2022年1月8日土曜日

「強力な措置」習主席が称賛 カザフスタンの抗議デモ鎮圧に―【私の論評】カザフスタン情勢が中露に与えるインパクト(゚д゚)!

「強力な措置」習主席が称賛 カザフスタンの抗議デモ鎮圧に


 中国の習近平国家主席はカザフスタンのトカエフ大統領にメッセージを送り、抗議デモの鎮圧について「思い切って強力な措置を取った」と称賛しました。

  習主席は7日、トカエフ大統領へのメッセージで、「大統領は重要な時に思い切って強力な措置を取り事態を速やかに沈静化させた」と評価したうえで、「政治家としての責任を示した」と強調しました。

  また、「外部勢力が意図的にカザフスタンに動揺をもたらすことに断固反対する」とし、トカエフ大統領やロシア政府と同様に、外国が抗議デモを扇動したとの主張を展開しました。

  カザフスタン最大都市アルマトイでは6日、治安当局が発砲しデモの参加者少なくとも30人が死亡しています。

【私の論評】カザフスタン情勢が中露に与えるインパクト(゚д゚)!

下にカザフスタンの地図を掲載します。ご覧いただくと、カザフスタンは中露と国境を接していることがわかります。また、カザフスタンはロシア領をはさみつつもウクライナと近接した地域にあります。


中国としては、カザフスタンの抗議デモなどが、中国に飛び火することを懸念し、カザフスタンが強力な措置をとり沈静化したことを歓迎しているのでしょう。

何しろ、中国の新疆ウイグル地区は、カザフスタンと国境を接しています。カザフスタンが不安定になれば、中国も影響を受けることになります。

中央アジアのカザフスタンは世界有数の資源国であり、元々はロシアと関係が深い一方、近年は中国とも関係を強めてきました。ナザルバエフ前大統領は2019年に退任しましがも、その後も事実上の指導者として影響力を残してきました。

他方、昨年来の新型コロナ禍で経済は悪影響を受け、足下では国際原油価格の上昇や通貨テンゲ相場の下落も重なりインフレが加速感を強めるなど、景気に悪影響を与えつつあります。

カザフスタン政府は今月から天然ガス価格の大幅引き上げを実施しましたが、デモの動きが全土に広がる事態となり、内閣総辞職に追い込まれるとともに、トカエフ大統領は全土に非常事態宣言を発令しました。

また、デモの一部がナザルバエフ氏を批判したなか、トカエフ氏はナザルバエフ氏の事実上の失脚を決定するなど「政変」に発展しています。さらに、事態鎮静化に向けて生活必需品の価格統制に動くとともに、ロシアが主導するCSTOに部隊派遣を要請しました。

CSTO(集団安全保障条約機構)旧ソ連諸国から成る独立国家共同体(CIS)の中で、集団安全保障条約の加盟国が構成する軍事機構です。現在の加盟国はロシア、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国です。2007年の首脳会議で平和維持部隊の創設がきまりました。

今回、各国がカザフに派遣する平和維持部隊は2500人程度の見通しで、状況に応じて増派される可能性もあります。

6日、ロシア中部イワノボで、カザフスタン行きの輸送機に載せられるのを待つ軍用車両=ロシア国防省提供

タス通信によると、CSTOの平和維持部隊が訓練ではなく、実際に任務を遂行するのは初めてです。ロシアは精鋭の空挺(くうてい)部隊などを投入。国営テレビは軍用車両が走行したり、兵士らが軍用機に乗り込んだりする様子を繰り返し放映しました。

ブリンケン米国務長官は7日に国務省で記者会見し、カザフスタン政府がロシア軍部隊の派遣を要請したことについて「なぜ外部の支援を必要と感じたのか分からない」と述べ、カザフ当局の対応に疑問を呈した。その上で、詳細を調べていると明らかにした。

ブリンケン氏は会見で「法や秩序を維持し、人権を尊重した形でデモ隊に適切に対応する能力をカザフ当局は確実に持っている」と説明。「最近の歴史の教訓では、ロシア人がひとたび家に居座れば、立ち退かせるのは非常に難しい」と指摘し、ロシア軍の動向に警戒感を示しました。

また、カザフのトカエフ大統領が、デモ鎮圧のため治安当局や軍に警告なしの射殺を認めたことに関し、ジャンピエール米大統領副報道官は7日、記者団に「治安維持における軍の自制を求める。国際社会は人権侵害などを注視している」とくぎを刺しました。

ロシアのプーチン大統領は昨年12月23日、年末恒例の記者会見を開き、北大西洋条約機構(NATO)がさらなる東方拡大をしないよう米国とNATOに確約を要求していることをめぐり、「ボールはNATO側にある。即座に(ロシアの安全を)保証せねばならない」と述べ、対応を迫っていました。

ロシア側はNATOの東方不拡大など自国の安全保障に関し、米国とNATOに条約などを締結するよう要求しており、それぞれと来年1月初めに交渉が始まる見通しだとしていました。

プーチン氏は会見で、米国やNATOが交渉に応じる姿勢を見せているとし、「肯定的な反応だ」と語りました。一方で、東西冷戦終結後に東欧諸国がNATOに加盟し、ポーランドやバルト三国などにNATOの部隊が駐留している状況を踏まえ、NATOがロシアを「だました」と一方的に非難しました。


プーチン大統領は、NATOの東方拡大をおそれているようです。ロシアはウクライナ国境付近で兵力を増強し、欧米は露軍によるウクライナ侵攻を警戒していますが、露専門家の間では、緊張を高めてNATO側を交渉に引き込むプーチン政権の戦略の一環との見方も強いです。

プーチン氏は会見でウクライナへの対応について、「交渉とは無関係」とする一方、「ロシアの行動は自国の安全保障にのみ左右される」と述べ、露側の要求を受け入れるよう圧力をかけました。

今回、ロシアがカザフスタンに、CSTOに部隊をはじめて派遣したのは、NATOの東方拡大を牽制するという意味あいもあるでしょう。中国にとっても、ウクライナがNATOに加入し、さらにカザフスタンに新米政権ができることにでもなれば、従来は西からの脅威をほとんど考慮しなくても良かったものが、考慮せざるを得なくなり、東西から挟まれる状態になります。これは、中国としては、なんとしてでも避けたいでしょう。

今後は同国が米ロ対立の「代理戦争」の舞台になる可能性もあります。さらに、中国が関与を強めるなど地政学リスクに発展していく可能性もあります。そうなると、米中露対立の代理戦争になる可能性もあります。

カザフスタンの治安回復のため展開した部隊に死傷者が発生すれば、プーチンのウクライナ作戦展開には大きなプレッシャーとなるでしょう。ウクライナでは戦死多数の発生は避けられないです。

ウクライナ軍はロシア軍の比ではないとはいえ、カザフスタン住民よりは手ごわい敵だからです。それに、ロシアの一人あたりのGDPはいまや、韓国を大幅に下回っている上に、現状のロシア軍の兵站は多くを鉄道に頼っており脆弱なこともあり、ウクライナ、カザフスタンの両面作戦を実行するのは難しいです。

Atlantic Councilに寄稿したウクライナ、ウズベキスタンで米大使だったジョン・ハーブストJohn Herbstは「当初のCSTO配備が失敗に終われば、プーチンはジレンマに直面する。軍備増強前のウクライナ情勢は手詰まり状態だった。カザフスタンで国民の反対運動で改革志向の新政権が誕生したり、トカイエフが中国や上海協力機構に政権維持の支援をもとめればはロシアの中央アジアでの立場が悪化する。

そうなるとプーチンがウクライナ国境地帯から部隊を撤収しカザフスタン騒擾状態の制圧に当たらせ、中央アジアでのロシアの立場を強めるべきなのか。これを実行すれば、ウクライナでの大規模軍事攻勢よりもリスクは低くなる」と語っています。

1月9日から10日にかけて米ロがウクライナ情勢についてジュネーブで会談する予定で、今のところカザフスタンの不安定状況の影響は出ていないようです。ただし、ウクライナではロシアは、今はカザフスタン情勢のため行動に移れないとの見方が強いです。

米国は、トカイエフ政権の崩壊すれば力の真空が生まれ、これに対して何らかの動きをするでしょう。この場合、プーチンはウクライナに専念できなくなるだけでなく、自身の権力基盤にも揺らぎかねません。これについては、当然のことなが中国も懸念していることでしょう。

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