはいえない。

 トランプ政権が対中強硬路線を打ち出してきたのは、前のオバマ政権が対中融和的であったのと好対照だ。トランプ大統領は生粋のビジネスマンであり、自由資本主義者である。社会主義的な覇権主義の中国とは基本的な価値観が合わないのだろう。

 米国は貿易戦争を中国だけに猛烈に仕掛けており、欧州連合(EU)や日本には今のところ厳しい対応はない。これは、やはりトランプ流の中国包囲網であろう。

 一方、中国の対外的な覇権主義を象徴するのが、AIIBを通じた一帯一路構想だ。以前に本コラムで、その無謀性や失敗になる可能性を指摘したが、当時のマスコミは「バスに乗り遅れるな」の大合唱だった。

 その後の展開をみると、パキスタンの地下鉄建設などで一帯一路は既に失敗だったと国際社会から評価されている。

 「中国製造2025」は、国内向けの産業政策である。中国製造業の2049年までの発展計画を3段階で表し、その第1段階として「25年までに世界の製造強国入り」することを掲げている。第2段階は、35年に「世界の製造強国陣営の中位に位置させる」。第3段階は、45年には「製造強国のトップになる」というものだ。



 ある程度の工業化がないと、1人あたり国内総生産(GDP)1万ドルの壁を突破するのは難しいというのが、これまでの発展理論であるが、中国は今その壁にぶち当たっている。

 貿易摩擦によって輸出主導経済が崩れると、中国の経済発展に行き詰まりが出て、「中国製造2025」の達成も危うくなる。

 これも、習体制にとっての黄色信号だといえるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】貿易戦争の過程で、台湾問題で中国に揺さぶりをかける米国(゚д゚)!

中国が貿易戦争に勝てる見込みは全くありません。かといって、これで習近平体制がすぐに潰れるかといえば、その可能性は小さいです。

何しろ中国は自由自在に統計改竄できる国なので、実体は苦しく破綻状態になったにしても表には出にくいからです。

旧ソ連は70年間も騙し続けました。中国も同じで破綻と分かるのは実際に体制崩壊した時でしょう。それまではピンピンにみせかけたゾンビ状態を続けることでしょう。

中国のゾンビ「キョンシー」

米ブルームバーグ通信は7月31日、米政権が2000億ドル(約22兆2000億円)相当の中国製品に追加関税を課す制裁について、関税の税率を10%から25%に引き上げる検討をしていると報じました。貿易問題で対立する中国政府への圧力を、制裁強化によって一段と強める狙いがあるといいます。

ブルームバーグは同日、米中両国が対立緩和に向けて協議の再開を模索しているとも伝えました。2000億ドル相当の輸入品を対象とする対中制裁の強化検討は、協議の席に戻るよう中国に迫る狙いがあるとしています。

トランプ米政権は中国の知的財産侵害に対抗するため、計500億ドル相当に25%の追加関税を課す制裁を表明。7月上旬にまず340億ドル分を発動し、今月にも残り160億ドル分を実施する可能性があります。

米政権はさらに2000億ドル相当に10%を課す制裁を準備中でした。同通信によると、税率25%への引き上げは最終決定されていません。

協議再開に向けた動きをめぐっては、ムニューシン米財務長官と中国の劉鶴副首相が非公式な意見交換を継続していますが、具体的な日程や協議の形式は固まっていないといいます。

米中間ですでに貿易戦争が勃発しました、米中間の通商摩擦はもはや言葉遊びをしていられる段階を過ぎています。

さて、今後米中の対立はどうなっていくのでしょうか。今後の展開として、米国が台湾問題で中国に揺さぶりをかける可能性が大いにあります。

2018年7月13日、米国海軍のイージス駆逐艦2隻が先月、台湾海峡を通過しました。米艦の通過は11年ぶりのことです。独立志向の台湾・蔡英文政権への軍事的圧力を強める中国をけん制する狙いとみられ、中国は「受け入れられない」と反発しています。米中間で激しさを増す貿易戦争とも重なり、「台湾海峡も波高し」という状況です。

台湾国防部によると、航行したのはイージス駆逐艦マスティン(排水量9200トン)とベンフォールド(同8900トン)。いずれも米第7艦隊の母港・神奈川県横須賀基地に配備されています。

台湾海峡を通過したとされる米イージス艦「マステイン」

2隻は7日午前、台湾海峡に南から進入して北東へ向かいました。米国側は2隻が海峡を通過する前に通知。台湾軍は規定に基づき周辺海域と上空を統制し、戦闘機と軍艦を派遣して同行監視しました。米国が艦船を台湾海峡に送ったのは公式的には2007年以来。台湾メディアによると、昨年7月に中国海軍の空母「遼寧」が台湾海峡を航行した際にも米艦船が追跡したとの情報がありますが、公表されていません。

台湾総統府の報道官は7日夜、「台湾はかねてから台湾海峡と地域の平和・安定を重視している。台湾は国際社会の責任ある一員として今後も両岸(台湾と中国)の現状維持に努め、アジア太平洋地域の平和と繁栄、発展を確保していきたい」とコメント。外交部の報道官は台湾への軍事圧力を強める中国を念頭に、「絶えず高まる軍事的脅威に対応するため、国防への投資を加速して防衛能力を強化する」としています。

台湾を中国の一部と見なす「一つの中国」原則を認めない蔡政権に対して中国側は最近、台湾周辺で戦闘機や爆撃機の訓練を繰り返すなどの軍事的威嚇を続けています。今回は米艦船の航行を公表することで、米軍が南シナ海で行っている「航行の自由作戦」と同様に、中国に米軍の存在感を改めて誇示した形です。

さらに2隻の台湾海峡通過は、米国が膨大な貿易赤字を理由に中国に対する高関税措置に踏み切るなど、米中間の摩擦がますます高まっている時期とも重複しています。香港メディアは「トランプ政権をタカ派が掌握し、米議会の与野党ともに中国に対して強硬な立場を前に出している」とし、「米国は今後、外交軍事手段を強化し、台湾問題と東シナ海、南シナ海問題への介入を強化するだろう」との見方を示しています。

これに対して、中国側はどう反応・対応するでしょうか。様々な考え方をするでしょうが、どれも外れると思います。

何やら中国は勘違いをしているようです。トランプ政権による対中国貿易戦争の目的は、中国をまともな相手とみなして、中国市場の開放や、人民元の完全な変動相場制への移行などで終了するようなものではないです。

先日もこのブログで指摘したように、典型的なピューリタニズムの原理に基づき行動する典型的な米国の保守層に属するトランプ氏はもともと、中国とは価値観を共有することはできません。

トランプ氏にとっては、ピューリタニズム的な勤勉が報われるような社会にしたいとこですが、それを邪魔するのが、中国なのです。中国による、知的財産権の侵害はもとより、中国の現体制下における米国との貿易は、そもそも米国の勤労者にとって不利益をもたらすものであるというのが、トランプ大統領の考えです。

そんな中国の体制を変更させるか、変更できないというのなら、二度と米国を頂点とする戦後秩序に対する挑戦をできないくらいまでに、中国の経済を弱体化させることです。

習近平や中国の共産党幹部は、米国の保守層に息づくピューリタニズムの原理を全く理解できません。米国の連中も自分たちと五十歩百歩であり、綺麗事のベールを剥げば、結局拝金主義に塗れた連中に違いなく、どこかで気脈を通じることができるに違いないと考えていることでしょう。

実際、クリントン夫妻など、気脈を通じやすい人物が米国にも多数存在することは確かです。しかし、それがすべてでもありませんし、大部分でもありません。米国の人口のおそらく半分は占めるであろう、保守層の中にはピューリタニズムの原理が息づいています。そうして、トランプ大統領はその代表格であります。

習近平がこれを無視して、トランプ氏をただの金持ち爺さんくらいに思うと、とんでもない目にあうこことになります。そうして、実際にとんでもないことになりつつあるのです。

トランプ氏は中国が民主化、政治と経済の分離、法治国家化をある程度すすめるというような大胆な構造改革を行わない限り、次の段階では台湾問題で中国に揺さぶりをかけるのは必至です。

中国は、今後米国に貿易戦争で負け、台湾で負け、東シナ海で負け、尖閣で負け、さらに南シナ海で負け、世界中で負け、数十年後に気がついたときには図体が大きいだけの、国際的には何の影響力もない凡庸なアジアの独裁国家に成り果てていることでしょう。

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2018年5月15日火曜日

”マレーシア・ファースト”で脱中国依存鮮明に―【私の論評】一帯一路は最初から失敗すると見抜いたマハティール新首相(゚д゚)!

”マレーシア・ファースト”で脱中国依存鮮明に

外資誘致で市場開放も、最優先は国内産業保護

初の閣僚会議後、記者会見するマハティール新首相。”マレーシア・ファースト”の外交経済ビジョンの
行く末は、寄り合い所帯の野党連合の結束にかかっている(12日、クアラルンプール近郊)。

 「マレーシアにとって、国益にかなっているかどうか、再検討する」――。

 61年ぶりに政権交代を果たしたマレーシアのマハティール新首相は12日、クアラルンプール郊外で記者会見を開き、筆者の次のような質問に対して、そう答えた。

 「マレーシアには中国の一帯一路の下、約40の関連プロジェクトがある。特に、東海岸鉄道計画(ECRL)やマレーシア-シンガポール間の高速鉄道計画(HRL)に代表されるような大規模プロジェクトなどを押し進めますか。マレーシアにとって有益でしょうか」

 それに対してマハティール新首相は、「世界のあらゆる国と同等で、フレンドリーな外交関係を構築したい。特定の国を利することはないだろう」とバランス感覚のある外交を展開すると前置きした上で、

 「外資による事業全般の調査を行い、再検討する」とECRLや HRLの計画を見直すことを新政権発足後、初めて公式に表明した。

ECRLの車両と鉄路の予想図  写真・チャートはブログ管理人挿入 以下同じ

 マレーシアは「一帯一路」関連で、中国から約135億ドル(約1兆4400億円)規模のインフラ整備事業を受け入れており、アジア域内で中国最大の投資先となっている。

 選挙戦でも、ナジブ前政権の中国一辺倒の外交経済政策の是非が争点になっていた。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52796政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア、http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52715マレーシア総選挙に中国の陰 民主化遠く)

 マハティール新首相は中国主導による大規模開発事業への懸念を示しており、筆者との単独インタビューで(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53065マハティールの野党勝利 61年ぶりにマレーシア政権交代へ)「一帯一路は否定はしない」としたものの、「協力事項は、個別で交渉する必要がある」と強調していた。

 日本が最も興味があるのは、HRL(今年末入札、来年9月受注先決定予定)の取り扱いだが、ECRLに関しても重要で、本コラムでも以前、問題点を指摘してきた。

 ECRLは、シンガポールを封鎖された場合のマレー半島の優位性を説く「マラッカ・ジレンマ」において、HRLの計画と同様、地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込む上で、中国の習近平国家主席提唱の経済構想「一帯一路」の生命線。

 マハティール元首相(当時)が率いる野党が政権交代を実現すれば、マレーシアにおける中国の一帯一路戦略は見直しされるだろう、と予測していたが、“脱中国依存”の方向性を政権発足後早くも打ち出した。

 さらに、12日の記者会見の後、マハティール新首相は国営テレビの単独インタビューに応じ、“マレーシア・ファースト”の経済ビジョンを打ち出した。

 会見の中でマハティール新首相は「ビジネスフレンドリーな環境の中、外資(FDI=外国直接投資=など)を積極的に誘致したい。規制緩和も促進する」と強調。

 しかしながら、「インフラ整備や不動産開発などの受注契約事業は、マレーシアの企業や事業者に最優先に委託されることが望まれる」とした上、「FDIは、ファンドや技術を提供できるものに限る。工場建設や製造業などで、国内市場向けか輸出目的のものだ」とした。

 また、「マレーシアの企業は、(インフラ、不動産を含めた)土地開発事業ではすでに国際競争力がある。国民のための国づくり(都市開発建設など)やそれに必要不可欠なことは、自分たちで構築することができる」

 その上で、「これらのすべての機会は、地元企業に開かれるものだ。仮に、大規模なインフラプロジェクトがあれば、外資参入は、地元企業にその技術や能力がない場合に限る」と強調し、ナジブ前政権下での「中国との蜜月政策」からの離脱を表明。

 前述の東海岸鉄道プロジェクトだけでなく、クアラルンプールの新国際金融地区「TRX」 に建築予定の超高層タワーやダイヤモンド・シティ、さらにはイスカンダル地帯に建設される大規模開発、それらすべてが一帯一路に関連する中国の大手企業による開発だ。

 中でも、 4つの人工島を建設して、約70万人が居住する大型高級住宅街、教育施設、オフィスを構える都市開発計画「フォレスト・シテイ」は、中国の大手不動産「碧桂園」が開発中で、 2035年の完成を目指す。

フォレスト・シティーの立体パース

 建設にあたり租税恩典も与えられ、買い手の約90%が中国本土からの「大陸人」だといわれ、マハティール首相が最も懸念を抱く外資、とりわけ中国主導によるプロジェクトだ。

 マハティール新首相は、「チャイナマネーの大量流入で、国内企業は衰退。マレーシアで最も価値ある土地が外国人に専有され、外国の土地になってしまう」と懸念している。

 中国投資の見直しで諸外国の外資を誘致する新政権が打ち出す“マレーシア・ファースト”は、一方で支持基盤強化のための国内産業保護優先と、懸念の声も上がりそうだ。

 さらに、新政権のアキレス腱は、5つの野党(サバ州のワリサン党含)から成る”寄り合い所帯“だということ。

 これまでは、「打倒ナジブ政権」で一致団結してきたが、元々、政策だけでなく、多民族国家のマレーシアを象徴するように支持基盤となる民族や宗教は全く違う。

 その懸念が12日の会見でも露になった。

 新しい閣僚を10人(首相と副首相はすでに選出)公表するはずが、マハティール新首相は「様々な考え方や価値観の違い、さらには民族、宗教の違いが絡み、今日は新たに3人の閣僚(内務相、財務相、防衛相)を発表するとどまった」と、その船出が安易でないことを率直に認めた(なお、13日、財務相に指名された華人系の民主行動党=DAP=事務総長のリム・グアン・イエン氏は係争中につき、国王による大臣承認が延期された)。

 新政権の船出を歓迎するものの、寄り合い所帯の野党連合率いるマレーシアの新政府への舵取りを懸念する動きも払拭できない。

マハティール元首相率いる野党連合・希望連盟は、国民戦線の地方票に切り込み、

1957以来政権を握ってきた与党連合を破ったが?


 筆者が入手したマレーシア最大級の証券会社「TA Securities」の内部資料には、総選挙を統括し、次のような内容の声明が証券トレーダーなどに配布された。

 「腐敗汚職改革を掲げるマハティール新首相の就任でマレーシアの株式は期待感を含む一方で、野党連合が足並みを揃えらるか、未知数が多い」とした上、

 当面、「株式市場を静観する上、顧客にはめぼしい株は売って、政権が安定したところで再び買い戻すことをアドバイスするよう」と、書かれている。

 そうした世間の不安を払拭しようと、マハティール新首相は12日の記者会見で、政権発足から100日間限定で、経済政策などの指針を仰ぐ国内のベテラン専門家を集めた「上級専門家会合」を設立したことも発表。

 メンバーは、マハティール新首相がかつて自身の政権の経済政策の要と信頼してきたマレーシア政界の重鎮、ダイム元財務相をトップに、アジア華人財界の大御所で、砂糖精製業などで財を成し“シュガー・キング”と別の異名を持つロバート・クオック(香港在住。マレーシア国籍)、かつてはIMF(国際通貨基金)の専務理事の候補でもあったゼティ・アジズ(元マレーシア中央銀行総裁)ら5人だ。

 さっそく昨日、ダイム元財務相がマレーシア航空などを所有する政府系投資会社「カザナ」などの各政府系投資機関のトップと面会。

 公開入札によるビジネス受注や契約における透明性を重視し、さらには、政治的や外部圧力による腐敗や汚職を厳しく禁止するとともに、ラクヤット(マレー語で「民衆」)の最大限の利益を最優先するよう指示した。

 本来、マレーシアでは外国諸国との経済協力は経済企画庁(EPU)が直接の担当省だが、一帯一路プロジェクトに関しては、ナジブ前首相直属の総理府がイニシアティブを取り、中国との随意契約で結ばれ、その契約プロセスなどの不透明さも問題になっていた。

 マレーシア-シンガポール両国間を結ぶ高速鉄道の受注に中国と火花を散らす日本にとって、マハティール新政権の“マレーシア・ファースト”の経済政策は、外資誘致を図り、「ファンドや技術を歓迎する」という観点では、日本企業にとってハイテク分野、製造業など様々な分野で朗報かもしれない。

 しかし、高速鉄道に関しては、今年の4月、入札締め切りが6月から12月末に延期された。2026年末の開業予定に変更はないが、事業者決定も2019年9月頃にずれ込むとされている。

 これまで、同高速鉄道受注では、中国が優勢と伝えられきた。それは、いわゆるシンガポールやマレーシアが東南アジアきっての「華人社会」だということだけではない。

 実は、親米のシンガポールは中国の影響を警戒し、技術や安全性の高い日本式新幹線を支持している。

 問題は、マレーシアだ。中国の高速鉄道受注のための「マレーシア国内鉄道占有戦略」は着々と進み、在来線でも、中国の一強状態だ。

 例えば、マレーシア国鉄(KTM)が運行するクアラルンプール近郊の通勤列車「KTMコミューター」は、マレーシア運輸省が中国中車と「随意契約」。中国中車の新型車両が投入され、しかも修理点検などのメンテナンスでも中国中車が一手に引き受けている。

 高速化でも3年前から、中国中車に日系商社主導だったものが、あっさり切り替えられた。

 高速鉄道受注の肝心な国内在来線の足場は、すでに中国に“外堀から”固められているのが現状だ。

 筆者の取材したKTMの関係者は「中国とナジブ前政権が交わした契約はすべてが密室の随意契約。技術的、安全性、価格においても優位勢は見られない」と前政権の暗躍したレガシーを批判する。

 今回のマハティール新首相の「高速鉄道見直し発言」で、日本勢が受注を有利に運べるか。筆者との単独インタビューでも「高速鉄道より在来線での刷新が必要」と言及している。

 膨大な借金を抱えるマレーシアに、魅力的なファンドと技術を提供できるか。ルックイーストの時代は終わり、日本にとっては、脱中国依存で絶好の投資チャンスである一方、正念場の時代に突入したともいえるのではないか――。

(取材・文 末永 恵)

【私の論評】一帯一路は最初から失敗すると見抜いたマハティール新首相(゚д゚)!

まず最初にはっきりさせておかなければならないことは、一帯一路など妄想にすぎないということです。共産主義の計画経済は大失敗しました。一帯一路も計画経済と同じ運命をたどることでしょう。

中国での共産主義体制における計画経済は失敗し、現在の中国は共産主義を捨て、国家資本主義体制に変わっています。今の中国はうわべは、資本主義のような形式をとっていますが、その実民主化されておらず、政治と経済の分離も行われ手おらず、法治国家化も不十分です。

一帯一路は中国の計画経済を中国内で行うのではなく、世界規模で実行しようとするようなものです。そもそも計画経済には、競争という概念がありません。

資本主義経済は、民間企業が互いに競争あって切磋琢磨して、より良いサービス、より効率の良いサービスを生み出すことを前提としています。港や、空港、道路、鉄道もそのような競争があってはじめてより良いサービスが実現します。それを最初から中国が中国の都合により、計画を立案して実行しても、うまくいくとう到底考えられません。


そもそも、世界のインフラを中国が主導してつくるにしても、中国にはそのノウハウはありません。中国が国内で、インフラをつくるにおいては、かなり乱暴なやり方で実行しても可能ですが、それを外国で実行しようとしてもできるものではありません。

さらに、設立したインフラが中国が目論通りの経済効果を生み出すとは限らないどころか、失敗する可能性のほうが多いです、実際中国には鬼城と呼ばれる、最初から人の住まないゴーストタウンが多く存在します。

国内でこのようなことをしている中国が、一帯一路のインフラづくりには成功するなどとは、にわかに信じがたいです。

建築されても誰も住まない中国の鬼城

一帯一路が最初から失敗するブロジェクトであることは、前にもこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の「一帯一路」がピンチ?大型プロジェクト取り消す国が相次ぐ―米華字メディア―【私の論評】"一帯一路"は過去の経済発展モデル継続のための幻想に過ぎない(゚д゚)!
大航海時代以来、古代のシルクロードは完全に競争力を失いとうの昔に荒廃

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを掲載します。
現在の中国は、かつてのインフラ整備により、鬼城や過剰な設備、過剰な鉄鋼生産など負の遺産が蓄積しています。中国はこれを"一対一路"で外国で繰り返そうとしてるだけです。これでは、"一対一路"を推進すれば、外国においていずれ負の遺産を蓄積するだけになります。 
これは、いわゆる共産主義国家による計画経済と何ら変わりありません。中国の官僚が考えた"一帯一路"という計画経済が機能するはずもありません。頭の良い設計主任が、計画経済を立案して、その通りに遂行すれば、経済がうまくいくという考えは、すでに過去に大失敗して、この世から共産主義は消えています。今の中国は共産主義ではなく、国家資本主義といっても良い状況にあります。 
結局この巨大プロジェクトは、所詮中国の過去の経済発展のモデルを継続するための幻想に過ぎないということです。
実際に、一帯一路は負の遺産を蓄積しつつあります。その厳しい現実を産経新聞が伝えています。

「一帯一路」で援助を受けていたはずが、巨額の借金を抱えた上でインフラも奪われるということが現実に起こっています。中国が推し進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」が生み出す巨額債務への警戒感がここに来て急速に広がっています。米シンクタンクは、債務返済が困難となる恐れがある8つの国を指摘しました。債務と金利が重くのしかかる、一帯一路の負の側面が浮かびます。


巨額の債務による“代償”を背負う形となった代表例が、スリランカです。

スリランカ南部ハンバントタ港は2010年、親中派ラジャパクサ政権下で建設が始まり、建設費約13億ドル(約1421億円)の多くを中国からの融資でまかないました。

だが、スリランカに重荷となったのが、中国側が設定した最高で年6・3%という金利です。そもそも財政に余裕があるとは言えず、当初から返済に窮するようになりました。最終的に昨年12月、港の株式の80%を中国国営企業に貸与し、リース料として11億2千万ドル(約1224億円)を受け取ることで合意しました。

リースという形を取ってはいますが、貸与期間は99年間で事実上の売却といえます。スリランカ側からすれば、いつのまにか港が中国の手に渡った格好です。

このような債務リスクがあっても、中国としては別に気にもしないでしょう。結局スリランカから、港をとったようなものであり、中国としては損はありません。中国としてはこの港を最大限に利用して、儲けるだけの話です。

ただし、この港が国際的な取引に本当に使われるようになるかどうかは、未知数です。

シンガポール港

ハンバントタ港の近くには、シンガポール港があります。この港は、貿易港湾取扱貨物量アジア第1位の上海港に次ぐ、アジア最大級のハブ港です。上海が第1位なのは、単純に中国の人口が多いからです。しかし、シンガポールの取引が多いのには、わけがあります。

シンガポールは、1980年代後半から世界に先がけて港湾業務のITインフラ化を進め、ハブ港(海上運送の中継拠点となる港)として利便性の高い港づくりに力を入れたため、港で取り扱う貨物の8割は周辺諸国への積み替え貨物であるといわれています。

要するに、シンガポール自体は小さな国であり、自国に輸入する分は2割しかなく、それ意外は周辺諸国の積み替え貨物であるということです。

これは、シンガポールが他の港と競争して、利便性、効率性、価格の面で努力した結果です。スリランカ南部ハンバントタ港がそのような港になるかどうかははなはだ疑問です。

中国が運営するのでしょうから、どうなるのかわかったものではありません。そのうち、鬼城のような、船舶があまり寄港もしない港になってしまうかもしれません。

マハティール新首相は、このような「一帯一路」の本質を見抜いたからこそ、見直しを宣言したのです。

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2018年4月9日月曜日

政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア―【私の論評】ナジブとマハティールの戦いは「アジア的価値観」と「西欧的自由民主主義」の相克という枠組みで捉えよ(゚д゚)!

政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア

中国に身売りしかねないナジブ首相に立ち向かうマハティール元首相

下院解散で、事実上の選挙戦がスタートしたマレーシア。与党連合(国民戦線)は野党支持層が厚い
選挙区に数週間前から早々に、ブルーの与党連合統一の旗を張り巡らせ、猛追する野党阻止を狙う

 60年ぶりの歴史的政権交代が期待されるマレーシアの総選挙(下院=定数222、5年に1回実施。総選挙(投開票日)は5月5日前後で政府が最終調整=前回記事で独自報道)は、与党優勢が伝えられている。

 一方で、2008年に与党連合(国民戦線)が歴史的に苦戦を強いられた戦い「TSUNAMI(津波)選挙」が再び起こるのか、と内外の注目を浴びている。

現首相のナジブ 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 首相のナジブは7日に下院を解散し、津波の再来を警戒する中、「史上最悪のダーティーな選挙を展開するだろう」(元首相のマハティール)と見られ、残念ながら筆者も全く同感だ。

野党に30日間の活動停止

 ナジブは、公務員の給与所得値上げなどのバラマキ公約、さらには与党に有利な「選挙区割りの改定法案」、メディア封じ込めの「反フェイクニュース法案」を下院解散直前の数日間で強行採決。

 さらに、マハティールが代表を務めるマレーシア統一プリブミ党への“締めつけ”を強化。政府は解散直前の5日になって突如、プリブミ党が党登録時の書類に不備があると、書類再提出を指示し、30日間の活動停止を言い渡した。
元首相のマハティール

 30日間の間に再提出しなければ、同党は”永久追放”されると見られている。政府は野党連合(希望同盟)に対しても、野党連合の統一旗の使用やマハティールの顔写真を選挙活動に使用することも禁止した。

 選挙戦活動に圧力がかけられる中、マハティールは「ナジブよ、逮捕したかったら、してみろ!」と自分の政党のロゴが入ったTシャツを着用し、打倒ナジブのシュプレヒコールを全開させている。

 こうした事態に、米国国務省はナジブの非民主的な強権発動に異例の非難声明を発表。さらに、民主化を後押しする宗主国の英国のメディアなど欧米のメディアは、ナジブ糾弾の辛辣な報道を活発化させている。

 一方、事実上の選挙戦に火蓋が切られたマレーシアでは「次期首相には誰がふさわしいか?」を聞いた最新の世論調査(政府系シンクタンク調査。3月23日から26日まで)が実施された。

 その結果、過半数の61%が、野党連合を率いる92歳のマハティールに再び、国の舵取りを握ってほしい、と願っていることが6日、明らかになった。ちなみに、ナジブへの続投への期待は、39%だった。

 昨年末、実施された各種世論調査では、ナジブが少なからず優位に立っていたが、ここに来て、マハティール人気が急上昇。

 「独裁開発者」としての過去の首相時代のイメージから、「人民、民主(ラクヤット=マレー語)」をキーワードに、民衆の頼れるリーダーへとソフトにイメージチェンジした。首相時代より人気が出ているのは、何とも皮肉だ。

 そんな国民の期待を背負う、マハティールは、22年という歴代最長の首相在任を経て、政界を勇退した。

 本来ならば、悠々自適な余生を過ごしているはずが、ナジブ側による暗殺に警戒しながら、歴史的な政変を起こそうとしている。老骨に鞭打つ決意の背景には、いったい何があるのか――。

ナジブと中国の蜜月関係

 誰もが納得する理由は、本人も公言している国際的なスキャンダルとなったナジブや一族が関わる政府系ファンド1MDBの巨額公的不正流用疑惑にメスを入れることだ。



 しかし、本当にマハティールがメスを入れたいのは1MDBが発端となって明らかになりつつある「ナジブと中国の蜜月関係」のようだ。

 その矛先は、マレーシアを重要拠点とする中国の国家主席、習近平提唱の経済構想「一帯一路」にある。マハティール率いる野党が政権交代を実現すれば、マレーシアにおける中国の一帯一路戦略は見直しされるだろう。

 本来、マレーシアでは外国諸国との経済協力は経済企画庁(EPU)が直接の担当省。しかし、一帯一路プロジェクトに関しては、ナジブ直属の総理府がイニシアティブを取っている。

 ナジブと習の独裁的なトップダウンな指揮の下、一帯一路プロジェクトが展開されていることが問題視されているのだ。

ナジブ(左)と習近平(右)

 マレーシアでの一帯一路プロジェクトが、ナジブ設立の1MDBの巨額債務を救済するために始まったことをマハティールは決して見逃すことができないのだ。

 一方、中東からの石油に依存している中国としても、マラッカ海峡を封鎖される危険性(マラッカジレンマ)に備え、マレー半島における拠点づくりは最重要課題となっている。

 中国にとっても地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込むため、借金返済を目論むナジブと習が「利害を一致」させ、一帯一路を通じてチャイナマネーが大量流入している。

 最も顕著な例は、1MDB傘下のエドラ・グローバル・エナジー社が所有する発電所の全株式約99億リンギ(1リンギ=約28円)分を中国の原子力大手、中国広核集団に売却したことだ。

 しかも、中国広核集団は、同資産に加え1MDBの負債の一部の60億リンギを肩代わりした。まさに、一帯一路の下での「1MDB救済プロジェクト」にほかならない。

発電所の全株式を中国に売却

 国の安全保障の根幹である発電所を外資に売り渡す国家戦略にも驚かされるが、ナジブは借金返済のため、「発電所は外資上限49%」というマレーシアの外資認可規制を無視し、中国企業に100%身売りしてしまった。

 そのような状況の中、マハティールは一帯一路のインフラ整備に伴い中国政府から巨額の債務を抱え、財政難にあえぐスリランカと同じ徹を踏まないと誓っている。

 中国マネーの流入は国内政策に悪影響を与え、中国経済への依存は、南シナ海を含め、国や地域の安全保障にも大きな影をもたらすことにもなるからだ。

 こうしたことから、マレーシアと中国との関係改善は、今回の選挙の大きな争点の1つになっている。

 マレーシアでは、一帯一路の関連プロジェクトが鉄道、電力、工業団地、不動産、港湾などのインフラ整備投資を中心に約40件ほど進んでおり、IT分野を始め、製造業、教育、農林水産、観光など幅広い事業に及んでいる。

 中でも、習肝いりの一帯一路の目玉プロジェクト、「東海岸鉄道プロジェクト」は、首都クアラルンプール郊外とマレーシアの北部・ワカフバルを縦断する総距離約600キロを結ぶ一大プロジェクト。2025年完成を目指している。

 問題は、スリランカと同様だ。中国は“低利融資”と言うものの「年利約3.3%で550億リンギ」の総経費を、中国輸出入銀行から借入。

 当然、他の諸国の一帯一路と同様、建設会社は中国交通建設などで、政府は「雇用も資材も、外国と国内の内訳は半々」と模範解答するが、他の様々な一帯一路プロジェクトと同様、「実態は資材だけでなく、労働者もほぼ100%が中国から投入されている」(建設関連企業幹部)と見られている。

 しかも、その労働者は建設現場からの外出を禁じられ、彼らの消費はマレーシア経済に何の貢献もしない。

 中国との「利害一致」と言うが、中国一強プロジェクトにほかならない。

中国のための東海岸鉄道

 ナジブは「東海岸鉄道は開発途上の東部地域の経済成長率を底上げする」と豪語する。しかし、マハティールは「借金を抱え込み、地元の経済や企業をさらに疲弊させるだけ」と同プロジェクトの中止を公約に掲げている。

 マラッカ・ジレンマを克服したい中国にとって、東海岸鉄道プロジェクトはその生命線となるが、マレーシアにはほとんど利益がもたらされないとうわけだ。

 こうした反論にナジブは、「東海岸鉄道など中国との開発プロジェクト(一帯一路関連)を中止せよとは、野党は頭がおかしい!」と激怒する。

 さらに、「中国は最大の貿易相手国。主要輸出品のパーム油だけでなく、ツバメの巣やムサンキング(果物の王様、ドリアン)も大量に輸入しているんだ(「中国がドリアン爆買い マレーシア属国化への序章」)」「中国なくして、国民の暮らしは良くならない」とまで言う。

 まるで中国に憑りつかれたかのように“中国賛歌”をまくし立てている。

 マレーシアの建国の父といわれるマハティールがなぜ、92歳にして現職首相に対して歴史的な政変を起こそうとしているのか。独立国家としてのマレーシアの存亡に対する危機感がある。

 中でも、ナジブの中国との蜜月が、彼の愛国心を傷つけ、その怒りが最高潮に達したのが、マレーシア国産車の「プロトン」の中国企業への身売りだった。

 「プロトンの父」と言われたたマハティールは日本の三菱自動車と資本・技術提携し、東南アジア初の国産車を導入させた。

 この売却が、ナジブとの対決姿勢を決定的なものとした。余談だが、ナジブは「財政難」を理由に、マハティールがアジアで日本に次いでマレーシアに誘致したF1レースからも昨年、撤退。

 さらに、マハティールが経済発展の成長のシンボルとして、肝いりで日本のハザマに施工させた、かつては世界最高峰のビルでマレーシアのランドマーク、ペトロナスツインタワーを超える高さのビル建設計画も進めている。

中国資本で建設が進むフォレスト・シティ

 ナジブの目玉プロジェクトであるクアラルンプールの新国際金融地区 「TRX」で建設中の別の超高層タワー(写真下)は、すでにペトロナスツインタワーを建設途中でその高さを抜いてしまった。



 ドミノ倒しのようにバサッ、バサッと、”マハティール・レガシー”を次から次へと、ぶっ壊すナジブ。

 そして、東海岸鉄道プロジェクトだけでなく、TRXに建築予定の超高層タワーやダイヤモンド・シティ、さらにはイスカンダル地帯に建設される大規模開発、それらすべてが一帯一路にも関連する中国の大手企業による開発だ。

 中でも、 4つの人工島を建設して、約80万人が居住する大型高級住宅街、教育施設、オフィスを構える都市開発計画「フォレスト・シテイ」は、中国の大手不動産「碧桂園」が開発、 2035年の完成を目指す。

都市開発計画「フォレスト・シティー」立体パース

 建設にあたり租税恩典も与えられ、買手の約80%が中国本土からの「大陸人」だと言われている。

 マハティールは、「チャイナマネーの大量流入で、国内企業は衰退の一途を辿るだけでなく、新たな1MDBのような巨額な債務を抱えることになる。さらに、マレーシアの最も価値ある土地が外国人に専有され、外国の土地になってしまうだろう」と話す。

 そこには、建国の父・20世紀最後の独裁開発指導者としてではなく、ラクヤット(民衆)のために立ち上がり、新たなレガシー(遺産)を築きたいという気持ちもあるのかもしれない。

(取材・文  末永 恵)

【私の論評】ナジブとマハティールの戦いは「アジア的価値観」と「西欧的自由民主主義」の相克という枠組みで捉えよ(゚д゚)!

中国がマレーシアなどの国々に影響力を及ぼすことができるのは、金の力だけではありません。やはり、客家(はっか)と客家人ネットワークを理解しなければ、これは理解できないでしょう。

客家人とは、原則漢民族であり、そのルーツを辿ると古代中国(周から春秋戦国時代)の中原や中国東北部の王族の末裔であることが多いです。歴史上、戦乱から逃れるため中原から南へと移動、定住を繰り返していきました。

客家人の住居「福建土楼」

移住先では原住民から見て“よそ者”であるため、客家と呼ばれ、原住民との軋轢も多数ありました。原住民と、客家人の争いを土客械闘といいます。

中国の政治において最も重要なファクターは「客家人ネットワーク」だと言われます。「アジアのユダヤ人」とも言われる彼等は、中国、シンガポール、台湾、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、米国などの中枢に強固な繋がりを持つ華僑ネットワークを形成しています。

客家は、孫文、鄧小平、宋美齢、江沢民、習近平、李登輝、蔡英文、李光耀など、アジアを中心として多くのキーパーソンを排出しています。

さて、昨日はシンガポールの独裁者であった故リー・クアンユー氏のことをこのブログに掲載ましましたが、このシンガポール、そうしてマレーシアも中国語の通じる華人の多い地域です。

マレーシアの首都クアラルンプールにある中華レストラン「客家飯店」

街で買い物をしても、日本人であったとしても普通に中国語で対応されます。マレーシアの最南端に位置する都市ジョホールバルでは街じゅうのいたるところに中国語を見かけます。華人には中国語で話しかけた方が、心を開いてくれる気がします。

日本から来られる方の中には、“中国人”に関してネガティブなイメージからか、中国語のアレルギーのようなものを感じる人がいるかもしれません。

中国語を読み書き話す人を見ると「中国人かな?」と思ってしまいますが、当人たちの多くは自分たちのことを大陸の中国人とは分けて考えています。

人それぞれなので一概にはいえませんが、大陸の人たちとは往往にして気質が異なります。人種としての分類では彼らは『マレーシアン・チャイニーズ』です。彼らの多くは、自分たちは、大陸の人とは違うといいます。はっきり言うと、大陸の中国人を軽蔑しているからかもしれません。

マレーシアでは、中華系の人々(華人)は人口の25%を占めると言われています。人口比は25%でも、一人あたりの平均GDPはマレー系の人々より5割近く高いです。

商取引では英語でももちろん問題ないですが、中国語が流暢にできるならそのほうが歓迎される場面があります。

表向きは英語で対応しているものの「裏で所属の部下と話しているのは中国語」という場面もあります。そのような場合は、両方できるほうが何かと有利に話を運べます。

中国語といえば、北京語(マンダリン)を想像します。たしかに華人は基本的に北京語ができます。それでも母語としての中国語はというと、地域によって人口が変わります。肌感覚にはなりますが以下のような感じなります。
クアラルンプール(Kuala Lumpur):広東語
イポー(Ipoh):広東語
ペナン(Penang):福建語(閩南語)
ジョホール・バル(Johor Bahru):北京語
中国語ができる人はマレーシアでも普通に生活ができます。医療を受けるにしても薬局で必要な薬を買うにしても便利です。

マレーシアの中華系の人は中国語(普通語・北京語)が基本的に話せます。もちろん読み書きもしっかりできます。学校で習うのは簡体字。50歳以上の人は繁体字を好んで用いることもあります。

中学生は公育語がマレー語になるため、当人たちは覚えることを結構苦しんでいるようですが、マレー語もできるようになります。これらの言語がどれもかなり高いレベルです。

家で中国語が話されている家庭が最も有利なようです。インターナショナルスクールでも中国語の授業はありますが、授業だけで中国語を習得するのは無理です。

マレーシアの首都クアラルンプール

マルチリンガルの子どもたちも多いです。家政婦さんとはマレー語、両親とは中国語、学校では英語という具合です。それぞれのことばを瞬時に切り替えます。

非中華系でも、たとえば地元のインド系の方たちも多少中国語がわかる場合があります。インド系だからといっても油断は禁物です。中国語でひどいことを言ってしまえば通じてしまいます。

ちなみにシンガポールはというと、英語で教育を受けている背景のためか、30歳くらいよりも若い年齢の華人は、中国語はあまりうまくないです。マレーシアとは対照的です。

英語と中国語は、両言語とも性質がずいぶんと違いますから、環境的に二つ同時にマスターできる可能性の高い地域は、世界でもマレーシアだけかもしれません。

最近の、マレーシアン・チャイニーズは経済的に余裕ができてきたためか、LCCなどを使って世界各地を旅行する人も増えて来ました。日本にも大勢来ています。

さて、昨日このブログに掲載したお隣の国シンガポールの、独裁者であった故リー・クアンユー氏も華人でした。そうして、数多い華人の中でも、先に掲載した客家人でした。

昨日の記事にもあるように、氏は客家系華人の4世にあたるといいます。曽祖父のリー・ボクウェン(李沐文)は、同治元年(1862年)に清の広東省からイギリスの海峡植民地であったシンガポールに移民しました。本人は自分のことを「実用主義者」「マラヤ人」と称している。また、自らを不可知論者としています。

昨日のブログでは、石平氏の『なぜ中国は民主化したくてもできないのか』という書籍の書評を紹介させていただきました。

この書籍では、石平氏は、長く独裁を続けた毛沢東や改革開放経済の道を開いた鄧小平に比肩する実績も、カリスマ性もない習氏がなぜやすやすと“独裁体制”を築けたのかという問に対して、"中国民衆の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統があるからだ"と断じています。

中華思想では、天から命じられた天子(皇帝)は中国だけでなく全世界唯一の統治者なのです。そうして、中華秩序を失えば王朝も崩壊するという歴史を中国の民衆は身に染みて知っているのです。

そうして、昨日の記事では、故リー・クアンユー氏が、西洋の自由民主主義は「アジア人」には向いていないとは述べていたことを掲載しました。リー・クアンユー氏は、さらに「アジア人は、個人の利益よりも集団の利益を上に置く考え方に慣れている。生来、権力者に対して従順で、こうした傾向はアジアの歴史に深く根差す"アジア的価値観なのだ"と主張していました。と主張したことも掲載しました。

そうして、私は石平氏の言う"中国民衆の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統"とリー・クアンユー氏の言う"アジア的価値観"とは本質的に同じものであると考えました。

私は、アジア一帯に住む華人のうちでも、特に客家人はこうした社会通念や伝統を強く継承しているのではないかと思います。

マレーシアの、現首相ナジブ氏と、元首相のマハティール氏の経歴を調べてみると、両方とも生粋のマレー人のようです。しかし、上でも述べたように、マレーシアには華人も大勢いて、その中には客家人も存在していて、特に経済界では幅を効かせています。

そのような客家人にナジブ氏は大きく影響されたのだと思います。一方、マハティール氏は、西洋の自由民主主義に親和的な立場をとっているのだと思います。

昨日は、"現在のアジアではリー・クアンユーのいう「アジア的価値観」すなわち中国の民衆のなかにある「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統と、西洋的自由民主主義とが相克しているのです。

ナジブとマハティールの戦いは、この相克の枠組みでとらえるとかなり理解しやすくなります。そうして、私は無論マハティールを支持します。

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2018年3月18日日曜日

中国で“爆買い”企業が続々凋落 バブル崩壊の兆し? 経済評論家・渡辺哲也―【私の論評】一帯一路も凋落することを予見させる出来事(゚д゚)!

中国で“爆買い”企業が続々凋落 バブル崩壊の兆し? 経済評論家・渡辺哲也

安邦保険集団(アンバン・グループ)

 中国の多くの複合企業体で異変が起きている。中国金融当局は2月23日、国内大手保険会社の安邦保険集団(アンバン・グループ)を公的管理下に置くと発表した。

 安邦は、2015年に米ニューヨークの名門ホテルとして知られるウォルドルフ・アストリアや米不動産投資信託(REIT)のストラテジック・ホテルズ・アンド・リゾーツを55億ドル(現在の為替レートで5775億円)で手中に収めるなど、積極的に海外資産の買収を繰り返してきた企業である。

 今回の公的管理の背景には、不良債権の増加と破綻リスクの拡大を恐れる金融当局の判断があったといわれている。

 ここ数年、中国企業による海外での大型買収が相次いでいたが、市場ではその買収価格に対して、「高すぎる」との評価が強く、結果的にこの高額買収案件が不良債権化し始めたわけである。安邦同様に積極的な買収を繰り返してきた復星集団(フォースン・グループ)、大連万達集団(ワンダ・グループ)、海航集団(HNAグループ)も流動性危機に陥っており、現在、それらの企業体も危機的な状況にあるとみられている。

2012年5月21日、大連万達集団は世界2位の映画館チェーン・AMCエンターテイメント
・ホールディングスの買収。世界最大の映画館チェーンとなった。

中国では、バブルで金余りが生じる一方、国内投資物件の高騰により投資先が不足し、海外企業や海外資産の買収がブームになっていた。そして、中国企業が競り合う形で海外の投資物件の価格を釣り上げてしまっていたわけである。

 しかし、高値で買えば、利回りが悪化するのは当然の話であり、多くの投資案件で調達金利に対して運用利回りが低いという逆ザヤが生じた。

 このような投資案件だが、たとえ運用利回りが逆ザヤであっても、それ以上に高い価格で買う投資家がいれば問題ないが、そうでなければ金利に押しつぶされる形で破綻する。そして、これが今、各所で起きているのである。

 中国の金融監督当局は昨年6~7月、外貨不足への対応と金融リスクの拡大懸念から、海外投資の規制を一気に強化し、投資拡大をしてきた企業に対しての締め付けを強化した。

 その結果、さらに高値で買う企業がなくなってしまい、高額投資案件の多くが不良債権として認識され始めたのである。これが企業財務に対する懸念を生み、金利の高騰により企業の資金調達を困難にしてしまったのである。

 現在、このような企業の多くは企業財務の健全化と手元資金の確保のため、買収した資産の売却を急いでいるが、買収価格以上の売却は困難とみられており、売却による損失がさらに企業を苦しめてゆくものと考えられる。

 これは、その資金の貸し手である大手銀行を巻き込む形で社会問題化してゆく可能性が高い。このような光景は、バブル崩壊後に見られる特徴的なものであり、1990年代後半から2000年ごろにかけて日本でも数多く起きた現象と同じだ。

 「新時代の中国の特色ある社会主義」を掲げ、再び社会主義色を強めるとする習近平体制は、資本主義の与えたこの大きな試練にどのように対応するのだろうか。

 渡辺哲也(わたなべ・てつや) 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。48歳。愛知県出身。

【私の論評】一帯一路も凋落することを予見させる出来事(゚д゚)!

中国政府は、先月安邦保険集団の呉小暉会長を起訴していました。同集団の違法性のある経営手法で、保険金の支払い能力が損なわれる可能性があるためだとしていました。安邦は近年、ニューヨーク市の最高級老舗ホテル、ウォルドルフ・アストリアを含む海外の企業や不動産を積極的に買収していました。同社の爆買いの背景には、共産党内の敵対勢力があると睨んだ習近平政権は「人民元流出規制」を名目に、同社を失墜させた模様です。

ニューヨーク市の最高級老舗ホテル、ウォルドルフ・アストリア

中国保険監督管理委員会2月23日の発表によると、同社顧客の資産保護のため、2019年2月22日までの一年間、政府が同社を管理するとしています。保監会主導で、中国人民銀行(中央銀行)や銀行、証券、為替の監督機関から成るチームが同社の管理に当たります。巨大企業体の安邦保険の総資産規模は32兆円以上と言われていました。

ブルームバーグ2月13日付の記事によれば、米不動産大手ブラックストーン・グループが現在、ウォルドルフ・アストリアを買い戻すことを検討しているといいます。

当局によると、政府作業部会は安邦保険の通常業務を継続するといいます。安邦保険の呉小暉会長について、「経済犯罪の疑いで起訴されている」と明記しましーた。

この政府発表は、安邦保険が2014年10月、ヒルトン・ワールドワイドから、外資による買収では当時、米国史上最高金額である19億5000万ドル(約2164億5000万円)で購入した米ニューヨークの老舗ホテル、ウォルドルフ・アストリアが、中国政府の手中に入ることを意味します。

ストラテジックホテル&リゾート、JWマリオット・エセックス・ハウス、ワシントンのフォーシーズンズホテルなども、中国政府の管理下に置かれることになります。

習近平政権の監督当局は数年前から、グローバル規模で不動産を積極的に買収する安邦保険の背後に注目していました。呉小暉会長は、元国家主席である故・鄧小平の孫娘と結婚しており、共産党内の江沢民派とも近い人物とされます。米政府系VOAは政治評論家の陳破空氏らの分析として、同社の株主は、こうした習近平政権と敵対する勢力が多く、呉氏が「金庫番」を担っていたとの見方を伝えました。



香港紙「蘋果日報」2017年4月22日付によると、中国当局は、2016年から米国保険会社や高級ホテルグループの買収計画を進めていた安邦保険に、ストップをかけました。保険監督管理委員会は、総資産に占める海外での投資額比率が高すぎるとして、同社の海外買収案を却下しました。

2017年6月、呉氏が中国当局に突然拘束されました。習近平政権は、金融機関の腐敗にメスを入れ、海外人民元の流出についても厳しく取り締まりを進めている最中でした。

安邦保険集団(アンバン・グループ)を中国政府の管理下に置かれたのは、以上のように中国国内の権力闘争の結果であることがわかります。そうして、この権力闘争は今のところ習近平派が勝利を収めています。

ブログ冒頭の渡辺氏の記事にもあるように中国では、バブルで金余りが生じる一方、国内投資物件の高騰により投資先が不足し、海外企業や海外資産の買収がブームになっていました。そして、中国企業が競り合う形で海外の投資物件の価格を釣り上げてしまっていました。

しかし、高値で買えば、利回りが悪化するのは当然の話であり、多くの投資案件で調達金利に対して運用利回りが低いという逆ザヤが生じたのです。

これは、安邦保険集団(アンバン・グループ)以外の、復星集団(フォースン・グループ)、大連万達集団(ワンダ・グループ)、海航集団(HNAグループ)も似たような状況でしょう。

しかし、習近平も似たようなことを国家レベルで行っています。それは、いわずと知れた「一帯一路」です。これを実現するため、中国は世界各地で様々な大きな投資を繰り返しています。

この「一帯一路」は妄想に過ぎないことを、以前このブログでとりあげたことがあります。その記事のリンクを掲載します。
中国の「一帯一路」がピンチ?大型プロジェクト取り消す国が相次ぐ―米華字メディア―【私の論評】"一帯一路"は過去の経済発展モデル継続のための幻想に過ぎない(゚д゚)!


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一帯一路が最初から無理筋のブロジェクトであることを示した部分を以下に引用します。

"
これ(ブログ管理人注:一帯一路のこと)は、あたかも海運を一種の“新発見”と捉えているかのようです。しかし、実際のところは、大航海時代以来、あらゆる沿海先進国が海運の発展を試みてきました。

“上海自由貿易区”によって今や世界最高のサービスを提供するシンガポール港から積替港の地位を奪う、その理由は、上海から日本・韓国への距離がシンガポールに近いからである等など、こうした考え方自体が噴飯ものです。

貨物を最終目的地に直接運ぶことができるのに、なぜ改めて積替を行う必要があるのでしょうか。欧州などを原産地とする貨物が、マラッカ海峡通った後に、なぜ遠回りして上海に行く必要があるのでしょうか。もしそのような必要があるなら、香港や珠海デルタがとうの昔にシンガポールを市場から駆逐していたはずです。

シンガポールと香港の持つ優位性で、自由貿易よりも更に重要なのは、法律制度と資本の保護です。欧米諸国が中国と貿易を行う際、シンガポールや香港で貨物の受け渡しをするのは、中国の制度を信用していないからです。

中国は依然として独裁政治で、態度が横暴な“大国”であり、この状況は変わりません。こうした中で、いわゆる“自由貿易区”を実施しても、中国の関税に穴が開くだけのことです。最終的には関税の全面的な取消しとなるか、植民地時代の租界になるだけであり、根本的に実施不可能です。

いわゆる“一帯”—“シルクロード経済帯”など、これはより荒唐無稽の極みにある妄想と言って良いです。大航海時代以来、古代のシルクロードはすでに完全に競争力を失っており、とうの昔に荒廃しているのです。


アフガニスタン、パキスタン、旧ソビエト連邦の中央アジア5か国等は、インフラや経済的収益をもたらす商機が欠乏しているのみならず、先天的要因である商業ルートの地理的制約が大きく、これをお金で解決することは根本的に不可能です。

タジキスタンと中国の間の唯一の国境検査所である“カラスウ検査所”を例にとると、この検査所はパミール高原に位置する。当地は海抜4368メートルで、基本的に人や動物が住まない所です。

当地にはウラン鉱の放射能や食料・水不足の問題があるほか、検査所の通過に6回の予約が必要となり、毎年冬には、5か月もの長きに亘って閉鎖されます。このようないわゆる“商業ルート”が、海運に対してどうやって競争力を確保できるというのでしょうか。

ロシアは、国を横断するシベリア鉄道を保有していますが、この鉄道の緩慢な貨物輸送に競争力はありません。また、ロシアは、制度が閉鎖的でインフラが不足しています。例えば、高速道路を見かけることは極めて稀です。

しかも、ロシアは中国を泥棒のように警戒し、中国がウラジオストック等の極東地域を“回収”することをおそれています。鉄道線路の軌道を統一しないほか、中国が制度や開発に口出しすることを容認しません。

極東パイプラインの問題を見ればすでに明らかなことですが、ロシアは日本を引き入れて中国と競争させたがっているだけで、しかも日本側に偏向しています。

中央アジア及び西アジアの国々の一部は、依然として全体主義国家であり、その開発の難度は北朝鮮にひけをとりません。

中国吉林省が長年をかけて勝ち取った豆満江の海上アクセスを例にとると、これは経済的に一攫千金の案件であったのですが、北朝鮮とロシアの反応は長期間消極的でした。わずか70キロの河道を開通させるのに、中国は10年以上の年月をかけたのです。

豆満江の流路
ちなみに、豆満江とは、中朝国境の白頭山(中国名:長白山)に源を発し、中華人民共和国(中国)、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、ロシアの国境地帯を東へ流れ日本海に注ぐ、全長約500kmの国際河川のことです。

これは、いわゆる“一帯一路”がたとえ“実施不可能”ではないにしても、その本質は、中国が長年取り組んできた課題を再包装したものにすぎないことを物語っています。
"
以上のような妄想を実現するために、中国は世界各地で多大な投資を行っているわけです。これは、中国企業による海外企業や海外資産の買収よりもさらに危険な賭けです。

これが成功するとはとても思えません。この妄想に多大な投資をすれば、中国企業による海外投資のように、いずれ利回りが悪化するのは当然の話であり、多くの投資案件で調達金利に対して運用利回りが低いという逆ザヤが生じることになります。

そうして、中国は多大な資金を失い、一帯一路から結局撤退することになります。習近平は、その責任を取らなければなりません。

その責任をとるには、何よりも再び中国の経済を活性化すれば良いのですが、それを危うくするほど一帯一路の失敗はかなり甚大なものになると思います。国内の投資であれば、それがたとえ大失敗したとしても、投資した多大な資金は国内の雇用に寄与するし、それは巡り巡って中国政府が税金として回収することになります。しかし、海外の投資ではそういうことにはなりません。

習近平は、一帯一路なる妄想に賭けるべきではありませんでした。中国のGDPに占める個人消費の割合は、未だ30%台です。現状では、40%台に近づいているようではありますが、それにしても、日本をはじめとする多く先進国の60%台、米国の70%台よりはかなり低いです。恒常的に40%にすることができれば、それだけで中国はかなり経済発展できるはずです。

しかし、習近平はそうはしませんでした。結局海外投資に打って出ました。中国国内でのインフラ投資が一巡して、現状では大きな案件がないので、海外に活路を求めたのでしょうが、これが吉と出る可能性は低いです。

個人消費を伸ばす政策をとらなかったのは、そのためには、国内である程度構造改革をしすすめて、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をしなければならないからです。そうしなければ、国内での産業は活発にはなりません。そうなると、中国の共産党による一党独裁性をある程度は改めなければならなくなります。

しかし、それを習近平は忌避したものと考えられます。もし、これを実行することにすれば、たとえ権力闘争などの多少の荒療治は追認されたかもしれません。そうして、中国の改革者として、中国史に名前を残せたかもしれません。

しかし、習近平は破滅の道を選んでしまいました。今のままだと、10年以内に失脚することになるでしょう。

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