2022年1月14日金曜日

小池都知事、新型コロナ「5類」引き下げ要請の狙い オミクロン株感染者は若者大半、沖縄「重傷者ゼロ」だが… 岸田首相は〝静観〟―【私の論評】今後個々の政治家のオミクロン株への対応の仕方で、その地金がみえてくる(゚д゚)!

小池都知事、新型コロナ「5類」引き下げ要請の狙い オミクロン株感染者は若者大半、沖縄「重傷者ゼロ」だが… 岸田首相は〝静観〟

東京都のモニタリング会議後、取材に応じる小池百合子知事=13日午後、東京都庁

 新型コロナウイルスのオミクロン株感染が爆発的に増えるなか、東京都の小池百合子知事が、感染症法上の位置付けについて、季節性インフルエンザ相当で危険度が最低の「5類」への引き下げも含め検討するよう国に求めた。東京では月内に新規感染者が1万人を超えるとの予測もあり、病床逼迫(ひっぱく)が懸念される一方、感染の大半が若者で、沖縄県では県基準の重症者が「ゼロ」というのも現実だ。

沖縄では11月あたりから、コロナ感染の死亡者はゼロ人が続いている

 都のモニタリング会議では、直近7日間平均の新規感染者が20日時点で9576人との試算が示され、「1万人を超えることは現実的に起こり得る」との声も出た。

 13日時点の病床使用率は15・1%。都は20%で蔓延(まんえん)防止等重点措置、50%で緊急事態宣言を国に要請するとした。

 一方で小池氏は「感染を止める、社会は止めない」と述べ、5類相当への引き下げを含めて検討を求めた。

 新型コロナウイルスは感染症法上の1~5類とは別の「新型インフルエンザ等感染症」に分類され、入院勧告や外出自粛の要請など強い措置が可能で医療費が公費負担となる1~2類に近い。5類相当となれば、保健所を介さずに医療機関で対応が可能となるが、入院費が自己負担となる可能性もある。

 安倍晋三元首相や松井一郎大阪市長は5類相当への見直しを検討すべきだとの見解を示すが、岸田文雄首相は13日、新型コロナの感染症法上の分類を当面見直さない考えを示した。

 元厚生労働省医系技官の木村盛世氏は「5類への引き下げによって、企業や組織で感染者が出ても影響は最小限になり、医療従事者や保健所の負担も低減される。一定期間、医療費を公費負担にするなど柔軟な対応も可能ではないか」と語る。

 厚労省によると、最近1週間の感染者のうち、30代以下が全体の71・1%を占め、20代が突出している。

 国立感染症研究所が10日までに厚労省のシステムに登録されたオミクロン株の感染者817人のデータを解析したところ、軽症者は61・7%で中等症は0・7%、人工呼吸器などが必要な重症者はいなかった。

 感染爆発状態の沖縄も県基準の重症者は13日時点で0人。国基準では35人だった。

 国のまとめでは13日時点の全国の重症者は125人で前日から20人増えており油断はできないが、柔軟な対応も求められる。

 前出の木村氏は「今後、国民の半分が感染者、全員が濃厚接触者になる事態も考えられる。現行制度のままではオミクロン株ではなく人災として医療崩壊を招き、経済の息の根を止めることになりかねない」と警告した。

【私の論評】今後個々の政治家のオミクロン株への対応の仕方で、その地金がみえてくる(゚д゚)!

上の記事にも掲載されている、医師で元厚労省医系技官の木村盛世氏は、5日、日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」に出演。新型コロナウイルスのオミクロン株が急拡大していることについて元大阪府知事の橋下徹氏らと議論。「感染を無理に止めない」と発言して、司会の宮根誠司もあわてて「その考えは日本人にはない」と確認する事態となりました。

木村氏は、第5波が急減したことについて、「人流抑制がどの程度効果があったかは分からない」と話し、その上で、現在のオミクロン株への対応について「南アフリカのようにワクチン接種がかなり低いところでも収束してきているわけですから、ワクチンも治療薬もできたなかでは、感染を無理に止めない。医療体制を万全に整えることが私たちがやらなければならないこと」と指摘しました。

これには宮根が「感染を無理に止めないとおっしゃいましたよね?日本人にはその感覚はないんですよ」と目を丸くしたが、木村氏は冷静。「無理に感染する必要はないけど、感染は山を描く。ということは一定程度の感染ができないと、下がってこないということ」と持論を展開した。

木村氏はオミクロン株の感染力が高いことについても「感染力が強くなるということは、変異したウイルスが私たち共存していく絶好の条件を得られたということ。コロナでも変異を繰り返しながら、感染の数は増えながら致死性は減っていて、通常の風邪に近づいていくことになる」と前向きにとらえました。

また「この感染症はある日突然消えてなくなるものではなく、変異する前からほとんどの人にとって、軽症で無症状。にも関わらず、かかったら隔離して、社会活動を止めなければならないこんなバカげたことはない」「効果がどれだけあるか分からない自粛やまん防を繰り返すのは止めた方がいい」などと刺激的な物言いで自説を述べました。

続けて「(コロナの)致死性は、変異が進む前からも多くの人にとっては通常の風邪かインフルエンザ並みで済んでいます。そんな感染症をここまで社会的に重篤に扱われることによって、人為的医療ひっ迫を起こしている」と話し、指定感染症2類相当に扱われている状況から5類相当に引き下げることを提案しました。

木村氏は、同じ「情報ライブ ミヤネ屋」で、さらに率直な意見を述べています。下にその動画を掲載します。


結論からいうと、「コロナはもはや医学の問題では無く、利権と政治パフォーマンスの問題」というのです。

私もそう思います。たとえば、上の記事で、東京都の小池百合子知事が、感染症法上の位置付けについて、季節性インフルエンザ相当で危険度が最低の「5類」の引き下げも含め検討するよう国に求めたとあります。

これは、一見まともな対応をしているようにもみえますが、「検討するよう国に求めた」というところがミソです。

結局小池知事は、現状のままオミクロン株の感染が増えていくと、医療が逼迫するのは目に見えているという危機感を抱いているのでしょうが、それにしても、自分から2類から5類に引き下げるべきとはっきり言ってしまった場合、何か不都合が生じた場合、自らの責任になるかもしれないという危機感も抱いているのでしょう。

政府に対して「5類に下げることを求める」という形にすれば、いずれに転んでも、いざというときには自分ではなく政府のせいにすれば、自らの責任は免れることができます。

そのような保険をかけるために、政府に対してこのような要請ををしたのでしょう。小池東京都知事の過去の行動をつぶさにみていれば、そのくらいのことしか考えていないだろうと考えるのは私だけではないでしょう。

沖縄の玉城デニー知事は、ことさらコロナ感染を煽り、「米軍由来」だと騒ぎ立て反基地運動に利用しようとしているのではと、勘繰りたくもなります。

一方オミクロン株の市中感染拡大が懸念される中、安倍元首相が、現在感染症法で上から2番目の「2類相当」に分類されている新型コロナウイルスの位置付けについて、季節性インフルエンザと同じ「5類」に格下げすることも選択肢との認識を示し、注目を集めつつあります。発言は、読売新聞の3日付朝刊のインタビューで掲載されました。以下にその紙面から一部を引用します。


安倍氏のインタビューは、岸田政権のここまでをテーマにしたもので、ここ最近一部で報じられている岸田首相との「不仲説」を否定。デフレ脱却などの政策面に触れた後のコロナ対策のくだりで、岸田政権の3回目のワクチン接種前倒しを「大いに評価」。さらに「今年はさらに踏み込み、新型コロナの法律上の位置付けを変更してはどうか」と提起しました。

新型コロナは感染症法で現在、ジフテリアや結核、鳥インフルエンザでも病原性の高い「H5N1」型などの「2類」に相当すると特例的に位置付けられていますが、入院治療を原則としているため、病院や保健所への負担が大きく、5類に格下げし、軽症者や無症状については隔離施設や自宅療養とするなど、現場の負担を和らげるべきとの意見が出ています。

安倍氏も同様の考えのようで、「感染の仕組みが次第に解明され、昨年末には飲み薬も承認されました。オミクロン株への警戒は必要ですが、薬やワクチンで重症化を防げるならば、新型コロナを季節性インフルエンザと同じ『5類』として扱う手はあります」と述べました。

安倍氏は20年8月に首相退任を表明した記者会見で、2類相当の運用を見直す方針を示していたのですが、後継の菅政権では専門家などから慎重な意見が強まったこともあり、見送られました。

安倍元首相

自民党の細野豪志衆院議員はツイッターで「読売朝刊で安倍元総理が『新型コロナを季節性インフルエンザと同じ5類として扱う手はあります』と発言。インパクトは大きい。日常を取り戻したいという気持ちはみんな同じ。飲み薬が普及すれば可能性があるが、政府内には慎重な意見が多く、年明け早々大議論になるだろう」との見通しを示していました。

ただ、東京都ではこの日、新規感染者数が3か月ぶりに3桁となる103人に増加。沖縄県でも昨年9月25日以来となる130人にまで急増しました。毎日新聞によると、新規感染者の増加を受けて岸田首相は後藤厚生労働相に対し「臨機応変に対策に取り組まないといけない」と指示を出したといいますが、岸田政権では昨年12月初め、国交省が航空各社に国際線予約停止を要請し、その後、批判が強まったため撤回したばかりです。

安倍氏の提言が受け入れられるかは不透明です。安倍氏は20年8月に首相退任を表明した記者会見で、2類相当の運用を見直す方針を語っていました。

岸田政権は、優柔不断であり、未だ分化会や、官僚の意向などを気にしているのでしょう。

今後、オミクロン株への対応や発言等により、個々の政治家の本質というか、地金がでてくるのではないかと思います。またとない機会となるかもしれません。ただ、いずれにせよ、政治的パフォーマンスや利権は抜きにして、国民とって最も良いと考えられる対応をすべきと思います。

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2022年1月13日木曜日

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断末魔の中国
北京冬季五輪の開会式が行われる通称「鳥の巣」こと国家体育場

 新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大が懸念されるなか、北京冬季五輪(2月4~20日)の開催が近づいてきた。中国の習近平国家主席は「われわれには素晴らしい大会を世界にささげる自信と能力がある」と強調するが、相次ぐ選手の感染報告を受けて、強豪スイスの選手団長が「延期検討」に言及するなど、先行きは混沌(こんとん)としている。中国については、自由主義諸国の「外交的ボイコット」につながった新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧だけでなく、経済的危機や米中対立の激化など、問題が山積している。評論家の宮崎正弘氏が、断末魔のうめきを放つ隣国を考察した。


 新型コロナの感染拡大で、中国・西安など多くの都市がロックダウンした。別の伝染病情報もある。オミクロン株の猖獗(しょうけつ=流行)により北京冬季五輪は開催そのものも危ぶまれている。

 中国の伝統的な正月風景も帰省客が激減して寂しく、肝要の北京で五輪ムードが盛り上がっていない。

 欧米各国の「外交的ボイコット」は、中国当局による新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(民族大量虐殺)への外交的制裁だが、感染症や伝染病の再流行となると、次元が異なる。

 そのうえ、度重なる軍事的威嚇で、世界中を見渡しても中国の友人はいなくなった。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、対欧米戦略の行き詰まりから、ことさら中国との蜜月を演じているだけである。

 日本経済研究センターの予想では「2033年に中国がGDP(国内総生産)で米国を超える」とか。

 人口が日本の10倍、米国の5倍近いから、単にGDP統計なら、そうしたシミュレーションも成り立つだろう。

 何しろ、80兆円を楽々と越える累積赤字を気にせずに、中国は新幹線を次々と開通させ、昨年末、営業キロが4万キロを突破した。これは国有企業だから赤字でも構わないが、民間企業となると倒産する。中国全土、見渡す限りのゴーストタウンだ。

 習主席が呼号する「共同富裕」の掛け声や良し。皆が一緒に豊かになろうと言うのだから、共産革命の原点に戻るわけだ。実は、この新幹線に戦々恐々なのが不動産を何軒も持つ共産党幹部である。

 「共同富裕」は裏を返すと「共同貧乏」だった毛沢東時代に戻ろうと解釈される。現実には、毎月5000円程度で暮らす人々が多く、その一方で未曽有の金持ちがいる。

 中国のハイテク企業は米ウォール街から追い出され、新規上場もできなくなった。そのうえ、インターネット通販最大手「アリババグループ」などに罰金を科し、予備校、家庭教師、ゲームへの強力な規制をかけた。

 「ハイテクの前進基地」といわれた広東省深圳市では、ビッグテック企業が軒並み「30%レイオフ」「35歳以上は肩たたき」の噂が乱れ飛び、サラリーマンは戦々恐々である。

 米国は、米中対決を戦略レベルで捉えているから、中国の経済力を削ぎ落すことに長期目的を置く。特に、デジタル人民元の普及を脅威視する。戦後のブレトンウッズ体制下の「ドル覇権」が破壊されるかもしれないと恐れているためで、今後も規制は強まるこそすれ、緩和方向へは向かわないだろう。

■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書に『中国が台湾を侵略する日』(ワック)、『歩いてみて解けた「古事記」の謎』(育鵬社)、『日本の保守』(ビジネス社)など多数。

【私の論評】デジタル人民元の普及が無意味になった中国では、何年も前からいわれてきた断末魔に近づきつつある(゚д゚)!

上の記事で、宮崎氏は、

"日本経済研究センターの予想では「2033年に中国がGDP(国内総生産)で米国を超える」とか。

人口が日本の10倍、米国の5倍近いから、単にGDP統計なら、そうしたシミュレーションも成り立つだろう。"

と述べています。

しかし国民一人当たりのGDPということでは、中国は10,000ドル前後(日本円では、100万円前後)です。2020年の比較では、世界64位に過ぎません。以下にその比較を掲載します。
・世界の1人当たり名目GDP 国際比較統計・ランキングです。
・各国の1人当たり名目GDPと国別順位を掲載しています。
・単位は米ドル。
・IMF統計に基づく名目ベースの人口1人当たり当たりGDP(国内総生産)。
・米ドルへの換算は各年の平均為替レートベース

韓国、台湾はおろか、リトアニアよりも低いのです。そうして、中国経済はこれ以上伸びない可能性が大きいです。

それは、中国が中所得国の罠から抜けられない可能性が高いからです。中所得国の罠とは、発展途上国が経済成長をしても、最初のうちは政府主導で伸びていくのですが、国民一人当たりのGDPが10,000ドルあたりからは伸び悩み、10,000ドルから超えられない現象のことをいいます。

なぜそうなるかといえば、発展途上国のほとんどが民主化されていない事が多く、民主化をすればその後も経済が伸びる傾向になるのですが、結局民主化することができなくて、伸び悩むということのようです。

台湾が一人あたりのGDPが中国よりはるかに高いのは、やはり民主化が中国より進んでいるからでしょう。

民主化が進めば、政治と経済の分離が行われ、法治国家化もすすみます。その結果、多数の中間層が生まれ、彼らが自由に社会経済活動を行うことができ、社会変革を行い、その結果として社会が豊かになり経済が発展するのです。

大陸中国は、民主化が行われてこなかったので、こういうことが起こらず、一人あたりのGDPでは台湾やリトアニアにもはるかに低いのです。以前にもこのブログ述べたように、中東欧諸国は一人ひとりの国民が豊かになることを夢見て、中国の一帯一路に関連する投資を歓迎したのでしょうが、中国にはそのようなノウハウはないのです。

あるとすれば、独裁者とその追随者が儲かるノウハウだけです。中東欧諸国が、中国に失望するのは、時間の問題だったともいえます。

中国は、民主化や資本市場の自由化等をすすめなければ、結局国際金融のトリレンマ(三すくみ状態)から逃れられず、独立した金融政策が行うことができず、これから過去のように経済が飛躍的に伸びることはありません。

日本は、良く一人あたりのGDPが低いといわれ、その主な原因は構造的なものとする人もいますが、それは間違いです。その主な原因は、平成年間のほとんどの期間にわたって、実体経済を無視して、日銀は金融引締政策を続け、財務省にいたっては、現在でも未だに緊縮財政に執着しているからです。

この経済政策の間違いが、一人あたりのGDPを低くしてきたのです、そのためもあって、日本人の賃金は30年近くも上がらなかったのです。いまや日本人の賃金は、OECD諸国の中でも、最低の部類に属します。しかし、日本の一人あたりのGDPの低さは、正しい金融政策や財政政策を行えば、克服することができます。日本は、中国よりは、民主化がはるかに進んでいるからです。

しかし、上の記事でも述べられているように、その中国がデジタル人民元の普及をしようとしています。デジタル人民元にしても、国際金融のトリレンマの状況はかわらず、中国は独立した金融緩和を実施することはできません。

人民元をデジタル化しようが、しまいが、中国は国際金融のトリレンマにはまりこんで、たとえば失業率が著しくあがっても、なかなか金融緩和政策をとることはできません。大規模な金融緩和をしてしまえば、すぐに過度のインフレになってしまいます。だから、やりたくてもできないのです。

その中国がなぜデジタル人民元を普及させようとしているのでしょうか。それは人民元のデジタル化により資本取引を管理したいということだと思います。中国人は政府を信用していないので、お金を国外に持ち出したり、投資したりします。デジタル人民元にすれば、それを全部監視できるます。無論、自分たちにとって都合の悪いことがあれば、すぐにも規制をするでしょう。

ありていにいえば、中国は戦後のブレトンウッズ体制下の「ドル覇権」が破壊するなどのだいそれたことを考えているのではなく、デジタル人民元の普及を資本取引の規制の一環として熱心にやっているのです。

中国人が資産を大量に外に持ち出すことに、中国共産党は睨みを効かせていることを認識させるためでしょう。そうして、あまり派手にやれば、何らかの規制が入ることを認識させるのが狙いでしょう。

「デジタル人民元」とは言っても、他のデジタル通貨と異なり、全部の取引を政府が把握するつもりでしょう。いざ「外に持ち出そう」というときには何らかの規制がかけらるようになるでしょう。

いままではこっそりやることができたのですが、それができなくなるのです。当然のことながら、国内での取引の監視を強化することでしょう。そうなると、習近平の反対勢力の金の流れを詳細にわたって監視することができます。テロリストや政敵などが、どこから資金を得ているのか、詳細に把握することができます。

米国の大学院などでMBAの学位取得のために勉強するとき、大学の教授が口を酸っぱくして言う言葉は"Follow the money"(金の行方を追え)です。ビジネスの現場で取引先と何らかの交渉を行う際、いろんな枠組みでビジネスを行うことになるわけですが、その際お金の流れをきちんと把握して、先方がどこで儲けようとしているのかがわかっていればカモにされることはないですし、すべてのビジネスモデルにおいて、本当はどこで儲けていることが明らかになるからです。



これと同じで、中国共産党がデジタル人民元を普及させることに成功すれば、従来のカメラなどによる監視よりもより間口も広く、奥行きの深い監視ができるわけです。

しかし、国内外で制限があったにせよある程度はできた資本の移動ができなくなれば、まともにビジネスもできなくなります。

デジタル人民元が普及する前に、富裕層は、様々な手段を駆使して、手持ちの資産をドルに変えて、海外に持ち出すことでしょう。それを恐れてか、中共はしばらく前から持ち出しの規制を強化しています。

現状では、中国国内でドルが積み上がっています。前例のない規模の貿易黒字と債券市場への記録的な資金流入が背景にあります。それに、企業ベースでも個人ベースでも、ドルの国外持ち出し規制は厳格化されています。米国の金利が異常なほど低いのは「アジアの貯蓄過剰」が関係しており、これが米国のサブプライム住宅ローン危機をあおったと非難された時代以来見られなかった水準に膨らんでいます。

当時、中国は流入したドルで積極的に米国債を買い入れていました。ところが今は外貨準備高の大きな割合を占める米国債はほぼ横ばい状態。つまり、どこか別の場所でドルが使われていることを意味するのですが、正確にそれがどこかは謎です。

中国に流入したドルの一部は中国の銀行に預金として置かれますが、中国の国際収支における不整合の大きさで実態ははっきりしていません。ただそれでも、不動産開発大手の中国恒大集団など個別企業がドル建て債務の返済に苦しむ中でも、世界経済に将来生じ得るショックに対してこうしたドルが中国にとって重要なクッションとして機能することは確かです。

ドル建て債務の返済に苦しむ恒大集団

早い話が、中国は不動産大手等に公的資金を投入しているのでしょう。これからも、投入を続けるのでしょう。デジタルであろうが、なかろうが人民元は中国がドルや米国債を大量に保有しているからこそ、保証されている面は否めません。

それに、不動産大手がドル建て債務で苦しんでいるということから、やはり中国でも大口の資本取引等は現状でもドル建てで行うのでしょう。それに、人民元を大量に擦り増して投入することになれば、深刻なインフレに見舞われるのでしょう。

現状では、米国が金融緩和の縮小に向かうのに逆行して中国が緩和を進めるとすれば、人民元安を招くでしょう。そうして、中国国内はインフレに見舞われるでしょう。

一方で人民元相場が下落すれば、ドル建ての負債を抱え既に資金難にある中国企業には一段と圧力が加わるとともに、15年の事実上の元切り下げ後と同様の資本流出につながるリスクもあります。

このような状況では、人民元のデジタル化をして監視を強化してもあまり意味がないです。ドルは米国の通貨であり、中国がドルをデジタル化してそれを監視できれば良いのですが、それは不可能です。

一方米国は、ドルのデジタル通貨化はしていませんが、国際取引のほとんどが今なおドルを用いて行われています。そのため、デジタル通貨のように細かな部分まで監視することはできませんが、かなり詳細に世界の金融取引を監視することができます。

この状況では、中国はコストも手間もかかる、人民元デジタル化をすすめることはできないと思います。

そうして、これから中国はドルの流れをさらに規制し、国内から海外に流出することを防ぐでしょう。そうなると、貿易もできず、中国内の外国企業はいままでよりも、海外に資産を持ち出すことができなくなります。ますます、中国でビジネスをする意味が薄れてきます。

何年も前から、中国の断末魔がいわれてきましたが、今度こそ本当にその状況に近づきつつあるようです。それても、中国は国民を弾圧して、国民から富を簒奪すれば、それで当面は維持できるかもしれません。しかし、富を散弾し尽くした後はどうするのでしょうか。それでも、今度は国民すべてを奴隷にして、共産党幹部たちの生活だけは、以前の水準を維持するつもりなのでしょうか。

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2022年1月12日水曜日

景気指数、11月は過去2番目の上昇幅 自動車などの生産改善=内閣府―【私の論評】コロナ感染症に従来と同じ対応をすれば、また景気が落ち込むだけ(゚д゚)!

景気指数、11月は過去2番目の上昇幅 自動車などの生産改善=内閣府

内閣府が11日公表した11月の景気動向指数(速報値、2015年=100)は、指標となる一致指数は前月から3.8ポイント上昇した。写真は都内で昨年1月撮影

内閣府が11日発表した2021年11月の景気動向指数(2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が93.6となった。前月比では3.8ポイント上昇と2カ月連続でプラスとなった。前月比のプラス幅は1985年1月以来、過去2番目の大きさ。

自動車生産回復、基調判断は据え置き

項目別では、耐久消費財出荷や鉱工業生産指数が改善した。部品供給不足が解消しつつある自動車や二輪車などの生産回復がけん引した。自動車用非鉄・鋼材の生産拡大も寄与した。

数カ月後の景気を示す先行指数は1.5ポイント上昇の103.0と、前月比で2カ月連続のプラスだった。自動車や化粧品などの出荷拡大により最終需要財在庫率などが改善した。新規求人数や中小企業売上見通しDIなども改善した。一方、新設住宅着工床面積やマネーストックは指数を下押しした。

一致指数の動きから内閣府が機械的に決める景気の基調判断は10月の「足踏みを示している」との表現を据え置いた。判断引き上げには3カ月移動平均の3カ月連続でのプラス継続が必要。11月の3カ月移動平均は5カ月ぶりに前月比プラスに転じたばかり。

【私の論評】コロナ感染症に従来と同じ対応をすれば、また景気が落ち込むだけ(゚д゚)!


プラス幅が、1985年1月以降、2番目の大きさとなったなどと言われると、喜んでしまう人もいるかもしれませんが、と言われると喜んでしまうかも知れませんが、実際はどうなのでしょうか。それは、上のグラフをご覧痛たげれば、おわかりになると思います。

遡ると指数は2020年の最初が高くて、指数95.5でした。それがコロナの影響で2020年5月には73.5まで下がり、そのあと「グッ」と上がったのです。2021年4月には95.0。ほとんど前までと一緒になったわけです。

そのあと2021年9月に半導体不足で88.7まで下がりました。現状はそこからの回復過程なのです。こういう状況を「デッドキャットバウンス」と英語で言いますが、「叩きつけた猫は跳ね上がる」ということです。


何かの理由で下がったものは上がるのです。それは、グラフをご覧いただければ、ご理解いただけると思います。数字的には2020年の最初のときまで戻っていなのです。最低水準から少し上がっただけです。2020年1月というと、コロナ流行の直前にまでは戻っていないのです。

水準的には上がったといえるかもしれませんが、それは「いちばん下の水準から少し上がった」というだけのことです。短い2ヵ月間だけを見て喜ぶわけにはいきません。

本来であれば下がらなくてもいいところが下がっていて、いまはそれが上がったというだけのことです。

半導体不足もあり、8月~9月にはコロナの第5波があって、経済的にも回せる状況ではありませんでした。

今度は第6波です。そのときに過去と同じ政策を取るのか、取らないのかという観点が重要になってきます。同じ政策を取って行動抑制をしたら、また景気が下がります。

新型コロナウイルスは弱毒化しているわけですので。さすがに同じ政策は取れないのではないでしょうか。海外でも同じ政策を取っているところはほとんどありません。

ウイルスが弱毒化しているときには、弱毒化しているなりの政策をしなければいけないはずです。本質的なのは感染症の分類です。新型コロナ感染症の分類は2類相当なのだけれど、これを5類に下げるというのが普通のやり方でしょう。

このブログでも以前述べたように、日本では2016 年にはインフルエンザの感染者数が1週間で200万超となったのですが、インフルエンザは5類相当の扱いなので、行動制限もなく、医療崩壊も経済の落ち込みもありませんでした。2016年当時の動画を以下に再掲します。


コロナ感染症は感染拡大当初は、未知の感染症であり、日本では諸外国と比較すると、感染者数、死者数ともに、かなり低めでしたが、未知の感染症であり、しかもワクチンは普及しておらず、飲薬もない状況でした。

しかし、現在流行しているオミクロン株は、感染力は強いものの、毒性は弱く、現在ではワクチンも飲薬もある状況です。であれは、従来とは異なる対処方法を実行すべきです。コロナ感染症をインフルエンザと同じ分類にして、無症状者は自宅待機、症状の出ている人は、入院はするものの、通常の病棟に入院し、一般人の行動抑制はなしにすべきです。

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ロシアのコロナ死者、公式発表の2倍超…最多の米に次ぐ65万人とロイター報道―【私の論評】今年は、マスコミに煽られて人生を諦めるようなことがあってはならない(゚д゚)!

2022年1月11日火曜日

カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出―【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!

カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出

カザフスタンのトカエフ大統領は11日、スマイロフ前第1副首相(写真左)を首相に任命した。議会下院は直ちに同氏を首相に選出した。北京で2019年3月撮影

カザフスタンのトカエフ大統領は11日、抗議デモを鎮圧するため先週派遣を要請したロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊が2日後に撤退を開始すると表明した。

CSTOの平和維持軍の主要任務が無事終了したとしている。撤退は10日間で完了する見通し。

これに先立ち、大統領はスマイロフ前第1副首相を首相に任命。議会下院は直ちに同氏を首相に選出した。

大統領は資産格差の是正を進め、鉱山会社からの税収を増やすと表明。政府調達で不正をなくす意向も示した。

【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!

今回の騒乱の背景にあるのは、燃料価格の値上げなどといった単純な経済問題ではないようです。1991年にカザフスタンが旧ソ連から独立した時から2019年3月まで、28年にわたって初代大統領を務めてきたヌルスルタン・ナザルバエフと、2代目のトカエフ現大統領との雌雄を決する権力闘争とみるべきでしょう。

ヌルスルタン・ナザルバエフ氏

土着派で剛腕なナザルバエフ前大統領と、国際派でインテリのトカエフ大統領は、元々馬があわず、この3年近く、両者はつばぜり合いを続けてきました。ナザルバエフはそもそも、トカエフを後継者にしたくなかったようです。ところが、トカエフはロシアと中国の後ろ盾を得て、大統領の座を射止めたようです。

今回の騒乱に乗じて、トカエフ大統領は、ナザルバエフ派を一掃しようとしているのでしょう。1月5日、トカエフ大統領はテレビで国民向けに演説し、ナザルバエフの国家安全保障会議の終身議長職を解き、自らが議長に就任したと発表しました。おそらく、これから起こるのは、ナザルバエフ前大統領の身柄拘束だとみられます。

今回の騒乱が起きるや、トカエフ大統領は8日には情報機関の国家保安委員会が、ナザルバエフ氏の最側近、カリム・マシモフ前委員長を国家反逆罪で拘束したと発表しました。さらに、マシモフ氏の元側近で国家保安委員会のマラト・オシポフ副議長とダウレト・エルゴジン副議長を共に解任したと明らかにしました。これは前述のように、いずれナザルバエフ逮捕まで持って行こうとしていると見るべきでしょう。

トカエフ氏は旧ソ連時代に、モスクワ国際関係大学で中国語を専攻しています。その後、ソ連外務省に入省、1983年に北京語言大学に留学しています。1984年からソ連が崩壊する1991年まで、中国のソ連大使館で外交官を務めていました。中国語は流暢で、後にCCTV(中国中央広播電視総台)のインタビューを、通訳なしで受けたこともあります。

トカエフ氏は1992年に、独立した母国カザフスタンの外務次官になり、1994年には外務大臣になりました。外務大臣は、1994年から1999年までと、2002年から2007年まで、計10年も務めています。その間、中露とのパイプ作りに励み、2013年に上院議長に就任しました。

トカエフ大統領

ロシアのプーチン政権は、トカエフ大統領に与したようです。ナザルバエフ等よりも、元ソ連
外務省の外交官であるトカエフの方が、よほど信頼できるからでしょう。だからこそ、初めてCSTOを派遣したのでしょう。

ロシア軍は8日、20機以上の大型輸送機イリューシン76を使い、ロシア西部イワノボ州から兵士をカザフに輸送し始めたと発表した。これに先立ち、急襲を得意とする精鋭の空挺くうてい部隊を送り込んでいました。CSTOからカザフに派遣された兵士の総数はベラルーシやタジキスタンを含む5カ国の約2500人ですが、大部分はロシア兵です。

空挺部隊というと、以前にもこのブログに掲載したように、後続の陸上部隊が到着することを前提として、ピンポイントで、橋頭堡を構築することなどが主任務です。後続部隊が来なければ、限られた戦力では持ちこたえられません。しかも、今回は空挺師団ではなく、あくまで空挺部隊で総勢2500人です。

ロシアのTVの画面などでは、多数の装甲車が並んだ画像やイリューシンなどを写してさも、大部隊を投入するようにみせかけていましたが、これはロシアのプロパガンダに過ぎません。そもそも、2500人の兵しか送らないということは、カザフスタンで本気で戦争をしようなどとは、鼻から考えていなという証拠です。本気で戦争をする気であれば、今頃後続部隊が陸路でカザフスタンに向かっているはずです。

大型輸送機イリューシン76に乗り込む空挺部隊

それができない理由がロシアにはあります。まずは、現状ではウクライナ問題があります。現状では、一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回るロシアは、ウクライナとカザフスタンの両方で同時に、大規模な作戦を行うだけの力はありません。

だからといって、優れた軍事技術を持ち、旧ソ連の核兵器を継承するロシアを侮ることはできません。現在でも、全世界を破壊してもまだ、ありはまるだけの核兵器を有しているのです。しかし、軍事力で外国に攻め込むとか、外国を制圧するということになれば、話は別です。その力はほとんどありません。自国の長大な国境線を守ることすら難しいです。

プーチン大統領は10日、ロシアが主導する旧ソ連諸国の集団安全保障条約機構(CSTO)の首脳会議で、政府に対する抗議デモが発生したカザフスタンを外国が後ろ盾するテロリストから守ることができたとして勝利を宣言しました。同時に、他の旧ソ連諸国もCSTOが守ると表明しました。

カザフスタンの抗議デモについては「破壊的な内外の勢力が状況を利用した」との見方を示し、「政権を揺るがす試みは許さない」と述べました。ただ、内外の勢力について、具体的には述べませんでした。

中国も基本的にはロシアと同様の姿勢でしょう。第一に、2月4日に北京冬季オリンピックの開幕を控えています。そんな時、隣国で内乱など起こってほしくないでしょう。第二に、あのような暴動が、国境を挟んだ新疆ウイグル自治区で起こってほしくないでしょう。

トカエフ政権が国民にあまり無慈悲なことをすると、今度は新疆ウイグル自治区の150万人のカザフ族が黙っていないでしょう。ともかく、一刻も早く騒動が収まってほしいと願っているでしょう。

習主席は7日、トカエフ大統領へのメッセージで、「大統領は重要な時に思い切って強力な措置を取り事態を速やかに沈静化させた」と評価したうえで、「政治家としての責任を示した」と強調していました。

中露としては、大統領がトカエフだろうが、誰だろうが、とにかく安定していて欲しいというのが本音でしょう。トカエフ政権が崩壊するようなことでもあれば、力の真空が生まれます。そこに乗じて米国が暗躍し、中露の両方に国境を接するカザフスタンに親米政権でも樹立されNATO軍が進駐することにでもなれば、それこそ中露にとって最大の悪夢です。

米国にとっては、アフガニスタンでの失地を大きく回復することになります。失地回復どころか、アフガニスタンは現状では、中国とは一部国境を接していますが、ロシアは国境を接しているわけではないのですが、カザフスタンは両国と長い国境線をはさんで隣接しています。

中露にとっては、かつての米国にとってのキューバ危機のように、裏庭に米軍基地ができあがることになります。それ以上かもしれません。冷戦中にカナダやメキシコに、親中露政権が樹立され、中露軍基地ができるような感じだと思います。そこに長距離ミサイル等を多数配備されることになれば、中露は戦略を根底から見直さなければならなくなります。ロシアはウクライナどころではなくなります。中国は海洋進出どころでなくなるかもしれません。

カザフスタン情勢は、プーチンや習近平にとって、鬼門ともいって良いような、恐るべき地政学上の脅威です。

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2022年1月10日月曜日

「国の借金」は子供に回るのか 積極財政でも健全化になる “財務省史観”は国民に有害だ―【私の論評】将来世代が、給付金を未来から現在にタイムマシンで送ることができれば、それは将来世代のつけ(゚д゚)!

日本の解き方


財務省は「国の借金」を強調するが…

 18歳以下への10万円の給付や予算規模が107兆円と過去最大になったことなどが報じられるたびに、「子供たちの将来にツケが回る」などと懸念する論調がある。これは事実なのか。

 ファイナンス論や会計学からいえば、そもそも借金のみで考えることがおかしい。個人での相続を考えても、借金だけが相続されるわけでなく、資産も相続される。政府が永続的な主体として借金があるとしても、それに相応の資産があれば、ファイナンス論から見れば破綻しないが、それであれば、子孫に対してもツケだけを強調するのはおかしいとなる。つまり、グロス債務ではなく資産を考慮したネット債務を見なければ、きちんとした議論はできない。

 財務省は借金のみを強調するので、財政状況に対して、マスコミや学会を含めまともな議論ができなくなっている。結論を言えば、企業でグループでのバランスシート(貸借対照表)が決定的であるのと同じく、政府でも中央銀行を含めた統合政府のバランスシートでみて、そのネット債務額がポイントだ。

 しかし、今は政府の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)で財政をみている。もちろんPBは財政状況の一部を表している。数式で恐縮だが、グロス債務対国内総生産(GDP)比の変化は、「PB赤字対GDP比」と、「『前期のグロス債務対GDP比の数値』に『金利から成長率を引いたもの』を掛けたもの」の和になる。今の状況では、成長率が金利より大きいので、多少のPB赤字でも、グロス債務対GDP比は上昇しない。

 筆者は15年ほど前にこの数式を経済財政諮問会議の資料として提出したこともある。この意味で、PBはグロス債務の動きを記述するための道具だ。

 ネット債務対GDP比はどう決まるか。結論を簡単に言えば、上の式から、中央銀行によるマネー増加対GDP比を引けばいい。中央銀行の保有する国債は、統合政府でみると、会計的にはグロス国債から相殺できるからだ。

 今のネット債務はほぼゼロである。その変化も、当分の間、その算式から考えるとマイナス傾向である。となると、狭義の政府で積極財政策をとっても、ネット債務対GDP比を大きく増加させなければ、財政健全化に資するともいえる。

 今、国債発行による積極財政をすれば、より将来の付け回しを減らせる可能性もある。一つは、将来投資をして、しっかりとした資産を残すことだ。であればネット債務は増えないし、資産が将来の社会収益を生み出す。もう一つが、中央銀行がインフレ目標の範囲内で国債を購入し、ネット債務を増やさないようにすればいい。

 残念ながら、今の財務省のグロス債務だけ見る方法では、正しい財政状況を見ることができないので、正しい財政健全化の議論もできない。まして、正しい積極財政も理解できない。まともな財政議論をするために、ネット債務からの議論をすべきであろう。でないと、財務省は国民に無益どころか有害になる。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】将来世代が、給付金を未来から現在にタイムマシンで送れば、それは将来世代のつけに(゚д゚)!

上の記事の高橋洋一氏の説明は、会計学上の常識です。まともな企業で、財政赤字だけみて、「赤字が赤字」がと、取締役会議などで大騒ぎすれば、それこそ「馬鹿」といわれておしまいです。

そのような事がわからない、政治家や官僚が日本ではあまりに多すぎです。民間企業では当たり前のことが、政治の世界では、当たり前になっていないことに改めて驚かされます。

国債を発行して、様々な対策をすればそれが即「子供たちの将来にツケが回る」という考えは明らかな間違いです。これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ コロナ追加経済対策、批判的な報道は「まともだという証明」―【私の論評】ノーベル経済学賞受賞サミュエルソンが理論で示し、トランプが実証してみせた 「財政赤字=将来世代へのつけ」の大嘘(゚д゚)!
これは、2020年12月15日詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に一部を引用します。 
20世紀を代表する経済学者の一人であるポール・サミュエルソン(ノーベル・経済学賞受賞)は、たとえば戦時費用のすべてが増税ではなく赤字国債の発行によって賄われるという極端なケースにおいてさえ、その負担は基本的に将来世代ではなく現世代が負うしかないことを指摘しています。

なぜかといえば、戦争のためには大砲や弾薬が必要なのですが、それを将来世代に生産させてタイムマシーンで現在に持ってくることはできないからです。その大砲や弾薬を得るためには、現世代が消費を削減し、消費財の生産に用いられていた資源を大砲や弾薬の生産に転用する以外にはありません。

将来世代への負担転嫁が可能なのは、大砲や弾薬の生産が消費の削減によってではなく「資本ストックの食い潰し」によって可能な場合に限られるのです。

このサミュエルソンの議論は、感染拡大防止にかかわる政府の支援策に関しても、まったく同様に当てはまります。政府が休業補償や定額給付のすべてを赤字財政のみによって行ったとしても、それが資本市場を逼迫させ、金利を上昇させ、民間投資をクラウド・アウトさせない限り、赤字財政そのものによって将来負担が生じることはありません。
ノーベル賞を受賞した経済学者ポール・サミュエルソン氏
そして、世界的な金利の低下が進む現状は、資本市場の逼迫や金利の高騰といった経済状況のまさに対極にあるといってもよいです。それは、政府が感染拡大防止のために実施した経済的規制措置によって生じている負担の多くは、将来の世代ではなく、今それによって大きく所得を減らしている人々が背負っていることを意味します。そうした人々に対する政府の支援は、まさしくその負担を社会全体で分かち合うための方策なのです。

これについては、他の記事でさらに解説を加えました。

しかし、サミュエルソンのこの主張も、当たり前といえば当たり前です。サミュエルソンは、あまりにも当たり前のことをわからない人が多いので、このような主張をしたのでしょう。国債は政府の借金です。政府はどこから借金をしているかといえば、国債を購入する機関投資家や個人投資家からなどです。

誰が当面のつけを払っているかといえば、これらの投資家が払っているのです。これら投資家は、国債に支払った資金が手元にあれば、事業をしたり投資したりできますが、それで国債を購入してしまえば、それができなくなるのです。そうして、その投資家は現在の様々な取引によって得た資金を用いて国債を購入しています。結局、現世代が負担しているのです。

しかし、国債の償還によって、投資家は元金と金利を受け取ることができるのです。愚かな人は、これが将来世代への付けになると考えているのでしょうが、それは完璧な間違いです。

政府がよほど無意味な投資でもしない限り、公共工事や他の事業が行われ、それが富を生み出し、税金として政府に戻ってくることになります。

公共工事で堤防をつくったら、何にも富を生み出すことはないではないかと言う人もいるかもしれません。そうでしょうか。堤防をつくって安全になれば、そこには住人が増えます。住人が増えれば、商店や病院ができます。工場ができたり、住民サービスの様々な施設ができて、税収が増えることになります。

無論、そうなるまではかなりの時間がかかり、個人や一企業がそのようなことをしても損失だけで、何も富を生み出すことはできないかもしれません。しかし、政府は長い間待つことができます。しかも、個人や企業と違って、税金収入を得られます。そうして、出来上がった堤防は将来世代も使うことができるのです。

それにあまりにも当たり前すぎて、わざわざ述べるべきかどうか迷うところですが、堤防をつくるために、政府が支出して土木会社などにお金を払い工事を実施すれば、その工事に携わる人たちは、それで収入を得て消費や投資をしたり、さらには税金を払うことになります。政府は、税収を得ることできます。これが、家計や個人とは大きな違いです。政府が何かつくったり消費すれば、そのお金が家計のようにそっくり消えてしまうわけではないのです。

そうして政府は国が崩壊することでもない限り、不死身と言っても良い存在です。これは、個人や企業などとは大きな違いです。個人の寿命は数十年、企業の寿命は日経が昔調べた資料によれば、30年です。これは、今から考えると、会社というより、一事業の寿命は30年というほうが正しいかもしれません。しかし、現在のコーポレート化された組織であっても、不死身ではありません。

だから、国債を発行して政府は様々な事業を行うことができるのです。というより、国民のためにそうしなければならないのです。黒字を積み立てるだけで、何もしない政府は、存在意義がありません。ただ、もちろん無制限にそのような事はできないです。もし、無制限にそのようなことをして不都合が生じた場合、過度のインフレになります。

この場合は、心配する必要はありますが、財政赤字自体を心配する必要はありません。過度のインフレにさえならなければ、政府は財政破綻の心配などせずとも、財政赤字状態を100年でも200年でも、継続することできます。 

このようなことをいうと、インフレを過度に心配する人もでてくるでしょうが、現状の日本では2%くらいのインフレであれば、全くは心配ありません。むしろ賃金が上昇するなどのメリットのほうが多いです。

そうして、今の世界は、よほどのことがない限り過度なインフレになりにくい状況になっています。これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!

野口旭氏 2021年4月1日、日本銀行政策委員会審議委員

 詳細はこの記事をご覧いただものとして、この記事において、野口旭氏は、現在世界がインフレになりにくい状況を以下のように述べています。

一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。

この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。

インフレになりにくい現在の世界では、財政赤字を恐れて、投資をしないことのほうが、経済運営においてはるかに危険なことなのです。 

ノーベル経済学賞を受賞した、ジョセフ・スティグリッツ教授は、EUがパンデミック前のルールに立ち戻ることは間違いであり、公的債務のGDP比を減らすには投資で分母を増やすべきだとして、より柔軟で思慮深い財政運営を求めていますが、これは全く正しいです。

ジョセフ・スティグリッツ氏

 感染症対策の一環として、国債を増発し、それで給付金を支給したとして、それがすぐに将来世代=子どもたちのつけになるというのは全くの間違いです。サミュエルソンが語るように、将来世代が、給付金を未来から現在にタイムマシンで送ることができれば、将来世代のつけになりますが、タイムマシンがなければやりたくても、それはできません。

財務省の(矢野康治)事務次官が、このまま日本が借金まみれだと、タイタニック号のように氷山にぶつかって沈没してしまうという趣旨の与太論文を(月刊誌「文芸春秋」に)掲載しました。

しかし、安倍元首相は昨年暮の公演で「日本は決してタイタニック号ではない。日本がタイタニック号だったら、タイタニック号が出す国債を買う人はいない。ちゃんと売れている」と主張しました。これは、全く正しいです。そうして、以下のように続けました。

「新型コロナ禍での巨額の補正予算は、国債でまかない、そのほとんどは市場を通じて日本銀行に購入している。決して孫の代に(借金を)背負わせているわけではなく、借金を全部背負っているのは日本銀行だ。

荒っぽい言い方だが、日本銀行は国の子会社。立派な中央銀行だが、5割は政府が株を持っているから、連結決算上は債務ではないという考え方も成立する」

「子供たちの将来にツケが回る」と語る人たちは、空想科学小説、それもあり得ない与太話をしているに過ぎないのです。

このような政治家や官僚の与太話等に惑わされて、不安を感じる必要性などまったくありません。

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2022年1月9日日曜日

「習政権なす術なし」中国“ロックダウン失敗” 北京五輪まで1カ月…経済低迷、国内では物々交換も 石平氏「今後は国民の不満や批判の『ゼロ』対策」―【私の論評】コロナがインフル並になることを信じ、強権的な中国版「ゼロコロナ政策」にすがり秋の党大会を迎える習近平(゚д゚)!

「習政権なす術なし」中国“ロックダウン失敗” 北京五輪まで1カ月…経済低迷、国内では物々交換も 石平氏「今後は国民の不満や批判の『ゼロ』対策」

鉄条網で封鎖された居住区の出入り口で、生活物資を受け取る住民ら=24日、中国陝西省西安

 中国のコロナ対策が「世界最大のリスク」に浮上した。北京冬季五輪まで1カ月を切り、国内の一部都市をロックダウン(都市封鎖)しているが、米調査会社は封じ込めに失敗する可能性が高く、国内外の経済混乱を招くと指摘した。封鎖地域では食料不足や当局者による暴行騒動などに発展、住民の不満も噴出している。

 米調査会社ユーラシア・グループが年初に公表した今年の「10大リスク」をまとめた報告書で「最大のリスク」に挙がったのが、中国の「ゼロコロナ」政策だ。「幅広いロックダウンと効き目が限定的なワクチン」でオミクロン株との戦いを強いられていると説明。「当初の成功と習近平国家主席のこだわりで、方針転換は不可能になった」と分析する。

 その上で、感染拡大の封じ込めに失敗する可能性が高く、政府による社会・経済統制の強化とそれに対する不満の増大を予測。中国経済の低迷が続き、世界的なサプライチェーン(供給網)への打撃を深刻化させ、インフレのリスクを増大させると警鐘を鳴らした。

 中国製ワクチンについては効果の低さも指摘されており、国内各社が、ファイザーやモデルナと同タイプのmRNAワクチンの製造・開発に着手している。前出の報告書は、混乱状況が「少なくとも自国製のmRNAワクチンを国民に行き渡らせるまで、最短でも今年末まで」続くとの見方を示した。

 昨年12月下旬からロックダウンを行っている陝西省西安市では、食料品や生活必需品の不足、医療サービスの受診などに影響している。

 同市内で痛みを訴えた妊婦が陰性証明の期限が切れていたため病院に入れず、寒い屋外で約2時間待たされた末に大量出血、死産したと報じられ、住民らの非難が噴出した。保健当局は謝罪し、病院を受診する人に48時間以内の陰性証明の提示を義務付けていた措置をやめると発表した。

 中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」では、ポータブルゲーム機とインスタントラーメンに中華まん、白菜やにんじんなどの野菜と生理用品などを物々交換する映像も投稿されている。

 防疫担当の職員が住民を暴行する映像もSNSに投稿されたほか、ロックダウン前に住民が脱走したことも報じられた。

 河南省禹州市でも3日からロックダウンが行われている。

 関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「重症呼吸器症候群(SARS)流行当時、1人の感染者のみで住居を封鎖するなどした対策の成功体験があるのだろうが、今後はロックダウンだけで抑え込みはなかなか難しい。(mRNAなど)欧米のワクチン導入も検討すべきではないか」と語った。

 評論家の石平氏は「習政権は従来の対策と自国産のワクチンについてメンツを重視するあまり、なす術がない。今後はコロナの『ゼロ』対策ではなく、強権的抑圧によって国民の不満や批判の『ゼロ』対策をするしかないのではないか」と皮肉を込めた。

【私の論評】コロナがインフル並になることを信じ、強権的な中国版「ゼロコロナ政策」にすがり秋の党大会を迎える習近平(゚д゚)!

米調査会社ユーラシア・グループが年初に公表した今年の「10大リスク」をまとめた報告書で「最大のリスク」に挙がったのが、中国の「ゼロコロナ」政策であり、そのことはこのブログにも掲載しました。

ユーラシア・グループの予測では、習近平がコロナ感染症を制御できなくなり、国内でサプライチェーンが崩壊し、それが世界に悪影響を与えるとされました。

これを巡っては2つ対照的な出来事があります。一つは、中国のゼロコロナ政策の失敗を予感させるものです。

それらは、中国・西安で妊婦が陰性証明の期限切れを理由に診療を拒否されて死産した事件で、衛生当局のトップが謝罪しましたというものです。 

中国では、西安市衛生健康委員会・劉順智主任:「女性に深く謝罪する。果たすべき仕事が果たされなかったことを深く謝罪する」 という報道がなされています。主任というと、日本では職位としては低いですが、中国ではその部署のトップを意味する言葉です。

冒頭の記事にもあるとおり、事実上のロックダウンが続く陝西省西安では1日、妊娠8カ月の女性が陰性証明の期限が4時間ほど切れていたため、診療を拒否されておなかの赤ちゃんが亡くなりました。 

西安市衛生部門のトップは6日、女性に謝罪したうえで、こうしたケースが他にも起きているとして、「直ちに改善措置を取り、コロナ禍の医療ニーズを確保する」と頭を下げて謝罪しました。


中国では、この他にもコロナ感染に関して、とんでもない動画が出回り、すぐに当局によって削除されています。

陝西省興平市では、感染地区から帰ってくる家人を家に入れないために、家のドアノブを男が針金で固定したり、扉を溶接しました。ある都市では、規則を破った市民に対しては反省文を書かせ、公開謝罪をさせました。ロックダウン中の西安では、なぜか防護服を着た作業員が路上火炎放射器で消毒作業をしている動画が出回りました。

日本では、大企業や政府役人が頭を下げて謝罪するという姿は、見慣れたものですが、中国では地方政府の幹部がこのように頭を下げて謝罪するというのは、初めてではないでしょうか。

これは、中国では異例中の異例です。私自身は、このようなことで下級幹部が謝罪した事例はあったことを知っていますが、中共の地方幹部のトップが公に謝罪した例を知りません。これは、国民の不満が鬱積しており、それに対する中国共産党の懐柔策なのだと考えられます。

中国では、元々国民の共産党政権に対する不満はかなり強く、建国以来毎年平均数万件の暴動が発生したといわれています。それが、2012年あたりから、10万件を超えるようになり、政府も暴動件数を公表しなくなりました。

もともと国民の憤怒のマグマが煮えたぎっていたところに、中国版「ゼロコロナ政策」である「社会面清零政策」が行われたのです。これは先進国などでいう「ゼロコロナ政策」とは似て非なるものであり、数字上コロナ感染者がゼロになれば、住民の生活や命はどうなっても構わないという政策です。

「社会面清零」に関する報道をする中国CCTVの画面

これでさらに国民の憤怒がさらに高まっていたところに、このような事件が起こり、国民の憤怒が頂点に達したのでしょう。これは、さすがに中共政府も従来のように隠蔽、弾圧や日本を悪者に仕立てるなどの方法では乗り切ることができないと判断したのでしょう。だから、トップの謝罪という事態になったのでしょう。

もう一つは、中国がゼロコロナ政策でなんとか難局を切り抜ける可能性もでてきたという事実です。

現在爆発的に感染が増えつつあるオミクロン株について、各国のデータをみると従来の変異株より入院率や死亡率は低く、「インフルエンザ並み」との指摘もあることです。

英統計サイト「アワー・ワールド・イン・データ」によると、5日時点の新型コロナによる致死率(感染者のうち死亡した割合)は英国が0・15%、イタリアは0・46%、フランスは0・29%だった。昨年1~2月時点では各国ともに3%台で、低下傾向は顕著です。

国立感染症研究所の資料によると、昨年12月23日までに報告されたイングランドのオミクロン株感染例など29万5694例のうち、19日までに入院が366例、死亡が29例認められました。2日のタイムラグはありますが、単純計算で入院率は約0・12%でした。

昨年8月、英公衆衛生庁の研究者が英医学誌「ランセット」に掲載した論文では、同年3~5月の新型コロナ患者のうち2週間以内に入院したのはアルファ株が2・2%、デルタ株が2・3%にのぼっていましたた。

日本では、第5波当時の入院率や死亡率はインフルエンザより10倍リスクが高いとされましたが、現状はインフルエンザと現時点のオミクロン株の入院率はいずれも0・1%程度で同等のレベルです。

歴史的にみると急性ウイルス感染症でパンデミック的な流行が3年以上続いた記録はなく、そろそろ風邪の一種になる方向に収束する可能性も高いです。

もし、そうなると、習近平政権は、中国製ワクチンがオミクロン株に効き目が低かったとしても、「社会面清零政策」をやり抜いても、しばらくすれば、コロナ感染症は中国でも収束する可能性があります。

習近平政権にとって、今回のオミクロン株の急速な感染は、悪い面ばかりではありません。それは、北京五輪の各国の外交的ボイコットを、国内ではオミクロン株のせいにできるからです。

習近平政権は、たとえ東京五輪のように無観客でも強行し、北京五輪を成功させ、国威発揚に利用するでしょう。

そうして、焦点は秋の党大会に移ることでしょう。中国共産党は2022年秋、5年に1度の党大会を開きます。通例であればトップが交代する10年に1度の節目ですが、今回は習近平総書記(国家主席)の3期目続投が確実視されており、習氏を支える指導部人事が最大の焦点です。

昨年の共産党大会

この直前までに、コロナ禍が収束していれば、良いでしょうが、それまでにコロナが収束していない場合は、習近平の国家主席の3期目続投は危うくなるでしょう。

それに加えて、個人崇拝の復活や経済・社会の統制強化など毛沢東時代への回帰を強める習氏の路線には、党内で異論も根強いです。減速する経済や長引く米中対立も、3期目始動の不安材料です。

それまでは、習近平は気を抜けません。海外からオミクロン株にも効き目があるとされる、ワクチンを導入すれば、面子が丸つぶれとなるので、なす術はありません。ただコロナがインフルエンザ並になることを信じて、強権的な中国版「ゼロコロナ政策」にすがり、その日を迎えるしかないでしょう。その過程で、「社会面清零政策」はますます苛烈になるかもしれません。

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2022年1月8日土曜日

「強力な措置」習主席が称賛 カザフスタンの抗議デモ鎮圧に―【私の論評】カザフスタン情勢が中露に与えるインパクト(゚д゚)!

「強力な措置」習主席が称賛 カザフスタンの抗議デモ鎮圧に


 中国の習近平国家主席はカザフスタンのトカエフ大統領にメッセージを送り、抗議デモの鎮圧について「思い切って強力な措置を取った」と称賛しました。

  習主席は7日、トカエフ大統領へのメッセージで、「大統領は重要な時に思い切って強力な措置を取り事態を速やかに沈静化させた」と評価したうえで、「政治家としての責任を示した」と強調しました。

  また、「外部勢力が意図的にカザフスタンに動揺をもたらすことに断固反対する」とし、トカエフ大統領やロシア政府と同様に、外国が抗議デモを扇動したとの主張を展開しました。

  カザフスタン最大都市アルマトイでは6日、治安当局が発砲しデモの参加者少なくとも30人が死亡しています。

【私の論評】カザフスタン情勢が中露に与えるインパクト(゚д゚)!

下にカザフスタンの地図を掲載します。ご覧いただくと、カザフスタンは中露と国境を接していることがわかります。また、カザフスタンはロシア領をはさみつつもウクライナと近接した地域にあります。


中国としては、カザフスタンの抗議デモなどが、中国に飛び火することを懸念し、カザフスタンが強力な措置をとり沈静化したことを歓迎しているのでしょう。

何しろ、中国の新疆ウイグル地区は、カザフスタンと国境を接しています。カザフスタンが不安定になれば、中国も影響を受けることになります。

中央アジアのカザフスタンは世界有数の資源国であり、元々はロシアと関係が深い一方、近年は中国とも関係を強めてきました。ナザルバエフ前大統領は2019年に退任しましがも、その後も事実上の指導者として影響力を残してきました。

他方、昨年来の新型コロナ禍で経済は悪影響を受け、足下では国際原油価格の上昇や通貨テンゲ相場の下落も重なりインフレが加速感を強めるなど、景気に悪影響を与えつつあります。

カザフスタン政府は今月から天然ガス価格の大幅引き上げを実施しましたが、デモの動きが全土に広がる事態となり、内閣総辞職に追い込まれるとともに、トカエフ大統領は全土に非常事態宣言を発令しました。

また、デモの一部がナザルバエフ氏を批判したなか、トカエフ氏はナザルバエフ氏の事実上の失脚を決定するなど「政変」に発展しています。さらに、事態鎮静化に向けて生活必需品の価格統制に動くとともに、ロシアが主導するCSTOに部隊派遣を要請しました。

CSTO(集団安全保障条約機構)旧ソ連諸国から成る独立国家共同体(CIS)の中で、集団安全保障条約の加盟国が構成する軍事機構です。現在の加盟国はロシア、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国です。2007年の首脳会議で平和維持部隊の創設がきまりました。

今回、各国がカザフに派遣する平和維持部隊は2500人程度の見通しで、状況に応じて増派される可能性もあります。

6日、ロシア中部イワノボで、カザフスタン行きの輸送機に載せられるのを待つ軍用車両=ロシア国防省提供

タス通信によると、CSTOの平和維持部隊が訓練ではなく、実際に任務を遂行するのは初めてです。ロシアは精鋭の空挺(くうてい)部隊などを投入。国営テレビは軍用車両が走行したり、兵士らが軍用機に乗り込んだりする様子を繰り返し放映しました。

ブリンケン米国務長官は7日に国務省で記者会見し、カザフスタン政府がロシア軍部隊の派遣を要請したことについて「なぜ外部の支援を必要と感じたのか分からない」と述べ、カザフ当局の対応に疑問を呈した。その上で、詳細を調べていると明らかにした。

ブリンケン氏は会見で「法や秩序を維持し、人権を尊重した形でデモ隊に適切に対応する能力をカザフ当局は確実に持っている」と説明。「最近の歴史の教訓では、ロシア人がひとたび家に居座れば、立ち退かせるのは非常に難しい」と指摘し、ロシア軍の動向に警戒感を示しました。

また、カザフのトカエフ大統領が、デモ鎮圧のため治安当局や軍に警告なしの射殺を認めたことに関し、ジャンピエール米大統領副報道官は7日、記者団に「治安維持における軍の自制を求める。国際社会は人権侵害などを注視している」とくぎを刺しました。

ロシアのプーチン大統領は昨年12月23日、年末恒例の記者会見を開き、北大西洋条約機構(NATO)がさらなる東方拡大をしないよう米国とNATOに確約を要求していることをめぐり、「ボールはNATO側にある。即座に(ロシアの安全を)保証せねばならない」と述べ、対応を迫っていました。

ロシア側はNATOの東方不拡大など自国の安全保障に関し、米国とNATOに条約などを締結するよう要求しており、それぞれと来年1月初めに交渉が始まる見通しだとしていました。

プーチン氏は会見で、米国やNATOが交渉に応じる姿勢を見せているとし、「肯定的な反応だ」と語りました。一方で、東西冷戦終結後に東欧諸国がNATOに加盟し、ポーランドやバルト三国などにNATOの部隊が駐留している状況を踏まえ、NATOがロシアを「だました」と一方的に非難しました。


プーチン大統領は、NATOの東方拡大をおそれているようです。ロシアはウクライナ国境付近で兵力を増強し、欧米は露軍によるウクライナ侵攻を警戒していますが、露専門家の間では、緊張を高めてNATO側を交渉に引き込むプーチン政権の戦略の一環との見方も強いです。

プーチン氏は会見でウクライナへの対応について、「交渉とは無関係」とする一方、「ロシアの行動は自国の安全保障にのみ左右される」と述べ、露側の要求を受け入れるよう圧力をかけました。

今回、ロシアがカザフスタンに、CSTOに部隊をはじめて派遣したのは、NATOの東方拡大を牽制するという意味あいもあるでしょう。中国にとっても、ウクライナがNATOに加入し、さらにカザフスタンに新米政権ができることにでもなれば、従来は西からの脅威をほとんど考慮しなくても良かったものが、考慮せざるを得なくなり、東西から挟まれる状態になります。これは、中国としては、なんとしてでも避けたいでしょう。

今後は同国が米ロ対立の「代理戦争」の舞台になる可能性もあります。さらに、中国が関与を強めるなど地政学リスクに発展していく可能性もあります。そうなると、米中露対立の代理戦争になる可能性もあります。

カザフスタンの治安回復のため展開した部隊に死傷者が発生すれば、プーチンのウクライナ作戦展開には大きなプレッシャーとなるでしょう。ウクライナでは戦死多数の発生は避けられないです。

ウクライナ軍はロシア軍の比ではないとはいえ、カザフスタン住民よりは手ごわい敵だからです。それに、ロシアの一人あたりのGDPはいまや、韓国を大幅に下回っている上に、現状のロシア軍の兵站は多くを鉄道に頼っており脆弱なこともあり、ウクライナ、カザフスタンの両面作戦を実行するのは難しいです。

Atlantic Councilに寄稿したウクライナ、ウズベキスタンで米大使だったジョン・ハーブストJohn Herbstは「当初のCSTO配備が失敗に終われば、プーチンはジレンマに直面する。軍備増強前のウクライナ情勢は手詰まり状態だった。カザフスタンで国民の反対運動で改革志向の新政権が誕生したり、トカイエフが中国や上海協力機構に政権維持の支援をもとめればはロシアの中央アジアでの立場が悪化する。

そうなるとプーチンがウクライナ国境地帯から部隊を撤収しカザフスタン騒擾状態の制圧に当たらせ、中央アジアでのロシアの立場を強めるべきなのか。これを実行すれば、ウクライナでの大規模軍事攻勢よりもリスクは低くなる」と語っています。

1月9日から10日にかけて米ロがウクライナ情勢についてジュネーブで会談する予定で、今のところカザフスタンの不安定状況の影響は出ていないようです。ただし、ウクライナではロシアは、今はカザフスタン情勢のため行動に移れないとの見方が強いです。

米国は、トカイエフ政権の崩壊すれば力の真空が生まれ、これに対して何らかの動きをするでしょう。この場合、プーチンはウクライナに専念できなくなるだけでなく、自身の権力基盤にも揺らぎかねません。これについては、当然のことなが中国も懸念していることでしょう。

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2022年1月7日金曜日

北朝鮮 北京五輪・パラ不参加 「敵対勢力の策動」とコロナが原因―【私の論評】今年の世界は、「ゼロコロナ」に拘泥せざるをえない国と、そうではない国との間で大きな違いがでる(゚д゚)!

 北朝鮮 北京五輪・パラ不参加 「敵対勢力の策動」とコロナが原因


北朝鮮が、北京オリンピック・パラリンピックに参加しないことを明らかにした。

これは、朝鮮中央通信が7日朝に報じたもので、北朝鮮当局は、中国側に渡した書簡で、北京大会に「参加できなくなった」と伝えた。

理由として、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と、「敵対勢力の策動」を挙げている。

書簡ではまた、アメリカなどの外交的ボイコットを念頭に、「中国への陰謀が悪質になっている」と非難したうえで、大会の成功に向け、中国への全面的な支持を強調した。

IOC(国際オリンピック委員会)は、東京大会に参加しなかった北朝鮮の資格を停止しているが、北京オリンピックには、個人参加を検討するとしていた。

【私の論評】今年の世界は、「ゼロコロナ」に拘泥せざるをえない国と、そうではない国との間で大きな違いがでる(゚д゚)!

北朝鮮で年明けに放送されたミュージカルです。

巨大な頭部を持つ着ぐるみが、コロナ対策を指南…。消毒の次は検温。体温計は最新式です。

実は、北朝鮮の感染状況、全く情報がありません。今年はコロナ対策を最優先とする、そんな方針を明らかにした金正恩総書記ですが、果たして、どうなっているのでしょうか。

コリア・レポート、辺真一編集長は上の動画で、「コロナの感染者はゼロと、いまだかつて1人も感染者・陽性者が出ていないと言っている」「誰もワクチンを接種していないと…、中国もロシアもワクチンの提供を申し入れているが、北朝鮮が応じたという報道もない」と語っています。

さらに、辺氏は、「北朝鮮の映像をチェックすると信じ難いことが多々ある。金正恩総書記が出席する会議。全国から6000人が一堂に集まって、室内で集会を開いている、2時間も3時間も。誰もマスクを着用していないんですね。ちょっと今のご時世ではありえないようなことが北朝鮮では垣間見られている、ということはもしかすると、平壌には一人も感染者がいないのではないか、そういう見方も成り立つ」

しかし、一方で。

「人口の半分近く48%が栄養失調の状況にある。抵抗力が強くない。むしろ不安材料はいっぱいだと思う」

公式発表による感染者ゼロ。しかし、それを裏付けるデータはありません。

「(感染者が)いるのかいないのかを検証しようがないと言いましょうか、客観的に裏付けになるようなものはないということですよね」とも語っています。

ただ、北朝鮮は感染者の発生を認めたこともありました。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は昨年4月17日、北朝鮮当局者が一般国民を対象にした講演で、国内3カ所で新型コロナウイルスの感染者が発生したことを認めたと伝えました。

北朝鮮は現在まで、対外的には「国内の感染者はゼロ」であるとする立場を取り続けていましすが。RFAの報道が事実なら、北朝鮮は近く、対外的にも感染者の発生を認めるかもしれないとされていました。そうすれば、すでに感染症対策での助力を申し出ている米国など国際社会から、支援を受け取ることができたかもしれなかったからです。

北朝鮮の北部・両江道(リャンガンド)の住民はRFAに対し、3月末に各職場や人民班(町内会)ごとに「元帥様の方針貫徹のために新型コロナ防疫事業にひとつになって取り組もう」と題した講演会が行われ、講師を務めた当局者が「朝鮮は最もすぐれた社会主義医療保健制度のおかげで、全世界的に感染者が最も少ない」としつつ、「感染者が発生したのは平壌市と黄海南道(ファンヘナムド)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)3カ所だけだ」と強調したと伝えました。

また、平壌の住民も同様に「当局は住民講演会で、平壌市、黄海南道、咸鏡北道の3カ所で新型コロナウイルス感染者が発生したと明らかにした」と証言したといいます。

両江道の住民の証言によれば、講師はまた「住民たちが新型コロナウイルスに対する党の防疫指針をまともに守らず、人民経済に甚大なダメージをもたらした」と述べたといいます。

北朝鮮は新型コロナウイルス対策として最も過激な行動制限を行っており、規則違反が発覚した感染者が処刑されたとの情報もあります。実際、北朝鮮は体制の危機を迎えるたびに恐怖政治を強化し、国民の反発をけん制してきた。

「会場に集まった人々は、感染者が発生したという講師の言葉に、しばらくザワついたとされています。新型コロナウイルスによって南朝鮮(韓国)をはじめ全世界で人々が大量に死にゆく状況下でも、わが国は党の徹底した非常防疫対策でひとりの犠牲者も出ていないと強弁していた当局が、どんな理由から感染者の存在を認めたのかを皆が興味深く思っている」(両江道の住民)と発言しました。

またこの住民は、「わが国の地図で見ると、咸鏡北道はいちばん上に、黄海南道はいちばん下の方にあり、平壌はちょうどその中間だ。それなのに、これら3カ所でだけ感染者が出たという話を信じられるか。北端から南端までウイルスが広がったなら、すでに全国に拡散しているのだろう」との見方を騙ったとされています。

外務省海外安全ホームページの北朝鮮の地図、すべてレベル2「不要不急の渡航中止(感染症)」と表示されている。クリックすると拡大します。

韓国の情報機関・国家情報院は昨年11月3日の国政監査で、北朝鮮が新型コロナウイルス対策を怠った幹部を最高刑で死刑とする「コロナ怠慢罪」を新設したことなどを報告しました。北朝鮮は自国の防疫体制の脆弱ぜいじゃくさを認め、新型コロナで「30万人死ぬか、50万人死ぬかわからない」とする文書も作成していたといいます。

今回、北朝鮮が北京五輪、パラリピックに参加しない旨を公表したのは、やはりコロナが万円しているか、蔓延することを極度に恐れていることの証だと思います。さらに、コロナに対する備えもほとんどできていないというのが、実体なのだと思います。

北朝鮮の朝鮮中央放送は5日、新年に入り、新型コロナウイルスの流入と感染を徹底的に遮断するための「非常防疫戦」が一層強化されていると伝えました。世界中で新型コロナとの闘いが3年目に入った今も北朝鮮は「感染者数ゼロ」を主張していますが、ウイルスの流入と万が一の感染拡大の可能性に神経をとがらせている様子がうかがえます。 

北朝鮮の防疫活動(労働新聞)

朝鮮労働党中央委員会は昨年12月27~31日に第8期第4回総会を開き、新型コロナ対応を「国家事業の第一順位」に据え、「ささいな緩みや抜かりもなく強力に展開していかなければならない最重大事業」に掲げました。

手洗いやマスク着用、消毒などの基本的な対策は昨年と変わりないですが、防疫の重要性が強調されただけに、さらに警戒を強めているようです。 

中央放送はこの日、「平壌市と沿線、沿岸地域の主要地点と周辺地域で非常防疫の実態を具体的に把握し、わずかなすきも発生しないよう先んじて関心を向けている」と伝えました。

北朝鮮では、中国の「社会面清零政策」のような政策がすでに行われているか、さらに大掛かりに実施されているか、実施されようとしているのではないでしょうか。

中国の「社会面清零政策」は、先進国などでいう「ゼロコロナ政策」とは似て非なるものであり、数字上コロナ感染者がゼロになれば、住民の生活や命はどうなっても構わないという政策です。

例えば、平城などの重点地区とそうではない部分を明確に分離して、平城などで感染者が発生した場合は、感染者とその接触者とみられる人を、感染も有無なども確かめず、平城市内に追い出し、平城市街からの交通を絶ち、境界線で必要物資を受け取るとか、感染者や接触者の住居などは焼き討ちするなどして、とにかく平城市内等は感染者ゼロを保つということが行われているのではないでしょうか。

昨日は、中国がゼロコロナ政策に失敗し、国内サプライチェーンが毀損され、それが世界経済にも悪影響を与えることが、世界最大のリスクになる得ることをこのブログに掲載しました。北朝鮮でもゼロコロナ政策に失敗して、国内が大混乱するという可能性もあります。

最近の北朝鮮によるミサイル発射も、コロナによる疲弊を見透かされないようにするための、デモンストレーションなのかもしれません。

日本でもマスコミはオミクロン株の報道を盛んにしていますが、確かに感染力は、強いようですが、死者はほとんど出ていません。以下に死者数の推移のグラフを掲載します。


最近ではコロナワクチンの他にも飲薬が普及しつつあります。日本では、ワクチン+飲薬という対処法でもう少しで、コロナ感染症を普通の風邪のように扱える日がくると思います。日本も、「ゼロコロナ」にいつまでも拘泥していると、中国や北朝鮮のようにとんでもないことになりかねません。

とはいいながら、日本では人権が中国や北朝鮮よりは尊重されているので、とんでもないことにはならないでしょうが、そうはいっても、たとえば医療崩壊などが起こってしまえば、とんでもないことになり、人権無視ということになりかねません。

北朝鮮は、ワクチンも飲薬もない状況です。中国はワクチンはありますが、中国製ワクチンはオミクロン株にはあまり効き目がないようです。両国とも「ウィズコロナ」政策をしたくてもできない状況です。

しかし、日本は違います。日本はワクチンと飲薬などで、コロナ感染症を風邪のように扱える目処がたてば、すぐにコロロな感染症を二類から五類に分類し直すべきでしょう。感染症に強い強靭な社会を目指すべきです。

今年の世界は、「ゼロコロナ」に拘泥せざるをえない国と、そうではない国との間で大きな違いがでることになるでしょう。

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2022年1月6日木曜日

新型コロナ、中国本土で新たに189人感染確認―【私の論評】先進国の「ゼロコロナ政策」とは似て非なる中国の「社会面清零政策」の末恐ろしさ(゚д゚)!

新型コロナ、中国本土で新たに189人感染確認


【新華社北京1月6日】中国国家衛生健康委員会は6日、31省・自治区・直轄市と新疆生産建設兵団から5日に報告を受けた新型コロナウイルスの新規感染者(無症状感染者除く)が189人だったと発表した。

【私の論評】先進国の「ゼロコロナ政策」とは似て非なる中国の「社会面清零政策」の末恐ろしさ(゚д゚)!

上の記事は、中国メディア新華社の記事をそのまま、転載しました。新華社(しんかしゃ)は、中華人民共和国の国営通信社です。正式名称は新華通訊社。日本では新華社通信(しんかしゃつうしん)として知られています。

この報道からみると、最新の中国のコロナ感染者数は、189人であり、死亡者は0人です。人口が約14臆人の中国では、この数字は両方ともほぼ0に近く、この数字が本当であれば、中国のコロナ感染症はほぼ収束したと言っても良いようです。

しかし、実際には北京オリンピックを1ヵ月後に控えた中国のコロナ対応に国内で不満の声があがっています。

米国・CNNによると、中国のゼロコロナ政策は大規模検査、長期間の隔離、感染確認後即座にロックダウンなどが行われているそうです。

中国中部の大都市で人口約1300万人の西安市では去年12月9日~23日、新型コロナの234人の市中感染が確認され、23日午前0時からロックダウンに入りました。

各家庭1人だけ2日に1回、食料品など購入の外出のみ可能だそうです。

感染対策のため封鎖された居住区の出入り口=5日、中国陝西省西安市

その後も感染拡大が収まらず、食料品などの買い物も禁止され、住民の自動車の運転も禁止。西安市在住の男性は「外出禁止後、政府から1度野菜だけが届いた。お米だけ、ヨーグルトだけ届いたという人もいる。隔離中の人がいる家には封印のお札のようなものが貼られる」と語ったそうです。

中国メディアの報道では粛々と検査を受ける市民や食料の配給が行わえる様子が報じられました。

中国のSNSでは食糧難を訴える人が急増。西安での食材の買い出し困難についても拡散され、きょう時点で4.3億回以上閲覧されましたが、検閲により現在は削除されています。

1月1日に行われた西安市のコロナ感染防止コントロール指揮部のビデオ会議で、1月4日までに西安市の新規コロナ感染者をゼロに抑えるゼロコロナ政策目標が打ち出されました。2日には陝西省の書記、劉国中が、社会面清零(ゼロコロナ)目標をできるだけ早く実現せよ、と通達しました。

ところが1月2日、陝西省で新たに92人の新型コロナ感染者が出ています。うち90人が西安市の住人です。3日には西安市だけで95人の感染者が出ました。

西安市では12月23日に都市封鎖(ロックダウン)が始まり、8日ぶりに新規感染者が100人を切ったという意味では徐々に落ち着いてきているにもかかわらず、1月4日までに新規感染者をゼロにするなど、あまりに非科学的・非現実的に思われます。

ところが、インターネット上に流れた西安市の「強制隔離」風景の動画を見たとき、多くの市民たちは気づくことになりました。「ゼロコロナ」とはコロナウイルスを徹底排除せよ、ということではなく、コロナ感染者を社会から徹底排除し、「ゼロ」とすることだったのです。

実際、感染拡大の可能性のある「小区」(集合住宅の集まる住宅区、団地)の住民が、数万人単位で「社会」と隔絶された僻地の「収容施設」に収容されていました。

ここで問題の本質は、中国でコロナ対策としての「社会面清零」モデルの概念が固まったことでしょう。在カナダ華人の人気YouTuber文昭が、こうした「社会面清零」措置の例の動画などを挙げて、こう解説していました。

「社会面清零の概念は、人と社会を分離して、強制収容キャンプモデルで管理するということだ」

市内の居住区に住民がおらず、空っぽであれば、そもそも人がいないのですから、ゼロコロナが達成されたことになります。仮に隔離施設内で新規感染者が発生しても、それは新規感染者にカウントされません。なぜなら、彼らは社会から隔絶されたところにいるからです。

中国の「社会面清零政策」は、先進国などでいう「ゼロコロナ政策」とは似て非なるものであり、数字上コロナ感染者がゼロになれば、住民の生活や命はどうなっても構わないという政策です。

そうして、重要なのは、政策として打ち出された「社会面清零」が、中央からの無茶な指示を受けた現場官僚たちが、何とか帳尻を合わせるために人民を欺く論理として確立したことです。そうして、この論理は中国内の他の地域でも感染者が発生すれば、適用されることになるでしょう。

「社会面清零」に関する報道をする中国CCTVの画面

中国は2020年、厳格なロックダウンと国産ワクチンの普及によって新型コロナウイルスの封じ込めに成功したとしていました。全体主義が成功を大成功を収めたようにもみえました。

そうして、先日もこのブログで述べたように、中国では国家が国民を信用していないので、国民にすべての情報を知らせ、国民の判断を尊重するという仕組みが機能していません。そのため政府は失敗が許されません。権力者は常に全知全能、無謬の存在を演じ続ける以外にないのです。

ウイルスにはこの世界から駆逐できるタイプのものとそれが不可能で共存以外の道がないタイプのものがありますが、新型コロナは明らかに後者です。初期の段階で前者だと信じたが故のゼロコロナ政策であり、それで大成功してしまったため、今更やめるわけにはいかないのでしょう。

先進国においては、すでに「ゼロコロナ政策」はやめているか、いずれやめて「ウィズコロナ政策」に柔軟に転換するでしょう。しかし、中国はできない可能性が高いです。

自らの手段が功を奏し、それを国威発揚にまで用いてしまったため、その後は他の選択肢が取り得なくなるというパターンは、今回のコロナ対策に限った話ではありません。「一党専制」という一見、強力な仕組みの最大の弱点はここにあります。

中国製コロナワクチン

しかしながら今日では、オミクロン株のように感染力の高い変異株が登場しています。先日もこのブログでも掲載したように、中国の「ゼロコロナ政策」が世界のリスクになると予測した、ユーラシアグループは、中国の国産ワクチンの効果は限定的であり、変異株への対応力は不十分であると指摘しました。

同グループは、中国がこれまで貫いてきたゼロコロナ政策は失敗し、より大規模な感染症拡大と、それに伴う厳しい封鎖や措置を引き起こすと分析しています。そして、これは中国のサプライチェーンの混乱、世界的な経済不安リスクにつながるということになりそうです。

感染者零を目指すために、感染者や感染者とみられる人々の人権を無視して、強制隔離し、挙げ句の果に作り手、運び手まで隔離して、国内のサプライチェーンを破壊し、それが世界を不安に陥れかねないというのですから、本当に末恐ろしいです。

世界は、中国のどの部門が脆弱なのか見極めて、それがどのくらいの悪影響を自身にもたらすのか、前もって準備するしかないようです。ただ、相手が感染症ですから、それがどの程度サプライチェーンを毀損するのか、予め予想するのは難しいです。ただ、この危機が起こり得ることを予め認識しておくべきことは言うまでもありません。

オミクロン株が中国でも、重症者・死者数が少なくなり、中共が頑な「社会面清零政策」から柔軟に「ウィズコロナ政策」に転換することを願うのみです。

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2022年1月5日水曜日

空軍、F16Vの「エレファントウォーク」初公開 戦力を誇示/台湾―【私の論評】ハイコストパフォーマンの軍備をすすめる台湾軍(゚д゚)!

空軍、F16Vの「エレファントウォーク」初公開 戦力を誇示/台湾

F-16Vのエレファントウォーク

中国の軍用機の台湾防空識別圏進入が相次ぐ中、空軍は5日、嘉義基地で戦闘機「F16V」12機を用いた「エレファントウォーク」の訓練を実施し、戦力を誇示した。F16V(ブロック20)によるこの種の訓練を外部に公開するのは初めて。

国防部(国防省)の統計によれば、台湾の防空識別圏に昨年進入した中国軍機は延べ約960機に上る。台湾海峡の中間線越えや台湾の南東海域への進入も複数回あった。

「エレファントウォーク」とは、多数の航空機を滑走路に集結させ、矢継ぎ早に地上滑走させる訓練。多数機運用能力や即応態勢を誇示する狙いがある。

また、この日はF16Vの緊急発進(スクランブル)の訓練のほか、昨年11月のF16V部隊発足式で初公開されたヘルメット装着式統合目標指定システム(JHMCS)も再度お披露目された。

ヘルメット装着式統合目標指定システム(JHMCS)

【私の論評】ハイコストパフォーマンの軍備をすすめる台湾軍(゚д゚)!

米国が台湾に「F-16V」の売却を決めたのは、トランプ政権のときです。トランプ米政権が2019年11月20日、台湾に対し米国製戦闘機「F-16V」の最新型を66機売却することを決めました。

当時、中国は「断固として反対する」「内政干渉だ」(外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道局長)と強く反発しましたが、裏を返すとF-16Vの高性能に対する警戒の現れでもあります。

中華民国(台湾)国防部は昨年11月18日(木)、性能が大幅に向上したF-16V戦闘機が台湾南西部にある嘉義市の空軍基地に配備されたと発表しました。

昨年11月18日、台湾・嘉義県の空軍基地で行われた、F-16V戦闘機部隊の発足式

F-16Vは、台湾空軍が運用する既存のF-16A/B戦闘機と外見的には似ているものの、桁違いの性能を持つ新型機で、レーダーやアビオニクス、コックピット周りなども一新され、エンジンもより出力の向上した新型を搭載しています。

特に搭載されているAESAレーダー「APG-83」は、旧型(APG-66)に対し総合的な能力は2倍に向上しているといいます。電子機器の性能向上により、軽く小さなレーダーとなっています。

実戦で最も際立つ結果を残した現代ジェット戦闘機といえば、F-15「イーグル」です。F-15は1979(昭和54)年に最初の撃墜を記録して以降、現在に至るまで100機以上を撃墜し、なおかつ空中戦で撃墜された機数はゼロという、100対0のキルレシオ(撃墜、被撃墜比)を達成しています。これまで一度も負けたことがない圧倒的な戦歴から、F-15は(少なくともF-22やF-35が登場するまでは)強い戦闘機の代表格として知られています。

しかしF-15は高性能と引き換えに、あまりに高価すぎるという欠点がありました。開発国であるアメリカ空軍さえ十分な数を揃えることが困難であり、F-15はとっておきの切り札としつつ、同時に数的な主力を担う安価な戦闘機が必要となりました。こうした経緯から、安価で軽量なF-16「ファイティングファルコン」が開発されました。

F-16とF-15のエンジンは同一のものです。したがってエンジン1基を備えるF-16のエンジンパワーは、2基を備えるF-15の半分しかありません。F-16は劣化F-15であるという認識は古くからあり、F-16の開発計画名「LCF」は「ローコストファイター(低価格戦闘機)」の頭文字ではなく「ローケイパビリティファイター(低性能戦闘機)」である、などと陰口を叩かれたことさえありました。

ところがF-16は実戦へ投入されると、安さだけが取り柄の低性能機ではないことがすぐに証明されました。1982(昭和57)年、イスラエル空軍へ供与されたF-16は「ベッカー高原上空戦」において、たった1週間で44機のシリア空軍機を撃墜し損害ゼロという圧倒的な戦果を挙げます。これは同航空戦におけるF-15の40機撃墜損害ゼロを上回る戦果であり、F-15に比肩しうる強い戦闘機であることを実証しました。

「ベッカー高原上空戦」のイスラエル軍F-16ガンカメラによる画像

ちなみに、F-16のキルレシオは実に80対2に達し、撃墜された事例も事故であることを考慮すると、100対0のF-15にほぼ比肩しうる実績を残しました。

F-16の強さの秘訣は、意図的に安定性を落とし機動性を高める「静安定緩和」など、新技術を惜しみなく投じた点にありました。F-15は強い戦闘機ですが、その設計思想は極めて保守的であり、どちらかというと「高性能なF-4」といえる古い部類の飛行機です。両機は同じエンジンを搭載した兄弟でありながら、実に対照的であり、弟分のF-16はエンジンパワーのハンデを技術で克服しました。

F-15と同等の高性能機でありながら、F-15より安価なF-16が売れない筈はなく、2020年現在までに29か国が導入し、生産数は約4588機を数えるに至りました。いまなお政治的な事情からF-35を導入できない国にとっては魅力的な選択肢です。さらに、現在でも様々な改造が繰り返されています。このようなF-16を母体として、改造されたF-16Vです。台湾が中国と戦うには、十分な性能を有しているといえます。

一部報道によると、性能が陳腐化している既存のF-16A/Bについても、保有する141機すべてについて、1100億台湾ドル(約4500億円)を投じて改良する方針だそうで、これまでに64機の改良が行われたといいます。

これらF-16Vの新規導入と、F-16A/Bのアップデートによって、旧式化したF-5E/F戦闘機は退役させる計画のようです。

台湾は、このブログにも以前掲載したように、対潜哨戒機P3Cを備え、潜水艦の開発にも着手しています。強力な地対艦ミサイルや、地対空ミサイル、長距離巡航ミサイルも装備しています。

そうして、概していえると思うのですが、非常にコストパフォーマンスの高い軍備をしていることがうかがわれます。特に中国軍対するコストパフォーマンスが高いです。このあたりは、徹底的に検討してから、配備しているのでしょう。まさにF-16Vの配備はその象徴であると思います。

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