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2020年8月28日金曜日

コロナ禍でも踏ん張れるアベノミクス2800日の「レガシー」―【私の論評】安倍晋三首相の連続在職日数が史上最長になったのは、多くの人の支えや賛同があったから(゚д゚)!

コロナ禍でも踏ん張れるアベノミクス2800日の「レガシー」

田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

田中秀臣氏(写真はブログ管理人挿入)

安倍晋三首相の連続在職日数が8月24日に2799日となり、史上最長になった。首相の大叔父にあたる佐藤栄作元首相を抜く記録である。

佐藤政権の時代はちょうど高度経済成長の後期に該当し、筆者も当時をよく記憶している。特に政権の最晩年に近づくにつれ、単に長期政権というだけで、国内のマスコミや世論の批判を受けていた側面がある。国外ではノーベル平和賞をはじめ、経済大国に押し上げた経済政策を評価されていたこととは対照的だった。

現在も続く新型コロナ危機でも、安倍首相の経済対策と感染症抑制に対する評価が国内外で全く異なっていることは、前回の論考でも説明した。筆者は常に、政策ごとにデータと論理で評価することに努めている。

政策には100点満点も0点もあり得ない。しかし、多くの人は全肯定か全否定しがちである。それは愚かな態度であるが、おそらく本人に指摘しても変わることはないほど強固な認知バイアスだといえる。

筆者の周囲にも「私の直観や感情では、安倍首相は悪い人」といって、どんなに論理や事実を提示しても意見、いや「感情」を改めることのない人は多い。このような人たちの多くは、テレビのワイドショーや報道番組の切り口に大きく影響されてしまう。「ワイドショー民」としばしば呼ばれる人たちだ。

このような感情的な反発がベースにあるワイドショー民が増えてしまえば、政治家の「人格」も「健康」も軽く扱われてしまう。要するに、非人道的な扱いの温床につながるのである。

安倍首相のケースでいえば、8月17日と24日の慶応大病院での受診や、新型コロナ危機の前後から続く過度な執務状況がそれに当たる。心ない反安倍系のマスコミ関係者や野党、そしてそれに便乗する反安倍的な一般の人々による、まさに醜悪といっていい発言を最近目にすることが多い。

この人たちはおそらく人を人と思っていないのだろう。どんな理屈をつけてきても、それでおしまいである。議論の余地などない。

ましてや、国会で首相の健康の状況を政争の論点にしようとしている野党勢力がある。そのようなレベルの考えだから、いつまでたっても支持率が低いままなのだ。きちんと政治を見ている心ある人たちもまた多いのである。

経済評論家の上念司氏は、8月24日の文化放送『おはよう寺ちゃん活動中』で「野党が(首相は)休むんじゃないとかひどいことを言っている。この健康不安説を流しているのは野党とポスト安倍といわれる政治家の秘書ではないか」と推論を述べている。首相の健康不安を過度にあおり、それを政争にしていく手法は、本当に醜悪の一言である。

この手の政治手法に「よくあること」などと分かった風のコメントをする必要はない。単に、人として品性下劣なだけだからだ。

実際には「一寸先は闇」なのが政治というものである。それでも、民主国家の日本でこれほどの長期政権を続けられるのは、国民の支持がなければあり得ないことだ。

この連載でも常に指摘していることだが、安倍政権が継続してきた主因は経済政策の成果にある。新型コロナ危機を一般化して、安倍政権の経済政策の成果を全否定する感情的な人たちもいるが、論外である。

もちろん景気下降の中で消費税率の10%引き上げを2019年10月に実施した「失政」を忘れてはならない。さらにさかのぼれば、二つの経済失政がある。2014年4月の8%への消費税引き上げと、18年前半にインフレ目標の到達寸前まで近づいたにもかかわらず、財政政策も金融政策も事実上無策に終わらせたことだ。

ただし、きょう2800日を迎える中で、新型コロナ危機以前の経済状況については、雇用を中心に大きく前進していた。「長期デフレ不況」の「不況」の字が取れ、「長期デフレ」だけになっていたのが、2度目の消費増税に踏み切る19年10月以前の経済状況だったといえる。

このことは、経済に「ため」、つまり経済危機への防御帯を構築したことでも明らかである。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の防御帯は主に3点ある。「雇用の改善」「株価、不動産価格など資産価格の安定」「為替レートが過度な円高に陥ることがないこと」である。

これらのほぼ全てを事実上、アベノミクスの「三本の矢」の金融政策だけで実現している。この状況に、積極財政の成果も急いで加えることができたら、インフレ目標の早期実現も可能となり、経済はさらに安定化しただろう。

雇用改善については、第2次安倍政権発足時の完全失業率(季節調整値)が4・3%で、新型コロナ危機前には2・2%に低下していた。現状は2・8%まで悪化しているが、あえていえばまだこのレベルなのは経済に「ため」があるからだ。

有効求人倍率も、政権発足時の0・83倍から、新型コロナ危機で急速に悪化したとはいえ、1・11倍で持ちこたえているのも同じ理由による。ただし、「ため」「防御帯」がいつまで持続するかは、今後の経済政策に大きく依存することは言うまでもない。

このような雇用の改善傾向が、若い世代の活躍の場を広げ、高齢者の再雇用や非正規雇用者の待遇改善、無理のない最低賃金の切り上げなどを実現することになった。

そのような中で、朝日新聞は首相連続在職最長になった24日に「政策より続いたことがレガシー」という東京大の御厨(みくりや)貴名誉教授のインタビュー記事を掲載していた。現在の朝日の主要読者層には受けるのかもしれないが、7年にわたる雇用の改善状況を知っている若い世代にはまるで理解できないのではないか。

日経平均株価は政権発足前の1万230円から2万3千円近くに値上がりし、コロナ危機でも安定している。為替レートも1ドル85円台の過剰な円高が解消されて、今は105円台だ。これらは日本の企業の財務状況や経営体質を強化することに大きく貢献している。

ところが、24日の日本経済新聞や読売新聞では、新型コロナ危機下であっても、財政規律や基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化の先送りを問題視する社説や記事を相変わらず掲載している。産経新聞は、比較的アベノミクスの貢献を詳しく書き、消費増税のミスにも言及している。

ただ、今回は別にして、産経新聞も財政規律を重んじる論評をよく目にすることは注記しなければならない。他にもツチノコのような新聞があったが、今はいいだろう。

      2万3000円台を回復した日経平均株価の終値を示す株価ボード
      =2020年8月13日午後、東京・日本橋茅場町
2万3000円台を回復した日経平均株価の終値を示す株価ボード=2020年8月13日午後、東京・日本橋茅場町
 これらのマスコミは経済失速を問題視する一方で、その主因の消費増税などをもたらす財政規律=緊縮主義を唱えているのだ。まさにめちゃくちゃな論理である。

感情的な印象論で決めがちなワイドショー民、健康を政争にすることを恥じない野党勢さ力、不況を責めながら不況をもたらす財政規律を言い続けるめちゃくちゃなマスコミ。こんな環境の中で、安倍首相はよく2800日も政権を続ける強い意志を持ち続けたと思う。本当に「偉業」だと率直に評価したい。

【私の論評】安倍晋三首相の連続在職日数が史上最長になったのは、多くの人の支えや賛同があったから(゚д゚)!

安倍総理自身による辞任の公表かなされてから、安倍総理や安倍政権に関する記事を、読んでみました。

ネットで見る限り、「レガシーなしの安倍政権」などの表題が踊っており、これらはとてもじゃないですが、自分自身のブログに掲載して、それを論評することなど、到底不可能と思い、本日は田中秀臣氏の上の記事を掲載させていただきました。田中氏の論評はいたって、まともだと思います。ただし、この記事は安倍総理が辞任を公表する前の、

田中秀臣氏に関しては、どのような人なのかは、他のメディアにあたってください。ただし、他のメディアにはない私の知っている田中秀臣氏に関してはここで若干説明させていただきます。

まず、田中氏は自他共に認める「リフレ派」です。私自身は、田中氏は正統派リフレはだと思っています。正統派とは、まともなマクロ経済学的観点からの、リフレ派だという意味です。田中氏とは、主にtwitter上のでのやりとりがありましたが、その中で感じたのは、やはり正統派ということでした。

ただし、私が正統派という場合、日本の経済学者の主流派という意味ではありません。東大を頂点とする、日本の主流派経済学者らは、はっきりいいますが、財務省の走狗であり、彼らの主張をは、世界標準の主流の経済学とはかけ離れており、まともではありません。

そのせいもあってか、最近はそのようなことはなくなりましたが、一昔まえは、異端派経済学者とみられていた時期もあったようです。

その中において、田中氏はいつもまともに、日本の経済の本当の有様を解説し、それ対する政策はこうあるべきだとの主張をしてこられました。

それは、上の記事をご覧いただいてもおわかりになると思います。あくまで、安倍政権の経済政策を是々非々でみて、論評しています。この姿勢は、以前から一環しています。

なお、民主党政権の政策については、自民党にお灸をすえるつもりで、民主党政権に政権交代させれば、大変なことになると批判してました。実際そのとおりになりました。

このブログの古くからの読者なら、おわかりでしょうが、私も無論そのように予測していました。そうして、私自身も安倍総理の政策を是々非々でみていました。高く評価したこともありますが、もちろん批判したこともあります。

この田中氏ですが、上の記事など読んでいると、田中氏のことを「保守派」と思うかたもいらっしゃると思いますが、本人は「リベラル派」と思っているようです。ただし、「リベラル派」とは現在の日本に多く存在するいわゆる似非リベラル派ということではなく、元々の正しい意味での「リベラル派」のようです。

その真性リベラル派からみても、安倍総理のレガシー(遺産)は、確かに今の日本にとって、間違いなく役にたっているのです。

たしかに、失敗もあるのですがそれでも、もし安倍政権になってからの、金融緩和政策がなければ、今頃失業率が軒並みあがり、日本はとんでもないことになり、コロナ対策どころではなくなっていた可能性が非常に高いです。

そのようなことを考えると、安倍総理のレガシーによって、現在日本は、コロナ禍に見舞われても、なんとか踏ん張ることができ、今後政策を間違えなければ、早期の回復も期待できるのです。

それと、安倍総理のもう一つのレガシーは、やはり極めて限定されているというものの、集団的自衛権の行使ができるようになったことでしょう。

集団的自衛権は世界中、どこの国でも保持しているし、殆どの場合、自由に行使が出来ます。集団的自衛権に関して、議論されていたときに、野党や新聞は、日本がこの行使が可能になれば、すぐに戦争になるとか、徴兵制が復活するなどと多騒ぎしました。

2015年8月30日午後2時、東京・千代田区の国会議事堂前で開かれた「戦争法案廃案!安倍政権退陣!
8・30国会10万人・全国100万人大行動」に参加した日本市民の巨大な波が国会を包囲

しかし、未だに日本は戦争をしていません。さらに、日本以外の国々では、集団的自衛権の行使を制限なくできますが、それらの国々のほとんどが、戦争をしていません。

日本だけが集団的自衛権を行使容認すると、途端に戦争が始まるという議論は、日本を特別に貶めるヘイト・スピーチだといっても過言ではありません。日本も世界の各国も対等です。日本だけが集団的自衛権の行使が許されず、仮にその行使が決定した瞬間に戦争になるというのは、論理的に破綻しています。

安全保障の議論は、空理空論であってはならない。集団的自衛権の行使容認によって、「立憲主義」が破壊されるという議論もありましたが、これもおかしな議論です。調べてみると、あのときに立憲主義が破壊されると叫んでいる人の多くが、PKO法案に反対し、「立憲主義が破壊される」と叫んでいた人々でした。

しかし、PKO活動が可能になって、30年近くの歳月を経た現在、PKO活動で立憲主義が破壊されるという主張はなされていません。自衛隊が海外に派遣され、自然災害等々で苦しんでいる人々を救援していることは、多くの日本国民にとって誇りです。弱い立場にある人々を救援して、立憲主義が破壊されるとは、滑稽な空理空論でした。

それと、「もりかけ桜」(くだらない上に面倒なので、このように一つまとめます)で、野党は安倍政権や安倍総理個人を攻撃し続けましたが、いまだにどれも「疑惑」の範囲を超えていません。あれだけ、長い時間をかけたのですが、結局どれもいわゆる「物証」などが出てこず、安倍政権や安倍総理を追い込むことはできませんでした。

ワイドショー民は、そのようなことはしないようですが、私自身は、公に公表されている関連文書をいくつか読んでみましたが、どれ一つをとっても、倒閣に結びつくものはありませんでした。私の出した結論は、倒閣でありもしない問題をさも「問題あり」としているだけという結論を出しました。

このようなことばかりやっていると、野党は自らをすり減らし、弱体化していくだけだと思いました。そうして、実際そのとおりになっています。次の選挙では、与党がよほどの間違いをしでかさない限り、与党が勝つのは当たり前という状況です。

それと、外交においても、全方位外交を実践し、日本の存在感を高めました。外交をするだけではなく、実際に多く国々との関係を深め、TPPや日欧EPAを発足させました。しかし、海外では高い評価を受けているものの、日本国内ではあまり評価されませんでした。

経済でも、安全保障でもこのような、外交でも、不可思議で無意味な議論がまきおこる、日本において、安倍政権は2800日も政権を続けることができたということは、奇跡に近いかもしれません。

さて、ポスト安倍ですが、私は現在のところは、麻生氏が総理大臣をつとめるのが、一番だと思います。他のポスト安倍候補は、先日も述べたように、河野防衛大臣や小泉環境大臣も含めて、全員が増税などを正しいと信じる緊縮派です。ただ、麻生氏は例外です。

麻生氏は、従来は麻生氏を要に、財務省の意向を政権内部周知徹底するという役割を担っていたようで、本人自身も「増税は国際公約」と述べるなど、かなり財務省よりでしたが、最近豹変しました。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
麻生氏の「豹変」が象徴する政府と日銀の“対コロナ連合軍” 相変わらずのマスコミ報道には笑ってしまう ―【私の論評】ピント外れのマスコミには理解できない日本国債の真実(゚д゚)!
麻生副総理、財務大臣
詳細は、この記事を読んでいただくものとして、以下に一部を引用します。
 いずれにしても、戦前の大恐慌並みの経済ショックの際に、過去最大規模の国債を発行するのは当然である。それでも財務省の事務方は財政再建の旗を降ろさないが、麻生太郎財務相には、事務方とは違う良い兆候もある。麻生氏は5月12日の記者会見で、政府の借金が増え過ぎることによって日本財政が信頼されなくなる可能性を指摘してきた財務省を「オオカミ少年」と表現したのだ。
この記事にも掲載したように、新規国債の発行額が、当初予算と1次、2次補正を合わせて過去最大の90兆2000億円に達したと報じられたのですが、 戦前の大恐慌並みの経済ショックの際に、過去最大規模の国債を発行するのは当然である。それでも財務省の事務方は財政再建の旗を降ろさないが、麻生太郎財務相は5月12日の記者会見で、政府の借金が増え過ぎることによって日本財政が信頼されなくなる可能性を指摘してきた財務省を「オオカミ少年」と表現したのです。

コロナ・ショックは戦争状態ともいえるような非常事態です。そこで麻生氏が共同談話で「日銀と政府の関係は、きちんと同じ方向に向いていることがすごく大事なことだ」と語ったことが重要です。

これは、政府と日銀との連合軍が組まれたことを意味します。経済政策としては、財政政策と金融政策の同時・一体発動を意味しており、コロナ・ショックという戦後初、戦前の大恐慌に匹敵するくらいの経済危機に対し、政府の危機感を示すものでした。

政府と日銀との連合軍では、政府が大量の国債発行によって財源調達を行うのですが、その一方で、日銀がその国債の買い入れを行います。これによって政府が巨額の有効需要を創出でき、不況の下支えをするのです。まさに大恐慌スタイルの経済政策です。

この政策のリスクは、インフレ率が高まることです。しかし、コロナ・ショックは基本的に需要蒸発した需要ショックなので、当面はインフレというよりデフレを心配すべきときです。こんなときに、「デフレがー金利がー」と叫ぶような人は、経済が、特に未曾有の経済危機に至ったときの、経済政策がどうあるべきか等を知らない人です。

現時点で、麻生氏以外が総理大臣になった場合、消費税増税や、かつての復興税のようなコロナ増税を、財務省手動のもとで推進しかねません。そうなれば、日本経済はリーマンショックのときにのように、一人負けになり、他国がコロナ禍から経済が回復した後も、しばらくデフレや、円高に悩まされかねません。それだけは、避けるべきです。

最後に百田尚樹氏のツイートを掲載します。



まさに、百田氏の言う通りだと思います。安倍総理のレガシーをまともに評価できない人は、他の評価も信憑性に欠けるとみるべきです。

そもそもも、安倍晋三首相の連続在職日数が8月24日に2799日となり、史上最長になりえたのは、多くの人の支えがあったからです。独裁国家ではそのようなことは簡単なのかもしれませんが、日本のような民主国家では、多くの人の支えや賛同がなければ不可能です。

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2020年4月10日金曜日

日本が「東京封鎖ナシ、1ヵ月で緊急事態を脱出」できる最後の手段―【私の論評】多くの人が、他者との接触を極力避ければ、一ヶ月後には間違いなく、先が見えてくる(゚д゚)!

日本が「東京封鎖ナシ、1ヵ月で緊急事態を脱出」できる最後の手段

見えてきた「目標達成のための条件」
安倍首相「8割の接触減を」の根拠
安倍晋三首相が4月7日、緊急事態宣言を発令し、記者会見で人と人との接触を最低7割、極力8割削減すれば「1ヵ月で緊急事態から脱出できる」と訴えた。はたして、本当に脱出できるのだろうか。欧州の例をみる限り、可能性はゼロではないが、微妙だ。

安倍首相が「1ヵ月で脱出可能」と述べた根拠の1つは、厚生労働省のクラスター(感染集団)対策班のメンバーである北海道大学の西浦博教授が示した試算のようだ。


8日付の読売新聞は「首相『接触 極力8割減を』 緊急事態脱出へ訴え」と題した記事で、西浦博教授(理論疫学)の試算に基づき、下のようなグラフを掲げた(https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200408-OYT1T50083/)。これとほぼ同じグラフは、中日新聞など他紙も紹介している(https://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2020040802000061.html)。
グラフによれば、30日を経過した時点で「8割の接触減」が達成できれば、新規感染者は青い点線が示すように急激に減少する。「2割の接触減」にとどまると、逆に赤い線が示すように、新規感染者は引き続き急上昇を続ける結果になっている。

グラフには「7割接触減」のケースが示されていないが、8割ほどではないにせよ、新規感染者は緩やかに減少していくのだろう。いつごろ新規感染者がゼロになるか、と言えば、8割減ケースでは、50日辺りでゼロに近づいている。これは中日新聞のグラフも同じだ。

そうだとすると、新規感染者がゼロからスタートして30日でピークに達し、それから20日程度(50日ー30日)でゼロに近づく計算になる。安倍首相が「極力8割減なら1ヵ月で脱出」と語ったのは、多少の余裕を見て「1ヵ月」という話なのだろう。

ただし、以上の結論は、あくまで西浦教授による推計である。日本より感染拡大が先行した欧州や米国など他国で、実際の状況はどうなのか。
各国の感染者数推移の見かた

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は「コロナウイルス追跡 パンデミック拡大に伴う最新の数字」という電子版の記事で、各国の感染状況を連日、分析している(https://www.ft.com/coronavirus-latest)。そこで、興味深いグラフをいくつも掲載している。

その1つは「最初に1日当たり30人の感染者が発見されてからの、新規感染者の推移」という下のグラフである(4月7日版。8日版は新規感染者数が7日間の移動平均)。
まず注意してほしいのは、新規感染者を示す縦軸は目盛りの幅が均等ではなく、対数スケール(目盛り)になっている点だ。たとえば、10と50の幅は50と100の幅よりも大きい。なぜ、対数スケールなのかと言えば、感染者はたとえば、1人から2人へ、2人から4人へ、4人から8人、8人から16人へと「指数関数的に増えていく」と考えられるからだ。

そんな新規感染者の増加を絶対値に基づく線形スケールで示すと、推移を示すグラフの形は横軸の経過日数にともなって、1、4、8、16と上昇していくので、あっという間に天井を突き抜けてしまう。まさに「うなぎ上り」だ。

だが、対数スケールにすると、たとえば、5日毎に新規感染者が倍増した場合でも、グラフの形は右斜め上に伸びる「直線」で示される。経過日数が短い間に2倍になれば、傾斜角度が急になり、逆に、長くて2倍になれば、緩やかになる。

グラフの角度を眺めれば、新規感染者が急増しているのか、それとも増加が緩やかなのか、はたまた減っているのか、が一目瞭然になるのだ。たとえば、完全に平らな形になれば、新規感染者は増えもせず、減りもせず、一定数にとどまっている状態を示している。
都市封鎖に踏み切った国の「その後」

さて、そこで日本をみてほしい。日本は青色の線で示されている。グラフによれば、日本の新規感染者は当初、欧米各国よりも下にあったが、ここへきて増加し、右斜め上に線が伸びている。

グラフ中にいくつかある星型マークは、各国が都市封鎖(ロックダウン)した時点を示す。横軸は「最初に1日当たり30人の感染者が発見されてからの経過日数」だから、封鎖した現実の日付ではない。経過日数だ。たとえば、10日が経過した時点では、星型マークが2つある。うち1つはフランスと読める。

そこで、イタリア(黒色)を眺めてみよう。

グラフによれば、イタリアは18日が経過した辺りで都市封鎖した。それから28日ぐらいでピークに達し、しばらく、ほぼ一定数を保った後、35日辺りから緩やかな下向きに転じた。最後の45日付近では、明らかに減少傾向になっている。

これは何を示しているか。イタリアは「都市封鎖から27日程度(45日ー18日)で新規感染者が減少傾向に転じた」のである。ほぼ1ヵ月だ。

もう1つ、イタリアと並んで感染が爆発したスペイン(ブルー)はどうか。スペインは10日経過時点で都市封鎖し、イタリアと同じように感染が急拡大した後、22日付近でピークに達し、30日付近で減少に転じた。35日付近では減少が明らかだ。

つまり、都市封鎖から25日程度(35日ー10日)で山を越えている。スペインの脱出はイタリアよりも、やや早いくらいである。英国はさらに早く、グラフで見る限り、都市封鎖から14日程度で山を越えつつあるようだ。ただし、この3ヵ国は4月8日時点で都市封鎖を解除していない。

「1ヵ月で脱出」は可能なのか

以上からみると、緊急事態宣言から「1ヵ月で脱出する」という日本の目標は達成不可能とは言えないが、容易ではない。ただし、新規感染者を1ヵ月で減少傾向にするのは、十分に可能である。それで宣言を解除するかどうかは、政治判断になる。

安倍首相や東京都の小池百合子知事が再三、述べているように、日本の緊急事態宣言は欧米のような強制力を伴った都市封鎖ではない。公共交通手段は確保され、商店がすべて閉まっているわけでもない。サラリーマンの出勤も減ったとはいえ、続いている。

だが、多くの人々は政府や自治体の呼びかけに応じて外出を自粛している。FTが掲載しているグラフは「都市封鎖が感染拡大防止に極めて有効」という結果を実証している。そうであれば、鍵を握るのは「欧州並みの外出自粛ができるかどうか」になる。

うまくいけば、1ヵ月どころか、英国のように、2週間程度で成果を出すのも可能だ。いずれにせよ、有効なワクチンや治療薬がまだない以上、外出を控えて「人と人の接触を避ける」ことが、新型コロナウイルスと戦う「最後の手段」であるのは間違いない。

4月7日深夜に公開したYouTube番組「長谷川幸洋と高橋洋一の『NEWSチャンネル』」では、同じFTのグラフも使って、長谷川と高橋の2人が新型コロナウイルスの見通しなどを徹底議論した(https://www.youtube.com/watch?v=SKStfChCKrg&t=50s)。こちらも、ぜひ参照していただきたい。



【私の論評】多くの人が、他者との接触を極力避ければ、一ヶ月後には間違いなく、先が見えてくる(゚д゚)!

メディアは、連日「感染者が新たに●●人」「感染者●●人超える」「●●県で初の感染者」等と速報を打って、人々を震え上がらせています。緊急事態宣言や“ロックダウン”を求める知事や識者らの声が日々高まっています。手遅れだ、という悲観論も多いです。

一方で、公開情報で、誰でも確認できる情報なのに、全く報じられていないデータや事実があります。

メディアは連日、「感染者数」=「陽性と確認された人数」ばかりを報道しています。

 私たちが日々報道で知る「感染者」の推移は、次のとおりです(毎日新聞の特設ページより)。


ところが、検査人数も増加しています。よく知られている通り、日本では新型コロナウイルス感染症との疑いが強くなった段階でPCR検査を行っているとされ、検査数が少ないです。もっと検査すればもっと陽性確定者が出てくるはずだ、との批判が強いです。

しかし、これは昨日このブログで示したように、現在のPCR検査の誤判断率が3割から5割にも登るからです。

これが意味することは、野放図な検査は意味なしということです。だかこそ、検査を絞って実施しているのです。このような、絞られた条件のもとで実施されたPCR検査でも、陽性確定したのは1割未満にとどまっているのです。9割以上が陰性でした。

厚労省のサイトより転載

グラフでは以下ようになります。黄色が陽性と確定した人数、それ以外は陰性だった人数です(最新データは、毎日新聞の特設ページを参照のこと)。


検査数が増えているので、陽性確定者が可視化され、増えているのは間違いないですところが、その中には一定数の無症状者もいます。退院者も増えています。

3月28日は69人、4月4日は1日に61人が退院しました(これまでの累計568人)。もちろん公開されている情報ですが、メディアは新規「感染者」しか報じません。

「1日あたり退院者が過去最多」というニュースは、一切出ません。


新型コロナウイルス感染症は、まだワクチンはありません。治療薬は重傷者には使用され、一定の効果をあげていますが、それはあくまでも現在のところ重傷者にのみ実験的に使用されている段階です。したがって、致死率もインフルエンザより高いとされています。

ただ、まだ全体像はつかめていません。国によっても大きな違いがあり、「致死率はまだわからない」というのが現時点では一番正確でしょう。わからない以上、想定以上に高い可能性がある、という恐れを抱いておくに越したことはないかもしれません。

それを前提に、冷静にデータを見てほしいです。4月5日12時現在、感染者数の累計は3271人ですが、重症者は70人、死者は70人です。

重症者数、死者数の推移は1日あたりの推移は、次の通り、横ばいで推移しています(最新データは、東洋経済オンラインの特設ページを参照)。


この感染症は、感染から発症、重症化、死亡までは一定の時間がかかる症例が多いとされます。今、私たちが見ているデータの多くは1~2週間前に感染した例が多いです。今後、重症化する人が急増する可能性は、もちろん否定できません。

あくまでこれらは過去のデータに過ぎない、といえば、その通りです。今後はどうなるかわからないです。ただ、現時点で確認されているデータを無視すべきではないのも事実です。

もちろん、新型コロナウイルス感染症は全く危なくない、と言いたいのではありません。少なからずの人が亡くなっており、一人一人の命は重たいです。ウイルスは人を選びません。著名人の命を奪ったことは列島に衝撃を与えました。

それでも、あまりにメディアの報道が「感染者数」ばかりにクローズアップし過ぎているので、「今のところ、重症者・死者は1日あたり1桁台で推移している」という事実は、知っておくべきと思います。
東京都・新型コロナウイルス感染症 対策サイトより

東京都では感染者が急増しています。他方で、重症者・死者は抑えられています。人口1300万の都市において、感染者数は1000人を超えたのですが、重症者24人、死者は30人です(最新データは、東京都・新型コロナウイルス感染症対策サイト参照)。

これも今後、急増する可能性がないわけではないですが、現状は、その多くが軽症・中症状者か無症状とみられます。

ところが、懸念されるのが病院がパンクして院内感染が拡大して機能麻痺してしまう、いわゆる「医療崩壊」だ。指定感染症医療機関の病床数も逼迫していると伝えられています(新型コロナウイルス対策ダッシュボード参照)。

東京都は、病床数の拡大を急いでおり、すでに1000床確保し、4000床を目指すとしています。

軽症者がホテル等に移されることも決まっており、逼迫しながらも、現状は、すぐに医療崩壊が起きる状況にないようです。 

政府専門家会議メンバーの発言をメディアが黙殺 「ロックダウン全くする必要がない」発言も

4月4日のNHKスペシャルで、記者会見でおなじみの、政府専門家会議の尾身茂副座長は、番組前半に次のように明言しました。
これは私の考えです。今回、緊急事態宣言が出ても、いわゆる欧米、イタリアとか武漢でやっている、いわゆる“ロックダウン"、都市封鎖ということを、私は全くする必要がないと思います。 
NHKスペシャル4月4日放送より

尾身氏はこうはっきり言い切ったのですが、どのメディアも報道しませんでした(Yahoo!ニュース検索調べ。他局の番組で取り上げているところもおそらくないでしょう)。尾身氏は番組内で、緊急事態宣言が今すぐ必要な状況にある、というような、発令に前向きな発言もしませんだした。これが生放送でなく、収録であれば、この尾身氏の発言は報道されたでしょうか。緊急事態宣言、事実上のロックダウンをした方がよい、という、都知事や有識者らの声は、たびたび報道もされています。

同じ専門家会議の押谷仁・東北大学教授も同日、ツイッターで「危機感のレベルがオーバーシュートしている」と懸念を示しつつ、
緊急事態宣言をした場合には特定の業種を、法的根拠を持って閉鎖したり、より強い外出の自粛をお願いすることになりますが、すぐに東京や大阪からの交通が遮断されたりすることはありませんし、その必要がある状況でもありません。東京と大阪の状況はニューヨークなどの状況とは全く異なります。いわゆる「3密」の環境にあるホットスポットに行きさえしなければ、東京、大阪で普通の生活をしていて感染するリスクは非常に低いのです。(以下、略)出典:専門家会議メンバーの押谷仁・東北大学教授(4月4日Twitter投稿)
などと、長文のコメントを投稿しました。この投稿は反響を呼び、5.7万件もリツイートされたので、ご覧になった方は少なくないと思います。ところが、これも全く報じられることはありませんでした(Yahoo!ニュース検索調べ)。

欧米諸国では感染拡大が深刻化し、ロックダウン(外出禁止・都市封鎖)している国々の状況がメディアで大きく取り上げられています。一方で、韓国や台湾では、ロックダウンせずに、感染拡大・死者を抑えている。日本はどちらかというと後者に属します。

実は、100万人あたりの感染者数は、日本と台湾とで、さほど変わりません(札幌医科大学附属病院のサイトで、確かめてみてほしい)。日本の人口は約1億2千万人であり、台湾は約2千万です。日本の人口は、台湾の人口の6倍です。このことを忘れて、単純に感染者数などで比較している人もいますが、それは正しい見方ではありません。

100万人当たりの死者数を、欧米とアジア主要国で比べると、次のとおりです。


韓国も台湾も、社会・経済活動をある程度維持し、学校も開いていますが、感染爆発という状況には至っていません。

なぜ欧米諸国でかくも感染拡大・死者が増え、東アジアでは抑えられているのか、要因はよくわからないです。

ここまで日本がギリギリで持ちこたえてきたのは、医療関係者と専門家の尽力が大きいと思います。感謝すべきです。

このようにデータを参照すると、安倍総理が語ったように、緊急事態宣言から「1ヵ月で脱出する」という日本の目標は達成不可能とは言えないですが、結構難しいようです。ただし、新規感染者を1ヵ月で減少傾向にするのは、十分に可能です。

もう、緊急事態宣言は出てしまったのですから、当該地域の人々は、人との接触を8割減らすことに専念していただきたいです。そうして、政府のほうも、それを実現するためにも、協力な支援策を打ち出すべきです。

人は、先に希望があれば、貧乏や危機に意外と強いものです。それは、私達の先達が、歴史で示しています。

様々なデータから、接触を減らすことで、感染を減少傾向に持っていくのは、可能であることがはっきりしてきました。

皆さんも、希望を捨てずに目の前の、人との接触をなるべく減らすということに、集中すべきです。多くの人が本当にそうすれば、1ヶ月後には先が見えるようになります。

ところで「もりかけ桜」問題でも、マスコミはさんざん煽ってきましたが、私自身は、一般に公表されている資料から、「もりかけ」では安倍政権を退陣に追い込むことは不可能だと早い時期から思っていました。「桜」に至っては、どう考えても、倒閣という立場からみても、筋悪以外の何ものでもないと思えました。それに関しては、過去のこのブログに述べました。

実際そのとおりになりました。今後も、「もりかけ桜」等ではどう考えても、野党や左翼の立場にたって考えても、倒閣など無理です。

にもかかわらず、まだ居酒屋に行けた時代の昨年の11月あたり、高齢者4人組が「もう一度加計問題をやるべき」などと真顔で話していました。それについては、このブログにも書きました。彼らは、当然のことながら、サイトで公表されている戦略特区グループの議事録等読んでいないようでした。

おそらく、彼らの情報の入手先は、テレビのワイドショーや大手新聞だけなのでしょう。このブログを読んでいる皆さんは、そのようなことにならないように、コロナウイルス等の情報は、上で示した情報源にあたり、自分の頭で判断し、それだけではなく、ワイドショー民の方々に教えてあげましょう。

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