2021年9月12日日曜日

中国潜水艦か、接続水域に 防衛省、国名公表でけん制―【私の論評】中国海軍は海戦能力においては、未だ日米の水準に到底及ばないことを露呈(゚д゚)!

中国潜水艦か、接続水域に 防衛省、国名公表でけん制

2021年9月11日土曜日

英空母「クイーン・エリザベス」が東京湾・浦賀水道で護衛艦「いせ」と並進、『防衛百景』の現場を見に行く:英海軍・海上自衛隊―【私の論評】中露にとって未だに米英空母打撃群は脅威!だからこそ、英国は空母打撃群を派遣した(゚д゚)!

英空母「クイーン・エリザベス」が東京湾・浦賀水道で護衛艦「いせ」と並進、『防衛百景』の現場を見に行く:英海軍・海上自衛隊


「クイーンエリザベス」(左手前)と並走する「いせ」(右奥)

2021年9月4日、英空母「クイーン・エリザベス」が初来航し、横須賀の米海軍基地へ入港したのはご存知のとおり。同空母は欧州からインド洋、南シナ海、東シナ海と「不安定の弧」と呼ばれたユーラシア大陸辺縁海域・地域を西から辿り、日本へ到達した。 


長い航海の目的はインド太平洋地域の平和と安定のために英国の関与意志を示すものだと言われている。相手は中国だ。日本来航の前に、同空母打撃群は各国軍との共同訓練を重ねており、新たな防衛協力体制を見せることは覇権主義的海洋進出を続ける中国を牽制する狙いがあるとみられている。

9月6日には岸信夫防衛大臣が横須賀に接岸中の同空母を視察し、今回の派遣行動には英国の強い意志を感じるとのコメントを発信している。横須賀入港期間中にはこうした政治的・軍事的な活動に専念、乗組員は新型コロナ感染症拡大防止対策のため上陸はせず、次の予定へ向けそのまま出港するとされた。これは同じく横須賀へ入港していた英補給艦「タイドスプリング」やオランダ海軍フリゲート艦「エファーツェン」も同様。前述のように来航前にも日本近海で多国間共同訓練を行なっていたが、来航後には日英米蘭加共同訓練「PACIFIC CROWN 21」が予定されていた。 

そして「クイーン・エリザベス」は予定を一日早めた9月8日に横須賀港の米海軍基地を離れ、14時には浦賀水道の航路入口へ差し掛かる。観音崎から遠望していると、同空母の異形さが際立った。暗色に見えた塗装も日光を受けると独特の白灰色が浮かび上がる。英国近海の海と空に溶け込む迷彩色なのだろう。

スキージャンプ方式の艦首を持つ飛行甲板にはSTOVL(短距離離陸垂直着陸)能力を持つステルス戦闘機F-35Bを複数駐機させている。艦載機を載せずに出入港することの多い米海軍空母の出港とはまた違う様相で興味深い。

 横須賀港外で沖止めしていた海上自衛隊護衛艦「いせ」が「クイーン・エリザベス」を待ち受け、航路上で接近し、2隻は並進し始める。上空には哨戒ヘリが滞空しており、おそらく2隻並んだ姿を撮影していると思われた。多国間共同訓練でよく行なわれる「フォトセッション」と呼ばれるものだろう、共同訓練の広報写真を撮影しているはずだ。これを中国も見ることになる。

しかし平日の午後2時である。航路の混み合う時間帯だ。そして「クイーン・エリザベス」の満載排水量は約6万7700t、「いせ」は約1万9000t。2隻の巨大船の周囲を多数・多種多様な船舶が行き交う光景は凄まじさを感じた。航路の安全航行を担当する海上保安庁と東京湾海上交通センターの確かな仕事ぶりを連想した。と同時に、巨大船の通航にも怯まず航行する民航船や遊漁船なども頼もしい。ちなみに通航量で見ると東京湾中央航路は、東京港や横浜港等へ出入港する船舶が1⽇あたり約500隻航⾏する世界有数の海上交通過密海域だという。 

その後「クイーン・エリザベス」は航路を南下し東京湾を出て、関東地方東方の沖合で行なわれた共同訓練に参加したという。

 ●英空母「クイーン・エリザベス」スペック 基準排水量:約4万5000t 満載排水量:約6万7700t 全長:284m 最大幅:73m 乗員:約670名、航空要員約600名、司令部要員約90名 主機:統合電気推進(ガスタービン発電機×2、ディーゼル発電機×4) 最高速力:約26kt(約48km/h) 武装:CIWS×3、単装機銃×4、多銃身機銃など 搭載機:F-35×約40、EH-101(AW-101)ヘリ×6など ◎日英米蘭加共同訓練「PACIFIC CROWN 21」参加部隊 

●英空母打撃群:英空母「クイーン・エリザベス」、英駆逐艦「ディフェンダー」、英補給艦「タイドスプリング」、英補給艦「フォートビクトリア」、 蘭フリゲート艦「エファーツェン」、 加フリゲート艦「ウィニペグ」、英F-35B、米F-35B ●海上自衛隊:護衛艦「いせ」、「いずも」、搭載航空機(SH-60J/K)、MCH-101 ●航空自衛隊:F-35A、E-767 ●訓練項目:戦術運動、通信訓練、発着艦訓練など

【私の論評】中露にとって未だに米英空母打撃群は脅威!だからこそ、英国は空母打撃群を派遣した(゚д゚)!

先日、このブログで以下のようなことを掲載しました。

現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかありません。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦です。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかありません。

船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまいます。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまったら、空母だろうと何であろうと1発で撃沈です。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、その意味では現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力なのです。

そういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を所有していますが、潜水艦そのもや対潜戦闘などの能力、水面より下の戦力は弱いです。一方日米は、水面より下の戦力においては圧倒的に強いです。

この原則は、英国海軍にもあてはまります。本当の戦力は、英国海軍でも潜水艦なのです。では、今回の英国空母打撃群にも潜水艦が随伴していたのでしょうか。

やはり、随伴していました。英海軍の原子力潜水艦1隻が2021年8月11日(水)、韓国の釜山に入港しました。

姿を見せたのはイギリス海軍のアスチュート級攻撃型原子力潜水艦で、艦名は不明であるものの、西太平洋を航行中のイギリス空母「クイーン・エリザベス」を中心とした空母打撃群(CSG21)に付き添っている潜水艦ではないかと見られています。

アスチュート級攻撃型原潜

 「クイーン・エリザベス」空母打撃群を構成する艦の中に潜水艦は含まれていないものの、常に随伴していたようで、7月上旬に同空母打撃群がスエズ運河を抜け紅海(インド洋)に入った際には、空母打撃群の構成艦であるフリゲート「リッチモンド」が、同行していた船として、アスチュート級原子力潜水艦の艦影を公式Twitter(ツイッター)に上げていました。

 今回、釜山に入港したアスチュート級原子力潜水艦が、7月にフリゲート「リッチモンド」が公開した原潜と同じ船かは不明ですが、イギリス海軍の原子力潜水艦が極東に来航することは、なかなかありません。

 なお、イギリス原潜が入港した釜山にはアメリカ海軍の基地があり、在韓米海軍の司令部が置かれています。ここは排水量10万トンを越えるアメリカ海軍の原子力空母も接岸可能な広さを有しています。

英空母打撃群は、英国のポーツマスを出港し、スエズ運河、インド洋を経て、日本に入港しました。その間インド洋までは、アスチュート級攻撃型原子力潜水艦が随伴していたわけですが、8月11日には韓国の釜山に、入港しています。

これは何を意味するのでしょうか。現在英空母打撃群の脅威となるのは、中露のみです。中露と比較すれば、世界トップクラスの日米には劣るとはいえども、英国の対潜哨戒能力は、中露よりもはるかに優れおり、英空母打撃群が中露に対応するには、空母打撃群の対潜戦闘能力と、攻撃型潜水艦1隻で十分と判断したのでしょう。

実際、英空母打撃群が、英国を出発してから、日本に入港するまで、まったく平穏無事であったというわけではありません。実際、こ2つの出来事がありました。

6月23日、ロシア国防省は黒海でイギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」に対し、国境警備隊の巡視船による警告射撃およびロシア軍のSu-24攻撃機で警告爆撃を実施したと発表しました。

ロシア国防省によると、本日11時52分に「ディフェンダー」は黒海の北西部でロシアの国境を越えた。(クリミア半島)フィオレント岬の付近3kmの領海に入った。
領海侵犯が発生した場合の武器の使用について事前に警告されていたが、イギリス艦はこれに反応しなかった。12時6分と12時8分に、ロシア国境警備隊(FSB所属)の巡視船が警告射撃を行った。
午後12時19分、黒海艦隊のSu-24M攻撃機が警告爆撃を行い、駆逐艦の進路上に4発のOFAB-250爆弾を投下した。
午後12時23分、誘導ミサイル駆逐艦ディフェンダーは、黒海艦隊とFSBの国境警備隊の共同行動によりロシア連邦の領海の国境を離れた
(元はロシア語の記事を和訳 
出典:ЧФ совместно с ФСБ остановил нарушение российской границы эсминцем Великобритании (黒海艦隊はFSB(連邦保安局)と共同で、イギリスの駆逐艦によるロシア国境侵犯を阻止した):ロシア軍広報TVズヴェズダ
イギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」とオランダ海軍のフリゲート「エファーツェン」の2隻は、極東に向けて遠征作戦を実施中のイギリス海軍の空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群CSG21の参加艦艇で、2隻はロシアを牽制する目的で一時的に分派されボスポラス海峡を通過し(モントルー条約で空母は通れない)、黒海に入ってウクライナのオデッサに寄港した後に、ロシアが占領し実効支配しているクリミア半島付近で行動中でした。

これは今年の春にロシア軍がウクライナ国境に大戦力を集結させて開戦の危機を煽っていた挑発行為への対抗策で(現在は国境線の戦力は撤収済み)、本来はCSG21の行動計画には無かった黒海での対ロシア牽制作戦が急きょ組み込まれたものです。

6月14日、ボスポラス海峡を通過し黒海に向かう英駆逐艦「ディフェンダー」(左)と蘭フリゲート「エファーツェン」(右)

また当初はイギリス海軍の護衛艦艇2隻を派遣する方針でしたが、直前になって1隻はオランダ艦と入れ替えになっています。これは2014年にウクライナ東部で起きたマレーシア航空17便撃墜事件(親ロシア武装勢力の地対空ミサイルによる犯行とされる)での犠牲者にオランダ人が多いことが関係しているのかもしれません。

CSG21の作戦計画とは別に行動していたアメリカ海軍の駆逐艦「ラブーン」も先行して黒海に入っており、米英蘭の3隻の軍艦が黒海でのロシア牽制作戦を実施中でした。その最中にロシア軍は我慢がならなかったのか、これまで過去にも行ってきた攻撃機による接近飛行での威嚇だけでは済ませず、大胆にも警告爆撃という非常に強い行動を示してきたのです。

なおイギリス当局はロシア側から警告射撃を受けた事実を否定しています。イギリス側はクリミア半島をロシア領と認めておらずウクライナ領扱いした上で「ウクライナの領海を無害通航した(つまり領海内に入った事実は認めている)」と述べています。そしてロシア軍は実弾演習していただけで英駆逐艦への警告射撃も警告爆撃も無かったという見解を提示しました。

これは射撃と爆撃はあったが、英艦への警告とは認められていないという意味になります。
HMSディフェンダーへの威嚇射撃は行われていません。

イギリス海軍の艦船は、国際法に則ってウクライナの領海を無害通航しています。

(元は英語の記事を和訳)

出典:Ministry of Defence Press Office (英国防省広報) Twitter
ロシア軍は黒海で砲撃演習を行っており、その活動を海事関係者に事前に知らせていたと信じています。

HMSディフェンダーに向けられた射撃はなく、彼女の進路に爆弾が投下されたという主張も認められていません。

(元は英語の記事を和訳)

出典:Ministry of Defence Press Office (英国防省広報) Twitter
※)英語では船のことを女性に例えます。

仮にロシア側の主張が正しい場合でも、領海内であろうと無害通航権があるので、英駆逐艦が敵対行動をしておらず単純に領海に入っただけであるならば、ロシア側の警告射撃および警告爆撃は国連海洋法条約では認められない行為です。

英空母打撃群CSG21の黒海での対ロシア牽制作戦は、ロシアの過剰な反応により緊張状態をもたらすことになりました。

英空母打撃群が日本に入港するまでに公表されている出来事で大きなものは、空母打撃群を追尾している中国潜水艦を発見したことです。

英空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群は7月末に南シナ海に入り軍事演習を実施して8月6日に米海軍のグアム基地に入港したのですが、南シナ海を離れて太平洋に入った際に23型フリゲートのリッチモンド(F239)とケント(F78)が2隻の中国海軍の商級(Type093)攻撃型原潜が空母打撃群を追尾してくるのを発見、さらに水中から空母打撃群を護衛しているアスチュート級攻撃型原潜が別の商級攻撃型原潜を発見したと英国メディアが報じました。

発見した中国海軍の攻撃型原潜に対して英海軍がどのように対処したのかは不明ですが、元英海軍のクリス・パリー少将(フォークランド紛争でアルゼンチン海軍の潜水艦を座礁に追い込んだ経験をもつ)は英国メディアの取材に対して「今回のニュースはイラクやアフガニスタンで著しく低下した対潜水艦戦能力が回復して本来の任務が遂行できるようになったことを示しており良いニュースだ」と述べています。

元英海軍のクリス・パリー少将

さらに、この海域は、対潜哨戒能力が世界トップクラスの日米潜水艦が、定期的に巡航(公表されていないが、軍事筋の常識)しており、これは英空母打撃群だけが発見したのではなく、日米も当然発見していたことでしょう。ただ、日米の発見は、当たり前ですが、英軍による発見はニュースパリューがあるので、公表したのでしょう。

以上から推察すると、英国の空母打撃群は、中露に対しては十分な対潜戦闘能力を持っており、中露両軍の艦艇から十分に防御できるし、これを護衛する攻撃型原潜は1隻で十分と考えているということです。

さらに、南シナ海、東シナ海およびその他の日本領海などでは、日米の潜水艦隊が守備しているため、空母打撃群から潜水艦を離脱させ、韓国に寄港させても、全く問題がないと考えているということです。というより、中国に対して、日米英の連携や日米の海戦能力の高さを見せつけたとも考えられます。

冒頭で、本当の戦力は、英国海軍でも潜水艦であると述べましたが、これは日米英等の対潜哨戒能力が高く、攻撃力の高い攻撃型原潜を持つ英米等、ステルス性の高い潜水艦を持つ日本等、海戦能力の高い国にはあてはまりますが、対潜哨戒能力が低く、低いステルス性しかない潜水艦しかもたないため海戦能力の低い中国にはあてはまりません。ロシアも同じです。

中露にとっては、未だに米英の空母打撃群は脅威なのです。だからこそ、英国は空母打撃群を日本に派遣したのです。

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2021年9月10日金曜日

米国の同盟関係弱体化ではないアフガン撤退―【私の論評】米は無論、中露も変えられないアフガン情勢(゚д゚)!

米国の同盟関係弱体化ではないアフガン撤退

岡崎研究所

 チャタムハウス(王立国際問題研究所)所長のロビン・ニブリットが、米国のアフガニスタンの挫折によって米国による安全保障のコミットメントの信頼性が揺らいでいるという議論は的外れであるとの論説を、8月19日付のForeign Affairs(電子版)に寄稿している

 この論説が書かれた理由は論説内でも説明されているが、カブールの劇的な陥落と避けられたはずの混乱という米国の挫折を見て、バイデン政権であれ何であれ、一体米国の政権による安全保障のコミットメ ントは信頼出来るのかという問題が欧州で提起されたことにある。


 例えば、フィナンシャル・タイムズ紙のギデオン・ラックマンは、米国の失態は「米国は衰退しつつある、米国による安全の保証は信頼出来ない」という中国の二つの主要なメッセージに正しく符号すると論じている。

 英国の元外交官(キャメロン首相の安全保障担当補佐官)ピーター・リケッツは、「NATOは米国の一方的な決定に完全に出し抜かれた」「アフガン作戦は何時かは終わらねばならなかったが、……終結の方法は屈辱的でNATOに害をなすものであった」と述べ、「9.11」当時のNATO事務総長ジョージ・ロバートソンは、「入るのも出るのも一緒(in together, out together)というNATOの原則がトランプおよびバイデンの双方に捨てられたようである」と述べている。

 ニブリットの論説は苛立つ欧州側に頭を冷やすように促すとともに、バイデン政権がアフガニスタンの失態に懲りて及び腰になることを怖れてか、引き続き欧州と共に戦略目標を追及するよう説いている。一方、ニブリットは、バイデン政権を批判することも躊躇していない。欧州の当局者が適切に米国から協議を受けたとは思っていないことを指摘している。

 「9.11」の事態にNATOは集団防衛を規定するNATO条約5条を発動して米国を支持したのであるから、撤退にあたってNATOと協議すべきはけだし当然である。バイデン政権は協議を遂げたと述べているが、欧州としては既成事実(fait accompli)の押し付けと感じたに違いない。英国のベン・ウォレス国防相が米国抜きで有志の欧州諸国と残留することを模索したが、米国抜きでは安全を確保し得ず、涙を呑んだという一件はこの辺りの事情を物語っている。

 2001年10月7日、英軍は米軍と共にアフガニスタンに進攻したのであるから、英国は特にねんごろに協議にあずかる立場にあったはずである。8月18日の下院でジョンソン首相は与野党の激しい批判に晒された。

 テリーザ・メイ前首相は「我々のインテリジェンスはそれ程お粗末なのか、アフガン政府についての我々の理解はそれ程 弱いのか、現場の状況の我々の知識はそれ程不足なのか?それとも、 米国に付き従わねばならないと感じ神頼みで夜には何とかなると希望しただけなのか?」と批判した。
 
「台湾への衝撃」も的外れ

 米国による安全保障のコミットメントの信頼性が揺らいでいるという議論は的外れだとするニブリットの論説の指摘は首肯出来るものである。特に、アフガニスタン撤退は中国に戦略的焦点を絞る努力の反映であることが強調されるべきであろう。

 8月16日付の環球時報は、ワシントンがカブールの政権を見捨てたことは台湾島にも特に衝撃を与えたと述べ、「これが台湾の将来の命運の或る種の前兆か?」と述べている。この種の議論の片棒を担ぐことに利益はないと言うべきであろう。

【私の論評】米は無論、中露も変えられないアフガン情勢(゚д゚)!

米国民は米軍のアフガン撤退を概ね歓迎していますが、バイデン政権の対応ぶりには、安全保障の専門家たちから、厳しい批判や疑問が投げかけられています。アフガンからの米軍撤退は、トランプ政権下の2020年2月のカタール合意から始まっています。

それによれば、タリバンが国内でテロ活動を許さないことなどを条件に、今年5月までに米軍を完全撤退するということでした。

後を継いだバイデン政権は、タリバンに課していた条件を事実上撤廃する代わりに、撤退期限を数か月延長したという経緯があります。バイデンは、タリバンの急拡大を阻止する何らかの手を打つべきではないかと性急な撤退を戒める声にも耳を貸しませんでした。バイデン政権の対応の是非を検討することは無意味ではないと思います。

しかし、カブール政府の崩壊は早晩避けられなかったことです。米国が支持してきたカルザイ、ガニの歴代政権は、汚職にまみれ、統治能力が全く不十分でした。アフガンでは部族主義がはびこり、彼らの目まぐるしい合従連衡が統治を極めて困難にしているという事情もあります。

米軍はアフガンの政府軍に支援を施し、強力な軍を造ったと主張してきたましたが、実態はそれとはかけ離れた姿でした。BBCの報道によれば、記録上はアフガン治安部隊は30万以上を擁することになっていたのですが、名前だけの「幽霊兵」も多く、アフガニスタン復興特別監察官(SIGAR)の米連邦議会への最新報告は、「実際の兵力のデータは正確性が疑わしい」と指摘していたといいます。

アフガニスタン治安部隊


そもそもアフガンでの戦争は、2001年の9・11テロを受け、実行犯であるアルカイダを当時のタリバン政権が支援したことに対する自衛権の発動として開始されたものです。テロを根絶し、罰し、裁くことが目的でした。それがいつの間にか、テロの温床にしてはいけないという錦の御旗の下、アフガンの国造りが戦争目的に変わってしまった結果、泥沼化したのです。

なお、ブリンケン国務長官は、アフガンでの戦争はビンラーディンを殺害するなどテロに対する戦争としては成功したのであり、今後5年、10年も米軍を留めおくことは米国の国益に反する、という趣旨のことをCNNの番組で述べています。


今回の「陥落劇」は、ベトナム戦争でのサイゴン陥落を想起させるとしてセンセーショナルに報道されています。米国衰退論、米国の撤退を中国などが埋めることへの懸念、同盟国を見捨てたことによる米国への信認の低下などが、喧しく指摘されることになるでしょう。しかし、こうした議論のすべてが適切であるのか、疑問です。

陥落直前にサイゴンを脱出し、空母ミッドウェイに到着した南ベトナム市民

まず、米国史上最長となる不毛な戦争に終止符を打った。カブール陥落という米国にとり不面目で衝撃的な幕引きを迎えたにもかかわらず、米国がアフガンから手を引き、大国との競争、とりわけ中国との対立に集中する意思を表明し、そういう態勢を目指すことを示すことができたことの意義は重視されるべきです。


サイゴン陥落を想起させるといいますが、フィナンシャルタイムズ紙コラムニストのギデオン・ラックマンがカブール政権崩壊直前の8月13日付け同紙掲載の論説‘Joe Biden’s credibility has been shredded in Afghanistan’で指摘する通り、サイゴン陥落の14年後に冷戦に勝利したのは米国です。

そうして、昨日も述べたように「サイゴン陥落は米国時代の終わり」と嘯いていた旧ソ連でしたが、15年後に崩壊したのは自らでした。

中国は確かに「一帯一路」にアフガンを取り込もうとしています。中国・パキスタン経済回廊(CPEC)のアフガンへの延長を模索しているらしいです。これは地政学的に重要なことです。

7月末には、王毅外相が天津でタリバンの共同創設者アブドゥル・ガニ・バラダルら幹部と会談しています。この際、米軍のアフガン撤収について米国の失敗を言い立て、中国はアフガンの主権独立と領土安全の尊重や内政不干渉を徹底するとして、来るべきタリバン政権に中国を売り込んでいる。

中国のアフガンへの関与についても、前出のラックマンの論説が参考になります。ラックマンによれば、一つには、中国による新疆ウイグルのムスリム弾圧へのタリバン側の反応がどうなるのか頭痛の種になるといいます。

もう一つは、混沌としたアフガンに軍事的に介入すべきか、それとも自助努力に任せるかという、「古典的な超大国のジレンマ」に陥ることだといいます。これは米国が陥ったジレンマに他ならないです。アフガンの部族主義にも直面するでしょう。中国にとりプラスになるかマイナスになるか、現段階で判断するのは時期尚早です。

ただ、昨日も述べたように、米軍が長年アフガニスタンの治安を担ってきたことで、中国をはじめ近隣諸国はその恩恵に浴してきたのですが、その安全装置が突然なくなってしまったのです。

アフガニスタンの隣国である中国にとって、将来の戦略的利益よりも、タリバンの突然の復権による安全保障上の課題のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。

仮に中国がパキスタン、タリバン政権下のアフガンと「一帯一路」を推進することになれば、これはパキスタンおよび中国と敵対するインドの警戒、インドとの対立を招くことになります。新たな地政学的局面を迎えると言ってよいです。

こうなった場合、無論米国はインドを支援するでしょう。日米英印のQuad諸国も、インドの安全保障のため、インドを支援するでしょう。インドはインド太平洋戦略の柱の一つである重要な大国です。アフガン情勢は今後ともとりわけ地政学側面から注視していく必要があります。

国連はタリバンがデモ参加者に対して実弾を使用していると報告、その他にも様々なタリバンの暴力についての報告がなされています。タリバンは所詮、単なるテロリストであり、烏合の衆であり統治能力などありません。

早晩、様々な勢力のうちの一つになり、これらの勢力が拮抗して、再び紛争になるのは目に見えています。そうして、新たな秩序が形成されることになります。米国のアフガン撤退は、その序盤に過ぎないのです。

そうして、米軍も長年かかってもできなかったように、中露もアフガン情勢を変えることはできません。

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2021年9月9日木曜日

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かつてテロ組織が無視していた中国が、いまやアメリカに変わる攻撃対象に


<中国人を標的にした襲撃が相次いでいる。大国の地位と新植民地主義への反発以外にも、テロ組織には中国を狙う別の目的が>

2018年11月にはパキスタン最大の都市カラチにある中国総領事館が襲撃を受けた


スーパーヒーローの責任はスーパーに重い。かの「スパイダーマン」はそう言っていた。そのとおり。だがスーパー大国には、スーパーな敵意や憎悪も向けられる。

  アメリカ人なら痛いほど知っているこの教訓を、今度は中国が学ぶ番だ。数年前から、パキスタンでは中国人や中国の権益が絡む施設に対するテロ攻撃が繰り返されている。パキスタン・タリバン運動(TTP)のようなイスラム過激派や、バルチスタン州やシンド州の分離独立派の犯行とみられる。

 この8月20日にも、バルチスタン解放軍(BLA)が南西部グワダルで中国人の乗る車両を攻撃する事件が起きた。BLAは2018年11月に最大都市カラチの中国総領事館を襲撃したことで知られる。

中国が今後、世界中で直面するであろう現実の縮図。それが今のパキスタンだ。中国が国際社会での存在感を増せば増すほど、テロ組織の標的となりやすい。中国がアフガニスタンのタリバンに急接近しているのも、あの国が再びテロの温床となるのを防ぎたいからだろう。しかし歴史を振り返れば、中国の思惑どおりにいく保証はない。

2001年9月11日のアメリカ本土同時多発テロ以前にも、中国は当時のタリバン政権と協議し、アフガニスタンに潜むウイグル系の反体制グループへの対処を求めたが、タリバン側が何らかの手を打った形跡はない。 

中国政府が最近タリバンと結んだとされる新たな合意の内容は不明だが、イスラム教徒のウイグル人をタリバンが摘発するとは考えにくい。むしろ、この地域における中国の権益の保護を求めた可能性が高い。

■中国人労働者はイスラム法を守るか

首都カブールだけでなく、今のアフガニスタンには大勢の中国人労働者や商人がいる。しかし彼らが厳格なイスラム法(シャリーア)を理解し、順守するとは思えない。その場合、タリバンは中国人の命を守ってくれるだろうか。今や超大国となった中国を敵視するテロリストの脅威を封じてくれるだろうか。 

グワダルでの8月20日の襲撃の前月にも、カイバル・パクトゥンクワ州のダス水力発電所で中国人技術者9人が襲撃され、死亡する事件が起きている。直後にはカラチで中国人2人が別のバルチスタン分離独立派に銃撃された。

 3月にはシンド州の分離主義組織に中国人1人が銃撃されて負傷。昨年12月にも同様の事件が2件起きている。さらに今年4月には、バルチスタン州で駐パキスタン中国大使がTTPに襲撃され、間一髪で難を逃れる事件も起きた。

■大国化したことで目立つ存在に

こうした襲撃で犯行声明を出す集団の主張は多岐にわたり、この地域で中国の置かれた立場の複雑さを浮き彫りにしている。

 一連の攻撃で最も衝撃的だったのはダスでの襲撃事件だ。中国筋は、攻撃したのはTTPの協力を得た東トルキスタンイスラム運動(ETIM)との見方を示している。 

ETIMの実体は定かでないが、トルキスタンイスラム党(TIP)を自称する組織と重なっていると推定される。パキスタンと中国はインドを非難する声明も出したが、これは毎度のこと。パキスタンで何かが起きれば必ずインドが悪者にされる。

 中国政府はアフガニスタンのタリバンにもクギを刺したようだ。7月に中国を訪問したタリバン幹部に対し、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相はETIM/TIPと完全に手を切り、「中国の国家安全保障に対する直接的な脅威」である同組織に対処するよう求めている。

 中国側は詳細を明らかにしていないが、アフガニスタンでタリバンが政権を握る事態を想定し、タリバン政権承認の交換条件としてテロリスト排除を求めたとみられる。

 中国政府は、タリバン政権成立後にアフガニスタンの国内情勢が不安定化し、その隙を突いてETIMが台頭することを強く懸念している。その脅威は国境を接する新疆ウイグル自治区に直結するからだ。タリバン側はETIMの脅威を抑制すると中国側に約束したようだが、中国政府がその言葉をどこまで信用しているかは分からない。

 いずれにせよ、パキスタンで中国人や中国の投資案件を狙ったテロが急増している事態は、米軍のアフガニスタン撤退を背景に、あの地域で中国を敵視する武装勢力が勢いづいてきた証拠だ。 

中国としては、タリバン新政権と良好な関係を築くことにより、テロの脅威を少しでも減らしたいところだ。しかし問題の根は深く、とてもタリバン指導部の手には負えないだろう。

 かつてのイスラム過激派は中国の存在を大して意識していなかった。あの国際テロ組織「アルカイダ」の創設者ウサマ・ビンラディンでさえ9.11テロ以前の段階では、アメリカに対する敵意という共通項を持つ中国は自分たちにとって戦略的な同盟国になり得ると発言していた。当時はまだ、中国も途上国の仲間とみられていた。

 だが今の中国は世界第2位の経済大国で、アフガニスタン周辺地域で最も目立つ存在になりつつある。当然、中国に対する認識は変わり、緊張も高まる。 それが最も顕著に見られるのがパキスタンだ。中国とパキスタンは友好関係にあり、戦略的なパートナーでもあるが、パキスタンで発生する中国人に対するテロ攻撃は、どの国よりも突出して多い。

■高まるウイグルへの注目

状況は今後、もっと深刻になるだろう。アフガニスタンからのテロ輸出を防いでいた米軍が撤退した以上、中国は自力で自国民の命と自国の利権を守らねばならない。 

中国は従来も、アフガニスタンの南北に位置するパキスタンやタジキスタンで、軍事基地の建設や兵力増強を支援してきた。タジキスタンには中国軍の基地も置いた。アフガニスタン北部のバダフシャン州でも政府軍の基地を建設したが、これはタリバンに乗っ取られたものと思われる。

 決して大規模な活動ではないが、全ては米軍の駐留下で行われた。米軍が治安を守り、武装勢力を抑止し、必要とあれば中国人を標的とする攻撃を防いでもきた。18年2月にはバダフシャン州で米軍が、タリバンやETIMのものとされる複数の軍事施設を攻撃している。

今後は、そうはいかない。イスラム過激派の怒りを一身に引き受けてきたアメリカはもういない。これからはイスラム過激派とも民族主義的な反政府勢力とも、直接に対峙しなければならない。 

パキスタンのシンド州やバルチスタン州で分離独立を目指す少数民族系の武装勢力は、中国を21世紀の「新植民地主義国」と見なしている。中央政府と組んで自分たちの資源を奪い、今でさえ悲惨な社会・経済状況をさらに悪化させている元凶、それが中国だと考えている。 

カラチでの中国人襲撃について名乗りを上げたバルチスタン解放戦線は犯行声明で、「中国は開発の名の下にパキスタンと結託し、われらの資源を奪い、われらを抹殺しようとしている」と糾弾した。

ジハード(聖戦)の旗を掲げるイスラム過激派は従来、アメリカと西欧諸国を主たる敵対勢力と見なしてきた。中国の存在は、あまり気にしていなかった。しかし新疆ウイグル自治区におけるウイグル人(基本的にイスラム教徒だ)に対する迫害が伝えられるにつれ、彼らの論調にも中国非難が増え始めた。

そうした論客の代表格が、例えばミャンマー系のイスラム法学者アブザル・アルブルミだ。

激烈にして巧みな説教者として知られるアルブルミは15年以降、米軍のアフガニスタン撤退後には中国が新たな植民地主義勢力として台頭すると警告してきた。支持者向けのある声明では「イスラム戦士よ、次なる敵は中国だ。あの国は日々、イスラム教徒と戦うための武器を開発している」と主張していた。

 別のビデオでも、「アフガニスタンではタリバンが勝利した......次なる標的は中国になる」と言い放っている。

■中国人の資産は格好のソフトターゲット

中国による少数民族弾圧を許すなというアルブルミの主張は、ミャンマーの仏教徒系軍事政権によるイスラム教徒(ロヒンギャ)弾圧などの事例と合わせ、アジア各地に潜むイスラム聖戦士の目を中国に向けさせている。 

もちろん、新疆ウイグル自治区におけるイスラム教徒弾圧の問題は以前から知られていた。しかし、特にイスラム過激派の目を引くことはなかった。目の前にいるアメリカという「悪魔」をたたくほうが先決だったからだ。 

その状況が今、どう変わったかは定かでない。しかしウイグル人の状況に対する注目度は確実に上がっている。イスラム聖戦派のウェブサイトでも、最近はウイグル人による抵抗の「大義」が頻繁に取り上げられている。 

当然、国境を接するパキスタン政府も神経をとがらせている。中国と友好的な関係にある同国のイムラン・カーン首相は、中国の政策を支持せざるを得ない。しかしパキスタン国内にいるイスラム過激派の思いは違う。 

彼らが中国の領土内に侵入し、そこでテロ攻撃を実行することは難しいだろう。だがパキスタン国内では、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)と呼ばれる大規模な道路建設事業が進んでいる。中国政府の掲げる「一帯一路」構想の一環だが、これはテロリストの格好の標的となる。

 CPECは中国の新疆ウイグル自治区からパキスタン南西部のグワダル港を結ぶものだが、ほかにも中国主導の大規模インフラ建設計画はある。当然、パキスタンにやって来る中国人のビジネスマンも増える。テロリストから見れば、願ってもないチャンスだ。

パキスタンにいるテロ集団の思想は、必ずしも同じではない。だが敵はいる。今まではアメリカだったが、これからは中国だ。中国政府の好むと好まざるを問わず、パキスタン国内や周辺諸国で暮らす中国人や中国系の資産は、テロリストにとって格好のソフトターゲットになる。

 中国は本気で21世紀版のシルクロードを建設するつもりだ。そうなればパキスタンだけでなく、アフガニスタンを含む周辺諸国でも中国企業の存在感が増し、現地で働く人を対象にする中国系の商人も増える。そして、その全てがテロの対象となる。 

テロリストが目指すのは、自分の命と引き換えに自分の政治的なメッセージを拡散することだ。自爆という派手なパフォーマンスは、そのための手段。派手にやれば、それだけ新たな仲間も増えるし、資金も入ってくる。 

アメリカが尻尾を巻いて逃げ出した今、権力の空白を利用して利権の拡大を図る中国に、テロリストが目を向けるのは当然のことだ。世界で2番目のスーパーリッチな国となった以上、中国はそのスーパーな責任を引き受けるしかない。そこに含まれる壮絶なリスクも含めて。

【私の論評】中国がアフガンで英国、旧ソ連、米国と同様の失敗を繰り返すのは時間の問題(゚д゚)!

CNNは4日、「中国がタリバンに向け求愛しアフガン内のウイグル人が命の脅威を感じている」と伝えました。BBCによると、シルクロードを通じてアフガンにやってきた「中国難民」とその2世は2000人と推定されます。主に宗教迫害を避けてきたウイグル族とムスリム少数民族、そしてその子孫です。

中国の王毅外相(右)と、タリバン幹部のバラダル師=7月28日、中国天津市)


中国は自国西部新疆地域に集まって住むウイグル人を弾圧しています。中国にいるウイグル人は1200万人ほどですが、米国務省によるとこのうち最大200万人が中国の「再教育」拘禁施設に入った経験があったり、現在も閉じ込められています。

今年初めにBBCが伝えたところによると、元収監者は「施設で政治的洗脳、強制労働、拷問、深刻な性的虐待を経験または目撃した」と暴露しました。中国は「ウイグル収容所」と関連し、極端主義とテロリズムを根絶するために設計された「職業訓練センター」だとして人権侵害容疑を強く否定してきました。

CNNは「中国はこの数年間に海外のウイグル人を新疆に送還しようと努力していてタリバンと中国政府の密着がウイグル人の懸念をもたらしている」と伝えました。6月に発表されたウイグル人権プロジェクト報告書によると、1997年以降に各国からウイグル人が中国に送還された事例は少なくとも395件に達するといいます。

BBCもアフガン内ウイグル人の恐れは根拠がないものではないと伝えました。マザリシャリフに住むあるウイグル人家族の家長は「私たちの身分証にはウイグル人と明確に記載されている」として10日にわたり家にとどまっている理由を説明しました。アフガン内ウイグル人の多くは数十年前に親が中国を離れた移民第2世代ですが、身分証には依然として「ウイグル」または「中国難民」と書かれているといいます。

日本のテレビに中国による弾圧を証言するウイグル人女性

政治的に大きな代償を払うことを覚悟してでもアフガニスタンという長年の不良資産を「損切り」したのは、米国政府がインド太平洋地域に本格的に関与しようとする意思の表れです。米軍が長年アフガニスタンの治安を担ってきたことで、中国をはじめ近隣諸国はその恩恵に浴してきたのですが、その安全装置が突然なくなってしまったのです。

アフガニスタンの隣国である中国にとって、将来の戦略的利益よりも、タリバンの突然の復権による安全保障上の課題のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。

中国国内の世論は当初「米国の敗走」を嘲笑するムードが支配していましたが、その後「タリバン警戒論」が噴出し始めています。中国政府は7月28日、タリバンのナンバー2であるバラダル氏を招き、その関係の良好さをアピールしていますが、アフガニスタンに潜在する東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)を名乗る武装グループの動向に神経を尖らせていることは間違いないです。

国内の弾圧を逃れてタリバンの下にやってきた中国新疆ウイグル自治区の若者の数は約3500人、内戦が続くシリアなどでも実戦経験を磨いているといわれています。米国政府は2002年にETIMをテロ組織に指定しましたが、昨年その指定を解除しています。

ETIMのメンバーがアフガニスタンとの国境をくぐり抜けて国内でテロを行うことを恐れる中国政府は、タリバンから「ETIMとの関係を絶ち、同勢力が新疆ウイグル自治区に戻ることを阻止する」との言質を取っていますが、タリバンがその約束を守ることができるとは思えません。

タリバンは当初強硬姿勢を控え、より穏健なイメージの構築に努めていましたが、徐々にその本性をあらわし始めています。タリバンにとって誤算だったのは、アフガニスタン政府の約90億ドルの外貨準備を手に入れることができなかったことです。同国の外貨準備の大半は海外の口座に預託されており、タリバンがアクセスできるのは全体の0.2パーセント以下にすぎないといいます。

勝利に貢献した兵士への恩賞に事欠くばかりか、政府が銀行に十分なドルを供給できないことから、通貨アフガニが急落、食品価格などが高騰する事態になりつつあります。資金不足のなかでタリバン兵が、麻薬の原料であるケシの栽培に走り、住民への略奪や暴行を本格化させれば、再び国際社会から見放されてしまうでしょう。

そもそもアフガニスタンには近代的な意味での「国」が成立する政治風土がありません。戦国時代の日本のように諸勢力が分立する状態にあり、外部から強力に支援して中央政府をつくったとしても国全体を統治できないことは米国の20年に及ぶ統治が教えてくれています。

「テロリストにとって反米というスローガンはもはや時代後れである」との指摘もあります。アラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国とイスラエルとの間で国交が樹立した現在、「反米」はアラブの富豪からテロ活動資金を引き出せる「錦の御旗」ではなくなっています。

かつてのようにタリバンがアフガニスタンを制圧したからといって、ただちにテロリストが米国に押し寄せるわけではないのです。

面子を捨て実をとるであろう米国がタリバンと秘密裏に和解するようなことになれば、アフガニスタンに潜在するテロリストを恐れなければならないのは中国
ということになります。

タリバンの首脳部は中国の意向に従うそぶりを示していますが、中国で生活するウイグル人たちへの圧政を看過すれば、イスラム原理主義を標榜する存在意義があやうくなります。イスラム教の教義には、イスラム教の教えを世界に広めよというものがあります。世界と無論中国も含んでいます。

そうして、烏合の衆であるタリバンの中央の指令が末端まで徹底されるという保証もありません。

ETIMの旗

米ホワイトハウスは17日、アフガニスタン政府に支援した武器などの相当数がタリバンの手に渡ったことを認めました。カネに困ったタリバン兵が最新鋭の米国製兵器をETIMのメンバーに横流しすれば、中国にとって最凶のテロリストが誕生することになるでしょう。

中国人民解放軍は18日から、タジキスタン領内で同国軍と共にアフガニスタンからのテロリスト潜入を防ぐための軍事演習を開始しました。タジキスタンにはロシア軍が駐留しており、中国の軍隊が同国内で演習を行うのは極めて異例のことです。中国が「混乱の矢面に立たされている」という危機意識を持っていることの証左でしょう。

「サイゴン陥落は米国時代の終わり」と嘯いていた旧ソ連でしたが、15年後に崩壊したのは自らでした。「『大国の墓場』であるアフガニスタンに派兵しない」とする中国ですが、中国が新疆ウイグル自治区において、ウイグル人への弾圧をやめない限り、英国、旧ソ連、米国と同様の失敗を繰り返すのは時間の問題でしょう。


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2021年9月8日水曜日

中国によるアフガン進出を左右するパキスタン情勢―【私の論評】米軍のアフガン撤退は、米国の東アジアへの関与を強めることになり、日本は大歓迎すべき(゚д゚)!

中国によるアフガン進出を左右するパキスタン情勢

岡崎研究所

 8月30日(日本時間31日)、米中央軍のマッケンジー司令官は、米軍のアフガニスタンからの撤退が完了した旨を述べた。2001年9月11日の米国同時多発テロをきっかけに、アフガニスタンに介入した米軍及びNATO諸国軍だったが、20年にわたる軍事行動や民主化運動が正式に幕を閉じることになった。

 8月15日のタリバンによるカブール陥落前後から、米軍始めNATO諸国は、自国民及び協力アフガン人を退避させる行動をしてきたが、その間も、カブールが混乱状況にあったのみならず、26日にはカブール国際空港周辺で大規模な自爆テロが発生した。「IS-K」と名乗るISの一派が犯行声明を出した。

 今後、タリバン政権が支配するアフガニスタンは再びテロの温床になってしまうのだろうか。


 この8月の国連安全保障理事会では、今年4月からの間にタリバン、アルカイダやISILなど20のグループによってアフガニスタンの34の内31の地区で計5500回にわたる攻撃が行われていたことが報告された。

 今年初めの米国議会では、バーンズCIA長官が、現在はアルカイダやISILは米国本土を攻撃する力はないが、米軍が撤退すると、情報を収集し、必要な対応策をとるのが難しくなるのは事実であると警告した。今後、いかに正確な情報を早く収集し、危険を察知した場合にいかに早急に行動を起こせるかの体制をどのように築けるかが課題となる。トランプの合意、バイデンの撤退は、この体制を築くのをより困難にしたかもしれない。

 アフガニスタンは、6か国(中国、イラン、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)と国境を接している。既に、タリバンに積極的にアプローチしている中国は、米軍撤退後、アフガニスタンにさらなる影響力を行使するのだろうか。

 米軍のアフガニスタンからの撤退は、中国対策に集中するためという目的もある。しかし、中東でも米軍の縮小が中国の存在感を増しているように、アフガニスタンからの米軍撤退が逆にアフガニスタンから中東にいたるまで中国が勢力を伸ばす結果になることも懸念されている。

 中国は米軍の存在がアフガニスタンにもたらしていた一定の治安を利用し、着々と投資機会を探り、タリバンとの関係を築いてきた。すでに石油や天然ガス開発に投資してきたが、米軍撤退後は経済支援の代償にリチウムやコバルトなど産業資源の開拓権利を狙っている。

 また、アフガニスタンは、中国が主導する「一帯一路構想(BRI)」で、中央アジアから中東、欧州を結ぶ要所である。BRI最大のプロジェクトである中国・パキスタン経済回路とカブールをつなぐ道路建設計画もあり、資源開発やインフラ整備が実現すれば中国の覇権の動脈となるBRIは大きく前進する。

 中国が米軍撤退の恩恵をうけるかは、ウイグル分離派組織である東トルキスタン・イスラム運動が活性化するか、そしてアフガニスタンやパキスタン内の治安にかかっているといえる。

パキスタンの動きにも注視を

 アフガニスタンと南の国境を接するのがパキスタンである。2011年にウサマビン・ラディンは、パキスタンに隠れていたところを米軍の特殊部隊によって殺害された。かつて米国がテロ対策を「AFPAK政策」と呼び、アフガニスタンとパキスタンを重視したのは、両国がテロの温床にならないように安定した国家になってほしいとの願望からだった。

 実は、そのパキスタンは、アフガニスタン以上に将来の不安を抱えていると見ることも出来る。Chayesらアフガニスタンの専門家によれば、タリバンはそもそもパキスタンの軍と軍統合情報局(ISI)が作ったものである。

 ソ連のアフガニスタン撤退後、西側からの豊富な武器を持った部族間の衝突が続きアフガニスタンは内戦状態だった。パキスタンはパシュトゥンの中でもイスラム原理主義者を支援し、アフガニスタンの内戦、特に国境沿いを鎮静化することで、パキスタン軍がカシミールでのインドとの戦いに専念することが可能になると計算した。

 パキスタン政府や軍、ISIはこれまでアフガニスタン・タリバンとパキスタン・タリバンを分けるような発言をしてきたが、両者は同じコインの表裏であるとされ、米国のアフガニスタン撤退でタリバンがアフガニスタンで勢力を得れば、パキスタン・タリバンも勢いを復活させ、再び北西部を中心にパキスタン情勢をさらに不安定にする危険がある。

 米国がアフガニスタンから撤退した後、タリバンやイスラム組織が再びアメリカ国内でテロを起こす可能性はゼロとは言えない。しかし、アフガニスタンやイラクでの「永遠の戦争」を忘れたく、新型コロナウイルスで精神的・経済的に疲弊し、分断が改善されないアメリカでは、首都ワシントン以外では、撤退騒動もアフガニスタンも比較的早く忘れられるかもしれない。それは、最近のバイデン政権への支持率低下の理由が、アフガニスタン撤退以上に、コロナや経済政策に向けられている点からもわかる。

【私の論評】米軍のアフガン撤退は、米国の東アジアへの関与を強めることになり、日本は大歓迎すべき(゚д゚)!

米軍によるアフガニスタン撤退に関しては、日本ではマイナス面ばかりが報道されていますが、本当にそれだけなのでしょうか。私自身はそうは、思いません。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します

米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを―【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を少し長いですが、以下に引用します。

ソ連のアフガニスタン侵攻に米国など西側諸国が反発し、70年代の緊張緩和(デタント)が終わって新冷戦といわれる対立に戻りました。これを機にソ連の権威が大きく揺らいで、ソ連崩壊の基点となりました。 

当時はソ連のアフガニスタン侵攻の理由は明確にはされず、諸説あったが、現在では次の2点とされています。

まず第一は、共産政権の維持のためです。アフガニスタンのアミン軍事政権が独裁化し、ソ連系の共産主義者排除を図ったことへの危機感をもちました。ソ連が直接介入に踏み切った口実は、1978年に締結した両国の善隣友好条約であり、またかつてチェコ事件(1968年)に介入したときに打ち出したブレジネフ=ドクトリン(制限主権論)でした。

第二位は、イスラーム民族運動の抑圧のためです。同年、隣国イランでイラン革命が勃発、イスラーム民族運動が活発になっており、イスラーム政権が成立すると、他のソ連邦内のイスラーム系諸民族にソ連からの離脱運動が強まる恐れがありました。

現在の中国も似たような状況に追い込まれることは、十分に考えられます。アフガニスタンのイスラーム過激派などに呼応して新疆ウイグル自治区の独立運動が起きる可能性もあります。

それに影響されて、チベット自治区、モンゴル自治区も独立運動が起きる可能性もあります。そうなると、中国はかつてのソ連や、米国のようにアフガニスタンに軍事介入をすることも予想されます。そうなれば、かつてのソ連や米国のように、中国の介入も泥沼化して、軍事的にも経済的にも衰退し、体制崩壊につながる可能性もあります。

意外と、トランプ氏はそのことを見越していたのかもしれません。米軍がこれ以上アフガニスタンに駐留をし続けていても、勝利を得られる確証は全くないのは確実ですし、そのために米軍将兵を犠牲にし続けることは得策ではないと考えたのでしょう。

さら、米軍アフガニスタン撤退を決めたトランプ氏は、中国と対峙を最優先にすべきであると考え、米軍のアフガニスタン撤退後には、その時々で中国に敵対し、中国を衰退させる方向に向かわせる勢力に支援をすることに切り替えたのでしょう。バイデン氏もそれを引き継いだのでしょう。誰が考えても、米軍がアフガニスタンに駐留し続けることは得策ではありません。

今後米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直すことになると思います。その先駆けが、米軍のアフガニスタン撤退です。

まさに、このようなことが起きようとしています。そもそも、米国内では、中国に対する関心や、敵愾心は高まりつつありますが、アフガンほの関心は薄れています。

2001年9月11日、米同時多発テロが起きた直後、米国には感情があふれていました。怒り、恐怖、悲しみが渦巻き、報道番組でニュースキャスターが「テロリストの反米憎悪の根深さ」を語るうちに泣き崩れる場面もありました。

米国同時多発テロ

それが合図のようにむき出しの感情というブームが世界に広がりました。その頃を境に控えめさや上品は死語となり、人々はネット、SNSで聞くに耐えない言葉で互いを非難するのが日常となりました。

それから20年、米国人は「感情」をどこかに置き忘れたのか、すっかり冷めきっています。アフガニスタンからの米軍撤退を歓迎も批判もせず、「まだいたのか」と無関心のままの人が少なくないです。

これは、徐々に冷めていったようです。米ギャラップ社の世論調査によると、2002年には93%がアフガンへの軍事介入は失敗ではなかったと答えています。介入直後、「イスラム世界の民主化」といったスローガンが語られた頃のことです。

ところが、介入への支持率は年々下がり、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンが米軍の手で殺害されてから1年後の2012年には、66%がアフガンでの軍事介入に反対しまし。そして、トランプ前大統領による「アメリカ・ファースト」政策で、アフガン内政への関心がますます遠のき、バイデン政権も特段の抵抗もなく撤退政策を引き継ぎました。

「世界に民主主義を」という大義も「テロの温床を叩く」という実利もアフガン介入で叶うことはありませんでした。USAトゥデイの8月下旬の調査では、「アフガンが再びテロリストのベースになるか」との問いに、米国人の73%がとイエスと答えています。

20年前にすでに、この戦争が米国の屈辱的な敗北に終わり、いずれタリバンが復権すると見る人は結構いました。言えるのは、この失敗、災難から米国人が何かを学んだとはとても思えないことです。

米国は今、かつての英国やソ連と同じ『帝国の末路』というシナリオに乗り、悲惨な状態へと向かいました。軍による海外での愚行は国民の分断をあおり続けるでしょう。過去20年の失策で唯一利を得たのは、軍産複合体だけです。この国でも外国でも庶民は何も得ていないです。

国の失敗に落胆もせず、感情的にもなれない状態に今の米国はあるのでしょうか。だとすれば、アフガンはほどなく話題にもならず、忘れられていくでしょう。アフガン撤退は、ベトナム戦争での敗退のように、米国を悩ますこともなく、ただ忘れ去られることになるでしょう。

米軍が置いて行った武器・装備で重武装したタリバン部隊の兵士ら

今後、主要国では中国が最も早くタリバン政権を承認する可能性が高く、おそらくロシアもほぼ同時に承認に踏み切るでしょう。

米国は、地下深くの岩石層から天然ガスを採取することに成功した「シェール革命」によって、中東原油に依存する必要がなくなったこともあり、同エリアからの撤退を加速し、その資源を対中競争につぎ込む戦略に転換しました。

中国はその後、米国撤退後の空白を埋める形で、中東での影響力を急速に拡大しています。

アフガン再建で今後注目されるのは、中ロ主導の上海協力機構(SCO)の役割です。

SCOには中央アジア諸国に加え、インドとパキスタンも加わり、アフガニスタンもオブザーバー参加しています。テロを封じ込め、地域の安定化を図る本来の機能が発揮できるかどうかが問われます。

SCOは大まかに言って、以下のような3つの課題を抱えています。
  • ソ連崩壊後の新たな国境管理
  • テロリズム・分離主義・過激主義(三悪)への共同対処
  • 石油・天然ガスなど資源協力
SCOはアフガン情勢をめぐり、7月14日の外相会議に続いて、9月10日にタジキスタンで首脳会議を開く予定です。

インドのモディ政権がこの首脳会議で、アフガン問題で主導権を握りつつある中ロにどう対応するかも注目されます。日米主導のインド太平洋戦略の中核を担う日米豪印4カ国首脳会合(Quad、クアッド)の命運を握るのもインドだからです。

中国やロシアが米国撤退後の空白を埋める形でアフガンに関与を強めたとしても、何も得ることはなく、経済的にも得られるものはほとんどなく、常にテロなどの脅威にさらされることになるでしょう。

それでも、ロシアはアフガン侵攻の失敗からアフガンへの深入りはしないでしょうが、そのような経験のない中国は今後深入りし、米国が経験した様々な苦い体験をすることになるでしょう。

いずれにしても、これを契機に、中露は中東に深入りしていく可能性が高いです。そうして、米国はアジアへの関与を強めていくことでしょう。

以下は、米国のリムランドの3大戦略地域を示すものです。


オバマまでの米国は、リムランド対応として、西ヨーロッパ:中東:東アジアに3:5:2の割合で、力を注いできました。アフガニスタン撤退を機に、この割合を最終的には3:2:5の割合にもっていくことでしょう。

そのほうが米国にとって良いことです。なぜなら、石油産油国になった米国にとって中東はさほど重要ではないですし、中国と対峙する現在の米国にとっては、東アジアに注力するのは、当然のことです。

そもそも、経済的にも西ヨーロッパはある程度大きな部分を占めますし、東アジア中国と日本が存在し、経済的にも大きな部分を占めています。

中東は、GDPでみれは、ほんとうにとるに足らない地域です。サウジアラビアを富裕な国とみなす人も多いですが、実態はどうなのかといえば、日本の福岡県のGDPとあまり変わりありません。中東全域をあわせても、GDPはさほどではないのです。

アフガニスタンに至っては、タリバンは無論のこと、他の勢力がとって変わったとしても、まともな経済対策などできる見込みはなく、今後数十年にわたって、取るに足らないものになるでしょう。

それでも、従来は石油という資源により、中東は重要拠点とみなされてきたのですが、石油産油国となった現在の米国はそうではありません。

このようなことから、米国のアフガン撤退も必然的なものだったといえます。ここに割いてきた注力を東アジアに振り向けるのは当然のことです。

ただ、米国としてはアフガンの失敗の経験をネガティブにだけ捉えるのではなく、今後の対中国戦略に役立てるべきです。アフガニスタンの泥沼に中国がはまり込み、なかなか抜け出せない状況にもっていくべきです。これにより、米国にとってアフガン撤退は一挙両得になる可能性もあります。

そうして、このような見方をすれば、日本にとっては、米国のアフガン撤退はネガティブなものではなく、大歓迎すべきものです。東アジアに米国が注力でき、米国撤退後の空白を埋める形で、中国がアフガンに介入すれば、中国の力が分散されるからです。

日本にとっては、中東の石油は未だ生命線であり、中東をおろそかにすることはできませんが、米国が東アジアに注力することは、大歓迎です。

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2021年9月7日火曜日

【日本の解き方】ワクチンで成果残した菅首相、不出馬意向表明で総裁選の状況も一変…衆院選自民勝利への最善手に ―【私の論評】派閥の力学だけでは説明できない、菅総理の総裁選不出馬の深慮遠謀(゚д゚)!

【日本の解き方】ワクチンで成果残した菅首相、不出馬意向表明で総裁選の状況も一変…衆院選自民勝利への最善手に 
菅新政権誕生!
菅総理

 菅義偉首相は3日の自民党役員会で、総裁選(17日告示、29日投開票)に出馬しない意向を表明した。

 政治評論家は、解散権も封じられて手詰まりになったと論評している。筆者は菅首相が出馬しない可能性を指摘していたが、このタイミングはやや意外だった。ワクチン接種など菅政権でやったことがそろそろ実を結ぶので、それを見届けるのかと思っていた。

 しかし、菅首相は自身を安倍晋三前首相の急な退陣を受けての緊急リリーフとしていた節もある。もともと首相への執着は少なかった。コロナ対応に専念したいという菅首相の不出馬の弁が、仕事師としての偽らざる本音ではないか。

 これまで衆院の9月解散や自民党総裁選スキップなど、さまざまなスケジュールが噂されていたが、今後の可能性はかなり整理された。

 理論的な可能性としては(1)任期満了による総選挙(補正予算なし、投開票は10月17日まで)(2)解散総選挙(補正予算あり、投開票は11月28日まで)(3)解散総選挙(補正予算なし、投開票は10月下旬から11月上旬)の三択だった。

 (1)は菅政権で閣議決定する必要があるが、それは次期総裁に委ねるだろうから、まずなくなったとみていい。

 となると、次期総裁による解散総選挙になるだろう。首相指名で臨時国会が召集され、そこで衆院解散となる可能性が高いだろう。補正予算を審議することも可能だが、新内閣で国会審議するのは答弁ミスなどのリスクが大きい。新内閣への「ご祝儀」がある状態で総選挙に突入したほうが得策だろう。

 ということは、(3)の補正予算なしで投開票は10月下旬から11月上旬というのがメインシナリオになる。

 見通しが分からないのは、自民党総裁選だ。菅首相が不出馬となると、今のところ岸田文雄前政調会長が主役だが、河野太郎行革担当相、高市早苗前総務相も意欲を見せている。状況が変わったので、われこそはと次々に出馬表明が出てくるかもしれない。いずれにしても総裁選が盛り上がるのは間違いないだろう。

 自民党としては、総裁選が誰が勝つのか分からない中で行われ、国民の注目を浴びる形となるのがベストだ。そして、その熱気の冷めぬうちに、解散総選挙へ突入した方が、新政権へのご祝儀相場も加わり、勝つ公算が高まる。自民党総裁選は、総選挙を勝利するための顔選びとなるだろう。

 菅首相の新型コロナ対応は世界から見れば、結果としては死者数の少なさなどで及第点だ。ワクチン接種も間もなく欧米に肩を並べるまでになった。しかし、国民へのアピールの点では総選挙向けでなかった。

 そうした新型コロナ対応の実績を生かしつつ、総選挙に勝つための自民党の最善手のために、今回、菅首相が不出馬を表明したと捉えたほうがいい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】派閥の力学だけでは説明できない、菅総理の総裁選不出馬の深慮遠謀(゚д゚)!

菅総理の総裁選不出場については、様々な評論家が様々な論評をしています。そのほとんどが、派閥の力学によって説明しています。

私自身は、今回の不出馬表明は、無論派閥の力学もありますが、高橋洋一氏の主張するように総選挙に勝つための自民党の最善手のために、菅首相が不出馬を表明したと捉えるのが、最も妥当だと思います。この点を論じないで、派閥の力学だけで説明するには無理があると思います。

派閥の力学だけで菅総理総裁選不出馬を説明するには無理がある

これを考えると、安倍前総理の総理辞任も総選挙に勝つための自民党の最善手のために辞任したのではないかと私は思ってしまいます。

無論、病気のことはありますが、現在の安倍元総理の行動をなどをみていれば、体調もかなり回復しているようで、総理大臣をやめなくても、しばらく休んでその間は麻生副総理が代行するという手もあったと思います。しかし、それをしないで、辞任の道を選んだのは、やはり総選挙に勝つための自民党の最善手のために、辞任したのではないでしょうか。

その結果、総裁選挙が行われ、菅総理が誕生したわけです。菅氏自身は、自民党総裁・総理大臣に元々なるつもりはなかったし、なれるとも思っていなかったでしょう。

それが、派閥の力学などにより、自民党総裁になったわけです。そうして、まさに総裁選が誰が勝つのか分からない中で行われ、国民の注目を浴びる形となり、派閥に属していない菅氏が総裁になったわけてす。派閥に属していない総裁、それに安倍政権を守り抜いた官房長官という実直な人柄ということで、菅氏は脚光を浴びました。

安倍総理の辞任も深慮遠謀だった・・・

そうして、総裁選直後には、菅政権の支持率はかなり高いものでした。菅総理自身も、多くの自民党議員も、この人気を維持したまま、今年の総選挙に挑むことができると考えていたことでしょう。これは、安倍元総理がそのまま総理大臣を継続していては起こり得ないことだったと思います。

安倍元総理が総理大臣を継続していれば、安倍一次内閣のように、崩壊していたかもしれないですし、最悪は、麻生内閣のように、総選挙で負けて、政権交代という最悪のシナリオになったかもしれません。

それを防いだということで、菅総裁誕生は自民党にとって良いことでしたが、その菅政権の支持率が最近ではかなり落ちていました。このまま、総選挙に突入すれば、自民党大敗北ということにもなりかねない情勢でした。

それどころか、最悪自民党の中で、菅おろしが置きかねない状況になっていました。しかし、菅総理をはじめ、安倍元総理、麻生副総理も、自民党の「数の力を知る」というDNAが深く刻まれています。これが、自民党と他の野党との決定的な違いです。どこかで、自民党が一致団結して、総選挙にあたることができなければ、大変なことになるという思いは一致していると思います。

このままでは、自民党は総裁選で大敗北をして、その後はそのまま凋落していく可能性もあるとみたのでしょう。特に、安倍元総理や麻生副総理は、そのことに誰よりも危機感を感じていたのではないでしょうか。何しろ、両者とも自らの政権の崩壊を経験しています。そうして、無論安倍総理を支えてきた菅氏も大きな危機感を感じていたことでしょう。

結局、元々総理大臣にもなるつもりもなく、なれるとも思っておらず、安倍晋三前首相の急な退陣を受けての緊急リリーフと考えていた菅総理が、今後の自民党の行末を考えた上での深慮遠謀で、総裁選不出馬を決めたのではないかと思います。

菅総理は、総裁選に出馬はしませんが、任期を全うした上でやめるということで、安倍元総理への義理は果たしたといえます。もし、総裁選に出馬して総裁になれたとしても、任期途中で菅おろしにあって辞めてしまえば、義理を欠くという思いもあったかもしれません。

政治の世界では義理欠くような人間は、相手にされなくなります。特に重要な局面では、そうです。それは、石破氏をみていれば、よくわかります。


そうして、菅総理は安倍前総理や麻生副総理にも総裁選不出馬の意向を伝えたと思います。これを安倍前総理も、麻生副総理も容認したのだと思います。無論、菅総理が派閥に属していないという、派閥の政治力学もあったでしょうが、これが今回の菅総理、総裁選不出馬の真相ではないかと思います。

高橋洋一氏は上の記事で、「総裁選が誰が勝つのか分からない中で行われ、国民の注目を浴びる形となるのがベストだ。そして、その熱気の冷めぬうちに、解散総選挙へ突入した方が、新政権へのご祝儀相場も加わり、勝つ公算が高まる。自民党総裁選は、総選挙を勝利するための顔選びとなるだろう」と述べています。

現在まさに、総裁選が誰が勝つのかわからない中で行われようとしています。そうして、テレビ報道などは、菅総理が総裁選不出馬を決める前までは、コロナ感染症煽りや、ワクチン煽り、菅政権批判や印象操作ばかりしていましたが、現在は総裁選に集中しています。まさに、菅、安倍、麻生氏の目論見はいまのところ的中していると思います。

選挙が行われると、その後に選ばれた新総裁はだれであっても、当初は人気がでます。これを称して「ご祝儀相場」ということもあります。このご祝儀相場が最も高い人が、総裁になることが望ましいです。

このご祝儀相場が最も高いと考えられるのが、高市早苗氏です。まずは、高市早苗氏は、はやばやと「物価目標2%を達成するまでは、財政出動を優先する」とはっきり主張しています。

これは、市場関係者には受けが良いです。財務省などには受けは良くないでしょうが、債権村などのごく一部の市場関係者をのぞく、多くの市場関係者が、この政策には期待するでしょう。さらには、大多数のまともな経済感覚を持ち合わせた人も期待するでしょう。

岸田氏や河野氏は、財務省にかなり近いので、市場関係者は好感を持って迎えることはないでしょう。それどころか、コロナ収束後には消費税増税を言い出すのではと、危惧していることでしょう。他の候補似たり寄ったで、経済対策ではあまり期待できそうにもありません。

民主党から自民党への政権交代があったとき、安倍氏が総理大臣になる前から、市場に期待感から株価があがり、株価は景気の先行きの指標であるという言葉どおり、景気が回復していったことを思い起こしてください。財政政策については、安倍総理は在任中に二度も増税せざるを得なくなったしまったのですが、日銀は最近は手控えぎみではあるものの、現状でも金融緩和を継続しており、それもあって雇用は劇的に改善しました。

高市氏は、日銀の金融政策に関しても、安倍総理と近い考え方を持っています。この面でも期待できそうです。他の候補は、そうではありません。

高市氏の経済対策は、アベノミックスを踏襲するだけではなく、それをさらに高市流に拡張したものです。これは、多くの人々に好感を持って迎えられるでしょう。おそらく、高市氏が総理大臣になれば、また日本経済は成長軌道に乗ると期待感を持つ人は多いでしょう。

さらに、高市氏はまともな国家観を持っています。特に、中国に対してはかなり厳しい認識をしています。政治家の中には真鍮派も多いですが、米国のピュー・リサーチ・センターという信用のおける調査機関によれば、日本国民の9割近くもの人々が中国に対して厳しい見方をしている現状では、これも多くの国民の期待感につながります。また、皇統に関しても、男系を支持しており、これは保守層に受けが良いです。

そうして、これもかなり大きいのですが、もし高市氏が総裁になれば、日本で最初の女性総理大臣ということになります。嫌がおうでも多くの人々の期待感は高まります。

総合的に考えると、高市氏がいわゆる「ご祝儀相場」が最も高くなると考えられます。

「ご祝儀相場」が最も高いということは、来たるべき総選挙で、最も良い結果を出せるのが、高市早苗氏ということになります。マスコミは、このあたりは全く無視して、派閥の力学のみで、総裁選を報道していますが、これでは、かつて安倍総理の復活を予想できなかったように、政局を見誤ることになるでしょう。

次の選挙で絶対に勝ちたいとか、勝たせたいと考える自民党関係者は、高市氏を総裁にすべきです。

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2021年9月6日月曜日

中国軍機19機、台湾の防空圏に侵入 台湾が発表―【私の論評】中国の台湾武力侵攻は、少なくとも今後数十年は不可能(゚д゚)!

中国軍機19機、台湾の防空圏に侵入 台湾が発表

BBC News


台湾国防部(国防省)は5日、中国空軍機19機が、台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したと発表した。

国防部によると、侵入したのはJ‐16戦闘機10機、Su-30戦闘機4機、 H-6爆撃機4機、 対潜哨戒機1機。

台湾はミサイルシステムを展開させるとともに、中国軍機に遠ざかるよう警告するため、戦闘機を発進させたという。

国防部は、中国軍機が台湾沿岸より中国沿岸に近い東沙諸島の北東を通過したとする、飛行ルートを示した地図を公表した。

中国はこの件について、まだ公式なコメントは出していない。

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繰り返される飛行

台湾はここ1年以上、中国空軍機が繰り返し台湾付近を飛行しているとして、抗議を続けている。

中国は台湾を自国の一部と考えている。一方、台湾は自らを主権国家とみなしている。

中国は台湾側の発信に対する不満を示すため、しばしば軍機を台湾の近くで飛行させている。

6月には、中国軍機28機をADIZ内で飛行させた。台湾がそれまでに公表した中で、最大規模の侵入だった。

今回の飛行の背景は不明。

ただ、台湾国防部は先週、中国軍に関する分析で、台湾の防衛能力を「無力化する」能力があるとし、中国の脅威は強まっていると警告していた。

(英語記事 Nineteen China planes entered defence zone: Taiwan

提供元:https://www.bbc.com/japanese/58459780

【私の論評】中国の台湾武力侵攻は、少なくとも今後数十年は不可能(゚д゚)!

今回の記事で注目したのは、台湾の防空圏に侵入した19機のうち1機が対潜哨戒機だったということです。

中国は以前から、対潜哨戒機を台方面に頻繁に派遣しています。

台湾国防省のホームページ「中華民国国防省即時軍事動態」には、台湾防空識別圏南西空域への中国空軍機侵入の情報があります。

台湾国防部(国防省)の建物

調査期間は、2020年9月9日〜2021年6月30日までの約10か月293日間です。

中国空軍機が台湾の防空識別圏に侵入した日数は183日で、調査した総日数の6割を超えています。3日に2日侵入されていることになります。

日本の場合、接近飛行が多かった2か年でも、2017年に18日、2018年に17日です。

日本の場合は、東シナ海の中間線を越えた日数ですが、台湾の場合は、台湾が設定している防空識別圏のすべてではなく、台湾海峡の中間線とこの延長線を越えた場合のようです。

台湾海峡の南西部では、中間線まで約100キロで、東シナ海の沖縄と中国大陸の中間線は約300キロであり、距離感がかなり異なることを踏まえても、台湾への接近日数が日本の10倍以上であることは、注目しなければならないです。

中国の軍事的威嚇は、この10か月間、ずっと続いていたのです。

これら、空軍機の侵入を見ただけでも、台湾海峡の軍事的緊張度はかなり高いものと感じます。

中国空軍機による軍事的威嚇の詳細を明らかにするために、2020年、機種ごとに侵入する機数が多い順に、侵入の日数と機数を列挙します。

①相手国に最も脅威を与える戦闘機の侵入日数は32日で、他の機種と比べて少ない方ですが、機数は237機で最も多い。

②潜水艦の行動を探知する対潜哨戒機の侵入日数が最も多く、123日で、機数136機です。

③艦艇・空軍機・防空兵器のレーダーなどの電子情報を収集する電子戦機は、56日で、機数62機です。

④軍各部隊が発信する電波(通信)情報を収集して、軍の行動、組織を解明する情報収集機は、50日で、機数52機です。

⑤敵空軍機の飛行情報を収集して、友軍の戦闘機などにリアルタイムに情報提供する早期警戒管制機(AWACS)は、16日で、機数18機です。

⑥爆撃機の台湾周辺飛行は、7日で26機である。侵入機種の中では最も少ない。

この中で、最も注目すべきは、対潜哨戒機の刺入日数が最も多いことです今回も台湾の防空券に侵入した中国軍機19機のうち一機は、対潜哨戒機です。

中国の対潜哨戒機Y-8Q

台湾に接近した中国空軍機の機種は、対潜哨戒機、情報収集機、電子戦機、早期警戒管制機、爆撃機および戦闘機の6機種です。

これらの機種で最も活動日数が多かったのは、上にも掲載したように対潜哨戒機で、123日でした。台湾の潜水艦は、1945年と1985年前後に建造された旧式の潜水艦の4隻と100トンクラスの特殊潜航艇2隻だけです。

中国海軍は、たった6隻の潜水艦・艇の情報を収集するために、最も頻繁に活動しているのでしょうか。中国軍は、台湾海域の潜水艦の動きに、かなり神経質になっていることが分かります。

これは、当然のことながら、台湾の潜水艦にだけ神経質になっているわてけではないでしょう。潜水艦は、水中を潜って行動するので、なかなか発見しづらく、昔から潜水艦によって様々な情報収取活動や、待ち伏せなどで使用されてきました。台湾周辺の海域では、中国はもとより、日米やロシアや日米の同盟国の潜水艦も当然のことながら、潜んでいます。これは、断言できます。

中国としては、台湾の潜水艦というよりは、これらの潜水艦の動向に神経を尖らせているとみるべきです。特に、日米やその同盟国の潜水艦には、神経を尖らせているでしょう。

なぜなら、中国が台湾への侵攻を企てれば、当然これらの潜水艦に察知され、妨害されるのは必定だからです。

中国は中距離ミサイルの配備などで(沖縄、台湾、フィリピンなど結ぶ軍事戦略上の防衛ライン)第1列島線内で米空母が活動できない体制を実現しようとしていますが、沖縄や台湾など全てを中国のものにしない限りその実現は不可能です。

仮に中国のミサイルなどにより米空母が近づけなくなるとしても、米軍には「見えない空母」と言われる巡航ミサイル原子力潜水艦(SSGN)が4隻あります。1隻でトマホークを154発積むことができます。

中国の最大の弱点は対潜能力で、潜水艦を見つけ出す能力が低いです。台湾有事が想定された場合、600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないです。

そもそも中国の空母キラーと呼ばれる弾道ミサイル「DF21D」は米空母には当たらないとみられています。弾道ミサイルはスピードがありすぎてコントロールが難しく、自由に動く対象に簡単には当てられないからです。

中国の弾道ミサイル「DF21D」

さらに、日本の潜水艦の動向にも神経を尖らせているのは明らかです。このブログには、何度か掲載したように、日本の海上自衛隊はすでに潜水艦22隻体制を構築しています。いずれの潜水艦も中国の対潜哨戒能力では発見するのは難しいです。

これらの潜水艦が、台湾近くの海域に潜み、中国軍が台湾に武力侵攻しようとして、台湾に艦艇を差し向ければ、それらの艦艇はことごとく日本の潜水艦に撃沈される可能性があります。

もっと恐ろしいのは、日米の潜水艦隊が協同した場合です。日本の潜水艦は、ステルス性が高く台湾周辺の海域や中国の海域で、自由自在に情報収集活動ができます。その情報を米軍の攻撃力の高い原潜と共有すれば、かなり効果的な攻撃ができます。

日米潜水艦隊が協同で海戦を行えば、世界最強の潜水艦打撃群になるでしょう。これでは、中国一国では、とても歯が立ちません。中国の艦艇は潜水艦も含めて、ことごとく撃沈され、航空機はもとより、レーダーや宇宙監視の地上施設はことごとく破壊されることになります。

これを中国は恐れているのでしょう。ただし、恐れているだけでは、無意味です。何か対抗手段を生み出したいでしょうが、少なくとも今後数十年は無理でしょう。それでも、台湾に侵攻しようとすれば、中国は多くの艦艇、航空機、人員を失うことになります。だからこそ、中国は超限戦などに力をいれるです。こちらのほうも警戒を怠るべきではありません。

台湾は現在最新鋭の潜水艦を開発中です。5隻で台湾を守る体制を目指しています。これに台湾が成功すれば、それ以降台湾は数十年にわたって、中国の侵攻を独力で阻止することができるようになります。

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2021年9月5日日曜日

高市早苗氏は中国が最も恐れる総理候補?―【私の論評】細田派や、麻生派全員が高市氏を支援となれば、高市氏こそ最有力候補(゚д゚)!

高市早苗氏は中国が最も恐れる総理候補?

靖国神社を参拝した高市早苗前総務相(2020年8月15日東京)

 菅義偉総理の突然の退陣表明は、中国でも速報され大きく扱われたが、それは隣国日本の次のトップが誰になるかによって、両国関係に少なからぬ影響を与え得るからでもある。中でも、早くから自民党総裁戦へ出馬の意向を示している高市早苗前総務相に、警戒を強めているようだ。

日本初の女性首相が対中強硬派の悪夢?

「中国に強硬な彼女が、日本で初の女性首相になるのか?」

 菅総理が総裁選への不出馬を表明した3日の午後、こう題する評論を載せたのは中国の新聞「参考消息」ネット版。「参考消息」とは、中国国営通信「新華社」が発行する新聞で国際問題を扱う。

「中国に強硬な彼女」とは、高市早苗前総務相を指す。

 記事は、高市氏の経歴について、大学時代に軽音楽部でヘビーメタルのドラムを叩いていた過去から始まり、政界での遍歴、政治の世界での安倍晋三前総理との良好な関係も紹介した。

 政治的な立場としては「政策の主張は保守に偏向」。

 高市氏が「自衛隊法を改正し自衛隊により大きな権限を与えるよう主張」しており、「侵略の歴史に対する反省が足りず、従軍慰安婦の強制連行の存在を認めていない」人物であると警戒を強める。

靖国参拝も指摘

 高市氏が「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーで、8月15日の終戦記念日に何度も参拝した事実も指摘した。

 更に、高市氏を評価する日本のネット上で声も紹介している。

 高市氏が日本の新総理になった場合の“危険性”を、そこはかとなく示唆したいようである。

 中国共産党の青年組織「共青団」の機関紙「中国青年報」も、アプリ版が配信した記事をこう題した。

「女性“新右翼”の人物が、就任する可能性がある」

 “新右翼”の女性とは、もちろん高市氏。

「彼女は言動から“新右翼”と見做されている」

 具体例としては、度重なる靖国神社への参拝に加え、高市氏は「日本の対外侵略戦争は、“自衛戦争”だと主張しており、他国が日本の教科書の内容に干渉することに反対」と紹介した。

自民党が初の女性総理の奇策に出れば…

 高市氏の次期総裁選での当選の可能性を高いとみているわけでもないが、やはり一定の警戒感を抱いているのは、国際問題を扱う中国共産党系の「環球時報」紙も同じ。公式アカウント上で、国内の複数の専門家の見解を伝える記事を配信した。

 資質や政策の継続性を重視すれば、岸田文雄前政調会長が優勢と見た上で、「自民党が突然奇策を打ち出す可能性もある」と分析したのは、外交学院の周永生氏(国際関係研究所教授)。

「初の女性総裁、女性首相を推そうとする、或いは右翼路線に傾こうとするならば、高市早苗にも可能性がある」

 日中関係に関して、周氏は、岸田氏が総理になれば「比較的温和で、日中関係が緩和する可能性がある」と述べてはいるものの、実はあまり期待はしていない。

 岸田氏が、日中関係を積極的に改善する政策は進められず、菅政権の政策を引き継ぐだろうからだ。

新総理の“反中”姿勢は折り込み済み?

「“嫌中”、“反中”が日本国内のある種の政治的な正しさ」

 同じ記事の中で、こう指摘したのは中国社会科学院の呉懐中氏(日本研究所副所長)。

 新首相が誕生した後は、政権基盤が弱いので、保守的な右派や国民に迎合して政権を守ろうとするだろうと分析する。

 さらに、総裁の候補者たちは、生まれが60年代前後。日本の政界では若手層に属し、現実主義だとして、そのスタンスをこう見る。

「対中政策への強硬度は同じではないが、総体的に言えば、“反中制中”を支持する一派に属している」

日本の総理は誰でもいい?

「環球時報」が4日付の紙面に載せたのは「日本の誰が菅義偉に替わろうとも、中国は対応できる」と題する社説。

「菅政権のこの1年の日中関係は酷かった」と評価した上で、誰が総理になろうとも、日中関係が良好に大転換するようなことが起きるのは「現実的ではない」。

 その理由を、日本国内で中国に対する悪いムードが日増し濃くなっていることに加え、中国を抑制しようとするアメリカの戦略の影響を日本は大きく受けるため、国内的にも国際的にも、新しい対中路線を進める条件がないと示している。

実は余裕の中国?

 同時に、こうした環境にありながらも、中国側は対日関係を冷静に対処すべきだと指摘する。

 なぜなら、中国の経済規模はすでに日本を大きく上回っており、長期的に見れば、日本の地位と役割はアメリカの共犯者ではあれ、日本が再び中国の根本的な脅威とは成り難いからだ。

 その上、日中の経済・貿易関係の規模や互恵性を考えれば、例え日本で対中強硬の声が多くなったとしても、衝突する可能性は大きくない。

 中国にとっては、もし高市氏が次期総理となれば、多少、日中関係が悪化する可能性もあるが、すでに国力で決着をつけた今、大勢には影響がない、といったところだろうか。

「環球時報」の社説はこう結んでいる。

「日本の次の総理が対中強硬路線に進んだとしても、中国は挑戦に対応できる。中国は、ますます日本より強くなり、両国関係の悪化で損害をより多く受けるのは日本である」

【私の論評】細田派や、麻生派全員が高市氏を支援となれば、高市氏こそ最有力候補(゚д゚)!

中国のメディアがこのように、一女性の閣僚経験者に対して警戒心を露わにするのは異例だと思います。これは、いくつかの原因があると思います。

高市早苗氏

まずは、高市氏が保守派であり、反中派それもかなりきつい反中派であることです。しかし、これだけなら、中国メディアがこれほどまでに警戒心を露わにすることはないはずです。

そうして、もう一つは、高市氏が自民党総裁になる可能性は、低くはなく高いとみているということです。

「環球時報」などのメディアが何の根拠もなく、このような報道をするはずはありません。以下、高市氏が総裁になる可能性は決して低くはない根拠を示します。

高市前総務大臣をめぐっては、安倍前総理大臣が3日、出身派閥の細田派の幹部に対し、高市氏を支援する考えを伝えたことが分かりました。

NHKは4日朝、総裁選に影響を与えそうな、以下のような報道をしました。
高市氏はインターネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」に生出演した際(2日)に、安倍氏と今年2月以降、「2人だけの勉強会」を開いていたことを明かし、コロナ患者を早期に治療でき、重症者や死亡者を極小化する自らのコロナ対策や、自身の経済政策「ニューアベノミクス」について披露していた。
NHKが「虎ノ門ニュース」に言及した事自体も驚きです。このようなことは、滅多にありません。

さらに、細田派幹部は4日朝、「安倍氏は、今回の総裁選について、『派閥で行動は縛らない方がいい』『複数の総裁選とすべきだ』という意見とともに、『私は、女性でビジョンがしっかりした高市さんを支持するつもりだ』と語っていた」と夕刊フジに明かしています。

高市氏は、安倍氏の出身派閥である細田派に所属していました。

今は無派閥ですが、安倍氏と高市氏は共に保守系グループ「保守団結の会」で顧問を務めるなど、政治信条が近い関係にあります。 

安倍氏が支援すれば、高市氏は細田派の支持も一定程度得られることになりそうです。 

また、麻生副総理も自身の派閥に所属する河野行革担当大臣を支持せず、高市氏の支持に回る可能性があります。

そうなれば、総裁選出馬に必要な推薦人20人以上の獲得はほぼ間違いないでしょう。

安倍氏と麻生太郎氏が連携し高市氏を推すことになれば、総裁選の勢力図は一変ます。背景には“安倍路線継承”の狙いがあるようです。

高市氏は菅内閣の支持率低下などを受け、頻繁に安倍氏の元を訪れ“首相の再登板”を要請。さらに安倍氏の経済政策を発展させた「ニュー・アベノミクス」を目玉とする自身の政策をまとめた著書を近く出版予定で、総裁選に向け“安倍色”を強くアピールしていますし、 

安倍、麻生両氏と親密で、いわゆる「3A」の甘利明税調会長(72)を幹事長に据えることは安倍氏と麻生氏かねての希望のようであり、高市新総裁が誕生すればその現実味も増すことになります。

ただ、安倍氏が幹事長ということもありえます。そうなれば、党対党の外交はいくらでもできます。蔡英文さんと安倍さんが党対党で公式会談できる可能性があります。インドのモディ首相を呼んで三者会談というのも夢ではなくなります。


細田派や、麻生派全員が高市氏を支援するとは限らないですが、もしそうなれば、当初両氏からの支援が予想されていた岸田氏にとって分が悪くなることは間違いないです。

唯一出馬を正式表明している岸田文雄前政調会長(64)に加え、有力候補として名前が挙がる河野太郎行政改革担当相(58)や石破茂元幹事長(64)も早ければ週明けにも出馬可否を判断するとみられます。 

その他の候補としては、河野氏を神奈川を地盤とする菅首相や小泉進次郎環境相(40)らが後押しし、二階俊博幹事長(82)は、自身の下で幹事長代行を務める野田聖子氏(61)支援することになるかもしれません。

茂木敏充外相(65)は竹下派が支援することから推薦人確保はクリアする一方、下村博文政調会長(67)の出馬は難しいのではないかとみられます。


総裁選は、岸田前政調会長が立候補を表明しているほか、河野行革担当大臣が立候補の意思を固めたことが分かっています。

細田派や、麻生派全員が高市氏を支援ということになれば、総裁選において高市早苗氏は最有力候補ということになるでしょう。今後の動向に注目です。

自民党細田派(清和政策研究会)、竹下派(平成研究会)、二階派(志帥会)の3派は18日、東京都に発令中の新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の期限が9月12日まで延長されることを受け、9月上旬に都内で開催予定だった政治資金パーティーを再び延期すると決めた。細田派は6日、竹下派は7日、二階派は9日に予定していました。新たな日程は改めて調整するそうです。

岸田派は、パーティーを開催ずみですが岸田さん、総裁選で党員票で勝つためには、議員票を集める必要があったのですが、二階さんに喧嘩売って50を減らし、代わりに反二階票を取りに行ったと思いきや、安倍麻生に喧嘩売って150を失っています。今回の総裁選はかなり不利です。

そうなると、今回の総裁選はかなりクリーンなものになりそうです。今回は、自民党の党員投票も含めたフルスペックの総裁選となるだけに、国民的人気が高い河野氏が出馬すれば、当院票に強いとされる石破氏にはかなり不利になります。石破氏は、そもそも20人以上の推薦人を集められかどうかにさえ疑問符がつきます。そうなると、ますます高市氏に有利となってきたと思います。

多くのマスコミは高市氏を泡沫候補扱いをし続けるかもしれませんが、どう考えても高市氏は総裁選で台風の目になることは確かです。

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