2021年4月17日土曜日

中国V字回復に影落とす新冷戦 米の禁輸措置で半導体不足深刻―【私の論評】今まさに「脱中国依存」への日本の覚悟が問われている(゚д゚)!

中国V字回復に影落とす新冷戦 米の禁輸措置で半導体不足深刻

北京のファーウェイ販売店で展示されていた最新機種「Mate X2」

 中国の今年1~3月期のGDPは、新型コロナウイルス禍で昨年、初のマイナス成長に落ち込んだ反動で過去最高の伸びとなった。中国の経済規模が米国を追い抜く日がさらに近づいたとの見方もある。ただ、米国による対中禁輸措置で半導体不足が深刻化。国家発展戦略の柱であるハイテク産業だけでなく、V字回復に貢献してきた自動車産業も打撃を受けるなど「新冷戦」とも呼ばれる米中対立が中国経済に影を落とす。 (北京・坂本信博)

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 北京市中心部にある中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の販売店。一番目立つ場所に、2月下旬に発売されたスマートフォンの最新機種「Mate X2」が展示されていた。上位機種は約1万9千元(32万円)と高額だが、人気を集めている。

 高機能が詰まった折りたたみ式で、高速大容量の第5世代(5G)移動通信システム対応。店員は誇らしげに説明してくれたものの「残念ながら在庫切れで、入荷時期は未定です」と申し訳なさそうに言った。

 トランプ米前政権はハイテク分野で対中輸出規制をかけ、バイデン政権も方針を継続。その影響で、同社や半導体受託生産最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)は、高性能半導体や製造機の調達が困難になっている。新商品も近く発売予定だが、ファーウェイ社員は「最新鋭スマホ用の高性能半導体は在庫が尽きかけている」と明かす。

 あらゆる分野の製品に欠かせない半導体について、業界関係者は「コロナ禍で世界的に半導体の生産体制が逼迫(ひっぱく)していることに加え、米国の禁輸措置で需給バランスがますます崩れている」と指摘する。

 中国メディアによると、新興電気自動車(EV)メーカーの上海蔚来汽車は先月、半導体不足などを理由に5日間の生産停止を余儀なくされた。中国自動車工業協会によると、今年2月の自動車生産台数は前月比で4割近く減ったという。

 習近平指導部は自国の科学技術向上を掲げ、2025年には半導体の自給率を7割とするための支援策を強化。昨年だけでも約1万社が新規参入した。ただ、半導体製造装置メーカーの世界トップ10社は欧米や日本が占めており、技術力不足も深刻だ。業界関係者は「半導体製造装置を確保できなければ、メード・イン・チャイナは二級品どまりになる」と指摘する。

 米中対立の先が見えない中、米国は日本などと半導体などの確保を巡り連携を深める。北京の外交筋は「中国にとって、半導体や工作機械の製造技術を持つ日本は重要な存在。習指導部は日米首脳会談の行方を注視している」と話した。

【私の論評】今まさに「脱中国依存」への日本の覚悟が問われている(゚д゚)!

バイデン政権は、トランプ政権に引き続き、ハイテク規制をさらに強めていくようです。ハイテク規制とは、米中対立の激化に伴い、トランプ前米政権が導入した通信機器など高度技術を扱う中国企業に対する規制のことです。

機密情報の漏洩防止や、不公正な貿易慣行に対抗する狙いがあります。超党派で対中強硬論が広がるなか、2020年8月から連邦政府と取引する米国企業に対し規制対象の中国企業の製品を使うことを禁止しました。


トランプ前政権で対象となったのは通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)など5社でした。18年に禁輸措置を課されたZTEは経営が行き詰まり、習近平(シー・ジンピン)国家主席がトランプ前大統領に制裁解除を訴える事態にも発展しました。

バイデン政権下でもハイテク規制の緩和は見込めないとの見方が強いです。米産業界では過度な規制で中国企業と取引する米半導体産業も打撃を受けるとの懸念があがっています。サプライチェーン(供給網)の米中デカップリング(切り離し)で日本企業にも悪影響が広がる可能性もあります。

上の表にもあるように、バイデン米政権は米国内の民間企業に対し、中国製IT(情報技術)機器やサービスの利用を規制します。5月中旬にも、政府の許可を事前に取るよう求める制度を導入し、政府の判断で利用を禁じます。企業を通じて中国政府に機密情報が漏洩するのを防ぎます。日本企業の米国法人も対象で、企業は難しい対応を迫られることになります。

アップルは昨年7月にある重大な発表を行なったものの、世間の注目度は比較的低いものでした。その発表とは、iPhoneで当時の最新モデルだった「11」の製造拠点を中国からインド・チェンナイへ移行するというものでした。

その数週間後、サムスン電子やフォックスコン、ペガトロン、ウィストロンといったアップルのサプライヤー、インド製造企業のマイクロマックスとラバ、そしてさらに18社の企業が、インド政府が電子機器製造の大規模生産を推奨するために立ち上げた「生産連動型インセンティブ(PLI)」スキームの申請を行いました。同スキームへの参加により、これら企業は製造拠点の多くをインドへ移すことになります。

インドのiPhone製造工場

同スキームに参加することで、インドへ輸出する電子製品に対する20%の課税を回避できます。量的にみれば世界で最も重要な市場の一つであるインドは最近、保護的な貿易政策を強化してきました。またこの動きは、中国における製造コストの上昇と製造の機械化、それに伴う労働力依存の低下に関連した、より深いマクロ経済的な問題を反映しています。

同時に、米国のバイデン政権はトランプ政権に引き続き中国に対し、国内市場を世界に向けて開いて競争を受け入れ、自国民の人権を尊重するよう圧力をかけ続け、同盟国にも同調するよう働きかけつつあります。アップルが製造拠点の一部を中国の隣国であるベトナムへ移転した際には、同国の地方部に経済効果が生まれました。

このような傾向がみられるのに、日本では未だに中国に拠点を置き続けたり、関係を強化す企業が多いです。さらに、日本は経済安保に絡んだ法整備も遅れています。3月に公表された中国IT大手の騰訊(テンセント)子会社による楽天への出資では、外為法の不備が露呈しました。

楽天三木谷社長

テンセントはトランプ前政権時に「安保の脅威」とみなされていた企業です。バイデン政権は日本に対して「米欧並みに厳しい法整備」(米国家安全保障会議)を望んでいます。これを考えると、まさに楽天三木谷社長の意思決定は周回遅れと言われても仕方ないと思います。

中国政策は日米が足並みをそろえて共同戦線を張ることが重要です。いくら米国がハイテク規制を強めても、日本から日米の技術を使用したハイテク製品や、技術が入れば、無意味となるからです。

米議会には、日本の対中輸出制裁を米国と同水準まで厳格化するよう求める声が根強いです。まさに「脱中国依存」への日本の覚悟が問われているのです。

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2021年4月16日金曜日

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日米首脳、共同文書で対中牽制「台湾」明記へ 菅首相とバイデン大統領、初の対面首脳会談

バイデン米大統領と菅総理

 菅義偉首相は米東部時間15日夜(日本時間16日午前)、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に政府専用機で到着した。ジョー・バイデン大統領と16日午後(同17日未明)、初の対面形式による首脳会談に臨む。会談では、軍事的覇権拡大を進める習近平国家主席率いる中国への対応を協議し、新型コロナウイルス対策や気候変動問題での協力も申し合わせる。会談後に発表する共同文書に、台湾海峡の平和と安定に関する問題が明記される可能性が高まっている。

 「(日米首脳は会談で)中国や台湾海峡について深く話す」

 米政権高官は15日、首脳会談に先立つ電話記者会見でこう語った。

 ホワイトハウスで行われる会談では、日本の外交・安全保障の基軸である日米同盟を強固にする重要性で一致。「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向け、日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の連携強化を申し合わせる。

 菅首相は東京五輪・パラリンピックの成功に向けた協力も呼び掛ける。新型コロナワクチンをめぐり、途上国向け支援を含む日米協力の在り方についても意見を交わす。

 こうしたなか、会談後に発表する共同文書に、台湾海峡の平和と安定の重要性について記載することが調整されている。外務省によると、日米首脳の共同文書で「台湾」を明記することは、佐藤栄作首相とリチャード・ニクソン大統領による1969年の会談以来。

 米台関係をめぐっては、クリス・ドッド元米上院議員と、リチャード・アーミテージ元国務副長官らの非公式代表団が訪台し、15日に蔡英文総統と会談した。

 こうした動きに対し、中国側は軍事的挑発を行った。

 台湾の中央通信社が運営する日本語サイト「フォーカス台湾」によると、中国軍は15日から、台湾周辺海域で6日間の実弾射撃演習を実施しているという。

 日米首脳の共同文書に、台湾が明記される意義は何か。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「ドナルド・トランプ政権が米中関係を逆転させて以来、バイデン政権も『台湾重視』の基調は踏襲している。バイデン政権は、台湾海峡での軍事的紛争を望まず現状を維持を望んでいる。沖縄県・尖閣諸島周辺に中国海警局船が連日侵入している日本にとっても安全保障上、メリットがある。日米が立場を明確にすることは、中国にとっては『内政干渉』で、非常に嫌がることだろう」と語った。

【私の論評】日米から圧力を受ける現在習近平は7月1日共産党結成100周年演説で何を話すのか(゚д゚)!

日本の首相が近隣諸国以外で最初の外国訪問先として米国を選ぶことは、これまでも珍しいことではない。しかし、今回の菅首相とバイデン米大統領の首脳会談には特筆すべき点があります。菅総理は、バイデンが大統領就任後初めて直接対面する外国首脳なのです。 菅総理が一般の米国民の間ではほとんど無名の存在であることを考えると、今回の首脳会談はバイデン政権が菅総理を極めて重視していることの表れとみて良いでしょう。

これは、バイデン政権が日本を特別な存在とみていることの現れです。これは日本にとって日米同盟を強化するための絶好の機会であり、米国と協力して軍事力で脅威を増す中国に対し、「ノー」を突き付けることにつながります。

バイデン大統領はクアッドの4カ国首脳会談で「『自由で開かれたインド太平洋』は不可欠である。アメリカはこの地域の安定を目指し、全ての同盟国やパートナーとの協力を強く約束する」と述べました。

3月12日米豪印の首脳とテレビ会議をするすが首相(右端)

バイデン氏は大統領選挙の前から対中戦略の大きな柱として同盟国との協力を前面に打ち出すことを構想していました。特に中国の習近平政権と長期的に競争していくために地理的にも歴史的にも中国との関係が深い、日本との協力関係を重視しようとしています。日本はインド太平洋地域での駐留米軍の最大拠点で、経済力では中国に世界第2位の地位を奪い取られたものの、世界第3位を保っています。

こうした日本との連携を強化することで、米国の同盟国や友好国に安心感を与えることも狙っているのでしょう。

中国の行動、言動には目に余るものがあります。

沖縄県の尖閣諸島周辺海域での中国海警局船の日本領海侵入、東・南シナ海での軍事的行動、台湾に対する威嚇、香港からの民主派の強硬的一掃。習近平政権は、地域の安全と平和を脅かしています。国際社会を蔑ろにする一連の行動はどこから生まれるのでしょうか。

習近平国家主席(中国共産党総書記)は「党の指導や中国の主権と安全、それに党と国の利益が損なわれるようなことがあれば、どこまでも強く闘う」とことあるごとにその闘争の意志をあらわにしてきました。

すでに日本は否応なく、中国との最前線に置かれています。中国が最も恐れるのは、米国の世界最強の軍事力です。日本が強権的な中国に対抗するには、この米軍の軍事力を利用して中国に無謀な軍事行動を思いとどまらせ、軍事的圧力、すなわち抑止力を効かせることです。

そうして、その体制は確実に構築されつつあります。これからもさらに強化されていくでしょう。今回の日米首脳会談はまさに、それを中国に対して強烈に示しました。日米は、中国が台湾に侵攻すれば、日米は動かざるを得ないとの強烈なメッセージを受け取ったことでしょう。

QUAD、日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)、それに続く日米首脳会談です。さらに米国は日米首脳会談以前に、台湾にアーミテージ氏などを含む代表団を台湾に送っています。日米が中国に対してこのような動きをすることは、前から十分に予測できたことです。

日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)を伝えるテレビ

これに呼応して中国で気になる動きがあります。今年7月、中国共産党は党創設100年を迎えます。2049年には毛沢東(党主席)が中華人民共和国の建国を宣言した1949年から100年となります。

中国共産党は3月23日、7月の党創立100周年に関する記者会見を開き、軍事パレードを行う予定はないことを明らかにしました。党中央軍事委員会政治工作部の李軍少将が「建党100年の祝賀活動の中に閲兵は入っていない」と明言しました。

今年の中国は中国共産党の建党100周年だけではなく、新経済五カ年計画の初年度という節目の年でもあります。党・政府としては年初から勢いよくダッシュをかけ、大きな成果を挙げたいところでしょう。

ところが昨年末の中央経済工作会議で決まった今年の経済運営方針をみると、内外の不透明要因があまりに多過ぎて、いかにも歯切れの悪い内容となっています。

昨年第14次五カ年計画を打ち出した周近平だが・・・・・

重点政策として打ち出されたのは、(1)国家の戦略的科学技術力の強化(2)産業チェーン・サプライチェーンの自立的なコントロール能力の増強(3)内需拡大を戦略的ベースにすることを堅持(4)改革・開放の全面的な推進(5)優良種子と耕地問題の解決(6)独占禁止の強化と資本の無秩序な拡大の防止(7)大都市の住宅の突出した問題の解決(8)カーボンニュートラル活動の推進-という8項目でした。前年の6項目から2つ増えたうえに、これまでになかった政策がずらりと並んでいます。

(1)と(2)はいずれも新登場の最重要課題で、ともに米中経済戦争の激化の中で、早急な解決を迫られています。米国からの対中制裁による打撃が、いかに深刻かを物語っていますが、これまでやってこなかったことを急にやり始めるわけですから、そう簡単には望んでいる結果を出せないでしょう。

(6)はアリババ子会社の上場中止という衝撃的な事件を受けて、急遽追加されたとみられます。ある程度の規制は必要としても、締め付けが過ぎれば、せっかく盛り上がってきたネット消費に冷水を浴びせかねないです。

8項目政策で明らかなのは、党・政府がこれまで以上に前面に出て、なりふり構わずに成長率を確保し、建党100周年を祝いたいという思惑でしょう。そして新型コロナウイルスの流行からいち早く立ち直り、中国が「独り勝ち」したことを世界に誇示したいのでしょう。

建党記念日は7月1日に設定されてきましたが、実際には7月23日に最初の共産党大会が開催されたようです。この日はくしくも東京オリンピック開会日の7月23日と重なっています。

いずれにしても7月に入れば、世界の関心の目は、東京が新型コロナを乗り越えて、オリンピックを無事に開けるかどうかに集まってくるでしょう。新型コロナを世界に拡散させた中国を見る国際社会の目が依然として厳しい中で、中国はどのように建党100周年の記念日を祝うのでしょうか。ただし、中国は7月1日、中国共産党(中共)の結党100周年記念日に習近平国家主席(68)が「重要演説」を行う計画だと明らかにしました。

中国の習近平指導部は、「抗日戦争勝利70周年」の15年、軍創設90周年の17年、建国70周年の19年と、ほぼ2年に1度のペースで軍事パレードを実施し、内外に軍事力を誇示してきました。党創立100周年という重要な節目でのパレード見送りは、台湾問題や新疆ウイグル自治区の人権侵害などをめぐり欧米が批判を強める中、中国脅威論がさらに高まるのを避ける思惑もありそうです。

それに変えて、習近平が重要演説を行うというのですが、はたしてどのような演説をするのでしょうか。良い材料が一つもない現状の中国です。あまり期待できそうにもありません。

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2021年4月15日木曜日

蔡総統、米代表団と会談 「台米のパートナー関係の深化が示された」/台湾―【私の論評】ケリー氏を中国に、アーミテージ氏を台湾に派遣したバイデン政権の本音(゚д゚)!

蔡総統、米代表団と会談 「台米のパートナー関係の深化が示された」/台湾

ドッド元米上院議員(左)らへのあいさつをする蔡総統


蔡英文(さいえいぶん)総統は15日、米バイデン大統領が台湾に派遣したドッド元米上院議員率いる代表団と総統府(台北市)で会談した。蔡総統は、バイデン政権下で初の代表団派遣だと紹介した上で、「深化を続ける台米双方のパートナー関係を示した」と歓迎した。

代表団のメンバーはバイデン氏の盟友であるドッド氏のほか、アーミテージ、スタインバーグの両元国務副長官ら。代表団は14日午後に訪台した。

蔡総統はあいさつで、バイデン政権が台湾海峡の平和と安定の重要性を繰り返し表明していることに感謝の意を示した上で、中国が台湾周辺の海空域での軍事活動を活発化させ、地域の平和と安定を脅かしていることに言及。台湾には米国などの国家と共同でインド太平洋地域の平和と安定を守っていく意思があると強調した。

ジェームズ・スタインバーグ氏(写真左)リチャード・アーミテージ氏(写真中央)、クリス・ドッド氏(写真右)

ドッド氏はあいさつで、米国が断交後の台湾との関係のあり方を定めた「台湾関係法」の制定から今年で42年となることに触れ、当時、自身が制定に向けて奔走したことを紹介。同法の重要性は年々明白になり、「米国と台湾のパートナーシップはこれまでで最も強固になっている」と自信を示した。

また、米台関係における米国の約束を再確認し、共有する多数の利益における協力関係を深化させるのを目的に、バイデン氏の意向を受けて訪台したと説明。バイデン政権は台湾の国際空間を広げる手助けをし、自衛における投資を支援すると確信していると言及した上で、同政権は既存の頑丈な経済的結び付きのさらなる深化を模索するだろうと述べた。

【私の論評】ケリー氏を中国に、アーミテージ氏を台湾に派遣したバイデン政権の本音(゚д゚)!

14日には、バイデン政権で気候変動問題を担当するジョン・ケリー大統領特使が中国・上海を訪問しています。この「同時外交」は何を意味するのでしょうか。


「米国が台湾およびその民主体制への関与(の深さ)に関して重要なシグナルを送るものだ」

米ホワイトハウスは声明で、ドッド氏らの派遣について、こう強調しました。非公式代表団は、台湾関係法が今月10日に制定から42年を迎えたことに合わせて訪台しました。

ドッド氏は、バイデン大統領の盟友として知られます。アーミテージ氏は共和党のブッシュ(子)、スタインバーグ氏は民主党のオバマ各政権下で国務副長官を務めました。

両氏の派遣は、米国が超党派で台湾を支える決意を示す狙いがあるようです。

これに対し、中国外務省の趙立堅報道官は14日、「中国は、どのような形式でも米台の公的往来に断固反対する」といい、厳正な申し入れを行ったことを明かしました。

同じタイミングで中国を訪問したケリー氏は「親中派」として知られ、温室効果ガスの排出削減策をめぐって中国の気候問題担当特使、解振華氏と会談する予定。米紙ウォールストリート・ジャーナルは、中国外交トップの楊潔チ共産党政治局員や、王毅国務委員兼外相らと会談する情報もあります。

バイデン政権の、訪中と訪台の同時外交は一体何を意味するのでしょうか。

人権問題や多様性に熱心だとされるバイデン政権は、台湾や香港、ウイグル問題にも取り組まざるを得ないです。

一方で、ケリー氏の訪中は、このブログでも以前指摘したとおり温室効果ガスの排出削減を中国に承服させる代わりに、ドナルド・トランプ前政権による経済制裁を緩める等の宥和策に進む可能性があります。リチャード・アーミテージ元国務副長官(共和党)は現在は、超党派の非営利政策研究機関米国・ワシントンDCにある戦略国際問題研究所(CSIS:Center for Strategic and International Studies)に属しています。

CSISのリチャード・アーミテージ元国務副長官(共和党)とジョセフ・ナイ元国防次官補(民主党)は、「第5次アーミテージ・ナイ報告書」【The U.S.-Japan Alliance in 2020 AN EQUAL ALLIANCE WITH A GLOBAL AGENDA (日米2020年の同盟関係 グローバルな課題を持つ対等な同盟)】において日米同盟に関する提言を行いました。

アーミテージ氏は、「序章」において「2021年バイデン次期政権が発足するこの機会に、日本と米国の同盟関係が新たなステップを迎え、日本が自由貿易や多国間協調で対等な役割を担うようになった」と強調しました。

「特に安倍前首相の功績は大きく、憲法9条の再解釈により集団的自衛権行使を容認し、環太平洋パートナーシップ協定の完成、自由で開かれたインド太平洋構想の策定など、日本の革新的でダイナミックな地域リーダーシップにより、米国をはじめアジア地域に大きな利益をもたらした」と総括しました。

これを引き継ぐ菅義偉首相の努力を熱烈に支持するとともに、バイデン次期大統領と最も早く首脳会談を行う訪問者の一人になるよう推奨しました。

「安全保障同盟の推進」の章では、「日本は必要不可欠で対等な同盟国になっただけでなく、戦略概念の創造者として、『自由で開かれたインド太平洋コンセプト』など地域のパートナーシップのネットワーク化までやってのけた」と日本のイニシアティブを絶賛しています。

そして「日米同盟にとって最大の安全保障上の課題は『中国』である」と断言。「アジアの現状を変更しようとする中国の行動に対し、ほとんどの近隣諸国の間で安全保障上の懸念が高まっている」と分析しています。

「米国の尖閣諸島への日米安保条約第5条適用のコミットメントは、尖閣諸島防衛のための軍事力を強化し、共同計画の策定に繋がるだろう」と見積もっています。米国のコミットメントは、尖閣諸島の防衛が日米同盟の重要な部分であると認識している証左とも述べています。

「第二の地域安全保障上の懸念は『北朝鮮』である。25年間の外交の失敗により北朝鮮の非核化は短期的には非現実的な課題となった。今後は、核武装した北朝鮮をどのように封じ込めるかという戦略を優先すべきだ」と述べています。

「金正恩は、自殺願望があるわけではなく、政権の存続を求めているのである。従って、簡単ではないが、抑止と封じ込めは可能である」と結論付けています。


このように、アーミテージ氏は端的にいうと知日派であり、反中派でもあります。

ケリー氏を中国に派遣し、アーミテージ氏を台湾に派遣したバイデン政権には、対中人権政策と対中宥和のどっちつかずの、二重路線が感じられます。ただし、台湾をめぐっては、バイデン政権として台湾を国家承認はしないものの、台湾海峡を維持しなければ米軍も動かざるを得ないというのが本音のようです。

米海軍の駆逐艦が10~11日に台湾海峡を通過し、中国大陸と台湾本島の中間線を中国側に越えた海域で航行していたことが11日、分かっています。台湾の国防部(国防省に相当)関係者が明らかにしました。

中間線は中台間の事実上の停戦ラインとして機能しており、米軍が越えるのは極めて異例です。中国軍機が中間線を台湾側に越えて飛行した際、米国は「地域の安定を害する」(国務省)と批判していました。今回は米側が中国を強く牽制した形です。

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2021年4月14日水曜日

「飲めるなら飲んでみて」 中国、処理水放出を非難―【私の論評】飲んだ人います!趙の発言、行動は全体主義が、人の心を蝕むことを見せつけることになった(゚д゚)!

「飲めるなら飲んでみて」 中国、処理水放出を非難

記者会見する中国外務省の趙立堅副報道局長

 中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は14日の記者会見で、日本政府が東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出方針を決めたことに対し「海洋は日本のごみ箱でなく、太平洋も日本の下水道ではない」と強く非難した。中国側として「さらなる反応の権利を留保する」と表明しており、日中間の新たな外交懸案になる恐れがある。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が国際海洋法裁判所に提訴することを検討するよう指示したことについては、「韓国の措置に注意を払っている。日本が国際社会の懸念を重視することを望む」との考えを示した。

 趙氏は、処理水の海洋放出について「日本は、本当に国内外の疑義や懸念の声を聞いているのか」と批判。日本の水俣病を挙げて、「日本は歴史の悲劇を忘れるべきでない」と主張した。

 また、麻生太郎財務相が処理水について「飲んでも何てことはないそうだ」と述べたことを念頭に、「飲んでから、再び言ってもらいたい」と批判した。

【私の論評】飲んだ人います!趙の発言、行動は全体主義が、人の心を蝕むことを見せつけることになった(゚д゚)!

趙は、物事を調べるということをしないで、出鱈目を語っています。もうすでに、飲んだ人はいます。それも随分前です。

当時園田政務官が、処理水を飲む様子を伝えたテレビの画面

内閣府(当時は民主党政権)の園田康博政務官は2011年10月31日、東京都内での記者会見の席上、東京電力福島第一原発にたまっている低濃度の放射能汚染水を浄化処理した水を飲みました。低濃度だと証明するために飲んだらどうかとのフリーライターの求めに応じましたた。

会見は福島第一原発事故の政府・東電統合対策室が週2回開いていました。園田政務官が飲んだのは5、6号機の原子炉建屋に津波でたまった水。これを浄化、脱塩処理したものをコップ半分ほど一気に飲んでみせました。通常は基準以下であることを確かめて海に放出するレベルの濃度だが、事故後は地元自治体や漁協の反対で施設内に保管、一部を敷地内に散水しています。

10月10日の東電主催の会見で、フリーライター寺澤有氏が「第一原発に立ち入れないので東電の情報を信じるしかない。飲んでも大丈夫なら実際にコップに出してみなさんに飲んでもらうのは無理か」と東電に迫ったのが発端でした。

その後、10月13日の会見で、別のフリーライターが「菅(かん)さん(前首相)もカイワレダイコンを食べた前例がある。東電が飲んでも大丈夫といっているのだから、一杯どうですか。飲んでみませんか」と発言。園田政務官は「パフォーマンスと受け止めてほしくないが、要望があれば飲む」と答えました。

東電が水を検査したところ、放射能濃度は国の飲料水の基準より厳しい海水浴場の目安を下回っていました。園田政務官は会見で「私が飲んだからといって安全性が証明できるわけではなく、意義はない。要望があったために飲んだ」と話しました。処理水の一部は、希望者に配られ、フリーライターらが受け取りました。

この園田氏の対応は、素晴らしいものだったと思います。まともな大手スーパーだと、たとえば、販売した食品が変色したり、悪くなっていて、顧客からクレームが起きた場合、その顧客の目の前でその対象の食品を全部食べるように教育されているそうです。

なぜ、そのようなことをするかといえば、売り場の責任者がそうすることにより、顧客の体験を共有しさらに一体感を醸成するためです。それに、食品売場の責任者として、責任感をもたせるという意味もあります。

何しろ、いい加減なものを販売すれば、クレームになり、自分自身がその対象物を全部食べなくてはならなくなるわけですから、嫌が追うでも責任意識が芽生えることになります。これによって、少なくともその顧客は売場責任者に対して、ある程度の信頼感を抱くことになります。そこから、対話がはじまり、解決に導きやすくなるのです。

私自身も似たような経験をしたことがあります。ある大手スーパーでズワイガニの脚を何本が購入したところ、一本の脚が乾燥したようになり、さらに黒っぽい色をしていたのです。その売場責任者は、その部分を私の目の前で、全部食べました。その様子をみて、私自身はその売場責任者は普段から自信をもった上で商売をしているのだと感じました。

そうして、黒っぽくなっていた、脚は交換してもらいました。それで、その後随分時がたったのですが、今でも結局そのスーパーで買い物をしています。あの売場責任者の実直な行動がなく、単に商品交換だけであれば、私はこのスーパーに対する信頼を失い、その後買い物をするようなこともなかったかもしれません。

スーパーの食品と、処理水とはまた別の話ですが、園田氏が処理水を飲んだことで、この話を思い出してしまいました。あれは、立派な態度だったと思います。

趙というか、全体主義の中国では、このようなことはなかなかできないことです。だからこそ、趙はあのような馬鹿な発言をしたのでしょう。米国や日本は、もともとは商売上では、中国にとって貿易などで、上客だったはずです。この上客に対して、このような態度をとるのですから、話になりません。

趙のことは、前から馬鹿だと思っていましたが、やはり本物の馬鹿だったようです。

この報道官は、中国国内でも批判されています。昨年の9月には、共産党による統治を批判したトランプ政権への反論で「中国人民こそが共産党の堅固な鉄壁だ」と述べ、国内で反発を買っていました。一党支配を守るために国民に犠牲を強いるかのような発言で、インターネット上では「米国に対する盾になれと言うのか」と批判的な声が相次いでいました。 

当時のポンペオ米国務長官は昨年8月の演説で、中国共産党による統治を批判しました。中国外務省の趙立堅副報道局長は同年同月27日の記者会見でこれに反論し「党と中国人民は魚と水のように切っても切れない関係だ」と強調。人民は党の「金城鉄壁」であり「打ち破れると思うな」と米側をけん制しました。

  12日自身のツイッターに掲載した、台湾産パイナップルのドライフルーツを
  食べながら、チェスをするポンペオ氏の写真

趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は同年8月12日、平日午後に毎日実施している定例会見について、今年は夏休み期間を設定しない方針を示しました。近年は8月中下旬に2週間程度の休暇期間をとっていたのですが、台湾や南シナ海、新型コロナウイルスなどの問題をめぐって米国が対中圧力を強めていることへの危機感から、今年は夏休み返上で対応しました。

中国外務省の定例会見には通常、国内外の記者ら数十人~100人超が出席。この日、夏休みの時期について問われた趙氏は「今年、われわれに休みはない」と回答し、理由については「地球人なら誰でも知っている」とだけ述べました。

趙氏は同年8月11日、米国務省のオルタガス報道官が「中国共産党は人命救助よりもメンツを守ることを重視する」とツイッターに投稿したことに反発し、「米国は自らの身を省みるべきだ」と米国の新型コロナ対応を批判。10日には米国が香港政府トップら11人に制裁を科したことに対抗して米上院議員らへの制裁措置を発表するなど、対中圧力を強めるトランプ米政権への反論や対抗策の発表に連日追われていました。

ところが、この趙立堅氏の娘は、米国に留学しているとされていました。そのため、中国国内では米国に対して厳しいコメントをするのは仕事であって、本当は米国が好きなのではないかと揶揄される始末です。

当時のトランプ政権は、中国人の留学生やその家族を米国から追放する政策も実行しようとしていました。そのため、趙氏の娘も追放されたかもしれません。実際は、どうなのか、ネットを調べてみましたが残念ながらそれに関する情報は掲載されていませんでした。

実際、中国にはこのような幹部が大勢います。将来は、米国に住むことを夢見て、米国に家族を移住させて、不正行為などで蓄財した金をせっせと米国に送金して、時期がくると、中国から米国に逃げるという人たちも大勢います。そういう人たちを中国では裸官といいます。

裸官を揶揄した中国の漫画

米国は国際金融を支配しているため、ドルの流れに関しては、かなり詳細まで把握しており、米国以外のEUなどの国々の、中国人の資産も正確に把握しているといわれています。

今後、現バイデン政権も、こちらのほうにも手を伸ばしていく可能性があります。そのうち、中共の高官や、富裕層の中には、米国などに巨万の富を蓄えているにもかかわらず、それが凍結されて、ホームレスになる人もでてくるかもしれません。

本当に、全体主義とは恐ろしいです。全体主義政権の中枢にいると、だんだん頭が腐っていき、道理の通らない理屈で平気で相手を批判するような人間になってしまうです。

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2021年4月13日火曜日

海洋放出決定たまり続ける「処理水」とは?―【私の論評】「汚染水」煽りができなくなったマスコミは「風評被害」煽りに切り替え、歴史の徒花になろうとしている(゚д゚)!

海洋放出決定たまり続ける「処理水」とは?

東京電力福島第1原発の敷地内に林立する貯蔵タンク

■全く違う「汚染水」と「処理水」

福島第一原発では放射性物質に汚染された水が現在も毎日約140トン出続けている。10年前に起きた事故で1~3号機の原子炉内にあった核燃料が溶け落ちて固まり、現在も熱を発している。これを放置すると、高濃度の放射性物質がさらに漏れ出すことになりかねない。そのため、水をかけ続けることで冷やしているが、溶け落ちた燃料に触れた水は放射性物質を含むようになる。さらに、建物に地下水や雨水が入り込むことで水の量が増えている。これが「汚染水」だ。

汚染水に含まれるほとんどの放射性物質は「ALPS(アルプス)」と呼ばれる装置で取り除くことができる。こうして浄化処理された後の水が「処理水」と呼ばれている。つまり、汚染水と処理水は全く異なるものだ。

これまでは処分方法が決まっていなかったので、年間約5~6万トンずつ増える処理水も保管し続けなければならなかった。福島第一原発の敷地内には、現在、1000基を超えるタンクがある。しかし、このタンクの容量も来年の秋以降、限界を超えるとされている。

政府は、処理水の処分方法について、事故直後から検討してきた。その結果、まず、汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除く処理を徹底したうえで、最後まで残る「トリチウム」が基準値を下回るまで十分薄めてから海に放出することを決定した。

■処理水に含まれる「トリチウム」

それでは、処理水に残ってしまう放射性物質トリチウムとはどのような物質なのか。実はトリチウムは水素の仲間で、雨水や人体などにも微量ながら存在している。トリチウムは水と同じ性質を持つため、トリチウムだけを処理水から分離することが難しい。そのため、処理水を海水で100倍以上に薄め、国で定めている濃度限度の40分の1にして放出する方針だ。

これは、世界保健機関(WHO)で定める飲料水のガイドラインと比べても、7分の1にあたる。実は、日本を含めた世界の原子力施設でもトリチウムは発生しており、施設のメンテナンスの際などに薄めて海に放出されている。経産省によると、例えば、韓国の古里原発で液体として放出しているトリチウムの量は年間約55兆ベクレル、フランスのラ・アーグ再処理工場では年間約1.4京ベクレルに上るという。福島第一原発でも事故前にはトリチウムを出していた。

今回決まった基本方針では、トリチウムの年間の放出量について福島第一原発が事故前に通常運転していた時に目安としていたのと同じ、「22兆ベクレルを下回る水準」とした。まずこの水準で放出を始め、量については定期的に見直すという。

■処理水放出に向けて

今後、処理水を海洋放出する前にトリチウムの濃度を薄める必要があるが、そのためには処理水と混ぜる海水を取り込むためのポンプなど、新たな設備が必要となる。また、浄化処理が途中のままタンクに保管されている汚染水は、ALPSでもう一度、処理をしてトリチウム以外の放射性物質が確実に基準を下回るまで取り除いておく必要がある。

そのため、実際に海洋放出が始まるまでには2年程度かかる見通しだ。そして、2年後に放出が始まったとしても、全ての処理水を放出し終えるには、約30年かかるという試算もある。

■漁業関係者の強い懸念

地元の反対は根強い。事故後、福島県では、安全性を確かめるため漁の回数を制限した形で操業してきた。今月からようやく事故前の水準に戻そうと移行し始めた矢先の決定に、漁業関係者は反発している。

そのため政府は今回、放出前後に漁場などでトリチウムの検査を行い、風評被害の対策を強化したうえで、それでも生じた風評被害には原発を持つ東京電力が賠償することを担保する方針だ。政府や東京電力は、処理水への理解を広げ、風評被害をできるだけ抑えることが必須の課題だ。

【私の論評】「汚染水」煽りができなくなったマスコミは「風評被害」煽りに切り替え、歴史の徒花になろうとしている(゚д゚)!

世界でも「処理水」の海洋への放水を実施しています。にもかかわらず、日本だけ風評被害が起こるというなら、それはマスコミ以外にありません。

2019年9月、大阪市の松井一郎市長は、記者会見で「メディアは汚染水という表現はやめた方がいい。あれは処理水」とした上で、一部メディアを名指しして批判しました。その上で、福島第1原発処理水の大阪湾放出に応じる意向を示し、話題を呼びました。

処理水を大阪湾に放出という松井市長の意見は決してとっぴではなく、世界中で行われているものです。あえて大阪湾といったのは、風評に科学が負けてはいけないという強い信念をわかりやすく言ったものでしょう。

クリックすると拡大します

菅政権としても、無害な処理水をいつまでも貯蔵しているつもりはありませんでした。当たり前のことを行うというのが、菅政権のモットーなので、処理水放出の決定は時間の問題でした。

しかし、一部マスコミは、原発「処理水」を「汚染水」と呼び続けてきました。一昨年の松井発言による問題提起から、見出しでは「処理水」という用語を使うようになったものの、記事では「汚染水」を使っているものもありました。見出しで「処理」としていても、文中では「処理済み汚染水」「汚染水」という言葉を使う報道もありました。現在でも「汚染処理水」としているところもまだあります。

こうした不正確な言葉を使い続けた一部マスコミの報道姿勢こそが、誤解と風評被害を拡散させてたのです。約2年前にニュースサイトで「科学を振りかざすな」と朝日新聞は発言しました。客観的な事実を無視して、感情であおってきたと自ら認めたようなものです。

米国務省プライス報道官は声明を発表し、処理水の海洋放水決定について「選択肢と効果を検討し透明性を保ち、世界的な原子力安全基準に従った方法を採用したようだ」として、認める考えを示しました。

日本の処理水海洋放水を認めた米プライス報道官

一方、韓国・ソウルの日本大使館前では市民団体が「海洋放出ではなくタンクを増設して長期間保管し代案を探すべきだ」などと主張しました。また、韓国政府は緊急会議を開き、「強い遺憾」を表明しました。

なにやら、この構図、「慰安婦問題」にも似ていまいます。慰安婦問題では、最初に朝日新聞が、当時の記者植村氏の書いた誤った記事を掲載し、それが発端となり、韓国で反日運動が、活発になりました。それまでは、韓国でも反日運動はありましたが、今日のような苛烈なものではありませんでした。

慰安婦問題などにみられるように、日本のメディアが煽り、韓国がそれを反日に利用するという一定の構造があるようです。まさに、マッチポンプそのものです。

しかし、今回はそうはならないでしょう。これ以上、マスコミが「汚染水」で煽り続ければ、国民はますます離反していくことになるでしょう。

それを敏感に察知したマスコミは、今度は「風評被害」で煽っています。「風評被害」があっても、「処理水」海洋放水を断行する政府というイメージを植え付けようと躍起になっています。

しかし、これに簡単に煽られるほど、無垢な人はそうはいないと思います。慰安婦問題、放射能問題それに続く汚染水問題、それだけでなく「もりかけ桜問題」やコロナ感染煽りでマッチポンプにさらされた多くの人々は、もういい加減にうんざりしていると思います。

この上マッチポンプに煽られるのは、毎日ワイドショーを視聴している一部の老人たちだけでしょう。

風評被害を煽るTVのニュース画面

このようなマスコミは、もういりません。このブログでも、マスコミの寿命あと10年であるとの根拠を掲載しましたが、もうその前に消えてほしいです。マスコミの消滅を危惧する人もいるようですが、私はそうは思いません。

現在のマスコミが消滅すれば、必ずそれを補完する集団がでてくるはずです。それも、日本を貶めたり、国民を互い反目させて分断させること、権力を悪と決めつけその悪と対峙することなどを使命とするのでなく、事実をなるべく客観的に伝えようとする真のジャーナリズムが興隆してくるはずです。無論全部がそうなるとは思いませんが、一部にはそのようなメディアがでてくるはずです。

その日が来るのが楽しみです。

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2021年4月12日月曜日

イランの主要核施設で爆発、「モサドのサイバー攻撃」か―【私の論評】日本は政府・個人レベルで、イランの例を他山の石とせよ(゚д゚)!

イランの主要核施設で爆発、「モサドのサイバー攻撃」か

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 イラン国営メディアなどによると、同国の核開発の中枢である中部ナタンズの核施設で11日、爆発があり、電力が全面的にダウンした。イラン原子力庁のサレヒ長官は「核テロ」と非難した。イスラエルの公共放送などは「イスラエルの対外特務機関モサドのサイバー攻撃」と伝えている。ウィーンのイラン核合意の米復帰協議にも影響を与えるのは必至だ。

10日、テヘランで行われた核開発に関するイベントに参加したロウハ二師

新型遠心分離機の稼働を標的


 ナタンズの核施設はこれまでにも、イスラエルによるものと見られる破壊工作を受けてきた。昨年7月にも施設が爆破、放火される事件が起こり、モサドの作戦とされてきた。今回の爆発について、イラン原子力庁は当初、事故で損害もなかったと発表していた。しかしその後、サレヒ長官は名指しを避けながらも「核テロ」と破壊工作によるものであることを明らかにした。

 長官は今回の事件が「イランの核開発や制裁解除の協議に反対する連中の敗北を示すもの」と指摘した。米ニューヨーク・タイムズが情報当局者の発言として報じるところによると、核施設は爆発により、地下に設置した遠心分離機に電力を供給するシステムが破壊されるという大きな損害を被り、復旧には「少なくとも9カ月は必要になる」という。

 イスラエルの公共放送KANは情報筋の話として、「モサドによるサイバー攻撃だった」と伝え、またニューヨーク・タイムズも情報当局者の発言として、イスラエルによる秘密作戦のようだと報じた。イスラエルのコチャビ参謀総長はナタンズの事件には直接言及しなかったものの「イスラエルの安全を守るために引き続き行動する」と決意を表明。ネタニヤフ首相は同夜、独立記念日前の演説で「イランやその代理人との戦いは重要な任務だ」と言明した。

 イランは爆発があった前日、この施設で改良型の遠心分離機「IR6型」を新たに稼働させたばかり。式典でロウハニ大統領はイランの核開発があくまでも平和目的であることを強調したが、モサドの作戦とすれば、彼らは最新型の遠心分離機が本格的に稼働したタイミングを狙って攻撃したことになる。

 今回の事件で注目すべき問題が3つある。1つ目はイスラエルの破壊工作だとして、イランが今後、報復に出るのかどうかだ。イランの最優先課題は米国による経済制裁の解除であり、これを困難にさせるような報復行動などには出ないとの見方が一般的だ。昨年11月にイランの核開発の父といわれる科学者ファクリザデ氏がモサドと見られる作戦で暗殺された時にも、報復行動は起こさなかった。

 2つ目はモサドの犯行として、米国に事前に通告があったのかどうかだ。イラン革命防衛隊の軍用船が紅海で先週、イスラエルによる攻撃を受けた際には、事前に米国にイスラエルから通告があった。今回、ナタンズの核施設で爆発があった11日には、オースチン米国防長官がバイデン政権の高官としては初めてイスラエルを訪問した日。事前通告があったかどうかは微妙なところだろう。

 米国とイスラエルは10年前のオバマ米政権当時、イランの核開発を妨害するため、共同で「スタックスネット」というウイルスを開発し、ナタンズの核施設をサイバー攻撃、一時的に遠心分離機の稼働を停止させたことがある。この作戦は「オリンピックゲーム」と名付けられていた。3つ目は現在ウィーンで行われているイラン核合意への米復帰協議にどのような影響が出るかだ。

バイデン政権のメッセージ

 イランのロウハニ政権はバイデン政権の直接対話の呼び掛けをいったんは拒絶して見せ、欧州連合(EU)の仲介による米国との間接交渉を受け入れた。これは政権の思惑通りの展開だった。「米国にすり寄るのか」という保守強硬派の非難をかわし、制裁解除に向けた方向に舵を進めることができたからだ。

 ナタンズに新型の遠心分離機を設置したのも今後の交渉で、欧米に対する「圧力という手札」を増やそうと考えたからだろう。それでなくてもイランの合意破りは加速し、昨年11月の時点で、低濃縮ウランの貯蔵量は合意で定められた上限の12倍の2.4トンにまで増加、核爆弾製造に近づく濃縮度20%のウラニウム量は55キロに達していた。

 しかし、その手札が今回の破壊工作で消失してしまったのはロウハニ政権にとっては計算外であり、交渉で譲歩を促進させる要素になり得るかもしれない。保守穏健派のロウハニ大統領の任期切れに伴う大統領選挙が6月18日に迫っており、それまでに制裁解除の道筋をある程度はっきりさせたいというのがロウハニ政権の本音だ。さもないと、保守強硬派候補の当選の可能性が高まってしまうからだ。

 反米の保守強硬派政権が誕生すれば、米国の核合意復帰と制裁解除はロウハニ政権下よりも相当難しくなるだろう。バイデン政権にとっても、イラク駐留軍の撤退などで中東のプレゼンスが低下しつつある中、イランにこれ以上の反米政権ができるのは回避したいところ。つまり、ロウハニ、バイデン両政権の思惑は今や、大きくかけ離れてはいない。ナタンズの爆破事件を契機に、イランと米国の間接交渉が進む可能性がある。

 これは核合意の米復帰に反対するイスラエルにとっては好ましくない展開だ。だが、バイデン政権はイランに核武装させない最善の道は当面、米国が核合意に復帰し、イランにその枠組みを順守させることだという考えを変えていない。その観点から言えば、新政権発足後、イスラエルを訪問する最初の高官が国務長官ではなく、オースチン国防長官だったのは意味がある。

 イスラエルの専門家はバイデン政権が「米国は安全保障問題ではイスラエルと協力するが、政治問題では慎重に対処する」というメッセージを送ったものではないか、と指摘している。要は「核合意の復帰協議には口出しするな」ということではないか。イラン核合意をめぐる交渉は米国とイラン、そしてイスラエルのそれぞれの思惑をはらみながら一段と複雑な様相を見せてきた。

【私の論評】日本は政府・個人レベルで、イランの例を他山の石とせよ(゚д゚)!

サイバー攻撃の問題は、今回のように、国が対外政策の一環として使いうることです。

世界の安全保障に大きなかかわりを持つ国々は、いずれもサイバー軍を持っています。米国では2005年3月に、サイバー戦争用の部隊であるアメリカサイバー軍を組織したことを公表しました。

ロシアではロシア連邦参謀本部情報総局(GRU)のほか、ロシア連邦保安庁(FSB)などがサイバー戦に従事していると見られています。中国については、2011年5月、国防省の報道官が、広東州広州軍区のサイバー軍の存在を認めています。

イスラエルでは、国防軍参謀本部諜報局傘下の8200部隊がサイバー戦の主力と言われています。今回のイランの主要核施設で爆発に関わっている可能性もあります。北朝鮮は約7000人規模のサイバー軍を持っていると推測されています。

イスラエルのサイバーセキュリティーを支える8200部隊

過去においては、国レベルのサイバー攻撃については、特定の政治的目的のため行われるケースが目立ちました。米国とイスラエルが2010年、Stuxnetと称する不正ソフトウェアでイランのウラン濃縮施設をサイバー攻撃し、遠心分離機を破壊したことが典型的な例です。

2016年の米大統領選挙に関し、ロシアが米民主党の全国委員会のシステムに侵入し、幹部の電子メールなど大量の重要情報を盗み出したことがロシアによる米大統領選挙への不正介入であるとして問題化しました。

2020年の大統領選挙でも、このようなことは、おそらくあったことでしょう。これについては、徐々に明らかにされていくことでしょう。

しかし、サイバー攻撃が、このような政治的目的に限られず、軍事目的のために使われる危険は常に存在します。実際今回のイスラエルによるサイバー攻撃は、それに類するものと言っても良いです。

電力、鉄道などのインフラが狙われる危険は夙(つと)に指摘されており、さらにサイバーが、従来の兵器と同様に軍事作戦の一環として使われる可能性は現実のものと考えられるようになっています。

米国では2011年に国防総省が「サイバー空間作戦戦略」を発表し、それに合わせて、サイバー兵器を武器弾薬のリストに加え、サイバー兵器を通常兵器と同様に扱うようになっています。

サイバーは目に見えない兵器であるとともに、誰が使用したかの特定が容易でないので、戦力の比較、戦闘の形態の予測などが困難です。サイバー攻撃に対する抑止が可能かという問題もあります。

日本のサイバー対策と言えば、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)と、自衛隊に設置されているサイバー防衛隊が海外でも知られています。しかしこの両者はまだ十分には連携がうまくできていません。

内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)と「ラブライブ!サンシャイン!!」Aqoursとの
コラボポスター

サイバー防衛隊は基本的に防衛省と自衛隊を守るものであり、「日本のサイバー政策の司令塔的存在」であるNISCと協力しながら、国家への脅威に直接対峙することはありません。日本では各省庁がそれぞれ独自のサイバー対策を行なっており、NISCがそれを取りまとめているのですが、NISCからすると、防衛省もそれらの省庁のひとつに過ぎないという解釈にもなります。

サイバー攻撃の危険が高まるにつれ、サイバーを含む武力紛争は、新しい戦略論を必要としています。経済産業省の有識者会議は17日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療機関などを狙ったサイバー攻撃が海外で頻発していることから、セキュリティー対策に万全を期すよう産業界に注意喚起を行っています。

さらに、国内の各企業では、テレワークを導入する動きが急速に進んでいます。これを狙ったサイバー攻撃も想定されることから、必要な対策を講じることを提起しました。

「産業サイバーセキュリティ研究会」(座長=村井純・慶応義塾大学教授)で、事務局が示しました。梶山弘志経産相は冒頭、防衛技術へのアクセスを狙ったサイバー攻撃が今年に入り相次いでいることに言及。海外では、新型ウイルスの感染者に対応する医療機関でも被害が発生しているとし、対策の必要性を訴えました。

経産省によると、スペインや英国、米国などではコンピューターのファイルが暗号化され、端末を使用できなくする「ランサムウエア」によるサイバー攻撃が増加。病院など医療関係機関が狙われ、ITインフラが使用できなくなったり、個人情報が盗み取られる被害が起きています。

日本で同様の事例はまだないものの、対策の必要性があると判断し、産業界向けのメッセージとして発出することを決めました。具体的には、新型ウイルスをかたる不正アプリや詐欺サイトなどへの注意をあらためて喚起。機器・システムに対し、アップデートなど基本的な対策を可能な限り講じるよう求めました。

また、テレワークでは企業の管理が及ばないため、ここを拠点に侵入被害が生じる恐れがあります。このため、情報資産やネットワークへのアクセスの継続的な監視・強化、システムの階層化、子会社・海外拠点を含めた体制の整備を促しました。

これからは、国境なきサイバー空間で起きる紛争や攻撃に対して、もう少し踏み込んだ連携を模索すべきです。

私自身の対策としては、インターネットに接続するときには、なるべくChromebookを用いるようにしています。実際、GoogleはChromebookのセキュリティの素晴らしさを大々的にアピールしています。

Chromebookが安全なのは事実です。Chrome OSは全てのアプリケーションを独自のサンドボックス環境で実行するため、システムの他の部分は変更されません。また、Chrome OSは.exeファイルを実行できないため、ほとんどのマルウェアはChromebookにインストールできないような仕組みになっています。このようなセキュリティ対策によりChromebookがウイルスに感染するのはほぼ不可能です。


ただ、Chromebookのユーザーはセキュリティの脅威から100%安全とはいえません。Chrome OSの端末自体はウイルスに感染しにくいのですが、Chromebookのユーザーでもスパイウェア、フィッシング詐欺、データ漏洩などからは身を守れません。サイバー犯罪者はクロームブックでも個人情報を危険にさらしたり、データを盗んだり、ネットのアカウントをハッキングしたりできるのです。

これらを防ぐためには、Chromebookでもウイルス対策ソフトは必須となります。ただ、普段から使っているサイトを使うだけであれば、他のOSなどと比較すれば、かなり安全であることは間違いないと思います。

最近小中学校などで、chromebookの導入がかなり増えていますが、これは安いだけではなく、こうした脅威に備えるという意味もあるのだと思います。

もう一つの方法としては、ブラウズするときには、BRAVE等のブラウザーを用いるという手もあります。これは、広告トラッカーをブロックすることで、最高のスピードとセキュリティを実現、プライバシーを保護します。

日本では、政府・個人レベルでも今回のイランの事件を他山の石として、将来のサイバー攻撃に備えるべきです。

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2021年4月11日日曜日

ケリー米環境特使、中国訪問か サミット協力取り付け 米紙―【私の論評】ケリー氏はバイデン政権の対中政策の試金石となる(゚д゚)!


インド財務省を出て手を合わせるケリー米大統領特使=6日、ニューデリー

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は10日、バイデン政権で気候変動問題を担当するケリー大統領特使が、近く中国・上海を訪問する見通しだと報じた。

  実現すれば、同政権閣僚級による訪中は初めてとなる。米国が22、23日に主催する気候変動の首脳会議(サミット)を控え、世界最大の温室効果ガス排出国である中国の協力を事前に取り付ける狙いがあるとみられる。

【私の論評】ケリー氏はバイデン政権の対中政策の試金石となる(゚д゚)!

ケリー氏については、その胡散臭さをこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ボトムアップのバイデン政権、「親中」否定の動きは歓迎も…気にかかるケリー特使の動向 下手をすると、中国に人権を売りかねない ―【私の論評】いざという場合には、QUAD諸国はケリー氏をペルソナ・ノン・グラータに指定してでも結束せよ(゚д゚)!
ケリー大統領特使(気候変動問題担当)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
ケリー当時国務長官は、ジョンズホプキンス大学のSAISで行った米中関係に関する演説において、米中関係の強化がリバランス戦略の鍵になる要素であることに疑いの余地は無いとして、「今日の世界において、最も重要なのは米中関係であるということだ。米中関係が21世紀の姿を決める大きな要因になる」と述べていました。

クリントン国務長官の退任以降、米国のアジア回帰が変質していることがしばしば指摘されていましたが、ケリーが演説(2013年1月24日、上院公聴会での演説のこと)で提示した4つの柱は、改めてそのことを示していました。
オバマ政権が、中国を刺激しないよう、事実上の「中国封じ込め」としてクリントンが提示したアジア回帰を変容させた、という分析は、その通りでしょう。当時のオバマ政権が言う「アジア重視」は、もはや「中国重視」であると言っても過言ではなかったように思います。ケリー氏が4つの柱の一つとして挙げている気候変動対策については、早速、11月の米中首脳会談で、両国の削減目標で合意に達し、世界の耳目を集めました。
結局アジア回帰と語ったオバマ政権が実際には中国重視の政策に転じたことの理論的背景をケリー氏が主張していたということです。これは、現在の我々からも見逃せない点です。

さらに、この記事では、現在のケリー氏によってバイデン政権が再度対中宥和政策に傾く可能性を指摘しました。その部分を以下に引用します。

"
いずれ、気候変動対策の大統領特使になった『親中派』のジョン・ケリー元国務長官が中心に出て、対中宥和を打ち出す可能性はかなり高いです。日本としてしては、要注意です。

昨日の記事では、温暖化について以下のように述べました。
温暖化は中国にとっての格好の隠れ蓑になるかもしれません。今の中国は昨日も述べたように失業者が2億人ともされています。そうなると、消費活動は停滞し、産業活動も停滞するはずです。にもかかわらず、中国は昨年の経済成長は2.3%であり、奇跡的なV字回復をしたことにしています。

経済が停滞した、中国では今後温暖化目標など、何もしなくても達成できる可能性が大きいです。しかし、習近平は中国の努力によって、達成したように見せかけるでしょう。

中国は、故がなく、経済成長2.3%の数字を出すはずはありません。習政権は、これを前面に打ち出し、中国が温暖化で大成功したように見せかけるつもりかもしれません。

この大成功をケリー氏が利用して、中国への宥和政策への転換をはかる可能性はかなり高いです。

"
もしこの筋書き通りになれば、日本やEUそうして、米国自体も温暖化目標達成に苦しみ、中国は難なくこれを達成し、しかもこの方面での存在感を増すことになります。さらに、バイデン政権もオバマ政権のように中国に対して融和的になれば、目も当てられない事態になります。

この記事には、ケリー氏の胡散臭さをあげましたが、もう一つ書き忘れていたことがありましたので、以下に掲載します。

2014年8月東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムなどに出席するためミャンマーの首都ネピドー(Naypyidaw)を訪れていた米国のジョン・ケリー(John Kerry)当時国務長官は、米国商務省資産管理局による制裁対象(Specially Designated Nationals:SDN)にリストアップされている人物がオーナーのホテルに宿泊したとして、欧米諸国で話題となっていました。

当時のテイン・セイン大統領が主導する政治改革に対し、米政府は長期にわたる制裁をほとんど解除しました。しかし、ミャンマーへの投資を約束した上で、一部の個人や企業に対しての制裁は残していました。

SDNリストに載る企業や個人は、かつての軍事政権との密接な関係により多額の利益を得ているとされ、米企業と事業を行うことを禁止されていました。実際のところ、ミャンマーの大手企業や有名企業の多くがSDNにリストアップされていました。

皮肉にも、当時のケリー国務長官が宿泊したのは高級ホテルであるレイク・ガーデンで、制裁リストに載るザウザウ氏(Zaw Zaw)が所有するマックス・ミャンマーが運営していたのです。

レイクガーデン ネピドー

ケリー国務長官はネピドーで、ミャンマーに対する米政府の制裁が残されていることの重要性を主張しました。しかし、皮肉にも自身がブラックリストに載るホテルに宿泊したことで、メッセージは何の意味も持たないものになってしまったのです。

当時の国務省報道官はケリー国務長官はいかなる規則にも違反していない旨を伝えていました。しかし、これは規則違反だけの問題だったのでしょうか。

さて、2021 年 2 月 1 日に発生したミャンマー国軍による政権掌握を受け、米国バイデン大統領は、即日、「同国の民主化進展の逆行 により、米国は直ちにわが国の制裁法を再検討の上、適切な措置を取らざるを得ない」との声明を出し、米国が 2016 年以降解除 していたミャンマー向け経済制裁を復活させるかどうか、注目されていました。

同年 2 月 10 日、バイデン大統領は、ミャンマー関連の制裁に関する大統領令 に署名し、同 11 日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)は、大統領令に基づき、ミャンマー の軍事関係者や企業等を、資産凍結等の制裁対象となる個人や組織等のリスト(SDN リスト)に掲載しました。

また、同日、米国商務省産業安全保障局(BIS)は、ミャンマーの軍関係当 局に対する輸出、及び、ミャンマーが米国の友好国であることを理由に認められてきた機微度の高い貨物、ソフトウェア及び技術 のミャンマーへの輸出規制を強化することを公表しました 。

このSDNリストを過去に台無しにしかねなかった、ケリー氏です。その彼が、バイデン政権閣僚級による最初の訪中をするのです。

ケリーがとのような話をするのか、どのような約束をするのか、要注意です。

バイデン政権の対中国政策は、最近では「言葉」では中国に対して厳しいことを言っていますが、言葉では厳しいことはいえます、かつてのオバマ政権もアジアに回帰するとして、リバランス政策を実行すると言葉ではいいましたが、結局はそうはなりませんでした。

      2014年エアフォースワンに乗りこむオバマ大統領。この時の
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言葉だけで、行動が伴わなければ、その言葉はなかったのと同じです。バイデン政権の対中政策もどうなるのか、まだわかりません。

しかし、これを早めに知る方法があります。それは、ケリー氏の発言や行動に注視することです。

バイデン政権内でケリー氏が頭角を現し、中国に関連して様々な発言や行動をすれば、バイデン政権は中国に対して宥和的になるでしょうし、ケリー氏が凹んで、目立たない存在になれば、バイデン政権は中国に対して厳しく対応するようになるでしょう。

その意味で、ケリー氏はバイデン政権の対中政策の試金石になるとみるべき。


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2021年4月10日土曜日

【日本の解き方】中国が狙う「一帯一路」の罠 参加国から富を吸い上げ…自国の経済停滞を脱却する魂胆も―【私の論評】国際投資の常識すら認識しない中国は、儲けるどころか世界各地で地域紛争を誘発しかねない(゚д゚)!

【日本の解き方】中国が狙う「一帯一路」の罠 参加国から富を吸い上げ…自国の経済停滞を脱却する魂胆も

習近平

 中国の習近平政権による経済圏構想「一帯一路」については、参加した途上国の債務が問題になっているほか、米国が対抗する方針を打ち出している

 中国経済は行き詰まりつつある。その根拠は1人当たり国内総生産(GDP)が1万ドルを超えないという「中所得国の罠」だ。この壁を越えるためには、一部の産油国などを例外とすれば、一定の民主主義が必要だ。英エコノミスト誌の公表している民主主義指数でいえば、少なくとも香港と同程度の「6」以上を要するが、しかし、中国の民主主義指数は「2・3」程度しかない。

 中国が、非民主的な専制国家でありながら、1人当たりGDPが1万ドルを長期にわたって突破するのは、これまでの社会科学の理論からみると難しい。そこで、短期的には台湾侵攻など政治的な不満のはけ口を求める懸念もある。

 一方、産油国が中所得国の罠の例外になっているのは国内に莫大(ばくだい)な石油資源があるからだ。これと似たような環境としては、海外に中国依存の経済圏を作ることが考えられる。軍事的な侵攻ではなく、経済的に領土を拡大し、その富を中国に吸い上げるというものだ。もちろん中国が軍事的に優位な地域が条件となる。

 筆者は中国の一帯一路は、こうした戦略に基づいていると考えている。その結果、中国は世界の覇権を狙っているともいえる。

 しかし、一帯一路は、同様に中所得国の罠に陥ったアジアや中東、アフリカの途上国を相手にせざるを得ないが、それらの国を借金漬けにしたあげく、闇金まがいの取り立ても辞さない。こうした形で覇権をうかがう中国に対抗するため、バイデン米政権はジョンソン英首相との会談で経済圏構想を提案した。

 中国は、以前からアジアや中東、アフリカの途上国に経済支援を行い、2014年に習氏が一帯一路構想を提唱する前から影響力を強めてきた。15年にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立し、金融面で一帯一路構想を後押しした。

 しかし、AIIBは、日米の参加が得られず、まだ十分に機能していない。19年末の融資残高は、約23億ドルしかなく、日米主導のアジア開発銀行(ADB)の約1100億ドルに見劣りしている。

 アジアや中東、アフリカの途上国では、インフラ整備が不十分なのは事実だ。日米は国内でのインフラ整備を進めるとともに、その力を海外にも活用すべきだ。日米で国内と世界のインフラ整備を提唱していくのがよく、そのための枠組み作りが必要だろう。

 中国が中所得国の罠に陥りながら、民主化せずに同じ環境の国を利用してそれを脱しようとすることがそもそも間違いだ。それでは、他の国にも希望はない。長期的な経済発展のためには民主化が必要なので、まずは中国自らが民主化してこの「罠」から脱すべきだ。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】国際投資の常識すら認識しない中国は、儲けるどころか世界各地で地域紛争を誘発しかねない(゚д゚)!

かつて欧米列強と言われていた国々(英米独仏露)の国々は、18世紀以降植民地を持っていました。そうして、本格植民地化によって、現地人を搾取して、利益を収奪したという一般的なイメージがありますが、植民地経営はそれほど簡単なものではなかったですし、収奪する程の利益など、植民地にはほとんどありませんでした。

海外を植民地化することは莫大な初期投資がかかり、費用対効果という観点からは、とても受け入れられるようなものではありません。常時、軍隊を駐屯させる費用、行政府の設置・運用とその人件費、各種インフラの整備、駐在員の医療ケアなど、莫大な費用がかかります。その上行政的手続きも極めて煩雑になってきます。

初期コストや投資金を無事に回収し、安定的に利益が出せるかどうかの保証などもありません。植民地ビジネスはリスクが大きく、割に合わないのです。「植民地=収奪」という根拠のない「つくられたイメージ」を一度、捨てるべきです。

教科書や概説書では、植民地経営の成功例ばかりが書かれています。例えば、オランダはインドネシアを支配し、藍やコーヒー、サトウキビなどの商品作物を現地のジャワの住民に作らせ(強制栽培制度)、大きな利益を上げていたというようなことです。

オランダ東インド株式会社に所属していたアムステルダム号

しかし、このような成功例はごく一部であって、ほとんどの場合、投資金を回収できず、損失が拡大するばかりでした。実際、19世紀、ヨーロッパのアフリカの植民地経営などはほとんど利益が上がりませんでした。

これは、当然といえば、当然です。今日の国際投資の常識は、「自国より成長率の高い国や地域に投資すれば利益をあげられる」と教えています。過去の植民で成功したのは、たまたま、投資した地域が、自国よりも経済成長をしていたか、多少投資することによって経済成長ができたからでしょう。それ以外の植民地は成功するはずもありませんでした。

では、なぜ、欧米は大きなリスクをとりながらも、植民地化に取り組んだのでしょうか。それは経済的な動機というよりも、思想的な動機が強くあったからでした。

近代ヨーロッパでは、啓蒙思想が普及しました。啓蒙とは「蒙を啓く」つまり無知蒙昧な野蛮状態から救い出す、という意味です。啓蒙は英語でEnlightenment、光を照らす、野蛮の闇に光を照らす、という訳になります。啓蒙思想に基づき、西洋文明を未開の野蛮な地域に導入し、文明化することこそ、ヨーロッパ人の使命とする考えがあったのです。

イギリスのセシル・ローズ(Cecil John Rhodes、1853年~1902年、は南アフリカのケープ植民地首相)などはこうした考え方を持っていた典型的な人物でした。

セシル・ローズ

ローズは、アングロ・サクソン民族こそが最も優れた人種であり、アングロ・サクソンによって、世界が支配されることが人類の幸福に繋がると考えていました。この独善的考えが、植民地の人々に嫌われたという面は否めないです。

開明化された地域が資本主義市場の一部に組み込まれれば、利益をもたらすという狙いも最終的にはあったかもしれないですが、「文明化への使命」という考え方が割に合わない植民地経営のリスク負担を補っていたのです。

当時のヨーロッパ人は、今日の我々が考える以上に非合理的であり、昔ながらの精神主義に拘泥していたと言ってよいです。

実は、日本の植民地政策にも、このような啓蒙思想を背景とする思想的動機が強くありました。韓国や台湾を植民地化しても、当時の日本に利益など全くありませんでした。元々、極貧状態であった現地に、日本は道路・鉄道・学校・病院・下水道などを建設し、支出が超過するばかりでした。それでも、日本はインフラを整備し、現地を近代化させることを使命と感じていました。

特に、プサンやソウルでは、衛生状態が劣悪で、様々な感染症が蔓延していたため、日本の統治行政は病院の建設など、医療体制の整備に最も力を入れたのです。

李王朝末期頃の韓国

日本人はヨーロッパ流の啓蒙思想をいち早く取り入れ、近代化に成功し、今から考えると、何の儲けにもならないことのために、植民地の近代化を前提として、植民地政策を展開しました。

「植民地=収奪」というのはつくられたイメージと言わざるを得ないです。植民地支配によって、我が国は「多大の損害と苦痛」を「与えた」のではなく、「被った」のです。特に経済的にはそうでした。日本の植民は期間も短く、儲けにまでいたったものはありません。

このような経験をしているからこそ、現在ではかつての西洋列強も我が国も、植民地など持とうとしません。そうして、投資するにしても、儲けるためであれば、自国より経済成長している国や地域に投資するのです。

日本では、デフレが酷くて経済が停滞していた頃から、民間企業が米国やEUなどにかなり海外に投資していました。これは合理的な判断です。これはまだ名残があり、昨年5月末に財務省から公表された「本邦対外資産負債残高の状況(2019年末時点)」によれば、日本の対外純資産残高は前年比23兆円増の364兆5250億円と2年連続で増加し、29年連続で世界最大の対外債権国の座を維持する結果となりました。金額的には5年ぶりに過去最高を更新しました。

しかし、植民地経営というネガティブな経験をしたことのない中国は、かつての西洋列強などと同じ間違いをしようとしています。

一帯一路は、中所得国の罠に陥ったアジアや中東、アフリカの途上国を相手にせざるを得ないのですが、それらに投資しても儲かることはありません。少なくとも、中国より経済発展している国や地域に投資すれば良いのでしょうが、そもそもそのような国や地域は中国の助けをあまり必要としません。

仮に、中所得国を借金漬けにしたあげく、闇金まがいの取り立ても辞さないようにしたとしても、元々富がないのですから、そこから簒奪できる利益はわずかです。これは、どう考えても成功しようにありません。

ただ、中国が借金をかたに、弱小国の社会を自分の都合の良いように作り変える危険性は否定できません。そうなると、それらの国々の社会は不安定化することになり、地域紛争などに繋がる可能性はあります。

そのため、米国が対抗する方針を打ち出しているのは良いことです。無論米国は、これで儲けるのではなく、中国の影響力を排除するのが狙いです。いくらバイデンであっても、習近平ほど愚かではありません。

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2021年4月9日金曜日

米中対立下の世界で「いいとこどり」はできない―【私の論評】米中冷戦は、米ソ冷戦と同じく、イデオロギー対立、大国間の勢力争いという2つの要素で戦われいずれ決着する(゚д゚)!

米中対立下の世界で「いいとこどり」はできない

岡崎研究所

 中国政府は、3月11日に閉幕した全人代で、香港の立法委員選挙の制度を変えることを打ち出し、香港の一国二制度をほぼ完全に葬り去ろうとしている。直接選挙される立法委員を50%から22%まで減らす。従来は行政長官を選んでいた選挙委員会の権限を拡大し、立法会の議員の一部も選ぶようにする。資格審査委員会を設置し、候補者が「愛国主義」であるかどうかなどの審査を受けるように求める。などといった内容である。これは、中国による自由主義の価値への重大な挑戦の最新の例の一つである。


 こうした香港情勢をとらえて、エコノミスト誌3月20日号は‘How to deal with China’と題する社説を掲載し、これから中国に見られる専制と自由の価値を擁護する勢力間の長い闘争が行われていくという情勢判断をしている。香港の自治と民主政が中国に踏みにじられていったこと、中国の政治の在り方を見て、こういう判断に行きついたということだろう。3月下旬のアンカレッジでの米中会談を見ても、この情勢判断は正しいと思われる。

 日本は、米中対立の時代が来ていることを明確に理解し、その価値観からして米国の側に立つというのが基本である。安全保障は米国に依存するが、中国との関係も特に経済面では重視するというような姿勢をとれるような生易しい状況ではない。

 この米中対立については、イデオロギー対立なのか、経済・技術の主導権争いなのか、あるいは大国間の勢力争いなのか、いろいろな説明があるが、これらの対立が複合的に重なり合ったものであると考えるべきだろう。米ソ冷戦時代はソ連の経済力は弱く、対立はイデオロギー対立と軍事対立を中心に行われたが、今度の米中対立は、中国が強い経済力を持つ中で、経済技術面での競争がかなりの比重を占めることになるだろう。これが物事を複雑化する。

 短期的には、もし選択を迫られれば多くの国は西側より中国を選ぶ可能性もある。中国は64か国にとり最大の商品貿易パートナーであるが、米国は38か国にとりそうであるに過ぎないからだ。長期的には、国の大きさ、多様性、革新性により、中国は外部圧力に適応できる能力を備えているかもしれない。香港での民主主義の後退は香港のドル決済や株式市場の繁栄に影響を与えていないし、中国本土への投資も盛んであるという。レーニンは「資本家というものは自分を縛り首にする縄さえ利潤のためには売るものである」といったことがあるが、大企業も徐々に中国への投資などを考え直すべきであろう。

 上記社説は、厳しい米中対立を予測しつつも、対応策として対中国「関与」が唯一賢明な道であるというが、これには必ずしも賛成できない。「関与」は何を意味しているのか、分からないが、中国の国際法違反を看過して普通の対話をするということならば、賛成しがたい。ダメなものはダメとし、それなりのコストを課していくべきであろう。

 より長期的には、中国の勢いはそれほど続かないと思われる。人口の少子高齢化はすでに始まっており、一人っ子政策のマイナスは大きくなっている。特に若年層での男女の比率の不均衡は、さらなる少子化につながる。環境面での制約、水不足や大気汚染はいまそこにある危機である。さらに言うと、専制体制は政治の不安定化の危険と隣り合わせである。国民の負託を受けているとの正統性がない政権には脆弱性がついて回るものである。

【私の論評】米中冷戦は、米ソ冷戦と同じく、イデオロギー対立、大国間の勢力争いという2つの要素で戦われ、いずれ決着する(゚д゚)!

上の記事では、米中のイデオロギー対立なのか、経済・技術の主導権争いなのか、あるいは大国間の勢力争いなのか、いろいろな説明があるが、これらの対立が複合的に重なり合ったものであると考えるべきだろうとしています。

そうして、米ソ冷戦時代はソ連の経済力は弱く、対立はイデオロギー対立と軍事対立を中心に行われたが、今度の米中対立は、中国が強い経済力を持つ中で、経済技術面での競争がかなりの比重を占めることになるだろうとしています。

しかし、私はそうは思いません。特に経済についてはそうです。以前このブログでは中国経済について分析しました。その記事のリンクを掲載します。
中国経済、本当に崩壊危機の様相…失業者2億人、企業債務がGDPの2倍、デフォルト多発―【私の論評】中国には雇用が劣悪化しても改善できない構造的理由があり、いまのままではいずれ隠蔽できなくなる(゚д゚)!
中国・人民大会堂(「Wikipedia」より)

この記事で、中国の経済統計はそもそもフェイクであり、フェイクであることを前提とすれば、中国が経済発展して、米国経済を追い抜くなどという考えはファンタジーに過ぎないことを解説しました。以下に、この記事より引用します。
中国が発表した昨年(2020年)の四半期ごとのGDP成長率は、前年同期比で1-3月期がマイナス6.8%、4-6月期がプラス3.2%、7-9月期がプラス4.9%、10-12月期がプラス6.5%です。この数字を前期比に変えると、年率換算で1-3月期がマイナス37%、4-6月期がプラス60%、7-9月期がプラス13%、10-12月期がプラス12%です。

1-3月期のマイナス37%は随分大きなマイナスに見えるかもしれないですが、英国の4-6月期のマイナス60%と比べると遥かに軽いことになります。

確かにコロナ禍は英国に大きな打撃を与えました。コロナ禍前のイギリスの完全失業率は4.0%でしたが、コロナ禍発生後に最大で5.1%にまで上昇しました。失業率が1.1%も上昇し、それが一時的にはGDPマイナス60%という大きなブレーキにつながったのです。

中国政府が発表する失業率統計はGDP同様全くあてにならないことで有名であり、これをそのまま真に受けるわけにはいきません。では、他の機関はどのような数値を出しているのみてみます。

アジア開発銀行は6290万人から9520万人が新たに失業したのではないかと推計しました。「スイス銀行」の俗称で知られるUBSは7000万人から8000万人が新たに失業したのではないかと推計しました。中国の有名エコノミスト、李迅雷氏も、新たな失業者は7000万人を超えるとし、これによって失業率が20.5%まで高まったのではないかと述べています。
更に引用します。
中国のスマホの国内出荷台数は2016年に5.6億台だったのが、2017年に4.9億台、2018年に4.1億台、2019年に3.9億台、2020年に3.1億台と、年々縮小し続けています。スマホは2〜3年もすればバッテリーのもちが悪くなって買い替えたくなるものだが、買い替え需要があまり発生していません。スマホは中国でも、多くの人の必需品になったようですが、それにしても横ばいではなく、年々下がっているのです。

中国の乗用車の販売台数の推移はどうかといえば、2017年に2376万台だったのが、2018年に2235万台、2019年に2070万台、2020年に1929万台と、やはり年々落ちています。これを見ると富裕層の消費も伸びているとは考えにくいです。

これでは、毎年6%以上の経済成長を続けてきたという話自体がフェイクだと考えないと辻褄が合わないです。

以上で示したように、中国の経済統計はそもそも出鱈目です。これは信用するわけにはいきません。

さらに、このブログでも 何度か掲載してきたように、中国経済には2つの構造的な大問題があります。一つ目は中進国の罠であり、2つ目は国際金融のトリレンマです。

一つ目の中進国の罠は、一種の経験則であすが、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないのだ。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドルあたりの国をいうことが多い。10000ドルというと日本円でいえば、100万円くらいです。

確かに、日本ではパートやアルバイト等でない限り、普通に働いている人で、年収が100万という人はいないです。

中国に関しては、現在年収を平均すると、10000ドル前後になっています。そうなると、中進国の罠にはまる可能性が高まっているわけです。

どうして、中進国の罠があるかといえば、以下に私の仮説を掲載します。結局中進国では、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が十分になされないので、ある一定程度まで経済が発展しても、その後は発展しないというものです。

かつての先進国のように、これらがなされれば、多数の中間層が輩出されて、それらが自由に社会経済活動を行い、その結果として経済発展するのです。その過程においては、社会のあらゆる層や、地域でイノベーションが起こります。

多くの中進国で、経済発展がとまってしまうのは、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされず、その結果として多数の中間層が輩出されることもなく、これらが自由に社会経済活動をすることもできません。

このような社会で、現在の中国のように、政府が号令をかけて、多くの資金を提供してイノベーションをしたとしても、社会の多くの層や地域でイノベーションが起こることはなく、遅れた社会が温存され、結局のところ経済成長が止まってしまうです。

これは、現在まさに中国ははまり込んでいる罠であり、今後中国は経済発展することはないでしよう。

さらに、もう一つの構造的な問題は、国際金融のトリレンマにはまってしまい、中国は経済政策の一環として、独立した金融政策を実施できいないということがあります。これも先のリンクの記事から引用します。

 先進国が採用するマクロ経済政策の基本モデルとして、マンデルフレミング理論というものがある。これはざっくり言うと、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先するほうが効果的だという理論だ。

 この理論の発展として、国際金融のトリレンマという命題がある。これも簡単に言うと(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べない、というものだ。
 先進国の経済において、(1)は不可欠である。したがって(2)固定相場制を放棄した日本や米国のようなモデル、圏内では統一通貨を使用するユーロ圏のようなモデルの2択となる。もっとも、ユーロ圏は対外的に変動相場制であるが。

 共産党独裁体制の中国は、完全に自由な資本移動を認めることはできない。外資は中国国内に完全な自己資本の民間会社を持てない。中国へ出資しても、政府の息のかかった国内企業との合弁経営までで、外資が会社の支配権を持つことはない。

 ただ、世界第2位の経済大国へと成長した現在、自由な資本移動も他国から求められ、実質的に3兎を追うような形になっている。現時点で変動相場制は導入されていないので、結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているのだ。

中国では、雇用がかなり悪化していますが、これを是正するには、大規模な金融緩和をすることが必要不可欠なのですが、それを中国共産党はできないのです。

これは、中国が民主化、政治と経済の分離、法治国家化の実施、変動相場制に移行しなけばは、これからも中進国の罠にはまりつづけ、独立した金融緩和が実施できないことを意味します。

であれば、中国がこれから過去のように経済発展する見込みはないということです。ここで、元の議論に戻ります。

1988年ソ連ではじめて行われたミスコンの様子


現在の米中の対立は、イデオロギー対立、経済・技術の主導権争い、大国間の勢力争いが複合的に重なり合ったものでしたが、今後中国は経済発展できないので、いずれ、イデオロギー対立、大国間の勢力争いという2つの要素で戦われることになるでしょう。

米ソ冷戦時代と同じく、いずれ決着がつくことになるでしょう。私は、おそらく10年くらいで決着がつくと考えています。

その時には、中国共産党は崩壊し、ある程度の民主的な国家がいくつかできるか、あるいは緩い連合体を形成するなどの形になると思います。

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