2022年1月11日火曜日

カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出―【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!

カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出

カザフスタンのトカエフ大統領は11日、スマイロフ前第1副首相(写真左)を首相に任命した。議会下院は直ちに同氏を首相に選出した。北京で2019年3月撮影

カザフスタンのトカエフ大統領は11日、抗議デモを鎮圧するため先週派遣を要請したロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊が2日後に撤退を開始すると表明した。

CSTOの平和維持軍の主要任務が無事終了したとしている。撤退は10日間で完了する見通し。

これに先立ち、大統領はスマイロフ前第1副首相を首相に任命。議会下院は直ちに同氏を首相に選出した。

大統領は資産格差の是正を進め、鉱山会社からの税収を増やすと表明。政府調達で不正をなくす意向も示した。

【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!

今回の騒乱の背景にあるのは、燃料価格の値上げなどといった単純な経済問題ではないようです。1991年にカザフスタンが旧ソ連から独立した時から2019年3月まで、28年にわたって初代大統領を務めてきたヌルスルタン・ナザルバエフと、2代目のトカエフ現大統領との雌雄を決する権力闘争とみるべきでしょう。

ヌルスルタン・ナザルバエフ氏

土着派で剛腕なナザルバエフ前大統領と、国際派でインテリのトカエフ大統領は、元々馬があわず、この3年近く、両者はつばぜり合いを続けてきました。ナザルバエフはそもそも、トカエフを後継者にしたくなかったようです。ところが、トカエフはロシアと中国の後ろ盾を得て、大統領の座を射止めたようです。

今回の騒乱に乗じて、トカエフ大統領は、ナザルバエフ派を一掃しようとしているのでしょう。1月5日、トカエフ大統領はテレビで国民向けに演説し、ナザルバエフの国家安全保障会議の終身議長職を解き、自らが議長に就任したと発表しました。おそらく、これから起こるのは、ナザルバエフ前大統領の身柄拘束だとみられます。

今回の騒乱が起きるや、トカエフ大統領は8日には情報機関の国家保安委員会が、ナザルバエフ氏の最側近、カリム・マシモフ前委員長を国家反逆罪で拘束したと発表しました。さらに、マシモフ氏の元側近で国家保安委員会のマラト・オシポフ副議長とダウレト・エルゴジン副議長を共に解任したと明らかにしました。これは前述のように、いずれナザルバエフ逮捕まで持って行こうとしていると見るべきでしょう。

トカエフ氏は旧ソ連時代に、モスクワ国際関係大学で中国語を専攻しています。その後、ソ連外務省に入省、1983年に北京語言大学に留学しています。1984年からソ連が崩壊する1991年まで、中国のソ連大使館で外交官を務めていました。中国語は流暢で、後にCCTV(中国中央広播電視総台)のインタビューを、通訳なしで受けたこともあります。

トカエフ氏は1992年に、独立した母国カザフスタンの外務次官になり、1994年には外務大臣になりました。外務大臣は、1994年から1999年までと、2002年から2007年まで、計10年も務めています。その間、中露とのパイプ作りに励み、2013年に上院議長に就任しました。

トカエフ大統領

ロシアのプーチン政権は、トカエフ大統領に与したようです。ナザルバエフ等よりも、元ソ連
外務省の外交官であるトカエフの方が、よほど信頼できるからでしょう。だからこそ、初めてCSTOを派遣したのでしょう。

ロシア軍は8日、20機以上の大型輸送機イリューシン76を使い、ロシア西部イワノボ州から兵士をカザフに輸送し始めたと発表した。これに先立ち、急襲を得意とする精鋭の空挺くうてい部隊を送り込んでいました。CSTOからカザフに派遣された兵士の総数はベラルーシやタジキスタンを含む5カ国の約2500人ですが、大部分はロシア兵です。

空挺部隊というと、以前にもこのブログに掲載したように、後続の陸上部隊が到着することを前提として、ピンポイントで、橋頭堡を構築することなどが主任務です。後続部隊が来なければ、限られた戦力では持ちこたえられません。しかも、今回は空挺師団ではなく、あくまで空挺部隊で総勢2500人です。

ロシアのTVの画面などでは、多数の装甲車が並んだ画像やイリューシンなどを写してさも、大部隊を投入するようにみせかけていましたが、これはロシアのプロパガンダに過ぎません。そもそも、2500人の兵しか送らないということは、カザフスタンで本気で戦争をしようなどとは、鼻から考えていなという証拠です。本気で戦争をする気であれば、今頃後続部隊が陸路でカザフスタンに向かっているはずです。

大型輸送機イリューシン76に乗り込む空挺部隊

それができない理由がロシアにはあります。まずは、現状ではウクライナ問題があります。現状では、一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回るロシアは、ウクライナとカザフスタンの両方で同時に、大規模な作戦を行うだけの力はありません。

だからといって、優れた軍事技術を持ち、旧ソ連の核兵器を継承するロシアを侮ることはできません。現在でも、全世界を破壊してもまだ、ありはまるだけの核兵器を有しているのです。しかし、軍事力で外国に攻め込むとか、外国を制圧するということになれば、話は別です。その力はほとんどありません。自国の長大な国境線を守ることすら難しいです。

プーチン大統領は10日、ロシアが主導する旧ソ連諸国の集団安全保障条約機構(CSTO)の首脳会議で、政府に対する抗議デモが発生したカザフスタンを外国が後ろ盾するテロリストから守ることができたとして勝利を宣言しました。同時に、他の旧ソ連諸国もCSTOが守ると表明しました。

カザフスタンの抗議デモについては「破壊的な内外の勢力が状況を利用した」との見方を示し、「政権を揺るがす試みは許さない」と述べました。ただ、内外の勢力について、具体的には述べませんでした。

中国も基本的にはロシアと同様の姿勢でしょう。第一に、2月4日に北京冬季オリンピックの開幕を控えています。そんな時、隣国で内乱など起こってほしくないでしょう。第二に、あのような暴動が、国境を挟んだ新疆ウイグル自治区で起こってほしくないでしょう。

トカエフ政権が国民にあまり無慈悲なことをすると、今度は新疆ウイグル自治区の150万人のカザフ族が黙っていないでしょう。ともかく、一刻も早く騒動が収まってほしいと願っているでしょう。

習主席は7日、トカエフ大統領へのメッセージで、「大統領は重要な時に思い切って強力な措置を取り事態を速やかに沈静化させた」と評価したうえで、「政治家としての責任を示した」と強調していました。

中露としては、大統領がトカエフだろうが、誰だろうが、とにかく安定していて欲しいというのが本音でしょう。トカエフ政権が崩壊するようなことでもあれば、力の真空が生まれます。そこに乗じて米国が暗躍し、中露の両方に国境を接するカザフスタンに親米政権でも樹立されNATO軍が進駐することにでもなれば、それこそ中露にとって最大の悪夢です。

米国にとっては、アフガニスタンでの失地を大きく回復することになります。失地回復どころか、アフガニスタンは現状では、中国とは一部国境を接していますが、ロシアは国境を接しているわけではないのですが、カザフスタンは両国と長い国境線をはさんで隣接しています。

中露にとっては、かつての米国にとってのキューバ危機のように、裏庭に米軍基地ができあがることになります。それ以上かもしれません。冷戦中にカナダやメキシコに、親中露政権が樹立され、中露軍基地ができるような感じだと思います。そこに長距離ミサイル等を多数配備されることになれば、中露は戦略を根底から見直さなければならなくなります。ロシアはウクライナどころではなくなります。中国は海洋進出どころでなくなるかもしれません。

カザフスタン情勢は、プーチンや習近平にとって、鬼門ともいって良いような、恐るべき地政学上の脅威です。

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